丸亀城敷地内。芝生の上で長久は横になり、空を見上げながらうめき声を上げていた。
「うーん……うーん?」
なるほど、分からん。そして長久は大きく頷いた。
先輩たちと一般人でも使える勇者システム――仮称、擬似勇者システムを作ることになってしばらく。長久は自らの担当の部分で躓いていた。
長久の担当。それは長久が作ろうとしていた擬似勇者システムと、先輩たちが作ろうとしていた擬似勇者システムの違いが由来だった。
先輩たちが想定していたのは、ある程度神樹の力をコントロールできる勇者たちに力を供給してもらい、最終的に勇者たちには供給だけを担当させ、前線に立つのは擬似勇者システムの使い手だけにするというもの。
とはいえ、この手法では戦闘中に神樹の力が切れた際にも補給するために、勇者たちも戦場に出さなければならない。
神樹の力は敵にダメージを通すために必須のため、どうしても勇者の協力は必要だから先輩たちが出した苦肉の策だそうだ。本当は高校生のガキ共なんか戦いに一切関わらせたくないんだが、とは先輩の談。
それに対し、長久が想定していたのは神樹の力をケースに収めそれを消費することで自力で力を供給するという形。これなら、一々現場で勇者たちに供給してもらうことなく、ストックがある限りは使用者が自由に力を使うことが出来る。
まず、神樹の力をキープする術に関しては勇者システムを作成する際に、その服の作成である程度技術が確立している。あとはそれを応用するだけだ。
そうなると問題はどうやってそもそも神樹の力を集めるかだ。あとはケースから解放した神樹の力をどうやって使用可能な状態にするか、である。
いずれにしても、神樹の力をコントロールする方法が必要になってくる。
ケースから解放した神樹の力をロスなく使用する方法に関しては……おそらくどうにかできると長久は考えている。
勇者たちの戦闘服は神樹の力を常に循環させることで霧散させずにキープし、勇者たちの体内に取り込ませずに防御力を生み出している。
神樹の力を通しやすい素材はわかっているのだ。だから神樹の力を通し難い素材で囲み、一箇所だけ通しやすい素材で逃げ道を作ってやれば……。
と、長久は考えているが実際に実験をしてみなければどうなるかはわからない。一応、研究部の人たちからもそれならいけるかもしれない、と言われてはいるので大丈夫だとは思うのだが。
だからまぁ、今一番の問題はそもそもどうやってケースの中に神樹の力を集めるかになる。勇者たちに集めてもらうのでもいいのだが、それができない状況も想定してやはりどうにか勇者なしで集める方法も確立しておきたい。
おそらく、人の手で集めることは難しい。勇者ですらその武器を媒介にしてどうにか神樹の力をある程度コントロールしている状態だ、普通の人間がどうにかできるとは思わない方がいい。
「……となると、自然に神樹の力を集めるものを探さなきゃいけない、か」
長久は目を閉じ、そっと自らの瞼に触れる。
普段は使っていないが、長久は神樹の力を視覚的に捉えることができる。四国が神樹によって守られ、世界中が神樹の力で満たされるようになってからは負荷が強くて使っていない力だ。
情報量が多すぎるのだ、世界のほとんどに干渉している力が見えるとか、見えたとしても処理できるわけがない。
……しかし、である。神樹の力を自然に集める物、なんて探すのであればその力を使わなければ不可能だ。
いいや、一応、他に手段はある。それ用の計器を用いればいいのだ。勇者の衣装を作った際に使ったそれは、研究部の備品として存在している。
だがこれはあくまで研究部の一部の人間が勝手にやっていることである。何か適当な理由を付けて借りるとしても……そう長時間は使えないだろう。
検討もついてない現状では虱潰しに調べてみるしかなく、長時間借りられない今だとそれはできない。ある程度候補を絞り込むことは必須だった。
「目も、頭も痛いから嫌なんだけどなぁ……」
そもそも。長久のその能力は母親が高すぎる巫女としての才能を持っていたために、勇者や覡としての才能を一切持たないはずの長久に無理矢理遺伝してしまった結果発生した力だ。
歪んで遺伝した適性もない力を使ったとして、その人間に反動がないわけがない。むしろ、まだ世界に存在する神樹の力が少ない段階とはいえ、普通に観測できた時期のある長久がおかしいのだ。
精度を調整して、低感度で見れば大丈夫か……? 長久はそう思うも、それでは大まかにしか力の流れを観測できず、何が神樹の力を集めているかまでは判断することができないと首を振る。
目的を達成するためには感度を高め、力の流れをはっきりと観測しなければならない。痛むのを覚悟で、数秒だけ見る――それで確認しきれるかどうかは怪しいが、長時間の観測が不可能な以上、そうするしかない。
無理にこの仕様を擬似勇者システムに積む必要はない。なしでも運用はできるのだ。
しかしこれが実装できれば勇者に一切依存しないシステムが作れるかもしれないのだ。長久のアイデアを聞き、実装可能かを検討した先輩がそう言っていたのを覚えている。
勇者に依存しない、というのは長久としても実現したい要項だ。多少の無理はしてでも実現は目指したい。
はぁ、と溜息を一つ。自分が無茶すればどうにかなるのだ、痛いのは嫌だが死ぬわけでもなし――長久は自らをそう言いくるめ、覚悟を決める。
そうして、神樹の力を見るために、その普段意識的にかけているフィルターを緩めようとし――
「あら、長久さん?」
「へぁっ?」
突然後ろからかけられた声に、気の抜けた声が漏れた。
「……えっと、こんなところで何を?」
声音から誰かを察しつつも、身体を起こして後ろを振り返る。明らかに気を使って、変な声には触れず話しかけてきたのは……ひなただ。
思わず、長久は顔を顰める。恥ずかしいところを見せてしまった――それだけでは、ない。
「まぁ……ちょっと、悩みごと」
ひなたに背を向けつつ、答える。それは若干赤くなった顔を隠すためでもあり、同時にやんわりと拒絶の意思を示すためだった。
そんな長久の意図を知ってから知らずか。いや、ひなたの場合理解した上でやっているのだろう。そう思いながら長久は隣へと座ってきたひなたをジト目で見る。
「どうかしましたか?」
「……いや、別に」
言わないならばいい。問い詰めたところで無駄だろうと、長久は溜息を一つ吐いてからひなたから視線を外した。
「溜息を吐いてると幸せが逃げちゃいますよ?」
余計なお世話だ、長久は一瞬そう言いかけて、慌てて口を噤んだ。流石にこれは口が悪い。
別に長久はひなたのことが嫌いなわけではないのだ。友人としては、普通に好きではある。
ただどうにも、こうして二人きりになると以前のことを思い出してしまい、苦手意識が中々なくならないのだ。
はぁ、と自己嫌悪からまた溜息一つ。こりゃひなたに注意されても仕方ないと苦笑する。
実際、人と会って溜息ばっかりなのは失礼だろう。そう思って表情をほぐすように、長久は自らの頬をむにむにと揉む。
そんな長久の様子を見てクスリ、と笑ったひなたは、ふと思いついたように口を開く。
「んー……それなら、長久さん。悩みごととやらを私に相談してみる気はありませんか?」
以前のお詫び、というわけではないですけれど。そう言って苦笑するひなた。
それは多分、歩み寄りなのだろう。以前の一件は勝手にダメージを受けたこっちが悪いと長久は思っているわけだが。
ここでこの歩み寄りまで拒否したら、流石に悪過ぎる。別にひなたが嫌いというわけではないし、自分が悪いからと意地を張っても意味がない。
この場合重要なのは、お詫びが必要かどうかなどではなく、相談しながら事に当たり、それを通して親交を深めることだろう。
そういうことであれば、長久は頷いてみせ、ひなたへと自分の悩み事を告げる。
とはいえ、研究部の一部メンバーが勝手にやろうとしていることである。あまり大々的に話を広げることはしたくなかった長久は、個人的な悩みのみに絞ってひなたに話をする。
研究関係で自然に神樹の力を集める物を見つける必要があること。それ用の機材は使用に制限があること。それを発見するために自分の力を使おうとしていること。その際の負荷が大きいこと。
それらをかいつまんで、言葉をまとめながらのために若干たどたどしくなりながらもひなたへと説明する。
それを聞いたひなたはなるほど、と呟いたのち顎に手をあてて考え込む。
まぁ長久としては自分の能力を使うのは確定なのだ。あとは痛みに耐える覚悟をするだけ。
だからひなたとの会話でその覚悟ができればいい、とだけ思っていたのだが。しかしひなたの口から紡がれた言葉は、予想外の言葉だった。
「……もしかしたら、長久さんの負荷を軽減できるかもしれません」
確証はないんですけど、自信なさげにそう言うひなたに、長久は驚きから一瞬言葉に詰まる。
「っ、本当か? 何かアイデアがあるなら、是非とも教えて欲しいんだが!」
しかし何を言ってるかを咀嚼し終えれば、その有用性から思わず詰め寄るように問いかけてしまう。
仮に長久の力の負荷を軽減できるのであれば、長久は自由に力を使えるようになる。そうなれば、神樹の力を扱う研究部の仕事の一部は一気に捗ることになるだろう。
今まで大仰な機械を使っていた作業が、たった一人で済むようになるかもしれないのだ。実現できるならば、是非とも実現したい。
その熱意が伝わったからこそか。ひなたは本当に思いつきでしかないんですけど、と申し訳なさそうに言う。
しかし長久としてはそれでも充分だ。些細な思いつきが、応用することで別のことに使えることだってある。
言うだけならタダだから、とひなたを促す。
「長久さんの力は、神樹の力を見るものなんですよね?」
そう確認してきたひなたに長久は頷いて返す。そこからしばらく続くのは、長久の能力についての確認だ。
母親の巫女の才が遺伝して発現したこと。情報量が多いため、目と頭が痛むとされていること。長久自身に巫覡としての才はないこと。過去に症例がないため、原理については全て推察でしかないこと。
それらの問いに全て長久が頷いて返すと、ひなたはそれなら、と言って自分の考えについて話してくれる。
「これは、そもそも大社が出した原理に関する推察が間違いだと仮定したものです。とはいえ、大社側も持っている情報が少ない状況での推察のため、間違っているというのは全くありえないわけではないと思います」
それには長久も同意できる。実際、長久のその能力を測るにあたって、大社の職員たちもかなり困っていたのを覚えている。
当時は神樹の力を測る計器も、開発段階であったためにかなり苦労していた。
「私が立てた仮定はこうです。長久さん自身には神樹の力を受け止める力はない。けれど神樹の力を受け取る巫女としての力が歪んで発現し、見る力が発生している。このことから、
受け入れられない力が入ってくることで痛みが発生しているのでは、そうひなたは言葉を続ける。
それを聞いた長久は、少しの間吟味した後、思わずなるほど、と呟いた。
確かにありえない話ではない。目から意図せずして神樹の力を受信し、その拒絶反応が痛みとなって出ている可能性はある。
原理としてはありえなくはない話だ。……けれど。
長久はひなたを見て、疑問を口にする。
「それがどう、負荷を軽減することに繋がるんだ?」
そう、そこが分からない。結局は神樹の力という、長久たちにはまだ解明し切れていない力であることに変わりはない。
痛みを感じるメカニズムの推察が間違っていたとして、何が変わるというのか。長久はひなたへ疑わし気な目線を向けた。
しかしそれに対し、ひなた胸を張って、自信ありげに言葉を返してくる。
「私は巫女です。その役割は神託を受け取ること、すなわち神樹の力を受信することです。だから、長久さんに流れ込んでしまった神樹の力を、私の方に流してしまえばいいんですよ」
「……なるほど。で、具体的な手法は?」
「……それは、まだ思いついてないです……」
なるほど、なるほど。長久は数度頷いたあと、大きく、それは大きく溜息を吐いた。
何ともまぁ、本当に思いつきだったのだな、と長久はひなたへ向けていた視線を呆れのものへと変えた。
同時に、こんな人に苦手意識を持っていたのか、と自分にも呆れていた。
長久は以前突然核心を突かれたため、あっさりと人の心を見透かしてきそうで怖い、なんて思っていたのだが。実際は勢いでアイデアを言う面もある、普通の女の子といった感じだと長久は考え直した。
まぁひなたについてはともかく。ひなたのアイデアに関しては手法が欠けているのが問題なだけで、決して悪いものではない。
仮定だらけのアイデアではあるが、試してみる価値はあるか――長久がそう考えていると、そんな長久に何を思ったか、慌てたようにひなたが長久の手を掴んでくる。
「た、例えばですよ? こうして巫女の私が長久さんの身体に触れた状態でですね。長久さんが力を使うと……」
そんな簡単にできるわけないだろ、一瞬長久はそう思う。しかし何事も実験か、とそう思い直して、一度ひなたに胡乱な目線を向けつつも、その後空へと視線を向ける。
それから、意識的に普段はかけているフィルターを薄めていき、徐々にその視界が光に満ちていき――
「あ、痛くない」
「え、嘘でしょう??」
……と、まぁ何とも締まらない形ではあるが。長久はノーリスクで神樹の力を見れるようになったのだった。
そんなわけで読者には忘れられてそうな長久の能力の話。
まぁ更新遅いし活躍の場がなかったからね、仕方ないね。
ちなみに簡易的にまとめると、
・神樹の力を光として視覚的に捉えられる
・巫覡としての才がないはずの長久に、母親の巫女の能力が歪んで遺伝した結果
・見れるだけで、神樹の力を操るような能力は一切ない
・この力を使うと、目と頭が痛む
・痛む原因は、神樹の力が目から体内に流入しているため(今回のお話)
と、ぐらいかな、重要なのは?
あと現在卒論やってるんで執筆の時間が普通にないです。割とガチめに時間がないです。
卒論終わるんが二月半ばの予定なんで、そこから更新頑張るから許して……。