Vinculum semper vivat   作:天澄

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三頁目.勇者たちと俺

何故か丸亀城に招かれた。

なにやら自分には特殊な力があるらしい。

それを活かして研究に協力しろとのことだ。

若干、■■■■■■な扱いもあるようだが……。

それでも何かやることがあるというだけでありがたい。

何もしていないと……■■■■■■なってしまうから。

 

大赦書史部・巫女様
勇者御記 二〇十九年九月

 検 閲 済
白芥子長久記

 


 

 なんというか。

 

「……あー、えっと」

 

 空気が悪い、というか。重苦しい、というか。

 大人たちによって長久たちが集められた、香川県に存在する丸亀城の空気は控えめに言ってもあまりよろしいものではなかった。

 初対面であれば多少空気が重くなるのはわかる。ただどうにも、面子が悪かったというか。

 

 如何にも生真面目そうというか、場が場であるからかやけに畏まった少女。

 人見知りなのか、小柄の少女に後ろに若干隠れるようにしている少女。

 そして興味がないと言わんばかりに、わざわざ配給してもらった携帯ゲームで遊ぶ郡千景。

 

 思わず長久は溜息を吐き、全く同じタイミングで同じく溜息を吐いた黒髪が美しい、リボンが特徴的な少女と苦笑し合った。

 

「それでは……何はともあれ、自己紹介から始めましょうか」

 

「ま、コミュニケーションの基本だよな。誰から行く?」

 

 黒髪リボンの少女の言葉に、長久が追従する。恐らく、こういう場において場を動かす司会の適性があるのは長久か黒髪リボンの少女のみ。

 他の人物は立ち振る舞いなど細かな仕草からの想像でしかないが、そういった適性はないだろう。リーダーやムードメーカーなどの別の適性ならあるかもしれないが。

 その点、黒髪リボンの少女はこの状況で真っ先に話題を提供し始めた辺り信頼できそうだった。

 

 まぁとりあえず彼女の作ろうとしている流れを支えるか、と判断して開幕自己紹介する人がいなければ自分がやろうと長久は考え。

 はーい、と元気よく手を挙げた少女がいたために、大人しくそちらに譲るため声をかけることにした。

 

「元気だなぁ……。とはいえやりたいなら、頼むよ」

 

「それじゃあ自己紹介、いきます!」

 

 ふんす、と体の前で両手で握り拳を作る少女は、長久がその立ち姿からムードメーカーが向いていそう、と思った少女だ。

 赤みのある明るい髪色に、肩ほどまで伸びるサイドポニー。明るく可愛らしい外見とは裏腹に、腕や足はただ細いのではなく引き締まった健康的なものなのが印象的な少女だった。

 

「はじめまして、高嶋友奈です! 奈良県出身でなんか勇者に選ばれました! 皆と仲良くやっていけたら嬉しいです!!」

 

 明るくそう言い切った少女の笑顔は、見ていた長久まで笑顔になれそうで。なんとも見ていて気持ちのいい笑顔だった。

 少し自己紹介としては情報が少ないようにも思うが、これから他にも自己紹介することを考慮すれば丁度いい範囲だろう。

 

 そうして基準とでもいうべきものが出来上がったことで、自己紹介のハードルが下がる。結果として続々と気軽に自己紹介が始まっていく。

 

 一番小柄な少女の土居球子。その後ろに隠れるようにしている伊予島杏。

 最初に話を切り出した少女が、上里ひなたというようだった。そしてそれに続く形で長久も自己紹介にすることにする。

 

「俺は白芥子長久。まー、女所帯の中に一人男がいる段階で察してると思うけど、特殊事例ってやつだ。細かい話をすると面倒だからそこら辺は後回しだな」

 

 肩を竦めて長久が言えば、あえて先延ばしにしたからか興味をそそられたようで、何人かが不満げな顔をする。これなら後々の話題に使えそうだな、と次のコミュニケーションの布石を用意しつつ、長久は話は長くならないように気を付けながら、言葉を紡いでいく。

 

「基本的に何でもやる器用貧乏だ。鍛錬以外では一緒になるっぽいからよろしくな」

 

 ここに集まったメンバーの中で唯一理由が違うのが長久だ。そもそもある種、この場にいるのが異端とも言える立場になる。

 故に彼女らが必要とする、合同鍛錬などには長久は非参加となっていた。

 

 そうして長久が自己紹介を済ませた後。いい加減話せよ、と長久は隣に居る千景の脇を肘で突っつく。それに千景は鬱陶しそうな顔をしながらも、仕方ないとゲームを一旦中断し、この場に来てから初めて声を発する。

 

「……郡千景。必要最低限の応対ならするけど、特に仲良くする気はないわ」

 

 その千景の言葉に、高嶋が困ったように笑い、上里があらあらと笑い。土井がなんだこいつと呟いて、伊予島は少し怯えたような顔をする。

 そして自己紹介がまだな最後の一人が眉根を寄せて、長久は思わず頭を抱えた。

 これ後でフォローしなきゃいけないやつだな、と理解すると同時に今後もこうやってフォローに走る羽目になるかもしれないと思うと、長久は少し頭痛がした。

 

 そんな一人苦悩する長久を横目にして、最後の一人が堂々とした振る舞いで自己紹介を始める。

 

「乃木若葉だ。この度生大刀に選ばれ勇者となった。昔から居合を修めているため、刀の扱いには慣れているから戦力として期待してくれていい」

 

 そこまで目を伏せながら言った乃木は、深く長く、一度息を吐き出す。

 そして次の瞬間開かれたその瞳には、強烈な意思の光が宿っていた。

 

「あの化物どもに、必ずや報いを。……それが私の戦う理由だ」

 

 乃木の覚悟に、飲み込まれたように誰もが言葉を失う。そうして訪れた静寂の中、長久は乃木の言葉をゆっくりと噛み砕いていく。

 

 ――戦う。そう、この場に集った少女たちは、あの化物たちと戦うために集められたのだ。

 

 勇者、と呼ばれる特別な存在。神話の時代の武具に選ばれ、通常兵器の一切効かないらしい化物たちと戦う力を得た少女たち。

 ……そして何より、いきなり勇者として選ばれてなお、あの危険な化物たちと誰かの為に戦うことを選び取れる少女たち。

 それは長久にはできなかったことであり。ヒーローという、長久の憧れた在り方であった。

 この場にいるだけで長久は劣等感を刺激され、しかし同時に自分がヒーローになれなくてもヒーローはいたのだと安心できる。そしてそんな自分を嫌悪するのだ。

 

「……若葉ちゃん。確かに今日は勇者同士の初対面で気合が入るのも意気込みを言うのも分かりますが」

 

 そんな風に長久が自己嫌悪していると、呆れたような声で上里からそんな言葉が発せられる。

 それに長久の意識が引き戻され、声がした方を見れば溜息を吐いた上里と、困ったような顔をする乃木の姿があった。

 

「どちらかと言えば今回は今後連携をとることになる相手と、ある程度親交を築いておこうというのが目的なんですよ?」

 

「む……」

 

「ですからもう少し親しみやすい自己紹介をすべきで……ああ、いえ。人前でする話ではなかったですね」

 

 なんというか。君は乃木さんのお母さんか何かなのか、なんて長久は思いつつ。

 これお前にも刺さるやろ、と再び肘で千景の腋を突っつく。千景はばつの悪そうな顔をしてこそいるが、反省はしてないんだろうな、と短い付き合いながらも長久は察せるようになっていた。

 

「つってもまぁ、こうして集められたと言えど、いきなり過ぎて何話せばいいのかってところはあるだろ」

 

「確かにそれもそうですね……。自己紹介をしても趣味が合わなければ話題が広がらない場合もありますからね」

 

 となると、どうやって共通の話題を作るか、という話になるのだが。出身地はバラバラ。簡易的な自己紹介で現状では共通の趣味嗜好があるのかもわからない。

 一番手っ取り早いのは何か共通の話題を作ってしまうことなのだが。

 

「……あ」

 

 そう考えた長久に天啓が下った。

 

 とりあえずまずは香川県出身であると言っていた上里。そしてその彼女と親しいらしい、恐らく香川県民であろう乃木を長久は呼び寄せる。

 そこから小声で、長久が閃いたアイデアを話せば、名案と言わんばかりに二人が頷く。

 流石、香川県民。長久も引っ越す前は香川で過ごしていたために、この点に関しての意思疎通は完璧であった。

 

 一先ず、乃木と上里に他のメンバーへの説明を任せ、長久は大人たちへと許可を取りに行くことにする。

 この場に長久たちを集めた大人曰く、勇者という存在は今かなり重要らしい。そのため、ただ仲良くなるための行動にも許可が必要となるのだった。

 

「――反吐が出るな」

 

 長久は一人、廊下を歩きながら自らの思考に対しそう呟く。何が仲良くなるだ、ふざけるなと。

 人々を見捨てて醜く生き延びた自分が、世界を救うかもしれない勇者たちと仲良くなろうなど烏滸がましいにも程がある。

 自分のようなクソみたいな人間と、彼女たちのような勇者という上等な人間が関わるなど許されるわけがない。それが、長久の考えだった。

 

 そもそも、長久が彼女らと仲良くなろうとしている根底にあるのは、勇者である彼女らと関わっていれば自分も上等な人間になれるような気がしたからだ。

 千景と友達になったのだって、そんな思考があったからこそだと長久は思っている。故に、そんな理由で彼女らと関わろうとしている自分が、長久は反吐が出るほど嫌いだった。

 

「……あ、すいません。ちょっと外出したいんですけど」

 

 とはいえ、それを表に出すことだけはしない。もしこれを他者に、特に勇者に話せば()()()()()()()ことを長久は理解していた。

 究極的に、長久のそれは自分で自分が許せないだけの話でしかない。長久に怒りを向ける人がいるとしたら、長久が見捨てた人々の遺族ぐらいであり、多くの人が仕方なかったというだろう。

 生き延びた人に、長久と同じように他者を見捨ててきた人がどれだけいるのか。誰だって死にたくないのは当然なのだ。

 だから少しだけ話しただけでもわかる、性根が優しい勇者たちがこれを聞けば長久は間違いなく許されるのだろう。仕方がなかった、と。

 

 ――そんなわけがあるか。

 

 仕方なかったで済ませられるわけがない。人の命は、そんなに軽くない。

 見捨てたのだ、殺したも同然なのだ。それは、長久にとって背負わなければならないものだった。

 だから絶対に長久は許されてはいけない。そう決めていた。それが長久にとっての当然だった。

 

「とりあえず、上の方にかけあってみたら大丈夫だって。流石にすぐには無理で、数日後になっちゃうけど大丈夫?」

 

「……ああ、いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

 

 事情を話し、お偉いさんにかけあってくれた大人に対して、一度思考を振り払ってから長久は礼を言う。

 どうにも、一人になると悪い方向にばかり思考がいってしまう。

 自省は大事だ。自分はこうして常に責められ続けなければいけないとは思う。

 とはいえそれでパフォーマンスを落とし、問題が生じてはマズい。芋づる式に悪い方向へと転がすわけにはいかない。

 

 簡単に振り払えるものではないが、思考の片隅に押し退けることで一度思考をリセットし、もう一度お辞儀をしてから勇者たちの元へと戻ることにする。

 とりあえず丸亀城周辺の地図はある程度長久の頭に入っているために、周辺で丁度いい店をピックアップしていく。

 あとは上里と乃木にも確認をとって――そうやって、思考を別の方へ働かせることで、自己嫌悪を一時的に抑えつけておく。

 

 この後のことは、長久にとっても中々に楽しみなことだ。それを楽しむ資格が自分にあるのかという疑問はあれど、そういった息抜きがなければ擦り潰されてしまう自覚が長久にはある。

 故に自責の念に擦り潰されてしまうのもいいか、なんて思考を、まだ自分には割り振られた役目があると言い聞かせ抑えつつ、長久は勇者たちの元へと戻っていった。




なんだこの主人公、めんどくせぇな?

そんなわけで次回、香川県民による洗脳開始。
なお作者は別に香川のうどんを食べたことがない模様。
そんなに美味いのん??
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