フォフォイのフォイ   作:Dacla

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本章では、ホグワーツをより普通の寄宿学校に近づけるため独自設定が色々と出てきますが、本筋には関わってこないので、気になる方は読み流して下さい。


一年生
ホグワーツ城はまだ遠く・1


 九月最初の平日の朝。

 キングスクロス駅にある魔法使い専用のプラットホームに、学生とその家族が詰めかけていた。ホグワーツの学生が一斉登下校するための特別列車、通称「ホグワーツ特急」の出発時刻が近い。

 

 赤い蒸気機関車と、重厚感のある客車。『世界の車窓から』のテーマ曲を鼻歌で歌いながら列車を眺めていると、母上に手を引っ張られた。

「ドラコ、お母様の側に付いていらっしゃい。はぐれたらどうするのです」

「大丈夫ですよ、母上。新宿駅や渋谷駅に比べたら迷いようもありません」

「あんな魔窟と一緒にしてはいけません」

 

 先を歩いていた父上が、待ち合わせていたノット父子を見つけた。

 ノットは俺の頭を見て笑い出した。「その髪型」

 俺はオールバックにしたプラチナブロンドを撫でた。「似合うだろう」

 今朝、顔を洗っている時にふと思い立って、髪を後ろに撫でつけてみた。すると鏡に映った姿は予想以上に生意気ボンボンのドラコ・マルフォイだった。涙が出るまで笑った後、そのまま固めて登校することにした。

 

 そのうちにクラッブとゴイルの二家族も合流した。俺やノットに比べると、カートに積まれた荷物の量がとんでもない二人民族大移動だ。

 そのままではホームを塞いで邪魔なので、さっさと子供たちを率いて列車に乗ることにした。空いているコンパートメントに荷物を放り込み、通路側の窓から親を呼ぶ。

 

 その後は旅立つ子と見送る親の別れの時間……かと思いきや、クラッブとゴイルの母親たちは俺に狙いを定めた。

「ドラコくん、学校でもどうかうちのヴィンセントをお願いね」

「グレゴリーには、分からないことがあったら、ドラコくんに相談するように言ってあるから」

 言われなくても子供たちを引率するつもりではいた。しかし息子を殴って泣かせた相手に正面から託すとは、夫人たちも肝が据わっている。

 

 車内を振り返り、本人たちに確認した。「きみたちはそれでいいのか?」

 二人は同時に頷いた。

「困ったらドラコと同じものを選べって言われた」

「そういうのが腰巾着なら、楽だからそれでいい」

「待て、それは思考停止だ」

「ドラコくんお願い。うちの子を見捨てないでやって」

「あ、はい」

「マダムにモテモテ」

 後ろで余計なことを言うノットには肘鉄をかました。避けられた。

 

 やがて発車ベルが鳴った。

 

 出発後しばらくは世間話に興じたが、八月中も顔を合わせていた仲だ。新しい話題はあまりない。クラッブが可愛がっていたクワガタは、家族に世話を任せてきたそうだ。車内の探険を提案してみると、クラッブとゴイルが乗ってきた。

 

 隣の客車に移ると、トイレの前で見知った顔に会った。

「やあ、パンジー。久しぶり」

 パンジー・パーキンソンは目を丸くした後、あたふたと笑顔を作った。

「ドラコ! こんなすぐ会えると思わなかった。髪型変えたんだ。大人っぽいね。どうしよう。そうだ、良かったら私たちのコンパートメントに来ない? ミリセントとダフネが――」

 パンジーは列車の揺れに足を掬われ、俺の目の前でよろけた。

「おっと」

 咄嗟に肩を掴んで支えると、相手はぱっと頬を赤らめた。

「あ、ありがとう、ドラコ」

「いや。気を付けて」

「あ、あのね。さっきまでミリセントとダフネと、ドラコの誕生日会の話をしていたの。楽しかったねって話をしたら来なかったダフネが悔しがってた。一緒に乗っている子たちもドラコに興味があるみたいで、私から紹介するから、良かったら少しお喋りしていかない?」

 後ろの二人から尻込みする気配を感じたので、言った。

「お誘いありがとう。でも先に車内を見てしまいたいから、その後でもいいかな」

「ええ、ええ! もちろん。絶対来てね」

 

 パンジーと別れた後、別の客車で監督生バッジを付けた男女とすれ違った。男子のほうが興奮気味に喋り、女子にあしらわれている。

「――だから本物だって。車内販売を覗いてたんだ」

「顔を知らないのに何で本物と言い切れるの。名札でも着けてたの」

「傷! おでこに傷があった。絶対ハリー・ポッターだ」

「はいはい。いいから仕事やって」

 ゴイルが俺の袖を引っ張った。クラッブが「本物だって」と呟く。

「きみたちも見てみたいのか」

と尋ねると、二人は「へへへ」と笑った。

 

 俺は監督生を追いかけて、「失礼」と声を掛けた。

 振り返った女子監督生は、そこにいるのが新入生と気付くと目線を下げて微笑んだ。

「どうしたの。迷っちゃった?」

「お二人の話が耳に入ったのですが、車内にハリー・ポッターがいるのですか」

 すると男子がぐっと乗り出してきた。

「そう! あの魔法界の英雄だ。せっかく同期になるんだから仲良くしておいで」

 

 教えられたコンパートメントの扉をノックすると、中から「どうぞ」と声が掛かった。後ろの二人に目配せしてから扉を開ける。

「失礼するよ。ここにハリー・ポッターがいると――」

 途中で「ドラコ!」と嬉しそうな声に遮られた。「また会えたね。入ってよ」眼鏡の少年、ハリーがにこにこしながら俺を手招きする。

 

 個室には彼と赤毛の少年の二人きりだった。赤毛の少年は面白くなさそうだ。英雄を独り占めできなくなっただけでなく、自分より早い知り合いをハリーが親しげに呼び込んだ事実が気に入らないのだ。実に子供らしい。

 しかしその膝の上の太ったねずみを見た瞬間、笑いは引っ込んだ。そういえば、ここにもヴォルデモートに繋がる存在がいた。

 

「ハリー、知り合い?」

と赤毛の少年はあからさまに不機嫌な顔で尋ねた。

「うん。制服を作る店で一緒になった。親と同じ寮が良いよって、父さんと母さんがグリフィンドールだったことも教えてくれたんだ」

「へええ」と、少年は俺の顔をじろじろ見た。「ハリーは闇の魔法使いを斃した英雄なんだから、グリフィンドールに決まってる。ぼくだって言えるよそんなこと。で、きみ誰」

「人に聞くなら自分から名乗るものだよ。その派手な赤毛、ウィーズリー家だろう。きみの父君には世話になったことがある」本を雑に扱われた恨みは忘れていない。

「父さんに? まあいいや、ぼくはロナルド・ウィーズリー。名乗ったぞ。きみは」

「ドラコ・マルフォイだ。こっちはクラッブ。こっちはゴイル」

 

 途端にロンは立ち上がって叫んだ。「マーリンの髭、くされマルフォイかよ!」

 そして両家の確執など知る由もないハリーを背に庇い、俺に指を突きつけた。

「ハリー、こんな蛇野郎に近づいちゃ駄目だ。こいつの父親は例の人の手下だったんだ。きみの仇だ!」

「え、……え?」とハリーは戸惑った。

 

「前に会ったのだって偶然じゃないかも。何か悪いことを企んできみに近づいたんだ。きっとそうだ。こいつの家が毒蛇の巣だってことは魔法界中が知ってる。父さんだっていつも言ってるよ。変節漢、卑怯者、そういう奴らなんだよ!」

 俺はロンに半歩近づいた。

「な、なんだよ。事実じゃんか」

 戸惑う少年を見上げ(ロンはかなり背が高い)、俺はにこりと微笑んだ。

 

 そして彼の顔めがけて思いきり額を打ち込んでやった。ごっ、と詰まった音と共にロンは後ろに仰け反り、ハリーの上に座り込んだ。

「出た! ドラコの頭突き!」

「ドラコの石頭は俺たちが保証するぜ!」

 なぜか喜ぶクラッブとゴイル。

 

「失敬。きみが父と知り合いだと思わなくて、よく聞こうとしたらぶつかってしまった。事故だよ、事故。まさかきみも、親の受け売りで見ず知らずの他人を侮辱したわけではないだろうしね」

「なにを、この」

 顔を赤くして立ち上がろうとするロンを、ハリーが後ろから抱きかかえるようにして止めた。

「やめて、ロン」

 

 彼が食い止めてくれている間に、巨体二人をコンパートメントから出す。自分も出ていく前にハリーを振り返った。ドラコの薄灰色の目が、冷ややかに見えることを願う。

「……疑問に思っただろうから、先に答えておこう。ぼくが以前グリフィンドールを勧めたのは、きみと同じ寮になりたくないからだ。きみにはそこのウィーズリーのような奴と連むのがお似合いだよ」

 扉を閉める前にロンの嘲りが追いかけてきた。

「マルフォイがグリフィンドールに選ばれるはずないもんな!」

 

 その通り。

 周囲に疑われないよう、俺はドラコらしくスリザリンに行きたい。だからダンブルドアに監視されているハリーには、なるべく他の寮を希望してほしい。

 先ほど再会した時の態度を見るに、ドラコと同じ寮になることをハリーはそれほど嫌がらなさそうだった。それでは困る。ロンにはしっかりハリーを囲い込んでもらわないと。

 

 しかしクラッブとゴイルには悪いことをした。

「済まなかったな。有名人と喋りたかったのはきみたちなのに、邪魔をして。ぼくがいなければウィーズリーの息子も落ち着くだろうから、出直すといい」

 クラッブは首を横に振った。「あの赤毛は嫌いだ」

 ゴイルは「俺の父さんも転向者だ」と唸った。

 俺は二人の肩を叩いて通路を戻り始めた。

 

          ◇

 

 道すがら、パンジーのところに顔を出していくことにする。女子グループとの接触を面倒がるクラッブとゴイルは先に帰した。

 しかしノックに応えた声は聞き覚えが無く、コンパートメントのドアを開けても見知らぬ顔が並んでいた。

「あ、失礼。間違えました」

 ドアを閉めようとすると、中から押さえられた。

「待って待って。きみも新入生? ネイティブ魔法界の人? ちょっと入ってよ」

と引きずりこまれた。

 

 そのコンパートメント内にいた六人はいずれもドラコと同年代の少年で、Tシャツや半袖シャツ、ジーンズにスニーカーという格好だった。

「きみたちは非魔法界の出身かい」

 俺が確認すると、彼らは堰を切ったように喋りだした。

「そうなんだ。きみのそれ、制服じゃなくて私服だよね。ネイティブの人だよね。俺たちホグワーツからの手紙を受け取って、初めて自分が魔法使いだって知った奴ばっかりなんだ。なあ、ホグワーツってどんなところ? 流されてここまで来ちゃったけど、校舎の所在地は地図にも載ってないし、普通の人間には見えないなんて言われたし、不安なんだ」

「普通の人に見えない魔法の入口のことは、ダイアゴン横丁やキングスクロス駅のホームで理解したけど、これに乗ってホグワーツに行けるのかな。本当は俺たち騙されて、海外に人身売買されるんじゃないよね。親から入学金と授業料を巻き上げる詐欺じゃないよね」

 他の少年たちも縋り付く目で俺を見つめている。

 

「確かにぼくは魔法界の生まれだし、この列車に乗っていればホグワーツの近くに到着することも知っている。だけど、非魔法界からの入学者に対しては配慮があると聞いたよ。説明に来た人か、学用品を買う時に付き添ってくれた人には確認できなかったのかい」

「確かめようとはした。ぼくたち、同じ事務員に引率されて、一緒にダイアゴン横丁で買い物をしたんだ。だからこうして一緒の個室にいるんだけどね。だけどその人に『大丈夫です』って言われたら、細かいことは別にいいかって気になっちゃったんだ」

「うちに説明に来た時もそう。最初はうちの親、胡散臭い詐欺師なんか追い返してやるって鼻息荒かったのに、説明の人が来た途端に、にこにこして魔法界のことを受け入れちゃったんだ」

「うちもそうだった! でもそれに気付いたのは俺だけだったよ。魔法使いになれるならと思って親には何も言わなかったけど、ちょっと怖かった」

 

 あまりな話に頭がクラクラする。俺は言った。

「……おそらくそれは、疑いを消すための魔法、暗示と言ったほうが分かりやすいか、それを掛けられたんだ。機密保持法のせいで、魔法使いは非魔法界の人の記憶を操作することに抵抗がない。本当は証拠を示して論理的に説得すべきなのに、担当者が手間を惜しんだんだろうな」

 魔法に免疫のない相手を、煙に巻いて丸め込もうとする。そんな魔法使いが多いのは原作と同じだ。相手に知識がないのをいいことに、不利な条件で契約を結ばせようとする悪徳業者みたいなものだ。誠実には程遠い。

 

「でも、でもホグワーツ魔法魔術学校は実在していて、これに乗っていればそこに着くんですよね?」

「それは間違いない」

 少年たちが肩の力を抜いたので、付け加えた。

「もっとも、ぼくも騙されている可能性もあるけどね」

「止めろよ、そういうの」と、隣に座っている少年に怒られた。

 

「ごめん、冗談だ。ぼくの両親はホグワーツの卒業生で、父は今年から理事に就任する。きみたちは詐欺に遭っていないし、誘拐されたわけでも人身売買に巻き込まれたわけでもない」

「それならいいや。気分変えてウノでもやろう。きみも一緒にどう」

 誘われ、修学旅行気分で頷きかけたが、すんでのところで踏みとどまった。今の自分はドラコ・マルフォイだ。マグル生まれとの交流には慎重にならないと。

 

「ありがとう。でもこれから寄る所があるから、ゲームは遠慮させてもらうよ」

「あ、そうか。コンパートメントを間違えただけだもんね。ごめんね、引き留めて」

「それじゃまた学校で」

 少年たちが気を悪くした様子はなかったので安心した。




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