お正月記念(遅刻ぎみ)


今年も限界して逝きます!!


「つかしいよ永遠なれ」

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債務者と大福のお正月

「ーー寒いな」

 

そう寒そうに身体を抱えるジャンパーの男、天開司。今日は1月4日なのだが、彼が正月になってからまともに外出をするのは初めてだ。なぜそんなことになっているかと言うと、人生初おせち+獺祭(酒)の魔力に元日から溺れ、二日酔いが終わったのが昨日の昼で、その日も1日ゴロゴロしていた。今更ではあるが、年明けにお参りに行かないのもどうかと言うことで、一人ぼっちで近所の神社へと向かっているのである。

 

 

「えーっと、どうするんだったか?確か最初は手を洗うんだよな?右からだっけ?ーー」

 

 

毎年なんとなくで作法をこなしているので、こんなことすらてきとうだ。まあ、神がこの世にいるならば自分は今頃大金持ちにーー

 

ふと、視界に入る一つの影。門をくぐっていく和服の女性が見えたが、あの長い白髪を赤いリボンで結った姿は、まさかーー

 

 

「大福、か?」

 

嫌な汗が背筋を伝う。まさかとは思うが、こんなだらけた姿をーー例えば、例えばだ。自分がこういう場での作法でとんでもない事をしでかして、それをあのクソ大福に見られた場合、何を言われるだろうか?自分をいつもの薄ら笑いでバカにしてくる姿が目に浮かぶ。そういえばアイツは霊能力者だった。こういう神的な所の事にも詳しいのではないか?そんなアイツに見られたとするとーー

 

(ヤバイな。帰るか?いや、わざわざ大福の為だけに俺が帰るのも癪だな。大丈夫。要はアイツにバレなければいいんだ。そうだ。バレなければいい)

 

 

司は心の中で自分を納得させると、胸を張って。そう、出来るだけ自信満々に足を踏み出した。真冬だと言うのに体が冷や汗まみれだった事は、ここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

「寒っ」

 

 

そう肩をすくめて震える和服姿の少女、椎名唯華。今日は1月4日なのだが、彼女が外に出るのは新年初である。1日2日と家から出るのが億劫で、寝正月を過ごそうとしていた。だが、ゴロゴロしている最中に自分についている霊的な存在達の事を思い出し、渋々お参りをすることにしたのである。

 

「初詣くらい行かないと流石に色んな霊から怒られるよなぁ……」

 

なぜ彼女がそんなにお参りに消極的かというと、昔から神社だったりとこういう場が嫌いだからである。おかげで礼儀作法など微塵もしらないし、てきとうだ。だが、霊能者だと言っておけばやることなすことそれっぽく見えるので、なんとかなってきたのである。

 

ーーふと、視界の隅に見慣れた影が通り過ぎた気がした。全力で振り返りたくなったが、何故か振り返ってはいけないという謎の強迫観念の元強引に目線を前に向ける。

 

だが、気になって仕方がない。モヤモヤするので、その影が自分と丁度90度の位置に来たタイミングでチラ見。丁度鳥居をくぐって曲がる時だった。

 

赤色がポイントのジャンパーを羽織り、履いているジーパンからダサいチェーンをぶら下げているあの姿。間違いない。あれはーー

 

 

(……てんかいじ?)

 

 

真冬だというのに汗が一筋。意外と常識人な彼のことだ。参拝方法が適当な事がバレるかもしれない。しかも彼は自分がそこまで真面目な霊能者じゃないことを知っている。もしもそんな様子を見られたらまたバカにーー

それにだ。そういえば彼は博打が好きだったと聞く。もしやこういう所にも豪運祈願とかに来てるのでは?そんな彼に見られたとするとーー

 

 

(ど、どうしよう。帰ろうかな?で、でも、バレなければ平気ーーなはず!!)

 

 

椎名は自分を納得させると、若干歩きづらい下駄を履いた足を踏み出した。カランコロンと足が鳴る度に、気づかれたのではないかとヒヤッとしていたのは、ここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

鳥居の影から怪しく覗くサングラス。ーーまごう事なく、司である。和服姿の椎名の様子を後ろから覗いている。

 

側から見るに完全に不審者なのだが、通報されずにすんでいるのも殆ど人が居ないからだろう。

 

(なるほどなるほど。水は溜めてあるのを掬って……右手、左手、一回転?!くっ……わかんねぇっ……!!)

 

司が覗いている理由は、彼女にバレないようにするための他にもう一つあった。どうせ作法がわからないなら、彼女のマネしてしまおうという算段だ。これならば、仮にバレてもーー大丈夫。

 

大福が手水社から離れ、歩き出したのを見計らって司もすかさず歩き出す。挙動不審にならないように、堂々と、胸を張って。

 

 

ーー先ほどの椎名のマネをする。右手左手一回転。なんだか違うような気もするが、よくわからないので気のせいなのだろう。

 

そして、一通りの動作が終わったところで顔を上げる。ふと、そこで気がついた。先程までそこを歩いていた大福の姿が無いのである。

 

(やべっ……見失ったか?!)

 

焦る司。だがすんでのところで冷静になる。ここでキョドるのは悪手。逆に考えるんだ。大福が自分から離れた。出くわす可能性が減ったのだと。

 

司は深呼吸をして、次の目的地へ向かう。本殿の前に、まずは周りの社からだ。

 

 

 

 

 

 

(よしっ……)

 

難なく司の視界から逃れ、物陰に隠れられた椎名は安堵する。司にバレないように慎重に顔を出すと、自分と同じ方法で手を洗っている司の姿があった。

 

(あれ?私今ので合ってたのかな?)

 

 

当然手水社で一回転して手を洗うなどという作法はないのだがーー残念ながらここにそれを正せる人物は居なかった。

 

司はこちらに気づいた様子は微塵もなく、相変わらず堂々と歩いていた。やはり、あの自信ありげな歩き方は作法を心得ている証拠なのだろうか?

 

(あっ!てんかいじのマネしたらもし見つかってもバカにされないんじゃ……)

 

そう考えた椎名は即座に行動する。バレないように、慎重にゆっくりと足を踏み出す。彼女自身が尾行をするにはあまりにも向いていない格好なことは、全く気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

神社本殿の周りに鎮座している様々な社。豊穣の神、学問の神、商売の神、恋愛の神etc...沢山の種類の神々がそれぞれ祀られている。横の立て札を見ると神の名前とご利益が書いてあるのだが、普通のご利益の神様もいれば、複数のご利益を兼任する神様。なんでもありの神様など様々である。神の力や位は社の大きさや飾り付けなどでなんとなく解ったりもするのだが、司はそんなこと知らないので適当に目に入った社に手を合わせることにした。

 

(えっと……なんか手を叩くんだったか?くっ……分からん……)

 

ーー大福さえ見失っていなければーー

 

そんな考えが一瞬頭をよぎるが、あのニヤケた面を思い浮かべるだけでもなんとなくムカついてきたのでやめにした。

 

「ーーなになに?金運の神か。おあつらえ向きだな」

 

そう看板を凝視すると、となりに鎮座する自分の背くらいのこじんまりとした社に向き直り、手を合わせる。

 

(ーー借金が何かの魔法でなくなりますように)

 

あまりにも身も蓋もない願い事だったが、彼らしいと言えばそうだろう。一通り満足したのか、司は本殿へ足を向けようとしたところでーー

 

 

 

カツン。

 

 

甲高い音が響いた。びっくりして振り返るが、特に変わった様子はない。大福だろうか?いや、だとしたら真っ先に声をかけてくるはず。辺りを見てもまばらな参拝客がそこらを歩いているだけだ。おおよそ誰かが下駄でつまづいたりしたのだろうーー

 

なんとかそう考えた司は、再び本殿へ向き直った。

 

 

 

 

 

(……あぶなかったぁ)

 

 

脱げかけた下駄を履き直しながら椎名は安堵した。司の後ろをちょこちょこついていこうとしたは良いものの、履きなれない服と下駄のせいで少々の段差に引っかかってしまった。とっさに体を起こして近くの建屋の裏に隠れられたからいいものの、バレていたら恐らく笑い者になっていただろう。

 

 

(あっ。居ない)

 

 

気がつけば司の姿を見失っていた。当然といえば当然なのだが、椎名は焦り出す。

 

(ヤバイヤバイどうしようどこで出くわしちゃうかわかんないしーー)

 

頭がぐるぐるする椎名。だが、ふと閃いた。

 

 

(そうだ!逆にてんかいじが私から離れたんだ!)

 

圧倒的ポジティブシンキング……!軽率かつ安易な発想なことこの上ないのだが当の本人は気にした様子は無かった。

 

(ちゃっちゃと本殿お参りして帰ろう……)

 

 

ようやく立ち上がれた椎名は、体についた汚れをはたいて、再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

堂々とたたずむ巨大な本殿。それなりに地域では有名な神社なので、それなりに荘厳な雰囲気を醸し出している。

 

数十段の階段を登ると、迎えるのがしめ縄である。一応新年の装いはまだ変えて居ないらしいので正月感はまだ消えていない。

 

「はえー。立派なもんだなぁ」

 

本殿を下から見上げた司は嘆息した。手元には5円玉がしっかりと握りしめられている。債務者である彼にとってなけなしの5円である。気合いを入れて石畳を登る。

 

ーーこの本殿の構造だと、正面から意外にも左右から入ることができる。通常は正面から入るのが当然なのだが、幸か不幸か神社初心者の人間がもう一人いた。しかも何故だかなにかを避けるように歩いている。その全ての偶然が合わさるとーー

 

正面から向かい合う形で、司と椎名が出会ってしまう。

 

 

だが、二人は咄嗟に目をそらし、何事も無かったかのように賽銭箱に向き直る。

 

お互いに気がついていないわけではない。ただ、互いが咄嗟にとった行動が気がつかなかったフリ、というだけだ。そして、二人ともそうした結果ーー

 

(ん?大福が珍しく話しかけてこない。まさか、気づいていないのか?!)

 

(え?てんかいじが反応しない?まさか気づかれてない?)

 

そう考えてしまったせいで、司と椎名がよそよそしく賽銭箱の前で手を合わせるという珍事が発生してしまったのだ。そして二人とも神社初心者かつ互いが名人だと思っている、つまりーー

 

(いや、大丈夫。てんかいじの真似をすれば、多分!!)

 

(ま、まあ落ち着け。癪だが、大福のやったとおりにすれば問題ない。言わば、後の先……!)

 

二人とも動かない。チラチラと横を伺いはするが、手を合わせるだけで賽銭すら投げ入れない。完全に固まったままだ。

 

(動かない……?いや、動いたらダメだ。恐らく作法が何かに違いねぇ)

 

(え?なに?お賽銭とか入れないの?てんかいじ、おーい!!)

 

側から見ると滑稽なことこの上ないのだが、残念ながら二人共大真面目だった。

 

そうしてしばらく経っただろうか。どちらかが痺れを切らそうとした時だった。

 

 

「お二方とも、面白い方々ですなぁ。仲がよろしくて何よりです」

 

「「?」」

 

驚いた二人が振り返ると、この寺の住職らしき頭髪の枯れた和尚がいた。

 

「手水社での動きは中々斬新でしたが……残念ながら正しい作法ではありませんな。どれ、参拝の仕方を教えて差し上げましょう」

 

「あ、え、あの……結構です」

 

遠慮する司の言葉にも一切耳を貸さず、すごい剣幕で迫ってくる。

 

「いやいやいや、正しい作法を学びましょう?さあ、さあ!」

 

「え、いや、私、大丈夫……」

 

「いや、現に今の作法も違いますぞ?!手を合わせる前に、まずは二礼!!二拍!」

 

「そ、そのーー」

 

「そもそも手水社での作法がめちゃくちゃでしたぞ?!まずはそこから!!」

 

「「け、結構ですーーーー!!!!!」」

 

 

そんな二人の悲鳴も虚しく、住職の説教は日が暮れるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れたーー」

 

 

ようやく解放された司と椎名だったが、二人とも顔に生気がなく、げっそりしている。

 

「いやあ、本当に詳しくなったなあ。二度と来たくないけど」

 

「ああ。珍しく意見が合うな。ーーそれにしても大福、まさかお前がこういうところの事を何も知らなかったとはなぁ」

 

「それはお互い様でしょ?てんかいじがまさか私の真似してたとか、面白いんだけど」

 

「う、うるせぇ。お前だって似たようなもんじゃねぇか」

 

「む、むー」

 

頰を膨らませる大福。互いが作法に関して知らなかったのは住職の説教を聴いてる内に分かったので、どっこいどっこいだ。

 

「ーーそう言えばさ、てんかいじは何をお願いしに来たの?」

 

「ああ。俺か?俺はもちろんーー金だよ。今年こそ脱、債務者!!だな」

 

「そっか」

 

椎名は少し目を落とした。木陰が彼女の顔にかかる。

 

「そ、そう言う大福はどうなんだよ」

 

「え?私?私はねーー」

 

そう言って少しもったいぶると、瞳を瞑る。暫しの間。

 

 

 

「ーー内緒」

 

はにかむ椎名。丁度木陰が消え、彼女の顔を夕陽が照らした。白髪が煌めいていて、幻想的な雰囲気を纏っている。

 

「チッ。なんだよ」

 

頭を掻く司。眩しくて夕陽から目を逸らした。

 

「そんなことりさ、てんかいじーー私の格好を見て、言うことない??」

 

「ああん?何も言うことなんかーー」

 

そう言って椎名の方を今一度見る司。

 

特に気にしてはいなかったが、彼女は和服に身を包んでいた。節々を見ると確かに努力が伺える。

 

「ーーなんだよ」

 

「ほら?ね?」

 

「……」

 

瞳を輝かせて司を見る椎名。結局根負けしたのはーー

 

 

ーー司の方だった。

 

「あーはいはい分かったよ。似合ってるぞ。頑張ったな」

 

 

「ーーえ?なんて????もっかい!もっかい!!」

 

「あーもう。うるせぇな。もう絶対に言ってやらねぇからな?!」

 

「ケチケチー!!ほらほらもっかい!!」

 

「嫌だ。絶対にヤダ」

 

「えーー」

 

 

 

 

 

ーーそんなこんなで、債務者と女子高生霊能力者のちょっと慌ただしい正月は終わりを告げた。

因みに彼女のアピールは、司が完全に家路につくまで続いたという……


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