八幡side
「はあっ!そらっ!」
「くっ……!」
俺はハンドレッドを起動させている時に使うハンドガン型のものをアサルトライフルの形にしてマシンガンのように絶え間なく撃ち続ける。それに対して俺が今、対峙している武芸者はギリギリながらも弓から青い光を纏ったセンスエナジーで作った矢で俺の攻撃に応戦する。
俺は矢をかわしながらその武芸者に素早く近づく。その間俺は影から刀を生成し、片手に持つ。
「遅いなっ!」
「ぐっ!………」
俺は急に近付いて怯んだ隙をついて刀でその武芸者を叩きつける。勿論、センスエナジーを使っていないため斬れる事はない。ただ、叩きつけられて痛いだけだから大丈夫だろう。その武芸者は吹っ飛ばされて攻撃された箇所を手で押さえていた。
「……まだまだだな。イノセンス型は長距離、中距離、近距離に対応できる万能タイプだ。前回よりは反応速度はよくなっていたが、もう少し武装を変える時間を短くしろ。頭の中で何が一番良いかをまだ考えているからこうなるんだ。直感でこれが最適だと思う武装でいかなる状況に素早く対応する、これがイノセンス型の理想の戦い方だ。じゃないと、さっきみたいに急に来られたらやられるぞ。それに武芸者がそんなに毎回痛がってどうするんだ?」
「しょうがないじゃないか。痛いものは痛いんだし。それに僕だってまだハンドレッドでの練習をしてまだ2ヶ月なんだよ。かなり成長した方じゃないか」
「まぁな、確かにハンドレッドを使い始めたばかりで武装の扱いが出来なかったあの頃よりは全然マシだな。さて、今日はもうあがるぞ、エミール」
「了解だよ!ハチマン先生!」
そう言って俺が先程戦っていた武芸者、エミールが元気な声で俺の提案に乗った。
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「シャロー、帰ったぞ」
「ハチマンおかえり~、今日も実に良い研究成果だったよー」
俺がシャロのラボに帰ると、そう言ってシャロは手元にあるキーボードでカタカタと俺とエミールとの模擬戦の結果を入れていく。
ついさっきまで俺とエミールはシャロがリトルガーデン内で個人的に所有している武芸者の練習場で模擬戦をしていた。普通に俺の権限で一般使用の練習場を借りようとしたが、何でもシャロ自身もイノセンス型のハンドレッド同士の戦闘はどこにも例がなく、それを通じて研究がしたかったらしい。
「エミールはどうしたんだい?」
そう言ってシャロはエミールの所在を訊ねた。
「ヴァリアブルスーツから普通の服に着替えるために更衣室にいる。ほら、俺の場合ヴァリアブルスーツはハンドレッド起動時に同時に顕現できる特別仕様だから、ハンドレッドを解除すれば普通の服に戻るから着替えの時間は必要ないからさ。後から来るはずだ」
本当はシャロの所に一緒に行こうと更衣室でエミールを待とうと思っていたんだが、急かされて追い出されてな。顔だけでなく性格も女っぽいよな。男子の割りに。
「私がハチマンのハンドレッドだけに付けた特別仕様を有効に使ってくれて何よりだ。開発者としても嬉しい限りだね。で、エミールはどうだい?」
「初期よりはかなり成長しているな。初心者にしてはハンドレッドを使う以前に戦闘を恐れるありがちなメンタルの問題もないし、それに扱いが難しい筈のイノセンス型を俺のアドバイスが有るとはいえ、ああも簡単に使いこなせるとは……武芸者としての才能が非常にある。新入生の入学式まではあと1ヶ月あるが、このまま鍛練していればセレクションズの入隊は確実だな。結果はまだだが、先日新入生の試験にも難なく合格するだろう」
「ほほー、君がそういうなら確実だね。エミールもきっと喜ぶだろうね」
「たっだいまー!」
シャロが話していると、エミールがラボに入って来た。着替えがどうやら終わったらしい。
「おかえり。ちょうどエミールの話をしていた所さ。ハチマンが言うには試験合格は確実だってさ」
「ホントに!?やったー!」
そう言ってエミールは俺の隣で喜んでいた。
エミール・クロスフォード
次の入学式でリトルガーデンに入学予定(俺からしたら確実)のシャロが俺に紹介した武芸者だ。
その容姿は可愛らしく女性かと思わせるのだが、彼女……失礼、彼は自分は男性だと話している。いわゆる戸塚彩花アローラの姿ならぬ、リトルガーデンの姿である。まさか、戸塚のような人物がリトルガーデンにいるとは当時は思わなかった。性格も明るい所は戸塚は似ているし。
今から2ヶ月前、俺はシャロからリトルガーデンの入学式までにエミールを武芸者として鍛えて欲しいと言われたのが彼との出会いである。別に他の人でも良いのではないかと思ったが、俺じゃなきゃいけない理由は彼のハンドレッドを見てすぐに分かった。
彼のハンドレッド、
そんなわけで、俺は数少ない同じ性質を持つハンドレッドの先輩として彼を鍛え始めた。最初は銃や剣の扱いなど、武術的な面は駄目だったが、センスエナジーを使った特殊な技術、エナジーバリアや高速移動といったものは優れていた。そのため、俺は模擬戦をしながら彼の武術的な面を強化しつつ、イノセンス型のハンドレッドを使う者として使える武装の種類の数を増やす練習をした。その結果、今では銃や剣の扱いは慣れたもので、使える武装の数も当時よりは倍に増えていた。彼自身のリトルガーデンに入りたい強い気持ちが有ったかもしれないが、2ヶ月でここまで成長するのは異常であった。
だが、それは彼に秘密が有ったからだ。ハンドレッドを扱う天性に近い才能、普通の人より優れている自身のセンスエナジーの要領、そしてイノセンス型という特殊なハンドレッド。シャロからエミールのハンドレッドの反応数値を見せて貰って案外普通だと思っていたが、それは模擬戦を通して違うと分かった。
俺はジュダルには知られているが、ヴァリアントであることを隠すためにハンドレッドの反応数値を操作して、クレアと同じくらいにしてワルスラーン社に定期的にハンドレッドの反応数値を提出しているが、俺が知るなかでそんな手段が出来るのは俺と同じ境遇の者しかいない。
「はしゃぐのは良いが、才能を見せびらかしてヴァリアントだとバレないようにしろよ。ヴァリアントの存在は高等部の2年の授業でやるが、あまり良い印象はないし」
そう、エミール・クロスフォードは俺やサクラと同じヴァリアントなのだ。俺がシャロとエミールに話すとシャロは「君にいつかバレると思っていたが、こうも早くとはねー」とエミールがヴァリアントであることについて詳しく話してくれた。
どうやらエミールは昔、グーデンベルグと呼ばれるヤマトのはるか西にある国でサベージによる大規模な事件、『第二次遭遇』の被害にあったらしい。そこでサベージに襲われ、出来た傷からサベージの体液が体内に入り、ヴァリアントになったそうだ。その後シャロが彼を引き取って、ヴァリアントの力をある程度制御できるようになり、今に至るというわけだ。その時に俺もヴァリアントだということをエミールに言うと、その日から同じ境遇の者同士親しい関係である。
「それは分かってるさ。自分でもあまり使おうとも思わないよ。それより今日次の入学式に来る特待生のデータが来たんだよね?」
「ああ、今年は一人。名前は如月ハヤト。歴代最高のハンドレッドの反応数値を叩き出した男だな」
「…………ハヤト。」
「ん、どうした?しんみりとして。もしかしてこいつと親友とかだったか?」
「……いや、昔グーデンベルグで一度会ったきりの名前にそっくりでさ」
「へぇ、成る程な。で、ちょっと問題なのはこいつのハンドレッドの反応数値だな。この高さは…」
「確実にヴァリアント、だろ?」
そう言って俺とエミールの話に割り込むようにシャロがその話の続きを話す。やっぱ、分かってたか。
「ああ、経歴からしてもハンドレッドに触ったのはこの前の特待生の試験が初めてらしい。こうなってしまうと、嫌でも悪目立ちするな」
「そう、だね。僕とハチマン先生はシャロを通じてヴァリアントでもハンドレッドの反応数値を目立たせないようにする練習は少しずつしてきたからね」
「ああ、そうだな」
その後、俺はエミールと今日の練習について反省会をした。もうほとんど、反省するところは普通の武芸者としてはあまりないが。それにしても如月ハヤト……か。どんな奴だろう?