八幡side
「妹の病室はこっちです」
「ああ、分かった」
俺は如月に連れられて病院の廊下を歩いていく。うっわ、周りからの俺への視線がすごいな。未だにこの有名になった感覚って慣れないんだよな。
今日、俺が病院に来ているのは怪我や病気が原因ではない。入院している如月の妹に会うためである。
昨日の夜、俺はサクラからのお願いのために如月に妹が居るかを聞いてみた。あまりに直球過ぎて言った自分でもドン引きだったが、如月はそんな気にせずに答えてくれた。
まさか、本当に妹がいるとは……サクラと同じ時期にグーデンベルグにいたヤマト生まれの兄妹という条件に合致してるだけでかなり凄いが、まだサクラが知りたい兄妹である確証には至れない。実際、グーデンベルグで被災した兄妹で数を絞っても、一組ではないからな。
そこで、俺は次の日に如月に頼んで学校が終わった後に、妹さんが入院している病院に案内してもらう約束をしたのだ。妹に会えば、何か分かるかもしれないし。
「ここです。比企谷先輩」
「お、ここか」
俺は病室の名札を見ると、如月の妹である『如月カレン』と書いてあった。そう言えば、サクラもサクラで妹の名前でも知っていれば、俺も調べやすいのに。
俺はそう思いながら見てると…………
『~♪~♪~♪~♪』
病室の中から歌を歌っている少女の声が聞こえた。
(おいおい、この歌は………)
「比企谷先輩?どうしました?」
「……いや、何でもない。中に入ろうか」
俺がそう言うと如月は病室のスライド式のドアを開けた。中にはヤマトの出身を思わせる黒髪の少女が病室のベッドてこちらを見ながら横になっていた。
「兄さん!それと兄さんの隣に居るそちらの方はもしかして……」
「初めまして。生徒会の比企谷八幡だ。まぁ、『影の働き手』の方が有名かな?」
「い、いえ、そんな事は。初めまして、如月カレンです。先日は兄さんがお世話になりました」
そう言ってカレンちゃんは頭を下げた。兄と変わらず、礼儀正しい子だな。
「まさか…本当に占い通りの方が来るなんて」
「占い?」
「カレンはタロット占いが得意なんです。しかも、その的中率は俺が知る限りほぼ100%です」
ほぉ、そんな趣味があるのか。的中率がほぼ100%のタロット占い、ね。如月兄は気付いていなさそうだが、多分センスエナジーの力が働いているな。実際、武芸者の才能は遺伝による要因もあるからカレンちゃんもセンスエナジーが扱える武芸者の素質が有ってもおかしくない。兄は武芸者の大型新人だからな。
「へぇ、それはすごいな。ちなみに出来たら占いの結果の内容を教えてくれるかな?」
「は、はい。今日の私の出来事を占ったのですが、『好きな人をよく知る人物が現れる』と」
そう言って俺がカレンちゃんに訊ねると、カレンちゃんは快く俺に占いの結果を教えてくれた。
「好きな人?」
好きな人?どういう意味だ?
「それって彼氏という意味か?」
「いえ、そう意味ではありません。私がそういう意味で好きな人は兄さんだけですから」
おおう、そうですか。これはまた典型的なブラコンでいらっしゃる。如月兄は顔を隠してるし。恥ずかしい気持ちは分かるし、色々と大変だな。
「じゃあ、一体………」
「私が好きな人はサクラさんです」
えっ……サクラ?サクラってまさか………
「サクラって……霧島サクラの事か?」
俺は思わず衝動的にカレンちゃんに訊ねてしまう。
「はい!実は私、サクラさんのファンなんです!比企谷先輩もやっぱり好きなんですよね?」
カレンちゃんの占い、普通にすごくね!?ほぼ当たってるどころじゃない。好きな人ってそういう意味かよ。
「ん?やっぱりって?」
だが、俺は最後にカレンちゃんが言ったやっぱりの意味が良く分からなかった。
「あれ?違うんですか?実はツヴァイ諸島で行われたサクラさんのライブに比企谷先輩が居たのがファンの間で話題になっているんですよ。もしかすると、比企谷先輩もサクラさんのファンじゃないかって」
何それ!?いや、ただ警備で居ただけなんですけど、そういう事になってるの!?
「でも、私は違うと思うんですよね」
「ほ、ほう。な、何が違うと?」
や、ヤバい、動揺して声が震えてしまった。
「実は比企谷先輩ってただのファンじゃないですよね?だって、兄さんから聞いたんですけど、比企谷先輩って入学式辺りの数日休んでたんですよね?いくら、生徒会でも私情で休んだら入学式はヤバいと思うんですよね」
ぐっ!?確かに言われてみればここで否定しなかったら、入学式よりアイドルのライブを優先したクソ野郎の先輩じゃないか。如月の妹、なかなか侮れない。
気付かれたなら仕方ない。それに否定しないと、クソ野郎認定は免れない。それにあれを聞いた以上、もうこの兄妹とは他人という関係ではないからな………。
「……カレンちゃん、素晴らしい推理だ。実は俺は入学式辺りの数日はある依頼者の警護のために休んでいたんだ。で、その依頼者なんだが……」
「もしかして……」
「ああ、霧島サクラさ。秘密だけどな」
それを聞いてベッドの上でカレンちゃんはすごく興奮した様子になる。そんなに興奮しなくても。
「兄さん!聞きましたか!やっぱり比企谷先輩はスゴイ方ですね!サクラさんの警護なんて普通のボディガードの人でも無理なのに!」
そう言うカレンちゃんを如月兄が何とか鎮めようとする。カレンちゃんの言う通り、俺以外のボディガードもかなりの経歴の持ち主だったから間違ってはいない。
「つまりは比企谷先輩はサクラさんと常に居たって事ですよね!?できたらサクラさんについて……」
「ああ、話しても構わないぞ。その代わり、周りには言わないようにしてくれるならな」
俺がそう言うと、カレンちゃんは嬉しそうに首を縦に振る。本当にサクラの事が好きなんだな。
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あれから俺はツヴァイ諸島でのサクラの様子をカレンちゃんに話し続けた。こんなに興味を持ってくれるなら俺も話す価値はあるしな。如月兄は妹とは反対にあまり興味が無さそうにだったが。
「カレン、もう面会時間が終わりだからその辺にしておきな」
如月兄の言う通り、面会時間終了まで残り十分近くだった。カレンちゃんに話すので夢中だったが、かなり話し込んでいたんだな。
「そうですね。比企谷先輩、今日は楽しい話をありがとうございました」
「ああ、また暇があれば話しに来るよ。如月、お前は先に病院の外で待っててくれ」
「え……比企谷先輩は?」
「カレンちゃんと最後に少しだけ話をな」
「わ、分かりました」
そう言って如月兄は部屋から一足先に出ていった。警戒していたようだが、お前の妹を襲う気はまったく無いからな。失礼な後輩め。
「あの……話というのは?」
事情が分からないカレンちゃんが俺に訊ねた。
「ああ、さっきカレンちゃんの病室に来る前に部屋から歌を歌っているのが聴こえたんだけど、あれを歌っていたのはカレンちゃんだよな?」
「は、はい。うるさかったですか?」
「いやいや、そんな事はない。聴いてて良い歌だなと思ってな。オリジナルか?」
「あ、ありがとうございます。いえ、この歌は私と兄さんがグーデンベルグで第二次遭遇の被害に遭った時に、両親がいない私と兄さんのために歌ってくれた女の子のものです。」
「……ほぉ。ちなみにその女の子はどこに行ったのかは知らないのか?」
「いえ……でも、もしまた会えたらその人と一緒にこの歌を歌いたいですね。」
「……そうか。……もしかするとそう遠くない未来かもしれないぞ」
「えっ……?」
「じゃあ、またな。カレンちゃん」
俺はカレンちゃんに訊ねられる前にそそくさと彼女の病室を退出した。
「……運命って恐ろしいものだな。調べてみたらこんな因果があるとは思っていなかったな」
これで確信した。ひとまず、家に帰ったらサクラに今日の報告をしないとな。