八幡side
あいつ……目撃情報が無いからまさかとは思っていたが、やはり来ていたか。ということは……
「くっ……比企谷先輩、彼はもしかして……」
声がした方を向くと、そこにはサクラに肩を借りながらゆっくりとこちらに近づく如月の姿があった。あいつのブレードの攻撃を受けていたが、骨が折れている様子もなく見た感じだと軽傷だった。
「ああ、俺が前にツヴァイ諸島の廃坑で戦闘した密猟者だ。恐らく残りの二人も……」
俺が如月や密猟者について何も知らないエミール達に軽く彼らに説明をしていると、少年の背後から眼帯をしたあの物静かな少女が現れた。
「ハチマン先生、あの女も?」
「気を付けろよ。彼女のハンドレッドは俺やお前のハンドレッドと同じくらい異質だ。俺の予測だと彼女のハンドレッドの能力は……」
エミールに訊ねられ、彼女のハンドレッドについて説明をしようとした瞬間、彼女は如月の方を向き、右目の黒い眼帯から黄金色に輝く瞳を見せた。
「……ハンドレッド・オン」
小さな声で呟き、ハンドレッドを起動させると、彼女の手には如月の飛燕に似た黒い刀が顕現した。彼女はそのままリジェネレーターの元にジャンプするが、鋏はすでに回復しており、サベージは彼女に攻撃をしようとする。
だが、少女はそれを意図も簡単にかわし、刀で再び鋏を両断してサベージの核がある部分に攻撃を繰り出す。だが、彼女の攻撃は核を守るシェルターは破壊したものの、コアには刃が届かなかった。
「……
しかし、彼女はそれに動じず、無表情な顔でサベージの核に刃を突き刺して攻撃を続ける。すると、先程あの少女が発した言葉のせいか、強さが上がっている気がする。何故なら、あの少女の攻撃が見ている内に核の内部にも侵食しているからだ。
「……おしまい」
そう言って彼女がサベージの核に刺さっていた刃を抜くと、コアは輝きを失い、蛍光色のサベージの体液が吹き出し、サベージが物言わぬ死骸となった。
だが、これで終わりではなかった。彼女はそのままサベージに刃を突き刺し、まるでコアを切り抜くかのように何度も核の周囲を突き刺し続けたのだ。
「おい……何だよあれ」
その光景を見て、如月達も絶句していた。サベージの体液を被りながら、サベージの体に何度もぐさり、ぐさりと生々しい音を立てながら刃を突き刺していく。仕事上、多くの武芸者に会ってきたが、ここまでおぞましく狂気的な倒し方をする武芸者を見たことがない。
「おい!やめるんだ!そんなにサベージの体液を浴びたらウイルスに感染してしまうぞ!」
「………………………」
おぞましい光景を見て、レイティアは彼女に注意をするが、それでも彼女は止めなかった。むしろ、レイティアに向けてサベージの体液を舐める仕草を見せたのだ。
「くそっ!やめろと言っているのに!」
「待てっ!レイティア!」
レイティアは地面を蹴り、彼女の奇行を止めようと接近しようとする。俺はレイティアを止めようとするが、間に合わなかった。あいつらには仲間がもう一人……
「おい、お前!ネサットの邪魔をするなよ!」
俺の予想通り、もう一人の仲間である二つのリングを武装として扱う好戦的な性格の少女がレイティアを遮るように現れた。彼女はリングの一つをブーメランのように投げ、レイティアの体に当てた。レイティアは彼女の攻撃を受けて地面に叩きつけられてしまった。
「くそっ!よくも俺の後輩に!」
俺はすかさず、レイティアに攻撃をした少女に影で作った刀で斬りつけようとするが、それをツインブレードを持ったあの少年に阻まれた。
「お前の相手は俺だよ、
くっ!まさか、俺の弱点がこいつらに知られているのか!?だとしたら、かなり分が悪いな。
「……どうやら、お前達の裏にヴィタリーが絡んでいるのは間違いないようだな。だったら教えて貰おうか!ヴィタリーが今どこにいるかをな!」
「はっ!俺を倒したら、教えてやっても構わないぜ。それは無理だと思うけどな!」
「くっ!?」
少年の瞳が彼に共鳴するかのように黄金色になると、彼の強さが先程より格段に上がり、ツインブレードで俺を弾き返した。
「くそっ……」
「やはりヴィタリーが言っていた通り、お前の力は影が少ない夜だと厳しいようだな。確信したぜ」
少年が指差す方を見ると、そこには先程の攻撃で弾き返されたボロボロの俺の黒い刀があった。やはりこの時間になると、影の能力を使うのは厳しいな。
「どうやら、お仲間も脱落のようだぜ」
少年が余裕そうに話している背後では、先程まで二つのリングを使う少女と戦っていたレイティア、フリッツ、エミール、如月だったが、すでに勝負は決しており、四人は地面に膝をついていた。
ヴァリアブルスーツが無い事や俺の活動条件が悪いと不幸が重なっているとはいえ、ここまで戦力差があるとはな。特殊なハンドレッドの武装による恩恵もあるが、それに加えて彼らは連携攻撃といった戦闘経験もかなり豊富に見える。
「さて、全員やられた事だし、ついでにお前らのハンドレッドも戦利品として頂こうか」
そう言って少年が俺に近付いた瞬間……
「まだだ!」
『
俺は先程、少年と会話していた際に最後のセンスエナジーを振りしぼって隠れて顕現させたツインブレイカーにシャドウフルボトルを差し込み、少年の体に拳による一撃を食らわせた。
「がはっ!?何っ!!」
油断していた少年はそのまま吹き飛ばされ、二つのリングを持った少女の近くに転がった。
ふぅ、このシャドウフルボトルは戦いの前に俺がセンスエナジーを込める事で意味を成す、要は携帯電話とかの充電式の予備バッテリーのようなものだ。そのため、あらかじめセンスエナジーをこれに補給しておけば、戦闘でセンスエナジー不足で困った際に、こういう場面を乗り切る事が出来るわけだ。今回は不意打ちだったけどな。
「ちっ、流石は影の働き手だ。まさか、こんな状況でも俺達に歯向かう力があるとはな」
少年はそう言ってこちらを睨んでいるが、かなり余裕が無いように見える。それもその筈、あいつの武装には先程の攻撃でヒビが入っていた。
「くっ……ナクリー、撤退するぞ」
「はぁ!?なに言っているのよ、クロヴァン。私とあんた、それにネサットがいれば、あいつらなんて簡単に倒せるのよ。どうして!?」
「……センスエナジーの塊が多く近付いている。恐らく、リトルガーデンの増援だろう」
「っ!?……そういう事ね」
ほう、あのクロヴァンとかいう少年は周りが見えているようだな。それにあのナクリーという少女も好戦的な性格だったが、引き時は弁えているらしい。
「今日の所はこのサベージのコア二つで見逃してやるよ。命拾いしたな!」
そう言ってナクリーという少女はネサットと呼ばれた眼帯の少女からサベージのコアを受け取り、崖の上に他の二人と移動した。
「待て、どうしてコアを持っていくんだ!」
ナクリーに対してレイティアが大きな声で叫ぶと、ナクリーは侮蔑するように答えた。
「……本当に何も知らないようだな。詳しい事はそこの影の働き手にでも聞けよ」
そう言い残すと、黒いヴァリアブルスーツを着た三人組は崖の向こうへと消えていった。
「……ハチマン先生、追う?」
誰もいなくなった崖の方を向きながら、エミールが俺に訊ねた。
「いや、やめておこう。あれだけの戦力差を見せつけられたら、今の状況では勝ち目がないだろう。ひとまずはリトルガーデンに帰還しよう」
こうして、突然の密猟者との戦闘は終わりを告げた。だが、その戦闘は圧倒的な戦力差での敗北だった。次に会った時は、如月達も彼らに対抗出来るほどまで強くしないとな。