ボッチのハンドレッド使い   作:リコルト

56 / 63
ツヴァイ諸島復興ライブ当日

 

 

 密猟者達とのあの戦闘から二日が経ち、今日はリトルガーデンのツヴァイ諸島滞在最終日で、サクラの復興ライブの日でもあった。

 

 

 本来なら、新たにサベージが発生したため、ライブは延期される筈だっただろう。けど、サクラがスタッフさん達にお願いして何としてでもやって貰うことになったのだ。幸い、ライブ会場も壊されてないし、スタッフさんとしても彼女のお願いを断る理由は無いだろう。

 

 

………………

 

 

……………………………

 

 

…………………………………………

 

 

「八幡、着替え終わったわよ」

 

 

 そう言ってライブ衣装に着替えたサクラが彼女専用の楽屋から出てくると、楽屋の前でただ一人彼女の護衛をしていた八幡が彼女の方を向いた。

 

 

 ハヤトがセンスエナジー切れのために護衛を外れた今、彼女を個人的に護衛をするのは八幡だけである。ただ、今の八幡はサクラの護衛に人一倍の責任感と緊張感を持っていた。

 

 

 密猟者達はあの戦闘では手を引いたものの、まだツヴァイ諸島から撤退したとは思えない。今からでもライブ会場を襲撃する可能性があるかもしれないのだ。それに加えて、彼らはサクラの『声』にも興味を抱いていた。

 

 

 サクラの特殊な声に関しては八幡が信頼出来る人物であるシャーロットに既に報告していた。この件はまだ未確定な部分が多く、またサクラをワルスラーン社の人体実験に巻き込みたくないため、シャーロットとスフレを中心に個人的に調査をしてくれる事になったのだ。

 

 

 ただ、サクラの『声』に興味を持った密猟者達を逃した今、その事はシャーロットと同レベルの頭脳であるマッドサイエンティストのヴィタリーにも伝わっている筈だ。そうなれば、今度はサクラ自身にも危険が及ぶかもしれない。八幡は特にそれを案じていた。

 

 

「ああ、楽屋では何もなかったか?」

 

 

「ええ、大丈夫よ。八幡も心配性ね」

 

 

 そう言ってサクラは八幡の方を見て微笑んだ。サクラにとって家族であり、恋人でもある、八幡に心配されるのはとても安心出来る事だった。

 

 

「比企谷先輩!サクラ!」

 

 

 二人は呼ばれた方に振り向くと、そこには学生服姿のハヤトがこっちに近付いていた。

 

 

「おお如月、カレンちゃんは無事に会場に到着したのか?」

 

 

「はい、今はエミールとフリッツとレイティアに面倒を見て貰ってます」

 

 

「そうか、ところで何でここに来たんだ?警護はもう外された筈だろ?」

 

 

「サクラにお礼を言いに来たんです。カレンの分だけでなく、俺やエミール達の分までライブが見える良い席を準備して貰ったから」

 

 

「別に気にしなくて良いわよ。ハヤトくん達には十分お世話になったから。これぐらいは当然よ」

 

 

 そう言って三人はお互いに今回のツヴァイ諸島での三人の思い出を振り返るように談笑していた。このせいか、八幡の緊張感や警戒感は少し緩んだように見えた。

 

 

「そう言えば、サクラはライブが終わったら、ツヴァイ諸島を出発するのか?」

 

 

「そうね……明日はどうしても外せない音楽番組の収録があって、遅くても明日の朝には出発する予定ね。本当なら、ハヤトくんやカレンちゃんともう少しお話がしたかったのだろうけど」

 

 

 ハヤトの問いにサクラが名残惜しいように答えると、八幡は二人にある提案をした。

 

 

「だったら、俺とハヤトがカレンちゃんを連れてサクラが乗る飛行機がある空港にまで連れていくぞ。リトルガーデンが離岸するのは午後からだからな。朝はサクラを見送る時間はあるぞ」

 

 

「なら、空港で明日会いましょう!詳しい場所はライブが終わったら、PDAに送るわ」

 

 

「ああ、分かった。カレンにも詳しい事情は話しておくよ。それじゃあライブの前だし、俺は帰るよ。また後でな」

 

 

 二人に別れの挨拶をして、観客席に戻ろうとするハヤトにサクラは最後に声をかけた。

 

 

 

 『ライブのアンコールに()()()()()があるから、楽しみにしておいて』と。

 

 

 

……………………………

 

 

………………………………………

 

 

……………………………………………………

 

 

八幡side

 

 

『~~~♪♪~~~♪♪』

 

 

「お、始まったみたいだな」

 

 

 俺はハヤト達とは別の場所からサクラのライブを眺めていた。見てみると、観客席で如月達がぎこちないものの、ライブのペンライトを振っていた。カレンちゃん、なかなか容赦無いな。

 

 

『ハンドレッド・オン!!』

 

 

 サクラがステージでハンドレッドを展開すると、サクラの背中に妖精のような羽が生え、それに合わせてステージの背景も森の背景に姿を変えた。

 

 

『みんな!今日は楽しんでね!』

 

 

 そう言ってサクラはステージの上空を羽ばたきながら、彼女の持ち歌を歌い始めた。その姿に、初めてサクラのライブを見た者、サクラのライブを見たことがある者、全員が魅了され、彼女のステージに引き込まれていった。勿論、俺も例外ではない。何回もサクラのライブを見た俺でも彼女のライブに魅了されてしまう。

 

 

 それは決して彼女のヴァリアントの歌の力では無い。サクラの観客の気持ちに応えようとする気持ちこそがこのライブを作っていると俺は思う。サクラは家でも、ライブの演出などに一つ一つ真剣に向き合っていた。たとえ、そのライブが小さかれ、大きかれと彼女のライブの演出は今まで被った事が無い。それは観客に飽きないようにするためで、サクラなりに観客の気持ちに応えようとする形の表れだろう。俺は少なくともサクラと暮らしてきて、そうだと断言出来る自信があった。

 

 

………………

 

 

……………………………

 

 

……………………………………………

 

 

 やがて、サクラはライブの最後の歌を歌い終わり、暗闇に消えると、観客からはアンコールの声が響くように会場を包み込んだ。

 

 

 しばらくすると、ステージの中央部にスポットライトの光が照らされ、そこには巫女装束のような衣装をしたサクラが立っていた。

 

 

 それを見て、観客達の歓声は盛り上がるように大きくなるが、サクラがすぐにそれを静めた。

 

 

『これからアンコールで歌うのは今日、初めてライブで歌う曲……いえ、昨日出来たばかりの曲なの』

 

 

 それを聞いて観客の歓声はわき上がるが、サクラが話を続けると、すぐにまた静まり返った。

 

 

「サクラの昨日出来たばかりの新曲か。一体どんな歌なんだろうな」

 

 

 そう言えば、さっき如月にサクラが話しかけていたな。アンコールにプレゼントがどうとか、どういう意味なんだろうか。

 

 

『この歌は二度のサベージの襲撃から私達を守ってくれた人達に捧げます。聴いてください』

 

 

 そう言ってサクラは静かな音色と共にその新曲を歌い始めた。しばらく聞いていると、俺はその歌詞の秘密に気付いてしまった。

 

 

(これっ……ラブソングじゃん!!)

 

 

他人が歌詞を作っているならまだしも、恋人が作ると、何かを意識せざるを得ない。周りに如月達がいなくて、良かった~。

 

 

 

離れた席で一人赤面していた八幡を余所に、長かったライブはこうして幕を下ろした。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。