俺はみほエリをなせず敗北しました   作:車輪(元新作)

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今回のあらすじ
今日は、西住家の養子になったエミカスで、優勝していくこととするわ……
まずはまほちゃんとみほちゃんの間に挟まるように設定した西住の遠縁の親戚の子にエミカスを用意し、両親に通り魔を潜影蛇手!
一人になったら、しほさんに養子に取ることを決意させまほみほ姉妹の間にエミカスを潜影蛇手、さらにしほさんも潜影蛇手しておせっかいをかけさせることで内臓にダメージをおわせていくの……
そのまま家族の優しさに罪悪感を感じながらもみほエリのために努力をさせたエミカスを寿命でピロシキ させたら完成よ
あら〜ピロシキ〜やだ〜
はい、エドテン


西住の母

 茫然としてこちらを見上げる童に、手を差し伸べて、できるだけ優しく微笑みかける。

 

「今日から、あなたは私の娘になるのよ」

 

 そう言ったとき、彼女の喉がキュッと締まったのを、今でも忘れることができない。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ゴクリ、ゴクリと喉を通っていくビールの冷たさに思わず目を瞑る。

 現在の肩書はどうあれ、既に次期家元として為すべきことを全てこなした疲れ、それも丸ごと胃の腑に流し込むようにグラスを傾けると、数秒もしないうちに中身が空になったものだけが手の内に残された。

 ちらり、と目配せをすると心得ていると言わんばかりに瓶を差し出してくる娘。

 ありがとう、と言おうとしたのだが、思いの外疲労は大きかったのか言葉は喉を這い上がってこれず、覆い隠すように、再びコップいっぱいに注がれた黄金色を喉に流し込んでいく。

 

「……ふはっ」

「いい飲みっぷりですね」

「……なんだか今日は、飲みたい気分のようだわ」

 

 自分のことなのに、他人事のように言ってしまうと、間抜けな感じがして少し気恥ずかしい。

 クスクスと笑う娘を軽く睨むと、喉を鳴らすのはやめたもののニンマリと笑う目元は隠しきっていない…いや、隠す気がないのだろう。

 

「まほさんが学園艦にのって、一週間ですか。 よく耐えた方なのでは?」

「何を言ってるの」

「しほさんが過保護気味なことはこの家にいるものならみんな知ってますよ。 さ、こちらどうぞ」

「なによ……」

 

 見透かすような瞳で、実際内心を言い当てられてしまって。

 恥ずかしさを顔を背けて隠しながら、差し出されたつまみの漬物に手をつける。

 カリッと、いい歯応えだ。

 

「来年はみほも私も行ってしまいますけど、大丈夫ですか?」

「別に、問題はありません。 たかだか数ヶ月離れるだけで心配になる程柔な鍛え方はしていませんから」

「まほさんはそうでしょう、でもしほさんはどうでしょうかね?」

「……あまりいじめないでちょうだい、エミ」

 

 普段は物静かなくせに、からかう時は舌がよく回る義娘にそういうと、ニンマリとした笑いをいよいよ隠さなくなったエミは湯が沸くような静かな音で笑った。

 

 

 

 仲の良かった親戚、歳の近かった彼が、夫婦揃って通り魔に遭ったと聞いた時の感覚は今でも脳裏にこびりついている。

 

 葬式の最中、遺された幼子が茫然と立ち尽くし、誰が引き取るか施設に預けるかなどと話し合っている中で我慢できずに彼女を引き取ると言い放つ。

 常夫さんは一も二もなく同意してくれて、当時まだ幼かった娘二人に挟まれるように、彼女を養子とした。

 それが、今目の前でニコニコと微笑んでいる幼女だ。

 

「……子供が育つのは早いわね」

「ついこないだまで、まほさんも私と同じくらいの背丈でしたからね。 それがあっという間に見上げるほどになりました」

「……同じ暮らしをさせたはずだけど、なぜあなただけそんなにちみっこいのかしらね」

「さぁ? 神のみぞ知るってところです……わっ、ちょ、やめ、そんなぐりぐり撫でないでくださいよ」

 

 今夜はやたらと口が立つらしいエミの頭をかいぐるように撫で回すと、わたわたと首を張って逃れようとする。

 エミが本気を出せばこの程度の拘束など赤子の手をひねるように解ける筈なのだが、抜け出す気配は見受けられない。

 

 ──これもまた、見透かされているのかも?

 

「もう少し髪の手入れに気を使いなさい、少しごわついているわよ」

「みほのようなことを言う……」

「親子ですから」

「知ってますとも」

 

 トクトクトクと三杯目のビールが注がれる。

 明日は珍しくなんの用事もなく大した案件もなかったはずだ。

 少し程度の深酒なら、許されるだろう。

 

「そういえばみほは?」

「今日は疲れていたらしく、泥のように眠ってますよ。 まほさんが行ってしまったから少し無理をしてるように感じます。 しほさんも気にかけてあげてくださいね」

「ええ。 ……貴方はどうなの? まほが行ってしまいましたが。 まほは貴方がまた無理な鍛錬を行わないかと気が気ではないようでしたよ?」

「まほさんに心配をかけるのは本意ではありませんから、加減してますよ」

「私も心配だわ。 あなたはすぐに度を越したトレーニングをしたがるから。 見ていて気が気でないの、常夫さんも顔をしかめていたわよ」

「それは……申し訳ありません」

 

 苦言を呈すると、エミは申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「でも、こうでもしないと皆さんに苦情がいってしまいますから」

 

 その言葉に、グッと言葉が詰まる。

 

 

 

 同年代の平均的な体格を著しく下回り、また、車長としてのセンスに致命的に欠けているエミのことを快く思わない連中が多いことは知っている。

 西住の本家の娘として相応しくないのではないか、と、遠回しに縁を切ることを催促されたこともある。

 それらの戯言は全て一笑に付してきたが、私ではなく娘たちに、どころかエミ本人に矛先が向くこともある。

 エミはそれを笑って受け流していると聞いたが、内心ではどう思っているのか、彼女があまりにも過酷な鍛錬を自分に課している事が関係ないとはいえないだろう。

 

 ただ、元気に育ってほしいだけなのに。

 

「エミ、あまり自分を卑下する物言いはやめなさいな」

「すいません、そんなつもりはなかったのですが」

「言い訳無用」

 

 グラスを置き、エミを見据える。

 頭ひとつ分以上目線が低い彼女にはどうしても威圧的になってしまう。

 こちらを見上げてくる瞳に僅かな恐れと、罪悪感を抱いているのを見逃せない。

 

「あなたがどう思おうと、周りがなにを言おうと、私と常夫さんの子であることに変わりはないのですから……胸を張って、前を向きなさい。 あなたが落ち込んでいてはまほが学園艦からシュトゥーカを飛ばして駆けつけかねないのですよ」

「……はい、肝に銘じます、しほさん」

 

 そういって深々と頭を下げるエミ。

 

 それを、快く思っていない自分がいる。

 

 

 

 彼女は、いつになったら私を、母と呼んでくれるのだろうか。

 親子となったあの日から、彼女は決して、私を、家族を、その役柄で呼んでくれたことはない

 

 

 

 ***

 

 

 

「荷物ですか?」

「ええ、娘さんから。 母の日の贈り物だと書いてありましたよ」

 

 ある日のこと。

 自宅にて書類仕事を片付けていると菊代が小さな箱を持ってきた。

 母の日、と言われると、確かにそうだったと思い当たる。

 毎年娘たちはなにかしら贈り物を用意してくれるので密かに楽しみにしていたのだが、今は三人とも学園艦に移っているのでどうにも実感が湧かなかったようだ。

 

「そうですか。 では、後で見ますのでそこに置いといてください」

「あら、すぐに見ないのですか?」

「まだ仕事中です」

「ふふ、かしこまりました」

 

 菊代は机の片隅に箱をそっと置くと、部屋を出て行った。

 

 1分、2分……5分。

 手をつけていた書類を片付けつつもサッと箱を手繰り寄せる。

 品のいい飾りの真っ白い小さな箱、さして重さもないそれに、今なにも何も変えがたい大切なものが詰まっている。

 

 内心少し、いやかなり中身が気になっていたのを必死に押し殺して誰にも見られることのないタイミングを測ったのだ、遠慮はすまい。

 ドキドキと高鳴る鼓動、そっと小さな箱を開く。

 

「あら、これは」

 

 中には小さなブローチが収まっていた。

 愛らしい桃色の薔薇を模したそれはなんとも可愛らしい。

 主張しすぎない色合いなのが嬉しいポイントだ。

 

「……ふふ」

 

 ニヤけた唇を押さえ込む。

 全く、我が娘たちながらいいセンスをしている、これならよほどかしこまった場以外ならスーツにつけて問題ないだろう。

 と、そこで、箱の中に小さなカードも添えられていることに気がついた。

 手に取ってみると、どうやら薔薇の花言葉が書いてあるらしい。

 

『ピンクの薔薇の花言葉は、暖かい心、気品、感謝』

 

「……」

 

 しばらくの間、そのブローチを持って部屋をゴロゴロとした。

 ふと気がつくとふすまの隙間から菊代が見ていた。

 しぬ、しんだ、はずかしんだ。

 

 

 

 

「あら?」

 

 夜も更けて、1日の疲れをすっかり風呂で流した後にふと携帯を見ると、一件のメッセージがある。 みほからだ。

 

「なにかしら……」

 

 昔と比べて引っ込み思案なったみほは、なんだか私に苦手意識があるらしく(信じたくないが)あまり自分から話しかけては来ない。

 なので、珍しいそれがすこし嬉しくて、すぐにそれを開いてみる。

 

『贈り物は届いた? 今回の贈り物は三人で買ったんだけど、選んだのはエミちゃんなんだよ。 ピンクの薔薇って母の日に定番のお花なんだって! 日頃の感謝を込めてって、すこしはずかしそうだったよ、ほら!』

 

 母の日に 定番の お花

 

 その言葉が脳内で反芻される。

 そして、送られてきた写真には、頬を赤らめているエミの姿。

 

「あぁ〜……私の娘可愛い」

 

 私の娘が可愛すぎてつらい。

 この喜びを共有すべく、夫の自室へと向かう。

 今日は、気分よく眠れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことも、あったわね」

 

 在りし日の思い出に、思わず笑顔が溢れる。

 今も身につけているブローチをそっと撫でると、彼女との思い出が次々と胸の内に蘇る。

 

 最後の私物を箱に収めて、そっと蓋をする。

 

 そのまま暫く、私はそこを動きたくなかった。




活動報告のほうにいろいろお知らせがあるのでぜひご覧ください

次の次の回

  • 徐々に体の各機能が停止していくエミカス
  • 完全にノンカチュに征服されたエミカス
  • マリー!(バシィ

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