俺はみほエリをなせず敗北しました   作:車輪(元新作)

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時系列的にはプラウダif後、無事無事故で試合に勝ってまほとカチューシャが戦績2-2になったので最後の三年で決着をつけようとか言い合った後の日常シーン。


ノンナとエミーリヤ、カチューシャ

「エミーリヤって、意外と料理ができるのよね」

 

或る日突然そんなことを呟いたカチューシャに、私は視線を向けた。

机に頬杖をつきながら眠そうにウトウトし始めたので毛布でもかけようと立ち上がりかけていた足が止まる。

 

「料理、ですか?」

「そう。 特別美味しくはないけど、作るのが早くてレパートリーが広いのよ」

「はぁ……」

 

急にそんな話題を出されてどう反応すればいいのかわからず、曖昧に相槌を打つ。

カチューシャもふと思いついてなんとなく口にしただけのようだ。

そのまま再び船を漕ぎ始めたので、今度はしっかりと毛布をかぶせてあげる。

すぐに眠り込んだカチューシャを見て昼休みの開始を告げる。

 

いつもの作業を開始するなか、私はふと頭の片隅で、同志エミーリヤの作る料理とはどんなものだろうと想像していた。

 

 


 

 

「で……家に来たんですか?」

「はい。 気になったので、つい」

「まぁ別にいいですけど……」

 

1日の学業を終えた私は、その足でスーパーマーケットへと立ち寄り、食材を買い込んだ後に同志エミーリヤの家を訪ねていた。

一応電話で了承は得ていたが目的は告げていなかったので、家に上がらせてもらってからその旨を告げる。

彼女は困惑している様子だった。

無理もない、いささか唐突にすぎる申し出だろう。

 

しかし、好奇心を止めることができなかったのだ。

カチューシャよりも小柄な彼女が台所に立ち手早く調理をする姿が気になって仕方がなかったのだ。

あの背丈では台所に立っても踏み台がなければ調理はままならないだろうし、いったいどんなふうに料理をするのだろうか。

 

「材料はこちらに、一応三人分用意してあります。 これを差し上げますのでビーフストロガノフを作っていただけますか?」

「つ、作れるけどまた地味に難しいものを……ところでなぜ三人分?」

「カチューシャが今急に訪れた時に困らないようにと」

「アハハハ……まぁ、わかりました、作りましょう。 少しお時間頂きますけど」

「もちろん構いません」

「ではちゃっちゃと仕込んじゃいますね」

 

そう言って、エミーリヤはすくりと立ち上がると台所へと向かっていく。

リビングとキッチンは扉で仕切られているが、半開きになった扉からこっそりと観察すると、彼女は子供用のエプロンを取り出して身につけると、台所の隅に固まっていたブロックをいくつか連れね、横長の踏み台を作り出した。

 

(なるほど、あれで……)

 

やや足場は不安定だが彼女ほどのバランス感覚なら問題はないだろう。

あれに乗って背丈の低さを補うというわけだ。

ビニール袋から材料を取り出した彼女は、それらをざっと眺めた後に首を傾げて携帯をいじりだす。

 

そういえば、彼女に渡した材料にはルーが入っていない。

あれを作り慣れていない人間にソースも1から作れというのはいささか酷だったか。

しかし彼女は少し携帯とにらめっこした後に材料を手に取り調理を開始した。

玉ねぎの皮を剥いてから、包丁でそれを半月切りにしていく。

 

──早い!!

 

玉ねぎ丸々一個を15秒ほどであっという間に処理してしまった。

その後、ブロックの牛ヒレ肉もあっという間に切り終えてしまう。

その後の調理もとにかく手際がいい。

量を作るのに慣れているのだろうか。

その手際を見つめていれば、あっという間に台所から良い香りが漂ってきた。

 

「よし、あとは……ノンナさんなにしてるんですか?」

「ギクッ」

「いやギクって……口に出しますか」

 

今の今までキッチンに向かっていた彼女が急にこちらに目を向けたので、覗いていたのが見つかってしまった。

そそくさと退散し、テーブルの前に座る。

いささか以上の気まずさに、変な助平心を出すんではないなと思った。

 

 

 

「はいできました、ビーフストロガノフです」

「早い……」

 

さらにたっぷりのビーフストロガノフを見て、私は思わず呟いた。

本当にパパッと作ってしまった。

作り慣れた自分でももう少し時間がかかりそうなものだが。

おまけにサフランライスも添えられて、そして当然のように隣にはコーヒーが。

本当にあっという間だった。

 

「それでは頂いちゃいましょうか」

「あ、はい。 いただきます」

「召し上がれ」

 

スプーンを手に取った彼女に倣い、私も銀匙を握る。

皿に盛られた煮込まれた肉はいかにも美味しそうに照り照りなので、これは期待できそうだ。

一口すくって、口に運んでみた。

 

……

 

…………

 

うん……

 

「あ、まずいですか」

「いえ、決してそんなことは」

 

反射的に取り繕った。

そうだ、決してまずくはない。

だが、自分で作った方が美味しいのも確かだ。

なんというか、味が薄いしやや肉が固い。

 

そういえばカチューシャは、特別美味しくはないとも言っていた。

なるほど……確かにこれは、特筆するほどの味ではない。

いかにも家庭料理といった塩梅の味だ。

というかそもそも作り慣れていない料理をいきなり上手に作れるものなどいないだろう。

 

だが流石にその感想を口にするような暴挙は犯さない。

いきなり押しかけて作らせて普通だなどと感想を述べるなんて失礼にもほどがある。

それに、この小さな同志が作ってくれた料理なのだからそれだけでもただ美味しいだけのそれより数倍は価値があるのではないか。

 

というわけで私はそのまずくはないビーフストロガノフを黙々と処理して、角砂糖をいくつか入れたコーヒーを飲み干した。

相変わらずこのコーヒーは、美味しい。

 

「ご馳走様でした」

「お粗末様でした。 美味しくはなかったでしょう」

「いえ、そんなことは」

「顔に書いてあります。 ていうか私料理得意じゃないし、美味しいって言われたら逆に困惑するというか」

「……」

 

見透かされていたようだ。

申し訳なさがこみ上げてくる。

そんなにわかりやすい反応だっただろうか。

いや、本当にまずくはなかったのだが。

 

「そうですね、正直、普通といったところでした」

「まあそうでしょうね、私そういうの無頓着だから。 一応ノンナさんに食べさせるものでしたしそれなりに気を使ったんです、普段はもっと酷いですよ」

「……妙ですね、手際はあんなにいいのに、なぜ味付けや煮込み加減に関しては、その」

「お粗末か、でしょ? 私がバカ舌なのと、いい加減な性格だからさ。 あと、そういうのは昔から他のが担当だったからね」

「他……?」

 

コーヒーのおかわりを差し出されて、私はそれを受け取る。

ややぬるいカップが心地よい。

 

「孤児院ではみんな家事の手伝いをするんだけどさ、私は食材切るのが得意だったからそればっかやってたんだ。 チビどもに包丁は危ないし年上連中は味付けの具合とかを担当すんの。 だからかなー、下処理は得意だけどその後のことはどうも。 一人暮らし始めてからは自分以外食べることもないからまあいいかってなっちゃって」

「……」

「……どうしました?」

「いえ、別に」

「?」

 

あっさりと語られた過去に言葉が詰まる。

孤児院出身であるとは聞いたことがなかった。

本人が気にしていなくとも、他人がそうやすやすと踏み込める領域ではないだろう。

コーヒーを啜る。

少し、酸味が強い。

 

「まぁ、これでわかりましたか? カチューシャの言うように私は早く作れますが別に美味しくはないです。 ご満足いただけたでしょうか」

「ええ、よくわかりました。 今日はわがままにお付き合いいただき感謝します。Большое спасибо」

「Пожалуйста」

 

ロシア語で返されたので目を丸くすると、クスクスと笑っている。

どうやら一本取られたようだ。

 

「同志エミーリヤ、また、尋ねてもいいですか?」

「え?」

 

 


 

 

「まさかその一週間後にくるとは……」

「今日はカチューシャも来てあげたわよ! ていうかノンナ! エミーリヤのとこ行くのなら私にも言いなさいってば!!」

「Прошу прощения」

「日本語!!」

「申し訳ありませんカチューシャ」

 

後日、私はまたも材料を抱えて、今度はカチューシャと一緒に同志エミーリヤの家を訪ねていた。

目的はもちろん、彼女の料理。

 

「今日は私も手伝いますので、ボルシチを作りましょう」

「ボルシチ」

「いいじゃない、でも美味しくなきゃ怒るわよ! ノンナが手伝うなら大丈夫だろうけど」

「はいはい、わかったよカチューシャ」

 

返事が雑! と怒るカチューシャをリビングに置いて、私と彼女がキッチンに立つ。

材料を取り出しキッチンに並べる。

 

「じゃあ私が材料切るから、ノンナさんは味付けとかを」

「いえ、エミーリヤ。 私が切るので貴方がそちらを担当してください」

「え? いやでも」

「いいから」

「はぁ……」

 

やや強引に押し切って、私は包丁を手にしてエミーリヤは鍋の前に立つ。

材料を手頃なサイズに切りそろえてバットに入れて、それを彼女が鍋に放り込んでいく。

 

「カチューシャの口に入るのですから、美味しくしなければなりません、責任重大です」

「やっぱりノンナさんがやった方が……」

「いえ、貴方がやるべきです。 はい、塩がやや薄いですね……」

 

頻繁に味見をしながら、彼女に味付けの具合をこと細かく指示していく。

やや不満げながらも彼女はそれに答えて、少し慎重すぎるくらいに味を整えていく。

 

「まぁ、そうだよな、自分だけが口にするわけじゃないからな……」

「ええ、そうです。 ……きっと役に立ちますよ。 貴方もいつか、誰かのために料理をするようになるんですから」

「いやぁ、私には縁がなさそうだけど」

「そんなことはありません」

 

私が結婚とかないわー、などとぼやく彼女を見て、少しだけ笑う。

 

そうだ。 これからは毎週、カチューシャとともにここにきて、彼女の料理を食べよう。

そして、私は彼女に、料理を教えて、そして美味しいものを作れるようにしてあげよう。

 

プラウダを卒業してもずっと、三人で過ごす未来を夢想する。

そしてその未来で、私とエミーリヤが料理を作って、カチューシャにそれを食べてもらう。

一人ではなく、三人で過ごす素敵な未来予想図。

孤独とはかけ離れた、温かな日々。

 

そんな幸せな未来を、迎えられたらいいな。

味付けに四苦八苦する彼女の姿に微笑ましさを感じながら、私はボルシチを美味しく仕上げる技を伝授してあげるのだった。

 

 




エミカス !君は僕の希望だ!!ノンカチュシンクロは光をも超える!
光を超え、百合の未来を掴み取るんだ!行けーーーーー!!エミカス ーーーーーーーーーー!!!



でもエミカス にそんな器用な立ち回りできるわけないからやっぱ絶望だわこいつ。
ちなみに旧題はСломанный Нонна

次の次の回

  • 徐々に体の各機能が停止していくエミカス
  • 完全にノンカチュに征服されたエミカス
  • マリー!(バシィ

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