俺はみほエリをなせず敗北しました   作:車輪(元新作)

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とにかく、エミカスをカプに加えることは認めん
ガルパンのブランドに傷がつくからな…


雨の語らい

 小さくて、細くて、でも微塵も揺らがない。

 私より背の低い、なのに大人のようにたくましいあなたを見ると、たまに頬が火照る時がある。

 

 

 

 

 

「雨は嫌いだ」

 

 ある日そんなことをポツリと呟いた彼女に、思わず私は振り向いた。

 いつもの活気を失われた、静かなⅣ号戦車の車内。

 

 他4人のメンバーがやや遅れてから参加するとの知らせを受けて、一足早く車内に入っていた私に暖かい缶ココアを手土産に潜り込んできたのが天翔さんだった。

 梅雨の時期の海は、結構に肌寒い。

 ありがたくそれを頂戴した私は、みんなが来る前に軽く暖機運転でもしようと思い、戦車のエンジンに火を入れた。

 すっかり手慣れた操縦で車庫から飛び出し、天翔さんがキューポラから試運転に行くことを告げる声を聞きながら適当な目的地目掛けてキャタピラを回転させる。

 しばらくの間道なき道を走っていると、不意にそんな言葉を呟いたのを耳にしたのだ。

 

「嫌いか? まぁ、雨は鬱陶しいものな」

「冷えるから体調を崩しやすいし、洗濯物も乾きにくい。 おまけに戦車の泥を落とすのがいつもより大変だ」

「そーだな……草原の方に走らせたのは失敗だったかも」

 

 ガタンガタンと起伏の豊かな地形を揺れで感じ取りながら走る、走る、走る。

 いつ頃メンバーが集結するかは分からないからそこまで遠くはいけないけれど、普段とはまるで違う、2人だけで走るのが妙に新鮮で、なんとなく遠くまで走りたくなってくる。

 

 元々、口数が多くない組み合わせだ、会話は弾まない。

 でも、こうやって静かなままなのも好きだから、苦ではなかった。

 

 ただ、10分ほど走らせると流石にこれ以上はなられるのは憚られて、ギアをニュートラルに入れて停止させる。

 寒いから、エンジンはつけっぱなしだ。

 

「ところで、天翔さんはなんで今日は差し入れをくれたんだ?」

「待たされて暇そうだったから、なんとなく」

「おせっかいめ」

「私がおせっかい焼きなのは、毎朝の通学で散々知っていると思うけれど」

「むむむ」

 

 朝の低血圧がまだまだ改善されてない私は、通学路の長い長い道のりを、頻繁に彼女の助けを受けてなんとか通っている。

 そど子に怪しまれない程度の頻度で曲がり角のあたりまではおぶってくれて、そのあともいい塩梅で手を引いてくれるから、今までよりずっと遅刻の回数は減った。

 彼女に背負われて、適度に揺れているとだんだん体の調子も戻ってくるし、必然密着するので体温も高くなってくる。

 その後の朝の調子が前よりずっと良くなったので、本当に彼女のおせっかいはありがたいものなのだ。

 

 

 

「こういう風に気遣われると、天翔さんがまるでお姉さんに見えてくるな」

「……え?」

「たまに思うんだ、天翔さんはかなり大人びてるなって。 沙織も不思議がってたぞ、どうしてあんなに大人っぽいのかって」

「…………さぁ、なんでだろう」

「今、はぐらかされた気がするぞ」

「違うさ、露骨に話題を逸らしただけ」

「より酷いじゃないか」

 

 軽くあしらわれてしまって、思わず軽く睨むけれど相変わらずその幼い顔に余裕の笑いを浮かべているからなんだか気が抜けてしまった。

 こうして軽くあしらわれることは珍しくない。

 そしてそんな会話をすることを楽しいと感じている自分もいる。

 

(ん? つまり私は天翔さんといれば静かでも話しててもどっちもいいということなんだろうか)

 

 益体のないことを考えながら、残っていたココアを全て飲み干した。

 やや冷え始めていたそれは中途半端なぬるさで喉の中を撫でながら胃の中へと流れていく。

 

「ココアご馳走様。 でも、いつぞや飲んだ天翔さんのコーヒーの方が美味しかった」

「嬉しいことを言うね。 また遊びに来るといい、みほも喜ぶぞ」

「天翔さんは?」

「もちろん歓迎だよ」

 

 にこりと笑う彼女を見て、不意に頬が熱を持った。

 

 

 

「あ〜わかる、えみりんってなんだかお姉さんっぽいんだよね」

 

 その次の日のこと。

 いつものメンバーでⅣ号戦車に乗り込んで戦車を走らせていると、なんとなく私が振った話題に沙織が食いついたところだった。

 

「あ〜、なんだかわかりますね。 いつも一歩引いた位置にいて、でも困ったことがあると助けてくれるので、とても頼りになります」

「相談すればいつも真摯に受け答えしてくれます! 装填手としての心得もいくつも教えていただきました!」

「昔からエミちゃん世話焼きだからなあ……」

「いやぁ、やっぱみぽりんがベタベタに惚れちゃうだけはある大人の余裕を感じちゃうよねー」

「ほ、惚れって……そんな。 エミちゃんは友達だよ沙織さんっ」

 

 やはりと言うか、他のメンバーも天翔さんには好意的だった。

 西住さんと言う接点があるからか他チームのメンバーでありながら天翔さんは私たちとの交流が深い。

 それに力仕事に関して多大なる貢献をしてくれるので、その他の作業が苦手な私としては大変ありがたいことだ。

 

「私は特に世話になってるからな、今度何かお礼でもしようと思ってる、お菓子とか」

「お菓子は麻子が喜ぶものじゃない……」

「? 天翔さんはお菓子嫌いか?」

「積極的には食べないかな。 お茶に誘えば一緒に食べてくれるけど、食事メニューとかすごく気を使ってるから、自分から買うことは滅多にないよ」

「あー、やっぱえみりんそう言うの気にするんだ。 お肌ツヤッツヤだもんね。 大事なのは生活習慣かー」

 

 お菓子が嫌いな人類なんて考えたこともなかったけど、確かに天翔さんは食事にはかなり気を使っていた覚えがある。

 お菓子を送ればいらない気苦労をさせるかもしれない。 そうなると、何がいいだろうか……

 

「コーヒー豆はいかがですか! 天翔殿はコーヒーが大好きですからきっと喜びますよ!」

「日頃の感謝の気持ちなら、やはりお花がいいですよ」

「ん〜、えみりんの喜びそうなものかー。 みぽりん、何か思い当たるものない?」

「うーーん、エミちゃんの喜ぶもの……そもそも物欲らしいものを一度も見たことがないから……」

「仙人か何かか……???」

 

 花の女子高生としてあまりにも枯れすぎているチームメイトの話を聞いててなんだか頭がくらくらしてきた。

 軽い気持ちで日頃のお礼をしようとしてまさかここまで悩むことになるとは。

 いっそのこと、お昼にお茶でも買ってあげようか。

 いやいやそれは流石に……

 

「ん、まてよ……?」

 

 

 

「これは?」

「戦車道のこと以外にも、朝の通学路でお世話になってるから、そのお礼をしたかった」

 

 紙袋に包んだそれを手渡すと、しばらくきょとんとした後に、彼女は柔らかく微笑んだ。

 

「そんな大袈裟なことはしてないけれど……ありがとう、早速開けてみてもいいかな」

「もちろんだ」

 

 そう言うと彼女は紙袋の中をそっと覗き込んだ。

 プレゼントを目の前で見られるのは、少し、気恥ずかしい。

 そう考えているうちに中身を取り出したらしく、手にしたそれをマジマジと見つめて、天翔さんはキョトンと首を傾げた。

 

「これは?」

「アロマキャンドルだ、使えばいい香りがする」

 

 小さなガラスに詰まった乳白色のキャンドルを見て、彼女は物珍しそうにしげしげそれを眺めた。

 

「アロマキャンドルは、その小さな炎と香りにリラックス効果がある。 天翔さんにピッタリだ」

「えっと、どうしてかな?」

「雨の日に使うといい」

 

 そう言うと、彼女の方がぴくりと震えた。

 珍しい、反応だった。

 踏み込むのは、やめておく

 

「なんで天翔さんが雨が嫌いかなんて、態々聞きはしない。 ただ、雨で気分が沈んだ時は、それを使って気を楽にするといい、今は特に、梅雨だから」

「……そっか。 うん、ありがとう冷泉さん。 とても、とても嬉しいよ」

 

 雨が嫌いと聞いて、彼女がなぜ雨が嫌いかなんて、理由を考えずともすぐ答えは思いつく。

 それが、安直に踏み込んでいい領域ではないことも。

 

 だから、せめて少しでも楽になれる助けをしたい。

 普段ずっと助けられてるんだから、これくらいは、いいだろう。

 

「うん、早速今夜使うよ」

「あぁ、天翔さん。 頑張れ」

 

 そう言って、今日は別れた。

 

 彼女は、本当に嬉しそうに、ありがとうと言ってくれた。

 

 その事実を反芻して、笑顔を思い出して、その度に

 

 胸がキュッとして、でもそれが、なんだかくせになりそうだった。

 

 

 ***

 

 

「えっ!? なにえみりんその怪我どうしたの!?」

「やあ昨日料理の最中包丁取り落としちゃって」

「包丁取り落としてなんで顔を切るの!?!?」




麻子さん、いいかい、よく聞いてくれ

この包みの中には、私の証言を収めたテープや証拠の品が入っている

この大洗学園艦が、廃校の標的になった訳を知る限り喋った

もし私が死んだら、これをSNSに拡散してくれ。

SNSでバズっていろんなところに取り上げられれば、この学園艦は救われると思う

私が直接首謀者たちを説得しようかとも思ったんだがなんていうか……

そうするのは流石に私の力不足だし…

でもここで争うのをやめると、自分が自分でなくなるような……

文部省が憎いとか、大人の都合は嫌だとかいうんじゃないんだ

上手く言えないけど、でも、みんなを助けるために最後まで戦ってみたくなったんだ

私先走ってるかも、理由は自分でもよくわからない

麻子さん、私はたぶん死ぬだろうが

そのことで、文科省や役人の恨んだりしないでくれ

彼らだって、私と同じで自分がやるべき職務を果たしてるだけなんだ

無理かもしれないけど、他人を恨んだり自分の事を責めたりしないでくれ

これは私の最後の頼みだ

もし、病気が完治してここに帰ってこれたら必ず真っ先に麻子さんのところに行く

会いに来る、絶対だ

これでお別れだ、じゃあ、またね麻子さん

寝坊しちゃダメだよ。みほ達によろしくね!

次の次の回

  • 徐々に体の各機能が停止していくエミカス
  • 完全にノンカチュに征服されたエミカス
  • マリー!(バシィ
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