「まいったな、こいつは……」
「まいりましたね、これは……」
ざあざあざあと、大雨が降り注いでいた。
まさしく天と地をひっくり返した、というほかないような土砂降りを前にして、大木の下にわずかにできた安全地帯に、2人の少女が身を潜めていた。
かたや、綺麗な金の髪を独特の髪型にまとめ、赤い聖グロのパンツァージャケットを纏い、もう1人は艶やかな黒い髪を後ろでシンプルに結った非常に小柄な、幼女と言っても過言ではない黒森峰生徒だ。
2人がこの場所に雨宿りしているのは示し合わせたからでもなく単なる偶然だ。
練習試合の会場となる場所の視察係としての任を与えられた2人は、突如として降り出した大雨に慌てて雨宿りできる場所を探した結果、偶然にもばったり行き合ってしまった。
あまりにもできすぎた偶然になんとなく気まずい空気になった2人は、とりあえず携帯で迎えを頼んだ後に、なんとはなしに並んで立ち、黒い雲の立ち込める空を眺めていた。
「まったく……ただの現地調査の予定がこんなことになるなんて、あなた、疫病神がついてるのではなくて?」
「失礼なやつだな。 それをいうなら例のあの人に付き纏われる原因作った君の方が疫病神そのものだろう」
「それは散々謝ったでしょう……」
ただただ待つのも暇なもので、どちらともなく話を切り出すと、思いの外雑談は弾んだ。
もともとひょんなことがきっかけで、黒森峰と聖グロの両方を巻き込む『ちょっとした』騒動の中心となってしまった2人は、顔を合わせればついつい憎まれ口を叩き合ってしまう。
というよりは聖グロの方が深く根に持っていて、それを黒森峰の方があっさりと流すものだからますます加熱してしまう、というよくない循環に陥っていた。
そのまましばし言い争いを続けていたが、不意に黒森峰の方がクチュンと小さくくしゃみをした。
よく見てみれば、その肩は小さく震え、顔色も白く染まっている。
それを見て聖グロの方も、随分と肌寒いことに気がついた。
季節は今は12月半ば、少し日が暮れれば寒気はあっという間に大地を覆い、雨が降ろうものなら肌が泡立つほどの寒さが身を包む。
厚手のジャケットとグローブで守ってはいるものの、露出した首や顔は随分と冷たくなっていた。
(このままじゃ体調を崩しそうね……)
口喧嘩も取りやめて、ゴシゴシと腕を擦る。
迎えが来るまでは後10分はかかるだろう。
それまでずっとこの寒さに苛まれるかと思うと少し辟易とする。
しかし暖を取れるようなものなどあるわけもなく、諦観の念を抱くと同時に真っ白いため息を吐いた。
しかし、ふと、鼻をくすぐる香ばしい香り。
ちらりと目を向けてみると、黒森峰の方が何やら魔法瓶の中から白い湯気の立つ飲み物をカップに注いでいた。
「……あなた、それはまさか」
「ん? 珈琲だよ。 冷えてきたから暖まろうと思ってさ。 飲むか?」
差し出されたカップに、聖グロの方は思わず呻いた。
聖グロの生徒は、珈琲を飲まない。
冠名に紅茶の名をつける程度には徹底した紅茶至上主義が蔓延しており、その影響を強く受けた少女もまた、コーヒーに対して弱くない忌諱感を抱いた。
「だ、だれが、そんなもの……」
だが、しかし、どうだろう。
香ばしい香りと、温かそうに湯気をたたせるこの
「飲まないのか? ま、好きにするといいさ」
迷っているうちに黒森峰のは珈琲に口をつけてしまった。
おもわずあっと声が漏れると、チラリとこちらを見たのちにカップを差し出してくる。
「ほら、無理するな」
「……」
渋々、渋々ながらそれを受け取る。
両手で包み込んだカップはほんのり暖かくて、悴みかけた指先が少しずつほぐれていく。
(これは、仕方がなく、仕方がなく、なんです……)
聖グロ生徒として口をつけるべきではない泥水。
しかし、その暖かさと香りの誘惑は、争い難く……
結局その日、『ダージリン』は『天翔エミ』の珈琲に口をつけることとなった。
「それ以来ダージリンは何かにつけてはエミさんの珈琲を皮肉まじりに褒めては負けっぱなしなのが悔しくて彼女をぎゃふんと言わせられるような紅茶を淹れる練習をはじめたの。 そんな思いが
「アッサム!!!」バシィ
本当になんでもない小話
次の次の回
-
徐々に体の各機能が停止していくエミカス
-
完全にノンカチュに征服されたエミカス
-
マリー!(バシィ