師匠が怪我から冒険者を引退したため、弟子を他の仲間に任せるが弟子は師匠のことが大好きなようです

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師匠と弟子がずっと一緒になる話し

 右足に力が入らない。もう走ることはできないだろうというのは薄々分かっていたが、改めて確認すると心に重いものがある。

 

「だから、もうお前に仕事を教えることは出来ない」

 

 彼に紹介状を渡す。

 

「私の仕事仲間だ。今後はこいつに教えてもらえ」

「……でも」

 

 彼の母は、私に生き方を教えてくれた。この街の非市民は市民と違って家族や公務員が助けてくれることは少ない。そうなると、こういう仕事での繋がりを重視する流れが出来上がった。

 

「そんなに悲しそうな顔をするな。ここで生きてれば良くあることさ」

 

 そう、良くあることだ。私はたまたま冒険者として生きてて怪我しただけで、少し運が悪いと死ぬことも珍しくない。

 

「生きるだけならどうとでもなる。……私は無理だったが土地を買えば市民になれる。警察も味方になる。行政も福祉も話を聞いてくれる。……お前は上手くやれよ?」

 

 彼は私の足を見ながらゆっくりと話す。

 

「……これからどうするつもりですか?」

「どうする、か……。冒険者は無理だが、一応蓄えはある。私でもできる仕事を見つけて何とか細々と生きていくよ」

「仕事、あるんですか?」

 

 無い。いや、あるかもしれないが私には繋がりがないため、一人で後ろ楯もなく仕事をすることになる。せめて読み書きや複雑な計算が出きれば、冒険者のサポートとしての仕事はあったがそんなことはできない。

 

「幾らでもあるさ。私も女だ。体を売るなりして……」

 

 一人で売って金を得る。危険だし病気や踏み倒し、リンチの可能性もあるがそれでも生きては行ける。

 

「なら……俺が買います」

「は?何を……」

「金ならそれなりにあります」

「有るかもしれないが、親の残した金だろう?流石に私も恩人の残した物を……」

 

「籤で当たったんです。親の残したお金はまだ手を着けてません。師匠のお手伝いでもらった金もほとんど残っています」

 

 彼が手を服に入れると、金貨が数枚出てきた。

 

「これだけの金があればもっと良い女を選べるし、それを貯蓄に……」

「買います」

 

 ……まあ餞別代わりと考えよう。それに早めに女を知っておくのも良いだろう。

 

「わかった。……男にしてやる、金はいらん」

 

 XXXX

 

 

「おめでとう、これで男だな。……ほら、もっと動いて良いんだぞ」

「気持ちよすぎて……動けない、です」

「……可愛いこと言うなよ。ほら、ゆっくり息を吸って……」

 

 

 XXXX

 

 

 アイツを紹介して、少したったある日。

 何の気なしに街中を歩きながら昔の伝を使って仕事を探していると、彼を見つけた。

 彼は今も元気なようで、何人かの仲間?を連れながら歩いていた。

 

「あっ、師匠ー」

 

 見つかり、手を振られる。

 

「……よう。調子はどうだ?」

「今のところ上手くやってます」

「そうか。そっちの子達は仲間か?」

「はい!一緒に紹介してもらった所で仲良くなったんです」

 

 男3女3……指導役を合わせて7人か。冒険者でパーティーは信頼できる間柄が望ましい。よく男女が混ざると痴情のもつれが有るからやめた方がいいとは言われるが、引退後に所帯持ったりすることもある。

 

「頑張れよ」

 

 もっと上手いことを言いたかったが、一言だけ残してそこから離れた。

 もうあまり関わらない方が良いだろう。

 

 

 

 と、思っていたら彼は私の宿に来ていた。

 

「変えてなかったんですね」

「とりあえずな。仕事に合わせて考えようと思っていたが……今日はどうした?」

 

 というと彼は笑顔を作り

 

「買いに来ました!」

「……何を」

「そこは誰を?ですかね。まあ、師匠を」

「金が有るならプロに頼んだ方が良いし、そうでないなら一緒にいた仲間の子でも口説けばいいだろう」

「師匠が欲しいんです」

「……はぁ、まぁいいか。冷静に考えたらできたばかりの仲間と恋愛関係になるのも不味いしな」

 

 最近仕事が見つかっていなくて少し苛立ちがあったため、解消になるかという考えもあり受け入れる。

 

「今からするぞ」

「今からですか」

「不満か?なら帰れ」

「いえ、むしろ喜んで」

 

 

 XXXX

 

「何でそんなに嗅ぎたがる……、臭いだろ」

「いえ、むしろ興奮します。というか現役冒険者に比べたら全然薄い……」

「なら足舐めてみろ。…………何か良いなこれ。ほら、頭を足で撫でてやるよ。……何で大きくしている」

「直接ここ、踏んでくれても……」

「馬鹿か」

 

 

 XXXX

 

 

 仕事が見つかった。普段使っていた雑貨屋の店員として働くことになった。

 元冒険者のお祖父さんが始めた店らしい。今の店長は生まれつき市民だが、特に嫌味とか無い人だ。これからは色々覚えることが増えるだろう。だが、雇ってくれたからには力の限り頑張るつもりだ。

 

「というときに来るか」

「師匠に合いに行くのに理由は必要で?あと、お土産です」

「……酒か」

「良いやつなんですよー、仕事で貰ったんです」

「私に酒の良し悪し何てわからん。……まあ、上がっていけ」

「わーい」

 

 上がらせると、普通に住み込みしていた頃と変わらないで過ごし始めた。私は適当に残り物を取り出して並べる。

 

「来るのを言えば準備くらいできたが、今じゃこんなのしかないぞ」

「構わないです。……お酒飲みましょうよ」

 

 杯に酒を注いで並べる。1つを取って飲むと、かなり強い。が、甘さと爽やかさがあるからこのままでもガブガブ飲めてしまう。

 

「確かにうまいな。……金を出せばやはり旨いものを食えるんだな。まあ、それが難しいんだが。それにしても一度に飲むのは勿体無い……」

 

「もっと遠慮なく飲んでも良いですよ。また貰ってきますから」

「そ、そうか?なら遠慮なく……」

 

 暫く近況を話しながら飲んでいると、飲みすぎていた。普段よりどれくらい多く飲んだだろうか。酒が回り体が暑い。

 

「師匠ー、今日も買いたいんですがー」

「ん?んー……良いぞ。金もいらん」

 

 気分が良い。それにお酒も貰ったし、今日くらいは……

 

 

 XXXX

 

 

「師匠って普段はどうしてるんですか?」

「んー普段って?」

「一人でするときですよ」

「あー、こう、外側をな」

「……何か無防備な師匠を騙してる感じがすごい興奮する。……そういえばじっくり見るのは初めてだな」

「お前は上手くやれよー?私みたいに成らずになー。市民になって、勉強して、商売して……」

 

 XXXX

 

 仕事を初めて少しずつ物を覚えていく。

 ……店長代理から最低限覚えておけと言われた、読み書き計算程度では困ることも多かったが何とか必要な業務はできるようになった。とは言っても基本は大した仕事はしていないのだが、それでもきちんと自分の仕事をしているというのは安心感を得られる。

 元冒険者のお爺さんは昔一発当てて商売を始めたらしい。苦労をしたから冒険者のへの援助を以前からしており、働き口を紹介したりしていたらしい。私をよく気にかけてくれる。

 

「師匠ー今日はお客としてきましたー」

「……今は仕事中だから」

「他のお客さんいないですし別に良いですよ。師匠さん」

 

 店長代理は興味津々で私に近づく。何か居心地が悪くなってきた。

 

「何か色々おいてるんですね」

「お店の始まりがおじいちゃんだからねー。当時冒険者やってたんだけど、その時にいろいろコネを作ったり名産を見たりしたのを活かしたんだって」

「何かパーティーメンバーにおすすめのお土産って有りますか?」

「このアクセサリは如何ー?綺麗だけど綺麗なだけで素材は大したことないから安いですよー」

 

 引退する冒険者の理想系のひとつだ。土地を買って農家、稼いだ金を元手に商売、生きていけるだけの金を稼いで遊んで暮らす、ここら辺が王道だろう。

 

「……お前も引退後の事は考えておけ」

「師匠は心配性ですね。冒険者はだいたい引退もできずに死ぬのに」

「うーん冒険者さんは色々大変そうですねー、ですけど最近は開拓で土地がまた増えるじゃないですか。きっと安くなりますし検討してみては?」

「市民になっても仕事が無いですし、冒険者市民だとちょっと」

 

「外地では珍しいことじゃ無いですよ。それによく中央の土地に住む人は、私たち外地や冒険者市民を見下しますけど、私達外地があいつらの物資を……ってダメですねー。こういうこと考えちゃ」

 

 市民にも色々あるようだ。

 

「ねえ、師匠また今日も夜そっちに行っていいですか?」

「え、いやここでは……」

「二人とも仲良いんですねー、そうだこのボードゲーム良かったら持っていって下さいよ。将棋とか言うらしいですが、売れないんですヨネー」

「へえ、どう遊ぶんですか?」

 

 私はお客さんが来るまで短いような長いような時間を過ごし続けた。

 

 XXXX

 

「どうやったら終わるんですかね、このゲーム」

「まあこうやってゆっくり過ごすのも良いじゃないか」

「うーん……ん?あ、金を王の目の前に出せば……あ、今度こそ終わり?」

「金取っても桂馬が、後ろは飛車が……いや角で金取れるからまだだな」

「えー、終わらない……」

 

 XXXX

 

「いやー、最近凄い冒険者さんがいるらしくて開拓が早まるらしいですね。お陰で物資が高くたくさん売れます!」

 

 と店長代理。開拓に使うようなものを置いてないと思うが……

 

「何がどう使えるかはプレゼン次第で幾らでも変えられるんですよ!」

 

「はぁ……」

 

 椅子や机はまだ分かるが、薄い色のついたインクに水が無くても育つ花なんて何に使うんだろう。

 

「師匠ー来ましたよー」

「弟子さんいらっしゃいませー、喜ばしいことに本日は全体的に品薄です!いやー冒険者さまさまです!」

「どう言うことですか?」

 

 流石に理解が追い付いていないようだ。

 

「冒険者のお陰で開拓需用アゲアゲなんですよー。今凄い冒険者いるらしいですけど心当たりありませんー?」

「……私がいた頃はそんなに凄い人は心当たりがないですね」

「俺もです!」

 

 強い冒険者というのは確かにいるが、開拓計画を進めるほどの集団や個人はいなかったはずだ。それに例え居たとしたら、私達が知らないはずかない。

 

「はぁー、期待の新人さんなのかもしれないですね」

「そうだ、師匠。今日夜行きますね」

「最近多くないか?」

「近々しばらく会えなくなるかもなので、今のうちに会っときたいんですよ」

 

 会えなくなりそうか。違う町へ行くのか何なのかは解らないが少し寂しく……いや何を考えてるんだ私は。

 

「あらーそれは寂しくなりますね。いつ頃帰ってくるんですか?」

「3年はかかるらしいです。まだ本決まりでは無いですが」

「そうなんですかー。そうだ、品物も無いですし今日はもう休みにしちゃいましょうかねー。師匠さん、弟子さんとしっかりお別れ前に話してください」

 

「いやそんな特別扱いしなくても……」

「遠慮しないでください、3日後品物が届くのでそれまでお休みにします。あ、給料はここ最近で2日分は働いたので……まあ、丸々とはいきませんが多目に出しときますので」

「……そこまで言うなら」

「それじゃあ師匠、行きましょう!」

「まあ待て、後片付けしてから」

 

 XXXX

 

「パーティーメンバーとは上手くやれてるか?」

「はい。仲良くやってますよ」

「変な仕事じゃないよな、旨い仕事は大抵裏がある。そのせいで死んだりしたやつを何人も知って……」

 

「信頼できますよ、参加者も多いですし依頼者が……ってダメでした詳しいこと話しちゃ」

「なんか余計心配になったぞ」

「良いじゃないですか。それより、せっかく時間あるんですしまたしましょうよ」

「まだまだ話をしてからでも良いだろ」

 

 彼の指が触れると、冷たくなっていた。これは緊張や恐怖の類いの状態だ。

 

「何があった?」

 

「……ちゃんと説明は出来ませんが、今度する仕事は冒険者にとって普通のことです。ただ規模が大きいし、何が起こるか分からない。それが怖くて」

 

「怖いなら辞めれば良い。生きるために成らざるをえなかった冒険者に与えられた数少ない選択肢だ」

 

「仕事が怖いんじゃありません」

 

「じゃあ何が怖いんだ」

 

「……師匠は俺に色んなことを教えてくれました。師匠がいないところに行くのがこわいんです。師匠と一緒じゃない、師匠に会えないって考えると、とても寂しくて怖くなるんです」

 

「……そうか」

 

 私は何かを間違えてしまっていたらしい。はじめての弟子なせいで……。そういえば似たことを言っていたヤツが昔いたな。

 

「やっぱりこの仕事受けないことに……」

 

「駄目だ」

 

 昔の仲間に似たことを話すヤツがいた。良いヤツだった。純粋というか田舎臭いというか、優しいし甘いヤツだった。

 他の仲間も似たようなヤツだった。だが、一人だけデキルヤツがいた。腕があるし頭も良い、それに何より仲間から信頼されていた。

 だからかパーティーメンバーも皆彼の言葉に従い、重要なことは彼に任せていた。

 リーダーはある日いなくなった。今も見つかってないことから恐らく何かに巻き込まれたんだろうが、仲間はリーダーを探し続けた。今まで貯めてきた金も時間も全て使い、そしてそんなにかからず皆居なくなった。

 馬鹿な話だ。

 

「なあ、それは病気だ。今のうちに治した方がいい。」

「病気って……」

「ちょうど良いのかもな……。今回の仕事受けると良い。私の所にも今日から来るな」

「そんなの嫌だ!」

 

 大きな声で叫ばれる。今までに聞いたことのない種類の声だ。

 

「私はお前の親から教えられたように、一人で生きていけるように教えなきゃいけないんだ」

「一緒に生きていけば良いじゃないですか!」

「何を言って……」

 

 顔を見ると、意地を張っているときの顔をしていた。私の言葉では納得しそうにないのが明らかだ。

 

「よし、なら1つ約束しよう。3年後、お前の仕事が終わった後なら幾らでもお前に付き会うよ」

 

 3年は長い、特に子供のうちの3年は私への執着を薄れさせて新たな関係を作るには十分だろう。……それにその頃までに私が死んでいる可能性もあるし。

 

「本当に仕事終わらせれば師匠と一緒に良いんですか?」

 

 苦し紛れな言葉だったが意外と食い付きが良い。私の直感が何か間違えたぞと言っているが取り合えずこの場を納めよう。

 

「ああ、幾らでも良いぞ。その代わり明日からは……」

「わかりました。じゃあ今日が最後と言うことで沢山しましょう!」

 

 がばりと抱きつかれる。

 

「あっ、おいちょっとま……切り換え早すぎるだろ!」

 

 

 xxxxx

 

 

「ということが有りまして……その……お店が忙しいときですが暫くの間休暇を……」

「いえいえ良いんですよおめでたいことですし。それにしても、いやーまさか開拓のエースがお弟子さんで2年で終わらせるとは」

 

 弟子が思ったより凄かった。

 話を聞いたところ、弟子のパーティーは最初は新人の割りにそこそこやる程度だったらしいが、全員天才と言って良い速さで成長してパーティー全員が各都市のエース相当の実力を持ったらしい。更に、開拓に参加する冒険者は基本的に雑にに回されたりするため、そんなにモチベーションが無いため作業効率は悪いらしいが何故かパーティー全員が高く凄まじい速さで開拓が終わったらしい。

 

 その結果仕事分に加えて特別な加算がされて……

 

「いやー、それにしてもこれでお二人とも市民ですねぇ、おめでたいですー」

 

 弟子が土地を私との夫婦名義で買ってきた。家付きだし土地の大きさも普通の市民の数倍はある。

 

 

「師匠!これからはずっと一緒ですよ!」

「……まあ、いっか不満がある訳じゃないし」

 

 これからゆっくり時間をかけて直していけば良い。

 

 


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