【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
ちゃうんや。ここまでアレな流れになるとは思っとらんかってん……()
ーまえおきー
このお話は『ダージリンファイルズ まほルート』の一幕です。
具体的なタイムテーブルで言うと
『渦巻く答え』前後で書かれている過去回想シーンの話になっています。
https://syosetu.org/novel/179404/89.html
読んでよくわからない方はまずまほルートを既読後にもう一度読んでみると良いかもしれません()
全国戦車道高校生大会、決勝戦。その前夜―――
北の強豪プラウダ高校。そのトップであるカチューシャは夜半が過ぎても悩み続けていた。
次の対戦相手―――常勝黒森峰女学園。
重厚な戦車群と精強な選手たち。それを支える最強と名高い西住流の申し子、西住まほ。
そして、それを支える屋台骨……
―――“虎の翼” 天翔エミ
装填速度3秒未満の速射砲を放つ固定砲台となったヤークトティーガーへの対策は未だできていない。火力で圧し負けないためのKV-2は熟練がまだ足りない。何とか決勝までやってきたものの、対策として考えられているのは作戦ともいえない作戦しかなかった。
どのルートかも絞り切れない西住まほの突撃に対して、広く展開した偵察による発見→即撤退から始まる包囲陣。相手が西住まほと天翔エミである以上、生半可な戦力では返り討ちに遭うことを想定し、自身とノンナを当てることが大前提となる。
そうしてぶつけ合ったうえで、残った僅かな戦力を使って敵フラッグの位置を調査して別動隊で襲撃、敵の首を刈り取る己を囮とした斬首戦術。
―――はっきり言って神頼み運頼みもいいところの戦術よね。
そう考えて頭を抱えるしかないカチューシャだが、これ以上の作戦が出せるわけでもなかった。
優勝旗を学園艦へと持ち帰る。そのために戦ってきて、そのために勝ち上がってきた。
“黒森峰だから”
“西住流だから”
“負けて当然だ” などと考える弱者のたわごとを蹴散らして勝ってみせると息巻いて
今この瞬間、改めて圧倒的な力の差を前に戦術を必死で組み立てている。
明日に備えて眠らないといけない、けれど目がさえて眠れなかった。
無理やりにでも寝付くために睡眠導入剤を飲もうと水差しを取ると中身が空だった。さっきまでの考えの間に飲み干していたらしい。仕方なくカチューシャは夜の廊下を歩いて手ごろな飲料水を失敬しようと向かう途中で、こちらへ向かってきていたノンナと鉢合わせしていた。
「眠れないのですか?」と言われて「そうよ」と答えることができないのはカチューシャがカチューシャである限り仕方のないこと。
「べつに……お水が無かったから取りに来ただけ」
ノンナにそう答えて持っていた水差しを洗いもののパーテーションに入れて、代わりに冷蔵庫に入っている飲料水のボトルを手に取るカチューシャに「少し待っていてください」とノンナ。
~♪ ~♪ ~♪
ゆったりと静かにメロディを口ずさみながら、小鍋を用意してコトコトとミルクを温め「今日は特別ですよ」とそのミルクの小鍋に小さじで2杯ほどの黄金を落としていく。トロトロとゆっくり落ちた黄金は、白い海に溶けて消えて、甘い香りだけを残すにとどまった。
ノンナから手渡されたホットミルクをゆっくり飲み乾して、促されるままにベッドに潜り込むと、さっきまで歌っていた歌を子守唄に、カチューシャはゆっくり眠りに沈んで行った。
********
運命の決勝戦。その現地にたどり着いた黒森峰もプラウダも、険しい顔を崩せないでいた。前日の夜も降り続いた雨により、決勝戦の場となるフィールドは水嵩の増した河川、山肌を流れる雨水、ところどころに生まれた水たまりなど路面状況、戦場の状況が最悪と言えるものだったのだ。
試合時間前に軽く戦場の状況を俯瞰で眺めたカチューシャが、ハッとした表情に変わる。そのまま急ぎ足でノンナを連れ立って作戦室へ向かい、地図とにらめっこを始めた。そのまましばらく考え事をしているような様子だったが、川のひとつを指でなぞって地図上をゆっくりと滑らせていく。
「―――勝てる」
ぽつりと、そう呟いた。感情の無いままだったその声は、ゆっくりと繰り返し繰り返し、徐々に大きな力のある声に変わっていく。頬は紅潮し、喜びに震える身体を抑えきれず子供のようにピョンピョンと跳ねていた
「勝てる!!この勝負勝てるわよノンナ!!この雨は、恵みの雨だったのよ!!」
カチューシャが各戦車の車長を集めて簡単に説明をする。
大雨の影響で川の水かさが増していること、土砂崩れの可能性があること。
その結果、足回りの鈍重な独戦車を使っている黒森峰は進軍ルートに制限を掛けずにはいられないと言うこと
「つまり昨日まで立てていた作戦の包囲陣形成のための人的要因がいくらか抑制できるわ。範囲を絞って西住まほの進軍ポイントにアタリを付けることができるんだから!」
声を上げるカチューシャの表情には高揚が隠しきれなかった。これまで万にひとつくらいの勝ち目だったものが、より具体的な勝ち筋として目の前に広がったのだから無理もない。
「加えて言えば戦闘時の西住まほの突撃に対してヤークトティーガーの追従もやや距離をあけながらの追従になると思うわ。でないと西住まほのティーガーが悪路に躓いた時に共倒れになる可能性があるでしょう?距離を開けてくれるなら―――あれよ!ケンコンイッテキの作戦が黒森峰の二大看板をまとめてボコボコにして見せるわ!!」
演説のようなカチューシャの説明が終わり、三々五々にそれぞれ散って戦車に戻っていく車長を尻目に、カチューシャは熱を持った息を吐いてクールダウンする。
―――これだけ有利を敷いてもまだ五分と五分。絶望的な戦力差は否めない
直接戦闘となれば互いの練度がモノをいう。プラウダは個の戦力を覆すために集団での『面』での戦闘を重視した。だが西住まほは「隊」としての集団戦闘力と同等に、「個」としての強さを併せ持つ。加えてそこに「虎の翼」の姿がある。
二人を同時に相手にするなど不可能。だからこそ―――“二重包囲”
コンビネーションを分断し、各個撃破―――すると見せかけて、互いが互いを囲魏救趙の状況に落とし込んでやれば戦局が膠着する。
西住まほが攻勢を強めたらヤークトティーガーを、ヤークトの砲撃が苛烈になるようなら西住まほの包囲を強めてやれば、互いが互いを救うために行動する比翼の鳥が互いの羽を狙う虫をついばみ歩みを止めざるを得なくなる。
「あとは偵察隊・襲撃隊がフラッグを見つけられるかどうかにかかってるわね」
最後の懸念事項はある。が、そんなものを言い出したらはじまらないとカチューシャは思考を切り替え、試合に臨むのだった―――。
結果として試合は『プラウダの勝利』として幕を閉じることになる。常勝黒森峰の看板は粉砕され、十連覇の夢も泡沫に消える。
********
天翔エミと西住まほが二重の包囲陣に捕らわれ、膠着状態となったという知らせは、ヤークトの通信手からもたらされた。同時にそれは『戦闘状態に入った以上、西住まほからの次の命令が出せる状況にない』ことを意味する。
これまで試合中、戦闘行動に入る前にある程度の指針をたてて行動し、常に的確な命令を下していた司令塔の消失は、少なくない動揺を残ったメンバーに与えていた。
「―――部隊を前進させましょう」
そう口にしたのは―――西住まほの妹、西住みほだった。
「お姉ちゃ―――西住隊長のティーガーとヤークトティーガーの包囲は二人の撃破が目的ではなく、包囲による遅滞戦術だと考えられます。だとすれば、攻撃と防御の最大の要を奪った相手が考えるのは―――」
「―――本陣への奇襲。ってワケね」
西住みほの言葉を繋いでそう返したのは逸見エリカ。ティーガーⅡでフラッグである西住みほの戦車の横に移動し、周囲を油断なく見まわしながらみほと声が届く距離まで近づく。
「大丈夫なの?隊長も先輩もいないのよ?」
エリカの言葉にみほは一瞬だけ息を呑むような仕草を見せて―――「大丈夫」と短く返してエリカに困ったような苦笑いのような、そんな微笑みで返した。
「皆さん。私の指示に従ってください!
―――エミさんがあの時言っていたことは、きっと今のような状況を想定していたからです!」
通信回線越しにみほの言葉を聞いた通信手に、戦車のメンバーに、過去の記憶がつい先日のようにフラッシュバックする。
「例えば攻勢と守勢の分隊を考えた場合、フラッグ車を護るための守備部隊への命令を、突撃したまほが担うのは間違ってる。かといって私にはそんな脳みそないし、そもそもまほの火力支援ダイレクトサポートで前線について行ってるんだから、後方の指揮なんか余計に無理無理。―――けれど、脳がもう一つあれば解決する。みほさんにはそっちを任せたい。加えて言うなら、彼女なら経験を積んでその先に活かせる」
天翔エミの先見の明を感じるとともに、『天翔エミが認めた人物』という評価が後押しとなる。西住みほの言葉はそういう意図をもってメンバーに浸透し、受け入れられた。本人が意図したわけではなかったが、黒森峰の残留部隊は西住みほを『天翔エミありき』で保証を得て一枚にまとまることができたと言えた。
―――無論、西住みほ自身に影を落とすことにならないはずもなかったのだが。
地図と実際の地形情報をリアルタイムで脳内更新しながらゆっくりと前進するみほ。途中途中で地図に補正を入れながら、最後にまほが交信した地点を割り出し、戦況を予測する。
「撃破報告はありませんから、まず間違いなく相手もこちらも互いに互いを撃破することができず戦況は膠着しているはずです。ですから相手の包囲を逆手に取りましょう」
地図に描かれた増水した川の直ぐ傍ら、そこに走る細い桟道を指でなぞりながらみほは自分の考えを通信に乗せる。
「ここに、細いけれど桟道があります。ここを抜ければ、プラウダの後背を抜けて、半円逆包囲に持ち込めるはずです」
とん、と地図の1点、プラウダに二人が包囲されている地点を指で叩いてそこに至る道筋を鉛筆で描き加えていく。同時に、それまでの情報から考える敵包囲陣の戦力を書き加える。
「多分、もともとティーガーとヤークトティーガーを相手に遅滞戦闘を行って、残存戦力で本陣を奇襲することが考えられていたはずです。だから奇襲部隊にはこちらを倒せる戦力を入れているはず……その場合、ロシア戦車主体のあちらの戦車のバランスなら、狭い桟道での砲撃戦は避けるはずです。滑落の危険がありますから」
「それはこちらも同じですけど」と付け加えて、可能な限り砲撃は避ける様に言い含めておくのは忘れず、桟道の手前までたどり着いた。
みほには自信があった。おりしも大会前の練習試合での一幕にて、同じような盤面での逆包囲を成功させたことがその自信に拍車をかけていた。
だが・・・
『駄目だみほ!そっちに行っちゃいけない!!戻れ!!』
みほにとって最も予想外で、最も致命的な場所からの否定の声に、みほから思考と言葉を一瞬の間奪っていた。
だがそれも一瞬、戦場の空気に絶句している暇もなく気を張り直したみほの耳に、最後尾を付いて来ていたパンターから通信が入る。
「後方西側の森の中からプラウダの車輛!見える範囲で数は4!T-34/76!」
声と同時に交戦音が通信を遮る。状況を把握して脳内のマップを更新するも、もう逃げる道は前方にしかないことにみほは気付いた。逆包囲における桟道の利用は、部隊を広げて一斉に戦う黒森峰の戦術とは正反対の部類に入る。そのため他の車長たちも連携を取りにくくなり、反撃がおぼついていないのだ。
一刻の猶予もなく、判断をしなければならない。このまま反転して、桟道を背に戦うか、或いは桟道を突破して半包囲の作戦を遂行するか―――。
『―――ごめんなさい、エミさん。敵の別動隊から攻撃を受けてます。罠だとしても、桟道以外の道はきっと伏兵がいます。
でもぎりぎりの幅しかない桟道なら伏兵を警戒せずに済みますから……』
みほが選んだのは後者だった。奇襲部隊の数が少ないことも判断の要因のひとつだった。みほが同じ立場ならばどうするか……?と考えた際、釣り野伏――散発的に攻撃して撤退、追撃を誘って伏兵が包囲する戦術 を、警戒せずにいられなかった。そして仮にそちらだとするならば、桟道の向こう側に置かれている伏兵はいないか、いたとしても想定より少ないはずだと推測を立てていた。
そうして、桟道を進んだ先で―――西住みほは自分の行動の結末を見届けることになるのだった……。
********
「エミーシャが外に飛び出したぁ!?」
戦闘中に唐突に届いた通信に、カチューシャは声を上げていた。ヤークトティーガーの装填手であり、攻撃の要であると言っても過言ではない要石がひとりでに戦車を離れて飛び出したというのだ。二重包囲陣というこの稀有な策略で西住まほ達を追い詰めている立場でなくともきっと驚いたに違いない。
カチューシャは目を閉じてエミーシャ―――天翔エミの性格を考える。
単身で逃げ出す?そんなはずはない。
ヤークトを捨てて移動している? 何故―――?
可能性を模索するカチューシャのパズルのピースが、先ほどの別動隊からの報告とカッチリと噛み合った。
「エミーシャの跳んで行った方向は?!」
『え!?あ、はい!!―――』
突然の質問に驚きながらも戦車から飛び出す天翔エミを見ていた車長は通信手越しに方角を伝える。カチューシャはそれをマップ片手に聞き取り、ペンを走らせて地図に直線を―――
「――フラッグとその護衛隊!!桟道出口に向かいなさい!!
“そこにエミーシャがたどり着く前にフラッグを何としても撃破するのよ”!!」
上擦ってやや悲鳴に近い様なヒステリックな声になったカチューシャの言葉に通信の向こう側でヒィという小さな悲鳴が上がった。即座に通信を切ったカチューシャはノンナに通信を繋ぐ。
「ノンナ!!急いで西住まほを倒して!!そいつがそこにいる限り私たちは後ろに戻れない!!」
『――よくわかりませんが、了解しました』
ノンナの声に疑問が混じっているが、カチューシャの脳内ではそれどころではないのだった。
天翔エミが向かった先にはまず間違いなく『別動隊の攻撃から逃げたフラッグ車を含む黒森峰本隊』がいる。
天翔エミは、単独でそれを成し遂げるピースであり
―――逆に言うならば『天翔エミがフラッグ本隊と合流した瞬間、そちらに装填速度3秒未満でアハトアハトを撃ち続ける砲台が生まれてしまう』のだ。
カチューシャとノンナと、ニーナたちで必死に押さえつけていた化け物が解き放たれてしまうのである。主戦力のいない戦場で、暴虐が吹き荒れたとして、西住まほを倒せないままに桟道を抜けてきたそれらに挟まれれば―――無惨な敗北のヴィジョンは、カチューシャを混乱させるに十分すぎた。
カチューシャたちはエミを過大評価し、当のエミ本人は己の影響力を知らな過ぎた。この戦いの結末を彩ったのは、そんな互いの認識の差異に他ならなかった。
フラッグを守るために前を進んでいた戦車に攻撃が集中したことは当たり前の話で。
―――カチューシャの命令を忠実に実行しようとした彼女たちに非はなかった。
けれど水嵩の増した濁流に、衝撃でバランスを崩した戦車は難なく呑み込まれ―――
そして、それに気づいた人間も、とっさに動けた人物も―――ただ一人しかいなかった。
これはただそれだけの、不幸なお話である。
途中ノンナが口ずさんでた歌のイメージ(外部リンクなのでとりあえず直リンク外し)
ttps://www.youtube.com/watch?v=vXijmuku9hs&t=11s