【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
このお話は、本家様のガルパン二次短編『俺はみほエリを為せず敗北しました』のうち、
『 』 という短編のさらに二次という 三次創作 です。
もととなった作品は割とガチで精神的にキツいシロモノですので、その二次であるこちらも、結構精神的にキツいと(中の人は本気で)思っています。
覚悟を決めた方のみ、スクロールして進んでください()
↓もとになった作品を含む本家様の短編集(一切のネタ抜きで閲覧注意という前書きあり)
https://syosetu.org/novel/179328/
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「二度とこないでくれないかな?」
それは柔らかな声色で、だけど絶対的な拒絶の言葉。
殺意と悪意と敵意と害意とをドロドロに煮詰めて溶かして混ぜた様な、そんな聞いて居て気持ち悪くなるほどの重みを持った言葉。
「――――ぅ、ぇ――――」
私の隣で蒼い顔をした愛里寿が口元を抑えて蹲った。
無理もない。年相応よりは大人に寄っている愛娘ではあるが、ここまで濃縮された悪意の塊をぶつけられたことはないだろう。
後ろに控えていた三羽烏の一人が愛里寿を抱き上げてそそくさと立ち去るのを気配で確認して、目線はあくまで目の前の少女から外さず。
「――――――――――――ぃ、ぁ―――――」
かさかさの肌で、かすれた声で弱々しく呟いたのは、ベッドに横たわる幼子のような少女。それを自分の名前だと瞬時に認識した目の前の少女が、こちらを最早背景か何かだと放り出して幼子のほうへと向き直る。
私には聞こえないほどに幽かな声で、短く何事か会話していた。その度に少女はうんうんと大袈裟に相槌を返したり、ころころと顔色を変えていった。
「――――彼女が許したのなら、私にはどうすることもできない」
不承不承ながらといった様子で部屋を出ていく少女は、去り際に殺意と悪意を凝縮した視線で、まるで射殺すかのように見つめてくる。
―――でもそれでいい。それが私への罰なのだとするならば、安いものだ。
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“なにもいりません。この子さえいればそれでいいんです”
そう言って私のもとを去った彼女は、数年後にあっさりとこの世からも去った。
死因は、わかっていない―――。
残されたのは幼子がひとり。父親は―――――。
―――昔の話だ。
私は結局引き取ることを放棄して、幼子を遠く熊本の地で放逐した。かつての縁を利用して、西住のお膝元で、その子がせめて何も知らず育ってくれと祈った。
―――反吐が出る話である。
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少女はすくすくと成長して、他と明らかに違う異常な偏執を見せていた。
調査させたところ、同じ年のころの孤児院の連中と絡むことなく、ただただひたすらに身体を作ろうとしているらしい。肉体をイジメるような過酷なトレーニングを行い、他の連中が食べるものから余分な食材を避けて必要な栄養素だけを選んで摂取し、身体づくりを勤しんでいる。
理由は―――“戦車道”なのだそうだ。
―――血は争えない。そう言っているかのようだった。
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黒森峰女学園に入学した彼女は、黒森峰でレギュラーの座を獲得したそうだ。
その上、類まれな身体能力による装填速度で月刊戦車道に特集ページを掲載されるほどになった。その「血筋」による頭角を、めきめきと現している。
―――彼女が気付いた様子はない。ないのだ。
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愛里寿が生まれ、その素質を如何なく発揮し始めたころ、上の娘が邪魔になった。ただそれだけの話だ。
分家の養女にと声を上げる者もいた。が、それは余りにも酷な話ではないだろうか?―――長女に直接話をしたところ、「家を出る」とだけ告げられた。
―――昔の話だ。
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ボコられグマのボコ という愛くるしい??クマのぬいぐるみに愛里寿はよく懐き、良く愛でている。ボコミュージアムという場所があると教えると目を輝かせていた。
―――そこで彼女と愛里寿が出会ってしまった偶然を、何と呼べばよいのだろうか?
―――親の因果が子に報い。という言葉では、きっと足りないのだ。
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黒森峰の10連覇をかけた戦いで、彼女はフラッグ車から飛び出し、濁流に呑まれゆく乗員を救うことを選んだ。
そしてその結果10連覇を逃した黒森峰の上層部の怒りを、同級生の怨嗟を、西住流の恨みを受けて、そのまま死んでしまうのではないかと思われた。
―――あるいはここで手を差し伸べて島田で掬い上げることだってできたかもしれない。
けれど私は踏み出すことができなかった。
―――怖かったのだ。彼女を目の前にして、拒絶してしまうことが。
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彼女は継続高校に渡ったと、風の噂に聞いた。
調査を送り込んだが、防諜が激しく情報が集まらない。なので、いっそのこと顔を合わせてみることにした。
―――この時の判断を、今でも後悔している。
この時顔を合わせなければ、あの子と再会することもなく、お互い知ることもなく―――すべてはきっと、誰も知らぬまま終わっていたはずだったのだ。
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大人は疑う生き物だ。
或いはすべてが『狙いすましたものだったとしたら?』
彼女は『全てを知っていたうえで、愛娘の愛里寿と出会い、黒森峰を出て、放逐した長女と出会い、今を過ごしているのだとしたら?』
そう考えてしまうのは、私が汚い大人として汚れている証左に過ぎない。
そして私は、自分から全てを崩壊させた。
何も知らない彼女を怒鳴り付け、叩き、罵り―――そうして事実を突きつけてしまう。
―――時を戻すことなど誰にもできない。けれどこの時の彼女の絶望は、私には想像もつかない―――きっと。
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―――因果は巡る。
何もかも壊れる。
愛里寿は彼女の背景を何も知らない。あの子も愛里寿に罪がないことを知っている。だから何も言わない。
けれどあの子からすれば愛里寿も私も同様に、彼女を傷つけるだけの存在なのだ。拒絶もするし、排斥もする。
泣きそうな顔をする愛里寿だけでも、せめてと懇願する。
―――“自分のお腹を痛めた娘は、さぞ愛しいだろうさ”
その言葉が、忘れられない―――。
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“私は気にしてませんから”
彼女から語られたのはその一言だけだった。
どう接したらいいかわからないまま、何も知らない愛里寿にじゃれつかれている彼女を見ていると、自分への嫌悪感に我慢が出来なくなる。
なんと嫌な女なのか―――
―――そう思うことで贖罪を求めているのだと理解する賢しい自分が嫌になる。
―――許されることなど、ついぞあり得ないというのに。
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定期的な間隔で、少女の身体に繋がれた機材―――心電図の音が響く。
もはやハァハァと苦しそうに息をする元気も残っていないのか、枯れ枝の様な身体をベッドの上に投げ出して、干からびた様な姿で、少女は眠たげにも見える濁った瞳を私へと向ける。
―――どう応えて良いかわからない。どう話しかけたらいいかもわからない。
ぐるぐると渦を巻く心中を察してか知らずか、少女の唇が微かに動いた。
ぱくぱくと、死にかけた金魚のように、かさかさの唇を動かして、何かを伝えようとしている。
読唇術は、島田の斥候術の中でも初歩の方に属する技術であり、私も習得している。しっかりと唇の動きをつぶさに観察して、その動きから言葉を類推していく―――
“ウ”
“マ”
“レ”
“テ”
“キ”
“テ”
“ゴ”
“メ”
―――最後まで読み取ることなど、できなかった。
言葉に出すことすらももはやできないような死に体の少女を抱きしめて、その耳元に、囁くような声で告げる。
島田の家元として言ってはいけない言葉。
家長としての立場から言うことができない言葉。
あの日彼女に再び会いに行ったとき、本当はその時に言いたかった言葉。
「―――あなたのことを―――
―――愛してあげられなくて、ごめんなさい―――――!!!」
―――本当に反吐が出る人間だとも――――
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その後、数日して少女は息を引き取った。
葬儀はしめやかに行われ―――少女と仲の良かった一人が戦車道の舞台から姿を消した。
いつも綺麗に掃除が行き届いている墓石の前に、今日も華が手向けられている。
紫色をした、ヒヤシンスの花。
その花を見つけるたびに、『 』は心底嫌な顔をして、親兄弟の仇かのように、その花を投げ捨てる。
けれどその花は、毎日欠かされることなく墓前に供えられている。
――――ちゃうねん(震え)
まほルートを書いてたはずやねん。こんな闇うちの中にあらへんねん(哀願)