世界の崩壊とリセット   作:金剛時雨

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第17話 欲望と告白

EMPによってあたり一帯の電気がなくなってから数時間

 

俺と冴子はみんなと別れ

 

《奴ら》を誘導、囮に徹した

 

しかし逃亡途中の公園でトラブルがあり

 

今は近くの神社の建物の中で籠城している

 

完全な暗闇の中に1つのろうそくの光が俺達を照らしていた

 

まるで命が弱弱しく見えるようだ

 

まぁ実際は噛まれてないし

 

冴子があの時何故固まったのかは知っているつもりだ

 

 

「冴子」

 

冴子「?拓真君?」

 

「あんまり気遣えないのだが……………これを」

 

冴子「これは……………タオル?」

 

「血に濡れた冴子も悪くないが気持ち悪いだろうしそれで拭いてくれ」

 

冴子「ありがとう」

 

 

そうして受け取ったタオルで体を拭き始める

 

といっても主は腕や足で身体自体はそれほど濡れていない

 

顔に少しついているが些細なものだ

 

俺も冴子に便乗して血を拭き取る

 

もちろん紅桜も拭き取る

 

妖刀にウイルスの入った血など関係ない

 

普通に吸い取り刀身を紅く鋭くする

 

ただ本人曰く死人の血は不味いらしい

 

だいたい拭き終わり一息つくと

 

冴子が口を開いた

 

 

冴子「拓真君」

 

「何?」

 

冴子「さっき中州で私に好きな男がいたかどうか訊いてくれたな」

 

「ああ、悪かったか?」

 

冴子「いいのだ、私も女だ、男を好きになることもある」

 

「その様子だと想いを告げなかったか?」

 

冴子「ああ、告げる資格があるとは思えないのだ」

 

「冴子ならどんな奴でもいけただろ?」

 

冴子「……………人を殺めかけていてもかね?」

 

「・・・・・・」

 

 

ああ、あの時の事か

 

いや普通の人なら根に持ち続けるだろう

 

俺は気にしないけどな

 

全く嫌な男だな、俺は

 

冴子は4年前に夜道で男に襲われた

 

だが彼女は剣道道場の一人娘だ

 

剣道の腕は高く当時も木刀を持っていた

 

そこで彼女は不意を突き

 

男の肩胛骨と大腿骨を叩き割ってやった

 

警察には過剰防衛扱いで処理され

 

冴子を家に帰し

 

男は逮捕された()()()()()()()

 

だが冴子を縛ってるのはそんな安っぽい感情じゃない

 

明確な敵を得て、圧倒的な力で捻じ伏せる快感

 

不意を突き相手を倒し切った優越感だろう

 

そんなもの平和な日本では求めても手に入らないモノだろう

 

 

冴子「君は昔から私の道場に通っていたね?」

 

「ええ、毒島家の技は綺麗だったからな」

 

冴子「それは嬉しいな、だけど君はあの時の私を見ても通い続けていた」

 

「当時の自分にとってはその程度だったのさ」

 

冴子「君の正体を知らなければ怖がっていたかもしれないな」

 

「それが普通の感情だと思うが、当時の俺からしたら冴子には嫉妬を覚えていたんだ」

 

冴子「嫉妬?」

 

「俺の獲物を奪ったことに、さ」

 

冴子「獲物?あの男がか?」

 

「ああ、アレは当時紫藤代議士に繋がっていた薬品研究所の関係者だった」

 

冴子「あの時に君が私の近くにいたのはあの男をつけていたからだったのか」

 

「そう、だが実際は思わぬ掘り出し物を見つけてしまった」

 

冴子「??」

 

「お前だよ、冴子」

 

冴子「私?」

 

「明確な敵を得られたことによる快楽、そして圧倒的な力による敵への攻撃の楽しさ」

 

冴子「ッ!?それは……………」

 

「それが毒島冴子の本質、4年前から今まで肥大化した欲求」

 

冴子「何故そこまでわかるのだ?君はどこまで見てきた?」

 

「圧倒的な力、人を撃ち殺した瞬間の快楽、弱い人間を理不尽な暴力で殲滅する高揚感、死ぬかもしれない恐怖、それを含めた全てにを俺は欲した、()()()()()

 

冴子「あの日?」

 

「その前に冴子、アレがあの後どうなったかわかるか?」

 

冴子「……………いや、興味がなかったからな」

 

「アレは俺が殺した

 

冴子「え?」

 

「あの場にいた警察官は国連から潜入任務に就いていた者だ、書類上は逃亡中になっていたが俺が尋問して殺した」

 

冴子「そう………か」

 

「さて冴子、そこで質問だ」

 

冴子「拓真?」

 

「そんな狂った俺は…………………………嫌いか?」

 

冴子「それは本質を知った上で拓真君の事が嫌いかという事か?」

 

「そうだ」

 

 

本当はこんな事聞くのは野暮だ

 

だけど俺の女にするなら隠し事は無しだ

 

この事はいずれ他の人にも話す

 

いや知ってもらわないといけない

 

知らずに共に過ごすのはお互いに辛すぎる

 

 

冴子「拓真君、さっき私が話した好きな男の話覚えているな?」

 

「ああ」

 

冴子「その話には続きがあるんだよ」

 

「何?」

 

冴子「私は今日にいたるまで好きな男を変えてなどいない」

 

「それって……………」

 

冴子「理由はその男の剣の技が綺麗だった、そしてその男の眼が真っ直ぐだったからだ」

 

「真っ直ぐ?」

 

冴子「絶対的な意思を感じたんだ、君からね、拓真君」

 

「自覚はあんまりないけどね」

 

冴子「それでも私は無意識に君を目で追って気が付いたら好きになっていた」

 

「それは光栄な事だな」

 

冴子「だがあの事件の後、君に嫌われないか心配になった、この気持ちを……………欲望を受け入れてくれるのか?っとね」

 

「なるほど、じゃあ仕切り直そう」

 

冴子「仕切り直す?」

 

 

本当は落ち着いてから言いたかったのだけど仕方ない

 

俺は屋敷を出る前に着替えた元の学ランをしっかり着こなす

 

そして冴子を俺の正面に立たせて面と向かせる

 

ろうそくの僅かな光が俺達を照らす

 

少し見にくいがお互いの顔は見える

 

俺は深呼吸をする

 

これ初めて戦場に立った時より緊張してない?

 

 

「冴子」

 

冴子「……………はい」

 

「俺は欲張りな男だ、こんなご時世になった事を良い事に複数の女を俺の女にしようとしている」

 

冴子「・・・・・」

 

「それに何より俺は戦う事に、人を殺す事に楽しみを覚えた人間だ」

 

冴子「・・・・・」

 

「だから冴子の欲望は俺にとって些細なものだ、だから……………冴子」

 

冴子「はい」

 

「お前の欲望を俺と共有しろ、俺の女になれ!冴子」

 

冴子「ッ!?………はい、これからよろしくお願いするよ、()()

 

 

涙を流しながらOKの返事をした冴子に俺は思わず抱きしめてしまった

 

冴子も最初は驚いたがすぐに抱きしめ返してきた

 

だがこれ以上は何もしない

 

それどころじゃないしね

 

しばらくしてお互い離れる

 

離れるのはいいけど、さっきから冴子の顔が真っ赤なのだ

 

俺も顔が熱い気がする

 

 

「と、とにかく今日は寝よう、俺が見張りをするから冴子は寝ろ」

 

冴子「だがそれだと拓真が疲れないか?」

 

「一夜の徹夜ぐらいは大丈夫だ、まぁ向こうに着いたら仮眠ぐらいは欲しいかな」

 

冴子「それなら、交代ですればいいのでは?」

 

「いや、冴子には英気を養ってもらって朝の突破をしてもらいたい」

 

冴子「わかった、じゃあお願いするよ」

 

「ああ、ゆっくり休め」

 

 

その後すぐ冴子の寝息が聞こえてきた

 

そういえば”あの日”の事話してなかったな

 

まぁいいか、みんなと集まった時にでも話せばいいさ

 

それよりも俺、随分思い切ったなぁ

 

中々ヤバいセリフも言った気がする

 

 

紅桜『中々刺激的で良い告白だと思ったわよ』

 

「やめてくれ、結構恥ずかしかったんだぞ」

 

紅桜『良いじゃない、彼女のあの欲望に答えれるのは拓真ぐらいよ』

 

「それはわかっているし責任も取るさ」

 

紅桜『ならもう気にするのはやめなさい』

 

「ああ、そうだな」

 

 

その後紅桜話しながら時間を潰し

 

朝日が見え始め周りが明るくなった所で

 

冴子とゆっくり外に出る

 

周りには誰もいなかったが《奴ら》はいた

 

 

「うーん、葉音かな?そんな小さいな音でも引き寄せられるのか」

 

冴子「拓真」

 

「冴子?」

 

冴子「私はいつでもいけるよ」

 

「ああ全く、良い女になったな」

 

冴子「嫌かね?」

 

「それどころかさらに好きなったよ」

 

冴子「では行こうか、拓真」

 

「ああ、行こう!冴子」

 

 

そして俺達は走り出した

 

視界に入る全ての《奴ら》は獲物だ

 

首を切り落とし頭のない胴体は蹴とばす

 

上半身と下半身を分裂させたり

 

様々な切り方で《奴ら》を殺していく

 

ある程度減らすと階段を下りてモールを目指す

 

道に立ちはだかる《奴ら》は即切断する

 

そうして走っていくとモールの建物が見えてきた

 

屋上辺りには双眼鏡の反射光が見えた

 

おそらくコータだろう

 

駐車場まで来ると冴子が横に近づいてきた

 

 

冴子「拓真」

 

「ん?」

 

冴子「責任……………とってくれるね?」

 

「上等!」

 

 

そういえば冴子がかなり前に進んでいる時に”濡れるッ”とか聞こえたんだけど

 

何だったんだろう?

 

まぁいいか

 

とりあえず皆と合流だな

 

モールに入り皆に出迎えてもらったのだけど……………

 

・・・・・

 

孝、横でくっ付いてる女は誰だ?

 

 

 

 

 




次回『新たな仲間』

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