戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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更新が遅れてしまい申し訳ございません!構想を形にするのに手間取ってしまいました……。

粗い部分が多々あると思いますが、今回も何卒宜しくお願いします!






第四章/蘇る聖拳×束ねられた絆②

 

 

『逃がすかァァああああああああああああッッ!!!!』

 

 

「くうっ……!!」

 

 

蓮夜がアスカの目を欺き辛うじて逃走したその一方、フロッグイレイザーに追われる響は周囲への被害を避ける為に夕暮れ時の時間帯で人気の少ない公園に向かって全力疾走しながら、何とか追っ手をやり過ごせないか試みていた。

 

 

だが、響に対し異常な執念を燃やすフロッグイレイザーは周りへの被害もお構い無しに口から立て続けに水弾を乱射し続けていき、持ち前の鍛え抜かれた反射神経で紙一重で水弾を避けながら何とか公園に辿り着いた響の横合いに素早く回り込み、そのまま強烈な体当たりをかまし吹き飛ばしてしまう。

 

 

「ぐあうぅっ!」

 

 

『逃がさないと言った筈だぞっ……!お前だけは俺の手で始末するっ!絶対に逃がしはせんぞォおおおおッ!!』

 

 

「っ、ぐぅっ……!」

 

 

拳を握り締めて憎悪の雄叫びと共に迫るフロッグイレイザーを前に、響は痛みの走る身体を引きずり後退りしていく。

 

 

そしてフロッグイレイザーがそんな彼女に徐々に歩み寄りながら拳を広げ、響に容赦なく殴り掛かろうと右腕を振りかざした、その時……

 

 

「──立花さん?!」

 

 

「……えっ……?」

 

 

『ッ!なに……?』

 

 

不意に何処からか響き渡った驚愕の声。その声に釣られて響とフロッグイレイザーが思わず振り返ると、其処にはフロッグイレイザーに襲われる響の姿を見て驚きのあまり目を見張る少女……街中で偶然にも空に打ち上がるフロッグイレイザーの水弾を発見し、言葉にし難い謎の胸騒ぎに導かれるまま現場に駆け付けた未来の姿があったのだった。

 

 

「み、未来っ?!どうして此処にっ……?!」

 

 

『何だァ……お前ぇ……?』

 

 

「な、何これっ……?ノイズ、じゃない……怪物っ……?!」

 

 

今は他の装者達やS.O.N.Gと同様にイレイザーやノイズイーターに関する記憶を失ってしまっている為に、今この場で初めて目にしたノイズとは違う異形の存在であるフロッグイレイザーを見て戸惑いを浮かべる未来。

 

 

そんな彼女の思わぬ登場に響も焦りを露わにし、急ぎこの場から逃げるように呼び掛けようとするも、響が動こうとしたのを察知したフロッグイレイザーが咄嗟に足の裏で響を踏み付けて動きを封じてしまう。

 

 

「がぁああうっ!ぐっ、うぅっ……み、未来っ……!」

 

 

「た、立花さん!」

 

 

『……嗚呼、成る程……そういえば確か親友がいるとか何とか聞いていたっけか……』

 

 

踏み付けられても尚、未来を案じて視線を向ける響の必死さに一瞬疑問を抱いて冷静になるフロッグイレイザーだが、今回の改竄を行う前に協力者であるアスカから聞かされていた響の身近な人間の中に、彼女にとって唯一無二の親友がいた事を思い出し納得する。

 

 

『(確か以前に一度だけ装者になった事があったらしいが、その戦いでギアは砕かれたと言ってたハズ……だったらこの場で俺の脅威になる事はないだろうが……)』

 

 

そうだ、それも何もかも過去の話。自身の改竄が施された今、この立花響を慕う人間など黒月蓮夜を除いてこの物語の何処にも存在しない。

 

 

それは改竄前に響と親友であった筈の小日向未来も例外でなく、この物語の中では彼女との繋がりが絶たれ幼馴染であったという過去すらも書き換えたのだ。

 

 

故にこの二人は正真正銘、この改竄された世界では赤の他人という事になっている筈。なのに……

 

 

『お前はコイツと何も関係ない、寧ろ関わり合いたいと思わない存在の筈だろ?なのに、何故お前は此処にいる?』

 

 

「え……そ、れは……」

 

 

それだけが理解出来ず、もしや記憶を取り戻したのではないかと懐疑的な眼差しを向けるフロッグイレイザーにそう問われるも、未来は咄嗟に言葉を返せず言い淀んでしまう。

 

 

此処へ来た理由なんて、自分にだって分からない。

 

 

ただ何故か、勝手に足がこの場所に急いて、此処に来なければならないという謎の衝動に導かれただけ。

 

 

そうして辿り着いた先にあったのは、学院の皆から腫れ物のように扱われて避けられていた響が謎の怪人に襲われているという状況で、どうして自分がそう思い、この場所に来なければならないと思ったのか。

 

 

自分にもそれが分からず困惑を浮かべる未来を見て、彼女にもしっかり改竄が及んでると再確認して興味を失ったのか、フロッグイレイザーは未来から響へと視線を移して彼女の首を掴み、身体を持ち上げていく。

 

 

『まあどっちだっていい……俺にとって重要なのはコイツを始末する事だけ、関係ない奴はすっこんでろ……!』

 

 

「くぁあっ、うっ……!ああっ……!」

 

 

「立花さんっ!!……ぇ?」

 

 

ギギギギィッ!と、響の首を掴むフロッグイレイザーの手に力が込められていき、呼吸もまともに出来ない響の顔が苦痛で歪んでいく。

 

 

その苦しむ顔を見た瞬間、何故か自分の身体が自然とあの怪人に飛び掛かろうとして踏み出したのに驚き、未来は自身の足を見て怪訝な表情を浮かべてしまうが、その事に対し疑問を抱いている間にも響の顔色がフロッグイレイザーに首を締め上げられていく毎に青ざめていき、それを見て慌てて周囲を見回し、近くの修繕工事現場にあった鉄パイプを両手で掴みフロッグイレイザーに向けて身構えた。

 

 

「はっ……放してっ!立花さんから離れてっ!」

 

 

『……あ?』

 

 

「ッ!み、未来っ……?!」

 

 

未知の怪物を前に恐怖で鉄パイプの切っ先を震わせながらも、響を解放するように呼び掛ける未来の姿を見て、響は首を締め上げられながらも目を見開き、フロッグイレイザーも訝しげに眉を顰めながら未来の方へと徐に振り返っていく。

 

 

『お前、何のつもりだ……?今のお前にはコイツを助けたいという感情は一切湧かない筈だろ……?それが今のこの物語、俺が定めた絶対のルールだろうがァッ?!』

 

 

「……ッ……!」

 

 

ザザザァッ、ザザザザザァッ!と、フロッグイレイザーの怒号に呼応するかのように不意に激しいノイズが頭を駆け走り、脳内に流れ込んで来る自分のモノではない別の感情の波に凄まじい頭痛を覚え、未来は思わず頭を抑えてしまう。

 

 

──そうだ。私とあの娘は何も関係ない。赤の他人だ。

 

 

彼女は誰からも必要とされていない嫌われ者。だから此処で見捨ててしまっても、誰も私を責めたりなんてしない。

 

 

だってそれが、"この世界では当たり前の事で"──。

 

 

「──ち……がうっ……!」

 

 

『……あ……?』

 

 

頭を抑え、まるで自分の心を染め上げようとするその声を否定し苦しげな声を絞り出す未来の言葉に、フロッグイレイザーは険しげに顔を歪めて思わず聞き返してしまう。

 

 

その声音に宿るのは明らかな苛立ち。だがそれでも、未来は頭の痛みと恐怖が伝わって切っ先が震える鉄パイプをフロッグイレイザーに向けたまま、苦しげながらも言葉を続けてゆく。

 

 

「理由、なんて……私にだってわからないっ……貴方の言う通り、私と立花さんは何も関係ないっ……けど……でもだからって、それだけで危険な目に遭ってるクラスメイトを見捨てて良い筈がないっ!」

 

 

『……なっ……』

 

 

「み、未来っ……」

 

 

響との関係性をリセットされ、彼女が嘗て疎まれた過去を再現しその役割の一人に落とし込んだにも関わらず、未来はハッキリと、フロッグイレイザーの改竄を跳ね除けて響を助けようと身を張り、そう断言したのだ。

 

 

その姿に響だけでなくフロッグイレイザーも驚きを禁じ得ない中、未来はキッ!とフロッグイレイザーを見据えて鉄パイプを両手に臆する事なく対峙していく。

 

 

「立花さんを放してっ!これ以上彼女を傷付けたらっ……絶対に許さないっ!」

 

 

『(ッ!な、何だコイツっ……?どうして関係ない奴の為に此処まで……まさか、俺の改竄の影響が薄れてる?!)』

 

 

いや、そんな筈はない。イレイザーの改竄能力には装者すら抗えない。

 

 

現に他の装者達やS.O.N.G.の面々も今までの記憶を失い、響とのこれまでの関係性が一切なくなってる事は陰で確認済みだ。

 

 

故に自分の復讐を邪魔する者は誰もいないと踏んで動いたというのに、何故この女は自身の改竄を跳ね除けて未だに立花響を救おうとする?

 

 

元装者と言えど、他の装者達が改竄の影響を受けているのを見るに恐らくシンフォギア装者だったから、などという理由とも思えない。

 

 

ならばやはり元の記憶が僅かでも残っているのか。

 

 

或いはそれすらも関係ない、ありったけの悪意でこの物語を塗り潰した改竄を受けても尚、この少女の元々の善性の方が勝って……。

 

 

『──ふざけるな……そんな……ありえないっ……そんな事があってたまるかァああああッッ!!!』

 

 

「ッ?!う、わぁああああッ?!」

 

 

その可能性が脳を掠めた瞬間、フロッグイレイザーは突然激昴の雄叫びを上げながら響を乱雑に投げ飛ばした。

 

 

ガシャアアアアンッ!!と、けたたましい音を立てて公園の一角に設置されてるベンチを壊し、身体を思い切り叩き付けられた響はベンチの破片の上を転がって呻く。

 

 

「た、立花さんッ?!―バキィイッ!!―うぁあッ?!」

 

 

倒れ込む響を見て思わず駆け寄ろうとする未来だが、そうはさすまいとフロッグイレイザーが未来の持つ鉄パイプを掴んで強引に引き寄せ、未来の頬を手の甲で張り倒してしまう。

 

 

凄まじい力で殴り付けられて身体が浮き上がり、一瞬何が起きたのか理解が追い付かぬまま地面に倒れた痛みが身体を走り、次に遅れて頬に激痛を感じ思わず頬に触れると、今ので唇が切れたのか赤い血が指にこびり付いている。

 

 

驚きで目を見張り、思わず顔を上げれば、其処には赤い瞳を不気味に輝かせて自分を見下ろすフロッグイレイザーがまるで幽鬼のように目の前に佇んでいた。

 

 

「ひっ……」

 

 

『ありえないっ……ありえてたまるかそんな事っ!!この世界には悪意しかないっ!!誰かに手を差し伸べる優しさなんてっ、誰かを慈しむ思いやりなんてっ!!そんなモノがこの世界に存在するものかァァああああああああああああああああッッッ!!!!!』

 

 

「──ハァッ、ハァッ……ッ?!あれは……!」

 

 

今までの関係性を無くされ、赤の他人である上に関わり合いたいと思わぬ筈の響の為に身を張る未来の行動が何か忌諱に触れたのか、フロッグイレイザーは狂乱して頭を激しく掻き毟り、有り得ないと何度も何度も否定の言葉を繰り返す。

 

 

そのただならぬ様子に未来も思わず口を噤み怯えてしまう中、其処へ蓮夜がフロッグイレイザーの気配を追って傷付いた身体を引きずりながら公園の入り口前まで辿り着き、未来に徐々に迫るフロッグイレイザーを見てすぐさまクロスベルトを手に二人の下に向かって走り出すが、その間にもフロッグイレイザーが徐に右手の拳を振り翳し、

 

 

『赦さないっ、認めないっ、在ってたまるかっ!!俺の人生にお前みたいな人間なんかいなかったっ!!助けてくれる人間なんか誰もいなかったのにっ!!なのに何でっ……何であの女にばかりィィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!!』

 

 

「ッ!」

 

 

「やめろぉっ!!ぐっ、ぁっ……!!」

 

 

激昴の雄叫びと共に掲げた手を勢いよく振り下ろすフロッグイレイザーを見て、未来は思わず顔を逸らしてしまう。

 

 

それを見て蓮夜もクロスベルトを腰に巻き付け変身しようと試みるも、直前でアスカとの戦闘で焼かれた右足に激痛が走り動きが鈍って一瞬立ち止まってしまう中、フロッグイレイザーの拳が未来の顔を再び容赦なく打ち付けようとした、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

ミシィイイッ!!と骨が軋むような嫌な音と共に、未来の前に咄嗟に飛び出した響が身構えた左腕の側面でフロッグイレイザーの拳を受け止めたのであった。

 

 

「?!」

 

 

「ッ!た……立花さん?!」

 

 

『お前ぇええっ……!!』

 

 

「ぐっ、うぅっ!!」

 

 

全力でその場で踏ん張り、フロッグイレイザーの強靭な力で振るわれた拳を受け止めて苦痛に顔を歪める響。

 

 

その姿を目にした蓮夜と未来が驚きで目を見張り息を拒む中、響はフロッグイレイザーの拳を受け止めたまま徐に未来の方へと顔を向け、小さく微笑んだ。

 

 

「っ……心配してくれてありがとう、未来……でも、私は大丈夫だから。今の内に離れてて」

 

 

「立花さん……?で、でもっ……!」

 

 

「大丈夫。私は全然へいき、へっちゃらだから」

 

 

「っ……」

 

 

そう言って、未来を安心させるように明朗な笑顔を向けて笑う響。

 

 

その顔を見た瞬間、未来もズキッと謎の痛みが胸に飛来し複雑な顔を浮かべるが、同時に何故かその言葉に宿る力強さを信じたいという思いが湧き、一拍置いて迷う素振りを見せるも戸惑い気味に小さく頷き返し、急いでその場から離れていくが、走り去る未来の背中を見てフロッグイレイザーは忌々しげに響を睨み付けた。

 

 

『お前、何のつもりだっ……?!アイツはお前の事なんかなに一つ覚えてちゃいないっ!!お前に関わる記憶を何も持たない赤の他人っ、お前に冷たく当たった憎むべき相手の筈だろうがっ!!』

 

 

幾ら身を張って庇ってくれた人間とは言え、親友どころか親しい人間ですらなくなった未来を未だに助けようとする響の行動を理解出来ないと困惑を露わにするフロッグイレイザー。だが、

 

 

「──そんなの、関係ない」

 

 

『……何っ?』

 

 

顔を俯かせ、ポツリと静かにそう返した響の言葉に思わず訝しげに聞き返すと、響は僅かに顔を上げる。その顔には、先程までフロッグイレイザーに襲われて怯えていた色はなく、力強く、何処までもまっすぐな眼差しでフロッグイレイザーを睨み据えていた。

 

 

「私も、最初は皆に忘れられて、皆が違う誰かに変わってしまったと思って、ショックだった……何より、親しかった友達からあの時と同じように扱われるのが辛くて……私の知っている人は誰もいない、独りなんだって……孤独に震えてた……」

 

 

自分が知っている世界がイレイザーに改竄され、皆との繋がりを失い、過去の辛い思い出を彷彿とさせるこの世界に独り残され、シンフォギアも失くし、戦う術を持たない無力な自分は蓮夜に助けられるのをただ待つ事しか出来ないのかもしれないとも思った。でも……

 

 

「でも、そうじゃなかった……変わらないものもあったんだ……!今この世界の中で、私を助けようとしてくれた未来の優しさが変わらなかったように、私の存在が皆の中から消えてしまっても、皆は私の知っている皆と変わらない部分があった!貴方の力でも、皆の全てを変える事なんて出来なかったんだっ!」

 

 

『何、だとっ……!』

 

 

フロッグイレイザーの顔が苛立ちで険しく歪む。だが響は臆する事なく、フロッグイレイザーの不気味に輝く赤い瞳を負けじと睨み返した。

 

 

「さっきの未来を見て、そう確信して、漸く分かった……私に出来る事、貴方を倒す事だけが戦いじゃないって……!だから決めた!皆が私を忘れてしまっても、シンフォギアがなくなっても……!私はこの手で自分に出来る戦いを……もう一度、皆と手を繋いで結び直す!未来とも、クリスちゃん達とも、師匠達とも!皆っ!」

 

 

『ッ……何がっ、何がもう一度だっ!そんな事が叶うものかっ!いや、例え上手く行ったとしても俺がまた書き換えるっ!お前なんぞに安寧など与えてたまるものかっ!』

 

 

「だとしても……!私は何度でも、この手で皆と手を繋いでみせるっ!何千回、何万回、皆の記憶から消されて、例え世界から見放されたとしてもっ!何度だって皆との繋がりを取り戻すっ!世界(アナタ)の悪意と戦い続けるっ!この胸に響く、歌がある限りっ……

 

 

 

 

私はっ、生きるのを諦めたりなんてしないッッ!!!!」

 

 

 

『ッ?!』

 

 

「……アイツは……」

 

 

世界を歪める絶対者を真っ向から見据え、あらゆる悪意と戦い続けると宣戦布告する響の言葉の力強さに気圧され、フロッグイレイザーは思わず後退りしてしまう。

 

 

そして、響のその姿に蓮夜も目を奪われて呆然となるも、次第にその表情が徐々に力強いものへと変わっていっていた。

 

 

『……ッ……!何が諦めない、だっ……今の俺に敵う力を持たない分際で、どの口でぇええッ!!』

 

 

「ッ!」

 

 

響の迫力に圧されて一瞬だけたじろぐも、所詮相手は戦う術を失った小娘一人。超人的な力を得た今の自分の敵ではないとその気迫を振り払い、再び殴り掛かろうと拳を振り翳すフロッグイレイザーを見て響も咄嗟に身構えるが、其処へ横合いから飛び掛かった蓮夜がフロッグイレイザーの横っ面に拳をめり込ませ、不意打ちで思いっ切り殴り飛ばしていったのだった。

 

 

『ぶごァああッ?!』

 

 

「っ?!れ、蓮夜さん?!」

 

 

真横にいきなり吹き飛んだフロッグイレイザーと、思わぬタイミングで現れた蓮夜を交互に見て二重の意味で驚く響。すると、フロッグイレイザーを殴り飛ばして響の目の前に着地し、背中を向ける蓮夜は徐に身を起こしながら振り返り、

 

 

「──すまない……俺はまた、お前に謝らないといけない……」

 

 

「……え?」

 

 

響と向き合い、そう言って何故か申し訳なさそうに頭を下げたのだ。そんな蓮夜からの突然の謝罪に響の方も呆気に取られてしまうが、蓮夜は頭を上げ、響の目を見つめ返しながら言葉を続けていく。

 

 

「俺はシンフォギアを失ったお前を……いや、それ以前から、イレイザーの改竄に抗う術を持たないお前達を守る対象としてしか見ていなかった……この異変は、元を辿れば俺がイレイザー達に敗れて奴らの跋扈を許したせいだ……だからこれ以上誰も巻き込めない、俺がやるしかないんだと思ってた……」

 

 

──今回の改竄に気付いた時、響の前では気丈に振る舞ってはいたが、本当は内心焦燥感に駆られてばかりだった。

 

 

記憶がないとは言え、自分の不甲斐なさが故にイレイザーの蛮行を赦し、響がそれに巻き込まれてしまった。

 

 

何もかも自分の責任……。やはりこんな自分に、無関係な彼女達を巻き添えにして共に戦うなど出来る筈がない。

 

 

大切な繋がりを失って苦しむ響に記憶を失ったばかりの頃の自分の姿を重ね、拍車を掛けた焦りに駆られてイレイザーの罠に嵌り、響を更に危険な目に遭わせ、無様を晒しながらも駆け付けた先でフロッグイレイザーに真っ向から立ち向かう彼女の姿を目にし、吃驚した。

 

 

「でも、違った……そうじゃなかった……シンフォギアの有無なんて関係ない……お前はイレイザーの悪意に晒されて、改竄に苛まれても、自分を見失わずに貫き通す強さを持っていた……特別な力がなくても、お前は何も変わらない……この世界を守るヒーローだった……」

 

 

「……蓮夜さん……」

 

 

「……お前も、お前の友人も、俺なんかが思っているよりずっと強い存在だった……そんなお前達を意図せず無力な存在だと決め付けてしまった浅はかさを、許して欲しい……すまなかった……」

 

 

そう言いながら再び頭を深く下げ、謝罪の言葉を口にする蓮夜。その姿を見て響も僅かに考える素振りを見せると、フルフルと首を横に振った。

 

 

「謝る必要なんてないです。だって、今の私が在るのは蓮夜さんのおかげでもあるんですから」

 

 

「……?いや、俺は何も──」

 

 

「約束、してくれました」

 

 

否定しようとする蓮夜の言葉を遮り、響は制服のスカートのポケットから取り出した一枚のカード……蓮夜が御守りとして響に渡していたブランクカードを見せていく。

 

 

「改竄された世界に残された私が折れ掛けて、駄目なのかもしれないと思った時に立ち直れたのも、此処まで希望を繋ぐ事が出来たのも、蓮夜さんが助けてくれたおかげだった……私がもう一度戦うと決心出来たのは、蓮夜さんと交わした約束が支えになってくれたからなんです」

 

 

「……お前……」

 

 

「だから、ありがとうございます。やっぱり蓮夜さんは、皆が言うようにヒーロー……仮面ライダーなんだって、改めて思いました!」

 

 

「…………」

 

 

カードを握る手を胸に当てて、まるで太陽のように明るい笑顔を浮かべる響の顔を見て蓮夜も一瞬呆気に取られてしまうが、直後に苦笑し、瞼を伏せて俯いた。

 

 

この少女の善性は間違いなく『本物』だ。何処までもまっすぐで強く、そして何処までも人を思いやる優しさに満ちている。

 

 

──ああ、彼女にはきっと敵わない。

 

 

そう思った自分の直感は恐らく間違っていないだろうと確信し、同時に何故か胸に飛来する穏やかな気持ちに釣られて微笑み、響と顔を見合わせる中、蓮夜に殴り飛ばされたフロッグイレイザーがふらつきながら起き上がり蓮夜を睨み付けた。

 

 

『なんっ、なんだっ……!!いきなり出てきて邪魔をォォおおっ!!何だってんだお前ェェえええええええっ!!』

 

 

自分の復讐を邪魔されて怒り狂い、怒号を撒き散らすフロッグイレイザーに対し、蓮夜は響を一瞥すると、彼女の前に出てフロッグイレイザーと対峙していく。

 

 

「お前のお仲間からとっくに聞いてるだろう?黒月蓮夜、クロス……いや、"仮面ライダークロス"だ」

 

 

「!蓮夜さん……?」

 

 

フロッグイレイザーを鋭い眼差しで見据え、自ら仮面ライダーの名を呼称する蓮夜の言葉を聞いて響は驚きを浮かべていき、蓮夜もそんな響の方へと振り返り小さく頷いた。

 

 

「俺も決めた。もうお前達を守るだけの対象として見ない……お前達の強さを信じる……今更虫の良い話なのは分かっているが……それでも、頼む……奴らを止める為に、一緒に戦って欲しい」

 

 

「……!」

 

 

そう、この名前は自分なりの決意と自戒の証だ。

 

 

別世界から流れ込んだ異物でしかない自分を信じてくれた彼女達の事を、自分も信じるという誓いであり、もう二度と、彼女達を軽んじるような真似はしないという自罰。

 

 

ヒーローなどと呼ばれるに値しないのは自覚している。

 

 

それでも、彼女のようにそう呼んでくれる誰かの信頼と声に応え、二度と同じ過ちを繰り返さない為に敢えてその仮面を被ると決意した蓮夜の願いを聞き、響も最初は驚きで目を見張ったが、次第にその顔に嬉しさを滲ませ、力強く「はい!」と頷き返し、

 

 

 

 

──次の瞬間、響が胸に当てていたブランクカードが淡い光を放ち始めた。

 

 

「……ッ!何だっ?」

 

 

「え……?カ、カードが?!」

 

 

突然前触れもなく発光し出したブランクカードを目にし、蓮夜と響は何事かと戸惑って動揺を露わにしてしまうが、その間にもブランクカードは徐々に光を強めていき、響がブランクカードを胸から離しカードを見ると、其処には何も描かれていなかった筈のカードに橙色のガングニールの拳の紋章が浮かび上がっていたのだ。

 

 

「?!絵が現れた……?!」

 

 

「これって……私の……?」

 

 

ブランクカードに出現した絵を見て蓮夜は驚きを隠せず、響も呆然とカードに描かれた自分のシンフォギアを模した紋章を見つめる中、今度は響の首から胸に掛けて再び光が出現し、徐々に何かを形作りながら輝きが薄れていくと、それは赤いペンダント……フロッグイレイザーの改竄の力によって失われた筈のガングニールのペンダントになっていったのである。

 

 

「ッ?!ガングニール?!」

 

 

『なっ……装者の、ペンダント……?馬鹿なっ、それは俺の力で完全に消した筈だっ!なのに、何故っ?!』

 

 

消された筈のガングニールの突然の復活に響だけでなく、改竄を行使してペンダントを消した張本人であるフロッグイレイザーも動揺を浮かべて困惑の声を荒らげてしまう。

 

 

そんな中、響と共に呆然と復活したガングニールを見つめていた蓮夜はふと彼女の手に握られるカードに視線を移すと、カードを見つめている内に脳裏に知らない筈の知識が自然と蘇っていき、目を見開きながら頭を抑えていく。

 

 

「そう、か……本のしおり……それがカードの……」

 

 

「……?蓮夜、さん?」

 

 

響が握るカードを見つめ何かを知っているかのような呟きを漏らす蓮夜。そんな蓮夜を見つめて響が不思議そうに首を傾げると、蓮夜はその声で我に返りながらすぐに真剣な表情に戻り、フロッグイレイザーの方へと振り返った。

 

 

「……奴を倒すぞ。今の俺達を奴には止められない……取り戻すんだ、お前の繋がりを」

 

 

「!……はい!」

 

 

理屈は分からない。何が起きてるのかもさっぱりだ。

 

 

しかし、ガングニールをこの手に取り戻した今、やるべき事は一つしかない。

 

 

戦うべき相手を見据えてそれを示す蓮夜の言葉に、突然の事態に混乱していた響はハッとなると、徐々に力強い表情を浮かべて頷きながら蓮夜と肩を並べるように隣に立っていく。

 

 

そして、蓮夜はバックルから立ち上げたスロットにカードを装填し、その手でフロッグイレイザーを指差すように身構えていき、響は復活した赤いペンダントを握り締めながら瞳を伏せ……

 

 

『Code x……』

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

「……変身ッ!」

 

 

『clear!』

 

 

響の口から紡がれる美しい唄に合わせて力強く叫び、蓮夜が撫でるように左手でスロットを押し戻したバックルから電子音声が響き渡る。

 

 

直後、二人は蒼と橙色の光に包まれながらそれぞれスーツと装甲を身に纏っていき、蓮夜は複眼を赤く輝かせるクロスに、響は首元から出現した長いマフラーを棚引かせながら輝きを放つ両腕のナックルを構え、両者同時に変身を完了させていったのだった。

 

 

「?!た、立花さん……?!」

 

 

『シン、フォギアっ……?!あ、ありえない……俺の改竄はまだ生きている筈なのにっ……?!』

 

 

ガングニールを身に纏った響の姿を目にし、フロッグイレイザーは信じられないと首を振りながら吃驚の声を荒らげ、三人から離れた場所に位置する遊具の物陰で響を心配して残っていた未来も、ギアを纏った響を見て驚愕し我が目を疑っていた。

 

 

「……ガングニール……」

 

 

ギアに覆われた自身の右手を見下ろし、響は取り戻した相棒の感触を確かめるように拳を握り締める。

 

 

イレイザーの改竄によりこの手から消されて一日も経っていない筈なのに、何故か不思議と懐かしさすら覚える。

 

 

そんな感傷を覚える自分に思わずクスッと微笑み、響は隣に立つクロスの顔を見上げて力強く頷いた。

 

 

「行きましょう、蓮夜さん!今の私達なら、誰にも負ける気がしません!」

 

 

『それに関しては同意だな……これ以上、お前達にこの物語を弄ばせはしない……!』

 

 

『グッ、ぐっううううっ……!!お、まえがっ……よくもっ……!!お前等さえいなければァァああああああッッ!!!』

 

 

想定外に次ぐ想定外にいよいよ追い詰められているのか、フロッグイレイザーは最早余裕がなく忌々しげにクロスと響を睨み付けて恨みがましく唸る事しか出来ずにいる。

 

 

そんなフロッグイレイザーに向けて、クロスはスナップを効かせた右手で指差し、

 

 

『此処からは俺達のターンだ……さぁ、顧みろ!お前が歩んできた物語をッ!』

 

 

「はぁああああッ!!」

 

 

今までの無機質さとは違う、確かな力強さを込めた叫びと共にほぼ同時に地を蹴り上げ、クロスと響はフロッグイレイザーへ踏み込みながら互いに拳を振りかざしていくのであった。

 

 

 

 

 


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