海にも際限があるように、あらゆる生物の持つ魔力には限りがある。どれ程の修練を経ようとも限界は誰にでも存在するのだ、稀代の魔術師と言われようとも、災厄の魔女と称されようとも、そこに『限界』という名の絶対的な壁は存在して誰の前にも立ちはだかるのだ。資源に限りがあるように、無限と言うものは『一部以外』には存在しない。
ある生き物以外には
『それ』は深淵の王者
『それ』は怪異の頂点
『それ』は無敵の怪物
身体能力、思考能力、統率能力、全てにおいてどんな生物よりも高水準にあり。更には『不老不死』たるこの世の理すら捻じ曲げる馬鹿げた能力に加え、無尽蔵の魔力――本当に、正真正銘に無尽蔵の資源を保有する大富豪である『それ』は、名を“吸血鬼”と言った。
彼らは強い、その腕力は鋼鉄すらもバターのように引き裂くだろう。
彼らは強い、どれほど知恵を結集しようとその上を軽々と飛んでいく。
彼らは強い、一度目を付けられれば最後、どんな障害も擦り抜けて得物の喉元を食い破るだろう。
中世の西洋において猛威を振るった彼らの脅威は全世界において共通であり、打破すべき敵であり、最も高名な怪異であり、数多の物語に最上の敵として君臨するなどその強さは畏敬の念すら持たれているほどだったが東洋の島国においては左程その通りでは無かった。
理由としては簡単である、その当時西洋妖怪の多数において東方は“ど田舎”であったからだ。そんな場所で活躍しても全然誇りにはならない、寧ろ“田舎でしか力を振るえない弱者”のレッテルを張られる危機すらあった。特にその端に存在する日本とか呼ばれている島国は“超弩級のど田舎”であり名前すら知らない者が多数であった。
そんな場所にその夜、一体の吸血鬼が現れる。
唐突に、まるで湧いたかのように出没したそれは紛れもなく吸血鬼、夜の王者だった。
彼は極めて幽雅な仕草で辺りを見回し、その田舎具合に眉を顰める。本来であればこんな場所にはどこをどう間違えても出てこないだろう彼は確固とした目的があってこの地に足を運んだのだ。間違えたとかそういった類では断じてない、彼は自らの足で臨むべくしてその地に現れたのだ。
西洋にはその頃、ある噂が広がっていた。
『その地には少女が居る、怪異を滅する少女が居る』
曰く、最強
曰く、無敵
曰く、不死
吸血鬼達にしてみれば当然面白くない、最強は自らの称号であるはずなのだから。それに最後の不死――これは自分達の事だ、真似された、田舎者の泥を掛けられたと憤慨した。故に彼はここに来たのだ、自らの名に箔をつける為に、そして田舎者の癖に吸血鬼を真似する不届きものに忠罰を与えに来たのだ。
焦げ付く匂いがした
振り向くと、白い少女がこちらに近づいてくる。
噂通りの見かけに彼は「ほぉ」と僅かに感心する――田舎者にしては中々見目麗しい。匂いからしては処女の様だから殺す前に血を吸ってやってもいいかもしれない。しかしまずは殺してからである、ルールは無用とばかりに彼は踊りかかって―――――
――――その後、彼の姿を見た者はトンと居ないのである。
◆
「妹紅さん」
上条が、隣にいた妹紅を呼んだ。
「なんだい坊主、便所でも行きたいか?」
「突っ込み待ちですよねそれ? 素で言ってる訳じゃないですよね?」
「モコやんは冗談を真顔で言うタイプやから分からんなぁ」
「よく言われるよ」
「ひゃぁ、つれないわぁ~……でもそんなモコやんも素敵やな」
「あんがとね」
上条の後ろからひょっこりと顔を出すのは青髪にピアスと奇抜な容姿をした男子、ちなみに彼の趣味は外見よりも更に奇想天外で奇天烈にして奇異奇特なものであるのだがそれはさておくとしよう。どう考えても彼が妹紅に対して色目を使っているのもまた置いておくとしよう、問題は彼らの前にある現実なのだから。
ラッシュアワーの駅の中かと思えるほど満員御礼の店内にただ一つ、まるで設えたかのようにぽっかりと空いたテーブル、そこの周辺だけにはまるでブラックホールのように不自然に開いた穴。それはこの状況においては相当に不自然だった、例えて言うなれば図書館に押し入っては強盗を働かない白黒の如く不気味な不自然さだった。
そこに、そのテーブルに、巫女さんが居た。
巫女さんがテーブルに突っ伏して眠っていた。
長いサラサラの黒髪が波に打ち上げられたクラゲの如く広がり、その顔を覆っていた。
上条は戦慄する、これはやばいと直感を抱いた。こういった勘は当たるのだ、嫌な予感はいつだって当たる。出来る事ならば早々に逃げ出したかった、出来る事ならばであり大概こういった状況においては事が発覚した時にはすでに遅しなのだが。
案の定インデックスは彼女の対面に座って早くもイチゴのシェイクを啜り始めているし、同級生である筈の青髪ピアスは非常に危険な表情でその二人を見ているし。最早頼みは一人しか居なかった、現状上条が知る中で最も常識人であり謎の説得力も圧倒的に高い、因みに彼の信頼度も一番高い彼女はその時――
「ご注文は何にしますか?」
「肉」
「ありません」
「……この、宇治抹茶シェイクで」
「畏まりました」
普通に注文していた、あまりにも自然に、隣に居る巫女さんを空気として扱うかの如く。ちなみに彼女が座っているのは問題のテーブルの隣に開いた一席だった。出来るならば自分がそこに座りたかったと上条は猛烈に言いたい、それよりもこの状況を何ともないかのごとくスルー出来る彼女の胆力に驚嘆した。
「宇治抹茶か……うん」
「妹紅さん」
「なに? やっぱ便所?」
「いやいや、あなたこの状況について何とも思わなくて?」
「巫女って見慣れてるし、脇を出してないのは珍しいなって思ったけど」
彼の中でまた彼女のミステリー度が上がった、一段階ではなく一気に五段階ぐらい。なんだ巫女を見慣れているって、脇がなんだって、一体彼女は何に見慣れているのだろうか。ちなみにそれを陰で聞いていた青ピ君は『ミステリアス可愛い』たる新ジャンルを悟り始めている当たり流石であった。
「早く座りなよ、そこ」
「モコやん、ワイはカミやんの代わりにそこ座って欲しいなーって」
「おい、その危ない目をやめろよ」
「そんな不埒な事は思ってへんよ? 『美少女三人と同席できたら死んでも良いわー』とかは全然」
「思ってるじゃねえかこの野郎!」
「いやだよ、そこの席って絶対面倒事巻き込まれるじゃん」
分かってやがったと上条は恐怖を抱いた、躊躇いなく人を身代わりにしやがったと。彼は気付く余地も無かったが藤原妹紅は中々冷淡である、優しいだけでは苦労をする、かといって楽ばかりしていては却って立場が苦しくなる。適度に頼られる事で無礼すら許される立ち位置を確立する、これも百年がかりで見つけた彼女の処世術である。
しかしもうこうなったなら覚悟を決めねばならない、幸いにもいきなり乱入してきた青ピの分すら奢ると明言されているので財布の損害は考えなくても良いだろう。記憶が戻ってから予想外過ぎる出費で相当に懐が寒い状況になっている彼はそれで溜飲を下げる事にした。
そもそも、なぜこんな状況になっているのか。件の巫女さんと思わしき人物の隣に落ち着きなさ気に座りながら上条は考える、とてつもない嫌な予感がする、叶うならばこれ以上ない程あたって欲しくない勘ではあるが残念なことにこれから数時間後には諦念の表情を浮かべる事になるのだ。
少しでもまともな本を買うために遠征して大枚をはたき学術本を買ったのは良い。
インデックスを宥めるためにアイスを買いに行ったのも対応としては適切だ。
道中で妹紅と出会ったのは驚いたが決して悪い事ではなかった、奢る約束も取り付けてもらった。
ここまでは順風満帆なのだ、全ては予想範囲内であるし彼の中で早くも『頼れる姉貴分』としての地位を確立しつつある妹紅と合流できたことはピンゾロを引いた様な幸運に恵まれたように錯覚する程だった。だが結局上条当麻と言う男子は所詮不運の星の元に生まれた存在、ここらから段々と自体はその雲行きを怪しくする。
アイス屋が閉まっていた、定休日ではなく改装で閉鎖されていた。総員がっくりと肩を落とすもインデックスの状態を見た妹紅の提案によって一先ず予想された最悪の――インデックスが癇癪玉を大爆発させ、その怒りの矛先が上条に向かうといった展開はすんでのところで回避される。
だが突如として現れた上条当麻の友人――本当に友人であったのかは疑わしい物であったのだがそれを確認できる者は誰一人として分からないので友人である青髪ピアスの来襲によってまた一波乱起きる事となった。
彼は悪気があったのかなかったのかは不明としてインデックスを『女装少年』、妹紅を『ロリ婆ちゃん』と呼んだのだ。これにはインデックスが当然ぶち切れ、上条もあんまりな物言いに怒り心頭、ただ妹紅だけは見事に的を射ていたので誰一人に気付かれる事なく顔を青褪めさせていた。全員が落ち着いた時には既に平常時の彼女に戻ってはいたものの一瞬だけその表情が『マジ狩るモード』になっていた事も留意してもらいたい。
そんな訳で手頃な食事処を求めた結果がこれである、どうやら掘り当てたのは心の安寧を齎す温泉ではなく特大級の地雷だった事に今更ながら気付くも時すでに遅し、幸せそうにシェイクを啜るインデックスを見て癒されるほかはなかったのである。ついでにそれを見てにやにやしている野郎は手で追い払いながら。
さてどうするか、どうやってこの状況から脱出するか。なんなら今逃げ出しても良かったけれどインデックスは置いていけないし、何より奢ると言われてそれを辞せる程自分は金銭的にも精神的にも余裕はなかったのだ。しかし眠る地雷は未だ動かず、ひょっとすればこのまま何事もなく退席できるのでは――そう考えた矢先に、ピクンと巫女さんの肩が動いた。
「く、――――」
ああやっちまったよ、どうしますかと恐る恐る横を向けばこの状況において最も頼りになりそうな存在は無心でシェイクを啜っている、時々妙に神妙な目つきでさり気なくあたりを見渡す以外には特に目立った動きも無く、つまりこちらに手を貸してくれる気はなさそうだった。
とてつもなく嫌な予感がした、何故だろう? 一切の思い出が無い筈なのになぜだかとても懐かしい。上条の記憶がきしきしと音を立てるも所詮はそれだけで、忘れてしまったものはもう取り戻せないのだというのに。その既視感に一瞬だけ眩暈を覚える彼は巫女の次の言葉を待つ。
彼女は口を開く、極めて真剣そうに、極めて深刻そうに。
「――――食い倒れた」
◆
その数分後、テーブル上は非常に混沌とした状況にあった。
ムッとした表情で横に居る美少女を釈然としない顔をして見ている上条。
敵意を隠すことすらせずに今にも飛び掛かりそうな気焔を吐くインデックス。
そんな二人を囃しつつも自らは安全圏で好き放題いう青ピ。
そして二人分の敵意を受けつつも何の変化も見られない表情をする巫女。
思考が多少ねじ曲がった者が見たら勘違いを起こしても問題ない修羅場がそこにあった、男子二人に女子二人なので相当好意的に見られれば二組のカップルなのだろうがそのうち一人が完全にアウトな外見をしているのでどの道白い目で見られるのだろうがその場合被害者は席位置的に青ピとなるだろう。
さて、なぜ初対面同士の間でこのような剣呑な雰囲気が漂っているかと言われればそれに対する答えは一つしかない。この巫女――正確に言えば巫女もどきの自称魔術師の態度がすこぶる悪いのだ。自己中心的にして自分勝手、自意識過剰な物言いには流石の上条もカチンとくる。
しまいには「美人に免じて100円くれ」だの物乞いすら始める始末、これには上条とインデックスの堪忍袋の緒がぶちぶちと千切れはじめた。奢られている身分なのでとやかく言えないが人に物を頼む態度ではない、そんな事を言われればいくら持っていたとしてもかそうとすら思わないだろう。
困った時の妹紅だとばかりに上条の視線が隣で宇治抹茶シェイクをちまちま啜っていた彼女に向けられる。頼りすぎるのはあれだがこんな状況において冷静に説教をしてくれるのは彼女以外に知らなかった、インデックスは直情的過ぎるし青ピは信用置けない。
「何とか言ってくださいよ妹紅さ――」
「……あ?」
「なんでもありません!」
だが、そこに居たのはいつでも困ったような笑みを浮かべる彼女ではなかった。眉を顰め、とんとんと机を叩きながら何かを考えているようなその姿は明らかに不自然、この態度の悪い巫女擬きが霞む程の地雷要素である事を一瞬で理解した上条はそこを見なかった事にして再び目の前の彼女に向き直る。そのまま言い合っても尚議論は平行線、そろそろ苛立ちも最高潮に高まってきたところで妹紅が立ち上がった。
「用事思い出したから先に帰るよ、すまないね」
「あ、はい」
「勘定は先に済ましとくからさ」
そう言いながらぴらぴらと代金の紙を振りながら笑う彼女はさっきまでの不機嫌さはどこへやらで、上条は一瞬だけ拍子抜けけるもあれは気のせいだったのかもしれないと思い直した。誰だって気分の変動はあるのだし、偶々そう見えただけなのかもしれないのだ。
「じゃあな少年達、あと巫女の嬢ちゃん」
「……ねえ」
「うん?」
「……なんでもない」
ふてぶてしい巫女は一瞬だけ妹紅を見たが、その瞬間びくりと怯えたように震えて目を逸らす。あれ程の粘りを見せた彼女はただそれだけで、それっきり大人しくなってしまった。それを見た妹紅は何をするでもなく、ただ勘定を済ませてポケットに手を入れながら冷え切った店内から陽炎舞う外へと消えていった。
◆
何食わぬ顔で、特に理由もない風に装って店を出た妹紅の表情には未だ若干の苛つきが見えた。もっともそれは常人でも判別できる程はっきりとした差異は見られない、あの場に居た誰もが違和感に気付くことが出来なかった事がそれを証明していた。
ある時ははっきりと分かり、ある時は全然気づけないのだ。そんな彼女の表情の差異が分かってしまうのは例えて言うなれば上白沢慧音の様に他者の機微に対して非常に聡い物を持つ人物であり、それこそがあまり他人と触れ合わない妹紅がそれなりの友好関係を気付くことが出来ている理由でもある。
つまるところ、現在の妹紅は苛ついているがそれを理解できるものは居なかったのだ。
何食わぬ顔で店を出た彼女は一度左右を見た後、何かを警戒するようにある一点を見てからそれとなく、しかしはっきりと舌打ちをした。だがその場ではなにも行動をしない、店の外はこの暑さで閑散とはしているがそれでも人はいるし人目も当然あるのだ。そういった場所で派手な事をする事の愚かさを彼女はよくよく承知していた。
ふらっと、大通りを流しながら歩きつつ時折ちらちらと後ろを見てはまるで何かを避けるかの如く方向を変える、どこへ向かうでもなく、何か明確な目的がある訳でもなく、ただ自由気ままに歩き回る。だがその表情は次第に険しいものになり、何度目か後ろを向いた時明確にそれは現れた。
「……わーったよ、ったく面倒くさい」
そう呟き、彼女が向かったのは上条のいるであろう店ではなく、自分の住処でも無く、何の変哲もなく人気も無い路地裏だった。本来であればこんな場所に少女一人入れば忽ち展開が読めそうなものだがその心配はない、ここら一体のスキルアウトは大体彼女の恐ろしさを知っていた。最近では「姉御!」と呼んでくる集団すら生まれている事が最近の悩みである。
だが路地裏に入った瞬間その後ろから何者かが追う様に入ってくる、同様に妹紅の前からも数人の人影が入ってきてその行く手を塞いだ。前にも後ろにもどう見たとしても好意的には見られない集団が人為的な袋小路を形成したのだ、その様子を見て彼女は呆れたように肩を竦める。
「こりゃまた、大層な歓迎で」
「……藤原妹紅だな」
「そうとも言うけど」
狭い路地裏に少女が一人とそれを取り囲む男達、それだけであれば如何わしい現場を想像してしまうものだが彼女を囲んだ男たちの尋常ではない雰囲気を見ればそれだけで素人でも「おかしい」――そう感じさせるだけの何かを持っていた。
それは、あまりにも無機質すぎた。あまりにも機械的であまりにも不気味な目でただ目の前の少女を観察し、次に自分たちがどうすればいいか決めかねている様にも見えた。それとももう次の行動を決定してしまっている様にも見えるのだ、その様子を見た妹紅がちっと舌打ちをした事にすら微動だにしない彼らはその包囲網をじりじりと狭めていく。
「いたいけな少女一人にあんまりにも多勢過ぎないかね」
「…………」
「それともあれ? そういう趣味の変態だったりするのかい?」
「…………」
「なあ、少しはなんか反応したらどうだよ」
「…………」
「――ちっ、三下共が」
凄味を利かせた最後の舌打ちに一瞬だけその歩みが止まる、たった一人に対して大勢を仕掛ける事は妹紅にとって「そうでなければ勝てない」と認めているも同じだった。例え一人一人が彼女を凌駕する力を持っていようとこれ程の群を成してやってくること自体が不快の種である、その表情を苛つきで染め上げるのに十分すぎる程だった。
対して男達は無表情であるものの余裕の雰囲気を隠してはいなかった。多勢に無勢、おまけに相手はひ弱そうな少女だ、目を瞑っていても平気そうな――あくまでそれは主観であって、たった今路地裏の温度が緩やかに上昇し始めた理由にすら気づけないような致命的な楽観視が生み出した決めつけにしか過ぎないのだが。
追い詰めた筈の兎がなぜ鬱陶しそうな表情しか浮かべていないのか、一切の怯えも恐怖も見せず逆に面倒くさそうなじっとりした視線で射抜いてくるのか、それは事が終わってから考えればいい事だ。男のうちの一人が彼女の方に手を伸ばして――
「そこまでにしてもらえますかね」
ぴたりと、それが止まった。
全員がそちらを向けばそこは路地裏の入り口、陽光の光を背にして腕を組みながらこちらを見据える女のシルエットが一つ。陰ですら分かる程の見事なプロポーションに一瞬妹紅の眼光が鋭くなるもそれは些末事である。
男達の顔が一様に警戒に染まった、容易く背後を取られた事に対してのそれに加えて見事なまでの気配隠蔽。果たしてなぜ隠蔽したままではなく態々全員にその存在を強調してまで今出てきたのかを推し量ることは出来ないが、それでも全員が臨戦態勢を取る。
その渦中にいる妹紅は「げっ」と一瞬だけ呻き声を上げた後ぽりぽりと頭を掻く、彼女の見据えるその先がどう考えても男達ではなく自分であることに気付いたからだ。まさかこんなに早く来るとは思っていなかった、しくじったと冷や汗がじっとりと背中に滲むが時すでに遅し、彼女が妹紅を見る目は段々とよく切れるナイフの如く鋭さを増しているのは錯覚ではないのだろう。
「誰だ」
一人が、そう問いかける。
「神裂、神裂火織だ」
彼女は――その聖人はただそれだけを口にした。
あとで後書き書くかもしれぬ
書かぬかもしれぬ
すまぬ すまぬ