「うぅ、頭痛い……」
眠りから目覚めた僕を出迎えたのは、強烈な頭痛だった。
昨晩、翠と凛と三人パーティーをした僕であったが、翠から注いでもらったロゼワインという桃色のワインをちびちびと飲んでいて、ようやく1杯目を飲み終わったと思ったらすぐに酔って気持ち悪くなってしまい、トイレと友達になってしまった。
その後は翠と凛に心配されて、やれ布団やら水やらと色々迷惑をかけてしまう羽目になった……。
二日酔いというか悪酔いの症状に苦しみながらも二人に申し訳無く思っていると、僕が起きたのに気づいたのか凛がこちらに声をかけてきた。
「シズ先輩、起きましたか? もぅ、飲めないんだったらちゃんと最初から言ってくださいよ」
大変申し訳ない。僕が昨晩、まるでお酒を飲めないのに見栄を張って飲んだばかりに、まだ朝日も昇りきってないような薄暗い時間帯から迷惑をかけてしまうとは……。
「飲用アルコール、つまりエタノールは人間の体内ではアルコール脱水素酵素によって有害なアセトアルデヒドに変わって、その後それを酸化させることによって無害な酢酸へとするんですが、人によってはその酸化の過程を上手く行えない事もあるので、シズ君みたいに飲めない人も居るんですよね~」
翠が僕が飲めない理由を詳しく説明をしてくれているが、翠は未だに、昨晩僕が作ったつまみに手を伸ばしながらペースを保って飲んでいるようだ。しかも顔は赤らんでいるものの、まだまだ理性を保ち続けているあたり生粋の酒豪といったところだろうか。
「翠ちゃんもそろそろ終わりにしなさい! もう飲み始めてから6時間ぐらい経つでしょ!」
「じゃあ、次の一杯で終わりにしますね」
翠のその言葉を聞いた凛は、頭を抱えている。
「10杯以上飲んでおいて何言ってるの! 月一程度とは言え、そんなに飲んだら体に悪いでしょ!」
翠はそんな凛のありがたい忠告に対して、耳を塞いで聞こえないふりをしている。飲めない僕が言うのも何だが、さすがに飲み過ぎだと思うぞ。
「はぁ、本当に後一杯だけですからね。それじゃあ私はしじみ汁作ってくるので、シズ先輩も翠ちゃんもテーブルの上に置いてある水を飲んで待っててくださいね」
そう言うと凛は、台所へと向かうのであった。
「凛ちゃんの言うことは尤もとはいえ、私、最初に皆で飲んだロゼワイン以降はブドウジュースしか飲んでないんですけどね……」
凛に聞こえないようにぼそりと呟いたその独り言は、僕の耳にはばっちりと聞こえてきた。
「なぁ翠、なんでわざわざ次の一杯とか言って、お酒を飲んでいるように見せかけたんだ?」
「聞こえてましたか……。それがですね、だいぶ前に凛ちゃんに私が飲ませたことがありまして、その時確かコップ2杯とかそのぐらいで、抱きついてきたりとか普段しないような甘え方をしてきまして、かなり困ったんですよ」
困ったと言う割にはずいぶん嬉しそうな顔をしているが……。
「まぁ、そこまではまだ大丈夫だったんですが、翌朝聞いてみたらその辺の記憶が曖昧らしくて、だから次に凛ちゃんと飲む機会があったら、どこまで飲めるのか調べてみようかと思いましてね」
「それで凛に気兼ねなく飲ませるために、わざわざ瓶に入ったブドウジュースまで用意して観察してたって訳か」
「そういうことです。結局今回分かったのは、今、凛ちゃんは多少気が大きくなっているものの、まだ酩酊や泥酔をしていないので、お酒に弱いって事でも無さそうですね。自分からしじみ汁作りに行ったぐらいですし」
翠も凛も飲めるのに僕だけ全く飲めないっていうのも、何かこう、心にくるものがあるな……。自分の不甲斐なさに、ため息をつきたい気分になってきた。
「ふふっ、飲めないことを悔しがるのはいいですけど、シズ君みたいに飲めない人の方がアルコールに依存するリスクを考えればずっと健康的だと思いますけどね」
「適度に飲むんであれば、そっちの方が心にも体にも良いらしいけどね。まぁ、家にはまだ中学生のマヤも居るから個人的な感情を除けば、飲めない飲まない方が絶対に良いとは思うんだけど」
「こんな時でも妹さんのことを考えている辺り、やっぱりシズ君はシスコンですね!」
やめてくれ、そのネタをことある度に使うのは。正直最近自分でもシスコンなのかな? って思っているから余計に心に刺さる!
悪酔いをしているまっただ中でも、意外と元気に反応していると、お盆にお椀を3つ載せて凛が戻ってきた。
「しじみ汁持ってきましたよ。これがあれば、二日酔いも大分良くなるはずです!」
「あぁ、ありがとう凛」
「さて、これを飲んだら私も一眠りしましょうかね」
「翠ちゃんはまだ全然元気そうなので、食器を洗ってきて下さい」
「……凛ちゃん、バッサリ切り捨てましたね」
「翠の普段の行いが悪いからだろ。自業自得だ」
「シズ君まで! もぅ、二人ともひどいですね~」
こうして僕たちはたわいない話を続けながら、お椀のしじみ汁を啜った。そして結局この後、眠たくなった僕たちはその場で雑魚寝をするのであった。
ジリリリリリリ
「凛ちゃーん! シズくーん! 起きてくださーい!」
けたたましい目覚ましの音と翠の声によって僕はたたき起こされる。目覚ましの音が鳴る方を見てみると、そこには白い兎をモチーフにして作られた可愛らしい時計が、朝の9時半を指していた。
「二人とも起きましたか? 少し遅いですけど、朝ごはん出来てますよ」
「あぁ、ありがとう翠。すぐにいただくよ」
翠は既に昨日の服から着替え終わっている上に、どうやらシャワーも浴びたようで、朝食を告げる声と共に仄かな石鹸の香りが漂ってきた。
「んぅ〜、まだ眠いです……。昼になったら勝手に食べるので、置いといて下さい……」
その一方で凛はまだ食欲より睡眠欲の方が勝っているようで、まだ寝続けるようだ。
「凛ちゃんはしょうがないですねぇ。じゃあ、先に食べていましょうか」
そうやって口では呆れたような言葉を放つ翠だが、顔は慈愛に満ちていおり、まるで母親みたいな表情を浮かべているのであった。
いつも子供のように自由気ままな行動をするのに、こうして翠が我が子を愛する親のような表情になるのを見た僕は、そのギャップの差から失礼ながらも二度見してしまうのであった。
「結局、凛ちゃん起きませんでしたね」
「これからお前に振り回されるんだろうし、まぁ今日ぐらいはいいんじゃないか?」
「ふふっ、また凛ちゃんには迷惑かけちゃいますね」
「分かっているんだったら、何とか努力しろよ……」
翠が作ってくれた朝ご飯を美味しく頂きながら話していると、そろそろ時計が10時を示そうとしている。さすがにそろそろ帰らないとな。
「翠、美味しかったよ。ご馳走様」
「お口に合ったのでしたら何よりです」
「じゃあ、僕はそろそろ帰るよ」
「あ、帰るなら、これを持って行って下さい」
翠がそう言って、袋に入った物を渡してきた。
「これは?」
「引っ越しそばですよ。これからも末永く宜しくお願いしますね」
そうやって微笑む翠の姿を見た僕は、その言葉に嬉しくなったのであった。
「あぁ、こちらこそ宜しくな。それじゃ、凛にも宜しくって伝えておいてね」
「はい、ではまた。今度はお酒抜きで集まりましょうね」
「ははは……」
『ご注文はうさぎですか』の期間限定無料放送が3月いっぱいやっていたり、『けいおん!』の再放送が4月から始まったりと、楽しみなことが多くて嬉しい毎日です。
『条河静の日常』第14話をお読み頂き、ありがとうございました。
次話ではようやくココアが登場する予定です。時間を持て余したときにでも読んで頂けるとありがたいです。