神の幼馴染   作:〆鯖缶太郎

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 気分が割と良かったので、着手から二日間で仕上がりました。


第五話

 四宮小次郎は夢を見ていた。

 母国である日本を離れてからはすっかり見なくなっていた、懐かしい記憶を再現する夢。

 

 見渡せば、七つの山を切り抜いた広大な土地に立ち並ぶ建物。歩いている者が身に纏う制服からも、ここが遠月学園だということが分かる。

 その中の一人に、初めて遠月生徒として門を潜った幼い四宮の姿もあった。

 九州の田舎から出てきたばかりの自分は、人目もはばからずに辺りを見渡し。如何にも田舎者といった感じで、入学した当初はナメられることもあった。

 あった……と言うだけで、その頻度は別に多くは無かったし、気にするようなものでもなかったが。

 すると、偶然近くを通りかかった生徒の会話が聞こえてくる。

 

「聞いたかよ。例の、今日もやるらしいぜ」

「始業式があったばっかなのにか?」

 

 見れば、辺りの生徒全員がとある会場へと向かっていた。

 ――ああ。そこで、初めてあの人と出会ったんだ。

 もしその出会いがなければ、今の四宮は存在しなかっただろう。そんな事も知らない幼き自分は、人の流れに身を任せるまま歩き出した。

 

 場面が変わる。

 そこは、先程向かった会場の中。

 ステージ中央に爛々と降り注ぐ照明の光。超満員の観客席。今日は春休み明けで授業が無い平日とは言え、ここまで人が集まるものなのだろうか。

 今思えば、普通はありえない。あの人が特別なのだ。

 

 天井から吊るされた大型モニターには、この日の対戦カードの一人であるあの人――芳賀若菜の名が映し出されている。

 そして始まった食戟に、当時の自分は彼女の調理に魅せられ、料理に惚れていた。

 当然だろう。何故なら若菜は、遠月学園きっての料理人。後にも先にも、四宮は彼女を越える料理人など見たことが無い。

 卒業試験を歴代最高得点で突破した堂島銀ですら、当時の若菜の足元に漸く及ぶといったところなのだから。

 

 再び場面が変わる。

 食戟に当然のように勝利した若菜の前に、自分が立つ姿。

 学園最強の料理人。だが近付く者は誰一人とおらず、そこには四宮と若菜の二人しかいない。

 誰もが恐れる若菜を前にし、幼き四宮は言った。

 

「俺を――弟子にしてください!」

 

 腰を折り、頭を深々と下げ、手を差し出す自身の姿は。傍から見れば、付き合ってくださいと愛の告白をしているようにしか見えず。

 そして夢の中の若菜は。当時は頭を下げていて見えなかった若菜は。困ったような声色に反し、決まって表情は嬉しそうに言うのだ。

 

「じゃあ、食戟する? って、それで私が負けたら、師匠になる必要はないか。……なら、もし君自身が私と肩を並べられる料理人になれたと思ったら。その時はまた、声を掛けてね。そしたら師匠になってあげるよ」

 

 この一年後に若菜は遠月学園から姿を消し。四宮は結局、再び会うことも弟子入りすることもなかった。

 

 

 

「…………夢か」

 

 ベッドから身を起こし、カーテンを開けると朝日が眩しい。

 四宮がいるのは、遠月リゾートの一つである遠月離宮の一室。

 今日から遠月学園 高等部一年生の宿泊研修が始まる場所であり。ゲスト講師として昨日の夜、到着したばかりだった。

 審査で食べることも考慮し 軽く朝食を済ませると、シャワーを浴びる。

 

 今なお鮮明に残る夢の記憶。

 自分は果たして、若菜と肩を並べられる料理人になれたのかと思う度に、心の何処かでなれていないと思ってしまう。

 もう十年以上経ち、日本人として初めてプルスポール勲章すらも受賞したというのに。

 

「この俺がレギュムの魔術師……。笑わせてくれる」

 

 身の丈に合わない称号。もっと凄い料理人が、評価されていない本物がいることを知っているというのに。

 そして己の料理は今、停滞しているというのに。

 

 ――変われるだろうか。

 

 四宮がゲスト講師として参加した一番の理由は、将来有望な人材を確保する為でも同朋と会う為でもなく。

 今の自分自身が変わる切っ掛けがあるかもしれない。そんな漠然とした想いを、たかが遠月の高等部一年生に期待しているのだ。

 

 シャワーを終えて 店の正装に着替えれば、自然と気が引き締まる。

 時間も丁度良い頃合いだ。ゲスト講師の紹介も兼ね、最初に学生が集められるという大宴会場へと四宮は向かう。

 そこには既に、20人程の講師が集まっていた。実際に会うのは初めてだが、料理雑誌で見たことがある顔ぶればかりだ。

 そんな中で軽く辺りを見渡せば、目的のグループはすぐにでも見つかる。

 

 先輩である“銀座ひのわ”の関守平。

 同級生である“リストランテ エフ”の水原冬美。

 後輩である“霧のや”の乾日向子。“テゾーロ”のドナート梧桐田。

 

「あっ。やっと来ましたね 四宮先輩。遅いから来ないかと思ったじゃないですか!」

 

 声を掛けるまでもなく、乾に真っ先に見つかる四宮。

 そんな当時と変わらぬ後輩の態度にどこか安堵しながら、口を開いた。

 

「久しぶりだな。全員、変わりは無さそうか?」

「四宮も久しぶりだな」

「お久しぶりです 四宮さん」

「あんたも昔と変わらないわね……」

「ちょっ。無視って酷くないですか!? 皆さんも普通に流してますし!」

 

 声を掛けたのにスルーされ、他の面々に挨拶する四宮にツッコミを入れる乾。

 全くもうっと 怒ったように呟くが、内心は四宮にまた会えた嬉しさと懐かしさで満たされていた。

 二度と会えないと思っていた憧れの先輩が、また触れられる距離にいる。

 それだけでも、今日ここに訪れた甲斐があったというものだが……。

 

「でも、四宮先輩のことだから本当に来ないとも思っていたんですが……。もしかして、私に会いに来てくれたんですか?」

 

 後半は冗談半分であるが、前半は本気である。

 乾の思う四宮であれば、遠月学園の生徒が参加する宿泊研修といっても、興味なさげに断るだろうと考えていた。

 なのに参加するとは どういう風の吹き回しかと問い詰める。

 

「んな訳ねぇだろ。堂島さんから直々に呼ばれたんだ。仕方なくだよ。仕方なく」

 

 そんな後輩に、説明するまでもないと適当にはぐらかす四宮。

 何か言った所で乾の性格上、続けて色々と問い詰めてくるのだろうと目に見えていたからだ。

 加えて 少なからず会うことも楽しみにしていたなどと、四宮の性格上言える訳も無かった。

 

 互いが互いを信頼し、理解し合っているからこそできるやり取り。そんな夫婦と言ってもいい二人の掛け合いを見ながら、相変わらずだと水原らは思うのだった。

 

 ぶーぶーと口を尖らせ絡んでくる乾をあしらいながら、四宮は会場を見渡し目的の人物を見つけると、断りを入れてから 一人歩き出す。

 その先には、今回の宿泊研修で代表を務める堂島銀の姿があった。

 

「堂島さん」

「おう。相変わらず、お前らの所は賑やかだな」

「主にヒナコの奴がうるさいだけですよ。それで、例の件のことですが……」

「安心しろ。要望通り、初日に当たる様に手配してある」

 

 例の件とは、芳賀青葉のことだ。

 あの芳賀若菜の息子の実力がいかほどであるか。そして実際にその姿を見てみたいという思いから、事前に初日に担当したいと四宮は志願していた。

 

「お前と芳賀若菜の間に何があったか詳しくは知らんが、その息子までデキが良いとは限らんぞ?」

 

 探るように、堂島は問いかける。

 才能とは、必ずしも受け継がれる訳ではない。

 実際に会ってみれば、期待外れの可能性も大いにある。比べる対象が若菜なのだから その期待値も段違いに高く、そこそこ才能がある程度では四宮を満足させることはできないだろう。

 

 けれども、確信してしまうのだ。

 あの芳賀若菜の子が、普通であるはずがないと。

 

「その時は、俺の見込み違いってだけの話ですよ」

「確かに……そうだな」

 

 言い終えると 堂島は腕時計を確認し、マイクを手に取った。

 

「さて、そろそろ生徒が到着する。全員、ステージ裏へ移動してくれ!」

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 軽くゲスト講師としての自己紹介を終えた結果、四宮は一人の退学者をだした。

 その生徒が付けていた整髪料に柑橘系の匂いが混じっており、料理の香りを霞ませる原因となるからだ。

 そんな事すら意識できないやつは不必要という、至極真っ当な理由なのだが。その後 退学にした生徒から咄嗟に出た言葉が、四宮には印象的だった。

 

 ――たったこれだけの事で……。

 

 何がいけないのかと、まるで理解していないように口答えする姿。

 あまりにも意識が低すぎる。一体今まで何を学んできたのか。

 やはり期待はしない方がいいだろうかと、四宮は会場へと移動するバスの中で、担当する生徒の資料を確認する。

 

 芳賀青葉。

 中等部時代は授業評価が優秀なことを除けば、特に目立った功績はなし。

 しかし遠月十傑 第十席に選ばれ、その後行われた食戟では全戦全勝。

 

 中等部時代は最低限の点を稼ぎ、目立つことを極力避けていたとしか思えない内容。

 薙切えりなと共に最年少で遠月十傑に名を連ねた実力は、果たしてどれ程のものだろうか。

 試験が行われる屋敷にバスが停車したことを確認し、四宮はマイクを通して生徒に声を掛けた。

 

「全員降りろ。屋敷に入れば全員分の厨房が用意されている。場所の指定は無い。各自、自由に選ぶように」

 

 

 

 生徒達から遅れること数分。

 四宮が中に入るなり、会場がシンと静まり返る。

 この期に及んでまだ私語をする余裕があるのかと思いながら、用意された椅子に深々と腰掛けた。と、同時に運ばれてきた食材の山。

 

 ――厨房の場所の指定はない。自由に選ぶように。

 そう言ったのは、四宮なりのちょっとした警告だ。

 何故なら、厨房の上に食材はまだ用意されていない。となれば、各々が食材を選ぶ可能性があるという事。

 食材が運ばれる扉の位置。そして置かれるスペースなど、四宮が座る前方以外にありえない。

 

 知っていれば、若しくはその事実に気付けば、誰もが前の厨房を欲しがるだろう。

 だがバスを降りた後、その大半はトロトロと歩いていた。

 前の厨房に立つ生徒を見れば、資料で見た青葉の姿がある。

 一先ず期待外れではないと確認し、四宮はルセットを列ごとに配った。

 

「改めて おはよう。79期卒業生の四宮だ。この課題では俺が指定する料理、今手元に配られたルセット通りに作ってもらう。そしてこの課題では、チームは組まない。一人で一品仕上げてもらう。調理中の情報交換や助言は禁止だ。食材は今運ばれてきた前方にある山から任意で選び、使用してくれ。制限時間は三時間。それでは――始めろ」

 

 手を叩くと 止まっていた時が再び流れ出すように、生徒が一斉に動く。

 前の厨房に立っていた者は直ぐに食材を選び終え、調理に取り掛かるのも当然早い。

 対して後方にいた者は遅れて食材の山に駆け込み、食材を奪い合い、罵声が飛び交う。

 そんな様子を見ながら、手元の名前が書かれた紙に 問題のある生徒の横へ次々とチェックを入れていく四宮。

 

「食材選びの最中も採点を行っていることを忘れるなよ」

 

 忠告した途端、静かになった生徒達。

 採点をしていると言って静かになるということは、己の行いが悪いことだと自覚していた訳で。

 故に、それらの生徒は問答無用で退学させると四宮は決めた。

 例えどれだけ良い品を作ろうが、自分勝手に周囲を巻き込む料理人は必要ない。そもそも四宮からしてみれば、そんな生徒の料理が合格ラインに届くとは到底思えないが。

 

 ――四宮が全員に用意したルセットは“9種の野菜のテリーヌ”。

 野菜によって下処理や火入れが違い、一種類の主張が強くても弱くても味のバランスが崩れてしまう、何かと手間の掛かる料理だ。

 

 いくらルセットが用意されているとはいえ、知識も経験も浅い学生が作るには あまりにも難しいと言えるだろう。

 初めてプラモデルを組み立てる者とそうでない者の違いと言えば、想像しやすいかもしれない。経験が無い者は何度も手が止まり。限られた食材と制限時間により、失敗ができないと躊躇いが生まれる。

 手順が決められていようが、全くその通りの味を再現するのにはそれなりのセンスも必要となってくるだろう。

 

 とは言え、四宮としてはこれでも大分優しくしたつもりだ。

 料理人は一食作って店を閉める訳ではない。一日に何百、何千という注文を受け、同じクオリティの料理を提供し続けなければならないからだ。

 一皿で合否が決まるなど生温い。少なくとも十食作り、全ての皿が基準を満たせと言いたいぐらいだった。

 

 早々に食材を選び終えた青葉に視線を移すが、その動きに迷いは一切見られない。

 キャベツ、パプリカ、ズッキーニ、ヤングコーン、ニンジン、カリフラワー、オクラ、アスパラガス。そして付け合わせで使うプチトマト。

 今回のテリーヌを象徴する九種類の野菜の下処理は既に終わらせているようだ。

 パプリカ、ズッキーニ、アスパラガスは炒め。他の野菜もルセット通りに野菜毎の調味料を加えて茹でれば、下ごしらえは自ずと完了しているだろう。

 次の工程にすぐ移れるよう、タイミングを見計らってコンソメのゼリー液を作り出す時間も完璧だ。

 

 野菜の下ごしらえが完了すると 四宮の予想通り、ゼリー液も仕上がっていた。

 テリーヌ型にサランラップを敷き、先に記した通り キャベツからアスパラガスまでを順に入れていく。

 全ての野菜を敷き詰め終えた所でコンソメのゼリー液を流し込み、最後にキャベツの葉で蓋をしてサランラップで包めば、後は冷蔵庫で冷やすだけだ。

 

 青葉の手際の良さはとても学生のレベルではなく、見ていた四宮も思わず舌を巻く。

 食材選びの時間で差ができたとは言え、まだほとんどの生徒が下ごしらえの半分もできていないのがその証拠だ。

 完成までの道のりを見透かしていたかのような時間管理と それを可能とする確かな料理技術は、今から現場に入ったとしても彼ならば任せられるという安心感すら与えてくれるだろう。

 そしてその調理姿と面影は、どことなく若菜を連想させられる。

 

 ――思った通りだったか……。

 

 冷やし終えた後、切り分けて提供されるまでは まだ時間がある。

 四宮は立ち上がり、不要となった道具を片付けながらソース作りの準備をしている青葉を尻目に、他の学生の様子も確認しようと歩き出した。

 

 

 

「どうぞ お召し上がりください」

 

 “9種の野菜のテリーヌ”を一番に完成させたのは、当然青葉だった。

 乱れのない均一で美しい野菜の層は、最初に食材を確保する際に品定めも完璧に行い、細部にまで拘って調理していたことがよく分かる。

 切り分けて一口食べれば、口の中で広がる野菜の香りと味のバランスは文句の付けようがなく。普段何百皿と作る自身のテリーヌすらも凌駕していると四宮は感じた。

 点数稼ぎではない。一品しか出さぬ故に、妥協することなく全てが注ぎ込まれた……そんな一皿。

 考えるまでもなく、四宮の口は勝手に動いていた。

 

「芳賀青葉――合格だ」

「ありがとうございます」

 

 期待通り……。いや、期待以上の腕だった。

 他の生徒はまだテリーヌを冷やしている最中なので、審査は暫く後だろう。

 そんな事を四宮が考えた矢先だった。

 

「どうぞ お召し上がりください」

 

 青葉からやや遅れて提供された皿。だがその瞬間、四宮は何故か既視感を覚えた。

 皿を出す時の仕草。言葉遣い。それらが青葉と非常に酷似していたのだ。

 思わず顔を上げると 立っていたのは青葉とは到底似つかない、ガタイの良いドレッドヘアーの男――美作昴だった。

 

 形容しがたい雰囲気に若干の戸惑いを覚えながら、四宮は提供されたテリーヌを一口食べる。

 合格基準には達しており、学生の中でもかなりのレベルだと分かるが……。如何せん 最初に食べたのが青葉の皿だった為か、その味も香りも劣っていると強く感じてしまう。

 同じ料理を作る際の弊害だ。その料理に対する実力の差が 明確に出てしまうという弊害。

 四宮は考えるように咀嚼を続けた後、一つ頷いてから口を開いた。

 

「美作昴――合格だ」

「……ありがとうございます」

 

 結果を聞いて安堵したように昴は息を吐くと、皿を持って厨房へと戻る。

 手早く片付けを済ませ、課題が終わるまでの別室へと移動する青葉の横に並んだ。

 

「酷いですよ、青葉さん」

「……何がだ?」

 

 突然声を掛けられた青葉は 昴の第一声を聞いて、何が酷いのかと首を傾げる。

 その様子から、二人が以前から知り合いであるという事が窺えた。

 

「あんなテリーヌを出されたら、恐らく今日のグループは俺と青葉さん以外……全員落とされますよ」

 

 やや大袈裟に首をすくめる姿を見て、冗談を言っているのだろうと思いながら青葉は答える。

 

「そんな事はないだろ。ルセット通りに作るだけだぞ?」

「サラッと言える辺り、さすがですね。編入試験で当然のように全員落とした人には見えませんよ」

「はぁ……。もしかして、また見てたのか?」

「いえ、あれは本当に偶然ですから。それに今回は仕方なくですよ、仕方なく」

 

 美作昴にはとある異名がある。

 その名も『キング・オブ・ストーカー』

 いざ料理勝負となれば相手の生活まで徹底的に調べ上げ、誰も気付かぬ間に全てを暴いてしまう。そして相対した時『周到なる追跡(パーフェクト・トレース)』によって相手が作る料理をコピーし、途中でアレンジを加えることで勝利をもぎ取るのだ。

 

 因みに今回の課題、昴は青葉をトレースしていた。

 そうでもしなければ、四宮の課題で落ちる可能性があったからだ。

 

「……あまり俺をトレースするのは止めてくれよ。えりなから見ていると寒気がするって不評なんだよ」

「分かってますって」

 

 それに……っと、昴は思う。

 自身のトレースでは、到底青葉に追い付くことはできないと。

 

 

 

 それはまだ、中等部の頃。

 昴は調理実習の授業で偶然にも、青葉とペアを組む機会があった。

 

「――では、以上の事を踏まえてペアと協力して作るように。それでは、始め!」

 

 授業評価だけはいい男。薙切えりなの腰巾着。

 それが多くの者が当時の青葉に持つ印象であり、昴の認識でもあった。

 だが生徒をストーカーしてきた昴には分かる。青葉にはまだ隠している……目に見えない何かがあると。

 

 ――果たしてどれ程の実力なのか。

 

 この授業はペアで作らなければならない。当然 全く協力していないペアが見つかれば、料理以前にE評価は避けられないだろう。

 授業評価だけはいい男が、果たしてどんな反応をするだろうか。

 手順などを何も相談せず。昴は用意された二人分の内、料理の工程通りに一人分だけ下処理を始めた。

 

 明らかに協調性がなく、このまま行けば間違いなく評価は落ちる。

 どんな反応が来るのかと一つ目の食材の処理を終えた所で、掛けられたのは信じられない言葉だった。

 

「あ、やっと終わった?」

 

 青葉の手元には、たった今 自分が下処理を終えたものと同じ状況が出来上がっていた。

 昴は本来の料理の腕も確かである。

 そんな自分が、後から動き出した奴に負けた?

 苛立ち、次に牛肉を手に取って赤身と脂身を分けていくが――。

 

 ――早い!

 

 遅れて牛肉を手に取った青葉の包丁捌き。

 刃先がケーキでも切るかのように滑らかに入り込み、目にも止まらぬ早さで切り分けられていく。

 『周到なる追跡(パーフェクト・トレース)』を使うが……完全にはコピーできなかった。

 

「美作昴……だっけ? 下処理は俺がやるから、調理の方を頼めるかな?」

「…………」

 

 何も言い返せない。こんな屈辱を感じるのは初めての事だった。

 はやる気持ちを押し止め、一旦冷静になろうと昴は鍋に湯を沸かす。

 沸かし終えたら当然、食材を茹でるのだが……。自分が作った状況とはいえ、何と声を掛けるべきなのか悩んだ時――。

 

「はいこれ」

「――ッ! ……おう」

 

 丁度欲しいと思ったタイミングで渡される食材。下処理を行っていた青葉は湯が適温まで沸いたかなど一切見ていない。

 なのに、まるで知っていたかのように食材を渡され 昴は驚く。

 そして、調理を進める中で気付いた。

 

 これはペアで作る授業だが、間違いなく青葉一人でやった方が早く正確にできるだろうと。

 それでも青葉はサポート役に徹している。食材を、調味料を完璧なタイミングで渡され、ストレス無く円滑に進んで行く。

 即席ではない。まるで長年同じペアを組んできたかのような感覚。いつの間にか昴が主役に立たされ、不思議と悪い気はしない。

 

 ――授業評価だけはいい男? これが、薙切えりなの腰巾着?

 今まで他の生徒は、青葉の何を見てきたのだろうか。

 昴の分析力を『周到なる追跡(パーフェクト・トレース)』とするならば、青葉はその上位互換。『完全掌握(パーフェクト・ビジョン)

 まだ彼の凄さが知られていない中、昴は確信した。

 

 青葉は間違いなく――本物であると。

 




 久しぶりの早めの投稿。
 前回は完全にオリジナル話だったのと気分が落ち込んでいたので上手くまとまらなかったですが、今回は良い感じに仕上がったと作者は思います。
 個人的には毎回こんな描写をしていきたいけど、中々安定しないんですよね……。

 “9種の野菜のテリーヌ”という事で、軽く原作とアニメを見比べていたら使う食材が違ったという……。なのでアニメの方に合わせました。
 後は四宮の性格上、料理が美味しければいいという感じではないので、原作とは違い食材の山を前方に置いたり色々してみたり。
 タグにもありますが、割と作者は原作改変をするのでよろしくお願いします。そもそも青葉がいる時点で改変しないと無理だしね。

 美作昴はここで登場させました。
 完全掌握(笑)とか言っていますが、昴が勝手にそう思っているだけですので。
 後は葉山アキラをどこで出すか……。全然思い付いてないんですよね。
 このままだと原作通り、秋の選抜で出すことになるのかな……。現状 秋の選抜を上手くまとめられる自信がないので、その前に何処かで登場させたいんですけどね。

 次回に関して、宿泊研修の夜とか書くかどうかは決めてないです。
 ただその後に絶対ある、朝食の新メニュー作りをどうしよう……。
 一応考えはあって、とある子と協力みたいな形にはしようと思っているんですが、如何せん描写をする自信が無い。
 原作の料理はそれを見ながら書くだけなのでまだ楽ですが、料理もできない作者が想像で作るのは骨が折れます……。

 後 特に気にしなくていいですが、四宮といった先輩の名前は何となく下の名ではなく名字で書いています。

 今回は偶然気分が良かっただけなので、次回はアニメ前までには投稿できればと思います。何故か今話は8,000字いったしね。このペースで毎日書ければいいのに。

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