神の幼馴染   作:〆鯖缶太郎

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 因みに原作知識は創真達が二年生になった所まで。
 アニメは一応全話見ましたが、どちらも断片的にしか覚えていません。


一皿目

 ~十数年前~

 

 

 

 遠月茶寮料理學園総帥――薙切仙左衛門。

 日本の料理業界を牛耳る存在であり、食の魔王と恐れられるその人を前に、一人の女生徒が立っていた。

 部屋には重苦しい空気が立ち込め、もしこの部屋に第三者がいれば今すぐにでも逃げ出したいと思ったことだろう。

 仙左衛門は手元にある女生徒の資料と本人を見比べ、深くため息をつく。

 

「本当に、退学するのだな?」

 

 その問いかけに含まれているのは、目の前の女生徒が遠月から去ってしまうという惜しみ。

 出来ることならば、退学をしてほしくないという願望であった。

 

「いくら総帥のお願いでも、それは聞けませんよ。私はもう、一人じゃないんです」

 

 自身のお腹を撫でながら、決意の眼差しで女生徒は返す。

 膨らみこそまだないものの、そこには確かな生命が宿っていた。

 仙左衛門も初めて聞いたときは耳を疑ったものだ。突然退学したいと申し出があったかと思えば、その理由が産休など。

 何十年と続く遠月の歴史でも、こんな生徒は初めてであった。

 

「分かっておる。ただの儂の我儘だ。聞き流してくれ」

「ふふふ。総帥にそこまで言って頂けるなんて、遠月の生徒として嬉しい限りです」

「もしお主の退学を二つ返事で承諾する者がおれば、それこそ耳を疑う。ただの生徒であれば、こんなにも気にかけなかったのだがな」

 

 この女生徒がそれこそ、ただの平凡な生徒であればこんなにも気にかけることはしない。

 遠月学園は少数精鋭教育であり、多くの生徒は退学の申請をせずとも振るい落とされる。寧ろ此方から退学を言い渡すことの方が明らかに多い。

 しかし 彼女はそんな玉ではない。誰の目から見ても、一流の料理人が確約されたといえる生徒なのだ。

 

「嘆いても仕方ないな」

 

 仙左衛門は再びため息をつくと、いよいよとばかりに本題へと乗り出す。

 

「ここに呼んだのは他でもない。以前申請された件の目処が立った。薙切薊という男を知っておるか?」

「それは勿論。総帥の義息子ですよね」

「ああ。実はそやつの所にも最近、子が生まれてな。その子の為に 腕のいい料理人が欲しいと言っておって、お主の事を話したら直ぐ様了承したよ。住居の提供もしてくれるそうだ」

「本当にいいんですか? 私が薙切家で働くなんて」

 

 料理の名家 薙切家で、それも料理人として働くなどそうそうできることではない。

 しかも住居の提供もされるとなれば、それだけ価値のある料理の腕が備わっていると認められたということだ。

 だからこそ女生徒は驚くが、仙左衛門からすれば何を今さらという話だ。

 

「……お主はもう少し、自分の立場を自覚したらどうだ?」

「え~……。私はただ、学園内では普通に生活していただけなんですけど。この子を授かって、今冷静に思えばかなり異端でしたが」

 

 大本の話が終わり、今後の女生徒の対応や機密情報を二人は世間話の様に話していく。いや、女生徒からすれば それは世間話でしかなかったのだろう。その事について仙左衛門にまた呆れられ、頬を膨らませる。

 そして漸く本人が立場を自覚し 話が終わりに差し掛かった頃、女生徒は最後の願いを口にした。

 

「あ、もう一つ頼みたいことができました」

「何かな?」

「少なくとも、今いる生徒には私という存在は実在しています。世間も暫くは騒ぐでしょう。だけどこの子が成長したとき、私の存在であまり迷惑をかけたくありません。心配しすぎかもしれませんが……できればでいいので、私を遠月が創り出した架空の人物と情報操作してほしいのです。教員もいますし、全てを消すことは難しいでしょうから」

「ふむ……善処しよう」

「有難う御座います」

 

 二人が顔を合わせてから一時間ほどだろうか。

 遂に遠月から女生徒が去るときがきた。

 

「此れを以て、遠月茶寮料理學園 第76期生 芳賀若菜を――退学とする!」

 

 力強い声と共に、仙左衛門は女生徒の資料へと自らの手で烙印を押した。

 それを見届けた元生徒だった彼女は語ることなく、軽く一礼して部屋を後にする。

 

 総帥として、そして学園の利益として。延いては日本料理界の宝となる料理人を……手放したくはなかった。

 薙切家が実質的に引き取るとはいえ、彼女が表舞台に上がることはもうないだろう。

 遠月を去る姿を見送り、改めて退学の烙印が押された名簿を仙左衛門は見る。

 

 

 

 遠月茶寮料理學園 高等部 第76期生

 二年 芳賀若菜

 遠月十傑評議会 第一席

 得意ジャンル:フランス料理

 

 高等部一年生にして第二席に着き、その卓越した料理センスは当時の第一席をも超えていたと評価する者が多い。

 座学にやや難があるものの、料理に関しては全ての授業において評価A以上。

 特に注目すべきは食戟戦績。中等部だけで200戦以上。高等部に進学してからは席次を狙う者が増え、また彼女自身が勝っても対価を一切要求しないため挑戦者も多かった。

 高等部一年生までに中・高合わせて447戦。その全てが相手の指定ジャンルであり、黒星を付けたことはない。この時点で歴代最多の食戟戦績である。

 人目に付く事を嫌っているのか、中等部入学以降料理コンクールに出場経験はなし。交友関係はほぼ無く、その姿からも『孤高』と評されている。

 今後の動向に注目すべき生徒である。

 

 

 

「ふははは」

 

 将来語られるであろう芳賀若菜という架空の人物を想像し、あまりの可笑しさに笑いが込み上げる。

 

 高等部一年生にして遠月最速で第二席となり、三年生の卒業と同時に第一席に座した唯一の生徒。しかし二年生では第一席の座にいながら突然の退学。

 加えて食戟戦績は現在で561戦。そして負けなし。

 過去の資料を漁ろうと、正確な情報は出てこない。

 当然だ。遠月の生徒を奮い立たせる為に生まれた架空の人物なのだから。

 

 だが、彼女を知る者は思うのだろう。

 それらは真実であり、全てではない。彼女はそんな生易しい存在ではないと。

 

「遠月第一席の突然の空白化……。城一郎は第二席であったがゆえ まだ調整できたが、果たして今回はどうなることか」

 

 この数日後。高等部全体で起きた出来事が、更に芳賀若菜という生徒の噂に拍車をかける事となる。

 その時できた校則は確かな形として残り、出来事は上級生から下級生へと語り継がれた。当時を知る者から知らぬ者へ。そして知らぬ者から知らぬ者へ。

 伝言ゲームとなったその情報は、時に抜け落ち 付け加えられ。彼女という謎の生徒の噂は何年経とうが消えることはない。

 

 

 

 校則:遠月十傑争奪戦

 遠月十傑評議会のトップである第一席が退学した場合、残る第二席から第十席の多数決で過半数が賛成すれば、その十の座を賭けて高等部に在籍する全ての生徒は等しく遠月十傑に名を連ねる権利を得る。

 過半数を下回った場合、遠月十傑の席を繰り上げ、残る第十席を賭けてその他全生徒は争奪戦を行う。

 

 

 

 元第一席は知らない。その席にどれだけの価値があるのかを。その後起こった出来事さえも。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 某県某地区。

 高級住宅が建ち並ぶとある街の一軒家に、芳賀若菜は移り住んでいた。

 

「今日は青葉のお誕生日で、3歳になりました。だから~スペシャルお誕生日プレゼントで~す♪」

 

 若菜の子が生まれて3年。

 芳賀青葉と名付けられた男の子は、障害や病気を持つこと無く 順調に成長していた。いや、成長しすぎていた。主に精神的な面で。

 例えば今日。青葉は己が生まれてから3年目だと理解していた。1年は365日であり、今日で1095日目。言動は凡そ同年代の子より大人びている。

 

 しかし若菜はそんな事を気にはしないし、寧ろ聞き分けが良くて手間がかからず、立派な大人になるだろうと喜ぶ。

 若菜の我が子に対する溺愛ぶりもなかなかのものであった。

 

「見てもいい?」

 

 高級感溢れる装飾が施された紙袋を前に、青葉はワクワクを胸に確認を取る。

 いくら精神年齢が大人びていようと、やはり3歳児には変わりない。若菜が頷くのを見て、紙袋から慎重に中身を取り出した。

 中から出てきたのは長方形の木箱。そこに入っているのだろう誕生日プレゼントに、果たして何が出てくるかとゆっくり蓋を開ければ、

 

「…………母さん?」

「ふっふっふ~」

 

 青葉はそれをたっぷり10秒ほど見て困惑。若菜はそんな我が子の反応を見て、してやったりとほくそ笑んだ。

 

 箱から姿を現したのは、一点の曇りもない銀色の刃身。その切っ先から黒い柄元へと流れる刃紋は、芸術品だと見紛うほどの美しさを放つ。

 一目で高級であると分かるそれは、刃渡り18cm程の包丁であった。

 

 青葉はこの世界に料理人が多いことは知っている。テレビ番組やCM、ニュースに至るまで料理関連が多く。母である若菜も料理好きなのは理解している。

 だが だからと言って、3歳児に包丁はどうなのであろうか?

 そんな青葉の気持ちを余所に、勝ち誇った笑みで若菜は宣告した。

 

「青葉には、今日から料理を作る練習をしてもらいます!」

 

 ビシリと効果音が付きそうなほど綺麗な指差し。

 こうなったらもう止められないと理解しつつも、最後の抵抗として青葉は質問した。

 

「何で俺が料理を作らないといけないの?」

 

 それは至極真っ当な疑問である。

 そもそも青葉は将来の夢に、料理人になりたいと言ったことなど一度もない。

 なら他に夢があるのかと問われれば まだ無いのであるが、だからと言って3歳から料理を作る理由にはならないだろう。

 今から料理を作らずとも、もっと年月が経ってからでも遅くないはずだ。

 はずなのだが、

 

「これはお母さんの我が儘であり、青葉のためでもあるの。だからまずは料理を作ってみて、青葉が嫌なら諦めるわ。今日だけでもいいの。だから 一緒に 料理を作らない?」

 

 青葉のため。

 若菜が提案する突拍子もないことは、大体が何らかの形で青葉を思ってのことである。

 

「具体的には?」

「青葉が大きくなって、一人でお留守番出来るようになったから 最近お母さんは働き始めたでしょ? その働いている家に一つ年上の女の子がいるの。だから、青葉を呼んで遊ばせてもいいかって雇い主に聞いてみたんだけど……。だけどその人、かなりの美食家だから、料理の才があると分からなければ会わせるわけにはいかないって言われちゃって」

 

 それを聞いて青葉は納得する。

 要するに友達をつくって欲しい、ということなのだろう。

 そもそも青葉は3歳であり、若菜が働くならばどこかの施設に最初から預ければいい。そうすればそこで出会った子と友達になることも簡単だ。

 だがそれは出来ない。若菜がさせないといった方が正しいか。

 

「分かった。やる前から断るなんてことはしないよ」

「うんうん。青葉ならそう言ってくれると思ったわ。それに初めてなんだから、できなくて当然。子供は失敗できる内に失敗しないとね」

 

 お母さんもサポートしてあげるから と、二人はキッチンへと向かう。

 

 

 

 そんなやり取りを終え、青葉と若菜はキッチンに立っていた。といっても、青葉は身長が足りないため台の上だが。

 高級住宅に備えられた広々としたキッチン。食器や調味料、料理器具まで様々揃っており、隅々まで掃除が行き届いて清潔感で溢れている。

 

 料理前に若菜から手取り足取り説明されながらお手洗いをし、始めてだから上手く出来なくても大丈夫、包丁で怪我だけはしないようにと青葉は言われた。

 

「それじゃあ今日のお昼はカレーを作りましょう。青葉はジャガイモや人参の皮むきをよろしくね」

 

 目前にはまな板と先程プレゼントされた包丁。カレーに使う各種野菜類が置かれている。

 何も包丁で皮をむかなくても、子供ならピーラーとかの方が余程簡単で安全に出来るだろうと思いつつ、青葉は覚悟を決めて包丁を持つ。

 

 やはり3歳児にはまだ大きく、手に余る包丁だ。けれど不思議と手に吸い付き、まるで長年扱ってきたかの様な感覚にとらわれた。

 怪我をしないか 若菜がハラハラと見守る中、一先ず手前に置かれたジャガイモを手に取り、意識を集中させるために目を閉じる。

 イメージとしては充分だ。若菜の調理は毎日のように見ているし、暇さえあれば料理番組を眺めていた。

 それに失敗しても大丈夫だと、青葉が心の中で決心したとき。

 

「……え?」

 

 若菜が目を見開き、今起きたことが信じられないと驚きをあらわにした。

 その声に気付いた青葉は若菜の顔を見て、その視線の先で起きていた出来事に同じく、

 

「……は?」

 

 現実を理解できないでいた。

 それもそのはずだ。青葉が先程まで持っていたのは皮をむいていないジャガイモ。

 では今、手の中にある丸裸にされたジャガイモは何だというのか。それはもう丁寧に、優しく薄く美しく。まるで女性の柔肌を扱うかの様な繊細な皮むき。

 

「青葉、もう一度ジャガイモの皮をむいてみて!」

 

 キラキラとした眼差しを向けられ、青葉はまた別のジャガイモを手に取ると、今度はちゃんと意識を向けて皮をむこうとする。

 すると どうだろうか。料理をするのは初めてのはずなのに、どういう訳かむき方が感覚で分かる。それに従って包丁を動かせば、忽ち二個目のジャガイモが丸裸となった。

 しっかり青葉の意思で動かしているし、操作されている気もしない。にも関わらず、こんなものは出来て当たり前だと言わんばかりの手捌きだ。

 

「流石私の青葉ね!」

 

 青葉の頭をよしよしと撫でる若菜。

 果たしてそれで済ませていいのだろうか。

 親の才能が子に受け継がれるとは良く聞く話だが、これはそれだけで済ませる話でもない。

 

 青葉は難しく考えることを止め、取り敢えず野菜の下処理に集中することにした。

 皮をむくときと同様、野菜を切る時にもその能力ともいえる感覚が伝わってくる。従って切ればトントンと心地よく包丁が入り 気持ち良い。けれど、わざとそれに反して切ってみると 気持ち良くない。

 確かに見た目は変わらぬ切られた野菜だが、まるで均等が取れていない様に感じるのだ。

 

「母さん、別々の鍋で同じ種類のカレーって作れる?」

「ん? 別に作れるけど、どうして?」

「ちょっと味を比べてみたいと思って」

 

 若菜はやや考えた後、折角料理に興味を持ってくれそうだし、このぐらいの頼みなら聞いてあげようと頷く。

 下処理を終えれば、火元に関しては若菜がこなす。

 片方は能力で野菜を切ったカレー。もう片方は能力を使わずに野菜を切ったカレー。

 

「……こっちの鍋の方が野菜の香りが良いわね」

 

 カレーを煮込む際に立ち上る香り。

 ルーやスパイス、そして野菜が混じりあってできる香りの中に、確かな違いを若菜は感じる。全く同じ行程で同じ環境なのに違いがある。その差の多くは、素材の質と料理人の腕によって生まれるものだ。

 けれど野菜を切ったのは青葉であり、見守っているときに特に違いは感じなかった。

 二つのカレーが完成し、それぞれを皿に移して昼食にする。

 

 まず二人が食べたのは、能力を使わずに野菜を切ったカレー。味に関しては美味しい。

 それもそうだ。青葉は野菜の下処理をしただけで、他の事は若菜がやったのだ。野菜の切り方も教えてその通りにできていたので、いつも通りの味といえる。

 そして次に、能力を使ったカレーを前にして若菜はやはりと思う。

 スパイスの中に確かに存在感を主張する野菜の香り。だがそれは互いを邪魔するのではなく、より良いものへと高めあっている。

 そして一口。

 

「うん。やっぱりこっちの方が――母さん? どうしたの?」

「…………」

 

 無言で立ち上がり 足早に洗面所へ向かう若菜を見て、青葉はトイレかなと思ってまたカレーを頬張った。

 

 そして若菜は洗面所へ辿り着き、今まで止めていた息をよくやく吐き出し 鏡を見た。

 顔を赤らめ、息が荒い。表情筋が自然と緩む。

 それ程までにあの二つのカレーの味は違い、美味しかった。

 違いがあるとしたら、やはりあの時。野菜を切っている最中、青葉が二つのカレーを作ろうと提案したあの時だ。

 恐らくそこで、青葉は野菜に何らかの細工を施した。若しくは何かに気付き、違いを確かめようとした。

 若菜が見ている限りでは、その違いはなかったはずだ。取り揃えた野菜の質も確認したが、何ら変わりない。なら可能性があるとすれば、野菜の切り方。

 食材は繊維の向きに対し、どの様に切るかで舌に与える印象を大きく変える。勿論料理人はそれを気にするし、注意を払う。だがあそこまで香りや味を引き立たせる事はできるのか?

 それにカレーを煮込んだのは、野菜を切った青葉ではなく若菜だ。

 いつもの感覚で煮込んだのに、まるで各野菜の火の通りまで最初から見透していたかの様な……更に言えばオリジナルブレンドのスパイスとすら完璧に調和してみせたあの味。

 

「ふぅ……」

 

 漸く体が落ち着き、若菜は深呼吸をする。

 今回の料理を通して分かったこと。それは青葉にとてつもない料理人としての才があるということだ。

 これは若菜にとって非常に嬉しい。幸い野菜を切り終えた後に青葉から「楽しい」と聞けたので、続けてくれる可能性は高いと感じている。

 これならば、あの人にも青葉は認められるはずだ。

 

 

 

 意気揚々と青葉の元に戻る若菜は気付かない。共に過ごしてきた若菜だからこそ、気付かないと言うべきか。

 今の青葉に、決定的に欠けているものがあるということを。

 




 料理描写とか書けないので……テキトーに誤魔化して書いていきます。
 一応今作の最終話までの物語は頭の中で出来てます。
 ではまたいつの日か会いましょう。
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