神の幼馴染   作:〆鯖缶太郎

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 今頃ですが、他作品で”非ログインの感想可”が結構あるので、本作も変更して書けるようにしました。
 普段からご自由に感想どうぞと言っていたのに、今まで書けなかった読者様がいれば申し訳ないです。


六皿目

 瞬くフラッシュの嵐の中。

 多くのカメラが向けられるその先に、一人の少女がトロフィーを手に立っていた。

 

『第46回 日本プロフェッショナルコック協会

 フランス料理ニュースターコンクール』

 

 何処にでもありふれた料理コンクールの一つ。

 本来ならば、新聞や雑誌の片隅に掲載されるぐらいの記事にしかならないそこに、多くの記者が詰めかけていた。

 

 何故 これほどの記者が?

 

 それは今回のコンクールで最年少ながら、優秀賞を取った少女が目的――ではない。

 

 その時だった。

 少女を撮影していた記者の視線がある一点に集まると共に、微かなどよめきが起こる。

 その先にいた人物こそが 今回の主役。少女を超える、最優秀賞(グランプリ)を取った者。

 

 

 

『世界若手料理人選手権コンクール THE BLUE』

 

 ニューヨーク・パリ・ミラノ等で予備選出された世界中の若手料理人が一堂に集い、勝利を掴み取ればワールドクラスの名声と未来が約束されるコンクール。

 そこに高校生ながら選出され、優勝は間違いないと期待される、100年に一人と言われる料理の才を持つ男。

 

 

 

 そんな男が少女へと歩み寄る。

 

 最優秀賞と優秀賞の……いや。100年に一人の逸材と言われる男を後一歩まで追い詰めた、彗星の如く現れた無名の少女の会合。

 その二人が向かい合ったとき、記者の興奮はピークに達した。そして己の勘が告げる。今日のベストショットは、間違いなくここであると。

 

 今日一番のフラッシュの嵐に包まれ、二人の会話が記者に届くことはない。

 

「悔しいか?」

 

 男の問いに、少女は周りの騒ぎが鬱陶しいと思いながらも口にする。

 

「別に」

 

 強がりではない。本当に少女の中には、悔しさは微塵もなかった。

 寧ろ、このコンクールに出場した数多の料理人に呆れていたのだ。初めて出場したコンクールで、最年少である自分が優秀賞を取れたという事実に。

 

「私は私の今出せる納得の料理を作っただけ。他人からの評価なんて気にしないわ。勝手に期待なんてされたくないし、背負いたくもない。貴方のようにね」

「……そうか。凄かったぜ、嬢ちゃんの料理は。俺が嬢ちゃんと同い年の時だったら、確実に負けていただろうな」

「貴方の料理も凄かった。まだ私の料理には先があるんだって思い知らされたから。親に勝手に申請されたから仕方なく出場したけど、良い経験になったわ」

 

 そう言い終えると、少女はチラリと周囲の様子を確認する。

 そして未だに鳴り止まぬフラッシュに溜め息を吐き、この場から離れることを決意した。

 

「料理を作っている時よりも疲れちゃった。よく貴方はこんな中を平然といられるわね。そろそろ帰らせてもらうわ」

「――待ってくれ」

 

 踵を返そうとする少女を、男は呼び止めていた。別にまだ用があったわけではない。けれど、自然と口が動いていたのだ。

 そして呼び止めてしまった以上、何も聞かないわけにはいかなかった。

 

「……今さらかもしれないが、名前は何て言うんだ?」

 

 咄嗟に思い付いたのは、そんな質問だった。

 男と少女が会ったのは今日が初めてだが、既に表彰式を終えている。

 仮にも最優秀賞と優秀賞。聞かずとも、互いの名前など認識しているだろうに。

 

「若菜。芳賀若菜。貴方の名前は?」

「……俺か? 俺の名前は――才波城一郎だ」

「ふ~ん。知ってた」

 

 いち早くこの場を去るべく手短に答え。しかし、こちらが名乗ったのだから そちらも名乗り返せと問い。そして、貴方は私の名前を覚えていないのかと言わんばかりの台詞を残し、

 

「それじゃ 城一郎。また機会があれば会いましょう」

 

 ある意味豪胆で 緊張感のない自由奔放な若菜をみて、城一郎は何を思ったのだろうか。

 

「才波くん! 一言いいかな? 月刊『料理帝国』の者だけど、先程は一体どの様なことを二人で――」

 

 大勢の記者に囲まれ、カメラの次はマイクを向けられる。皆一様に 期待の眼差しを向けてくる。

 一体いつからだろうか。見ず知らずの人間の期待を背負うようになってしまったのは。料理を作る度に、息苦しく感じるようになってしまったのは。

 

 城一郎の目には、会場を去る少女の背が やけに眩しく見えた。

 

 それはまるで、嵐舞う荒野の中で到達点(ゴール)を指し示す、一筋の光のようだった。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 車窓から見える景色をぼんやりと眺める。

 知らない土地。知らない景色。

 車に揺られること数時間。漸く止まった車から降りた青葉は、一つ大きく伸びをした。

 

「母さん。外食に行きたいとは言ったけど、何でこんなにも遠い場所に来たの? 別に最初はそこら辺のチェーン店でもよかったのに」

「ちょっと青葉に会ってほしい人がこの町にいるの。それに、その人も定食屋をやっているからついでにね」

 

 多分こっちかな……と、運転席から降りた若菜も慣れない土地なのか地図を片手に歩きだす。

 青葉はそれに置いて行かれぬよう、小走りで駆け寄った。

 

 二人がこの町を訪れた理由。

 それは前々から青葉が外食をしたいと提案していたからだ。

 青葉に不足している、料理を振る舞う経験と食べる経験。その事について若菜も同意しており、しかし振る舞う経験とはすぐに積む機会があるものではない。

 そこでもう一つの食べる経験。これは外食をすれば解決するため、その候補として選ばれたのがこの町にある定食屋だった。

 

 その定食屋まで行く道中。夕暮れ時なこともあって、多くの学生とすれ違う。そして口々にあることをぼやいていた。

 

「マジで“ゆきひら”やってないのかよ~」

「前から今日は臨時休業だって張り紙が貼ってあったじゃない。それなのに何嘆いてんのよ」

「いや、もしかしたらやってるかもって思うじゃん? だけど行ってみたらやっぱやってないじゃん? 落ち込むじゃん? つまりそう言うことじゃん?」

「あんたが馬鹿で、それに付き合った私は大馬鹿だってことがよく分かったわ」

「二人とも落ち着こうよ。お店が逃げるわけじゃないんだし、明日また来よ?」

「でもさ~。じゃあ何でシャッター閉めてなかったんだろうな。本当にやってると期待したのに」

 

 反応の違いはあれど、多くの学生が“ゆきひら”という名の店を口にする。

 そして歩くこと数分。

 

「あった。すみれ通り商店街」

 

 若菜が歩みを止め、すみれ通り商店街と書かれたアーチ状の門の前で立ち止まる。

 目的の定食屋はこの通りにあるようだ。そのまま中へと進んでいけば、その定食屋はすぐに見つかった。

 

「お食事処 ゆきひら……」

 

 そこは先程まで多くの学生が言っていた場所だった。

 シャッターは開いており 一見営業しているようにも見えるが、出入口の戸には『本日臨時休業』と書かれた張り紙ある。

 

「やってないみたいだけど、本当にここなの?」

「そうよ。私たちの為に臨時休業にしてくれたって言う方が正しいわね」

 

 若菜は戸に手を掛けると、躊躇いなく開けた。

 

「いらっしゃい。悪いが今日は――っと、若菜じゃねぇか」

 

 中に入ると、厨房に一人の男が立っていた。

 赤みがかった髪を伸ばし、その風貌とあご髭を蓄えた様はワイルドな男らしさに溢れている。

 

「今日は臨時休業までしてくれて、感謝するわ」

「まっ、取り敢えずそこのカウンター席にでも座ってくれや。もうすぐ息子が帰ってくるからさ」

 

 言われるがままカウンター席に腰掛け、青葉は初めての定食屋がどんなものかと辺りを見渡す。

 少し古ぼけた店内。昭和のポスターや壁に掛けられた『焼き肉定食 600』といったメニュー表がいい味を出している。

 テーブル席に加え 座敷席もあり、どこか居心地のよい落ち着いた雰囲気を感じさせられた。

 今日は臨時休業だが、ここに来るまでの学生の話などを聞く限り、普段はもっと賑わっているのだろう。

 

「ところで、君が若菜の言っていた青葉で間違いないかな?」

「はい。初めまして。芳賀青葉です」

「俺がこの食事処ゆきひらの店主、幸平城一郎だ。よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 人当たりの良い笑顔を浮かべながら、城一郎は青葉に手を差し出す。

 握手を交わし伝わってくるその手の逞しさは、長年料理の腕を研いてきた事を感じさせられた。

 そこでふと 思った疑問を青葉は聞いてみる。

 

「母さんと城一郎さんはどうやって知り合ったの?」

「ん~そうね。電話やメールでは何度も連絡を取ってはいたけど、こうやって直接会うのは 今日で三回目かしら」

「そうだな」

「え? まだたったの三回?」

 

 今日の為だけに臨時休業にしたり、親し気な様子を見て仲の良い関係かと思えば、まだ三回しか直接会った事がないと二人は言う。

 

「初めて会ったのは私がまだ中学に上がる前だったから、大体十年前。その後に薊さんの屋敷で偶然再会して、連絡先を交換したのよ」

「へ~。そうだったんだ」

 

 そんな世間話に花を咲かせていると、ガラガラと戸の開く音と共に幼い少年の声が店内に響いた。

 

「親父。今日は臨時休業だって言ってたのに、表が開いてるんだけど……お客さんいるの?」

 

 その少年の様子から見て、城一郎の言っていた息子が帰ってきたのだろう。

 城一郎よりも更に赤い髪を尖らせ、左目の眉に傷痕を残した幼さの残る少年。

 

「おう、創真。やっと帰ってきたか。さっさと着替えて厨房に立て」

「え!? 遂に俺もお客さんに料理を……」

「んなわけあるか。今のお前の料理で客から金を取れるわけねぇだろ。今日は知り合いを呼んだんだよ。まぁ、この二人の舌を俺よりも唸らせる事が万が一にでもあったら、そん時は考えてやる」

「言ったな親父。その勝負、受けて立つ!」

 

 創真と呼ばれた少年はやけに威勢よく、勢いそのままに厨房の奥へと入っていく。

 

「なんで勝負になってんだか。すまんな二人とも。少し創真に付き合ってやってくれ。ちゃんと俺も料理を出すからさ」

「別に気にしなくてもいいわよ。今日は青葉に食べる経験を積ませるために来たんだから」

 

 程なくして、着替えを終えた創真が厨房へとやってきた。

 

「注文はどうする?」

「そうね……。青葉は何が食べたい?」

 

 メニュー表を渡され、何を頼もうかと考える。

 勝負だと意気込んでいる創真を見て、これから青葉と若菜に食べ比べの為に二人分が出されるはずだ。となれば、量の多い定食系はまず選択肢から除外される。

 親子丼やカツ丼、天丼といった丼物は少し引かれるが、生憎昨日 家で食べたばかりなのでこれも除外。

 そうなると他に良さそうなのは……。

 

「それじゃあ、五目炒飯でお願いします」

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

「召し上がれ」

「おあがりよ!」

 

 五目炒飯ができたタイミングはほぼ同じ。創真が若干遅かったぐらいだ。

 定食屋特有の、しかもカウンター席ということもあって、二人の調理姿はよく見えた。

 創真は青葉と同じく3歳から包丁を握り、正式に客に料理を振る舞ったことはないが厨房に立ち続けているという。

 その成果もあって、その調理姿は見事であるといえた。

 具や薬味の下準備。油の使い方。焼き加減。投入の手際や鍋の振り方まで。

 本当にそれは見事だった。青葉より一つ年上である、5歳の料理にしては。

 

「城一郎の方が美味しいわね」

「俺もそう思います」

 

 しかし、創真の相手が悪かった。

 長年厨房に立ち続けた、店主でもある城一郎と共にその調理姿を見比べれば、食べる前から結果は分かりきっていた。

 創真も薄々感じていたのか、やっぱり負けたかと天を仰ぐ。

 

「あ~勝てね~」

「創真が俺に勝とうなんざ百年早いんだよ」

「へん! 今日は俺が負けたが、いつか絶対勝ってやるんだからな……。五目炒飯で負けっと」

 

 メモ帳を取り出し、創真は今日の日付と五目炒飯で負けたことを書き込んでいく。

 後に連敗を書き込んでいく事となるそれを仕舞うと、青葉と若菜に向き直った。

 

「それにしても、親父の知り合いか。全然そんな話とか聞いたことがなかったんだけど、その子も料理は作るの?」

「青葉も家ではよく作ってくれるわ。ちょっとした事情で外出を控えていたから、今日は始めての外食にここを選んだのよ」

「へー! 始めての外食で"ゆきひら"を選んでくれるなんて、光栄だな!」

「おい創真。何自分の飯を食いに来た見たいに言ってんだ」

 

 得意気に鼻の下を掻く創真を見て、城一郎は思わずツッコミを入れる。

 一般には臨時休業の為、客が入ってこないことや若菜と城一郎が知り合いな事もあって、話が段々と弾んでいく。

 自己紹介も改めて終え、青葉と若菜が炒飯を食べ終えた頃、創真がこんな事を提案した。

 

「そうだ。材料はまだ余ってるし、良ければ青葉も五目炒飯作るか?」

 

 あまりにも突拍子のない提案に、青葉は一瞬思考が停止する。そして、それは悪いからと断ろうとするも。

 

「いいじゃない。折角料理を振る舞うチャンスなんだから、作ってみなさい」

「俺も構わないぞ。それに、どんな調理をするのか見ておきたいしな」

 

 若菜と城一郎もその言葉に乗り、なし崩し的に青葉は厨房へ立つこととなった。

 道具や調味料は出してあり、段取りも先程まで調理姿を見ていたので覚えているが、念のため一連の流れを想像する。

 

「こうやって親父以外が厨房に立ってるのを見ると、何か新鮮だな。そう言えば今更だけど、青葉は鍋を振れるのか?」

「もちろん振れるわよ。私がちゃんと教えているし、青葉も覚えが良いのよ」

「そいつは楽しみだな」

 

 そんな話し声も、青葉の耳には次第に届かなくなる。目を閉じて、イメージする。

 

 思い出せ。城一郎の調理姿を。あの無駄の無い動きと手順で、完璧な大衆料理を作り上げた様を。

 そして使いこなせ。己が持つ能力を。更なる高みへ、才能へと昇華させるために。

 

 ――こうなるんだったら、包丁(あいぼう)を持ってくればよかったな。

 

 目を開き、包丁を握る。

 創真が使っていたものだが、握った感覚はいつもより多少違えど問題はない。

 これから調理し、料理を振る舞うんだ。そう思うだけで、自然と笑みがこぼれた。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 創真はカウンター席に座りながら、厨房で目を閉じて集中している青葉を眺めていた。

 

 料理を作れると聞いて、特に考えることなく五目炒飯を作らないかと誘ってしまい 悪いことをしたなとは思う。けれど実際、どの程度調理ができるのだろうかと興味があったのだ。

 

 もちろん料理の腕で負けるつもりは更々ない。

 親父であり 料理人でもある城一郎の姿を見続け、3歳の時には包丁を握り厨房に立った。いつの日かこの店を継ぎ、そして城一郎を超えるために。数え切れない程の料理を作り、研鑽してきたのだ。

 店のメニューは一通り作れるし、五目炒飯を作ったのも一度や二度ではない。まだ認められてはいないが、客に出せる味だと自負している。

 

 料理の経験も青葉より一年先輩だし、多少出来が悪い五目炒飯になっても褒めてやろう。

 そんな軽い気持ちで、最初は見ていた。

 

 ――目を開け、包丁を握った青葉が笑う。

 

 まな板には五目炒飯で使う具材であるチャーシュー、人参、玉ねぎ、椎茸、ちくわなどが置かれている。

 まずはいしづきが切り落とされた椎茸に包丁をそっと当てると、空気が変わった。

 

 そして始まる 青葉の調理。

 

 最初は具材のみじん切りからだ。創真は自分の調理姿を青葉に重ね合わせるように見る。

 まず炒飯に入れる具材だが、基本的にご飯粒と同程度でなければならない。炒飯のパラパラとした米を食べたとき、具材が大きすぎると口の中で喧嘩してしまい、味と食感が台無しになってしまうからだ。

 そして定食屋は料理の美味しさ、そして調理の速さが何よりも重要。

 速さを求めるあまり、具材を大きく切りすぎるのは論外。しかしゆっくり丁寧にやれば、それだけ一品に使う調理時間が延びてしまい、回転率が悪くなる。客入りがピークの時にそんな事をやれば、間違いなくパンクしてしまうだろう。

 

 つまりみじん切りは、炒飯作りで最も差のでる場所ともいえる。

 だからこそ創真は、ここで青葉にどの程度の実力があるのかを判断しようとし、

 

「嘘……だろ……?」

 

 思わず、そんな言葉が口から漏れた。

 目の前の光景。その速さ、そして正確さを創真は知っていた。それは未だ求めても届かない、城一郎の姿と重なって見えたのだから。

 

 目にも止まらぬ速さとはよくいったものだ。

 店内に響く包丁とまな板が当たる一定のリズム。目を閉じてそれだけを聞いたならば、それは心地よい音色にも聞こえる。

 だが、目を開けてみればどうだ?

 何故その速さでそれだけの音しか出ないのか。何故その速さで、具材をムラ無くみじん切りにできるのか。

 それはまるで、包丁を当てただけで 食材が自らの意思で最適な大きさになっているかの様ではないか。

 

 城一郎と同等……。いや、それ以上の速さと正確さかもしれない。

 気付けば創真は、全身の毛が逆立つ感覚を覚えていた。

 

 青葉の動きは川のように淀み無く、止まることはない。

 みじん切りを終えれば、それを湯で沸かした鍋の中へ入れる。

 軽く火を通している間に卵を割って溶き卵を作りつつ、中華鍋を温める為に強火で点火。

 さっと茹でた具材をザルへと移し、袋に入れて醤油で下味を付けるように揉めば、丁度鍋が温まった。

 

 油をたらし、細かく刻んだ生姜とネギを入れて香りが立てば溶き卵、すかさずご飯を投入。

 卵とご飯が絡み合い、それをおたまで押しながらほぐしていく。ご飯がパラパラになるように。そして、底にあるご飯が焦げぬように。鍋を振り、酒を入れて水分を飛ばし、先程下味を付けた具材と塩胡椒などの調味料を加え。

 それらが混ざりあい、パラパラのご飯が出来上がった時――。

 

「どうぞ お召し上がりください」

 

 皿に盛られた五目炒飯が、三人の前に置かれる。

 

 創真は青葉の事をなめていた。

 自分の方が厨房に立ってきたのだ。料理だって一年早く初め、これまで研鑽してきたのだ。

 なのに、それなのに負けた。

 食べなくとも分かる。少なくとも、創真は青葉に負けたと確信できるぐらいに。

 

 だが、城一郎と比べたらどちらが美味しいのか?

 もしも、城一郎の味すらも超えているならば……。

 

 震える手で炒飯を口へと運び、咀嚼し――創真はその味に安堵した。

 

「旨い。旨いけど……親父の方が上だな!」

 

 城一郎の料理の方が旨い。それが分かり創真は安堵し、まるで自分の事のように誇る。

 それを聞いた城一郎が「何言ってんだ」と拳骨を入れた。

 

「いってーな親父!」

「分かっちゃねぇな。俺や創真の皿と青葉の皿。旨い旨くない以前に、決定的に違う部分があるんだよ」

「違う部分?」

「料理を出す相手だ」

 

 料理を出す相手? それは今、ここにいる人に出しているのではないのか?

 そんな事を創真が考えていると、

 

「俺と創真の皿は大衆のお客様に向けて。だが青葉の皿は、若菜に向けて出されているんだよ。正確に言えば、若菜個人が好きな味付けをしている。恐らく若菜のみに関して言えば、俺の皿より青葉の皿の方が旨いと感じているはずだぜ」

「そうね。私としては、城一郎よりも青葉の皿の方が美味しいと感じたわ」

 

 そもそも同じ料理、同じ行程で作られたのに何故味が違うのか。それは火入れや食材の切り方、調味料の量といった微妙な違いなどから生まれる。

 

「恐らく無意識でやっているんだろうが、料理人を目指すならちと厄介な癖だな」

「無意識でやれるもんなの?」

「実は青葉が私以外に料理を振る舞うのはこれが二度目なのよ。今までずっと家で練習してきたから、それが染み付いちゃったみたいで」

「これで二度目!?」

 

 その事実に創真は驚愕する。

 家が定食屋の為あまり意識はしていなかったが、確かに多くの家庭では料理を頻繁に振る舞うことは難しいだろう。

 けれど、今日で振る舞うのが二度目。しかも青葉の外食はここが初めてと言っていた。つまり経験値は圧倒的に創真が勝っているのだ。

 それなのに、料理で青葉に負けた。

 拳を握りしめる創真を横目に、城一郎は五目炒飯をもう一口食べ 納得したように頷く。

 

「なるほどな……。分かった。青葉の件、受けてやってもいいぞ」

 

 青葉の件。その意味が分からず、何の事だろうかと青葉は若菜を見る。

 

「そう言えば、城一郎が受けるか分からなかったし、期待させたら悪いと思ってまだ伝えていなかったわね」

 

 ここに来る前、若菜は当然 城一郎と連絡を取った。

 そしてその時、青葉について語ったのだ。青葉に料理を教えてやってはくれないかと。

 それが若菜の考えられる中で最適であり、そして青葉の希望に答えられる方法でもあったから。

 

「こう見えても城一郎は、私なんかよりずっと顔が広くて 料理も上手くてね。海外で学ぶのはいつになるか分からないけど、確実に連れていってもらえるわ。それに普段から料理を学ぶにしても、ここの環境が一番だと思うの。だから青葉さえよければ、これから城一郎の元で料理を学んでみないかしら?」

 




 冒頭のコンクールなどは原作で出てきたやつをそのまま使いました。けれど少し違う点として、原作では『プロフェショナル』という部分を『プロフェッショナル』に変更してあります。どっちが正しいかは分かりません。

 若菜と城一郎の初めての出会い。そして青葉も城一郎と創真に出会いましたね。
 いよいよ青葉が城一郎の元で学んで創真が触発されたり、青葉が海外へ行ったり色々ありそうって感じがしますが、残念ながら次話は時系列が飛んで本編が完結すると思います。
 作者に文才と知識があれば青葉メインの料理道を書くのもいいと思うんですが、生憎そんなものは無いのでバッサリカットの予定。料理描写はもうこりごりです……。味の感想描写とかも無理……。
 それに、書きたいのは青葉の成長記録じゃなくて、原作キャラとの絡みだからね。仕方ないね。

 前々回も言いましたが、本編が完結しても番外編(第二部)として『神の同級生』(仮題)という、青葉と創真達がもし同級生だったらの物語も書く予定です。連載形式になるか短編を繋げるかは不明。
 これについては次話に詳しく説明しようと思います。

 ではでは、今回も読んでくれてありがとうございました。
 感想や評価、お気に入りなどお気軽に~。
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