時系列は前回の最後でいったように飛んでいます。
”あとがき”も同時投稿していますので、よければそちらもご覧ください。
『――勝者は、反逆者連合!!!』
会場に響く、司会者の熱の籠った宣告。
それを背に受けながら、城一郎は一人 会場の外へと歩を進めていた。
北海道の北端――
本来ならば、遠月学園 高等部一年生の進級試験が行われる最終到達地点。
その場所で、創真率いる反逆者連合。薊政権率いる
会場の外に出るとすっかり吹雪は止んでおり、雲は晴れ。まるで、反逆者連合の勝利を祝福するかの様に、天から光が降り注ぐ。
「全く。ヒヤヒヤさせてくれるぜ」
今回の食戟で賭けられた対価。
中枢美食機関は遠月十傑評議会全席を。対して反逆者連合は一人の料理人――城一郎の人生を。
もし反逆者連合が負ければ、城一郎は薊の犬になっていたのだ。
自身の人生をチップにし、あまつさえ高校生に託すなど、今冷静に考えればあまりにも危ない橋だった。
「あっ」
白い息を吐きながら、天を仰いでいた城一郎はふと、あることを思い出す。
ポケットに突っ込んでいたスマホを取り出し、画面を開いたと同時に映った大量の通知に……再び天を仰いだ。
「まずいな、こりゃ」
映っていたのは電話の不在着信。それが数件ならまだよかっただろう。
だが、それは全て同一人物からの電話であり。加えて数えるのが億劫になるほど、軽く見ても数十件は並んでいる。
そして城一郎は、何故これ程の着信がこの人物から届くのか心当たりがあった。いや、心当たりがありすぎた。
「電話を折り返すべきか。返さないべきか……」
答えは一択しかないのだが、この問題に暫し葛藤する城一郎。
そして漸く決心したのか。恐る恐る画面を操作し、スマホを耳に当てた。
数回コール音が鳴ると、電話が繋がる。取り敢えず言い訳をするため口を開こうとし。しかし、相手の方が城一郎よりも先に話しかけてきた。
『城一郎さん!? 今どこにいるんですか! 大体こっちが何日前から電話をしていると――』
どうやら相手は相当慌てているようだ。
此方が口を挟む間もなく捲し立てるように、次から次へと言葉を発する。まるで大雨が降っている時に流れる濁流のように。
故に城一郎は、何とかして相手を落ち着かせようと強引に話しかけた。
「落ち着けよ青葉。らしくもない」
『落ち着いていられる訳が無いでしょうが!!』
電話の相手――青葉が叫ぶ。果たして彼が、ここまで慌てた事が今までに一度でもあっただろうか?
いや、ない。断じてない。
ならば、これ程までに慌てている理由とは何なのか?
それは続く青葉の言葉で、城一郎の中にある自信が確信へと変わった。
『何で、何で俺が! ニューヨークシティー マンハッタンロイヤルホテル VIP専用レセプションホールで! 料理長代理になってるんですか!!』
そう。青葉は現在料理を振る舞っていた。それも、ただの客に振る舞うのではない。
世界の名だたる有名人、重鎮、美食家が集うVIP専用レセプションホール。そこで、料理長代理として料理を振る舞っていたのだ。
もし仮に下手な皿をだそうものならどうなるか?
そんな鬼気迫る青葉に対し、城一郎は開き直ることにした。
「HAHAHA。おっかしいな~。ちゃんと置き手紙は書いておいたはずなんだが?」
『ええ、ええ。ありましたよ、置き手紙。“ちょい任せた”って書かれただけの、ペラッペラの紙切れがねぇ!』
城一郎が日本に帰国する前。それは青葉と共に海外を巡り、料理を振る舞っている最中だった。
そして薊の件で呼ばれたとき、丁度ニューヨークシティーで料理長代理を任されており。そんな大役を引き受けた以上、容易に断ることはできない。
そこで城一郎は考えた。その役目、全て連れの青葉に任せてしまえばいいじゃないかと。
当然青葉はそんな事を一言も聞かされていない。
朝起きたら突然料理長代理に任命され、城一郎を探して見つかったのは何の説明も書かれていない紙切れ一枚。加えていくら電話をしようと繋がる気配はない。
青葉が慌てるのも当然と言えた。
『もう言い訳は後でいいです! 早く帰ってきてください! というか今、何処にいるんですか!?』
「北海道」
『Oh My God...』
神は死んだ。
即答した城一郎の言葉に、電話越しでも頭を抱えている青葉の姿がありありと想像できる。
「まぁなんだ。今から帰るからよ。それまで、もうちょい頑張ってくれや」
『ちょっと待っ――』
強引に通話を止め 電源を切ると、再びスマホをポケットの奥底に突っ込む。
そして、一仕事終えたと言わんばかりに大きく息を吐いた。
「なんだ。やれてんじゃねぇか」
青葉が料理長代理になったのは今日ではない。それこそ一週間以上前の話だ。
それを今日まで、城一郎がいなくとも問題なくやれている。名だたるVIPを――美食家を相手に。
「いよいよだぜ、創真」
いよいよだ。いよいよ青葉が、遠月学園へと編入する。
あの――芳賀若菜の子が。
〆〆〆〆〆
――遠月茶寮料理學園 高等部一年生 始業式。
遠月学園の校章がデザインされた陣幕。それに囲われた広々としたスペースには、今年も中等部から進学した多くの生徒が立っていた。
プログラムは着々と進んでいき、やがて終わりに差し掛かった頃。遂にあの人物の名が呼ばれる。
『続いて、式辞を頂戴いたします。遠月学園総帥――薙切えりな様』
司会者の声で、裏の天幕に控えていた総帥が現れると、新一年生はピシリと姿勢を正す。
やがて総帥は壇上中央に設置された演台に立ち、口を開いた。
「……皆さん。高等部進学、おめでとうございます。現遠月学園総帥――薙切えりなです」
学生服に身を包み、一見 遠月学園の生徒に見える彼女はだが、歴とした総帥である。
そんなえりなを見る生徒の瞳には、不安の色が見て取れた。
それも仕方のない事だろう。昨年は短期間で総帥が二度も入れ代わったのだ。薙切仙左衛門から薙切薊。そして薙切えりなへ。
遠月学園の歴史全体を見ても、昨年ほど荒れた年はなかった。
「今年進学された皆さんは、特に不安な気持ちになった事でしょう。総帥が短期間で二度も交代し、一時 学園の運営形態が大きく変わることもありました」
薊政権による変革。
それは高等部に比べ被害は少なくとも、中等部にまで確かに拡がっていた。
「そこで、皆さんの率直な意見を聞かせてください。薊政権が良かった。そう思う者は、手を上げなさい」
――薊政権の方針。
中枢美食機関のメニュー通りに作れば、十傑レベルの料理技術、アイデアやレシピを得られる。
それは実力の無い者からすれば、夢のような話だ。
何故なら、従来までの方針は圧倒的な実力主義であり、卒業まで辿り着けるのはほんの一握り。一年生から二年生への進級ですら、10%の生徒しか生き残れない。
残る90%の生徒が薊政権を支持したとしても、それは当然と言えるだろう。
故に、ここにいる新一年生も、恐る恐るではあるが続々と手を挙げる。
そしてその光景を見たえりなは、失望したと言わんばかりに大きく溜め息を吐いた。
「なるほど……。少なくとも、ここにいる約八割の生徒は、薊政権がよかったと……。それはそれは、随分と落ちぶれたものですね」
分かりやすく煽ったえりなに、手を挙げた生徒から非難の声が上がる。
いくら相手が総帥であろうと、何を言われるかと思えばいきなり愚弄されたのだ。
そしてここにいる生徒の多くは、薊政権に魅力を感じていた。次第に声も大きくなり、非難から暴言へと変わった頃。えりなは再び口を開いた。
「退学が嫌だ? 今の方針が理不尽? ならば問います。皆さんは何故、遠月学園の門を叩いたのかと!」
腕を振り抜き、その力強い一声に呼応するかの様に、一陣の風が駆け抜けた。
桜の花弁が舞う中、勇ましくも凛々しいその姿は、正しく総帥と呼ぶに相応しい。
醸し出されるカリスマに気圧され、そしてたった今 問われた内容を理解しようと、皆が押し黙る。
「退学が嫌なら、方針が嫌なら、他の学園で学べばいい。それでも様々な料理学校がある中で、ここにいる人達は遠月学園の門を叩いた! そこには並々ならぬ覚悟があったはずです!」
そう。料理を学ぶなら、他の料理学校でも事足りる。それでもここにいる生徒は、遠月学園の門を叩いたのだ。
その言葉を受けた新一年生は、すっかり忘れてしまっていた当時の記憶を思い出す。周りのライバルと競い合い、研鑽し、卒業まで辿り着くという覚悟を決めたあの日を。
だが、その覚悟は日に日に薄れてしまった。
何となく、授業を受けているだけで進級できる。知識が深まり、料理の腕が上がり、ある程度の実力がついた。
何だ。遠月学園とは、随分簡単な場所ではないか。皆と同じ教育を受け、自分はできるのだと慢心してしまった。ただの料理人でしかない己に、多くの者は満足してしまった。
「例年、この中の90%は進級までに退学となります。しかし、私は生徒として実際に多くの退学者を見てきましたが、その半数以上は競争ではなく、単なる料理人としての実力不足で篩い落とされていました。中等部で習った事ですら、いざ実践で活用できない生徒も多くいました」
中等部は義務教育であり 退学もなく、料理の基礎を学ぶことを重視している。対して高等部は実践向け。更には遠月ブランドと呼ばれるほど、その教育は徹底されている。
その敷居の高さの違い、そして環境の変化に付いていけず、退学を言い渡される事が一年生ではほとんどなのだ。
「そんな生徒は、この学園において……。ひいては料理人として、退学が言い渡されて当たり前です!」
退学が言い渡されて当たり前。
最早その言葉に、先程のように声を荒げる者は誰もいなかった。
静寂の中、多くの者は過去を見つめ直し、俯く。
己の愚かさを恥じた。己の甘さを恨んだ。三年間を無駄にしてしまった己に、後悔した。
当時の覚悟とは、そんなものだったのかと。
三年前の自分に言われる。
お前みたいな料理人は失格だ。お前みたいな料理人にはならないと。
「……何故、俯いているのですか? 皆さんはまだ、誰一人として欠けていないというのに。それともここにいる料理人を志す者は、所詮その程度の集まりだったのですか?」
――違う。
誰かが呟き、皆が顔を上げ、壇上に立つえりなを見た。
そこにはもう、腑抜けた料理人は誰一人としていない。覚悟を持った料理人のみが立っていた。
「……良い顔つきになってきましたね。だからこそ今、言わせて頂きます……」
かつての総帥、薙切仙左衛門がしたように。えりなはその右手を、大衆へと突き出した。
「――諸君の99%は、1%の本物に憧れるだけの凡人である!」
「今からでも遅くはありません。本物に憧れる料理人ではなく、本物になれる料理人を目指しなさい! 才能がある者もない者も、努力無くして高みへは至れない。そして、その覚悟を持って――」
――――研鑽しなさい。
「……私からは以上です」
シンと静まり返った会場。えりなは頭を下げ、踵を返す。
彼女の足音のみが響く中、何処からともなくパチパチと音がした。それは次第に連鎖していき、やがては大きな歓声へと変わる。
遠月学園総帥――薙切えりな。
日本料理界に、彼女無くして飛躍はなかった。後に伝説の序章とまで謳われ、後世に語り継がれる出来事になろうとは。今はまだ、誰も知らない。
そしてもう一人。料理人を目指す者ならば、誰もが知っていて当然となる男が編入してきたのも、この日である。
『最後に、本日より編入する生徒を一名紹介します』
編入と聞いて、ざわりと空気が揺れる。
遠月学園へは、何も内部進学でしか高等部に入れない訳ではない。もう一つだけ、編入試験で合格すれば高等部へ入学する事もできる。
だが、その厳しさは内部進学の比ではない。
毎年多くの料理人を志す者が試験を受けるが、合格者がでないことなどざらにある。
実力があるか、それともないか。正しく本物だけが、入学を許される制度。
その中でも最も記憶に新しいのが――幸平創真。
一年も経たず、遠月十傑 第一席まで上り詰めた男。
故に多くの生徒は身構えた。今年は一体、どんな化け物が編入してきたのかと。
――コツリ、コツリ。
やけに響いて聞こえる壇上を歩く音。やがてその音は止み、演台には一人の男が立つ。
千人弱の視線を集める中、その男は軽く周囲を見渡すと、端的に言った。
「初めまして。芳賀青葉と言います。これから三年間、よろしくお願いします」
たったそれだけの事を言って、男は壇上を後にする。
そのあまりにも手短に言われた挨拶に、多くの者は思わず拍子抜けしてしまう。
しかし、一部の者は気付いた。
さも当然の様に、まるで周囲に悟らせず、この男は言ったのだ。
――これから
〆〆〆〆〆
「全く。もうちょっとマシな入寮希望者はいないのかねぇ……」
広大な敷地を持つ遠月学園の外れに位置する寮内。
かつて多くの十傑を輩出した極星寮で、この寮の管理責任者である大御堂ふみ緒は、つまみを食べながらそんな愚痴をこぼした。
極星寮黄金時代の再来。
この寮には現在、遠月十傑 第一席である創真を始めとした三人の十傑がいる。加えて昨年は、寮生である一年生の退学者がゼロ。
全員進級を果たし、そのレベルの高さから"遠月スポーツ"という学内新聞にも取り上げられ、今や入寮希望者が後を絶たない。
後を絶たないが、新たに入寮できた生徒はまだ一人もいなかった。
「そんな事言いながら、ふみ緒さん嬉しそうだよね」
「うんうん。入寮希望者なんて、幸平くんが来て以来 今まで全くなかったもんね」
「お待ちどおさん。追加の皿持ってきたぜ!」
「皆お待たせ~」
「よっ! 待ってました! 十傑の料理!」
「これは僕も、そろそろ一肌脱ごうかな……」
「今宵も一色先輩の裸エプロンイリュージョンが出るのか!?」
「旨い」
「どうせこの後、また僕の部屋で宴会があるんだ……。ここでやってればいいのに、何で……」
「あ? 何か言ったか丸井!? 酒だ! 追加の酒を持ってこい!!」
他者からすれば混沌としたこの空間も、極星寮メンバーからすればいつも通りの日常。
それに創真も乗っかろうと、一升瓶に入ったお米から出来たジュースを持ち出したとき、ポケットに入れたスマホからメッセージ音が鳴る。
「ッと。誰からだ? ……おお!」
「ん? 何かあったか幸平?」
「なになに?」
「いやぁ。前の連隊食戟の後、親父伝で幼馴染と連絡先を交換してな。そいつから明日、遠月に編入するって連絡が来たんだよ」
「そう言えば、明日は新一年生の入学式か」
「だからえりなっちが今日はいないのか~。準備大変そうだもんね」
薊の一件以来、えりなは何だかんだで極星寮に住む事となった。
その姿が見えない事に納得する面々だが、創真の幼馴染と聞いて気が気でない者が一人。
「……幼馴染? そっ、それって創真くん」
「どうしたんだ 田所?」
遠月十傑 第十席――田所恵。
創真に想いを密かに寄せている女生徒だ。
「その幼馴染って言うのはその……。おっ女の子……だったり、とか……?」
「青葉が? いやいや、あいつは男だよ」
「そっ、そっか……。よかったぁ」
幼馴染が男だと聞いて安堵する恵。
もしその幼馴染が女の子なら、恋敵になる可能性があったからだ。
だが創真は「いや、待てよ」と、顎に手を当てる。
「よくよく考えてみれば、あいつに性別聞いたことなかったわ。子供の頃以来会ってないし、今思えば中性的な顔だったから女かもな!」
そう言って笑い飛ばす創真に、恵は思わずズッコケた。
「ほぉ……編入生……。幸平。アンタから見て、その青葉って子はどうなんだい?」
ふみ緒はそんな事よりも、その青葉という編入生が気になるようだ。
骨のあるやつなら今から唾を付けておこうと、どんな者なのか問いかける。
「そっすね……。俺が同世代で唯一、絶対に勝てないと思わされた相手……ですかね。」
「マジかよそれ」
「幸平が?」
「で、でも。その子とはもう随分と会ってないんでしょ? 創真くんは第一席になるぐらい成長したんだし、きっと今なら……」
けれど、創真は首を横に振る。
「いや~。多分無理だわ。この前なんか親父が、青葉に高級ホテルの料理長代理を押し付けたら、めちゃめちゃキレられたって笑い話してたし」
「ほぉ、城一郎が。そいつは中々見込みがありそうだね。明日にでもここに来るよう連絡しときな」
「あいよ」
入学祝いと共に、今言われた件をメールに入力していく創真。
「因みにフルネームは何て言うんだい?」
「あ~っと、芳賀ですよ。芳賀青葉」
「……芳賀?」
故に、芳賀と聞いたときのふみ緒の反応には気付かなかった。
「確かあやつは第76期生……。あれから15年だが……いやしかし……。もしやその青葉って子の母親は、芳賀若菜だったりしないかい?」
「そうだけど。ふみ緒さん 何で知ってんの?」
その返事で漸く確信したのだろう。
夜空に浮かぶ満月を見上げながら、ふみ緒はつまみを一口食べる。
「ふふふ。知っているさ。そうか、若菜の子かい。アンタがそこまで褒めるのも納得だよ」
「何か面白そうな話してるね~」
「おっ? 何かあったか~?」
そんな様子に何かを感じたのか、お米のジュースで盛り上がっていた他の面々が集まってきた。
「丁度いい所に来たね。アンタたちなら一度は聞いたことがあるんじゃないかい? 遠月学園にかつて、伝説の料理人がいたと」
「伝説の料理人?」
編入してきた創真だけ首を傾げるが、中等部から上がった他の者は聞いたことがあるようだ。
「あっ。もしかしてあの、遠月学園が生み出した謎の料理人ってやつ?」
「先輩から聞いたことある。確か絶世の美女だって」
「俺は筋肉ムキムキの男だって聞いたぞ?」
「何か色々あるよね~」
「馬鹿馬鹿しい。遠月の過去の文献を見ても、そんな生徒がいた事実はありませんよ」
「でも丸井さんよぉ。記録には残ってるし、色々な噂もあるじゃねぇか」
遠月学園には、過去の学生の記録が数多く残されている。
遠月茶寮料理學園――食戟戦績公式記録。
その頂点に、金輪際抜かれることはないと言われる記録がある。
氏名、年代、その他詳細情報は一切なし。ただ、勝率だけが書かれた 嘘のような記録。
――561戦 561勝 0敗
あまりにも突き抜け、異彩を放つその記録を信じる者はまずいない。
しかし、その資料は毎月更新され。そしてその記録もまた、毎回一番上に記載されている。作成時に見逃すことはまずないはずだ。
ならば、この記録はなにか?
「僕や同じゼミ生の見立てでは、それは遠月学園が意図的に作り出した記録や流した噂だと結論が出ています。大方、生徒のやる気を出させる為のものなのでしょう。特にあの食戟戦績。加えて名前もなければ詳細もないなど、常識的に言って考えられない」
それには創真も心当たりがあった。
「その食戟戦績なら俺も知ってるわ。561戦して負けなしってやつだろ? あれやべーよなマジで。俺ですらタクミとか他の十傑にもう何度も負けてるし。そもそも、そんだけ食戟を出来る気がしねーわ。中等部の頃から一年に100回ぐらい食戟してんじゃね?」
「だからあれは全て作り話だと――」
――言っているじゃないか。
そう続けようとした言葉は、ふみ緒によって遮られた。
「本当さ。あの記録は全て、本当なのさ」
「……いくらふみ緒さんが言おうと、こればかりは信用できませんね」
「アンタが言った通り、あの記録は――あの生徒の記録は学園側が意図的に作り出した。噂を流したって言うのもね」
「それなら……」
「だが、その生徒は確かに実在した。学園側がしたのはあくまでも、その生徒が実在しなかったと見せかける細工だけさ」
仮にそれが本当だとして、何故そんな回りくどいことを。
納得できないといった様子に、ふみ緒は続けて言った。
「それが当時、遠月十傑 第一席にいた芳賀若菜の、最後の願いだったからね」
次の”あとがき”で”デザート”に触れながら第二部や裏話について書いています。
そちらも是非ご覧ください。