SIS-II   作:きのこ総長

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~ 第2話 模擬戦闘試験 ~

 ── サイハ視点 ──

 

 エレベーターに乗り、地下20階で降りる。

 

 トレーニングルームと呼ばれるここは、膨大に広がっていた地下空間をそのまま改造し、作られた場所だ。

 

 何でも、核爆弾を20回落としても大丈夫な作りらしい。

 

 

 既に100人と少しの訓練兵が、そこには集まっていた。

 

 見事にやりきった様な清々しい顔をしている者や、自信なさげに顔を落としている者。

 様々な人間がそこにはいる。

 

 

 先程、訓練兵から一般の兵士に上がるための卒業試験が開催された。

 およそ5時間に及んだ試験は、1年の間に(つちか)った戦闘技術、戦術頭脳、救急方法。

 

 様々な観点から訓練兵の実力を見て、戦場で充分な戦績が残せるかを教官が判断する。

 また、それらの分野を平均化して、救済階級(きゅうさいかいきゅう)というものが与えられる。

 階級は一番下のF-から始まり、一番上ではSSSとなる。

 

 そして、俺の目指すべき最低の階級はB-。救助部隊の入隊資格が得られるからだ。

 

 何故ここまで階級にこだわるのか……それは、いわば出世だ。

 救助部隊に入隊することが出来れば、自分のキャリアにも繋がるし、救済階級が高ければ高いほど、出世の幅が広がる。

 

 自分の世界が変わるのだ。これは何としても救済階級をあげなくては……。

 

 

 というのが、普通の考えだ。

 

 

 訓練兵のおよそ8割の人数が今回の卒業試験に参加しており、非参加者の中にはもう1年訓練を受け、確実に合格を決めようとしている者達。

 

 また、このまま世界が平和になるまで、無駄な訓練を呑気に受け続けようとしている者達も、少なくとも存在する。

 

「んなことじゃつまんねェよ」

 

 無論、俺とシュウは別だ。

 

 1年前、誰よりも救済意欲を狩り立たされた俺達には、この卒業試験は成長の過程にすぎない。

 出世等、眼中に無いのだ。

 

 

 ──あの日の決意は、揺らいでなんかいない。

 

 

 数分待つと、トレーニングルームの中央に位置する高台に、教官が登った。

 

 1年前と変わらず、目が異様に血走っており、呼吸も荒い。

 酒と煙草のやりすぎだろうな。

 訓練兵の間では『ハゲ教官』と呼ばれているらしいが、本名は『東堂(とうどう)』というらしい。

 一年前と変わった事と言えば、真相が一切の謎に包まれた、急激なハゲ化くらいだろう。

 

「ちゅううもおおくッ!」

 

 そしてこの馬鹿みたいに大きな声だ。

 毎度のことながら、俺を含め、訓練兵全員の鼓膜をキリキリと震え上がらせる。

 

「これより、最終試験である、模擬戦闘試験。成績優秀者同士での決闘を行う。なお、今回は異例であり、成績優秀者が複数名いるため、2対2の決闘とする!」

 

 そう、話には聞いていたが、今回は優秀な奴が多いらしい。その為、この模擬戦に勝利することが出来れば、『例の部隊』に所属出来るかもしれない。

 

 これは何としてでも、勝利する必要がある。

 

「それでは、まず、NO.88、前へ!」

「へい」

 

 これは俺の番号だ。そして、俺のペアは……。

 

「次、NO.100、前へ!」

「は、はい!」

 

 凛とした声が辺りに響く。

 俺のペアはシュウだ。

 シュウは俺の元へと駆け寄ってくる。

 

「頑張ろうね、サイハ。宜しく!」

「あァ、宜しく頼む」

 

 実は……事前にだが、自分のペアとなる相手は知らされていた。

 

 それがシュウだった。

 

 シュウは俺の親友であり、戦友だ。

 改めて、シュウがペアで良かったと思う。

 

「NO.88とNO.100、この2名をもって、チームAとする!」

 

 俺達のチームは決まった。後は相手のチームだが……。

 

「どうせ俺だろ?」

 

 上ずった声でしゃしゃり出てきたのは、訓練を受けていた時に、よく俺に話し掛けてきた田辺(たなべ)だった。

 

 田辺は、今回の戦闘技術試験では3位を取っている。気は抜けない。

 猿のような顔立ちに角刈りと、まさしく猿と呼んでいいのではないか、そう思える男だ。

 

「む……そうだが、呼ばれるまでまたんか! NO.95!」

「すいませーん」

 

 教官の指摘に対し、軽く応える田辺。

 コイツの性格は、1年を通してよく分かった。他人を下にしか見ていないクソ野郎だ。

 

「次、NO.45、前へ!」

「はい」

 

 清涼な声を放ち、静かに前へ出てきたのは、よくシュウと戦闘訓練を行っていた清水だった。

 

 清水は、今回の戦闘技術試験で2位という好成績を叩き出している猛者だ。気を抜いたら一瞬で負けてしまう。

 顔は少々イカツイが、物静かな性格だ。だが、どこか熱いものを持っている奴だ。

 

「……って、まてよ」

 

 ここで1つ疑問に思う。

 相手チームの戦闘技術の高さに。

 

「NO.95とNO.45、この2名をもって、チームBとする!」

 

 ちなみに俺はというと……。

 

「よお、零乃。お前大丈夫なのかぁ? 何せ、戦闘技術の試験では50位だろ? ここにいちゃまずいんじゃねーか? 自分の身の為にも」

 

 満面の笑みで田辺は声を掛けてくる。

 思わず舌打ちが出てしまう。

 

 田辺……本当に気に食わない奴だ。

 

 すると、教官は咳払いをし、模擬戦闘について説明し始めた。

 

「これから模擬戦闘を行うにあたって、ルールを説明する。まずはそこにある、各々好きな武器を取り、戦ってくれ」

 

 教官が指を差した方向には、黒い敷物が引かれてあるテーブルがあった。

 

 その上にはナイフやら剣、様々な武器が置かれてある。

 ただ、刃物等の刃の部分は、切れないように細工が施されてある。

 

「武器の殺傷能力は限りなく無くしてあるが、戦闘不能と見られる相手に、継続して攻撃するようであれば、失格とする。

 また、フィールド外に出た者も失格とする。

 医療班がいる為BAVの能力は使用して構わんが、威力にだけは気を付けるように。

 後はどんな手を使っても構わん。

 相手チームを無力化したチームの勝利とする!」

 

 『どんな手を使っても構わない』か。面白い事になりそうだ。

 俺は1つの作戦を思い付き、それをシュウの耳元で告げる。シュウは不思議がっていたが、すぐに納得してくれた。

 

 この勝負、必ず勝たせてもらうぞ。 

 

 

 早速、俺とシュウは、自分の装備を選ぶ事にした。

 俺は小型のナイフを選んだ。非力でも扱い易く、尚且つ攻撃も早く繰り出せる。

 

 シュウは刀にしたようだ。シュウであれば、刀であろうと、俺のナイフよりも素早く攻撃を繰り出せるだろう。

 

 

 そして、シュウはテーブルに引かれていた黒い敷物をひっぺがし、自分の体に(まと)わせ始めた。

 

「サイハ! これ、中々かっこいいと思わない!?」

 

 シュウは目を輝かせながらはしゃぐ。

 白い訓練用の服を、黒い敷物が覆い隠す。

 確かに、まるでマントを羽織っているようで、中々かっこいい。

 

「各々、準備は良いか?」

 

 教官が声を上げる。どうやら、相手チームの準備が終わったようだ。ここからでも見える。

 

 田辺は短刀。清水は刀か。

 

 俺はすかさず手を上げる。1つ忘れていた事があった。

 

「どうした? 88番」

「ちょっとトイレ」

 

 一瞬で場が沈黙したのが分かる。

 だが、仕方がない。生理現象なのだから。

 

「……分かった。行ってこい」

 

 そう言われると、俺は急いで駆け出した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 位置は記憶した。

 

 残り2分。

 

 腕に付いている特殊道具(ガジェット)の時間を確認する。

 特殊道具(ガジェット)とは、CDAの技術者が開発した、ユニークな道具のことである。

 これらは非常に便利だ。

 特に、この腕輪型のガジェットは普及率も高い。

 

 AIとリンクしているこのガジェットは、道に迷ったりした時等は、親切にもホログラムを展開して、音声解説もしてくれる。

 

 作ってくれた技術者に感謝だ。

 

 戻って来ると、フィールドの準備が整っており、全員が中に集まっていた。

 円形のフィールドを、青色の光の壁が囲んでいる。

 恐らく、あれから出たら失格ということだろうな。

 

 フィールドは半径50メートル……広すぎず狭すぎずか。

 

 俺もフィールド内に入り、シュウの隣に立つ。

 相手チームを見る。

 すると、田辺がニヤケ顔でこちらをみている。アイツの狙いは確実に俺だろうな。

 

 

「それでは、チームA、チームBをもって、模擬戦闘試験を行う! 各々全力で戦うように!」

 

 教官が合図をしようと手を上げる。

 

 両チームに緊張が走る。

 フィールド外の訓練兵達も、皆、固唾(かたつば)をのんで見守っている。

 

 

「始め!」

 

 

 教官が手を下ろす。

 

 

 その合図と同時に、清水が肉薄(にくはく)してきた。

 

 狙いはシュウだ。

 

 ──突如、清水の回りを蒸気が覆う。

 

 かと思えば、その蒸気を凪ぎ払い、清水は前傾姿勢で突っ込んできた。

 

 清水は身体能力を強化したのか、先ほどよりも動きが倍近く早い。

 

 

 清水のBAVの能力は、自身の身体能力を強化する事だ。

 

 

 BAVは、まだ謎が多いとされる力であるが、その力は、大きく分けて3つ。

 

 1つ目は、自身の身体能力を大幅に強化する『身体強化型BAV』。

 

 2つ目は、炎や水、雷や風、重力等を発生させたりするなど、まるで魔法のような能力が扱える『異能型BAV』。

 

 3つ目は、自身の体を生成、変形させたり、重度の傷を負っても治療することが出来る『増殖型BAV』。

 

 

 いずれもまだ謎が多いが、これらが主なBAVの力と言われている。

 

 清水はシュウの元にたどり着くと、即座に抜刀──鋭い斬撃を浴びせる。

 

 それにはシュウも抜刀で応じ、火花が弾ける中、つばぜり合いが起こる。

 

 シュウが清水の刀を押し返すと、清水はすかさず横に刀を振るう。

 

 ──が、シュウはそれを簡単に弾く。

 1合、2合、3合……。

 

 激しい打ち合いが始まる。

 

 

 しかし、最初は攻勢に転じた清水も、シュウが前に踏み出すと後退し、防戦一方になる。

 

 

 シュウは今回の戦闘技術試験での成績は、郡を抜いての1位だ。

 

 

 戦闘技術試験とは、BAVを用いての、対人戦闘スキルを見る試験のことだ。

 

 シュウのBAVの能力は、今のところ不明だ。

 何でも、BAVを身体に付与した時、訓練兵全員が能力を扱えたのに対し、シュウは能力が発現すらしなかったと言う。

 

 つまり、シュウは能力が扱えない状態で、戦闘技術試験1位という結果を残している。

 

 シュウの対人スキルには、BAVを扱った清水ですら太刀打ち出来ない程だ。

 

 

 残り1分か。

 

「お前の相手はこっちだぁ!」

 

 奇声が聞こえたかと思い、そちらを見ると、何やらバスケットボール程の火球が、高速で俺に向かって飛んできた。

 

「くそ!」

 

 瞬時に横へ飛び回避する。

 

 目標を見失った火球はそのまま直進していき、壁に着弾。

 

 火球は凄まじい勢いで爆発した。

 

 あれに当たっていたら、軽い火傷ではすまなかっただろうな。

 

「おいおい~。後ちょっとのとこで避けるなよな……」

 

 残念そうに肩を揺らす田辺。

 だが、もうその手には新たな火球が生み出されている。

 

 田辺のBAVの能力は異能型。特に炎を生成することに特化している。

 

 俺は田辺に背を向け、走る。

 

 俺が走った瞬間。先ほど立っていた場所に、紅蓮(ぐれん)の花が咲いた。

 とても温かいとは言えない。猛烈な熱波が俺を包み込んだ。

 

 あまりの熱さに顔が歪む。

 

 

 俺は戦闘が苦手だ。

 

 俺のBAVの能力は重力操作。

 

 自身から5メートル離れた所までの重力を、上下左右へ自在に操る事が出来る。

 

 力の大きさ、また、力を及ぼす場所、面積も操れる。

 その気になれば、壁に大穴だって開けられる。

 

 だが、重力を操作するには時間が掛かる。それも、離れれば離れるほど……だ。

 俺から1メートル離れた場所の重力を操作するのにも、最速で5秒は掛かる。

 

 つまり、俺のBAVの能力は戦闘に不向き。

 先ほど田辺が言っていた通り、俺は今回の戦闘技術試験では50位だった。

 

 50位だ。田辺や清水のような成績上位者とは次元が違う。

 

 まあ、シュウはさらに次元が違うのだが。

 

「おいおい零乃ぉ。いつまで逃げ回ってんだよ~。

 早く俺にやられろよ~。お前をやれねーと、清水の助太刀いけねーだろ?」

 

 すぐ真後ろから、上ずった声が聞こえてくる。

 

 田辺達の作戦は、まず、戦闘能力が高い清水がシュウを押さえる。その間に、田辺が俺を倒し、最後に、シュウを2人で叩くつもりなのだろう。

 

 田辺達の作戦は分かっていた。

 

 何故なら、その作戦が一番シンプルであり、効率的だからだ。

 

 そして、俺達の作戦は──

 

「だから、時間稼ぎしたって無駄だっての。早く俺にやられろ! お前の作戦は丸見えなんだよ!」

 

 俺が粘る間に、シュウが清水を倒す。そして、最後に田辺を叩く。俺達の作戦を、田辺はそう踏んだようだ。

 

 

 とうとう、フィールドの端へと追い詰められた。

 

 田辺はニヤケ顔で俺に近付いて来る。

 

「やっと追い詰めたぜ。零乃ぉ。

 てっきりお前の事だから、何かしでかして来るんじゃないかと思ったが……俺の考え過ぎかぁ!」

 

 ジリジリと近付いて来る田辺。

 その表情は、まるで勝ち誇ったような得意顔だ。

 

「……はっ」

「何がおかしい?」

 

 しまった。

 笑いが堪えきれなかった。

 

 田辺の顔がひきつる。

 

 確かに、俺達の作戦は時間稼ぎが目的だった。

 

 

 しかし……。

 

「1つ教えてやるよ。田辺」

「な、なんだ?」

 

 俺がゆっくりと前に歩き始めると、田辺は遂に、後退りし始める。

 わざとらしい笑みで、田辺へと向き直る。

 

「もっと考えろよ」

「ど、どういう──」

 

 カウント0。

 

 突然爆発音が鳴り響く。

 かと思えば、照明が全て消え、トレーニングルーム全体が暗黒に包まれる。

 

 

 さあ、ラストスパートだ。

 

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