ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに 作:クラウンドッグ
今がそれです。
真っ直ぐの長い道のり。ボーダー本部基地へと繋がる緊急用の避難通路で、三雲修は冷や汗を流した。
先程、出水の緊急脱出の報せを受けたばかりだ。その少し前には小南の、さらには木崎レイジと緑川の緊急脱出もあった。どうやら敵はかなり強いらしい。
今まではどこかで大丈夫だろう、と高を括っていた。しかし、尊敬する玉狛第一の先輩たちがこうも短時間でやられた事実を知って三雲は少しだけ怖気付いた。等間隔に並ぶ蛍光灯が薄暗く照らす通路が、絶望的な未来を暗示している気すらしてきて、そんな幻想を振り払う。
三雲は振り返ってC級たちの様子を見る。C級たちの大半は人型近界民の攻撃によってトリオン体の換装が解けて生身となってしまっている。トリオン体のスピードで基地まで退避したい所だが、それをやると生身のC級たちを置いていってしまう事になる。
生身のC級隊員たちはすでに肩で息をしていた。命が危険に晒されている状況で固くなるなというほうが無理な話だ。
三雲はC級隊員たちを置き去りにしないように、しかし可能な限り最高速度で通路を進んだ。
そして、薄暗い廊下の先に、さらなる闇を垣間見た。
闇は円の形を成して、そこからトリオン兵が出現した。門から現れたのは蝶の楯タイプのラービットだ。
「新型……!」
なぜここにピンポイントで来ることができたのか、それを考える一瞬でラービットは先手を打っていた。
腹部から射出される無数の欠片。三雲はレイガストをシールドモードにして防ごうとするが、欠片は散弾銃のようにばらけてレイガストのシールドを躱してC級隊員たちにヒットした。
振り返る三雲。幸いな事に欠片そのものには殺傷能力はないようでトリオン体、生身かまわずに欠片が体にくっついているだけだった。
しかし、ならばこの攻撃の意味はなんだ?
それを思考する刹那が、どうしようもなく三雲修の戦闘経験の少なさを示していた。
ガチン、ガチンという音が連鎖する。C級隊員たちは体に付着した黒い欠片に引っ張られてるようにくっついていた。
これはーーーーー磁力!?
思考、理解。すべてが遅い。
ガチン、と引っ張られた三雲。先程のラービットの攻撃は防いだが、それより以前ーーーーヒュースの攻撃から千佳を守った時に、三雲の腕には蝶の楯の欠片が付着していた。
「ぐっ……アステロイド!」
腕を床に張り付けられながらも三雲はトリガーを切り替えてアステロイドをラービットに向けて放つ。しかし、三雲のトリオン量は平均以下。ラービットの外皮を貫くだけの威力がなかった。
防ぐ必要もない、とばかりにラービットは迫るアステロイドを胴体で受け止める。アステロイドを受け止めた体勢のままさらに欠片を放つ。
その欠片群は三雲を床に拘束し、残るC級隊員たちを完全に無力化した。
なす術なく訪れた最悪の展開。免れ得ない無力感に苛まれるのも束の間。
黒い欠片に拘束されながらも千佳が三雲に向かって手を伸ばしていた。
「修くん…わたしのトリオンを使って」
千佳も動かず、唯一セットした狙撃銃のトリガーは使えない。しかし三雲のセットしている射手用のアステロイドなら片手で撃つことができる。
蝶の楯の拘束で非常に重い腕を上げて千佳と手を繋ぐ三雲。「トリガー臨時接続」の音声が心強い。
「アステロイド!!」
叫ぶと、形成されるトリオンキューブ。それは三雲修が展開するアステロイドのトリオンキューブとは比較にならず、ボーダー最高クラスのトリオン量の射手、出水のそれよりも遥かに巨大なものだった。トリオンキューブの大きさは単純に規格外の破壊力を表している。
トリオンの弾丸、ならぬ砲撃は確実にラービットに向かっていた。
しかし、悲しいかな。世には相性というものがある。
無数の欠片を繋ぎ合わせてシールドを作り出したラービットは、千佳のトリオンで三雲が放ったアステロイドの砲撃を、跳ね返した。それはあたかも、鏡が光を反射するように。
跳ね返されたアステロイドは三雲たちの頭上を通過し、通路を崩壊させる。
崩落した通路はアステロイドの威力を物語り、同時に退路が断たれた事も示していた。
例え退路が断たれていなかったとしても、すでに蝶の楯の欠片の磁力により拘束されてしまっている。
これで、何もかもが通じなかったと痛感させられて、終わり。
ラービットの胸部が開き、触手めいた何かが三雲を捕らえる。
「修くん!」
千佳が三雲の名前を呼ぶが、三雲は目を合わせずに……目を合わせる事もできずに。諦めたように呟いた。
「千佳……すまない………」
そうして、三雲修はトリオンキューブとなってラービットの腹部に収められたのだった。
しかし、ラービットのトリガー使いの確保がこれだけで終わるわけがなくーーーーーー
☆★
「じゃあおれ、急いだ方がいいよね?」
迅の予知した最悪の未来を聞いた遊真は、そう尋ねた。
「ああ、頼む」
当初の予定からはずれるが、もう遊真は迅とスピードを合わせる理由がなかった。
迅の返事を聞いた遊真は、無表情のままに「わかった」と言って足元に印を描いた。
「
ものを弾き、跳ね飛ばす効果を持つ印。たったの1つでボーダー製のグラスホッパーの倍以上の効力をもつそれを、五つ重ねる。
遊真はそれを踏みつけると、音速を超えたスピードで三雲たちの元へ向かう。
スピードが少し落ちた頃に遊真は自分の左手に話しかける。
「レプリカ!オサムたちの位置はわかるか?」
すると、ニュー…と遊真の左手から自律型トリオン兵のレプリカが出てくる。
「反応がロストする以前は緊急用の避難通路にいたようだ。まずはそこに行ってみるというのはどうだ?」
「わかった!」
地下にあるはずのそれの場所をレプリカが伝えなかったのは、そこは、見ればわかる、からだった。
千佳のトリオンで三雲が撃ったアステロイドはラービットの欠片の反射盾により跳ね返され避難通路を崩壊させたが、アステロイドの威力はそれだけに留まらずに地下から地上を打ち抜く光の柱と化したのだった。
ぶち抜きとなった地上と崩落した地下通路の前には、多くのバムスターが集まっていた。
「なんでバムスターが……」
「ユーマ、疑問は尤もだが」
「わかってる。
遊真の背中に現れた印は、そのままパワーアップを意味している。
さらに『弾』印を発動させてバムスターを一体破壊すると、
「
破壊したバムスターを鎖で拘束し、『強』印のパワーそのままに振り回して周りのバムスターを乱雑に破壊した。
避難通路に降り立った遊真が見たのは、換装の解けた生身のC級隊員たちだった。
「ひ、人型近界民!?」
「いやでも、なんでバムスターを…!?」
「あ、おまえ!白い悪魔!?」
遊真の黒トリガーの姿を初めて見る者は、遊真を敵と見て怯えるが、この場での遊真の幸運は、いつかの3バカがいた事だった。
C級ランク戦で遊真にフルボッコにされた3バカは、遊真の黒トリガー姿は初見だったが、恐怖ゆえにその顔を覚えていたのだ。
「なにがあった?」
いつになく真面目な、機械のような遊真の冷たい瞳に3バカを筆頭とするC級隊員たちは何があったか遊真に伝えたのだった。
曰く、ラービットの強襲により三雲が敗北。その場の全員が蝶の楯の欠片により拘束された。ラービットはトリオン体の隊員たちをキューブ化して離脱し、その後バムスターが生身のC級隊員を捕獲にやってきた。
「なるほど….」
「ラービットはトリガー使い捕獲用のトリオン兵だ。生身の人間を捕獲、回収する術はないようだ」
レプリカはラービットの性能を理解したようで、わかりやすく説明した。だからこそ民間人捕獲用のバムスターが駆り出されたのだろう。
「ならオサムたちはどこに……?」
三雲や千佳たちトリオン体の隊員をキューブ化して捕獲したラービットはどこへ行ったのか。次の問題はそれになる。
と、考える遊真が何者かの気配を感じ取って通路から地上を見上げた。
そこにいたのは、3人組の黒いスーツに身を包んだ男たちだった。
「おっ、いましたよ二宮さん。こいつでしょ、玉狛の黒トリガー」
「迅さんから連絡ありましたからね、こんなに速いとは思いませんでしたが」
「チッ……早く上がって来い」
遊真が地上に戻るとそこにいたのは、やはり戦場には似つかわしくないスーツ姿の男たち。しかし、このホスト崩れたちこそがB級1位の二宮隊であった。
「空閑遊真だな」
「そうだけど」
「俺と来い。ラービットを追う」
「ここは俺とこいつで守るから、二宮さんと行ってきな」
こうして隊長の二宮と遊真が隊員をキューブ化、回収したラービットを追撃する事となり、隊員の犬飼と辻が崩落した通路のC級たちを守護する役目に割り振られた。
遊真としても、こうした効率的なやりとりは嫌いではない。二つ返事で了承して二宮と行動を共にするのだった。
☆★
手の甲のタイマーは、残り40秒を切っている。
ガイスト…それが使える時間は残りわずかとなっていた。しかしそれは逆説的にそれだけの時間稼ぎができたという事だ。
モードは常に機動戦特化。このスピードについて来れる者はボーダーにも数少ないであろうという自負はあった。ガイストの初代の使い手には遥かに及ばないとしても、ガイストを使う自分はボーダー内部でも屈指の強者であるという自負が。
だが、かすりもしない。ありえない、なんだこの老人は!?
ヴィザは少しだけ残念そうな顔をして、烏丸の攻撃を凌ぎながら言う。
「玄界の勇士よ、見事です。……しかし、悲しいかな」
少しだけでもダメージを与えなければ。かするだけでいい、触れるだけでいい。どこかに剣を突き立てなければ。
ガイストのトリオンの割り振りをさらに機動力に注ぐ。こうなればすでに残像ができるほどのスピードになる。見えるはずがない。対応できるはずがないのだ。
「あなたは優秀な戦士ではあっても……」
なのに、なぜ………
最後の一瞬、残るトリオンを一太刀に込める。踏み込みを鋭く、機動力に割り振ったトリオンをすべて孤月に注ぎ込む。
踏み込んだアスファルトが割れ、孤月は溢れ出るトリオンで白く輝き剣風を纏う。
「ーーーー剣士ではない」
烏丸の全霊の一撃を星の杖のブレードを重ねて防ぎ、動きの止まった烏丸を仕込み杖の刀身で切り裂いた。
「動きが合理に寄り過ぎていて、読むに容易い」
緊急脱出。またひとつ、基地へと星が流れる。
「さらば、玄界の勇士よ」
緊急脱出により玉狛支部に向かう烏丸を見ながら、呟きーーーー
「ーーーーッ!?」
途端に寒気を感じた。否、殺気と言うべきか。その殺気の根源から抜き放たれるのは蟷螂のカマ?否、それは断じてマンティスなどというものではなく死神の鎌の如く。
身をかがめたヴィザであったが、しなる刃に浅く顔を裂かれてしまう。
「チッ……間に合わなかったか」
影浦雅人が、到着した。その獰猛な眼は烏丸がガイストを起動してなお手も足も出なかった老練の達人に向けられている。
「ほう……戦士の次は獣とは。玄界の組織はなかなかに面白い人材を育てているようだ」
ガイストを起動した烏丸を眼前にした時と同様、ヴィザは少しだけ笑む。これから起きる戦いに、心躍らせるように。
そのヴィザに撃ち込まれる、3発のメテオラ。グレネードランチャーの形をしたトリガーを構えるは影浦隊の北添だった。
しかし、むなしくも3発のメテオラは宙空で爆散する。
「ええ!?」
弾に狙撃するような変態がボーダー内にいる事は知っていたが、北添の目には何もなくメテオラがただ爆散しただけにしか見えなかった。
「ゾエ!ジジイの黒トリガーだ」
しかし、影浦はそれが何かちゃんと理解していた。普段は不真面目な影浦だが、こと戦いとなれば話は別だ。しかも、相手は極上と来ている。
駆けつける最中に玉狛第一と人型近界民の交戦記録は見ていたし、緊急脱出した隊員たちから通信で色々と助言も受けた。黒トリガーの使い手と戦うのに、こうもお膳立てされては。
これを愉しまない手はないーーーー、
「しかし、獣では私には勝てませんよ」
刹那、影浦の体が上下二つに分かたれる。
「ーーーーなっ!?」
影浦雅人にはサイドエフェクトがある。『感情受信体質』というものだ。自分に向けられる他人の意識や感情が肌に刺さる感覚がある…というのは本人の談。
影浦はそのサイドエフェクトで今まで狙撃や不意打ちが通じない存在として扱われていた。しかし、のちに影浦が語る事になるが「普通のやつは攻撃してしてくる時、攻撃するより先に『攻撃するぞ』って感情が刺さってくる」「こんなに感情を消して攻撃してくんのはこいつ以外じゃ東のおっさんくれーのもんだ」。
つまり、不意打ちや狙撃が効かない影浦だが、その攻略法はいたって単純。感情を消して攻撃すれば影浦は感情を受信できずに、後手に回る。
単純明解。しかし感情を消して攻撃するなどとは歴戦の猛者でも難しいものだ。
だが、アフトクラトルの国宝を預かる達人ならば話は別というもの。
無論、影浦はサイドエフェクトなしでも一流の攻撃手だ。だが、相手は一流など遥かに置き去りにする剣聖だった。ただ、それだけの話なのだ。
星の杖の能力を解放したヴィザは影浦を切り裂いてなお、油断なく仕込み杖の剣を構える。
緊急脱出、の音が聞こえ始めてから影浦の手が鋭く動く。そこから放たれるのはマンティス…ヴィザが死神の鎌のように感じた技だったが、すでに見られたマンティスはヴィザを切り裂く前に仕込み杖の剣に叩き切られて消失した。
「…チッ……なんてジジイだ」
影浦雅人、緊急脱出。
ちゃんと理解していた。星の杖の能力も、仕込み杖も。だが、理解だけで届く範囲ではなかったのだ。
「ウソ……カゲがこんなあっさり……!?」
「貴様もだ」
「えっ?」
信じられないように言葉を漏らす北添の背後から、ヒュースが現れる。声を発したのと同時に欠片を繋ぎ合せて車輪を形成し、回転させて北添を真っ二つにした。
影浦に続いて北添も緊急脱出する。
「ほっほ、さすがは最新鋭のトリガー………保護色も実戦レベルまで練り上がってますな」
ヒュースは蝶の楯の特性の一つである保護色を活かして物陰に潜んでいた。増援が来ると読んだヴィザが、その増援を正面から引きつけておいて、ヒュースは裏から挟撃するのが目的だった。
「お戯れを。翁1人でも充分だったでしょう」
「…さて。しかし玄界も層が厚いようです。これ以上面倒になる前に金の雛鳥を捕獲して戻りましょう」
「わかりました。蝶の楯」
ヒュースは蝶の楯の欠片を背中に集まると宙空にレールを作り、磁力と斥力を用いて空を駆け上がった。
「……よし、やっぱこっちだったか。おれの直感は鋭いな」
空を飛ぶヒュースとヴィザを見てそう言うと、男は孤月を振り抜いた。
孤月から放たれるのは緋色の斬撃。旋空とは違う、掛け値無しの飛ぶ斬撃。
迫り来る斬撃に気づいたヒュースとヴィザ。対応すべくヒュースが手を向けるがそれをヴィザが制する。
「ここは私にお任せを。ヒュース殿は雛鳥の捕獲に」
「了解しました」
蝶の楯の欠片が背中を離れ、ヴィザは落下する。
「星の杖」
そして星の杖を解放して緋い斬撃を霧散させた。
着地したヴィザは緋い斬撃を飛ばしてきた男を見て、ガイストを起動した烏丸や獣の殺気を身に纏う影浦に見せたものより深く、笑んだ。
「玄界には勇士が揃っていると思っていましたが…よもや戦士だけでなく、剣士までいるとは」
剣士、というワードにピクリと反応したその男は「なるほど」と呟き、眼前の達人が自分と同じであると理解した。
「アフトクラトルのヴィザ…と申します」
堂々と名乗りをあげるヴィザを前に、男も名乗る事にした。
「ボーダー所属……いや、《剣聖》の弟子…夜凪刀也」
相見えた剣客は、ただ刃を交わすのみ。
うおおおお!一日で更新!最速!(たぶん
長くはないが内容は詰めたつもりだぜ!(寝不足で脳死中
またまた時系列がおかしくなったので整理。
出水敗北→烏丸敗北→影浦、北添敗北→避難通路強襲、刀也とヴィザが交戦→迅が最悪の未来を予知→遊真と二宮隊が合流
うーん、原作のボーダー隊員が負けすぎ!いや、だって星の杖ってチートでしょ。レプリカの助言がなければ最初で全滅もありえた……
というかどうしても重石をつけないと星の杖を見切れない件について。
まあ、見切れなくても直感で避けられるから刀也とヴィザが戦うんだけどね!
影浦のサイドエフェクトが働かなかったのは記述の通り、ヴィザが攻撃に感情を込めない達人だから、です。遊真や東にできるなら、それ以上の年月を戦いに費やしたヴィザ翁ができても不思議じゃないよね。
というわけで星の杖を避けられる候補から影浦脱落。影浦のサイドエフェクトなら星の杖に対応できるのではないか、という烏丸の予想はハズレ!残念。
影浦はエネドラとなら良い勝負をしそうな気がする。避ける限定だけど。