ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

13 / 65
『焔』に目覚め、『暁』を切り開き、『落葉』を経て、『無仭』に至る。


彼の、その軌跡を知っている。


その剣、未だ届かずして

「万物流転ーーーー」

 

 

イメージするのは、常にあの人の姿。

 

遠い、遠い、あの背中。

 

 

あの人は20歳で免許皆伝を認められたという。

 

 

自分はすでにその年齢を超えている。だけど、あの人の高みに到達できたとは思えない。

 

 

 

 

「ーーー無は有にしてーーーーー」

 

 

 

あの人の高みに到達できるとは思えない。

 

 

だけど。

 

 

ここで、自分が定めた限界を破らずして何とする。

 

あの人の弟子を名乗った以上、情けない姿は見せられない。相手がいくら強かろうと、負けられない。

 

今ここで、限界を超えろーーーーー!

 

 

 

「有はまた無なりーーーーーー!」

 

 

 

今日くらいはいいだろう?

限界を超えるなんて無茶をやったって、それくらいの成長は見逃してくれ。

 

だって今日は、俺の誕生日なんだから。

 

 

 

 

そうして夜凪刀也は開眼する。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

黒トリガー窓の影を有するミラが、本気で受けに回ったら撃破できるものはアフトクラトル本国でも数少ない。

 

そのミラを相手に、三輪隊とクロウは攻めあぐねていた。

 

 

ワープゲート使い相手には直線的な攻撃は相性が悪い。狙撃はもちろん、近接戦闘では遠くにワープさせられる事もある。

逆に効果的なのは曲線的な攻撃や、途中で折れ曲がる攻撃なのだが、クロウのブレードスローは警戒されており、三輪は軌道操作可能なバイパーを装備しているのだが、拳銃型のため決定打となる威力ではない。

 

 

しかし、ミラも主目的である雛鳥の確保をしなければいけない以上はその場に縛り付けられる事になり、戦況は拮抗していると言えた。

 

 

 

 

「……近界民め」

 

 

 

業を煮やした三輪が攻めに入る。拳銃からアステロイドを連射してーーー

ミラがワープでそれを三輪に返そうと、三輪背後にワープゲートを開く。

 

 

「来たな、馬鹿が」

 

 

だが三輪はそれを躱した上で、さらにワープゲートに向かって今度はバイパー撃つ。

撃ち出される弾丸は黒く染まっており、鈍い。だがワープゲートならば距離は関係なく。

 

ミラがアステロイドをはね返そうと開いたワープゲートに、三輪のバイパーが新たに撃ち込まれる。

 

 

しかし、そのバイパーがミラに着弾する事はなかった。

 

 

 

さらにもう一つ、ワープゲートが開かれる。

 

黒いバイパーはそれに吸い込まれーーー三輪に当たった。

 

 

 

「それはもう見たわ」

 

 

敵がワープゲートを利用してこちらに攻撃を当てようとするのは、いつもの事だ。ミラにとり、三輪の作戦は読みやすいものであった。

ワープゲートを誘発する攻撃を、望み通りにワープゲートで返してやり、そこから放たれる本命の攻撃をさらに返却する。

さらに上手い相手にはあと何度か繰り返さなければ通じない手ではあるが、この少年にはこれで充分だったようだ。

 

 

バイパーが当たった三輪にダメージはない。されど、三輪はまるでミラに跪くように倒れてしまう。

 

黒い鉛が、三輪のトリオン体を捉えていた。

 

鉛弾(レッドバレット)と呼ばれるオプショントリガーである。

銃タイプのトリガーと組み合わせて使われる上級者向けのトリガーだ。

その効果は、着弾した相手を鉛の重量で拘束するというもの。シールドをすりぬけるという強みがある反面、トリオン消費量が激しく、弾速が遅くなるという弱点もある。

 

今回、三輪はバイパーとレッドバレットを組み合わせた。ミラに避けさせずに重りをつければ勝機が生まれると考えたからだ。

しかしミラが一枚上手だったようで、そこまで読まれていた。

 

ミラを拘束するはずのレッドバレットは、代わりに三輪を縛る鉛と化してしまった。

 

 

 

三輪の異変を感じ取ったクロウと奈良坂、古寺はミラに攻撃を仕掛けるもーーー

 

 

 

「遅いわ」

 

 

 

一歩、遅かった。

 

 

三輪がワープゲートを細かくした棘で貫かれ、緊急脱出する。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

「秀次……!」

 

 

 

迫り来る卵の冠の攻撃をすべて撃ち落としながら、二宮は本部へと流れた星を見やった。

三輪秀次は、二宮のかつてのチームメイトだ。A級1位、東隊のメンバー。今は解散してしまったが、三輪の事は気にかけていた。

 

 

 

「どうやらあっちも佳境みたいだね」

 

 

 

こことは違う、もう一つの決戦。C級たちの保護という面では、三輪隊が交戦する近界民の方が重要度は高い。

 

 

 

「行っていいよ」

 

 

 

二宮の様子を感じ取った遊真はそう言った。

 

 

 

「俺の弾幕がなくて大丈夫なのか」

 

 

「ん、まあ作戦は考えてるよ」

 

 

軽々しく言った遊真だが、その彼も黒トリガーだ。ならば、この場は信じる事にして、自分は三輪隊と合流した方がいい。

 

 

「ここは任せる」

 

 

 

瞬時に判断を下した二宮は振り返る事なくミラの迎撃に向かう。

 

 

 

そして、残された黒トリガー2人が対峙する。

 

 

 

「行かせてよかったのか?」

 

 

 

攻撃の手は緩めず、ハイレインは遊真に問う。

 

 

 

「援護はありがたいけど、あの手数だと間違っておれまで被弾しかねないからね」

 

 

 

事もなげに答える遊真は、次のアクションに入る。

 

 

『盾』印(シールド)七重」

 

 

右手を翳した先に、シールドが7枚重ねられる。

 

 

「『弾』印三重」

 

足元には跳ね板を3枚重ねたものを。

 

 

 

その他にも二宮とハイレインが撃ち合っていた間に仕込んだものがある。

 

 

これで決めるつもりで、遊真は『弾』印を強く踏みつけた。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

「ーーーー壱!」

 

 

壱の型、螺旋撃

 

 

「むっ…」

 

螺旋を描く剣閃の軌跡をトリオンが後追いし、それに巻き込まれたヴィザは束の間動きが鈍った。

 

 

 

「ーーーー弐!」

 

 

 

弐の型、疾風

 

 

「速い……!」

 

 

体勢を崩したその隙に、風のように軽やかに、鋭い刃を刻む。

 

 

 

 

「ーーーー参!」

 

 

 

参の型、業炎撃

 

 

 

「ぐっ……!」

 

 

疾風でトリオン体を斬られつつも、この連撃から逃れねば、とヴィザは無理に体勢を整えて炎を纏った一撃をガードするも、想像を超えた重さに吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

「ーーーー肆!」

 

 

 

肆の型、紅葉切り

 

 

吹き飛ばされて着地した先で、穢れのない一刃が通り過ぎるのを見る。刃紋などないはずのトリオンの刀にそれを見た気さえする。

ヴィザは一瞬遅れて防御するも肩先を切り裂かれてしまう。しかし、返しの一太刀は、確かに刀也を捉えたはずだった。

 

 

 

「ーーーー伍!」

 

 

伍の型、残月

 

 

しかし、水面に残った月は捉えられぬが道理。

ヴィザの一撃を躱した刀也はそのまま大きく孤月を鞘から引き抜いた。

一度見たはずの技の鋭さにヴィザは堪らんとばかりに距離を取る。

 

 

 

 

「ーーーー陸!」

 

 

 

陸の型、緋空斬

 

 

距離を取ったのが、仇となる。

空を駆ける斬撃がヴィザに迫る……ここでようやく星の杖のブレードが戻ってくる。能力を解放して緋空斬を打ち消しーーーー

 

 

 

「ーーーー漆」

 

 

 

ーーーー距離を詰めてきた刀也の瞳に魅入られた。

 

 

 

 

漆の型、無想覇斬

 

 

抜刀、刹那の七斬撃。

 

 

そのすべてを星の杖のブレード使って受け止める。ヴィザの顔から余裕は消え去っていた。しかし、代わりにあったのは焦燥ではなく感謝。戦士多き玄界の地で、よくぞこれほどの剣士と巡り会わせてくれたという戦場に生きる者の笑み。

 

さあ、見せてくれ……この先を。この技の終わりを、剣聖の技を。

 

 

 

この戦技が決まれば己が敗北するであろう事はヴィザにはわかっていた。しかし、それでもこの剣技を最後まで見たいと思ってしまう。

 

 

 

「八葉一刀ーーーー」

 

 

 

布石は打った。『無仭』へ至る道標。七つの剣技。八葉の粋。

あと一振りで届く、剣聖の背中。

 

 

 

 

 

 

「ーーーー無じ…ん………っ」

 

 

 

 

されど、その剣、未だ届かずして。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

クロウ&三輪隊狙撃手vsミラは沈着していた。

三輪が落とされた事により、ボーダー側は慎重に動かざるを得なくなってしまったのだ。

ワープゲートという破格のトリガーを相手に、狙撃はここぞという時でないと意味を得られず、クロウも安易に攻めればワープゲートで遠くに送られてしまう。

 

 

状況を打破する術がない。C級隊員のキューブを奪わせないので手一杯なのだ。

 

 

 

 

 

「アステロイド」

 

 

 

 

状況を打開せんと現れたるは射手の王、二宮匡貴。

 

 

 

「新手ね」

 

 

 

ハイレインから二宮が行くと報されていたミラが慌てる事はなかった。しかし、状況が悪くなった事は否めない。

 

二宮の扱うトリガーは銃を使わず、トリオンキューブからそのまま弾丸を発射するシュータータイプのもの。三輪の銃型のアステロイドやバイパーと違い、複数の弾丸を同時に発射できる利点を持つ。

しかも二宮は合成弾すらも扱える、名実共にNo.1シューター…射手の王だ。正面からの火力ではボーダー内でも1、2を争う。

 

 

ワープゲートをかいくぐり、致命打を与えるという意味では対ミラ戦において最有力。

 

 

 

そんな二宮は、牽制としてまずアステロイドを撃った。並の相手ならこれで戦闘不能。一流が相手だったとしても不意打ちなら手傷を負わせる事もできる。

そんなレベルの弾幕だ。

 

 

だが、それは悪手であった。

 

 

 

二宮はトリオン量に優れる射手。トリオンモンスターこと雨取千佳を除けばボーダーでもそのトリオン量はトップ。

そして、ボーダーの弾丸やシールドは、そんなトリオン量の差がモロに出る事を、すでにアフトクラトル側は把握していた。

 

ボーダーが交戦記録を束ねて敵を打倒するように、アフトクラトルもまた情報共有をもって対抗する。

 

 

ゆえに、軽いジャブのつもりで撃ったアステロイドが大きなカウンターとなって返ってくることもあるのだ。

 

 

 

二宮の到来を予期していたミラは、自分に向けて撃たれたアステロイドをもれなくワープゲートで別の場所に逃した。

しかしそれは今までとは違い、撃った相手に撃ち返すのではなく。

 

 

 

 

 

 

ワープゲートが開く。

そこから放たれるのは、射手の王のアステロイド。

 

 

 

「二宮さんのアステロイド…!?」

 

 

 

狙われたのは、三輪隊の狙撃手たちだった。

 

これまでの攻撃でははね返しても避けるか防御されるかだったが、それが二宮のアステロイドなら話は別。弾幕と言える量、ボーダートップクラスのトリオン量という質を兼ね備えた暴力は、まさしく蹂躙と形容するに相応しい。

 

 

シールド1枚なら間違いなく破られる。2枚のシールドを同時展開する全防御(フルガード)でも防げるかは怪しい。

だが、フルガードが2つならば、確実に防げる。

 

 

 

アステロイドに貫かれて穴だらけにされてしまった古寺。その手が向けられた先には奈良坂がいて、奈良坂自身のフルガードと古寺のフルガードで二宮のアステロイドはシャットアウトされていた。奈良坂には傷ひとつない。

 

 

「古寺…!」

 

 

自分より狙撃技術に優れる奈良坂を守った瞬時の判断は、さすがA級隊員。奈良坂に「後は頼みます」と言って古寺は緊急脱出した。

 

 

 

 

ワープゲートは閉じてアステロイドの弾幕は終わった。奈良坂はいつも通りに冷静に…

 

 

「ああ、任された」

 

 

古寺の意思を受け取った。

 

 

 

 

 

 

二宮は三輪隊に謝罪しながら、ミラを倒すための最適解を組み立てていた。

有効なのはバイパー及びメテオラ。軌道が変化するバイパーと範囲攻撃のメテオラならばワープゲートをくぐり抜けるないしは無効化されない。

 

 

バイパーとメテオラの合成弾であるトマホーク、ハウンドとメテオラの合成弾であるサラマンダーも良手ではあるが、弾速は遅くなってしまう。アステロイドをはね返せるだけのスピードのミラならば軌道が変化したとしてもはね返されてしまう可能性がある。まあ、そもそもバイパーをトリガーホルダーにセットしていないが。

 

 

 

戦闘と戦術どちらもいける、という自負のある二宮はミラ打倒の道筋を立てる。そこには奈良坂の支援は必要だが、未知数たる蒼の騎士はむしろありがた迷惑な戦力だ。連携がとれない。

 

 

「おい、そこの蒼いおまえ」

 

 

「………おれか?」

 

 

唐突に呼ばれたクロウは問い返し「そうだ」と肯定される。

 

 

 

「ここはいいから、もう1人の黒トリガーを頼む。ここから東に1km先で、白チビが戦っている。……白チビも黒トリガーだが、勝つのは難しいだろう」

 

 

「ここはいいのか?」

 

 

「心配はいらん。さっさと行け」

 

 

「ハッ…頼もしいこった」

 

 

クロウから視線を外してミラを睨みつける二宮に、クロウもこれ以上の問答は無意味だと感じ取り、東に向けて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

知っていた、わかっていた。

 

なのに、期待してしまった。

 

 

今日ならできるのでは?今日なら届くのでは?

 

 

そんな幻想を抱いてしまった。

 

 

 

 

剣の極致。剣聖の証明。リィン・シュバルツァーの到達点。

 

その一端でも垣間見る事ができるのではないか、と。淡く儚い幻想。目が覚めれば消える泡沫の夢。

 

 

 

『八葉一刀、無仭剣』

 

 

八葉一刀流における八の型は無手の型。武器を失っても戦うための型。八葉一刀流を学ぶ者はまずこの型を叩き込まれる。

しかし、それはあくまでも表向きの話だ。

 

剣技極めれば、身剣合一と成るべし。

 

 

平たく言えば、剣を手足の如く操れば、それが剣の極致である、という考え。

剣は抜かずとも良い。なぜなら我が身は剣と同一ゆえに。

 

 

八葉一刀流で、1番初めに学ぶ無手の型がどうして八番目の型なのか。それは、八葉は八の型に始まり八の型で終わるからである。

無手の型を学び、剣の頂に至るにつれて剣をまさしく無手如く操るということ。

 

ゆえに八葉の奥義は『無仭(やいばなき)』なのである。

 

 

 

刀也は修行の半ばにして、それを気づいた。本来、剣の境地に達してようやく悟るはずの答えに、道半ばにして気づいてしまったのだ。

 

趣味が高んじて磨かれた想像の果てに気づいた答えを師匠に問いただすと、是という。リィンが刀也を自分より才能があると言ったのはその点についてだった。

 

きっとそれは、気づいただけで理解していないのだと思う。

1+1の答えが2だと誰もが知っている。だがなぜ答えが2になるのかわかっているものは少ないのと同じように。

答えが『それ』だと知っているだけで、なぜ『それ』になるのかを理解していない。

 

だから刀也は剣の境地を知りながら、そこに至れない。

 

 

 

 

『無仭剣』を発動するためには、一の型から七の型までの剣技を流れるように連続しなければいけない。

瞬時のトリガー切り替え、技の洗練に精神が摩耗する。魂が悲鳴をあげる。

それが意識とトリオン体の接続を切断してしまうのだ。

 

それが、刀也が最後の一振りを前にして倒れてしまった理由である。

 

 

 

「………非常に残念です」

 

 

 

本当に、言葉通りに残念な表情をするヴィザ。

ヴィザは、例え敗れるとも最後まで見たい、と思わせられた剣技に出会えたのは初めてだった。

 

 

「願わくば貴方の師匠と………いや、これは無礼が過ぎますな」

 

 

無仭剣はそれほどの剣技なのだ。そして無仭剣でなければ、この老境の剣士を倒せないと踏んだが故に行動不能のリスクを背負って刀也は無仭剣を使おうとした。

賭けには惨敗。技は最後まで決まらず致命的な隙を晒している。

 

 

 

「せめて最後は我が剣で……」

 

 

 

ヴィザは星の杖のブレードではなく、剣で刀也を両断しようとした。

精神とトリオン体のリンク断絶は易々と起こる事ではないが、起こってしまえば復帰は容易ではない。

ゆえに反撃はない、あったとしても迎撃は万全だ。だから最後は自らの手で相手をくだす。

 

それは対峙した剣士への敬意でもありーーーーまた、ある種の油断でもあった。

 

 

 

 

「アフトクラトルのヴィザ……、尊敬の念を込めてヴィザ翁と呼ばせてもらいますが…」

 

 

 

「……最後の言葉ですかな?」

 

 

 

「問わせていただきます。ヴィザ翁…貴方にとって剣とは?」

 

 

 

「ただひとつの種類の武器……されど果て無き荒野。長い人生を輝かせてくれるもの……この答えでどうでしょう?」

 

 

 

「…………それが、貴方の答えか」

 

 

「左様」と返答したヴィザはトドメを刺すべく剣を振り下ろす。しかし、僅かながら回復した刀也は孤月で剣の軌道を逸らす。ヴィザの剣は刀也の肩口を切り裂く。

 

 

 

「おれにとっての剣とは、憧れだ」

 

 

「………」

 

 

弱々しいながらも徐々に手足に力が戻ってくる。断絶されたリンクが復帰しようとしている。

 

今すぐに目の前の剣士を倒さなければ。ヴィザはそう考えるが、体は意識に反して動かない。刀也の答えを聞きたいと思ってしまっているのだ。

らしくない。非常にヴィザらしくないが、類稀なる剣士に出会えたのだから、その人物の答えにも興味があった。

 

 

「おれを助けてくれたあの人の背中に追いつく………いや、あの人の背中を守れるようになるための、たったひとつの道」

 

 

リィンの背を追うのではなく、リィンの背を守れるための剣。肩を並べて共に戦うための道。

今はもう叶わない夢。それでも追い続けるのは……黒トリガーとなったリィンに誇れる自分になるため。

 

 

「だから、負けるわけにはいかないからあの人の弟子を名乗って貴方との戦いに臨んだ」

 

 

 

ただ1人の剣士として、ヴィザに勝ちたいと思ったから。

戦士ではなく剣士として戦いに臨んだ。

 

 

「結果は……惨敗。自分の未熟を実感した。そりゃ負けるさ、積み重ねてきたモノが違う」

 

 

負けた理由はそれに尽きる。普通に戦って勝てないから分の悪い賭けをやるしかなかった。

 

 

「だけど、おれは知ってた。知ってたんだよ………

あの人も仲間と一緒に戦ってたって事をーーーーーーーーー!」

 

 

リィンとて1人で戦っていたわけではない。強敵を相手にしては剣聖でも勝機は薄い。

だけど、仲間と一緒ならどんな壁でも乗り越えられる。

 

 

夜凪刀也は、それを知っていたーーーーー!

 

 

 

 

 

ヴィザの勝ちだった。刀也vsヴィザの戦いはヴィザの勝利で終わり。

ヴィザと戦っていたのが本当に刀也1人だけなら、の話だ。

 

 

刀也の独白は時間稼ぎだと気付いていた。それでもあらゆる事態に対応できるように緊張の糸は張り巡らせていたつもりだった。

刀也が回復して切りかかってきても、新手が現れても、長距離狙撃を受けても。対応できる構えだった。

 

 

しかし、地を疾る斬撃への対応は無理だった。

 

 

 

 

「な………!?」

 

 

 

風刃の遠隔斬撃が、ヴィザを斬り刻む。

 

しかし直前で気づいたのかブレードを防御に回し風刃のおよそ半数は防御する。

 

 

ここで生じた隙を刀也は見逃さない。

立ち上がった刀也は風刃が炸裂したその瞬間にヴィザの胸を孤月で貫いた。

 

 

 

「……勝ちはもらいます」

 

 

刀也とヴィザの試合はヴィザの勝ちでいい。だがボーダー対アフトクラトルの勝負の勝ちは譲らない。

 

 

 

 

ヴィザのトリオン体の換装が解除される。しかし、風刃を喰らいながらもヴィザは刀也に剣を突き立てていた。討たれるのならば、せめて1人でも道連れにすべく向かってきた刀也に剣を向けたのだ。

 

 

 

刀也の孤月はトリオン供給器官を貫いたが、ヴィザの剣は刀也のトリオン供給器官をわずかにずれていた。風刃で腕が損壊してしまったが故の誤差が出た。

 

 

だが、このトリオン漏出量ではすぐに戦闘不能ーー緊急脱出だろう。相討ちは成った、と思われた瞬間。

 

 

 

「トリガー解除(オフ)!」

 

 

刀也は自ら換装を解いて生身に戻る。

 

 

「なにを……?」

 

 

刀也が何を考えているのかヴィザは理解できなかった。トリガーを解除して緊急脱出を免れたのはいいが、トリオン体の損壊やトリオンを消費した量は変わらない。次にトリガーを起動した瞬間に緊急脱出するのがオチだ。

 

 

「別に生身でやり合おうってわけじゃないからご安心を。……まあ貴方は生身でもかなりやりそうですけど」

 

 

ヴィザの肉体は老人とは思えないほど引き締まっているのが服の上からでも見て取れる。生身で喧嘩したらボーダーで最強と噂される刀也でもヴィザと殴り合うのは気が引けた。

 

 

「迅、助かったけど30秒稼げ、は無茶だ」

 

 

そこで風刃を装備した迅が現れた。無仭剣の失敗直後に迅から通信があり、風刃で援護するから30秒稼いでくれ、と言われた時はどうしようかと思った刀也。なんとか時間稼ぎはできたから良かったものの。

 

 

「でもヨナさんならやってくれると思ってたよ」

 

 

 

「軽いよ、ノリが!じゃあこれ頼むわ」

 

 

いつも通りの迅にツッコミを入れる刀也は、ポケットから取り出したノーマルトリガーを迅に投げて渡した。

 

 

それを受け取った迅はしばらく刀也を見て「なるほどね」と呟いた。

 

 

「未来が見えたか?おまえはおれに借りがあったはずだが」

 

 

それは大規模侵攻前に風刃の使用者に迅を推した時の事を言っていた。迅はすぐに察するも、その借りを今使う必要はない、とばかりに言葉を返す。

 

 

「そうだね……ここはおれよりヨナさんが行った方が良さそうだ。ノーマルトリガー(これ)はおれにヨナさんのフリをしろって事でOK?」

 

 

「ああ、ここにおれのトリガーの反応があってくれた方が良い。……言ってる意味わかるよな、予知者」

 

 

「うん、本部には黙っとくよ。だから、その代わりに……ちゃんと救ってきてね」

 

 

 

「交渉成立だな、よし、じゃあ行ってくる!」

 

 

 

迅は風刃を解除して刀也のトリガーを起動する。これで、ここに刀也がいたという反応が本部では検知される。

刀也がそんな事をしたのは、自分が所有するもう一つのトリガーを使うためであった。

 

 

 

取り出す、トリガー。

それこそはリィン・シュバルツァーが遺した黒トリガーだ。

ボーダー本部に黙って所有している、刀也が使用者の破格のトリガー。

 

使用したのは過去に一度のみだが、その時の感覚は覚えている。

忘れられない、理想の体現と言うべきだろうか。

 

 

そして刀也は、黒トリガーの名を呼んだ。

 

 

 

 

 

Ⅶ"s(セブンス)ギア、駆動」

 

 

 

 

 

 




開眼した(物理)。奥義開眼ではなく、目を開けたという意味。

あれ……?なんか刀也が主人公っぽい……?

無仭剣についての解釈はもちろん捏造です。
書いてる途中に思いつきました。ゲームプレイ当時から仭って刃なん?と思ってたけど、無仭が無手と同意ならまず八の型が叩き込まれる理由の裏付けにもなるかな、と思いましてございます。
無仭剣は七の型の後は納刀するだけだろ?というツッコミは無視する!


20巻面白かったです!そしてカバーをめくった下にあるキャラクターのユニークな説明が「カバー下」である事が判明。嵐山さんのおかげ。合掌。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。