ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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クロウ・アームブラストは前提から違うのだ。

ボーダーの誰と比べても。
アフトクラトルの誰と比べても。


クロウだけは、前提からして『違う』


『Ⅶ』の刃が届く時

アフトクラトル遠征艇の支配権を掌握したレプリカは、ミラからのアクセスを弾いたのち、艇から新たなゲートを三門市に開く。

しかし、それは侵略者の出現を意味しない。

空中に穿たれた黒い穴からこぼれ落ちたのは、アフトクラトルの今回の遠征における、最大の戦果。金の雛鳥を含む、多数の雛鳥を封じ込めたトリオンキューブだ。

 

 

ほぼすべてーー避難路でトリオンキューブ化されたものーーを逃したレプリカは、今度は帰還命令を実行した。

 

 

 

 

ところで、ミラに発見されてしまう。

 

 

 

「自律型トリオン兵…!侵入されていたなんて………っ!」

 

 

レプリカを窓の影の小窓で真っ二つにしたミラだが、艇のコントロールを取り戻せはしなかった。帰還命令の解除もできず、すでに艇が発進するカウントダウンが始まっていた。

 

 

 

これはまずい。考え得る限り最悪の展開。いや、まったく想定外の最悪だ。

 

捕獲した雛鳥の大部分には逃げられ、さらには遠征隊のリーダーであるハイレインを置き去りにしてしまう危機だ。領主であるハイレインが玄界に捕えられてしまえば、他の領主たちがハイレインの領地を荒らす未来が透けて見える。黒トリガーの損失よりも領主たちは、次代の実権を争うハイレインの脱落を選択するだろう。

 

だが、まだ起死回生の手はある。ハイレインとレプリカが逃がした雛鳥を回収する。遠征艇の帰還命令が実行されるまで、あと60秒。事ここに至り、出し惜しみはしない。ミラはランバネインとヴィザにハイレインの救出を頼み、自身は雛鳥のトリオンキューブの回収に向かった。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

アフトクラトルの遠征艇から逃がされたトリオンキューブは戦闘痕の残る路地に乱雑にばらまかれていた。いくらレプリカでもトリオンキューブを逃がす先を選ぶ余裕はなかったようで、ボーダー隊員にも見つからずに放置されていた。

 

己の幸運に思わず笑みをこぼすミラだったが、その視線の先…路地の奥に1人の男がいることに気付いた。全身黒ずくめの男。エネドラを容易く撃破した剣の使い手。

 

 

「二の型」

 

 

刀也は腰に提げた弧月の柄に手をかけた。

ミラはその構えに、先ほどの素早い切り込みが来る事を予見する。確かにその技は速いが、この距離ならば対応できる。大窓で彼方まで転移させてやる、とばかりに手をかざして、

 

 

「窓の」

 

 

 

「疾風」

 

 

 

そんな抵抗さえ許されず、一刀のもとに両断される。

 

 

 

「そんな…さっきとはまるで……!?」

 

 

 

先ほどとは比べるべくもない速度、技の冴え。当然だ、これはリィンの『疾風』。≪剣聖≫の『疾風』だ。

 

 

 

「ああ、おれもそう思う」

 

 

 

未だ比較するのさえ遠い師父の技に、放った本人がミラの言葉を肯定し。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

遠征艇の帰還まで60秒。

状況についてはすでに報告を受けたハイレインは、わずかに焦りを見せる。

 

 

金の雛鳥を含む多数の雛鳥を逃がされたのは痛い。ミラが回収すると出たようだが、できるのだろうか?

わずかばかりだが、他の雛鳥は確保できている……しかし、遠征の費用と秤にかければ天秤がどちらに傾くか……

 

しかし、ここで黒トリガーを確保できれば………

 

 

 

遊真を見ながらハイレインは思考するが、たった60秒で遊真をトリオンキューブにして撤退するのは不可能だと判断し、遠征艇からの門が開かれる。

 

 

 

 

 

「さらば」と告げようとしたところで、それは飛来した。

 

 

くるくる、なんて勢いではない。まさしく空を裂くほどの回転を伴って投げ放たれた双刃剣。

 

 

辛うじて防御に成功するハイレインだが、勢いに押されて門から遠ざかってしまった。

 

 

 

 

「そう簡単に帰らせるかよ」

 

 

現れたのは、蒼い甲胄の騎士。ランバネインを倒したというダブルセイバーの使い手だ。

 

 

「その声……クロウさん?」

 

聞き覚えのある声に遊真が反応した。ボーダー隊員伝手に蒼い騎士が味方とは知っていたが、それがクロウとは思いもしなかった。

だが、クロウは心強い味方だ。黒トリガーを使っているなら尚更のこと。

 

 

「ああ、遊真か……ひどくやられたみてぇだな。ま、あとは任せとけよ」

 

クロウは遊真の様子を見て戦闘不能直前だと判断する。まずは敵のリーダーにここまでダメージを与えた事を讃えたいが、それには時間が足りないようで、ハイレインのダメージからあとは自分一人でも大丈夫だと宣言した。

 

 

黒トリガー2人に囲まれては是非もなく、ハイレインは撤退に全力を注ぎ込む。

 

 

残るトリオンすべてを卵の冠にまわして、鳥やサカナなどの防壁を増加させる。これなら、どんな妨害があろうと門まで無事に辿り着けるーーーー

 

 

 

「………と、思うじゃん?」

 

 

 

付近の瓦礫を砕き、蹴り飛ばしたのは米屋だった。瓦礫は卵の冠から産み出された生物の形を潰してハイレインに激突する。トリオン体であるハイレインにダメージはないが、これで卵の冠はトリオンにしか効かない事が証明された。

これまで推測はあっても、試した者はいなかったため希望的観測の可能性もあったが、卵の冠はトリオンにしか効果がないという事がわかった。

 

 

 

「なるほどな……トリオンにしか作用しない弾か」

 

 

 

七の騎神には通信機能がなく情報が得られてなかったクロウだが、米屋の機転により卵の冠の弱点を理解した。

 

 

「なら、こうだな」

 

 

ニヤ、と笑うとクロウは七の騎神を解除した。

 

 

「生身に…?」

 

 

生身になったクロウ。いくら卵の冠がトリオンにしか効かないとは言え、無謀だと誰もが思う。

 

 

だが、クロウだけは違う。

 

 

 

「おし、あげてくぜ!」

 

 

蒼い闘気が炸裂する。

身体力を底上げする『デスティニーブルー』。ゼリムア大陸での戦いの最中に目覚めたクラフトだ。

 

 

そこからさらに。

 

 

「動くな……!」

 

 

 

敵を拘束する魔眼『アイ・オブ・バロール』。

 

 

ピクリ、と動きが止まった一瞬でクロウはハイレインに肉薄する。生身にあるまじき速度。トリオン体でのスピードを上回るそれは、まさしく人間業ではない。

 

 

クロウだけは、前提からして違うのだ。

 

 

 

生身での戦いが基本であったゼムリアで鍛えられたクロウは、むしろトリオン体の方が枷。意識の速さにトリオン体が着いてこなくて、遊真には遅れをとった…というのは言い訳臭いが。

 

だが、生身なら話は違う。自身の、クロウ・アームブラストの最高のパフォーマンスが発揮できる。

 

 

 

卵の冠の防壁は意味をなさず、クロウに当たっては弾けて消える。

しかし、いくら生身の性能が良いとは言え、トリオン体にはトリオン以外では大したダメージが与えられない……というルールも、クロウは忘れていない。

 

 

「貸しな、オルディーネ」

 

 

だからクロウは、七の騎神からオルディーネのダブルセイバーだけを取り出して、一切の防壁を取り払われたハイレインの胸に突き立てた。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

空が、晴れた。

 

 

近界民の襲来と同時に、空に渦巻いた暗雲は消え去り、それは同時にアフトクラトルの撤退を意味していた。

 

 

 

 

「迅」と、呼ばれて実力派エリートは通信からの声に耳を傾ける。

 

 

 

「この結果は、おまえの予知の中ではどのあたりの出来だ?」

 

 

声の主人はボーダーの司令官である城戸だった。その質問に迅は一拍置いてから答える。

 

 

「………最高の結果だよ。ボーダー本部に侵入されるパターンも、A級B級が捕まるパターンも、民間人が死にまくるパターンもあった」

 

 

だが、最高の結果でも、これだ。

民間人に死者はなく、それはボーダー隊員とて同じ。だがC級隊員は連れ去られた者がいる。

アフトクラトルの遠征が決定した時点で、ボーダーに被害が出る事は確定していた。最高の結果でも犠牲はある……それだけの戦力がアフトクラトルにはあったのだ。

 

だけど。それでも。掴めた最高の未来の前には、こう言うべきだと迅は思った。

 

 

「……みんな、本当によくやったよ」

 

 

最高から最悪へ、そこから最高に返り咲いた未来にはヒヤヒヤした迅だったが、早いーー刀也が黒トリガーを起動したーー段階で未来が確定したのは良かった。

そこからさらに、ヴィザを見逃す事によってさらなる未来の最悪も予防できたし、これを最高の結果と呼ばずしてなんとする。

 

 

「……なるほど。………わかった、御苦労」

 

 

迅の答えを聞いて、城戸はそう言うと通信を終える。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

民間人

死者 0名

重傷 11名

軽傷 34名

 

ボーダー

死者 0名

重傷 0名

行方不明者 16名(すべてC級隊員)

 

近界民

死者 1名(近界民の手に因る)

捕虜 1名

 

 

 

対近界民大規模侵攻、三門市防衛戦、終結。

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

「……ヒュース殿は、間に合いませんでしたか」

 

 

アフトクラトル遠征艇の中で、ヴィザは残念そうに呟いた。

 

 

「ビーコンは破壊されていた。……金の雛鳥も捕り逃しては、ヒュースは連れて帰れない」

 

 

アフトクラトルにも事情があった。それを理解しているヴィザは「なるほど」と呟いて黙する。ヒュースほど優秀な人材は稀で、しかも手ずから剣を教えたほどだ。惜しくないわけがない。

 

 

「元より決めていた事だ。連れ帰ればヒュースは我々の敵になる」

 

 

「うーむ、もったいない。金の雛鳥が手に入っていればなあ」などとランバネインは言い、捕え損ねたミラは気まずそうにしたので「おっと」と顔を背ける。

 

エネドラとヒュースの2人がいなくなり、スペースの空いた艇を満喫するようにランバネインは腕を広げる。

 

 

ハイレインとランバネインの兄弟が僅かばかりやり取りをしたのち、ハイレインはいつも通りの真顔で皆に告げる。

 

「エネドラ、ヒュースの件はともかく、当初の目的は達成したとは言い難い。本国に着くまで、あと一仕事してもらうぞ」

 

 

 

☆★

 

 

 

彼方の星にて、七の騎神の力が観測されたという。

 

玄界……トリガーとも、導力技術とも違う文明の発達した星。

 

 

 

それを起動したのは誰かという確認と、そして七の騎神を持ち帰れという命令が下された。7年前とは状況が変化したためか、あるいは別の理由か。

 

 

 

「こんな命令、聞いてやる義理はねえが……まあ、懐かしい顔に会えそうだからな」

 

 

呟いて、赤衣の長身は遠征艇に乗り込む。

 

 

 

 

こうして、混沌の火種は蒔かれた。

蒼の騎士と剣聖の後継が、焔の魔人と対峙する日はまだ遠く。




大規模侵攻、終結!
やっとこさ終わったでござる。生身クロウはトリオン体クロウより強いっていうね。たぶんボーダー規格のトリガーでトリオン体になるより生身で戦った方が強いよね。


大規模侵攻編については、あと少しだけ続きます。

トリオンキューブより復帰した三雲修は、雨取千佳を自身の力で助ける事を諦めてしまった事実によって精神に傷を負った。そこに、追い討ちをかけるように記者会見が始まり……?

次回『折れたメガネよ、立ち上がれ』
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