ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに 作:クラウンドッグ
メガネ
精神がぽっきり折れた。メガネを外すかもしれない危機。
ねつき
優秀だけど驚き役もやれる大人の万能手。
とーや
良い事を言う時は、だいたい誰かの受け売り。
クロウ
大人と子供の精神を併せ持つハイブリッド。
良く相手を見定めろ。
三雲修は自分にそう言い聞かせる。相手が使っているのはレイガスト一本のみ。他のトリガーはセットしていないか、使う気がないのか……
とりあえず、この一本勝負ではレイガストしか使わないと仮定して進めよう。
早く鋭く、流れるような連撃だが、レイガストを変形させるような事はないようだ。それに、シールドモードにするほど自分も攻めきれてはいない。だから、狙うのは引きつけてからのカウンター。
踏み込んできた相手のレイガストを、自分のレイガストをシールドモードにして防ぐ。
「アステロイド!」
そこに弾速重視の通常弾の叩き込み、躱すために身を屈めた相手に、
「スラスター、オン!」
レイガストをブレードモードにしてオプショントリガーであるスラスターを起動、そのままぶった切りに移行する。
が、そこまでは相手も読み通りだったようで、ひらりと避けられたどころかぶった切りをレイガストで受けて、その反動で回転して突きを放ってくる。
そこからは必勝パターンだ。敵の攻撃を利用しての反撃、からの踊るような連撃で沈める………だが、この必勝パターンで何度も敗北している三雲だからこそ見える勝ち筋があった。
突き出されたレイガストを集中シールドで防ぐ。孤月やスコーピオンならシールドは貫かれていたであろうが、それらより攻撃力に劣るレイガストなら防げると思ったが、その通りだったようで、ここで始めて三雲の対戦相手は少しだけ驚いた顔をした。
さらにそこに、シールドモードに変化させたレイガストでスラスターを起動、シールドチャージを敢行する。スラスターの勢いのままに相手を壁際まで押し込んだ三雲は周囲に散らしたアステロイドを一斉に撃ち放つ。
「スラスター、オン」
だが、それでもまだ足りなかったようで。
「十本勝負終了。10対0。勝者アームブラスト」
三雲はクロウに敗北した。
「最後はなかなかだったじゃねえか。スラスターを使わなきゃやられてたぜ」
対戦ブースから出てきたクロウは三雲に話しかける。三雲くらいが相手ならレイガスト一本で充分だと考えてただけに、最後の最後でスラスターを使わされたのは少し悔しかった。
「いえ…完敗でした。さすがですね、クロウさん」
「完敗なもんかよ。おれはウチの隊長からトリガーセットを露見させるなと言われてたのに、思わずスラスター使っちまったんだからな。ランク戦前に1つ情報を与えちまったわけだ」
「ランク戦……ですか」
クロウと語る三雲だったが、その表情は暗い。そこにランク戦というワードが加わって三雲はさらに表情を暗くした。
「……どうかしたか?」
表情の変化に気づいたクロウは問いかけてみるが三雲は「いえ……」と言い淀むのみ。
まったく……テロ組織の親玉ってわけでもあるまいに、同じ組織の仲間に何を言い淀む必要があるのか。
さらに言葉を連ねようとしたところで、そこに刀也が現れた。
「おまた〜」
「おう、諸々の申請は終わったのか?」
「うん、ぜんぶOK。B級21位夜凪隊結成だ」
クロウと刀也とオペレーターの3人部隊の夜凪隊。その申請書類の提出のため刀也は部屋を離れていたのだが、そんな事を知らない三雲は刀也を訪ねて部屋を訪れていた。
☆★
大規模侵攻から1週間が経っていた。なんとなく遊真や千佳と顔を合わせ辛いと感じた三雲は玉狛支部の面々からは距離を置き、本部の先輩たちの部屋を訪れて有難い話を聞く、という自分でも何を目的とした行為なのかわからない旅を始めていた。
その末にたどり着いたのが夜凪刀也の部屋だった。
「あの、三雲ですが……夜凪さんはいますか?」
「刀也なら今は席を外してるぜ。何か用か?」
部屋を訪れた三雲の応対をしたのはクロウだった。
「いえ、用事があるわけじゃないんですが……もし時間があるならお話でも、と」
「……まあ、戻ってくるまでに時間はかからねえと思うし、中で待っておくか?コーヒーくらいなら出すが」
「そうですね………」と考え込んだ三雲は何を思ったのか、突然クロウを真正面に見据えて、
「クロウさん、良かったらぼくと個人ランク戦をしてもらえませんか?」
と、そんな事を提案してきたのだった。
☆★
「それで、話があるって?」
「本題は?」と最初から聞き出すような遠慮のなさで、刀也は切り出す。
観察からの想像が、刀也の生まれ持った才能だった。八葉の極みについてもこれのおかげで知れたと言える。その観察からの想像によれば、三雲には何らかの迷いがあり、それは大規模侵攻に基づくものであると刀也は見ていた。
「はい……その、夜凪さんはどうしてボーダー隊員になったのかな、と思いまして」
なんだその質問は……とばかりに刀也は片目を瞑る。わずかな黙考の後に刀也は語り始めた。
「きっかけは、近界民に襲われた所をボーダー隊員に救われて……、その人がカッコ良かったからかな。その人みたいになりたい!ってのが1番最初の動機だよ」
「それは…憧れ、ですか?」
「憧れ……そうだな。憧憬、希望、理想……そんなとこだかな。んで、三雲……そんなおまえはどうしてボーダーに入隊したのかな?」
鋭い、とは言えない、まるで学校の教師のような切り返しに、三雲は自らの記憶を想起させる。
幼馴染である雨取千佳。その兄である雨取麟児は三雲の家庭教師だった。千佳は破格のトリオン量ゆえに近界民に狙われていた。雨取麟児は妹想いの兄であり、また優秀な男でもあった。
彼はとあるボーダー隊員と取引してトリガーを入手。門の向こう側へと渡ったのだ。雨取麟児に「自分に何かあったら千佳を頼む」と言われていた三雲は、千佳を守る力を得るためにボーダーに入隊した。
「……別に言わなくてもいいけどさ、その理由はおまえだけのもんだろ。最初の動機を忘れちゃいかんよ。初心忘るべからず、って言うだろ」
千佳を守る、その目的のためにボーダーに入隊した。
だけど、この前の大規模侵攻では何もできずに無様にキューブ化されただけだった。千佳を守れず、最後には千佳を守る事を諦めた。
あの時言った「すまない」は諦観から出た言葉だと三雲は自覚していた。だからこそ、止まってしまったのだ。
三雲修は自分がそうすべきだと思った事からは逃げない……逃げたが最後、立ち向かえなくなる人種だ。それはまるで巨木のような生き様だ。しかし一度折れれば立ち直れない。枝のように風を受け流せはしないのだ。
「……でも、ぼくには力が足りませんでした。ボーダーに入隊した理由を、達成できるだけの力が」
「……それが結論でいいのか?三雲、おまえ自身はそれでいいのかよ?」
痛ましい三雲の独白に、クロウが口を挟む。おまえはそれで納得できるのか?と。結論に納得できないからこそ、人は諍う生き物ではないか。三雲はまだ中学生だが、なかなかに聡い。そんな事がわからないわけじゃないはずだ。
「いいわけがない。でも、ぼくには……」
「おまえはまだ若いだろ。何も今から諦めるのは早すぎるとは思わないか?」
三雲は自分と同じように成長の止まった不死者ではない。未来のある若者だ。そうなれるかもしれない理想を追いかけるべき年齢だ。だが、三雲は徹底的に折れてしまっているらしく、どうやら普通の言葉では届かないようだった。
「力が、ない。空閑みたいな経験も、千佳みたいなトリオンも、迅さんみたいなサイドエフェクトも………ぼくには何もない。B級に上がれたのだって空閑や迅さんのおこぼれをもらっただけで……本当はC級止まりだった。分不相応だったんです、ぼくにB級隊員なんて肩書きは……だってぼくには力がないんだから……!」
ここまで語るつもりはなかったであろう三雲だったが、刀也の誘導とクロウの言葉により、本心をさらけ出してしまっていた。
思わず吐露した三雲の本心に、いったいどれだけの影響を与えられるかわからない。だが、これだけは言っておかなければいけない、と刀也は空気を吸い込んだ。
「力があろうがなかろうが、おまえが正隊員なのは変わらん。それとも、ずっと訓練生のままが良かったのか?自分は目標のために頑張ってますーってポーズを取り続けるだけが目的だったのか?……違うだろ。無いものを有るとするのは欺瞞だ。逆も然りで、おまえにはB級に上がった…その事実は嘘じゃない。目的が達成できない理由を、本当はC級止まりの実力だから、とか…自分が未熟であることの言い訳にするなよ」
辛辣とも取れる刀也の言葉はしかし、三雲に「諦めるな」と語りかけている。クロウのように直裁に言うのではなく、追い詰める事で答えを引き出そうとする刀也の泣きっ面に蜂の巣作戦は、三雲には効果覿面であり。刀也はさらに続ける。
「いいか、三雲………三雲修よ。力ってのは所詮、己に続くものでしかない。
振るうのはあくまで“己”の魂と意志ーーー、最後にはそれがすべてを決するもんだ」
どこかで聞いた事があるような刀也のセリフに首をかしげるクロウだが、その言葉を向けられた三雲は感銘を受けたようで、沈んでいた表情が嘘のようになっていた。
「だから三雲、己を貫き通せ。己の信念を、貫徹しろ」
言い切ると、刀也は真面目な表情を不敵な笑みで隠すと「じゃ」と言ってテーブルを立つと部屋に戻る。クロウもそれに続き、立ち去る2人に三雲が「ありごとうございました!」と大声で礼を告げた。
ちなみに、そのやりとりが交わされたのはボーダー隊員が立ち入り自由なラウンジであり、刀也が三雲を立ち直らせたこの件は後に「夜凪隊による三雲懐柔作戦」と言われたとか言われないとか。
☆★
大規模侵攻から1週間が経過し、やや落ち着きを取り戻した三門市。落ち着いて来たからこそ、始まるものもあった。
記者会見である。今回の事件についてボーダーから事情を聞こうとしたメディア陣が会場に押し寄せてきていた。
こんな事は予想通りだったボーダー上層部は、淀みなくメディア陣の質問に答えていく。メディア対策室室長の根付の独壇場と化していた会場だったが、流れを変える質問がでた。
狙われたC級隊員たちのトリガーには緊急脱出が装備されていない事が近界民に把握されていたのか。その原因はイレギュラー門で現れたトリオン兵を訓練生がトリガーを使って撃破したからではないか、というもの。
その訓練生というのが三雲であり、質問をした記者は根付の仕込みであった。マスコミにわかりやすいネタを提供し、記者の矛先をボーダーから1人の隊員に誘導するためのものだ。
手ぶらで帰せば何を書かれるかわからない。有る事無い事書かれてボーダーの特権が失われては事である。マスコミまじマスゴミというわけである。
これで終われば根付さんファインプレーだったわけだが、記者会見の場には唐沢によって三雲が連れて来られていた。
刀也の言葉によって若干ハイになっている、あるいは精神が厨二…もとい中二に回帰している三雲が、である。
三雲は壇上に上がると「な…ちょ…」と狼狽える根付を一瞥して、件の訓練生が自分であると明かしたのち、質問があれば自分が答える、と言い出した。
記者たちの質問に正直に、少しだけ中二チックに答えていく三雲。
「ぼくはヒーローじゃない。誰もが納得するような結果はだせない。ただその時やるべきことを、後悔しないようにやるだけです」
開き直っているだけとも取れるセリフに、さらに突っかかってくる記者たちに三雲は言い放つ。
「ぼくには、三門市にいるみなさんを守れるだけの力はありません。だけど、力を振るうのは、あくまでも己の魂と意志……、無力でも守りたいという願いを捨てる事だけはありません」
さっそく刀也の言葉を引用した三雲。どこか得意げなのはやはり、まだ中学生ということの証左だろうか。
だが、そんな名言にも心踊らぬマスゴミたちは三雲に「どう責任をとるのか」と聞く。
三雲は、先程と変わらぬ信念をもって「取り返す」と宣言した。
その意味が理解できない記者たちに、城戸が三雲の言葉を補足するように説明した。
ボーダーでは連れ去られた人間の奪還計画を進めていること、無人機での近界民世界への渡航、往還試験は成功している事など。
近界遠征を『今から行く』という事にしたのだ。
近界民の世界に打って出る、という大スクープを手にした記者たちは、会見が終わるとざわつきながらも足早に会場を出て行った。
☆★
「………さっそく使ったな、三雲」
記者会見の中継を見ていた刀也はボソッと呟く。
「なあ、このセリフって………」
その呟きを聞いていたクロウが尋ねると、
「リィンさんの受け売りだよ」
刀也はそう答えたという。
はい、ここで唐突なカバー下風キャラ紹介
帰ってきた不死者 クロウ
死んだと思ったら生きてた不死者。ボーダー内におけるトリオン体より生身の方が強いランキングNo.1をひた走るが、トリオン体ではイマイチのもよう。武力と知力を兼ね備えるが、上層部の評価はそれなり。リィンという前例がいるせい。