ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに 作:クラウンドッグ
開始早々に絶望?回です。
クロウが三門市に来てから1週間が経過していた。
その間にイレギュラー門を開く原因となったラッドというトリオン兵は排除され、三門市には平和が戻ったかに見えた。
しかしボーダーは2つの問題を抱えていた。
1つは人型近界民と思しき人物が三門市に潜伏している事。こちらはすでにA級7位の三輪隊が正体を特定する直前だった。
もう1つは村上鋼が対面したという男について。生身でトリオン兵を凌げるほどの猛者でありながら、トリオンの反応がない事からおそらくトリガーを持たないと推測される。
生身でトリオン兵の前に立つなど自殺行為でしかないのだが、旧ボーダー時代から現在まで組織に籍を置いている者らは、そんな規格外な人物をもう1人知っていた。
リィン・シュバルツァー
そのリィンの話から考えるに、村上が遭遇したのはクロウ・アームブラストである可能性が高い。
そして、もし件の人物が本当にクロウ・アームブラストだとしたら、生身でトリオン兵と渡り合うだけの戦闘センスをボーダーで活かしてほしいと考えていた。
☆★
1週間、クロウは三門市で潜伏していた。
自分の日本人離れした容姿から近界民である疑いをかけられる可能性がある事を充分に理解しているのだ。
それ以上に、村上というボーダー隊員に顔を見られたのが痛い。生身でトリオン兵と戦うなんてのは、いくら市民を守るためとは言えやり過ぎだった。自分が相当に目立ったであろう事は想像に難くない。正直、三門市にいるのは危険だと思うほどだ。
しかし、それでもクロウが三門市を離れなかったのは、偏にリィンの存在ゆえだった。
自分はリィンと共に大気圏外に飛び出した。ならば、リィンも同じように三門市に来ていてもおかしくはない。
そもそもこの三門市がーーというよりはこの世界がーー、ゼムリア大陸で言う《外の理》の世界なのかすらわからないが、それでもリィンを探す価値はあると思っていた。
タイミングも良く(というのは少し憚られるが)イレギュラー門なんてものも出現しており、根っからのお人好しであるリィンならば生身でトリオン兵に立ち向かっていて話題になってもおかしくはないーーーーと、踏んでいたのだが。
結果は空振り。リィンの影どころか噂話すらない。あの正義漢が襲われてる民衆を助けないなんて想像つかないがーーー、あるいは。すでにボーダーに捕まっている可能性がある。自分もそうだが、リィンの風貌は目立ち過ぎるのだ。
「となると、次の一手は……」
もしすでにリィンがボーダーの手の内にあるのなら。そしてクロウの情報を開示しているとするなら。
このまま動かなければ、何も変わらない。何かを変えるにはまず動く事だーーークロウは20年という短い人生でそれを嫌という程知っていた。
だから………
☆★
「ボーダー本部所属の者です。クロウ・アームブラストさんですね?ボーダーまでご同行願えますか?」
クロウに声をかけたのは20代半ばの男。理知的な瞳はどこかかつての仲間ーーマキアスーーを思い出させる。
その男の横には顔を強張らせた2人の少年たちも控えていて、なるほどこの3人は1つのチームなのだと理解する。
「ああ、こっちから頼みたかったところだ。あんた、名前は?」
「東春秋です」と答えた男にクロウは「じゃあ、東の旦那よ」と自分の聞きたい情報を直球で尋ねる。
「リィン・シュバルツァーという名前を聞いたことはあるか?」
その問いかけに東はふと意味を考えるが、その役目は自分のものではないと悟り、首肯する。
「その名前を聞いたことはあります。……それについても我々に着いてきてもらえればわかります」
☆★
ボーダー本部に連行されたクロウが通されたのは司令室だった。
そこには、いつも話し合いをしている6人が揃っていた。
すなわち、総司令 城戸、本部長 忍田、開発室長 鬼怒田、メディア対策室長 根付、外務・営業部長 唐沢、玉狛支部・支部長 林藤の6人だ。
皆が揃ってクロウを見つめていた。
「ご足労をかけてすまない。きみがクロウ・アームブラストという事で間違いないかな?」
まず話しかけたのは忍田だった。トリオン兵と生身で渡り合うクロウを招き入れて護衛もなしに話し合えるのは、ノーマルトリガー最強とされるこの男がいるからだ。
忍田の問いにクロウは肯定する。
すると忍田は城戸と林藤に目配せすると、さらなる問いかけをクロウに向ける。
「私は忍田という。きみはリィン・シュバルツァーという名を聞いたことはあるか?」
「聞いたことがあるもなにも、そいつは俺が聞こうとしてた事だ。あんたたちはリィンを知ってるんだな……?それも、試すように俺に問いかけるくらいには」
鋭い、と室内の全員がクロウの認識を改める。風体はゆるゆるとしたものだが、その赤い瞳は引き締まっており、真実を見逃さぬ意思を秘めていた。
「そうだ。我々はリィン・シュバルツァーを知っている。そしてきみがクロウ・アームブラストである事には……少しばかり疑いが残っている」
そこで城戸が重々しく口を開く。会話の主導権を握らせるまいと、クロウが偽者である可能性を指摘した。忍田が城戸を叱責するように名を呼ぶが、城戸は無視して言う。
「七つの色を答えたまえ。きみが本当にクロウ・アームブラストというのならわかるはずだ」
それはリィンからの伝言でもあった。もしクロウが現れた時、自分が不在でクロウが本物か確信が無かったら、こういう質問をすればいい、という提案を、城戸は覚えていた。
訳知りの忍田と林藤は、ただ城戸が意地悪くしているだけではないと理解したが鬼怒田や根付、唐沢は何の事かわからない。
当のクロウは………困惑していた。
七つの色を答えろ、という問いかけにではなく、自分とリィンの扱いの差についてだ。
ボーダー上層部がクロウを疑っているのはわかる。そしてリィンを全面的に信用しているという事も。それがこの問いかけからわかることだ。
それならリィンに面通しすれば、自分がクロウであることの確認はとれるはずだ。
それをしないのは、いったいどういう事だ……?
困惑していても、クロウは答えるしかない。自らがクロウ・アームブラストであるという証明をする他ないのだ。
七つの色を答えよ。
リィンが城戸に託したこれは、自分たちが戦った彼らを示している。
「まずは、《蒼》」
《蒼の騎神》オルディーネ
クロウを起動者として、リィンの第一相克の相手として立ち塞がった。
敗北の後仲間となり、リィンと最期まで共にした。
「次に、《紫》」
《紫の騎神》ゼクトール
《猟兵王》ルトガー・クラウゼルを起動者とした騎神で、リィンの第二相克の相手として立ち塞がった。
王と呼ばれる威風堂々たる姿で、最期は子供たちに看取られて安らかに眠りについた。
「《銀》」
《銀の騎神》アルグレオン
《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットを起動者とする、リィンの第三相克の相手。250年の研鑽の果てに至高に到達した槍捌きはまさに凄絶で、大いに苦しめられた。
相克の後、諭されてすべての元凶を倒すため協力しようとすると突如現れた乱入者により命を奪われた。
しかし、残された力を託す事でリィンたちは救われたのを覚えている。
「《緋》」
《緋の騎神》テスタ=ロッサ
皇太子セドリックを起動者とする、リィンの第四相克の相手。
帝国の呪いに囚われた哀れな少年だったが、友の声にて正気を取り戻し、最後は《千の武器を持つ魔神》としての力を充分に発揮した。
「《金》」
《金の騎神》エル=プラドー
《翡翠の城将》ルーファスを起動者とする、リィンの第五相克の相手。
父を超えるという目標のもと、牙を磨いていたルーファスは騎神でも最高峰の性能を誇るエル=プラドーの起動者となり、かつ不意打ちで《銀》の翼を奪った事からすでに最強の敵と成り果てていた。
しかし、その猛攻を凌ぎ切りリィンは喉元に剣を突き立てた。
「《黒》」
《黒の騎神》イシュメルガ
すべての元凶にして、帝国の呪いそのもの。
獅子の心を持つ男を起動者とした、リィンの最終相克の敵。
絶対的な力を振るい、すべてを塗り潰す黒の本質を体現した悪意そのものであった。
「そして、《灰》」
《灰の騎神》ヴァリマール
リィン・シュバルツァーを起動者とした、相克の覇者。
しかし、イシュメルガの悪意を抑えきれず、呪いに染まってしまう前にこの次元でイシュメルガを倒す機会を得たとして大気圏外に飛び立った英雄。
脳裏に刻まれた戦いの記憶。それを言い切ったクロウに林藤がニヤと笑う。
「本物ってことで間違いないな。城戸さん」
「ああ、認めよう。きみがクロウ・アームブラストだと」
「そりゃ光栄だな。で、俺を連れてきたのはそのためじゃねえよな?……リィンの話、聞かせてもらおうか」
これでようやく本題に入れる。
ボーダー上層部が気味が悪いほどの信頼をリィンに置いている意味がわかる。
あわよくば、リィンの居場所も。
「落ち着いて聞いてほしい」
一息入れて、忍田が切り出す。
「リィン君……リィン・シュバルツァーは4年前に亡くなっている」
☆★
リィン・シュバルツァーは死んでいた。それも、4年も前に。
第一次近界民侵攻と呼ばれる、三門市に初めて近界民からの侵攻があったのが4年前だった。それまでボーダーは現在のように大々的な組織ではなく、近界民と関係を結ぶ事を目的とした細々とした組織だったのだ。それが今で言う旧ボーダーだ。そしてリィンは旧ボーダーに所属していた。
リィンが旧ボーダーに所属したのは第一次侵攻から3年前……今から7年前の事だった。
リィンは、第一次侵攻で命を落としたわけではなかった。
第一次侵攻の直後、全身を黒い何かで覆われ急激に衰弱したのだと言う。本人はそれを“呪い”と言っていたらしいが……
己の死期を悟ったリィンは
黒トリガーとは、優れたトリオン能力を持つ者が己の命と全トリオンを注ぎ込み完成する兵器だ。言わば黒トリガーとは、それを造った人そのものとも言える。
とにかく、4年前にリィンは黒トリガーとなって死んだ。それが結論だった。
司令室から出たクロウは目眩を覚える。ぐるぐると視界が廻る。ぐるぐると思考が廻る。
何故、リィンと自分とで三門市に来たのに7年もの時差がある?
何故、リィンは急激に衰弱した?
何故、リィンは黒トリガーになった?
何故、何故、何故、何故何故何故何故何故何故ーーーーーーー
悲しみで動けなくなる前に、思考をする。足を動かす。
ふらふらとした足取りではあったが、クロウはいつの間にか目的地に到着していた。
ふと、城戸の言葉を思い出す。
「シュバルツァーの最期を看取った男がいる。会っていくといい。シュバルツァーが唯一弟子と呼んだ男だ。名はーーーー」
壁に打ち付けられたプレートを見る。そこにはこう刻まれていた。
『夜凪 刀也』
という感じで怒涛の第2話でした。
クロウを主人公にしたのは、クロウが好きなキャラクターというのもあるんですが、リィンが主人公だと無双してハーレムを作るイメージしか湧かなかったからです。
その点クロウだと安心して見れますよね!ね?