ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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虚飾。

カッコつけたいだけならまだいい。カッコつけるのは男の生き方だ。
だけどこれは、ただ認められたいだけ。それはきっとカッコ悪い事だ。

それらしい、と認められたいだけ。

そんな偽りで塗り固めた自分が嫌いで、でもそんな自分を変える勇気もなくて。


雁字搦め…自分に言い聞かせる?
本当はわかっている。こんな鎖…簡単に引きちぎれる。でも拘束から抜け出そうとしないのは、鎖につながれて動けないというパフォーマンスだった。


ROUND2、ファイッ!

「じゃあ、作戦通りに頼むぞ」

 

 

「おう、任せとけ刀也」

 

 

 

無線越しの会話を終えて刀也は前を向いた。

 

 

 

 

B級ランク戦ROUND2が開始していた。

 

 

8位夜凪隊、11位那須隊、12位荒船隊による三つ巴。マップ選択権のある荒船隊は市街地Cを選んでいた。狙撃手有利のマップ…3人全員がスナイパーである荒船隊からすればここ以上に戦いやすいステージもないだろう。

 

 

開始早々、荒船隊の全員と那須隊のスナイパー、夜凪隊の2人がバッグワームを起動し、レーダーには那須隊の那須と熊谷の反応があるのみだ。

 

 

「マーカー付けといたよ。近づいたらアラート鳴らすからそのつもりでいな」

 

 

レーダーの反応によると那須と熊谷は合流したようだ。陽子はその2人に識別マーカーを付けた事をクロウらに報せる。

 

 

「荒船隊の位置は?」

 

 

「予測データを送る」

 

 

事前に組んだ作戦では、狙撃の効かない刀也を囮に荒船隊を狙う方針だった。

レーダー上に荒船隊の予測位置が表示され、刀也はそこに向けて疾駆した。

 

 

 

☆★

 

 

「始まりました、B級ランク戦ROUND2夜の部!転送直後に夜凪隊と荒船隊、那須隊の日浦隊員がバッグワームでレーダー上から姿を消した!」

 

 

快活に実況しているのは海老名隊オペレーターの武富桜子。解説席にいるのは「おれのツイン狙撃見た?」でおなじみの佐鳥賢と緑川だった。

 

 

「荒船隊は高台を目指す!夜凪隊もそれを追う!那須隊は日浦隊員のみ高台を目指し、那須隊長、熊谷隊員は合流を優先したようです」

 

 

「ヨナさんの足が速いね。荒船隊の位置を把握してる動きだ」

 

 

緑川がモニターに映る刀也の姿を見て確信する。沖田陽子の予測位置のデータは正確性に優れており、ほぼデータと同じ位置で荒船を発見した刀也。

 

 

「おっと、まずは荒船隊長と夜凪隊長が接敵!互いに孤月を抜いた!」

 

 

「荒船さんは今でこそ狙撃手だけど8ヶ月前までは攻撃手だったからね。“寄れば弱い”って狙撃手の常識は通用しない」

 

 

そこに佐鳥から荒船について解説される。剣も狙撃もマスタークラスの荒船。彼の野望はすべての距離で戦う事ができるパーフェクトオールラウンダーの量産にある。自分の経験をメソッド化して訓練で誰でもパーフェクトオールラウンダーになれるようにするのが目的であり、攻撃手から狙撃手への転向はその夢の途上といった所だ。

 

 

「仕掛けたのは荒船隊長!マスタークラスの意地を見せるか!?」

 

 

☆★

 

 

「おっと、荒船か」

 

 

「ヨナさん…!」

 

 

高台に登ろうとする荒船を見つけて刀也は孤月を抜いた。同じく荒船も孤月を鞘から引き抜き構える。

こんなに早く刀也と会敵するのは嫌な誤算ではあるが、不幸中の幸いというべきか自分と当たった。これが半崎か穂刈なら刀也に為す術なくやられていただろう。彼らは純粋な狙撃手でしかない。

 

まずい展開だが最悪ではないーーーそう自分に言い聞かせて荒船は踏み込む。

 

 

 

「甘い」

 

 

渾身の突きはしかし、容易くガードされたどころか手痛い反撃まで待っていた。

刀也は突き出された刃を孤月で防御。そのままぐるりと孤月を地面に押し付けて荒船の体勢を崩す。そこに蹴りを入れて後ずさりしたところに回転斬りをぶち込む。

 

荒船の胸板を刀也の孤月が大きく切り裂く。漏れ出たトリオン量は致死には至らず、されど確実に戦力を削ぐだけのものではあった。

 

 

「まだまだいくぞ」

 

ニヤリと笑うと刀也は孤月を打ち込んでいく。荒船は連撃の前に防戦一方だ。しかし、これはこれで妙だと荒船は感じる。刀也の攻撃は確かに防ぐだけで手一杯だが……本当にこれだけか?もっと苛烈ではないのか?

先日の個人ランク戦での大立ち回りについては聞き及んでいた。A級攻撃手である米屋や緑川はおろか、No.4攻撃手である村上鋼まで上回ったという話だ。そんな男が自分程度を撃破できないなどあり得るのか?

 

釣りだと荒船は瞬時に看破する。前回のROUND1でも夜凪隊は刀也が囮になり、クロウが撃破するという形で狙撃手を倒していた。

今回もおそらくそれが狙いなのだと理解する。おそらく荒船に苦戦していると見せかけて、それを隙だと思わせて狙撃を誘発するための罠。

 

 

しかし、それなら好都合というもの。

 

そこで荒船は隊員たちが狙撃ポイントについた事を通信で伝えられ、刀也を倒すための策を実行に移す。

 

超直感のサイドエフェクトを持つ夜凪刀也は狙撃が効かない男として影浦と共に名前が挙がる。3人全員が狙撃手である荒船隊からすれば悪夢のような相手ではあるが、だからこそ対策も怠らない。

 

 

刀也の超直感は、どこに弾丸が来るかまではわからない。ただここはヤバい、だとか、ここならいける、だとかがわかるだけだ。

そこを突くのが今回の荒船隊の策だった。

 

 

本来の形とは少し違うが、いいだろう。3対1の形は出来上がった。

 

 

☆★

 

 

「荒船隊が夜凪隊長を囲んだ!そして荒船隊長が攻撃に転じる!」

 

 

それまで防戦一方だった荒船が反撃に出た事で観衆は一気に沸く。しかし一瞬の後に彼らは目を見開き、沈黙する事になる。

 

 

 

荒船が斬りかかると同時に夜凪は狙撃の気配を感じ取る。3人同時の攻撃。それが刀也を撃破するための荒船隊の策であった。正確には同時ではなく少しばかり時間差がある。刀也が逃げるであろう先も狙撃銃のスコープは捉えていた。

 

 

 

荒船の孤月を受ければ穂刈の狙撃に、荒船の孤月と穂刈の狙撃を避けても、避けた先には半崎による狙撃が待っている。

 

しかし、刀也が選んだのは荒船隊が用意した筋書きではなく。

 

それは迎撃にして攻撃。

 

弓を引くように自己の身を引き絞った刀也は呟く。

 

 

「旋空ーーーー」

 

 

迫る刃、放たれた弾丸。

そのどちらもを切り裂くのは《剣聖》の弟子を名乗る男。

 

 

「ーーーー孤月」

 

 

番えられた矢が放たれるが如き勢いで刀也は旋空を起動。孤月の刃を拡張し、迫り来る狙撃弾を両断し、肉薄する荒船の孤月を弾き飛ばし、その横腹に大きな裂傷を刻み込んだ。

 

 

 

☆★

 

 

 

「……神業」

 

 

実況も忘れて武富は呟いた。それだけのことが起こったのだと理解した。

武富と同じように沸いていたはずの観客たちさえ驚愕に言葉を失っていた。

 

 

例えば、目の前で展開されたアステロイドを切り落とすのなら、きっとトップクラスの攻撃手ならできるだろう。

しかし、どこから撃ってくるかわからない狙撃銃から放たれた弾丸を切り裂くのは不可能だ。よしんば超直感があったとしても、“どこから撃ってくるか”、“どこを狙っているのか”まではわからない。

 

だからこそ“神業”と称する他ない。

 

しかし、そんな刀也の理不尽さを先日味わったばかりの緑川は「ヨナさんならこれくらいやりそうだよね」といち早く正気を取り戻し、武富に「桜子ちゃん、実況実況」と注意する。

 

「…ッ、失礼しました!荒船隊の連携技を夜凪隊長が旋空孤月で撃墜!!狙撃した穂刈隊員に迫るようにクロウ隊員が動き出しました!」

 

 

「やっぱ釣りでしたね。そこまで予測してたけど、力技で突破されちゃ後がない。……いやホント影浦先輩といいスナイパーにとっては悪魔のような相手だね、ヨナさんは」

 

 

佐鳥は荒船隊は刀也の狙いを看破していて、逆に利用してやろうとして失敗した事まで見抜いていた。その上で刀也のサイドエフェクトをチート染みたものだと感想を漏らす。

しかし、そんな佐鳥の愚痴は誰に聞かれる事もなく会場に溶けていったという。

 

 

☆★

 

 

 

「やばいな、これは」

 

 

倒置法系スナイパーである穂刈が、自身を追いかけて来ているクロウを見て呟いた。

まるで前回の再現。ROUND1の夜凪隊の狙撃手を釣る作戦、それを知りながら引っかかってしまった……否、それを逆手に取った作戦すら刀也が上回っただけ。

 

 

しかしまだ、最悪ではない。二の矢たる半崎は刀也が避けた後の追撃役だったため狙撃しておらず、また位置がバレていない。それに荒船にはまだ切り札がある。

 

 

 

「スラスター、オン」

 

 

起動の声を聞いて穂刈は振り返りながら身を屈める。直後、真上を通り過ぎていったレイガストに戦慄しながらも好機だと思った。

クロウはスラスターを起動してレイガストを投擲した。なら今は何も武器がないはず。シールドを起動したとしても1枚…防御の薄いところを狙えばいい。

 

起き上がって体を地面に固定し、迫るクロウに照準を合わせーーーー緊急脱出。

 

 

 

「ーーなっ……!?」

 

 

 

何が起こったのか、穂刈が最後に見たのは投げたはずのレイガストをクロウがキャッチしているところだった。

 

 

 

 

☆★

 

 

2つの孤月がぶつかり合う音が路地裏に響いている。

 

しかし拮抗は長く続かず、押し負けた荒船に蹴りを入れて徹底的に体勢を崩す。そこに突きを入れてさらに敗北まで追い込む筋書きを刀也は描いていた。

 

 

穂刈に撃たせた以上、もう荒船と切り結ぶ理由はない。

半崎が気になるが、自分とクロウのどちらかが生きていれば撃破する事は可能だろう。

 

 

荒船の孤月を弾き飛ばし、勢いに押されてバランスを崩したところに切り込む刀也。孤月の再生成は間に合わず、イーグレットを構える暇は与えない。ここでおまえは脱落だ、と言わんばかりに刀也は孤月を振りかぶる。

 

しかしここで荒船が第3の武器をとる。

 

 

左手に現れたカタチは拳銃。それを孤月を振り上げた刀也に突きつけ、引き金を引く。

 

 

ハンドガンの登場に面食らった刀也だが持ち前の超直感が働き、致命傷になるはずだったそれを、ただのダメージとして受け取る。顔面に穴を穿つはずだった弾丸は横面を抉るだけに留まった。

 

わずかにアクションの遅れた刀也だが、そのまま孤月を振り抜く。しかしそこにはシールドが展開されており孤月の一撃を防いでいた。そこに再び撃ち込まれる弾丸。先ほどと違い弾数はおよそ5つ。

 

避ける事もままならず、刀也はシールドを起動してそれらを防いだ。

 

 

 

「お互い、サブトリガー解禁ですね」

 

 

フッ、と荒船が笑う。刀也が弾丸を防いでいる間に孤月を再生成したようで右手に孤月、左手に拳銃というスタイルになっていた。ちょっとカッコいいな…と疼く心を抑えて刀也は冷静に思考する。

 

 

ここまで自分と荒船がバッグワームを使って孤月で斬り合っていたのは、那須隊に見つからないようにするためだ。しかし、事ここに至りすでに荒船隊単独では刀也を撃破する事は不可能だと判じてバッグワームを解除、戦場に那須隊を呼び込むつもりだ。

 

 

「はっ……そういやイーグレットでもすでにマスタークラスだったか。だったら、次に行くのは道理か」

 

 

 

攻撃手でマスタークラスになり狙撃手に転向。狙撃手でマスタークラスになったから銃手トリガー解禁という所なのだろう。荒船の野望を知っていたならば予想して然るべきだった展開だ。

 

 

「ええ……ヨナさんにどこまで通用するか、試させてもらいます!」

 

 

「オーケー、じゃあ第一の試験だ。おれを倒してみせろ」

 

 

売り言葉に買い言葉、の勢いで会話する刀也と荒船。映画好きである荒船と創作物好きの刀也はこういったセリフ回しに漠然とした憧れがあった。そんなやり取りを交わせた楽しい、という気持ちは内に秘め、2人の戦いはさらに激化していくのだった。

 

 




刀也と荒船はきっと仲良し。


ついに始まったROUND2ですが、那須隊の出番がない……!那須隊は次回から頑張ってもらう予定です。


ちなみに先日の個人ランク戦の結果は
vs村上 6対4で勝利。感想「搦め手しか通用しねぇ…」
vs米屋 6対4で勝利。感想「幻踊うぜぇ…」
vs遊真 7対3で勝利。感想「スコーピオンオンリーでこの強さはヤバス」
vs緑川 8対2で勝利。感想「正直だね。いい子いい子」

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