ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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ボーダーの隊員ってみんないいやつだよね、と思う。基本的にB級以上の隊員しか知らないわけですが、彼らもボーダー全体で見れば上位グループに位置しますね。
嫉妬とかしないだろうか、と。原作の玉狛第二の快進撃に嫉妬するやつらが出てもおかしくないだろーと思いながら。
そういう意味では香取隊は人間臭くてグッド。


B級上位

夜凪隊の面々はランク戦勝利を祝うと、それぞれ思い思いに散って行く。

陽子は帰宅し、クロウと刀也は隊室に戻ろうとしたところで、試合を観戦していた来馬と村上、諏訪、笹森、解説をしていた緑川に囲まれた。

 

 

「やってくれたなヨナさん!たった2戦で最下位から上位グループまで上り詰めやがって〜!」

 

 

「おめでとうございます」

 

 

 

諏訪は刀也にヘッドロックをしながら頭をぐりぐりを撫でる。「あれ、おれのほうが年上だよね」と言いつつも嬉しそうな刀也。笹森は「正確には最下位じゃありませんけど」と諏訪の言葉を訂正しつつ再度祝いの言葉を告げる。

 

 

 

「いやー、それにしてもクロウさん大活躍だったね。単独で4点…ヤバイね。遊真先輩よりヤバイね」

 

 

緑川はクロウという戦力をヤバイと表現し、来馬もそれに追従する。

 

 

「確かにすごかったね。クロウくんはパーフェクトオールラウンダーを目指してるの?」

 

 

「いや、別にそんなわけじゃねーんだがな。ま、大人になれば色んな事情があるってワケさ」

 

 

来馬の問いかけを躱すクロウ。クロウは遊真とは違い、モロに外国人な名前であり、人型近界民だと推測する者もいるだろうが、それについての答えはまだ出ていない。ボーダー上層部からは外国の傭兵部隊にいたという設定をいただいている。

 

 

「いつか、戦ろう」

 

 

村上は今日のクロウの戦いっぷりに興味をもったようで、近いうちに個人ランク戦でも、と持ちかける。

クロウも短く「ああ」と返し、そこに。

 

 

「し〜〜しょ〜〜〜お〜〜〜〜!」

 

 

くま、こと熊谷友子が突っ込んでくる。目指すは師匠と仰ぐ刀也のもとである。まさしくクマのような突進に恐れをなした刀也は諏訪を生贄にエスケープ。諏訪は死んだ。嘘だ。熊谷は諏訪に激突する寸前に止まり「なんで逃げるんですか」と睨みつけてきた。

 

 

「いやだって怖い」

 

 

ノータイムで答えた刀也にため息をつきながら熊谷は改めて向き直り、

 

 

「師匠、また稽古つけてください。さっきのランク戦で何か感覚が掴めた気がするんです」

 

 

「ん〜…ま、いいけど。クロウ、おまえは…」

 

 

どうする?と続けようとしたところで、荒船がクロウに「少しいいか」と話しかけているのを目撃する。

荒船の野望はパーフェクトオールラウンダーを量産する事だ。そのためにまず自分がパーフェクトオールラウンダーとなり、そのメソッドを確立するつもりでいる。先のランク戦で見せたクロウの戦い方にパーフェクトオールラウンダーの片鱗のようなものを感じ取ったのだろう。話をしたいと思うのは当然だ。

 

 

「おれはちっとばかし荒船と話をしてくる。またあとでな」

 

 

刀也は「りょーかい」と返して2人はそこで別れる事になった。クロウは荒船隊の隊室に、それ以外は個人ランク戦に向かう。

 

 

☆★

 

 

「来たな、狙撃界の新たな星が」

 

 

クロウが荒船隊の隊室に入ると、まず出迎えたのは穂刈だった。

狙撃界と書いてスナイプ界と呼ぶ、よくわからないものの動静を見つめる倒置法系狙撃手だ。

 

「ゆっくりしていってね」と言いつつも荒船隊オペレーターの加賀美倫は帰宅の用意をしていた。陽子もそうだが、やはり女子は早めに帰るのが常識なのだろうとクロウは理解する。

 

 

「じゃあおれも今日は家でメシ食うんで、おつかれっす」

 

 

加賀美と同じように帰ろうとしているのは半崎だった。ダルい、が口癖だが狙撃技術は荒船隊ではトップを誇る。

 

 

 

半崎と加賀美が退室し、残された3人はひとまず座る事にした。テーブルに置かれた茶菓子をつまみながら話を始める。

 

 

「まずは…上位昇格おめでとう。悔しいが完敗だった」

 

 

「0点だったしな、ウチは」

 

 

夜凪隊、那須隊、荒船隊の三つ巴は7対2対0という結果だった。夜凪隊が生存点込みで7点獲得。対して荒船隊は良いとこなしの0点。

 

荒船が銃手トリガーを抜いた場面もあったが、刀也が相手では分が悪く、最終的には那須隊の日浦に撃破された形になる。

 

 

「選んだのが市街地Cだったからな。狙撃手有利のマップなら荒船隊が脅威になるだろうから先に狙う…ってのが作戦だったんだが…うまくハマったみてえで良かったぜ」

 

 

「狙われていたわけだ、道理で」

 

 

荒船も穂刈も優先的に狙われた理由を説明されて納得する。刀也は直感的に見えて実は理に適った行動をする。直感で危機を察知し、理性で敵を絡め取る。ヨナさんと慕われる彼が実は狡猾な男だと荒船は知っていた、のに。

 

ああ、簡単に言葉にしたけれど。やはり悔しい。

荒船は歯噛みする。夜凪刀也を撃破するための布陣を考えた。それは容易く破られた上に神業まで見せつけられた。初めて銃手トリガーを抜いた。ただのオールラウンダーを相手にするように追い詰められた。悔しい、悔しい、悔しい。

 

それを打ち明ければ「後悔なき反省など軽い!その悔しさをバネに飛翔せよ荒船!フハハハハ!!」と高笑いする刀也の姿が想像できてまた腹が立つ。しかしそんな腹立たしさや悔しさを今は横に置き、自分よりパーフェクトオールラウンダーに近いであろうクロウに視線を向ける。

 

 

「クロウ…と呼ばせてもらってもいいか?」

 

 

「ああ、かまわねぇぜ」というクロウの返事を受けて荒船は本題に入る事にした。

 

 

「じゃあクロウ…おまえはパーフェクトオールラウンダーを目指しているのか?」

 

 

「いや、別に目指してるわけじゃねぇ。ただおれは元からそういう戦い方ができたってだけだ」

 

 

「元から…?どこかの支部の秘蔵っ子ってわけじゃなさそうだが…、それにクロウ・アームブラストという名前も完全に日本人名じゃないよな?クロウ…おまえは…」

 

 

「野暮だぞ、荒船」

 

 

クロウの言葉に元から抱いていた疑問が再燃した。すなわちクロウ・アームブラストとは何者か?

しかしその問いかけは穂刈によって制される。事情を知られたくない奴なんてボーダー内だけでもごまんといる。それを探るのは野暮だと。

 

 

 

「ま、お察しの通りおれはこの国の人間じゃねえ。おれが元いた国じゃ命懸けの戦いなんてのもしてたしな。今の戦闘技術はその頃に磨かれたスキルってやつさ」

 

 

しかしクロウはさらりと答えて見せる。核心に触れる事なく、しかし嘘でもなく。カバーストーリーに現実味を持たせるにはいくつかの真実を織り交ぜるのが効果的なのだ。

 

 

クロウの経歴に絶句する荒船と穂刈。異世界からの侵略者ではなく人間同士で殺しあう、本物の戦場にいたという告白はそれだけの重みをもっており、クロウのB級上がりたてとは思えない強さに納得した。

 

 

「そうだったんだな…すまない、ぶしつけだった」

 

 

帽子をとって頭を下げる荒船にクロウは「別にいいさ」と流して。

 

 

 

「それで、荒船。パーフェクトオールラウンダー…つまり全距離で戦えるやつの動き方について話がしたいんじゃなかったか?」

 

 

話を本題に戻す。荒船は「そうだったな、ありがとう」と言うと再び帽子を被って話をする態勢に入る。

 

 

「じゃあまずは狙撃トリガーを使ってる最中にどこまで寄られたら中距離トリガーに切り替えるかだが……」

 

 

 

☆★

 

 

熊谷たちをぞろぞろと引き連れて個人ランク戦のブースを訪れた刀也は「お」と声をあげる。その視線の先には香取葉子がいた。最近は個人ランク戦には参加しておらず、チームの模擬戦…すなわちB級ランク戦に集中している彼女がここにいる事に少しだけ刀也は驚いたのだ。

 

 

しかしソファで小休止している香取に話しかけず、その横を素通りしていく。ガヤガヤと話しながら、さも気づいていない風を装って。

 

 

 

「待ちなさいよ」

 

 

通り過ぎて三歩進んだところで香取に呼び止められる。

 

 

「おお、香取か。ここにいるのは珍しいな」

 

 

気づいていたのに、たった今気づいたように返事をする刀也。しかし香取は刀也に教えを受けた人物の1人であるため、この無視が意図的なものである事をわかっていた。

 

 

「ムカつく」とボソリと呟いた香取は、軽く深呼吸をして心を落ち着ける。夜凪刀也の行動、仕草はすべて周りの人間をコントロールするための演技だ。しかもこの場合は、無視されて苛立った香取がどんな反応をするのか観察する、という悪趣味なものであり、香取は努めて香取葉子らしくない選択をする。

 

 

 

「B級上位昇格オメデトーゴザイマス」

 

 

「ありがとう香取。そういや香取隊が入れ替わりで中位に降格したんだったか」

 

 

ピキリ、と香取のこめかみがひくついた。挑発に乗るなと自制する。この先輩の悪趣味や悪辣な事を香取はよく知っている。他の奴らに言われたらブチギレ済みで個人戦でやり合っている頃合いだった。

 

 

こめかみに怒りマークを作りながらも平静を装おうとする香取に刀也はくすりと笑う。香取にはまた挑発されていると思われそうだが、刀也としてはそんな悪辣な意図はなく、香取の反応がいちいち面白いから意地悪をしているだけなのだ。

 

 

 

「納得いかない」

 

 

「うん?」

 

 

「アンタ、今日のランク戦で1点しか獲れてなかったじゃない。アタシはこの前のランク戦で2点獲った。……それなのになんでアンタが上位に行ってアタシらが中位に落ちなきゃいけないのよ」

 

 

それはチームの得失点差で順位が変わるからだ、という尤もな説明をしたところで香取は納得などしないだろう。そんな事は百も承知で、ただムカつくから意味もない悪態をつきたいだけ。

 

 

「おまえが納得しなくても世の中は回る。……香取よう、おれは確かに1点しか獲れなかったけど部隊としては生存点込みで7点。B級ランク戦で試されるのは部隊としての強さだ。個人だけで競いたいならここにずっといればいい」

 

 

「………やっぱ、アンタの言い分は正しすぎてムカつく。それで、ここには何の用なワケ?ぞろぞろと取り巻きつれちゃってさ」

 

 

 

苦虫を噛み潰したように渋面をつくる香取だったが、挑発にのるなと再び自制して今度は刀也がここに来た理由を尋ねた。

 

 

「くまと個人戦やる事になって」

 

 

「ふーん」と言った香取は思考して、次は自分が挑発的になってやろうと考えた。

 

 

「そんなやつとやり合うより、アタシと個人戦した方がいいんじゃないの?今後のためにも上位部隊のエースの実力、今なら特別に見せてあげるわよ」

 

 

そんなやつ呼ばわりされた熊谷が一歩前に出ようとするも刀也に「ステイ、ベアーガール」と制される。

 

 

「ははは、今日のくまはキレてるぞ。それこそおまえにも劣らないほどにはね。なんだぁ香取、そんなに個人レッスンをつけて欲しいのか?」

 

 

そんなやつ、からベアーガールにジョブチェンジ…された熊谷は腹いせに刀也の脇腹をつねる。トリオン体だからダメージはないが生身ならかなり痛いであろうつねり方だった。熊少女と呼ばれるのは嫌らしいと学習した刀也だった。

 

香取が返答をする前に刀也は言葉を続ける。

 

 

「だけど残念でした。今日はくまと個人戦やるって決めてんだ。…どうしてもってんならくまと遊んだ後に、一本だけ本気見せてやるけど?」

 

 

「誰が…」

 

 

そんなのやるか、と言おうとした香取だったが刀也の“本気”に釣られた取り巻き連中が「やるやる」と言い出し、それに名乗りをあげないのも何か負けた気がして。

 

 

「じゃあ、おれがくまと個人戦やってる間に代表1人決めといて。トーナメントでも総当たりでもいいからさ」

 

 

「夜の部の後でもうきついし」と笑う刀也の“本気の一本”争奪戦が幕を開けたのだった。

 

 

☆★

 

 

目の前に香取が転送されて来た瞬間、刀也は少しだけ驚いた顔をした。

 

モニターを眺めながら、熊谷は同じようにモニターを見ている諏訪に声をかけた。

 

 

「あの2人、仲悪いんですか?」

 

 

「あ?あー、わかんねぇな。2年くらい前だったかな…少しの期間、香取はヨナさんに弟子入りしてたんだが…その時は仲良さそうにみえたぜ」

 

 

「弟子入りですか?香取が師匠に?」

 

 

「本人は師匠と呼ばせてはいないみてぇだがな。まあ可愛がってたぜ」

 

 

そこは自分と同じなのかと熊谷はホッと一息。

 

 

「あの2人、一緒にいるところをたまに見かけるけど、険悪って感じじゃなさそうなんだよね」

 

 

「仲が良いほど…というやつですか」

 

 

来馬の言い分を村上がフォローし、熊谷は「なるほど」と納得する。先ほどのやり取りもどこか軽快さを感じさせるものではあった。ひどい悪態と挑発の応酬だったが、それは仲が良いからこそできたものだと。

 

しかし、そこでモニターに映る香取の唇が「死ね」と動いたのが見えた。自分は読唇術を心得ているわけではないが「死ね」くらいはわかる。香取は言うと同時に駆け出して拳銃から弾丸を放つ。

香取は刀也と同じく近距離と中距離の両方で戦えるオールラウンダーだった。

 

 

「あの、ホントに仲悪くないんですか?」

 

 

少し呆れながら呟いた音は誰にも届く事なく空に消え去っていった。

 

 

 

☆★

 

 

目の前に香取が転送されてきたのを見て刀也はわずかに驚いて見せる。そして次にニヤついてみせた。

 

 

「おっと、おまえが来たのか香取。順当に村上あたりが勝ち上がると思ってたが……」

 

 

「確かに村上先輩は強かったわよ。だけど今日はアタシが勝った。さ、始めましょうよ、先生?」

 

 

“先生”というのは“師匠”と呼ばれるのが嫌な刀也が自称弟子たちに使わせていた呼び名だ。それでも師匠と呼ぶバカチンはいるが、この香取は素直に先生と呼んでくれている。

ただ今回の“先生”呼びは挑発染みた呼び方であった。

 

 

「なんだ、そんなにおれとヤりたかったのか?」

 

 

挑発には挑発を。年頃の乙女が聞けば紅潮しそうなセリフを吐いた刀也。さきほどから個人レッスンだのヤりたかっただの曲解すれば淫靡なセリフばかりを使っていた。

しかし香取は乙女らしく恥じらう事もなく、絶対零度の視線で刀也を睨みつけ、

 

 

「死ね」

 

 

そう吐き捨てて、駆け出した。

 

夜凪刀也vs香取葉子 個人ランク戦、開始。

 

 

 

香取はまず拳銃をホルスターから抜いてドカドカと撃ち始める。しかし刀也を捉えている弾丸はその内の3割にも満たなかった。それ以外は刀也の逃げ道を塞ぐような軌道を描いている。

 

刀也は回避より防御を選ぶ。というよりは回避を選択すれば間違いなく被弾するため防御をするしかない、というのが本音だ。

 

 

シールドを張って迫る弾丸を防ぎ、逆襲の旋空孤月を放つ。逆袈裟の斬撃は跳んで回避される。しかし、そう回避させる事が目的の旋空孤月。狙い通りの避け方をした香取をアステロイドで蜂の巣にしてやろうとした刀也だが、その前に香取の拳銃が火を吹き、刀也はシールドを起動したまま防御に専念する。

 

香取にとって、ひとつひとつのアクションで敵の選択肢を狭める刀也やり方は見知ったものであった。さっきの旋空孤月だってそう。跳んで回避させるのが目的だった事はわかっている。

しかし、刀也がアステロイドを起動して放つより、すでに拳銃を出している自分の方が早いと思ったからそれに乗ってやったのだ。

 

 

さらに拳銃でアステロイドを撃ちながら、刀也のシールドを削っていこうとする香取だが、刀也とて防戦一歩ではない。

シールドを割られる前に旋空孤月を二閃。今度は避けさせる事を目的としたものではなく、本気で獲物を仕留めるための旋空孤月。しかし、香取葉子もさすがであり、刀也が構えた瞬間に離脱し斬撃から逃れる。

 

 

「逃がすか」とグラスホッパーを踏みつけて香取に肉薄する刀也だが、同じように香取もグラスホッパーを起動して同じだけ距離を取る。グラスホッパーによる急速離脱の途中でトリガーを切り替えて両手に拳銃を構えて連射する香取に、刀也は追撃を断念して再びシールドを張る。

 

 

それを見て香取は確信する。夜凪刀也はサブに1つしかシールドをセットしていない!

普通はメインとサブの両方にシールドはセットしておくものだ。しかし、目の前の男はそんなセオリーなんて知った事かと高笑いするようなやつだ。きっとこの推測は外れてはいないはず。

 

 

シールドを割られては堪らんと刀也は退いて建物で射線を切る。ここで追撃をすれば手痛い反撃が待っている、と考えるのが常道なのだが…今ばかりは本気で押していると感じた香取はそのまま追撃に移る。

曲がり角で刀也とエンカウント。アステロイドを起動して発射準備完了といった様だった。

放たれるアステロイドを香取はグラスホッパーで跳んで回避する。だがそこに再び放たれるアステロイド。アステロイドの2段撃ち…刀也の常套手段だ。しかしそれ故に香取はそこまで読んでいる。

さらにグラスホッパーを踏みつけて回避した香取は勢いをつけて刀也に落下する。手にはスコーピオン。事ここに至り香取はようやく接近戦を刀也に挑む。

 

だが、まだ遠い。

気づく。「まだだ」と。

笑う、「まだまだだな」と。

 

 

「3段撃ちだ」

 

アステロイドを分割し、1段目の弾幕は避けさせ、2段目の弾幕で次はないと思わせ、3段目で仕留める。

そういう思惑だったのだと香取は気づいた。

 

 

しかしシールドを起動するにも間に合わず、アステロイドも3段に分けたため残る弾数も少ない。「押し切れ」と刀也が笑ってる気がして、少しだけムカつく。いつまで先生を気取っているつもりなのか。

 

そのまま流れる勢いで落下。刀也は避けようとするが間に合わず右脚を切断される。香取はトリオン体の節々に穴を空けられながらも致命傷だけは防いでおり、そこで楔を打つ。

 

 

孤月が振り抜かれる前にその場を離脱して香取は再度拳銃を撃ち放つ。頭と胸を守るシールドを無視してガラ空きの脚を狙う。

右脚に続いて左脚を削り、完全に機動力を奪う。だけど、まだ油断するなと本能で理解している。

 

香取の拳銃は刀也を、刀也の周囲の地面を砕く。

なにかやばい、と直感した刀也はグラスホッパーで宙に身を投げ出した。トリオンの漏出がひどく、今にも緊急脱出しそうなくらいだが…それでも簡単に負けてやるわけにはいかない。

 

ヒュ、と風を切る音が聞こえて、それは刀也の眼前を通り過ぎて行った。「チッ」と香取が舌打ちをする。どうやら今のが切り札だったらしいと刀也も理解する。

 

それは2つのスコーピオンを繋げたマンティスーーーその応用技であった。

地面に突き刺しておいたスコーピオンを拳銃で砕き周囲の地面ごと宙に浮かせ、そこにもう一本のスコーピオンを伸ばし、宙に浮くスコーピオンと繋げてマンティスにする。

銃弾を防ぎながら、死角からの刃も防げるやつはそうそういないだろう。それこそ刀也の超直感か影浦の感情受信体質、迅の未来視などのサイドエフェクト持ちぐらいでなければ初見で回避、防御は難しい。

 

今度は刀也が重力に任せて落ちる番だった。勢いのままに香取に斬りかかる。拳銃のアステロイドはシールドで防ぎながら肉薄、横一文字に孤月を叩きつけるがしかし、香取が新たに起動したシールドに防がれてしまう。普通のシールドで孤月を防ぐのは余程のトリオン差がない限りは難しいが、シールドの面積によって耐久力が変わる、という特性を利用できれば不可能ではない。

 

それは極点集中シールドだ。シールドの面積を小さくして防御力を上昇させる、対斬撃特化のシールド。長い棒のように小さくしたシールドで孤月を防いだ香取は勝利を確信する。あとはスコーピオンを突き刺すだけで勝敗が決する。

刀也が考案した極点集中シールドで刀也の孤月を防ぐ。なんとも痛快な話であった。思わず笑みがこぼれて、それが目の前の男の顔にも貼り付けてある事を理解しーーー緊急脱出。

 

香取葉子の敗北が決定した。

 

 

☆★

 

 

今のは何だ、と観戦していた全員が思考する。

終始香取が押していた。考えられる限り最高の試合運びをしたと言ってもいいだろう。刀也の考えを読み、その上をいっていたはず。

最後の一合、孤月をシールドで防いだと思ったら香取の首が切断されていた。

 

 

個人戦が終わり、なんとか勝利した刀也は「ぷひー」と安堵の息を吐き、負けてとにかく悔しい香取は「もぎゃあああ!」とのたうち回る。

放っておけばブースに篭って出てこないであろう香取を迎えに行って、想像通りドタンバタンと転げ回る香取を見て刀也は苦笑した。

 

 

「おら香取、出るぞ」

 

 

「負け犬なんかほっといてよ」

 

 

「放っておいてほしいならもっと平気なフリしろよ。いいセンいってたんだし、落ち込むなって」

 

 

「負けたら意味ない」

 

 

軽く慰めようとしても香取は相当落ち込んでいるようで、取りつく島もなさそうであった。しかし、たったそれだけで説得を諦める刀也ではなく、「無意味じゃない」と香取の言葉を否定した。

 

 

「今回、おまえはおれを追い詰めた。あと一歩のところまで。その前には村上からも一本取ってる。香取、おまえは強くなってるよ。確かに負けてしまったらこれまでの努力は無駄になるかもしれない。だけど、その努力によって得られた成長は無意味じゃないと思う。無駄だけど、無意味じゃないんだよ…香取」

 

 

真面目な顔して声をシリアスなトーンに落とす。しかし香取は「プッ」と吹き出しで笑顔を見せた。

 

 

「なにそれ、意味わかんないし。無駄なのに無意味じゃないって…相変わらずそんな表現が好きでいらっしゃるんですね、先生は」

 

 

落ち込んでいた気持ちはどこへやら。すっかりいつもの調子に戻った香取を立たせてブースから出る。

 

 

☆★

 

 

ブースから出た2人を熊谷らが迎える。皆口々に「おつかれ」と声をかけてくれる。刀也は「おうおう」と手を挙げて香取は少し恥ずかしそうに顔をそらす。

 

 

「ねえヨナさん、最後のなんだったの?」

 

 

と、いの一番に聞いてきたのは緑川だった。

追い詰められていたはずの刀也が、逆に香取の首を飛ばしていたあの技について。

 

 

「あ、それ気になるね」

 

 

「突然刃が変形したように見えましたが」

 

 

来馬はもとより村上も気になっていたようで、その時の事を思い出しながら言葉にしていく。

 

 

「幻踊……じゃねーのか?」

 

 

「刃がしなったように見えましたが…」

 

 

諏訪は孤月の刃の変形を幻踊によるものではないかと推測するが、刀也は「それは違うな」と即座に否定。笹森の予想には不敵に微笑んで見せるだけで答えは与えない。

 

 

「ねえ、教えて下さいよ師匠!」

 

 

熊谷に至ってはすでに思考を放棄。教えを請う弟子モードに突入していたが、刀也は「だから師匠って呼ぶな」と熊谷の懇願を一刀両断した。

 

 

「ま、それは宿題って事で。この場にはライバルも多いし詳細は教えられん」

 

 

防がれたはずの孤月の刃が変形し、香取の首を断った技については秘密にすると刀也は言う。

そこでライバルと表現された事に少しばかり喜ぶ面々がいた。昇り竜の勢いでB級の順位を駆け上がる刀也に好敵手であると認められている事を嬉しく思ったのだ。

 

 

「新技と言えば、香取もそれっぽいのやってたな。ほら、あの…マンティスの応用か?」

 

 

「ああ、あれ。別に大した事じゃないでしょ。やってる事はただのマンティスなんだし」

 

 

そのマンティスでさえ凡人には難しいのだが。刀也は若干呆れつつも「いやいや大したもんだよ」と褒め讃える。

 

 

「おれもアレにやられました」と村上が告白する。確かに香取の新技であれば村上を倒す事も可能だろう。刀也はサイドエフェクトがあったからこそ回避できただけで、普通はあんな初見殺し…対応できるはずがない。

 

そう言ってまた褒めると、香取は照れ臭そうにしながらも受け取ってくれた。

 

 

「じゃあ香取、くまに謝っとけ」

 

 

「なんで」

 

 

「香取」

 

 

有無を言わさぬ圧力、というよりは「わかるだろ」と諭すような瞳に射掛けられて香取は熊谷を下に見た発言について謝罪した。

 

 

「その…ごめん」

 

 

香取に罵倒された事などすでに頭から抜けていた熊谷は「いいよ」と素直に許す。

謝られた熊谷も忘れていた事だったが、こういった話はけじめが大事なのだと年長組の刀也は知っていた。

 

かくして事態は落着し、B級ランク戦2日目の夜は更けていくのだった。




アタッカーは攻撃手、シューターは射手なのにパーフェクトオールラウンダーはパーフェクトオールラウンダーと表記する本作。そのうち完璧万能手と修正するかもしれない。読みは変わらずパーフェクトオールラウンダーで。



ちなみに。
ヨナさんとの本気バトルを賭けて戦った面子は以下の通り。
香取、村上、来馬、諏訪
緑川は昼に遊真と個人戦を行い、ごっそりポイントをもっていかれていたので「今日はもうこれ以上減らせない」という事で不参加。笹森も見学。
トーナメントを行い、香取vs来馬で香取が勝利、村上vs諏訪で村上が勝利、香取vs村上で香取が勝利し、挑戦権は香取に与えられました。
その間ヨナさんはくまに10本稽古をつけていたようです。
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