ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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これまでクロウよりヨナさんの方が出番多くね?という疑問に対しての言い訳。
ROUND2までヨナさんにとってクロウは秘匿しておきたい戦力であり、なるべく隊員たちと接触しないように言っていた。ボーダー隊員たちもクロウの容姿や名前からどことなく近づき難い雰囲気を感じとっており、会話の機会は少なかった。
というのがあります。

ですがROUND2で中距離、遠距離トリガーを解禁した事で戦力として秘匿する必要がなくなり、ヨナさんからの縛りは解除され、今後はバリバリ個人ランク戦にも顔を出すつもりのようです。

ちなみにクロウが黒トリガー『七の騎神』を起動できる事は、まだ上層部と一部の隊員しか知りません。


夜凪刀也の一日

夜凪刀也。

リィン・シュバルツァーの唯一の弟子にしてボーダーの古株。狙撃トリガー以外の汎用トリガーを使いこなすボーダー屈指の実力者。ヨナさんの愛称で親しまれている。

サイドエフェクト『超直感』を持ち、神懸かった回避能力、常人離れした思考で相手を追い詰める策士。

人は好いのだが、彼を知る生徒多数は盤外戦術をも駆使する様から「実は過去に悪の組織で働いていたのでは?」と囁かれるほどである。

 

そんな夜凪刀也だが、ボーダーでは一定の評価を得ており、頼られる事もままある。

例えば個人ランク戦に付き合ってほしいだとか、稽古をつけてほしいだとか、後輩の面倒を見てほしい、だとかだ。

 

 

 

「これ、つまらないものですが」

 

 

そう言って紙袋を差し出すのは三雲修。今回、烏丸経由で三雲を強くしてほしい、という依頼を受けた刀也は快諾し、予定の時間通りに隊室にやってきた三雲から差し入れを受け取った。

 

 

「おー、気がきくな。ありがとう」

 

 

まさか中学生でこんな気配りができるとはなかなか大したタマである。刀也もコーヒーを淹れてやり、対面したソファに座って三雲に貰った菓子をつまむ。

陽子とクロウはエンジニアたちのたむろする開発室に顔を出しに行っている。彼らの分もとっておこう。

 

 

「うまいな」と感想を述べてから、穏やかながらも真面目な表情で三雲を見据えて「強くなりたいんだったか?」と話を始めた。

 

 

「はい、この前のランク戦は勝てましたが、空閑が村上先輩と相討ちになった後、ぼくたちは1点も取れませんでした。今後、序盤に空閑が落ちればチームとして点が取りにくくなる…それを考えれば、ぼくが1人でも点を取れるように強くなれば、と思ったんです」

 

 

「なるほど」と片目を瞑りながら刀也は三雲の悩みを理解する。確かにエース級の空閑さえ倒せば玉狛第二は恐るるに足らず…という印象はある。三雲はまだまだ未熟だし、雨取は人が撃てない。

 

 

「わかった、じゃあ修行は後日行うとして。今日はまず実力測定という事で」

 

 

「はい、わかりました」

 

 

実力を測る、という事になり個人戦のブースに向かう刀也と三雲。道すがら刀也は尋ねてみる。

 

 

「そういや、おれんとこ来る前に嵐山隊と出水のとこに行ったんだっけか?」

 

 

「はい、嵐山先輩たちには中距離で戦うコツを教わりました。木虎からは、まだ学ぶ段階にない…って言われちゃいましたけど」

 

 

 

「ほーん」と言いつつ刀也は木虎の言葉に納得していた。確かに三雲はまだ学ぶ段階にないと言える。例えばここで刀也が技を教えたとして、それをランク戦で無理に使おうとすれば逆にチームの足を引っ張る事もありえるし、そもそも技を十全に使いこなす事も不可能だろう。

 

 

「それで出水先輩には合成弾を教わりに。唯我先輩に100勝したら教えてくれる約束になりました」

 

 

「合成弾ね」とまた刀也はため息を吐くように呟く。合成弾も強力ではあるが難易度は高い。それにトリガーはセットするだけで多少トリオンを食う。トリオン量が少ない三雲には不向きだろうと考えた。

しかし、唯我に100勝とは出水も考えたものだ。唯我を相手にするには三雲ではまだ少し役不足だが、練習相手にはちょうど良いくらいの格上だろう。攻撃のタイミングや防御or回避の選択の訓練を行う事で間接的に合成弾を操る難しさを教えるつもりに違いない。

 

 

木虎にしろ出水にしろ、刀也より三雲の事を考えて育てようとしている。

 

刀也は求められれば応じるが、それによって得られる結果については言及しない。かつて刀也に稽古を付けてもらった人物は個人で見れば強くなったが、個人技に寄ってチームの和を乱し、部隊のランクは下降した…という者もいる。

 

それが「手っ取り早く強くなりたければヨナさんを頼れ」と言われる由来だ。個人技を教えこまれて、しかしそれをどう使うかは自分次第。後進の育成について刀也は劇薬のように扱われていた。

 

 

「合成弾も使えれば強力な武器だからな。がんば」

 

 

そして無責任に放り出すのだ。

教えてやったんだからできるだろう?ではなく教えてやったけど使うか?とニヤつきながら。

 

 

 

と、そこで通路の向こう側から人影が現れた。ビシッとしたスーツを着こなしながらも、どこか人の良さそうな雰囲気を(意図的に)漂わせているのは営業部長の唐沢だ。

 

 

「お疲れ様です」と会釈を過ぎようとする刀也を「そういえば夜凪くん」と呼び止める唐沢。

 

 

「B級上位昇格おめでとう。快進撃らしいじゃないか」

 

 

「はは、ありがとうございます」

 

 

「この勢いは…風間隊以来かな?」

 

 

「ああ、カメレオンが流行った時の」

 

 

 

軽妙なやりとりに三雲は黙るのみで、この2人がまったく本心で会話していない事だけはなんとなく感じ取る事ができた。

 

 

 

「でも次はどうかな?相手はあの二宮くんだ。君もボーダーマガジンで上位2部隊以外には負ける気がしないと言っていたが…ROUND3はB級王者が相手だ」

 

 

「確かに」と刀也はいつも通りニヤつく。本人としては不敵に笑ってるつもりらしい。

 

 

「二宮隊と影浦隊は警戒していますよ。でも、だからこそもう布石は打ってあります」

 

 

もう布石は打ってある。そう言う刀也は自信ありげだ。二宮隊と言えばとある不祥事の責任を取らされる前はA級部隊だった。隊員が1人抜けた今でもA級で十分通用するだけの実力はある。

だからこその布石。だからこその対策。やってこその夜凪刀也だった。

 

 

「ほう。なかなか自信があるみたいだね、お得意の盤外戦術か。………ああなるほど、そういう事か」

 

 

そんな刀也の自信に、唐沢は刀也が打ったという布石について理解した。

 

 

「勘づくの早すぎでしょ」

 

 

「おれはラグビーやってたからね」

 

 

「いやそれラグビー関係……ありますね。切り替えが早い」

 

関係ないでしょ、と言おうとしたが思い留まりスポーツマンの鉄則である切り替えの早さが今回理解に至った理由だと推察する。

 

 

「はは、そういう事」

 

 

「ははははは」

 

 

どうあっても空虚なやりとり。刀也と唐沢にどこか似たものを感じた三雲はそこでようやく口を挟んだ。

 

 

「その布石って、どういう事ですか?」

 

 

「それについては自分で考えるといい。ヒントは…思考を切り替える………もっと言えば考え方を逆転させるのさ」

 

 

「ホントにわかってらっしゃる」

 

 

唐沢は三雲にヒントを与えて去っていく。そのヒントに刀也は自分が打った布石について本当に唐沢が理解していると判断した。あれだけの会話でよくわかったものだ。

さすが大人は違う……いや、元々悪の組織で働いていたって噂もあるし、だからわかったのかな?と考える刀也であった。

 

 

 

 

☆★

 

 

「お、なんかやってるな」

 

 

個人戦のブースに入ると、そこではいつもより多くの人が集まっていた。

 

 

「お、刀也じゃねえか」

 

その中心にいたクロウが刀也を見つけて手を挙げた。クロウの周囲を見ると、太刀川や迅といった攻撃手ランクでも1,2を争う面々が揃っていた。

 

 

「うわー、なにこの面子。濃い」

 

 

「こんなに集まってどうかしたんですか?」

 

 

 

刀也はボーダーでも屈指の有名どころが集まっている状況に笑い、三雲は何事かあったのかと問いかける。

 

 

「別にただ遊んでただけだ。ま、このチョビヒゲのダンガー野郎に絡まれて辟易してたところではあるが」

 

 

「ぶふっ」

 

 

「ダンガー(笑)」

 

 

クロウの返答に迅と刀也が吹き出す。ダンガーとはdangerの事だ。読みはデンジャー。太刀川という男は大学生にもなってdangerをダンガーと呼ぶバカなのである。

ちなみについ先日まで刀也もダンガー呼びしてた。閑話休題。

 

 

「笑うなよ」

 

 

太刀川が赤面して怒っているがこれは恐ろしい。これは危険。これはダンガーである。

刀也が言うとまた迅が吹き出した。

 

 

「そのくらいにしておけ」

 

 

と、そこで太刀川に救い手のが差し出される。風間だった。

ひとしきり笑った後で刀也は「あれ?」と気づきクロウに尋ねた。

 

 

「そういやクロウ、開発室に行ってなかったっけ?」

 

 

「ああ、そっちでの用事は済んだ。陽子はまだ残ってるが」

 

 

そんなところだろうと思っていた刀也は「了解」と軽く返して、太刀川らから視線が集まっている事に気付いた。

 

 

「偶数になったな」

 

 

「いま暇か?」

 

 

 

太刀川の呟きと風間の直接的な聞き方に「ははーん?」と状況を把握した。この場にいたのはクロウ、迅、太刀川、風間、村上の5人。もしチーム戦でもやろうとすれば3対2に分かれてしまう。この5人と実力が伯仲していて、かつ暇な人物を探していたのだろうと考えられた。

 

 

「残念ながら暇じゃないんだな、これが」

 

 

しかし暇ではないと答える。隣にいた三雲の背を叩いて「三雲に稽古つけてやらにゃいかんからな」と笑ってみせる。

太刀川は「えー」とぶーたれるが、迅はいつものように「なるほど」と言い、風間も村上も理解を示してくれた。

 

 

「あんまりおれの後輩をイジメないでくれよ、ヨナさん」

 

 

クロウたちは結局3対2でチーム戦をやる事にしたらしく、個人戦のブースを去っていく。去り際の迅の言葉に「イジメねーよ」と返して、刀也と三雲は個人戦を始めた。

 

 

 

☆★

 

 

 

「まずは…おれが攻めるよ。5本、防御主体で動いて。反撃もできるならやって。後の5本はそっちから攻撃を仕掛けて。とりあえず10本それでやろう」

 

 

刀也はまず三雲の攻防の技術を見極めようと考えた。攻撃主体と防御主体で分けて模擬戦をやる事でわかりやすくしようと思ったのだ。

 

 

「わかりました」と少しだけ緊張した様子の三雲に微笑んでみせて「じゃあいくぞ」と宣言してから、グラスホッパーを踏んだ。

 

孤月の急速接近に、三雲はレイガストを構える事で対応してみせる。鍔迫り合いの距離、この距離ならどうすべきか。

 

 

「アステロイド」

 

 

三雲が判断を下すより早く刀也がアステロイドを展開し撃ち放つ。眼前の孤月に気を取られていた三雲はアステロイドに反応する事はできず、そのままトリオン体を貫かれる。

 

 

続く2本目。

 

 

「アステロイド」

 

初っ端から通常弾を起動してそれを三雲に向かって撃つ。てっきり避けるかと思いきやレイガストで防御した三雲に孤月を振るう。オプショントリガーである旋空も発動して拡張された斬撃を三雲はレイガストを防いで見せるが、そこまでだった。

 

返す刃を再び拡張させて首を刎ねる。

 

 

 

3本目

 

 

「アステロイド」

 

再び、アステロイドを開始と同時に起動。その半分を撃ち三雲に防御させ、その間に接近して孤月を打ち付ける。レイガストでガードする三雲だが、角度をつけて攻撃してくる刀也に対してアステロイドを低速散弾にして自身の周囲に漂わせようとするが、その前に刀也のアステロイドが三雲を撃破する。

アステロイドの二段撃ちだった。

 

 

 

4本目

 

 

三度序盤にアステロイドを撃ち、やはり三雲は防御する。そこにグラスホッパーで接近し、孤月を振り抜き、阻まれて半透明のレイガスト越しに視線が交わる。

それも一瞬。刀也はシールドモードのレイガストを掴むと、それを引っ張って三雲の体勢を崩す。予想の埒外だったのか三雲は何ら対応できずそのまま孤月に串刺しにされた。

 

 

 

5本目

 

「旋空孤月」

 

今回は開始と同時に旋空孤月。横一文字の斬撃を三雲は屈んで回避してみせた。返しの旋空孤月はレイガストで軌道を逸らして防御する。

続いて刀也はアステロイドを起動して散弾として撃ち、ガードさせたところに接近して孤月を振るう。これもまたガードされるが本命はアステロイドの二段目。しかしこれは三雲も警戒していたようでスラスターを起動して射線から逃れる。

それだけに留まらず、着地する前にアステロイドを散弾として撃ち、刀也の追撃を阻止した。

 

 

続けてアステロイドを速度にトリオンを割り振って撃ち、刀也の接近を拒む。刀也は近づくためにシールドを薄く広げて起動。三雲のスピードにトリオンを振ったアステロイドくらいなら薄いシールドで充分だ。

 

と、思わせるのが目的なのだろうと看破する。

もう少しで孤月の間合い、という段になって三雲はスラスターで加速。ブレードモードのレイガストで刀也に肉薄する。薄く広げたシールドではスラスターで加速したレイガストを防ぐ事はできないと目した三雲の誘い出しだったが、その狙いを見破っていた刀也はグラスホッパーでレイガストの斬撃から逃れて、無防備な背中を見せる三雲を旋空孤月で真っ二つにした。

 

 

 

 

6本目

 

 

「じゃあここから5本、攻撃主体で。おれも反撃できそうならするけど」

 

 

ここで攻守交代。三雲も緊張はほぐれたようで自然体のまま頷いた。そのままきっと表情を引き締めて「いきます!」とレイガストを構えた。

 

 

「アステロイド!」

 

三雲はまずアステロイドを放ち、それを刀也に避けさせる。

 

 

「スラスター、オン!」

 

 

避けさせた地点に、スラスターを起動しレイガストで加速して切り込む。

 

 

が、「遅い」と。

レイガストの斬撃をひらりと躱した刀也は、アステロイドで迎撃。レイガストをシールドモードに変える間もなく三雲は撃破された。

 

 

 

7本目

 

レイガストを構えながら刀也との距離をある程度詰めた三雲はアステロイドを起動するが、撃たない。アステロイドは待機させたままレイガストで刀也に切りかかった。

数合切り結んだ所で待機させていたアステロイドを撃つ。さきほど刀也が見せた、アステロイドと剣撃による擬似的に2対1を作り出す戦法だ。

 

 

しかし、甘い。

 

スラスターを起動してここぞとばかりに攻め込んでくる三雲のレイガストを避け、その腕を掴みアステロイドの射線に三雲を置く。

自らのアステロイドによって三雲は敗北する。

 

 

 

8本目

 

 

まずアステロイドの散弾で刀也をその場に縫い止めた三雲はスラスターで肉薄してレイガストを叩きつける。それは当然のように孤月に受け止められたが、そこで再度アステロイドを起動、自身を影にしてトリオンキューブを隠しており刀也はそれを視認できていなかった。

鍔迫り合いのままスラスターで加速したレイガストで刀也を押し退ける。たたらを踏んだ刀也に向けて隠していたアステロイドを発射。

 

「惜しい」

 

 

しかし、何かあると読んでいた刀也はグラスホッパーを使い、窮地を脱する。

ボーダーのトリガーは旋空やスラスターなどのオプショントリガーを除けば同時に発動できるのは2つ。メインとサブ、どちらかのトリガーが起動されてなければ警戒してしかるべきなのだ。

 

 

「アステ…」

 

 

「スラスター、オン!」

 

 

しかし、三雲もアステロイドを避けられるのまでは織り込み済み。ゆえにそこからが本命の攻撃となる。

刀也がアステロイドを撃つ前にレイガストをブレードモードに切り替えて投擲。スラスターで加速された刃を、刀也はアステロイドで迎撃するか孤月で受けるか一瞬迷ってしまう。刹那の後に孤月での防御を選択、迫るレイガストを刀身で受け流すと、次に三雲はアステロイドを撃ってきた。分割する手間を省略した1発まるごとの弾丸。

 

 

今度は迷わない。起動しようとしていたアステロイドをグラスホッパーに切り替えて、近くの民家の屋根に着地する。三雲のアステロイドは空を切るのみだった。

 

この8本目において、これ以上の展開はありえないだろうと予感した刀也は決めにかかる。アステロイドを細かく分割して三雲の退路を切った後、旋空孤月を振り抜き両断。

 

 

 

9本目

 

 

三雲は初手にアステロイドを起動した。先程までとは違い、当てるのではなく退路を塞ぐための牽制として放たれたそれとほぼ同時にスラスターでレイガストを加速。

 

弾撃と斬撃による挟み撃ちだ。刀也も良く使う技ではあるが、これには弱点があった。

 

「アステロイド」

 

刀也はトリオンキューブを生成すると分割して角度をつけて上下に散らし、撃つ。

スラスターで加速していた三雲は急速なる迎撃に対応できず、そのままアステロイドにトリオン体を貫かれてしまった。

 

 

 

10本目

 

 

これが最後の1本だと、三雲は気を引き締める。

 

夜凪刀也は、風間蒼也のように理性的な戦い方をするわけでもなければ、緑川駿のように野生に寄った戦い方をするわけではない。その中間、理性と野生の融合、あるいは両立。

きっと、万が一の勝ち目もないのだろうと思う。でもそれは、まともに戦った場合の話だ。今回の10本勝負において刀也は三雲の実力を測るために手を抜いている。

最初から本気を出して三雲の実力を見る前に倒してしまっては意味がないからだ。だからそこがつけいる隙になる。というかそこしかつけいる隙がない。

 

 

おそらく、最も良い勝負ができたのは8本目。あの局面からさらに発展した攻撃に繋げる事ができれば、勝機はある。

 

 

8本目と同じく初手はアステロイド。弾速にトリオンを割り振り、散弾のようにばら撒く。それは刀也にガードさせて動かせないための牽制だ。

狙い通りに刀也はシールドでアステロイドを受け切る。そこにスラスターで加速したレイガストを叩きつけようとして、刀也の姿は遠ざかった。

グラスホッパーで距離をあけたのだ。先程の焼き直しではいけないのだと理解した三雲は一手省略して次の展開に移る。

 

 

「スラスター、オン」

 

 

三雲はレイガストをシールドモードにしてスラスターを起動。広げた盾から手を離して加速させる。

 

急速接近するシールドモードのレイガストに、刀也は対応できない。グラスホッパーの再起動には秒にも満たないが時間がかかり、旋空孤月で両断しようにも、この10本目は刀也が防御重視でやる番だ。結局シールドで防ぐという判断に落ち着いた。

 

 

「アステロイド」

 

 

続いて三雲がアステロイドのトリオンキューブを生成した事で、刀也はその狙いを看破した。

 

これは、この技は……

 

 

放たれたアステロイド。それを阻むはずのレイガストは三雲が消して、刀也の身を守るのはシールド1枚のみ。

 

 

この技は、クロウが那須を撃破する際に使ったものだ。

 

同じレイガスト使いであるクロウの戦い方を参考にしたのだろうと理解し、急所を守るシールドの範囲の外…二の腕や腿をアステロイドに削られる。

 

10本目にして初のダメージ。三雲は戦闘センスは壊滅的だが、考えて戦う事のできる人種だった。風間との模擬戦でも見せた通りの戦いぶりに刀也の口角はつり上がる。

 

着地した刀也は攻撃したくなる気持ちを抑えて三雲を見据えーーー、眼前にアステロイドが迫ってきている事に気づく。

再生成には早過ぎる…という事は2段撃ちか!

未だに展開を続けていたシールドでそれを防ぎ、その間に三雲がスラスターで接近してきているのがわかった。

加速したレイガストを、シールドの上から叩きつける。2度にわたるアステロイドの掃射とスラスターによって加速したレイガストの一撃によって、刀也のシールドは砕け散る。

 

が、しかし。

 

三雲の接近に気づいていた刀也は一歩退いており、レイガストの射程から逃れていた。シールドを割られる事も想定済みだった。

振り降ろされたレイガストを踏みつけ、退いた分の一歩の距離を詰める。

 

「アステロイド」と三雲が言う前に刀也は孤月を振るい、三雲の首を切り落としたのだった。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

「まず評価だが」

 

 

「おつかれ〜」と緩んだ表情を見せたのもつかの間、刀也はすっかり先生モードに突入していた。自販機で飲み物買って三雲に与え、近場のソファに腰掛ける。

 

 

「五段階評価で、3ってところだな」

 

 

つまり中間程度の実力はあると刀也は言った。

 

 

「さっきの10本勝負で色々見せてもらったけど……まあ、まだまだ甘い。判断力、対応力、観察力、想像力…その他諸々、平均的なB級下位の印象だった。けども、展開を左右して相手を追い詰める様はA級並み…いいセンスだ」

 

芝居がかった様子で「いいセンスだ」と言う。何かの決め台詞なのだろうかと三雲は推理した。

 

 

「C級は展開に流される。B級は展開を利用する。A級は展開を操る。その“場面”を作り出す技術については優秀だけど、その場面を作り出すだけの実力がないから、評価は3だ。

よほど緻密な作戦を立てないと、その強さは発揮できないな。今後の精進に期待、というところかね」

 

 

その後もつらつらと思った事を言っていく刀也。三雲は頷きながらその言葉をありがたく拝聴する。

 

 

「じゃあ、次回から本格的な修行って事で。おれが玉狛支部に行くから。日程についてはメールですり合わせよう」

 

 

「え、指導してもらうのにわざわざ玉狛に来られなくても、こちらから伺いますが」

 

 

「いやいや、おれも本命前だからね。本部で色んな技を試すログを残したくないのよ。あと、烏丸とかレイジにも久々に会いたいし」

 

 

 

「なるほど、そういう事なら」

 

 

後日、玉狛支部にて修行を開始する事になった三雲は、再度刀也に感謝して別れる事にした。

去っていく三雲の背中に、声をかけた刀也は一瞬だけ迷ってやはり言う事にした。

 

 

「おれは仲間が強くなるのは許容するけど、ライバルを正しく育てようとはしない。おれからものを教わる時は、それを忘れるなよ」

 

 

いつもなら、こんな事は言わない。ただ技を教えて、それで終わり。

だけど三雲修は正しく育ってほしいと思ってしまった。だからこその忠言。それに留めておくのは、これまでの生徒たちとの扱いの差を広げないための、自身の心に対する言い訳だった。

 

 

☆★

 

 

携帯電話が着信音を鳴らす。画面を見てみると相手は陽子だった。開発室に行ったはずだが、もう用事は終わったのか。あるいは手伝いに呼び出されるのか。

適当な推測を並べながらも通話を開始すると、「おうヨナさん」といつもの快活な声音な聞こえてきて、妙にナーバスになっている自分がバカらしく思えてきた。

 

 

「今、どこにいるんだい?隊室に木虎ちゃんが来てるよ」

 

 

「木虎?……なんか約束してたっけか?」

 

 

「いや、突撃訪問らしいが」

 

 

もしかして約束をすっぽかしてしまったのでは、という刀也の心配は陽子の即答によってバッサリ切り捨てられる。

 

しかし、木虎が自分に用があるのは珍しい。そう思って「用件は?」と尋ねたら陽子は木虎に代わると言って電話を木虎に預けたようだ。

 

 

「もしもし、木虎ですが」

 

 

「うん、何か用でもあったか?」

 

 

「今、どこにいるんですか?」

 

 

用件を告げずにどこにいるかと問いかけてくる木虎の声が、わずかな怒気を孕んでいる事に気づいた刀也は、その問いに答える事にした。

 

 

「個人戦のブースの前。……人がたくさんいるが」

 

 

「構いません。今から行きます」

 

 

木虎の宣言からすぐに電話は途切れた。思ったより激おこらしい、と刀也はため息をついて、携帯電話をポケットに戻した。

 

 

 

三雲との模擬戦のあと、刀也はどうにも気力がなくなりソファに座ったまま個人戦に勤しむ者たちに視線を向けていた。

設置されている大型モニターでは主にC級隊員たちがポイントの奪い合いをしており、B級以上の隊員たちはいつもより少ない。

そういえば、クロウたちがチーム戦をすると言っていたから、そっちに人が集まっているのだろうか、なんて考えたりもした。

 

 

少しすると、可愛い顔で眉根を寄せた木虎がずかずかと歩いてきて、刀也の目の前で歩を止めた。距離にして1mもない。刀也を見下ろすように視線をやる木虎に「よう、どうした?」といつも通りに声をかけた。

 

 

「どういうつもりですか?」

 

 

冷たい目で見下ろしてくる木虎に、刀也は一瞬だけ目をそらす。いつもなら「何の事かな?」ととぼけるのだが、木虎は真剣そのものであり、わかっている事について聞き返すのは憚られた。

 

 

「三雲の件か」

 

 

疑問符をつける事なく、木虎の用件を言い当てる。木虎「そうです」と肯定してから言葉を続ける。

 

 

「三雲くんはまだ個人技を磨く段階ではありません。今はチームとしての連携を向上させるべきでしょう」

 

 

「そうだな。例えば…『スパイダー』、『ダミービーコン』あたりか」

 

 

三雲修はまだ個人技を磨く段階ではない。という点については木虎と同意であり、チームの連携力向上を目的にした場合、三雲に適したトリガーはスパイダーやダミービーコンではないかと呟く。

 

 

「わかっているならどうして………!いえ、あなたはそういう人でしたね」

 

 

それがわかっていながら、刀也は三雲に教えない。それに腹を立てた木虎だったが努めて冷静になり、また冷たい目で刀也を見下ろす。

 

木虎の対人欲求では、同年代…今回の場合は三雲には“負けたくない”のだが、それ以上に無様なさまは許しがたいのだろう。

他人のために怒る事ができる木虎を、少しだけ羨むように見た刀也は一瞬の後に開き直ったようにソファにふんぞり返る。

 

 

「そうだよ…おれはこういう人間だ。それは木虎……おまえも身をもって知ってる通り」

 

 

かつて木虎は、期待の新人としてボーダーに入隊した。トリオン量は少ないながらも初回の戦闘訓練では9秒という記録を叩き出した大型新人。

 

期待の新人は、手の空いていた古参の隊員の“生徒”となり、様々な技を学んで、個人ランク戦においてはB級隊員相手に無双し、嵐山隊にエースとしてスカウトされた。

そうして鳴り物入りでA級デビューを果たした木虎だったがチームランク戦では個人技に寄った戦いをして自部隊を窮地に陥れてしまう事もしばしばあった。

 

 

古参の隊員(夜凪刀也)は、個人技を教えただけであり、チーム戦術を木虎に授けなかったのだ。

 

 

それから嵐山隊が以前の戦力を取り戻すにはしばらくの時間を要した。

 

今でこそ広報をこなしながらA級5位の座に君臨する嵐山隊だが、そうした苦難の時期があったのを、2年以上前からボーダーに在籍していた者たちは知っている。

 

嵐山隊は木虎を入れてから弱くなった。

そんな心無い批評に傷ついた木虎を何度見かけた事か。

 

玉狛第2は三雲が暴走して弱くなった。

そんな言葉を三雲が投げかけられる事がないように、そんな強さを身につけさせてしまう元凶に話をつけにきたのだ。

 

しかし、ソファにふんぞり返る瞬間、少しだけ見せた悲しげな瞳が木虎から言葉を奪った。

 

噂だけは聞いた事がある。

夜凪刀也が、隊を組まない…組まなかった理由。弟子を“生徒”と呼び、師匠と呼ばれる事を忌避する理由。

ボーダーの記録からも抹消された、第0次ーーー

 

 

「木虎」と名前を呼ばれて、思考の海から浮上する。目の前には夜凪刀也が、ふんぞり返った体勢から前に重心を移動して、腿の上に肘を乗せ、さらにその上で指を組んで顎を乗せ、視線は虚空を見つめていて。

 

 

「おれでダメなら、おまえが導いてやればいい」

 

 

声色に何も混ぜる事なく、無感情に言い放った。

木虎は「あなたが正しく育てれば良いじゃないですか」と言いそうになるのを我慢して、別の言葉を模索する。

 

実のところ、刀也にきちんと後輩を育てて欲しい場合、たった一言を告げればいいのだ。「あいつを、正しく導いてくれ」と。

しかし、木虎は三雲に対してそこまでしてやる義理はない。そう思い飲み込んだ言葉を刀也は見破ったようで薄く笑った。

 

なら、今のこれはなんなのだ、と尋ねるかのような笑みに木虎は顎を引いて睨みつけるように刀也を見る。意趣返しとばかりに、トラウマを刺激するかのような一言を放つ。

 

 

「先生…あなたの過去になにがあったのかは知りませんが、それで後輩に迷惑をかけるようなら、そんな思い出は捨ててしまえばいいんじゃないですか」

 

 

 

あまりにも無遠慮な一言に、刀也は顔を伏せた。きっとひどい表情になっている。こんな顔は誰にも見せられない、と思うほどに。

 

刀也は立ち上がると一歩前に出て木虎と並び、すれ違う肩越しに声をかける。

 

 

「用件はそれで終わりか?なら帰らせてもらうが」

 

 

自分でも驚くほどの低い声。しかし木虎は臆せずに、視線を合わせずに答える。

 

 

「はい。もう用はありません」

 

 

それはまるで決別の言葉のようで。

 

 

「そうか」

 

 

別れの挨拶もなく、刀也はその場を立ち去った。




あれ…?シリアスさんが仕事をしている…だと?

これでもか、という程の刀也回でした。そして木虎及び嵐山隊の過去を創作!木虎は刀也の生徒であり、個人技は高まったがチームの1人としての動きは学んでおらず、部隊の足を引っ張ってしまった……という過去。
今ではチームとしての戦術も学び名実共に嵐山隊のエースとなった木虎ちゃんです。
別に先生の事は嫌いじゃないんだからねっ!


次回!「クロウ・アームブラストの一日」
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