ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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偽りはやがて本物へと昇華し、失ったはずのそれは色彩を帯びる。

これはきっと、そんな青春の続きだ。


クロウ・アームブラストの一日

クロウ・アームブラストが近界民である、という事実を知っているのはボーダー上層部の人間と一部の隊員たちのみだ。しかし、最近になってクロウは近界民ではないかという噂が立っている場所があった。開発室である。

 

B級ランク戦ROUND2より数日。クロウは開発室のエンジニアたちとすっかり打ち解けていた。というのもクロウは来るたびに、徹夜で働いていた者、長時間の集中作業で疲れ切っているものたちへの差し入れをもってきていたのだ。それに加えてもともとの人間性からクロウがエンジニアたちと懇意になるのは時間の問題であった。

そんなクロウがなぜ近界民と疑われているのか、だが。

 

 

「完成図はこんな感じなんだが」

 

 

と、エンジニアの一人がクロウにPCの画面を見せる。モニターに映し出されていたのは剣と銃が一体化した武器…ゼムリア大陸においてブレードライフルと呼ばれた武装だった。

 

 

「ああ、いいんじゃねえか」

 

 

クロウが現在、開発室に入り浸っている理由は新トリガー開発の協力のためだ。これまでにない斬新な発想、銃剣一体型の武器トリガーのアイデアなどを提言し、すでに開発の段階に突入していた。そういった新トリガーの提案が有用に過ぎる事から、それらが近界民の知識なのではないかと疑われているわけだ。

 

ボーダーは対近界民組織だ。大規模侵攻が行われた三門市に基地を構えたことから隊員は必然三門市民が多い。三門市民が多いということは、それだけ大規模侵攻の被害を受けた者も多いというわけで、近界民に恨みを持つ者も少なからずいる。それは戦闘員やオペレーターだけではなく当然エンジニアも含まれる。

 

近界民への復讐心が燃え立つ…が、クロウの提案する新トリガーの話を聞けばうらみつらみ等そっちのけでエンジニア魂が沸き立った。ということで、クロウの現状はエンジニアたちに近界民であると疑われながらも「別にいいんじゃね?」と放置されているものであった。

 

 

 

「それとこっちの『戦術リンク』だったか…これはやっぱりリアルタイムじゃないと意味ないよな。今の技術だとどうしても情報の伝達に1秒弱のタイムラグが出てしまうんだが…」

 

 

 

「そうだな。1秒弱なら及第点な気もするが…コンマ5秒以内のラグなら実戦にも耐えうるんじゃないか?戦術リンクが実装されれば攻撃手の連携もかなり向上すると思うぜ」

 

 

クロウが提案している新トリガーは2つだ。1つは『戦術リンク』でもう1つは『ブレードライフル』。『ブレイブオーダー』は無理だと思うので提案していない。

2つとは言ってもブレードライフルについては数種類提案していた。≪猟兵王≫の『バスターグレイブ』や≪紅の戦鬼≫の『テスタ=ロッサ』をはじめとした凄腕の猟兵、元猟兵たちが愛用していた武装を。

 

 

ブレードライフル類については順調だが戦術リンクに関しては開発は難航している。クロウからすればコンマ1秒のズレも命取りの世界で戦ってきたため、コンマ5秒というのは妥協だったが、まったく開発が進まないよりはいいだろうとエンジニアたちに提案する。

 

 

「今日も来たんだ」

 

 

「よう雷蔵、邪魔してるぜ」

 

 

そこで奥の扉からのっそりと姿を現したのは寺島雷蔵であった。目の下にはくまができていて一目で徹夜したのだとわかる。

 

 

「雷蔵…大丈夫かい?徹夜もほどほどにしなよ」

 

 

その雷蔵に声をかけたのは沖田陽子だ。夜凪隊にオペレーターとしてスカウトされる前はエンジニアだったため雷蔵の徹夜姿など見慣れていたが、それでも一応声はかけておく。姉御肌の片鱗が見えた…といったところか。

ここに刀也までいれば夜凪隊勢揃いだったわけだが、残念なことに隊長である夜凪刀也は開発室に来ていない。「今日は来客があるから」と隊室でアニメを見ながら言っていたため留守番だ。

 

 

 

「陽子も来てたのか。まあ、キリのいいところまで…と思ったらね」

 

 

キリのいいところまで仕上げようと考えたら徹夜してしまった等とんだワーカホリックだ。しかし、そのわりにはクロウ提案の新トリガーの開発には加わっていないようで、それを疑問に思い尋ねると、

 

 

 

「ようやくデータの吸い出しが終わったからね。今日はそれをラッドにインストールしてただけさ」

 

 

 

「ああ……あの黒い角の」

 

 

「起動はまだだけどね。鬼怒田さんにも立ち会ってもらわないといけないから」

 

 

「なるほど」と納得した陽子だがクロウには何やら話が見えない。聞いてみるが「一応機密だから」ということで教えてはもらえなかった。

 

 

「そういや雷蔵、リードの方はどうなってる?」

 

 

リードとはクロウが初めて開発室を訪れた際、陽子が試用していた新作のトリガーだ。能力は、漏出した自己のトリオンにカタチを与えて使用する…といったものだ。

漏出し霧散するだけだったトリオンを武器として使える傑作トリガー…になるはずだったのだが。

 

 

「陽子が開発チームを抜けてからは進んでない。あれからどう改良すべきかの指標がない。リードはあれで完成だよ、とんだ失敗作だね」

 

 

しかし、いざ完成してみたら失敗作であった。漏出したトリオンを固めて弾丸にしても、あるいは刃にしても普通のトリガーを使ったほうが速いし強い。漏出したトリオンにカタチを与えるにも強いイメージ力が必要で、戦闘中での使用はリアルタイムでバイパーの弾道を引くより難しいと結論が出た。そもそもダメージを受けてからでないと力を発揮できないトリガーなど失敗作でしかない。

陽子は「ふぅん、そうかい」と残念そうに引き下がる。もともとは夢のあるトリガーだったためか相当に悔しそうだ。しかし開発室から抜けた自分に口を挟む権利などないと思っているのか、それ以上を陽子は言わなかった。

 

 

 

 

☆★

 

 

それから3時間が経過し、さすがのワーカホリック共も皆見事にダウンした。中にはトリオン体に換装して不眠を貫こうとする猛者もいたが陽子の忠言を受けてしぶしぶ眠りに就いた。

 

開発室を出た後は陽子はオペレーター仲間と話しに行き、クロウは個人ランク戦でもしようとC級のブースに向かった。

 

 

ブースの前まで行くと、その場の全員が大型のモニターにくぎ付けになっておりにわかに沸き立っているのがわかった。クロウもつられてモニターを見上げると、そこで戦っていたのは迅と太刀川。クロウは2人ともろくな面識はないが、2人ともがボーダー屈指の実力者である事は聞き及んでいた。実際に2人の戦いを見ていると、なるほどゼムリアでも通用するであろうくらいには強い。

やがて勝負は迅の勝利に終わり、ブースから出てきた2人を見て観客と化していた隊員たちがざわつき始める。

 

騒ぐ隊員たちを尻目に太刀川のもとへ行こうとした迅だったが、観客たちの中に珍しい人物を見つけ思わず声をかけていた。

 

 

「クロウさんじゃん、珍しいじゃないここにいるの」

 

 

「なんだ、知り合いか迅?」

 

 

目の前に来た2人に、クロウはチャンスなのではないかと感じた。ボーダーの攻撃手において1,2を争う強者を前に、自分の力が通用するか試してみようと思い返事をする。

 

 

「いや、最近はよく来てるぜ。…つってもここ数日だけどな。おまえたちこそアツいバトルを繰り広げてたみてぇだが…ここはひとつ、おれも混ぜちゃくれねえか?」

 

 

「お、おれと太刀川さんの間に割って入るつもり?クロウさんの隅におけないねえ」

 

 

「クロウ…思い出した。確かヨナさんとこのやつだよな。忍田さんや鋼からも聞いてたな」

 

 

茶化す迅と、クロウについて師匠や目をかけてる後輩が噂していたのを思い出した太刀川。

 

 

「マスタークラス以上の実力は間違いないんだったか。いいな、面白くなってきた。やろうぜ」

 

 

ランク戦が趣味とのたまう太刀川は思わぬ強敵の登場にテンションが上がり、クロウの提案に乗る。迅は「お先にどうぞ~」と太刀川に順番を譲り、ここにクロウVS太刀川の個人戦が開始された。

 

 

 

☆★

 

 

 

ルールは10本勝負。マップは市街地A。天候は晴れ。

 

晴れだとイーグレットのスコープが光を反射して見つかる事も考えられたが、太刀川の実力を知るには剣の間合いで戦う必要があると思ったクロウは特に反対もなくルールや設定を承諾した。

 

 

「さあ、行くぞ」

 

 

会敵すると同時に抜刀した太刀川。得物は弧月だ。クロウもレイガストを得意のダブルセイバーの形に変えて、2人は激突する。

 

最初の衝突。トリオンで鈍く光る刃を交わす。

 

 

「そら、もう一本だ」

 

 

鍔迫り合いの最中、太刀川がもう一本の弧月を抜く。それを振るいクロウの首を落とそうとするが、屈んで躱されぐるりと回転したレイガストを叩き付けられる。それは弧月で防いだものの螺旋の如き一撃に吹き飛ばされてしまう。

 

空中で体勢を立て直した太刀川は着地と同時に地面を蹴ってクロウに肉薄し、二刀の弧月でそのトリオン体を切り捨てんと縦横無尽に振り回す。弧月二刀流こそ個人総合ランク1位である太刀川慶の本領だ。

 

 

しかしクロウもそう易々とやられるわけもなく、双刃のレイガストで太刀川の二刀流を捌いていく。数合、十数合、数十合と打ち合い、それでも決着はつかず迅以来のライバルの出現に太刀川は口角をつり上げた。

 

 

「いいねぇ、やるなクロウ!」

 

 

「そりゃどーも!」

 

 

間断なき弧月の連撃に防戦一方だったクロウは、語尾を強めて反撃に移る。

 

 

「スラスター!」

 

 

繰り出された二刀をレイガストをスラスターで加速して弾き、太刀川の体勢を崩す。まずいと感じた太刀川はグラスホッパーを踏んでレイガストの間合いから逃れる。クロウのレイガストは太刀川に掠る事すらなく振りぬかれる。が、しかしクロウの狙いははじめからそこではなかった。

クロウはスラスターの勢いのまま回転し、遠心力の乗ったレイガストを投げ放った。

 

武器を投擲するという荒業に目を剥いた太刀川だったが、グラスホッパーの起動が間に合い、なんとか回転するレイガストの刃圏から逃れる。

 

 

「旋空――――」

 

 

グラスホッパーから弧月にトリガーを切り替えた太刀川は武器を失ったクロウを旋空弧月で葬ろうとして、その背中から両断される。

 

 

「なっ…!?ブーメランかよ」

 

 

投げたはずのレイガストを綺麗にキャッチするクロウを見て太刀川は何が起きたのか理解した。回転するレイガストはどういうわけか投げられた後で戻ってくるブーメランだったのだと。

 

 

こうして1本目はクロウが勝利した。

 

 

 

 

その後もクロウは太刀川と一進一退の攻防を繰り広げ、10本勝負は5対5で終わりを迎えた。

 

 

 

 

「いやー、強いなおまえ!」

 

 

自分と互角の勝負をしたクロウを気に入ったのか、太刀川はクロウの肩をばんばんと叩く。

 

 

「まさか太刀川さんと互角とはね。やるなあクロウさん」

 

 

太刀川も迅もクロウの実力には驚いているようで共に称賛を送る。

 

 

「太刀川さんと互角って、誰が?」

 

 

と、そこに村上が疑問を伴って訪れる。

 

 

「お、村上か。奇遇だな」と手を挙げてあいさつする太刀川に迅が「おれが呼んだんだよ」と告げる。どうやら迅は未来視のサイドエフェクトで太刀川が村上を呼び出す未来が見えたらしく、それなら先に自分が働きかけて太刀川の手間を省いてやろうと思ったようだ。

 

 

「こいつだよ。クロウ・アームブラスト。そういやもうランク戦はしたのか?」

 

 

クロウも村上もB級である事からすでにランク戦で戦った間柄なのかと予想した太刀川だったが、残念ながらハズレ。「太刀川さんはもっとランク戦を見なよ」と迅には呆れられる始末だった。

 

 

「太刀川さんと10本勝負で引き分け…予想以上にすさまじいな」

 

 

「そうだ村上。こいつは危険だ。ダンガーなやつだぜ」

 

 

「それを言うならデンジャーだ」

 

 

そう言って現れたのは風間だった。その登場に太刀川は「げっ、風間さん」と体が勝手に一歩退いてしまう。

 

 

「風間さん…レポートの提出期限は来週だったはずだ」

 

 

風間がこのC級ランク戦のロビーに現れたのは自分が大学のレポートから逃げ出したのが原因だとあたりをつけた太刀川は言い訳がましくそう言い放つ。

 

 

「確かに提出期限は来週だが、太刀川…おまえはなにか1文字でもレポートを書いたか?」

 

 

「うっ」と言葉に詰まる太刀川。それだけで太刀川のレポートが手つかずのまっさらの状態であることがこの場の全員が理解する。

提出期限が来週のレポートに1文字も書いていないのはさすがに致命的であり、またいつものように手伝うハメになる事を予感しながら風間は太刀川を呼び戻しに来たのだった。

 

 

「それこそダンガーじゃねえか」と皮肉ったクロウを見て太刀川は妙案を思いつく。

 

 

「そ、そうだ風間さん。こいつ知ってるか、クロウっつってヨナさんとこのルーキーだ」

 

 

「ああ。知っている」というと風間はクロウ対太刀川のスコアボードを見て「ほう…」と息を漏らした。大学の成績ならまだしもボーダーでの戦績は優秀である太刀川と互角の実力を持つクロウに関心を抱いたようだった。

 

 

「かなりやるようだな……どうやらその風格は伊達ではないか」

 

 

風間の興味は太刀川のレポートからクロウに移ったようで、太刀川は自らの妙案が上手くいった事に内心でガッツポーズをする。

 

 

「おもしろい。今からおれとランク戦をしないか?」

 

 

「待てよ風間さん。まだクロウはおれとの決着がついてない」

 

 

「おまえはクロウより先にレポートと決着をつけろ」

 

 

「そういえばクロウ、前にいつか戦ろうって言ってたよな?」

 

 

 

風間はクロウとランク戦をしようといい、太刀川は阻もうとするも撃沈。その隙に村上が先日の約束を持ち出してバトろうとする。

 

 

「おいおい、大人気だな」と少しばかり嘆息したクロウを見かねて迅が提案した。

 

 

「ならさ、団体で模擬戦でもやらない?チームを2つに分けてさ。エキシビジョンマッチみたいな感じで」

 

 

「いいなそれ」と太刀川が食いつき、風間は「どうチーム分けするつもりだ?」と団体戦に乗り気であり、「おれも賛成です」と村上も了承した。

しかしチーム戦となると、このままでは人数差が出てしまう。もとより部隊間のランク戦では人数差があることなど常ではあるのだが、エキシビジョンマッチならできるだけ公平な条件で戦いたい。

 

 

 

太刀川や風間といったトップランクの攻撃手たちが集まっており、さらにその太刀川と互角の勝負をしたというクロウに釣られてロビーにいたC級の隊員らはちらちらとこちらの様子を窺っており、その端に見知った顔がある事に気づいたクロウが手を挙げてその人物を呼び寄せる。

 

 

「刀也じゃねえか」

 

 

呼ばれた刀也はC級隊員たちの視線に晒されながらクロウらに近づき、集まっている面々を見て「うわー」と苦笑いする。

 

 

「なにこの面子。濃い」

 

 

その隣に着いてきていたのは三雲で「こんなに集まってどうかしたんですか?」と聞いてくる。刀也が言っていた来客とは三雲の事だったのだと理解する。三雲の問いには「別にただ遊んでただけだ」と答え、その後わざとらしく肩をすくめてやれやれと言ったていで太刀川に視線を流し、

 

 

「ま、このチョビヒゲのダンガー野郎に絡まれて辟易してたところではあるが」

 

 

クロウの言葉に迅はこらえきれずに吹き出し、刀也は「ダンガー(笑)」と笑う。

 

 

「笑うなよ」少しむすっとした太刀川に睨まれて、刀也は「いや~ん」とばかりに自分の肩を掻き抱く。

 

 

「太刀川さんが怒ったわ!こわ~い、きけ~ん、ダンガー!」

 

 

また吹き出した迅を尻目に風間が「そのくらいにしておけ」と悪ノリの流れを断ち切った。

 

 

「あれ?そういやクロウ、開発室に行ってなかったっけ?」

 

 

笑い終えた刀也に、開発室での用事が済んだものだと告げるのとほぼ同時に太刀川は「偶数になったな」と呟いた。

刀也に「いま暇か?」と聞く風間。クロウは刀也をエキシビジョンマッチに呼び込むつもりなのだと理解し、問いかけられた刀也は一瞬考えるそぶりを見せた後に、

 

 

「ははーん?」

 

 

わかったぞ、と言わんばかりの声を出す。

「残念ながら暇じゃない」と語った刀也は三雲に稽古をつけるつもりらしかった。

 

候補にフラれたクロウたちは諦めて人数差ありでエキシビジョンマッチをやる事にし、C級ランク戦のロビーを後にした。

 

 

 

☆★

 

 

 

 

「おい迅。おまえ…これ見えてたのか?」

 

 

エキシビジョンマッチにおける組み分けは公平にジャンケンで決める事になった。その時から普段より3割増しでにやついていた迅はこの結果になる事がわかっていたのだろうか。

 

 

 

「見えてたよ。人数的には不利だけどがんばろうね、太刀川さん」

 

 

「おまえとチームってのも、たまには悪くねーな」

 

 

チームA…太刀川慶、迅悠一

チームB…風間蒼也、村上鋼、クロウ・アームブラスト

 

組み分けは、以上の通りとなっていた。この結果になった瞬間、村上は「マジですか」なんて漏らしていた。村上ほどの使い手から見ても組ませるとやばい相手なのだろう。“こいつと一緒なら負ける気がしない”というやつなのかとクロウは考える。

 

 

 

「それで迅、作戦はどうする?」

 

 

隣を走る迅に太刀川はどういった作戦でいくか尋ねる。太刀川も大学の単位はヤバいとはいえ戦術はいけるクチだ。しかし未来視のサイドエフェクトを持つ迅には一歩劣る。

 

 

 

「ん~、そうだね。まずは……おっと、こりゃまずい」

 

 

作戦を立てようとした迅が太刀川を見やると、自分もろとも吹き飛んでいる未来が見えた。軽い調子で「太刀川さん避けてー」と迅が忠告すると同時に、重砲が放たれた。

迅の忠告を受けた太刀川の行動は速く、グラスホッパーで射線から逃れる。迅も壁トリガー『エスクード』を利用して離脱した。

 

 

重砲は先ほどまで迅らがいた場所に着弾すると建物を粉々にする。

 

 

左右に分かれるように跳んだ太刀川が「おいおいなんだありゃ!?」と迅に無線で話しかける。

 

 

「たぶんアイビスだね。気を付けて太刀川さん、まだ来るよ」

 

 

迅の予言通り、一際高いマンションの屋上から重砲が連続で放たれる。太刀川と迅を引き離すように撃たれるアイビスは、まさしく分断を目的とされたものだろう。

 

 

「ただのアイビスでこの威力が出るわけがない…ってことはトリガーを臨時接続してやがるな」

 

 

そう太刀川は推測する。風間も村上もクロウも平均以上のトリオン量を誇る。そんな3人が臨時接続でもすれば、玉狛の大砲にこそ及ばないものの重砲と呼ぶには充分な威力をアイビスで発揮できる。

 

 

「分断されちゃったけど、どうする太刀川さん。いったん合流する?」

 

 

「いや、このままのってやろう。合流を優先してもかたまって移動する以上はさっきの二の舞だ」

 

 

「了解。負けないでよ太刀川さん?」

 

 

「ぬかせ迅、おまえこそおれ以外にやられんじゃねーぞ」

 

 

太刀川はにやりと笑み、迅は額に乗せていたサングラスをキチンと装着する。2人は言葉を交わしたあと、それぞれの方向に向かって走り出した。

 

 

 

☆★

 

 

 

「やつら、分断の策にのったようだぜ」

 

 

クロウはそう言いながらアイビスを消す。このエキシビジョンマッチに際してクロウはイーグレットからアイビスに持ち替えていた。それも重砲による敵の分断を行うためである。

 

 

「よし、ならば作戦はフェーズ2に移る」

 

 

敵の分断を行ったのは各個撃破を狙ったからだ。チーム分けで3人チームとなったクロウたちは人数差を利用した作戦をとる事にしていた。

 

2対3ならば、お互いのクセまで掴んでいる迅と太刀川の阿吽の呼吸に敗北する可能性があった。

しかし1対2と1対1の2つに分ければまだ勝機はある。

 

 

「おれが迅さんの担当でしたね」

 

 

「ああ、頼むぞ村上。おまえがどれだけ保つかがカギだ」

 

 

その作戦では太刀川にはクロウと風間、迅には村上が当たる事になっていた。

 

 

 

「できるだけ早く来て下さいね。おれも守りを硬めて時間を稼ぎますが……相手が迅さんじゃそう長く保ちませんから」

 

 

 

「わかっている。では行くぞクロウ。作戦通りにな」

 

 

「おう、任せろよ風間。村上も頼むぜ」

 

 

「ああ、そっちも」

 

 

こうして3人は別れて、それぞれ太刀川と迅と対決しに向かう。

 

 

 

☆★

 

 

ピカ、とアパートの屋上が光る。何度も見たことがあるこれは狙撃の合図だ。

撃ったのはクロウ。アイビスから放たれた弾丸は先程の重砲から数段威力の落ちたものだったが、受けてしまえば緊急脱出は確実だ。

 

太刀川は余裕をもって避けるが、それが陽動である事を看破していた。

 

 

真正面から狙撃する馬鹿はいない。狙撃は相手の視界の外からやるのが常道だ。しかし、そんなセオリーを無視したのは、これが陽動であるからだ。

 

チラリとレーダーを確認すると光点が太刀川に肉薄してきていた。しかし視界に映る人影はない。

 

「カメレオンか!」それが風間の得意とするカメレオンを利用した奇襲であると理解した太刀川はグラスホッパーで跳躍し、空中で孤月二刀を振りかぶる。

 

 

「旋空孤月」

 

 

大雑把に狙いをつけて斬撃を拡張する。

 

手応え……アリ。

風間の腕が斬り飛ばされ、トリオンが漏出する。そこを狙って再び孤月を振るうが、今度は躱されてしまう。

 

と、そこで風間がカメレオンを解除して姿を現したかと思うと、跳んで空中の太刀川に接敵する。

左腕を失った風間だったが、スコーピオンの特性を活かして二刀では対応できない手数で太刀川を攻め立てた。

 

 

「う、お、おお!?」

 

 

なんとか致命傷は避けつつもジワジワと削られていくのがわかった太刀川はグラスホッパーを起動してさらに空中に逃げる。グラスホッパーや弾トリガーを持たない風間はこれで追撃の術を失う。

 

が、ここで風間は空中で一回転すると、その遠心力を利用してスコーピオンを投擲した。太刀川は驚きつつも孤月で投擲されたスコーピオンを弾くと、返す刀で落下していく風間を両断しようとして、迫る風切り音にシールドを展開する。

 

シールドに防がれたレイガストは、そのままくるくると回転してクロウの手に戻る……その前にクロウは二丁拳銃を構えていた。

 

連射されるアステロイドとハウンドにシールドを割られた太刀川は被弾しながらもグラスホッパーを踏みつけて射線から逃れる。

 

 

「逃げられたな。追うか?」

 

 

風間と合流したクロウは姿を消した太刀川を追うか提案するが、風間は「いや」とすぐに否定した。

 

 

「太刀川の事だ、ここらに潜んで機を伺っているはず。少し時間はかかるが一帯の家屋を破壊するぞ」

 

 

すでにレーダーからも太刀川を示す光点は消えていた。バッグワームで隠れているのだ。

 

「あいよ、了解」

 

 

クロウの肩に風間の手が置かれて、再びトリガー臨時接続が行われる。クロウはアイビスを構えると躊躇いなく引き金に手をかける。

 

ドガン、と銃声が響いて周囲の建物を破壊していく……が、太刀川は現れない。

 

 

「まさか……村上の方に向かったのか?」

 

 

自分が太刀川の生態を把握できていなかった事にどれだけ驚愕しているのか、風間はトリオン体ながら冷や汗を流しながら呟いた。

 

すでに周辺の建物はあらかた倒壊してしまった頃だった。隠れる場所を潰す意味もあったが、これだけ隙を晒しているのだから途中で太刀川の強襲があると踏んでいた風間は予想外だったらしく、新たな可能性を探り始めていた。

 

 

しかし、クロウは確かに太刀川の殺気を感じ取っていた。

 

 

 

☆★

 

 

 

「やっぱおまえがこっちか、鋼」

 

 

「はい、迅さん。足止めさせてもらいます」

 

 

迅と村上は会敵していた。堂々と足止め宣言する村上に迅は相手チームの作戦が各個撃破であると確信を抱く。

 

 

村上は静かにレイガストと孤月を構えた。右手に盾を、左手に剣を。防御重視のそれは迅をして容易に突破できないNo.4攻撃手の守勢の構えだ。ちなみに攻撃重視の場合は右手に孤月、左手にレイガストを持つ。

 

 

「足止めね……そんな消極的な考えでこの実力派エリートを相手にするつもり?」

 

 

「それがおれの役目ですから」

 

 

挑発的な迅だったが、村上は役目を任されたのだというプロ意識でそれを受け流す。

すでに両者ともに構えており、間も無く戦闘が始まる。

 

 

 

迅が踏み込み、村上がシールドモードのレイガストでスコーピオンの剣撃を防ぐ。間隙を突いて反撃を叩き込むつもりだった村上だが、絶え間なく打ち込まれるスコーピオンに反攻の糸口が見出せない。

 

しかし村上に焦りの色は浮かばない。自分の役目はあくまで足止め。それが果たされるのならば反撃なんてしなくていい。

現にスコーピオンの生みの親である迅を相手にここまで保っている村上の存在は大きい。いくら風間とクロウと言えども総合1位である太刀川を崩すのは容易ではない。それこそ迅と太刀川が合流してしまてば一網打尽にされる可能性すらありえるのだ。

それを阻止できているだけで成果を出していると言える。

 

 

自分の猛攻を耐え凌ぐ村上に迅は内心で驚嘆していた。さすがはNo.4攻撃手だと褒め称えたいくらいだ。スコーピオンを持つ迅は太刀川と同等の実力を持つ、ボーダー現隊員では紛れも無い最強格の1人だ。

 

そういえば、と迅は村上がこれだけ自分の猛攻を凌ぐ理由を理解する。村上はスコーピオン二刀流の影浦や遊真とライバル関係なのだ。要は迅と似たスタイルの2人と多くの戦闘経験があるからこそ、ここまで見事に対応しているのだと。

 

 

しかし、その2人にはない手がまだ迅にはあった。

 

「エスクード」

 

バリケードトリガーであるエスクードを、村上の足元からせり上がらせて高く空中に弾き飛ばす。同じようにエスクードが地面からせり出す勢いに合わせてジャンプした迅は村上に肉薄する。

 

「スラスター!」

 

体勢は崩れてしまっていた村上は防御という選択肢を捨てて、己を切り裂かんと迫るスコーピオンをレイガストのオプショントリガーであるスラスターを発動して、その斬線から逃れた。

 

体勢を整えて着地した迅と村上。危ない一瞬だったと厳しく迅を睨みつける村上だったが、迅はまだ余裕そうで「なかなかやるじゃん」などと言っている。

 

 

「おれなんかまだまだですよ。迅さん、一手ご教授お願いします」

 

 

楔を打ち込まれたと村上は感じていた。守勢に回っていれば再びエスクードで打ち上げられる。だったら攻勢に転じるしかない。

 

村上は孤月とレイガストを入れ替えて攻撃重視の構えをとった。

 

 

「なるほどね、わかったよ。この実力派エリートが相手をしてあげよう」

 

 

 

☆★

 

 

「来るぞっ、風間!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

太刀川が瓦礫に隠れて孤月を振りかぶり、旋空を発動しようとした瞬間にクロウは風間に呼びかけて回避を促す。

 

壁越しの旋空孤月はクロウと風間の2人を捉える事なく空を切る。

 

「なにぃ!?今の避けるかフツー!?」

 

完全にとったと思っていた太刀川は目を剥きつつも反撃に備える。

 

 

「飛べ!風間!」

 

 

クロウはレイガストを構えると、それを風間に踏ませてから振り切る事で風間を弾丸の如くして飛ばす。

 

加速した風間は太刀川に肉薄し、斬られる事も構わずにスコーピオンを繰り出す。

 

トリオン体の活動限界が訪れて、風間が緊急脱出する。太刀川はやはり致命傷は避けていたが、トリオンの漏出がひどく長くは保たないように見えた。

 

だが、クロウとやり合うくらいはできると踏んだ太刀川は前を向きーーー

 

風間の緊急脱出の影響で巻き上がった粉塵の先のクロウは、アイビスを構えていた。

 

この距離の狙撃かよ!と太刀川は驚きつつもトリガーの切り替えは間に合わないと踏んで、アイビスでの銃撃を孤月で斬り捨てようと判断し、それは果たされた。

 

クロウが引き金を絞った瞬間、太刀川は孤月を振り抜きアイビスの弾を両断した。

 

だが、太刀川の腹部には穴が空いていた。

 

 

「な、に……?」

 

 

「影手裏剣ならぬ影撃ちってな。そら、まだまだいくぜ!」

 

 

クロウがやった事は、アイビスの下に拳銃タイプハウンドを構えており、アイビスと同じタイミングで発射する事だった。いくら重い狙撃銃と言えどこの距離で外すわけはなく、ハウンドはアイビスの影に潜み太刀川を穿ったのだ。

 

 

アイビスから拳銃タイプのアステロイドに切り替えたクロウは二丁拳銃を太刀川に向かって連射する。

シールドを展開した太刀川だったが、アステロイドとハウンドの両方に対応するには自らもシールドを2枚使わなければならず、後手に回った事を自覚する。

 

 

「いや、後手って言うより詰みだなこりゃ。……おまえが来なきゃの話だが、迅」

 

 

「わかってるよ太刀川さん。もう着く」

 

 

元々のトリオン差的にクロウが有利であり、風間の特攻もあり太刀川は少なくないトリオンを失っていた。このままではいずれシールドごと削り倒されるのが目に見えている。

 

しかし太刀川にはまだ余裕があるようで、それを見て取ったクロウは村上に無線で話しかけた。

 

 

「村上、今どうだ?」

 

 

「すまない。迅さんを抑えられそうにない。そっちに追い詰められてる!」

 

 

「わかった」と短く返したクロウは、今頃太刀川たちも無線で連絡してるに違いないと思った。太刀川の余裕は迅と合流できそうだからだ。

 

 

レーダーを確認すると、迅がこちらに来るまでもう時間がない。このままで太刀川のシールドを割れるかどうかは微妙だった。なら、銃で無理なら剣でやればいいだけだ。

 

クロウは二丁拳銃からダブルセイバー・レイガストに持ち替えると太刀川に接近する。

太刀川は待っていましたと言わんばかりにシールドから孤月に切り替えて、その刃にトリオンを込める。

 

 

「旋空ーーー」

 

 

「孤月」と太刀川が孤月を振るう前にクロウがスラスターで跳び上がる。一刀を躱したクロウだったが、太刀川は二本目の孤月で旋空を起動し、振り切る。

 

が、それは再び空を切る。

 

スラスターの勢いを利用して跳んでいたクロウがレイガストを手から離したのだ。そうなっては重力によって落ちるのみだが、クロウの上昇まで計算して斬撃を放った太刀川からすれば埒外の出来事であり、二刀を振り切った死に体の今では何もできない。だがクロウは違う。落下しながら二丁拳銃を太刀川に向ける。

 

 

「終わりだ!」

 

 

☆★

 

 

「村上、今どうだ?」

 

 

「すまない。迅さんを抑えられそうにない。そっちに追い詰められてる!」

 

 

突然の無線にわずかに集中がブレる。クロウの返事を聞く間も無く苛烈な連撃が村上を攻め立てた。

 

痛み分けとばかりに突き出した孤月を握っていた右腕を切断され、シールドモードのレイガストごと蹴られて地面に叩きつけられる。

 

 

「どうした鋼!そんなもんか?」

 

 

立ち上がると村上は「まだまだ」と答える。すでにその顔面にすら亀裂が入っており、右腕を失った事でトリオンの喪失もかなりだとわかる。

 

「スラスター、オン」

 

孤月を失った以上、レイガストで戦うしかない。村上はレイガストをシールドモードからブレードモードに切り替えるとスラスターを起動して迅に接近する。しかし、その刃が届く前にエスクードの壁がせり上がり村上と迅を隔てた。

 

スラスター切りによってエスクードの壁を両断するが、迅の姿を一瞬でも見失った事に危機感を覚えた村上は、切り裂いたエスクードの先を見ずに身体を反転させ、空中に跳び上がった迅を見つける。

 

 

迅の両手が蛇のように動き、それが何なのか理解しつつも村上は驚かない。迅はスコーピオンの開発者だ、その派生の技を使えても何ら不思議ではない。

 

マンティス……蟷螂を意味するそれはスコーピオン二刀を繋げる荒技だ。それによって刃圏を拡大したスコーピオンに切り裂かれながらも、村上は更にスラスターで加速。その場で一回転したのちレイガストを迅に向かって投げ放った。

 

クロウのブレードスローを模した技だった。村上のサイドエフェクトである強化催眠記憶によって“剣が手元に戻ってくる”という特性以外は本物と遜色ない完成度の技に仕上がっていた。

 

しかし、いくら本物に近い完成度を誇るブレードスローとは言え、そんな大振りを迅が未来視において読み逃すはずがなくあっさり避けられると、村上は再びエスクードで空中に打ち上げられた。

 

 

 

メインにセットしてあるシールドを起動しても変幻自在のスコーピオンの前には無意味であり、サブにセットしてあるトリガーにしても同じ。

「終わりだ!」と視界の端で聞こえた気がして、そこで迅は村上を掴むと目標に向けて投げた。

ピシピシと音を立てて崩れていく村上のトリオン体だったが、まだ緊急脱出するほどではなく。

 

 

 

迅に投げられた村上は太刀川を追い詰めていたクロウに激突した。

 

 

「うおっ!?」と驚くクロウだったがすぐさま体勢を立て直しーーーー

 

 

 

「太刀川さん!」

 

 

 

「おう!」

 

 

 

まるで戦術リンクばりの阿吽の呼吸を見せた太刀川と迅に、少しだけ郷愁に駆られる。

 

 

太刀川は旋空孤月で村上を緊急脱出させ、迅がクロウにスコーピオン二刀を叩きつける。クロウは二丁拳銃でそれを受け止めるが、さすがに耐え切れずに肩に深い裂傷を負ってしまう。

 

 

迅の腹部に蹴りを入れて弾き飛ばしたクロウはすぐにレイガストを起動して、呼吸を合わせて挟み撃ちを実行してくる2人を迎撃した。

 

スラスターを起動して一瞬の内に回転、太刀川と迅を来た通りに弾き返してそのまま太刀川に向かってブレードスロー。迅にはハウンドで牽制する。

 

 

太刀川は投擲されたレイガストを孤月で弾く。迅はハウンドをスコーピオン一刀で捌きつつ、村上にしたようにエスクードをクロウの足元から生やして空中に突き飛ばした。今度は自分も同じようにエスクードで空中に跳び上がり、クロウに抱きついたかと思うと身体からスコーピオンを突き出してクロウを拘束する。

 

 

「おいこら離せ」とクロウはわめくが迅は無視して太刀川に視線をやり「やっちゃって」と言った。

 

 

 

「ーーーー旋空孤月」

 

 

 

太刀川は孤月を一閃し、迅ごとクロウを両断し。

 

 

ここにエキシビションマッチは終了した。

 

 

☆★

 

 

「か〜っ!負けちまったな!」

 

 

緊急脱出したあと、戦った面子と合流するとやけに明るい声音でクロウは風間と村上に「わりぃな」と謝った。

 

 

「おれが足を引っ張りました。すみません、迅さんの足止めができなくて」

 

 

「いや、それを言うならおれたちの方だ。太刀川を撃破できていれば」

 

 

村上と風間も、それぞれ自分の落ち度を反省していた。

そこに太刀川と迅がしたり顔でやってきて「どーもどーも」と3人に声をかける。

 

 

「さすがに総合ランキング1位とそのライバルはものが違うな。恐れ入ったぜ」

 

 

「いやー、それを言うならクロウさんこそそうでしょ。最後も押し切られてたかもしれなかったし」

 

 

好物のお菓子の袋を開けて「ぼんち揚食べる?」なんて聞きながら迅はクロウとの最後のやり取りを思い出す。

 

 

「なんだ、そんな未来が見えてたのか?」

 

 

迅の言葉に太刀川がぼんち揚をもらいながら食いつく。

 

 

「まあね。あの時仕留められなかったら負けてた未来もあったよ」

 

 

迅の言葉に皆それぞれが息を漏らす。2対1という場面でありながら、太刀川と迅を倒す可能性もあったのだと他ならぬ迅が言った事でクロウの評価はさらに上がっていた。

 

 

その後、思い思いに言葉を交わした5人はほどなくして別れた。

 

隊室に戻る廊下で今日の出来事を思い返し、ふと「楽しいもんだな」と漏らす。

 

まるで学生時代に戻ったようだった。トワがいて、アンゼリカがいて、ジョルジュがいて。わいやわいやと騒いだ1年。上級生になりⅦ組の連中と知り合って。あの甘ったれた後輩に50ミラ借金して。

 

そんな青春の続きが、ここで始まったような。

 

 

「これくらいの寄り道なら構わねぇよな、リィン?」

 

 

ゼムリアに帰る旅路でも、この程度の寄り道は構わないだろう?と鼓動しない胸に手を当ててクロウは呟くのだった。

 

 




更新が遅れてすまない………
あのね、ゲームが楽しすぎるのがいけないんだ。

ちょいと解説
この話は前話『夜凪刀也の一日』と同じ時系列です。同じ一日をクロウと刀也の時点で描かせていただきました。
はい、というわけで次回は『夜凪隊の一日』の予定です。今回より少し時間は進み、夜凪隊の面子が玉狛支部に遊びに行きます。乞うご期待。
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