ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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前話の最後に明かしましたが、クロウは未だ不死者の身です。不死者であるという事は……?


夜凪隊の一日

「やほー!遊びに来たぜ、おれがな!」

 

 

 

「うむ、よくきたトーヤ。ゆっくりしていくといい」

 

 

 

B級ランク戦ROUND3を目前に控えた夜凪隊は玉狛支部に遊び(特訓)に来ていた。

玉狛支部はボーダーの勢力を三分する派閥の1つである“近界民にも良いヤツいるし仲良くしようぜ”をモットーとする玉狛支部派の総本山だ。

そんな所に本部所属の人間が赴くのはどうか?と問われれば特に問題はない。空閑遊真入隊直前の玉狛支部に黒トリガーが二本あった状況ならまだしも、今はそう切迫した状況ではないし、ボーダーはそこまで派閥争いが活発な組織ではないからだ。

それに加え、夜凪隊はどこの派閥にも属しておらず離反のリスクがないため、何の問題もないというのが上層部の考えだった。

 

 

 

玉狛支部に到着した夜凪隊の面々を迎えたのは林藤陽太郎。玉狛支部派の首魁たる林藤支部長の息子だった。

 

重ねて言うが、特に政治的な意味合いはない。ふざける刀也と5歳の陽太郎のやりとりにはツッコミが不在。同伴していたクロウと陽子も微笑ましそうに見ているだけだった。

 

 

それから二、三言だけバカ丸出しの会話を続けてから夜凪隊の面々は居間に通された。

玉狛支部はボーダー本部のように大きい建物ではない。使われていなかった水道施設を買い取って使っているのだということを刀也は思い出していた。元々はこの玉狛支部こそがボーダー本部だった。4年前の第一次大規模侵攻以前の話だ。半年に満たない僅かな期間だったが、刀也にもここで過ごした記憶はあった。

 

 

「ヨナさんじゃん!あれー、今日来る日だったっけ?」

 

 

訪問者に気づいたのか、上の階から小南と烏丸が顔を出した。事前に連絡していた刀也だったが、いつものように戯けて「サプラ〜イズ!」と腕を広げてみせた。

 

 

「え?ウッソ!なんのサプライズよ!?」

 

 

別にサプライズパーティーでもサプライズプレゼントでもないのだが、なぜか嬉しそうにする小南に“騙されやすいなぁ”と思いながら烏丸に視線をやる。

 

 

「もちろん小南先輩へのサプライズパーティーですよ。みんなからプレゼントがあります」

 

 

「そうなの!?気が効くじゃないとりまる!それでいったいどんなプレゼントが………」

 

 

「すみません、嘘です」

 

 

「え?」と呆然と烏丸を見つめる小南。向かい合う2人は美男美女でありパッと見は映える絵面だが、嘘をついた事を悪びれもしない真顔の烏丸と呆然とした表情の小南では、ただの面白い絵面でしかなかった。

「ですから、嘘です。サプライズなんてありません」とキッパリ言う烏丸にわなわなと小南は震え出して「騙したな〜!」とポカポカ殴り出した。刀也を。

 

刀也はされるがままに「ハッハッハ。相変わらず小南はかわいいなぁ」と笑う。当の小南は「もう騙されないわよ!」と激したままであったが。

 

 

「そのへんにしておけ、小南」

 

 

と、そこに現れたのは落ち着いた筋肉こと木崎レイジ。ボーダー唯一のパーフェクトオールラウンダーであり、1人で一部隊と数えられる破格の戦力だ。

 

 

「来たな、刀也。話は聞いてる」

 

 

「おうレイジ。今日はすまんが世話になる」

 

 

 

木崎レイジ、小南桐絵、烏丸京介の3人がボーダー最強の部隊と呼ばれる玉狛第一のメンバーである。その3人の弟子となったのが、今ランク戦で夜凪隊と同じく話題になっている玉狛第二の三雲、空閑、雨取だった。

 

 

「そいつがクロウ・アームブラストか」

 

 

木崎は刀也と短く挨拶を交わすと、今度はクロウを見た。刀也が肯定すると小南が興味深げにクロウを見やって、

 

 

「へえ、そいつが噂の?遊真からも話を聞いてるわ。でもホントに強いの?」

 

 

「弱いヤツは嫌いなんだけど」と常々言っている小南らしい挑発的な目線と言動。叩かれるがままにされていた刀也は締まらないながらもニヤリと笑んで「おれより強いぜ」と言う。

 

 

「ヨナさんがそこまで言うのね、面白いじゃない。あたしと模擬戦しない?」

 

 

「ま、時間があればな。木崎…話いいか?」

 

 

小南からの挑戦をあっさりと断ったクロウ。前日に刀也から「玉狛には小南桐絵って戦闘狂がいるから気をつけろ」と忠告を受けていたからであった。実際には小南は戦闘狂と言われるほどのバトルジャンキーではないものの、かつては攻撃手ランクNo.1だったボーダー最強の一角だ。

機会があれば戦ってみたい気持ちはあるものの、今日は木崎と話をするのが優先だ。

 

 

「ああ、奥の部屋で話そう。宇佐美、茶菓子を出しておいてくれ。饅頭やどら焼きがあったはずだ」

 

 

宇佐美が「おっけー。了解でーす」という返事を聞き届けてから、木崎はクロウを伴って奥の部屋に引っ込んでいった。

それと入れ替わるようにして二階から玉狛第二の面々が顔を出す。

 

 

「あれー、ヨナさんたちじゃん」

 

 

「あ、もう来てたんですね」

 

 

「こ、こんにちは…」

 

 

 

並んで階段を降りてきた3人は刀也らの前で立ち止まる。

 

「おすおす、お邪魔してますぜ」と軽く手を挙げた刀也を見てから、三雲が遊真と雨取に説明する。

 

「今日は夜凪隊の皆さんがこの支部に来ることになってたんだ。僕は夜凪さんと訓練するけど、2人はどうする?」

 

「おれも今日は特に用はないし、ヨナさんと遊ぼうかな。クロウさんも来てるんでしょ?」

 

 

「私は午後から本部で狙撃手の訓練あるから」

 

 

話を聞くと雨取以外は玉狛支部で夜凪隊の面々と今日を過ごすつもりらしかった。

 

 

「話はまとまったか。んじゃあ三雲、早速始めるか?」

 

 

「はい、お願いします!」

 

 

「おれはしばらく小南先輩と模擬戦やってるから、終わったら声かけてよ」

 

 

遊真は刀也と戦った事はない。だから今日の機会を逃したくないのだと言うと小南と共に別室に向かう。

 

 

「宇佐美、訓練室借りるぞ。烏丸、お前もついてこいよ」

 

 

刀也は宇佐美の「はーい」という返事を聞くと三雲と烏丸の2人を連れて訓練室に向かう。

 

 

「それじゃあ宇佐美、あたしらも情報交換するとしようか」

 

 

「そうしよう!陽子さん、お茶菓子はなにがいい?」

 

 

 

隊員たちがそれぞれ別れるとオペレーターである陽子と宇佐美も情報交換と称してお喋りタイムに洒落込む事にしたのだった。

 

 

☆★

 

 

 

「それで話とはなんだ?」

 

 

宇佐美の運んできた饅頭を食べながら木崎がクロウに問いかける。

クロウも同じく饅頭を飲み込んで「パーフェクトオールラウンダー育成メソッドについての事なんだが」と切り出す。

 

 

「荒船の野望とかの話だな。それがどうした?」

 

 

「ああ、それの作成を手伝って欲しいと思ってよ。メソッド発表の時はちゃんと荒船と連名にしておくからよ」

 

 

「手伝いか…それは別に構わないが、それをなぜおまえが頼む?これは荒船の野望だろう?」

 

 

「まあそうなんだがな。その野望にはおれも一枚以上噛ませてもらってるからよ。すでにパーフェクトオールラウンダーである木崎、それに近い技術を持つおれ、攻撃手と狙撃手でマスタークラスになり、銃手トリガーに手を出した荒船……3人が協力すればメソッドの確立は格段に早くなるはずだ。もちろん荒船の了解は得てるぜ」

 

 

 

「ふむ」と考え込む素振りを見せる木崎。荒船の了解を得ているのなら協力を惜しむ理由はない。しかしクロウの一枚以上噛んでいるという発言がどうしても気になる。

 

 

 

「わかった、協力しよう。だがクロウ…どこか焦っている気がするのは気のせいか?」

 

 

木崎の言及にクロウは少し驚いた様子で「慧眼だな」と言うと、

 

 

 

「ま、ちょいと悪だくみをな。この世に悪党ほど勤勉な奴もいねえだろ」

 

 

肩をすくめて戯けてみせた。それにどこか刀也を幻視した木崎はこれ以上の言及も無意味だと悟り、同じように肩をすくめて「確かにな」と笑う。

 

 

ここにパーフェクトオールラウンダー育成メソッド確立のメンバーが揃い、これからさらにメソッド確立は加速するのだった。

 

 

 

☆★

 

 

「そこでアステロイド!」

 

 

刀也の指示が飛び、三雲はアステロイドを発射する。人形がアステロイドに貫かれてバラバラになったのを確認すると、刀也は「OK!OK!いい感じだぞ」と拍手する。

 

 

刀也が三雲に教えているのは“技”である。“状況に応じた戦闘術”と言い変えても良いかもしれない。

例えば、刀也がROUND2で熊谷を破ったアステロイド散弾からの旋空孤月などがそれに当たる。

 

三雲はレイガストを盾として使う防御寄りの射手。刀也とはスタイルが違うが、刀也もいろんなトリガーをつまみ食いしては面白戦術を生み出している。その中から三雲のスタイルに合った技を授けていた。

 

 

いつもなら技をバンバン教えて放逐するだけだったが、実は先日の木虎の言葉が若干効いていて刀也は少し反省していた。年下の美少女に責め寄られてショックを受けていたのだ。

 

だから、今日三雲に授けた技はわずかに2つ。昼を挟んでみっちり仕込んでやった甲斐もあり、完成度も中々のものとなっていた。

 

 

「うし、じゃあ今日はここまでにしとくか」

 

 

「まだやれます」

 

 

自分がグロッキーになっているのを見て刀也が判断したと思ったのか、三雲は即座に言葉を返すが、刀也は「そうじゃなくて」と言う。

 

 

「今度はおれが特訓したいのよ。烏丸、準備できてる?」

 

 

次はおれの番だ、と刀也は三雲から視線を切ると訓練室に隣接しているモニタールームの烏丸に声をかけた。これまで烏丸には三雲を指導するためのシュミレーターの設定をしてもらうついでに、刀也の特訓の準備を進めてもらっていた。

 

 

「ええ、準備はできてます。三雲、代わってくれるか?」

 

 

訓練室に入ってきた烏丸は三雲にシュミレーターの設定役を頼み、ここに刀也の対二宮特訓が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

しばらくの後。

 

「ふい〜」

 

 

と言いながらくたくたの体で訓練室から出てきた刀也。三雲は苦笑いしながら「お疲れ様です」とドリンクを手渡す。

 

 

「サンキュ。成功率は7割ってところかね…ま、上出来かな」

 

 

三雲に礼を言ってからひとりごちる刀也。そんな刀也に三雲は気になっている事を聞いた。

 

 

「夜凪さんって万能手なんですよね」

 

 

「そうだな」

 

 

「でも万能手って攻撃手トリガーと銃手トリガーを6000点以上取るのが条件じゃないですか。それなのに夜凪さんが使ってるのは射手トリガーですよね?」

 

 

 

もったいつけて一拍置き、ドリンクを飲み込んで答えようとした刀也だったが、烏丸がさらりと言ってしまう。

 

 

「ヨナさんは銃手トリガーでも6000点以上とってる」

 

 

「え、そうなんですか!?」

 

 

「すごすぎる」とばかりに驚く三雲に、自慢げに小鼻を膨らませて「そうだ」と答えてやる。

 

 

「これでも古株だからな。スナイパー用とトラッパー用のトリガー以外はある程度使えるぜ。射手トリガーを使ってるのは銃手トリガーより自分に合ってると思ったからだな。銃口の向いてる方にしか弾の飛ばない銃手トリガーより色々と小細工ができる射手トリガーの方が性に合ってるってわけよ」

 

 

銃手トリガーには銃手トリガーの、射手トリガーには射手トリガーの利点がある。その双方を体験した上で刀也は射手トリガーを選んでいるのだ。「小細工ができる」というのも刀也お好みの搦手の事を指している。

 

 

「小細工と言うと少し表現が正しくない気がしますけど……さっき教えてもらった技のような事ですね?」

 

 

三雲は刀也の言わんとしている事を理解して記憶を掘り返す。先程教授してもらった技のひとつ。技術的に攻撃を当てる技はもちろんだが、心理的な揺さぶりで防御を剥がす技を教えてもらった。そういった技には銃手トリガーより射手トリガーの方が向いているという事なのだろう。

 

 

「おれはバイトがあるんでこの辺で。ヨナさん、三雲の事は頼みますよ…しっかり導いてやってください」

 

 

そこで息を整えた烏丸が席を外す。しれっと刀也に三雲を押し付けている。“しっかり導いてやれ”とは刀也に正しくボーダー隊員として後輩を育てさせるためのキーワードだ。このキーワードがなければ刀也はただ技を教えて放逐するのみ。だが“正しく導け”と言われれば別だ。刀也は先達としての教えを後輩たちに授け、責任を持って成長を見届けるのだ。

それは決して軽いものではない。界境防衛機関ボーダーの任務は命にまで関わる事もあるからだ。

 

 

「…わかったよ」

 

 

そんな刀也の苦悩を知ってか知らずか、烏丸は返事を聞き届けると「それじゃあ」と言って部屋を出て行く。

普段の軽妙な雰囲気が重苦しいそれに変じたのを感じて三雲はおそるおそる刀也に尋ねる。

 

 

「あの…何か気になることでも?」

 

 

本当は「気に触ることでも?」と尋ねたかった三雲だが、いつもと違う雰囲気の刀也に気圧されてか、表現を和らげる。刀也はそんな三雲の心情を感じ取り柔和な笑みを浮かべた。

 

 

「なんでもないよ。夕飯まではまだ時間あるし、少し話すか?」

 

 

そうして、少しばかりの小休止とした。

 

 

☆★

 

 

 

「へー、じゃあ陽子さんたちも遠征部隊を目指してるんだね」

 

 

「そういう事さね。まさか玉狛第二も同じ目標を掲げてるなんて思わなかったけど」

 

 

一通りの情報交換を終えた宇佐美と陽子の会話はすでに雑談の様相を呈していた。煎餅などをかじりながら談笑混じりに言葉を交わす。

 

 

 

「しかし、玉狛第二……今のままじゃ遠征部隊選抜は厳しいんじゃないのかい?おたくの三雲が遠征を公にした事で初めて行われる公開遠征だ。少なくともB級上位が最低条件だろう」

 

 

「ん〜、悔しいけどその通りなんだよね。せめてあと1人前衛がいればなぁ。その点、夜凪隊はいい感じなのかな?」

 

 

「ま、うちのはどっちともA級隊員含めてもトップクラスの実力だからね、戦力的な不足は今のところ感じちゃいないよ」

 

 

「おお〜、自信満々ってやつだね。ヨナさんはもちろんだけどクロウさんだっけ?彼も相当強いよね」

 

 

「ああ、あいつは特別だな。ヨナさんが十全の状態で戦って互角だ。それにまだ“齟齬がある”らしい」

 

 

クロウの言うそれは生身とトリオン体の微妙な感覚のズレだ。そのズレはボーダーに入隊してから修正してきているものの、未だ若干の齟齬がある。引いたはずの引き金は一瞬遅れた弾を吐き出し、振ったはずの剣は未だ振りかぶったまま。その感覚のズレが、まだ少しだけ残っている。

 

しかし、そんな事は知らない宇佐美は「齟齬?」と頭を傾げる。そして思い出したように「あ、そういえばさ」と話を切り出す。

 

 

「まだ旧ボーダーだった時代にね、クロウさんと似た人がいる写真を見つけたんだ。雰囲気とかは全然違うんだけど、髪とか目の色がほとんどおんなじなの!」

 

 

「へえ」と興味深げに呟く陽子。クロウと似た髪と目となれば白髪に赤目だろうか。日本であれば目立つ特徴だろう。少し待つと宇佐美が件の人物の写った写真をもってきた。

 

 

 

「これは…確かに似てるね」

 

 

見ると、そこには確かに白髪に赤目の男性が立っていた。精悍な顔立ちながら柔和な雰囲気だ。どこか人を安心させるような頼もしさを感じさせてくれる。

 

 

 

「名前はリィン・シュバルツァー……聞いた事ある?」

 

 

「リィン・シュバルツァーだって!?」

 

 

宇佐美が出した名前に驚愕する陽子。隊室でたびたびクロウや刀也の口から出る名前だ。聞けばクロウとは同郷で刀也の師匠であるらしい。

 

 

 

「え、なになに?知ってるの陽子さん?」

 

 

「クロウやヨナさんの知り合いらしい」

 

 

「あ、ヨナさんの師匠って人だっけ。クロウさんとはどんな繋がりがあるの?」

 

 

同郷だと宇佐美に教えてやると「うーん、同郷かあ」と言って、

 

 

「じゃあクロウさんも近界民なの?」

 

 

「本人曰く“たぶんそうだ”と」

 

 

軽々にクロウが近界民が否かを話し合う2人。宇佐美は玉狛支部派で近界民に偏見はなく、陽子も気にしない性質だ。本部で話せば間違いなく問題になるであろうやり取りもこの2人にとっては雑談のようなものである。

 

 

「たぶん〜?また微妙な言い方だね」

 

 

「クロウのいた世界にはトリガー技術がなかったそうだ。だから自分が近界民であるのか確信がない、と。もしかしたら本当の意味で異世界の住人かもしれないな…とも言っていたな」

 

 

「へえ〜、面白いね。トリガー技術がないから生身でもあんなに強いのかな。伝え聞いた話だけど、リィンさんもトリオン体より生身の方が強かったらしいからね」

 

 

「トリオン体より生身の方が強いって……そりゃ魂消た話だね」

 

 

「でしょ?まあそんな2人が同郷なら納得できるよね」

 

 

「確かに」と陽子は笑うのとほぼ同時に烏丸が荷物を持って部屋から出てきた。

 

 

「おや烏丸…?ああ、バイトかい?」

 

 

 

烏丸と同じ部屋にいたはずの刀也と三雲がいない事を疑問に思った陽子だったが、すぐさま烏丸はアルバイトをしていた事を思い出して疑問は氷解した。

 

 

 

「ええ、ヨナさんと三雲はまだ訓練中です。夕飯時になったら呼んで、と言ってました」

 

 

「りょうか〜い。ってあれ?今日の夕飯当番は小南じゃなかったっけ?そろそろ準備始めるように言ってこないと」

 

 

 

宇佐美はそう言うと小南を呼びに向かう。烏丸もバイトで支部を出発して部屋には1人陽子だけが残される。

 

天井を見上げて瞑目した陽子は「フ…」と笑い、呟いた。

 

 

「点と点が繋がってきたねぇ……」

 

 

 

☆★

 

 

 

「それは…“強くあれ”って事ですか……?」

 

 

 

刀也の言葉に三雲はそう聞き返す。刀也は隊長としての役割について三雲と話し合っていた。内容は隊長としての心構えについて。“隊長は部隊の精神的支柱であるべし”と言う刀也の言葉を三雲はそう解釈したのだった。

 

いつもと違い真面目トーンである刀也と、アフトクラトル襲撃後刀也に毒された三雲とでは、こういった会話の相性はばっちりでありツッコミ不在の今、三雲はさらに中二の精神を取り戻してしまうだろう。

 

 

少しだけワクワクしながら自らの考えを披露した三雲だったが「いや、違う」という刀也の答えにがっくりと項垂れる。

 

 

 

「“強くあれ”じゃなくて“強くなれ”って言ってるんだ。強くあれ…って注文よりよっぽど楽な目標だろ?……というかおまえはその点、すでに合格ライン超えてるしな」

 

 

刀也に褒められて一転、「いやぁえへへ」と照れる三雲。実にわかりやすい反応に刀也は嘆息して言葉を続けた。

 

 

「例え強くあったとしても、実際に強くなければそれは“強がり”に過ぎん。本当は弱いのに…それを自覚してるのに………強がって、大切なものを喪う。そうなってしまえば時すでに遅し、だ。……いくら後悔してもあいつらは戻って来ないし、いくら反省しても後悔が恐怖となって身を苛む。それが強くもないのに強がった馬鹿の末路さ」

 

 

続く刀也の言葉を三雲はやはり重く受け止める。“強くもないのに強がれば悲惨な未来が待っている”と。そんな未来を回避するために“強くなれ”と言っているのだと理解した三雲は、やけに実感のこもった話について刀也に尋ねる。

 

 

 

「その話…もしかして夜凪さんの……?」

 

 

「ああ、実話だな。詳しくは話せない事になってるが、ボーダーでも噂好きの奴なら知ってるかもな」

 

 

「それって守秘義務…緘口令ってやつですか?」

 

 

「そうだな、実際に知ってるのは上層部とアレを生き残ったおれともう1人だけ…まあ、都市伝説程度には噂になってるけど」

 

 

 

思ったよりも重い内容に三雲は口をつぐむ。すると刀也は押し黙った三雲を見て雰囲気を一変し「話はここまでだな」と打ち切る。

 

 

「さ、小南のカレーが待ってるぞ」

 

 

☆★

 

 

 

「お、意外といけるな」

 

 

「小南、カレー作るのは上手いからな」

 

 

小南の作ったカレーを口にしてクロウが感想を言うと、刀也が小馬鹿にするように補完する。

 

 

「カレー“は”って何よ!そういうヨナさんは何が作れるわけ?」

 

 

「おれにはレイジ直伝の肉野菜炒めがあるし。あと目玉焼きとか…おれ半熟の目玉焼き作るのは超上手ぇよ!?」

 

 

「おいおい…それ料理かよ……?」

 

 

「おやクロウ、あんたは料理できんのかい?」

 

 

「まぁな…元いたところじゃ仲間たちと一緒に作ってたもんだ。興が乗れば独自の料理なんてのも作ったし、ちょいと手順を間違えただけで珍妙な料理ができたりしてな。なかなか奥が深いもんだぜ、料理ってのは」

 

 

「ほう、どうやらクロウは料理の心得があるようだな。しかし、そういう意味で言えば、毎回同じ味を提供できる小南のカレーは素晴らしいものでもあるな」

 

 

「レイジさん、それって手順を固定してるだけって意味だよね?」

 

 

「ちょ、宇佐美!?いい感じにまとまったんだから蒸し返さないでよ!」

 

 

「あはは…でも美味しいですよ、小南先輩のカレー……僕は好きです」

 

 

「おれもオサムと同じだ。小南先輩のカレーは美味い」

 

 

「おさむやゆうまの言うとおりだ。こなみのカレーは美味い。らいじん丸もお気に入りだと言っている」

 

 

そんな談笑を交えながら、夕食は終わり。

 

 

 

「じゃあ、またそのうち来るわ。今日はありがとな」

 

 

ピッ、と指を立ててカッコつけながら刀也は別れの挨拶を切り出す。

 

「いえ、こちらも助かりました」と返事をした三雲。それを皮切りに玉狛支部のメンバーがこぞって挨拶をする。それが一通り終わったあと、クロウもまた別れを告げて、

 

 

「それじゃあな、木崎…これから世話になるぜ。それと…今度来た時はもう1人も紹介してくれよな」

 

 

不意の発言に玉狛のメンバーが凍りつく。クロウが言うこの場にいない“もう1人”とは支部長である林藤でもなければバイトに行った烏丸でもない。

支部の奥の部屋に押し込まれて夜凪隊の眼前に顔を出す事がなかった、ある人物についてだった。

 

クロウはその人物について知らないが、自分たちを観察するような視線には気付いていた。気配の察知ーーーリィンには及ばないが、クロウもそれを体得しているのだ。

 

 

「む、さすがだなクロウ……まさかヒュー…もがっ!?」

 

 

「こらっ!黙ってなさい陽太郎!」

 

 

気取って答えを告げようとした陽太郎の口を塞いで小南が黙らせる。そういった反応に刀也は「ははーん」とニヤついて“合点がいった”とでも言うように「なるほどな」と見透かしたように玉狛メンバーを見やった。

 

 

「アフトクラトルの捕虜か。道理で本部で噂を聞かないと思った」

 

 

先の第二次大規模侵攻の折、この世界に攻め入った人型近界民6人の内、1人は同じ近界民に殺され、もう1人は見捨てられ捕虜になったという話だ。

本部において様々な情報源を持つ刀也は、アフトクラトルの捕虜について噂を聞かない事に疑問を抱いていた。しかし、それが玉狛支部にいたと言うなら納得だ。玉狛はボーダーきっての親近界民派…本部に軟禁し暗殺のリスクを抱えるより正しい選択だろう。

 

 

 

「ちょっ!なんで知ってるわけ!?」

 

 

「正解かよ……刀也、おまえのカンも伊達じゃないな」

 

 

「ま、おれは直感が鋭いからね」

 

 

 

小南の反応に確信を得たクロウが刀也の観察眼を褒めて、刀也はわざとらしく胸を張る。その様子に玉狛の面々はため息を吐きながら、代表するようにして木崎が一歩前に出た。

 

 

「刀也、クロウ、沖田…わかっているとは思うがこの事は……」

 

 

「ああ、言わねーよ」

 

 

「本部に了承ももらってんだろ?だったらいたずらに喧伝しても得はないわな」

 

 

 

 

「うむ、これはごくひじこーなのだ。よろしく頼むぞ、トーヤ、クロー、ハル姉」

 

 

 

陽太郎の念押しに「了解だ」と笑ったクロウと刀也、陽子は帰路につくのだった。

 

 

 

 

 




という感じの『夜凪隊の一日』でした。やっとこさ刀也の過去にちょい触れた!って感じですね。詳しくはまた後の話にて。


モチベさんが仕事をしないのよ。そりゃデータが2回も飛べばストライキ起こすのもわかるけどさぁ。
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