ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに 作:クラウンドッグ
二宮匡貴が撃破された。衝撃的な展開ではあるが、二宮隊の面々に焦りはない。勝つ事もあれば負ける事もあるのが世の常だ。強いという事実はただ負け難くなるだけに過ぎず、力の差がそのまま勝敗を分けるわけではない。
二宮隊はそれを理解しているのだ。しかし、まだ負けが決まったわけではない。二宮隊の隊員である犬飼と辻はボーダーでも数少ないマスタークラスの使い手だ。そんじょそこらの相手に遅れはとらない。
刀也に真っ二つにされた二宮は隊室の緊急脱出用のベッドに投げ出されて、悪態をつく代わりに舌打ちする。まんまとやられた。完全に自分が狩る側だと思っていた隙を突かれた。しかし、そんな事は後だ。まだランク戦は終わっていない。
二宮は立ち上がると氷見の横に向かい、ヘッドセットを装着する。
「すまない、落とされた」
素直に謝罪し、戦況を聞き出すと自分が落とされてから変わりはないようだった。
二宮は隊室から指示を出す。例え自分がやられたとしても二宮隊はまだ負けてないのだ。負けてなどやるものか、と静かながら闘志を燃やして。
☆★
「…刀也の秘策は見事に嵌ったみてぇだな」
空を翔ける緊急脱出の光を見て、クロウは刀也の秘策の成功を確信した。一瞬遅れた二宮撃破の報せが入り、自分も負けてはいられないとレイガストのグリップを力強く握り込む。
クロウと南沢の戦いはクロウが優勢であった。近接戦では当然のように上回り、グラスホッパーで離脱しようとすれば銃トリガーで蜂の巣にする。
クロウのログを2万回見たと豪語していた南沢だが、現物は記録よりもずっと強く感じるようで、味方に救援を要請していた。
それに応えたのが隠岐と水上で、2人はこちらに向かって来ていると言うが、間に合うかどうかは怪しい所だ。
しかし、状況が南沢を味方していた。付近にいた犬飼がクロウを攻撃し始めたのだ。おそらくは二宮というエースを失った二宮隊は強敵同士を食い合わせる作戦に切り替えたのだろう。現に辻は生駒をこちらの場所に誘うような戦い方をしているという話だ。
クロウも二宮隊の動きについては陽子を通して把握していた。おそらくは自分を中心に乱戦を始めるつもりなのだろう。しかも間が悪い事に自分が内側にいるのだ。攻撃に晒されやすく、逃げにくい。囲いができる前にさっさと立ち位置を変えたい所だが、それを南沢と犬飼がさせてくれず、どちらかを倒そうとすれば必ず邪魔をされる。
突破しようと思えば可能だが、多少のリスクは背負わないといけない。
「辻、生駒は抑えに行く。そっちはなんとか頼むわ」
刀也は辻がこちら側に引っ張って来ている生駒を止めにいくようだ。そうなるとこちらで生駒以外の生駒隊メンバーが揃ってしまう事になるが、刀也はエースである生駒を止める方に価値を見出したようだった。
クロウは「了解だ」と言って考えを巡らせる。辻が生駒をこちらに引っ張って来ているのは、ここで乱戦を起こすため……もっと言うなら点を取りやすい状況を作るためだ。だが辻と生駒が足止めされれば、こちらで乱戦は起きにくくなる。
「だったら犬飼はそっちに行くんじゃねえか?」
となれば、生駒隊のほとんどが揃うこちら側より辻と合流可能で、生駒と刀也という駒を潰し合わせる事ができる方に行くと考えるのが自然だ。
通信越しに刀也は「あー、そっか、そうだよな」と納得する。これで作戦を改めるかと思ったが、刀也の考えは変わらず「そっちはそっちで頼む!おまえならできるさ!」と激励を貰うクロウだった。
☆★
「おまえならできるさ!」と言って通信を終えた刀也。問題は犬飼がどのタイミングで動くかだと考えていた。二宮を倒した刀也はすでに辻、生駒のいる方角へ向かっている。今回バッグワームはセットしてきていないため、その動きはレーダーで一目瞭然だ。犬飼が早い段階で動き始めてくれれば、その分クロウと南沢の一対一の時間が長くなり、おそらくは点が取れるだろう。しかしその逆……生駒隊が合流してからその場を離れるとなればクロウは数的不利のまま次のバトルに移る事になる。
「あー、人が足りねぇ」
せめてもう1人いれば違った展開を作れたかもしれないが、今はぼやいている場合ではない。
レーダーを見るとすでに犬飼が動き始めていた。さすがの判断の速さだと称賛する。辻、生駒との元々の距離は犬飼の方が近い。しかし機動力においては刀也が優っているため、おそらく到着はほぼ同時になるはずだ。
地を蹴って加速。減速してきた所でテレポーターを使用…さらに距離を稼ぐ。また地を蹴って加速……その繰り返しを何度かすると、目的の場所に到着した。
「旋空ーーー」
目測の距離はおよそ100m。生駒が構えた先にいたのは辻だった。すでに体勢を崩しており、一瞬の後に両断されるのが直感が囁かずとも理解できた。
「ーーー孤月」
刹那の斬撃が辻を真っ二つにする。No.6攻撃手、生駒達人が放つ旋空は本人の名を冠して“生駒旋空”と呼ばれる。旋空という孤月のオプショントリガーは斬撃を拡張するという触れ込みのトリガーだ。その射程は効果時間と反比例する。つまり発動時間が短ければ短いほど旋空は長い距離を斬り裂く事ができるわけだ。
生駒のそれは、発動時間は0.2秒にして距離およそ40m。普通の孤月使いの旋空が発動時間1秒の距離15mと比較すると、その凶悪さは一目瞭然だ。この生駒旋空をもって生駒達人はボーダー随一の旋空使いとされている。
ちなみに刀也は旋空使いとしてはボーダー2位で、発動時間0.5秒の距離25mだ。
それが、刀也は気に喰わないのだ。
「旋空ーーー」
テレポーターで一気に距離を詰めて、互いの間合いに入る。そう言って、刀也が振り切るまでに生駒は「旋空孤月」と孤月を構えてから振り切っていた。
しかし、2人の旋空孤月は互いのトリオン体を薄く切ったのみ。もう一度旋空合戦と洒落込もうとした2人だったが、視界の端に映った犬飼が銃を構えていた。
刀也と犬飼に向かってばら撒かれる銃弾を2人はシールドを張って防ぎ、距離を取る。
攻撃手たる辻がいない今、銃手の犬飼が単独で点を取るのは厳しい。しかし犬飼はサブウェポンとしてスコーピオンを装備していたはずだ。20〜30mは銃手の距離だが、自分はそれを覆せるだけの
そう考えた刀也は犬飼に接近するが、生駒も考えは同じようで犬飼との距離を詰めていた。
そこで刀也の視線が自らの背後を映している事を理解した犬飼は、二宮がやられた時を思い出して、そこに向けて銃弾を置く。何もない、誰もいないはずの空間が揺らぎ、そこに刀也が現れた。犬飼のアステロイドは刀也に無数の風穴を開けるが、刀也の構えに一寸の淀みなく。
「「旋空ーーー」」
前後から同じ音が発される。刀也にしても生駒にしても、犬飼を相手ごと旋空で叩き斬るつもりなのだ。どの道生き残るルートのない犬飼は、自分のアクションが間違っていなかった事を信じてーーーー
「「ーーー孤月」」
犬飼澄晴ーーーー緊急脱出。
「ああ…くっそ……」
その声は、刀也の口から紡がれてーーーー
夜凪刀也ーーーー緊急脱出。
横一文字の斬撃は犬飼の首を断っていた。縦一文字の斬撃は犬飼の首から股下までを切り裂き、刀也さえもを両断していた。
勝ったのは、生駒達人だった。
☆★
「辻隊員に続き犬飼隊員、夜凪隊長が緊急脱出!生き残ったのは生駒隊長です。が、ポイントは二宮隊、夜凪隊に一点ずつ……犬飼隊員と夜凪隊長の相討ちという形になります」
「おー、こりゃ犬飼は大金星だな。つーかヨナさんがまたわけわかんねぇプライドを発揮したか?」
実況席で月見が状況を説明し、太刀川が夜凪離脱について声を出す。
本来負けるはずのない相手に負けてしまった刀也の有り様を“変なプライドのせい”だと言及したのだ。
二宮を瞬殺できるほどの策を巡らせた刀也が、何の考えもなしに生駒と旋空合戦をしたためだ。“旋空で負けたくない”というプライドが真正面からの勝負に発展し、それが敗北に繋がったのだ。そこには二宮を倒した……要は“仕事はした”という油断もあったかもしれない。
「これでステージには落とされた南沢隊員以外の生駒隊とクロウ隊員のみが残されている状況になりました。生駒隊が数的有利をもっていますが、クロウ隊員の実力はROUND2で知れた通りです。果たしてどうなるかは未だわかりません」
普通に考えれば生駒隊が有利だ。しかしクロウの実力には目を見張るものがある。そう言ったのは東だ。近接戦においてはすでにボーダートップクラスとも渡り合えるし、銃撃戦に持ち込まれても十分勝てるだけの力はある。その上狙撃技術もマスタークラス以上に冴えている。
しかし、援護がない以上はおそらく負けてしまうだろう……というのが見解ではあるのだが、そこまでは言わない。
「早い展開ですが、すでに終盤に入りつつあります。ここでクロウ隊員と水上隊員が交戦開始。一対一ならクロウ隊員に分があるように見えますが、付近には隠岐隊員も潜んでいます。これはクロウ隊員には厳しい状況に見えますが…」
☆★
「アーステロイド」
「こいつが水上か」とクロウはひとりごちる。すでに南沢は撃破していた。辻、犬飼に続き刀也まで緊急脱出し、残るは自分と生駒隊のみ。
水上は優秀な射手だが、二宮のように単独で点を稼げるほどの能力は持たない…というのが刀也から聞いていた水上の評価だった。比較対象が強過ぎるというのもあるが、確かにポイントゲッターというより仕事人という印象を受ける。
ここで姿を現したのは、クロウに勝てると思ったからではなく部隊にとっての最悪を避けるためだ。生駒隊にとっての最悪はクロウを見失い、各個撃破される事だ。クロウにはそれができる狙撃があるし、だからこそこの場に縫い止めておきたいのだ。
水上が「アステロイド」と言って放ったのはメテオラだと瞬時に理解したクロウは二丁拳銃に持ち替えて撃ち落とす。トリオンが炸裂し轟音と共に火炎が爆ぜるも、それに構わず続けて引き金を引く。
水上はメテオラを撃ち落とされた事に驚きつつも続く銃撃をシールドで防ぐ。トリオンの差があるせいか、シールドにはすぐにヒビが入ってしまう。サブのシールドを起動して全防御に移ろうかとも考えたが、そうしてしまえばおそらくクロウは銃撃をやめて接近戦を仕掛けてくるだろうと見抜いた。射手は近づかれてはお終いだ。
ゆえに、反撃。
「アステロイド」と言ってハウンドを放つ。さすがにハウンドの弾速だと撃ち落とせないのか、クロウは距離をとって弾を躱そうとするが、生憎それはトリオンを自動追跡する追尾弾。避けても追ってくるハウンドにクロウはシールドで対応する。
それは二丁拳銃が一丁に変わった事を意味し、水上は反撃の機を掴んだとばりに今度は本当にアステロイドを撃ってきた。その間にシールドを割られていくつかの弾丸が水上のトリオン体を穿つが、いずれも急所ではない。
「スラスター、オン」
拳銃が瞬く間にレイガストに変化したかと思うと、息吐く暇もなくスラスターで加速したクロウが肉薄する。撃ち放ったアステロイドはレイガストに弾かれ消えてしまった。
誘われてしまったのか、と水上は思考する。メテオラならレイガストを割られる恐れがある。ハウンドなら視線誘導で防御を躱されてしまうかもしれない。だが直線のアステロイドなら?その答えが今の状況だ。
スラスターでのシールドチャージを水上はシールドで受け止める。クロウの左手には拳銃が握られており、それは見当違いな方向に銃口が向けられていたが放たれた弾丸は緩やかなカーブを描いて水上に迫ってきた。
「ハウンドかい」と毒づきながらもそれをシールドで防いだところで自らの不覚に気づく。
クロウはレイガストをブレードモードに変形させるとシールドの隙間を縫って斬撃を叩き込んだ。一撃目で両脚を断ち、二撃目で首を断つ。水上の緊急脱出は必然だった。
「旋空ーーーー」
跳躍。
「孤月」の声と共に拡張された斬撃は回避するクロウの左足を切断した。舌打ちしたクロウは孤月を振り切った姿勢の生駒を視認した。生駒が来る前に身を潜めるはずが、思った以上に水上に手こずってしまったせいで生駒に捕捉されていた。
生駒との距離はおよそ40mほど。生駒旋空が最も威力を発揮する距離だ。クロウの選択肢は接近戦しかありえなかった。今の距離では銃トリガーは火力不足だし、距離をとって狙撃をしようもんならその隙を隠岐に突かれるだろう。
クロウは左手にレイガスト、右手にハウンドのまま生駒との距離を詰める。ハウンドを撃ちながら走る。生駒が孤月を防御に使ってくれるなら儲け物だったが、そう上手くはいかない。
生駒はシールドでハウンドを防ぎながら旋空の構えに移る。一瞬の後に斬撃を解放する、が横殴りの旋空孤月はクロウが深く身を沈めた事で回避される。
クロウの距離に入るまで、あと3回は旋空孤月が撃てる。超人的な回避もそう何回もできないだろう。生駒は続く二閃目は袈裟斬りするように旋空孤月を振るう。
先程の横殴りの斬撃と打って変わって今度は縦の攻撃を、クロウは長躯を翻す事でひらりと躱す。空中でスラスターを起動し、生駒との距離を一気に詰めるつもりだ。
しかしそれは生駒にとっても都合の良いアクションだ。スラスターでは急に体勢変更もできない。旋空孤月の的になるだけだ。再びの横一閃の斬撃。地を這うようにスラスターで進むクロウを一刀両断するはずの旋空は、いとも容易く避けられてしまう。
生駒の視界からはクロウが消えたようにさえ感じられた。それほど急激な方向転換があったのだ。馬鹿な、すでに片足はないのにどうやってそんな動きをしているのだ。そんな疑問はクロウが消え去った地点にあったグラスホッパーが氷解させた。
グラスホッパーを踏みつけてさらに加速しながら前方中空に躍り出たクロウはスラスターの勢いそのまま生駒をぶった切る。生駒もグラスホッパーは予想外だったようで、それがクロウの挙動を読み間違えた原因となり敗北した。
これであとは隠岐を探し出して撃破するだけ……そんな事を考えたクロウだったが。
しかし、B級上位をキープする生駒隊の底力はそんなものではなかったのだ。
銃声が鳴り響き、クロウの頭に穴が空く。
「…やられたな」
振り向いたクロウが見たのは、生駒旋空によって通った射線の向こうでライトニングを構えた隠岐だった。
距離はわずか20m……狙撃手のセオリーから離れた動きゆえ、見逃してしまった隠岐の…否、生駒隊の乾坤一擲の一発だった。
クロウ・アームブラストーーー緊急脱出。
☆★
「ここでクロウ隊員が緊急脱出!ROUND3夜の部、試合終了です。残ったのは生駒隊の隠岐隊員…生存点が加算されます。しかし最終戦績は5対4対1で夜凪隊が逃げ切りました」
ギリギリの点差で夜凪隊は勝利した。二宮、犬飼、南沢、水上、生駒を撃破し5点。生駒隊は辻と刀也の撃破で2点に生存点を加えて4点。一点差での勝利と相成った。
月見が「ここでこの試合の総評をお願いします」と太刀川と東にコメントを求める。
「まぁ1番でかいのは二宮が真っ先に落とされた事だよな」
と言い切った太刀川は続ける。
「あれで二宮隊はいっきに得点力を失ったな。辻や犬飼も確かにできる方だが、単独でヨナさんやクロウには勝てんだろ。生駒隊には狙撃手がいるし常に背後を気にした状態じゃ勝てる相手にも勝てない。…つまり合流するしか手は残されてなかったわけだが、それも辻が落とされた事でアウト。ただヨナさんのテレポート先を読んで1得点を挙げた犬飼は上手かったな」
「確かに二宮隊長が緊急脱出したのは衝撃的でした。夜凪隊長の見事な技が決まりましたね。しかし、その夜凪隊長も中盤で脱落してしまいました」
「ありゃヨナさんの悪い癖が出たな。生駒相手に旋空で勝負しようなんざ無謀にも程がある。二宮相手にしたみたいに“勝ち”に拘っておけば負ける事はなかっただろうに」
「確かに、あの場で夜凪が生駒隊長を撃破できずとも足止めしておけば結果は違ったものになったかもしれません。今回の生駒隊の勝因は狙撃手を切り札としてとっておいた事です。最後にクロウを撃破したのも隠岐でしたからね。彼はこの試合、あの一発しか撃っていません。だからクロウも位置を捕捉できていなかったんでしょう。夜凪が生き残っていれば、サイドエフェクトで隠岐の狙撃も回避できた可能性もありますが、そう言った意味でも中盤で勝負を仕掛けにいった夜凪の選択は英断とは言い難いでしょう」
太刀川に続き東にまでもが刀也の行動を責め立てる。要は「勝てる勝負をフイにしやがって何考えてんだ馬鹿野郎」という事である。しかも今回刀也は二宮対策でエスクードとテレポーターをトリガーにセットしていた。これらを駆使しておけば足止めや時間稼ぎは容易かったにも関わらず、旋空孤月で生駒と勝負しようとした事がそもそもの間違いなのだ。
「そして終盤ですが、生駒隊を単独で相手どったクロウ隊員でしたが惜しくも敗れました。これは先程、東隊長が仰った通り隠岐隊員が最後まで息を潜めていた事がキーポイントになるでしょう」
「今回、クロウは隠岐を除く生駒隊のメンバー全てを相手にして勝利しています。撃破された中でも特にいい仕事をしたのは水上でしょう。彼の時間稼ぎがなけれな生駒隊はクロウを見失った可能性があります。そうなった場合は各個撃破されていた公算が高いです」
実況席から見てもクロウの強さは際立っていた。生駒旋空の間合いから距離を詰めて生駒を撃破した事もそうだが、常に隠岐の狙撃に備えながら南沢や水上を相手取った事も大きい。最後は生駒隊の連携の前に破れ去ってしまったわけだが、得点面で見ても今試合のMVPはクロウだと言えた。
そこで太刀川が何を言いたそうにしていたが「ふーむ」と唸るだけで黙る。太刀川の体感としては、この試合のクロウより自分と戦った時の方が強い気がしたのだ。「どこか後手に回っている……いや、少し違う。あれは指示待ちか」と誰にも聞こえないように一人で納得する。
「この試合の決定打となったポイントは3つ。二宮の早期撃破、夜凪の敗北、生駒隊の連携です。まず二宮が落ちた事で二宮隊、生駒隊は作戦の変更を余儀なくされたでしょう。2点目、夜凪が生駒に負けた事でクロウが1人で生駒隊を相手にする展開になりました。3点目、今回の生駒隊は良く連携が取れていました。南沢と水上の時間稼ぎに生駒の射線を開けるための旋空、隠岐の潜伏……どれか1つが欠けていればこの結果には繋がらなかったでしょう」
「東隊長から総評を頂いた所で、昼の部の結果と併せて順位が変動します。二宮隊、生駒隊は現在の順位のまま不動、夜凪隊は4位にアップしました。加えてROUND4の組み合わせも決定しました。昼の部は2位影浦隊、3位生駒隊、4位夜凪隊、5位に上がってきた玉狛第二の四つ巴。夜の部は1位二宮隊、6位王子隊、7位東隊の三つ巴となります」
☆★
「すまねえな、最後は落とされちまった」
「いや、あたしの責任だよ。隠岐を見失っていた。アラートはするつもりだったんだけどねぇ」
「いい。今回のはおれが悪い」
その頃、夜凪隊では簡易的な反省会が行われるはずだった。まずクロウが落とされた事に謝罪したが、同じく隠岐を見失っていた陽子も自分の責任だという。しかし刀也はこの試合で生存点が取れなかったのは自分のせいだと言ったきり押し黙る。
いつもは“切り替えが大事だ”と反省点をぺらぺら語る刀也だが、今回は黙ってしまっている。
クロウはもとより、陽子も豪快ながら人の機微にも敏い。刀也の心情を読み取っている。いま刀也の心中にあるのはROUND3の反省などではない。生駒に負けてしまった悔しさだけだ。
これでは反省会どころではないため、クロウは次のROUNDの組み合わせが決まった事を告げる。
「刀也、陽子。次の組み合わせが決まったぜ。……また、生駒隊が相手だ」
陽子は「ハッ」と大仰に笑う。
「いいじゃないか、早速リベンジの機会ってわけだね」
刀也もようやく顔を上げて、少しだけいつもの調子を取り戻し薄く笑む。
「なるほど、こりゃ生駒隊対策をとらにゃいかんな」
こうしてB級ランク戦三日目の夜は更けていくのだった。
月見さんのキャラがあんまりわからないでござる。
ある程度親しい人には砕けた口調で話すけど、公の場であったり上司との会話ならこんな喋り方になるんじゃね?という考えでした。