ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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B級ランク戦ROUND3が終わったら、原作者葦原先生が読者に媚びすぎてしまったと認めたアレが登場します……!


最後の切り札

B級ランク戦ROUND3が終わり翌日、クロウが目を覚ましたのはドアの開閉音でだった。しかしそれは自室のものではなくその隣に位置する隊室のいずれかのドアによるものだ。

 

気配を探ってみると、訓練室に刀也が入って行った事がわかった。

“ランク戦の翌日は思いっきり休む!”と言い休日宣言している刀也だが、これではいつもと同じ朝の鍛錬だ。おそらく昨日、生駒に敗れたのが効いているのだろう、と判断したクロウは再び眠りにつく。

 

 

夜凪刀也は未だリィン・シュバルツァーには及ばない。

からかい甲斐のある後輩でもなければ、甘ったれた悪友でもない。肩を並べて戦うには役者不足だ。

成長してほしいと思った。自分と肩を並べて戦えるくらいには。仲間だと、対等な関係だと言って、誰もが納得してくれるように。

だからクロウはあくまで“クロウ・アームブラストの手の届く範囲”でしか本気を出さない。作戦にしろ状況判断にしろ、刀也に決断させている。これはⅦ組の重心として皆をまとめ上げてきたリィンと同じ道を辿らせるためだ。

そんな事ではいけないとクロウもわかっている。リィン・シュバルツァーと夜凪刀也は別の人間だから、同じ道を辿らせる必要はないのだ。同じ経験をさせて、リィンのコピーにしてはいけないのだ。

だけど、刀也にどこかリィンの影を追ってしまう。リィンの弟子で八葉一刀流の使い手という事もあるだろう。きっとそれ以上に刀也がリィンの背中を追っている事が大きい。

 

それが悪い側面を見せたのが昨日のランク戦だ。刀也は剣技で負ける事をひどく嫌う。1つの技の完成度で敗北する事を恐れているのだ。それが生駒と旋空で勝負した理由のはずだ。

剣力で劣っているのはいい。だけど剣技での敗北は許されない。何故なら自分はリィン・シュバルツァーの弟子だから。という強迫観念。譲れない一線……プライドというやつなのだろう。

 

夜凪刀也の目的は…というか、クロウと刀也の目的は“ゼムリア大陸にⅦ"sギア(リィン)と共に帰る事”である。刀也はそれを達成するためならば、どんな事でもやってのける…というスタンスなのだが、先のような剣技に拘って勝利を逃す事もある。矛盾しているのだ。“こうすべき”とわかっているのに“こうしたい”に傾き動いて為すべき事を成し遂げられない状態になってしまっている。

“こうすべき”というのは当然、勝利を至上として動く事であり“こうしたい”というのはリィンから授かった剣技で勝ちたいという願いである。刀也も頭では優先順位はわかっている。だけど師の教えも大切にしたい事も確かなのだ。

 

“こうしたい”で“こうすべき”を為せるのがベストなのだが、このボーダーという組織はそう簡単ではない。“こうしたい”を捨ててでも“こうすべき”に傾倒させる方が刀也としても後悔せずに済む。

 

 

「そろそろ先輩がおせっかいを焼くべきなのかもな…」

 

 

眠る間際、クロウはそう呟いたのだった。

 

 

 

☆★

 

 

「へぇ」と思わず声に出た。眼前にはトリオン兵ラッドがいる。ただしガラス板越しであり、件のラッドは通常のそれとは違い黒く染められており、おまけにどこかで見た事のあるような角を生やしていた。

 

 

「陽子、こいつは?」

 

 

「アフトクラトルの人型近界民の死体から角をラッドに付け替えたものさ」

 

 

アフトクラトルによる大規模侵攻の際、敵方の人型近界民には死者が出た。ボーダーはそれを回収し研究していたのだが、その過程でトリガー角ーーートリオン受容体に、元の人型近界民の記憶が残っていた事が判明した。これはトリガー角が脳と一体化していたものと考えられている。

ならば、と思いトリガー角をラッドに付け替えてトリオンを注入したら、人型近界民エネドラの記憶を有したトリオン兵が完成した。

 

 

「今日はその実験日だったのさ」

 

 

「開発室のやつらが少し時間を前倒しにしたみたいだけどね」と陽子は付け加えた。

 

クロウは陽子に連れられて開発室に来ていた。理由としてはラッドのエネドラの実験がある日だったためである。本当なら目覚めの時間に間に合うはずだったのだが、開発室の連中が実験を前倒しにしたせいで少し遅れてしまっていた。

この話は本来陽子には関係のない話なのだが、開発室を去った後も陽子は雷蔵などと仲良くしていたため情報が転がり込んできたのだ。刀也も連れてくるつもりだったのだが、誘いはすげなく断られてしまっている。

 

 

「ん?なんだ来とったのか」

 

 

そこに鬼怒田が現れる。エネドラッドへの質問を終えたようだが、どうにも表情は優れなかった。

 

 

「鬼怒田さん、あの人型近界民から情報は得られたと聞いてるんだがねぇ…どうしたんですかい?」

 

 

「それが問題なのだ。奴は素直すぎる……こうもあっさり情報を渡されては信用ならんのだ」

 

 

「確かあいつって味方に殺されたんだよな。なら恨みがあるから知ってる事を話したって線はねぇか?」

 

 

鬼怒田の言葉にクロウが返す。裏切られたんだから忠義を尽くす必要はないはずでは?という推測だが、鬼怒田は「そうかも知れんが」とのみ返す。

 

 

「夜凪は来とらんのか?こういう時にはあやつの直感が頼りになるのだが……まあいい。今は夜凪より適任がおる」

 

 

夜凪刀也のサイドエフェクト『超直感』は言葉の真偽を確かめるのに有用だ。しかし鬼怒田はそんな刀也よりも適任がいると言った。不思議そうな表情で察したのか、鬼怒田はその答えを言う。

 

 

「玉狛の空閑だ。あやつのサイドエフェクトは『嘘を見抜く』というものらしい。どれだけあてになるのかは知らんがな」

 

 

ぶっきらぼうに言い放つと、ついでに遊真がボーダー本部に向かってきている事まで告げる。それにはアフトクラトルの捕虜も一緒のようで、そちらからも情報が得られないか話してみるという事らしい。

そろそろ到着するという事で鬼怒田も会議室に向かおうとした所をクロウが呼び止めた。視線をエネドラッドにやって「あいつについて2〜3点聞きたい事があるんだが」と言うと、鬼怒田は腕時計を確認して3分のみの質問が許可された。

 

 

「あのラッドは黒いトリガー角を付けてるが、あれがないとエネドラの記憶やらはトリオン兵に移し替える事はできないのか?」

 

 

「いや、そんな事はない。トリガー角……正式名称はトリオン受容体というらしいが、それからデータは吸い出している。トリガー角がなくてもそのデータさえ入力すればトリオン兵にエネドラの記憶を与える事は可能だ」

 

 

クロウは鬼怒田の答えに「なるほどな」と返す。聞きたい事はすべて鬼怒田が答えてくれていた。感謝を告げると、鬼怒田は「何か企んどるんじゃなかろうな?」と顔を近づけてきた。

 

 

「は、そうかもな。でもボーダーにとって悪くない謀だ」

 

 

クロウのいかにも怪しい答えを聞くと「ふん」と鼻を鳴らして鬼怒田は会議室に向かって行く。

 

 

「こいつは切り札になるかもしれねぇな……刀也にも話すとするか」

 

 

鬼怒田の背中を見送ると、クロウはそうひとりごちるのだった。

 

 

☆★

 

 

鬼怒田ら上層部が玉狛から運ばれてきたアフトクラトルの捕虜と話している間に刀也を開発室に連れて行こうと考えたクロウは隊室に戻り、そこから訓練室に顔を出した。

 

 

「…違う。まだ鋭く……いや、タイミングが重要で……そうか、タイミングなら抜刀の瞬間で……残月なら……」

 

 

訓練室では刀也がぶつぶつ言いながら孤月を握っている姿が見れた。名前を呼ぶとハッとしたようにこちらに顔を向ける。

 

 

「クロウか。どうかしたか?」

 

 

「ああ、実はさっき開発室に行ってきたんだがーーー……」

 

 

 

そこでクロウは自分が開発室で見た光景について伝える。エネドラの記憶データの事や、それを別の器に移し替える事ができる事について。

そして、そこから発展してそれが自分たちの悪巧みの切り札になるかもしれないという事まで。

 

 

 

刀也はクロウの話を聞くと「なるほど」と何度か呟いて理解と納得を示す。

 

 

「確かにそれなら切り札になるな。今まで準備してきたやつじゃ少し弱いと思ってたけど、言ってる事が実現できればかなり強いカードになる」

 

 

クロウは「そうだろ?」と言いながら、刀也も気づいたそもそもの難点について言及する。

 

 

「だが、どうやって上層部の連中を説得する?自分で言っておいてなんだが、相当難しいと思うぜ」

 

 

刀也も“実現できれば”と言っているし、クロウとしても同意見。

それだけ難易度が高いのだ……

 

 

 

エネドラを部隊に迎え入れるという事は。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

クロウが刀也と共に開発室に向かっていると、同じように遊真と三雲と菊地原を連れた鬼怒田に出会う。軽く挨拶を交わして開発室を目指す。

ほどなくして再びラッドにトリオンが注入されてエネドラの人格が目覚める。

 

鬼怒田は再びエネドラッドに質問を投げかけ、遊真がそれを嘘か真か見極める。

エネドラッド曰く、アフトクラトルは4つの家が領地を争う国だそうだ。そのうちの1つの領主が遠征隊のリーダーだったハイレイン。そのハイレインが自ら、しかも黒トリガー使い達を率いてこっちの世界に来たのは、アフトクラトルの“神”……アフトクラトルという国を支えるマザートリガー*1と一体化した生贄がもうすぐ死にそうだからという話だ。次の神候補を探すために遠征をしたのだという。

その神が死ぬと国そのものが死滅する。風が吹かず、雨も降らず、夜も明けない。

神に選ばれた人物のトリオンの大小により星の規模も変わるため、神は厳選しなければならないのだ。そうして神を厳選してきたからこそアフトクラトルは“神の国”と呼ばれるようになったという事だった。

 

エネドラッドはさらに「攫われた人たちを取り返しに行くならアフトクラトルまで道案内する」とまで言う。

尋問に対して協力的すぎるエネドラッドに疑念を抱いた鬼怒田が「何が狙いだ?」と問いかけると、

 

 

「説明するまでもねえだろ。オレを裏切って殺した連中をぶっ殺すためだ」

 

 

そう語るエネドラッドだったが、そこで遊真のサイドエフェクトが反応する。遊真は「全部じゃないけど部分的にウソだ。何か他にも目的がある」と見破った。

 

尋問はひとまずこれで終わりとなる。しかしすべての質問が終わったわけではなく、これからの協力も遊真は約束された。

 

 

それから遊真たちは開発室を出ていくがクロウと刀也は残ったまま。陽子は奥の方でお喋りに興じている。

 

 

「なんだ、まだ何かあるのか?」

 

 

そんな2人に鬼怒田が声をかける。クロウにしろ刀也にしろ、他の隊員と比べたら発想の種類が違う。クロウは近界民である事があるし、刀也は近界民を剣の師匠と仰いでいた。それと先刻のクロウの質問から何かしら嫌な予感は感じ取っていた鬼怒田である。

 

 

「鬼怒田さん、クロウから聞いたんですけどエネドラの記憶のデータ化はできてるんですよね?」

 

 

「そうだが……」

 

 

「それって、そのデータを載せたトリオン兵を作ればそれなりに有能な兵士をすぐにでも量産できるって事でよろしい?」

 

 

「ああ」と鬼怒田。この時点で嫌な予感はしていた。なんなら今のセリフから刀也らの考えが何であるかさえ感じ取っていた。

 

 

「しかも今からでも記憶は積み重ねる事ができるわけですよね。データのコピペが可能ならトリオン兵を一体作ってそれを優秀にすれば、後はコピペでそれと同等の兵士をわんさか産めますよね。……これってボーダーの戦力がかなり底上げされません?」

 

 

 

「だが、トリオン兵の運用は禁止されとる。知らんわけではあるまい」

 

 

鬼怒田の言う通り、ボーダーにおいてはトリオン兵の運用は禁止されている。第一次大規模侵攻で三門市が近界民に蹂躙された事は記憶に新しい。たった4年前の恐怖だ。そして近界民の尖兵であるトリオン兵こそが恐怖の象徴となっている。ゆえに、市民の恐怖を呼び起こすトリオン兵の運用は禁止されているのだ。

しかし、そんな事は些細な問題だとばかりにあっけらかんとした様子で刀也は語る。

 

 

「トリオン兵の造形を人型にすれば良いでしょう。見た目を人間っぽく着色すれば問題ないでしょう。ボーダー隊員のトリオン体は見た目の設定を変更できる……その応用で何とかなるレベルなんじゃないですか。それにエネドラも元は人型近界民だし、人の形をしたトリオン兵なら市民の恐怖を煽る事もなくなる」

 

 

刀也の論に一理あると鬼怒田は思ってしまった。今までトリオン兵を運用できなかったのはボーダーで禁止されているからで、人型のトリオン兵を運用してはどうか、という案も出ていたが、それよりは成長性のある中高生を隊員にした方が良いと結論が出ていた。しかしそれはトリオン兵にプログラムする戦闘技術が拙いものになると想定されていたからだ。現に侵略してきているトリオン兵はB級隊員でも撃破できる雑魚ばかり。戦闘用に生産されているモールモッドですら役不足だ。そんな中で人型のトリオン兵でいったいどれだけの活躍が期待できるだろうか?

しかし、トリオン兵に搭載する知能が戦闘を熟知しているものなら話は別だ。例えば太刀川の戦闘技術をそのままコピーしてトリオン兵に載せたとすれば、それだけで太刀川と同等の働きができるトリオン兵の完成だ。しかもトリオン兵を用意すればするだけ太刀川のような隊員を増殖させる事ができる。それに何より使い捨てが可能だ。

 

 

「なるほど、面白い試みになりそうだが……提案するからには何かあるんだろう?」

 

 

「そう、それだ」とクロウが飛びつく。

 

 

「その試作トリオン兵をウチの夜凪隊で運用させる事はできないか、と思ってな。これはその提案さ」

 

 

鬼怒田は鼻を大げさに鳴らすと「そんな所だろうと思ったわい」と言う。

この試みは成功すればボーダーという組織そのものが生まれ変わる可能性すら秘めている。発表そのものは後々になるだろうし、発表にこぎつけるまでは出来るだけ伏せておいた方が良い事案だ。ろくにデータもない内から表に出していては現隊員や市民からの非難は必至。しかし今の体制よりも良い結果を出せる証拠となるデータが揃えばそれで反対意見も押し切れる。

が、やはりそこまで持っていくための期間、情報の秘匿は遵守しなければならない。そうした意味でもこれを提案してきた夜凪隊は適任だと思えるのだ。

 

クロウや刀也はおそらくそこまで理解しながら提案してきている。クロウが切れ者である事もそうだが刀也も根付を尊敬していると日頃から言うだけはあり、情報の大切さを知っているようだった。

 

 

鬼怒田は逡巡するかのように一瞬だけ視線を逸らすと、やれやれとでも言いたげに「わかった」と続ける。

 

 

「この話はわしの方から上にもっていく」

 

 

この件について上層部の方で議題に上がる事が決定したのだった。

 

 

 

☆★

 

 

「とりあえずは第一関門突破…ってとこか」

 

 

鬼怒田との会話を終えて開発室を出た所でクロウが刀也に話しかける。刀也もほっとした様子で「そうだな」と息をついた。

 

 

「だが、ウチでエネドラ搭載のトリオン兵試作1号を運用するのは厳しいんじゃねえか?何か使える手はあるのかよ、刀也」

 

 

クロウも提案しておいて心苦しいのだが、ボーダー歴の浅い自分よりは刀也の方が上層部の譲歩を引き出せるのではないかと思って水を向けるが、刀也は唸るだけだ。

 

 

「まあ、案がねえなら何とか考えるしかねえよな」

 

 

「……ああ、できるだけ使いたくないが一応、手段はかんがえてる。でも実際、おれたちの悪巧みが成功すれば全部思いのままになるからな。それを成し遂げるための必要経費と考えれば……」

 

 

刀也が何を考えているか瞬時に理解したクロウは「まさか」と呟くが、それ以上の言及はしない。

立ち塞がる壁は未だ大きく、障害も多い。

だが、それを乗り越える事ができれば後は突き進むのみ。

 

 

計画はまだ、始動したばかりだ。

 

*1
近界の世界、夜の海を回る星を作っているトリガー。クイーントリガーとも呼ばれている。星そのものを形成するトリガーで、神はこれと一体化して寿命が尽きるまで星の面倒を見る役割




刀也とクロウがどんどん腹黒くなっていく(笑)
いやクロウは元からテロ集団のリーダーだったし、刀也も来るかどうかもわからないクロウを待ち続けたイカレポンチだから、地道な悪巧みなんて大好物に決まってるよね(偏見
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