ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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いきなり異世界に来たかと思ったら、一緒にいたはずのリィンは四年前に死んでた。

という絶望回からの第3話。

オリジナルキャラクターが登場します。


夜凪 刀也

「コーヒーでいいか?」

 

 

部屋に招き入れられたクロウはソファに腰を下ろし、そんなクロウに夜凪は尋ねる。

 

「ああ、ブラックで頼む」

 

 

 

「りょうかーい」と言って夜凪はインスタントのブラックコーヒーを作って持ってきてくれた。

 

 

夜凪刀也ーーーーリィンの弟子だった男。リィンの最期を看取った男。

そう紹介された男はまるで友人に会うような気安さで、緊張したクロウを迎え入れたのだった。

 

 

 

 

 

「おまえがクロウ・アームブラストか……、話は聞いてる。師父…リィンさんの言ってた戦友……いや、悪友だったかな」

 

 

クロウの向かいのソファに座ると、夜凪は記憶を探るようにゆっくりとまばたきをする。そして、ぼそりと呟く。「変わってないな」と。

 

 

聞き取れなかったクロウが「ん?」と聞き返すも夜凪は何でもないとかぶりを振って、背筋を正す。

 

 

「じゃあ、改めて。夜凪刀也。リィン・シュバルツァーの弟子で、その最期を看取ったのはおれで間違いないよ。聞きたいことがあるなら答える」

 

 

 

すでに上層部からクロウの話を聞いていた夜凪はそう切り出した。彼と一緒にいた時間は長くはなかったが、それでもこの世界においてリィンと最も親密に付き合ったのは夜凪だ。

 

 

「……リィンは本当に死んだのか?」

 

 

短い沈黙の後、クロウは尋ねる。

リィンの死が信じられない。相克の間は死に場所を探しているようでもあったが、仲間たちとの絆がリィンをこの世に留める決意を固めさせた。

《黒》の呪いに侵された時も「必ず戻る」と言って空に飛び立ったのだ。

 

そのリィンの死が信じられないのは、クロウにとって当然の事だった。

 

 

 

ーーーーーだが。

 

 

 

「亡くなったよ。……正確に言うならば黒トリガーになった。黒トリガーってのが何かは知ってるか?」

 

 

 

夜凪の言葉は、先ほどの忍田と名乗った男のものと同じだった。

 

 

 

黒トリガーとは、優れたトリオン能力を持つ者が、自身の生命と全トリオンを引き換えに造り出す規格外のトリガーの事だ。

黒トリガーは作った人間の人格や感性が強く反映されるため、適合者以外は起動する事もままならない兵器だ。

 

その話を初めて聞いた時は「まるで騎神のようだ」と内心で思ったものだ。

 

 

そして、リィンの遺した黒トリガーは好き嫌いが激し過ぎるようで、現在のボーダー隊員では起動が不可能だったらしい。そこにはこの夜凪も含まれるのだろう。

しかし、クロウならば起動できるのではないかとボーダー上層部は考えていた。そうなればボーダーの戦力は大幅にアップし、クロウはリィンの形見とも言える黒トリガーを得ることができる。まさに双方に利益のある取引だとは唐沢の言だ。

 

クロウは、リィンを喪った悲しみをいったん脇に置いて考えた。リィンがこの世界のために力を遺したのなら、自分がそれを使って正義の味方の真似事をするのも悪くはない、と。それがリィンの遺志を継ぐ事になるなら。それがリィンの遺した黒トリガーを手に入れる事になるなら。ボーダーに入隊しても構わないと。

 

 

と、そこまでクロウが語ると、夜凪はおもむろに「あ、それ嘘だわ」と言ってのけた。

 

 

「は?」

 

 

「本物はこっち」

 

 

夜凪はデスクの中から1つのトリガーを取り出してクロウの目の前に置いた。

 

 

 

「それが、リィンさんの黒トリガーだよ」

 

 

 

「どういうことだ?」

 

 

上層部の話では、誰も適合できる者がいないため本部で厳重に管理しているという事だったが……いや、それよりも嘘とはどういう意味だ。

 

夜凪は薄く笑むと「じゃあ一から説明しようか」と、ボーダー上層部が厳重に管理している黒トリガーと、夜凪が所持していた黒トリガーについての説明を始めた。

 

 

 

「まず、死期を悟ったリィンさんは己を黒トリガーにした。それがこれ」

 

 

夜凪が目の前のトリガーに視線をやる。夜凪はリィンの黒トリガーを秘密裏に所持していたわけだ。最期を看取ったならば、その黒トリガーを隠すのも容易い。

しかし、ならば上層部がリィンの黒トリガーと思っているものはなんだ?

 

 

「リィンさんは黒トリガーになって死んだ。ならその黒トリガーは上層部に回収されるはずだったんだけど……ここでリィンさんは一計を案じた」

 

 

その答えはすでにクロウも推測していた。しかし、その手段がわからない。

 

 

 

「それは…別の黒トリガーを用意して、それを自分の黒トリガーとして上層部に回収させよう、といったものだった」

 

 

 

方法自体はシンプルだ。しかし、別の黒トリガーとはどこから用意したのか。聞く限り黒トリガーとは非常に希少価値の高いもののはずだ。

 

 

「その別の黒トリガー……どこから準備したのか?答えは簡単ーーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「なに……!?」

 

 

 

そこで初めてクロウが驚愕に口を開いた。そんな情報は初耳だし、そもそもどうやって黒トリガーなんてものをリィンは持っていたのか。

 

 

 

「その黒トリガーは、リィンさんがこの世界に来た時からもっていたものらしい。曰く、相棒の黒トリガーだとか」

 

 

 

「ーーーーー!」

 

 

 

語る夜凪でさえ、リィンの言葉は謎が多かったのだろう。セリフの端々に疑問を感じながらも発している感じだ。

 

しかし逆に、言葉を向けられたクロウは、それだけで理解した。

相棒(ヴァリマール)の黒トリガー……なるほどそういう事なら話はわかる。

リィンが最初から黒トリガーを持っていたという事にも。その黒トリガーが誰にも起動できない事にも。

 

 

 

 

「なるほどな。それで、その相棒の黒トリガーとリィンの黒トリガーを取り替えて、上層部は相棒の黒トリガーを、あんたはリィンの黒トリガーを手に入れたわけか」

 

 

「そう……しかも上層部はリィンさんがそもそも黒トリガーを持ってた事を知らないから、誰も俺が黒トリガーを持ってるなんて思わない」

 

 

なんとも周到な話だ。完全犯罪とでも言えばいいだろうか。どこか夜凪は自慢げに語っているようにも思えた。

 

 

「それで?どうしてそんな真似をしたんだ?リィンが一計を案じた…って言うからにはリィンの指示って事だろうが」

 

 

だが、疑問はそこだ。

どうやって上層部を誤魔化しているのかはわかった。ならば、そうまでする目的は何なのか。

 

 

 

「すべては、仲間たちの元へ帰るため。それがリィンさんの願いだよ」

 

 

 

☆★

 

 

四年前

 

とある病室。

 

そこには、男が2人。

1人は病床に伏せており、死を間近にしている男ーーーーリィン・シュバルツァー。

もう1人はその傍らで、師の死に際を看取ろうとしている男ーーーー夜凪刀也。

 

 

「おれはもう長くない………わかってるな、刀也?」

 

 

おもむろに切り出したのはリィンだった。対する夜凪は沈鬱な表情を浮かべながら「はい」と答える。

 

 

「リィンさんの黒トリガーと、相棒の黒トリガーを取り替えて、上層部を騙す」

 

作戦の概要を言葉にする。すでに涙は流した後だった。

 

 

「ああ。そして、もしクロウが君の前に現れたら、その黒トリガー(おれ)と共におれたちの故郷に行ってくれ」

 

 

 

ゼムリア大陸への帰還。仲間たちとの再会。それがリィンの願いだった。

しかし、それが果たされる事はない。リィン・シュバルツァーは死ぬ。《黒》の呪いに侵されて。

《黒の騎神》イシュメルガーーーー悪意に目覚めた騎神。己を神にしようと世界大戦を目論んだ存在。

リィンはそのイシュメルガの呪いによって死にかけている。相克に敗れてなお、勝者を蝕むだけの呪いーーー悪意。勝とうが負けようがすべてが《黒》に染まるなら、相克なんて茶番じゃないか、と夜凪は叫んだ。

 

 

「すまない。君をおれのかってな願いに巻き込んでしまう」

 

申し訳なさそうにリィンは言う。

申し訳ないと思っているのは夜凪の方であるのに。

一ヶ月前に起きた、近界民による大侵攻。そこでリィンはより多くの市民を救うために《黒》に侵されるのを承知でヴァリマールの遺した黒トリガーを起動した。

 

黒トリガー『七の騎神(デウス=エクセリオン)

 

相克を勝ち抜いたヴァリマールの黒トリガーは、適合者の資質により七つに形態変化する鎧を纏わせるものだった。その七つの形態とは無論、騎神の事を云う。

そして、この場合の適合者とはゼムリア大陸で騎神の最後の起動者(ライザー)だった者を意味する。相克が終わった今、新たに起動者が選定される事はないからだ。

 

その黒トリガーを起動してしまったが故に、リィンの呪いは加速してしまった。

 

 

あの時、もっと自分が強ければリィンは無茶をしなかったのではないか。

その考えが頭から離れない。

 

 

「おれは、リィンさんの弟子ですから」

 

 

巻き込まれても構わない。もっと早くに巻き込んで欲しかった。手遅れになる前に。

自分はリィンに比べて力もないし、経験もない。技の冴えなんか比べるまでもなく、精神面でも遥かに劣る。

だけど、それでも………大規模侵攻の時(あの時)頼ってくれてよかったじゃないか。

 

 

 

夜凪は、それを言葉にはしない。

 

しかしリィンはそれを理解しているのか、ベッドの上から手を伸ばして夜凪の頭を撫でる。

 

 

「そうだな。……そうだったな」

 

 

中学生から伸びなかった身長の夜凪はリィンとは少しばかり身長差がある。修行中はこうやって頭を撫でられたのをよく覚えていた。

 

 

「リィン、さん………」

 

 

その頭を撫でる手が、弱々しくなっている。それがどうしても悲しい。リィンの衰弱を如実に現しているようで。現実を厳しく突きつけられているようで。泣きそうになる。

 

 

「それじゃあ、頼んだぞ。我が一番弟子、夜凪刀也……君は最高の剣士になれる。俺なんかより、ずっとすごい剣士に。たった半年しか修行はつけてやれなかったけど、君には才能がある。だから胸を張れ。……胸を張って、おれの一番弟子が立派に育ったって事を確認させてくれ」

 

 

 

言われて夜凪は胸を張る。ついでに満面の笑みも浮かべてリィンを見送る姿勢をとる。

 

 

 

「……120点だ」

 

 

笑って、リィンは。

リィン・シュバルツァーという人間は、黒トリガーになった。

 

 

 

☆★

 

 

 

「仲間たちの元へ、帰る……?」

 

 

 

それがどういう意味かわからない。リィンはどうやってゼムリア大陸に戻ろうとしたのか。そもそも戻る手段はあるのか。

 

その疑問について、夜凪が説明を始める。

 

 

 

「そもそも、近界民ってのがどこから来るか知ってる?」

 

 

近界民ーーー異世界からの侵略者というからには異世界から来ているのだろう。しかし、その異世界がゼムリア大陸である事はありえないはずだ。

トリガーやトリオンなんてものがそもそもなかった。

 

 

「近界民は、近界(ネイバーフッド)と呼ばれる場所に浮かぶ国から来てる。まあ、宇宙を漂う星みたいなイメージかね」

 

 

「ああ、なんとなく想像できた」

 

 

「近界民は国から遠征艇を出して、そこからこの三門市に門を開けて侵略してきてる構図になる」

 

 

ここまでは近界の概要だ。本題はここから、とばかりに「それで」と継ぐ。

 

 

「リィンさんは考えた。国が無数に浮かぶ近界の内のどれかに、自分たちの世界があるんじゃないか、と」

 

 

 

「ーーーーー!?」

 

 

 

驚愕するクロウ。しかしすぐにその論の矛盾に気づく。

 

 

「待て……、近界に浮かぶ無数の国々があるならその国々どうしで争う事もあるんじゃないか?俺たちの世界はトリガーなんて概念はなかった」

 

 

侵攻の戦力となる大部分はトリオン兵だ。そして、トリオン兵には通常兵器の攻撃は効果が薄い。

ゼムリア大陸には、そういったトリオン兵から被害を受けたなんて話はなかった。

 

 

ニヤリ、と夜凪が笑う。

そんな疑問は尤もだ。だが、リィンがそれに気づかないはずがない。ならばあるはずだ。ゼムリア大陸にトリオンあるいはトリガーという存在が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーそういうことか」

 

 

 

ーーーーーーー《外の理》

 

結社《身喰らう蛇》の使徒や執行者が扱う武器……外の世界からやってきたというマクバーン……塩の杭……

 

 

そういった人知の及ばぬものが、トリガーだったーーーーーそういう事なら納得できる。

 

なら《身喰らう蛇》はトリガー使いの集団で、近界の国々から侵略してくる外敵を排除するための組織だったーーー?

そんな話は聞いた事がない。いや、幻想機動要塞でカンパネルラは何と言っていた…?ーーー実験?

まさか、ゼムリア大陸そのものがどこかの国の実験場なのかーーー?

 

 

 

思考が飛躍し過ぎている。推測に推測を重ねただけなのに、妙に符合する点が多い。

 

 

「わかったみたいだな」

 

 

夜凪の声で現実に引き戻される。

 

思考の渦から抜け出したクロウは夜凪の次の言葉を待つ。

 

 

 

「リィンさんから聞いた話になるけど、塩の杭と呼ばれるアーティファクト。マクバーンと名乗る焔の化身。それらは通常兵器の効き目が薄い………あるいは世界そのものに破壊をもたらすようなものだったはず」

 

 

 

「ああ、その通りだ。それらが別の国から紛れ込んできたトリガーだったとしたら……話は通るかもしれない」

 

 

 

「おそらく、おまえたちの国は一定周期でこの世界に近づいては離れる惑星のような国家なんだと思う。そして、その周期というのが()()ーーーー」

 

 

 

 

ーーーー七年

 

 

それが何を意味しているのか、クロウはすぐに理解した。

 

 

 

リィンと共に宇宙に向けて飛んだクロウだったが。その速度には差があった。その距離には差があった。

 

その差が、七年という結果に繋がったのだ。

 

 

 

 

大気圏外を目指したリィンとクロウ。大気圏を出た先には近界の宇宙が広がっている。

その宇宙に出た先にこの三門市がある世界があったのだろう。先に大気圏外に出たリィンだけが、三門市に招き入れられた。

リィンーーーヴァリマールが三門市に消えた事によりクロウの駆るオルディーネの眷族化の効力も消え、ヴァリマールの黒トリガーの一部として取り込まれた。

オルディーネを失ったクロウは大気圏と近界の付近を彷徨い、七年後ーーー再び最接近した三門市に進入する事となった。

 

 

 

ゼムリアという国が三門市の世界に接近して、さらに次に接近するのが七年後………という事だ。

 

その七年というのが、リィンとクロウが三門市に現れた時間差になっていたわけになる。

 

 

 

 

「じゃあちょっと待て。おれは…というかおれとおまえはそのリィンの黒トリガーを持って、離れていくゼムリア大陸に向かわなきゃならねえのか?」

 

 

 

「だな。ちなみに俺が黒トリガー持ちってことはバレちゃいかんから、ノーマルトリガーのみで、俺とおまえでチームを組んで、それから遠征の選抜に通んないといけない」

 

 

 

「遠征部隊ってわけか……目指すにはどうしたらいい?」

 

 

 

「約500人からなるボーダー隊員の中で10番目くらいには入りたいよね」

 

 

 

「オイオイ……マジかよ」

 

 

「まあ個人で言えばクロウ、おまえはもうA級レベルだと思う。おれもフリーのA級だし………だけど、遠征ってのは基本部隊単位で行くからなー。連携力が未知数の俺とおまえが組んでA級目指すってなると相当厳しい。ランク戦ってのがあるんだが、そこに参戦するとなると新規の部隊はB級最下位からになるから………うん、一言で言うとやばい」

 

 

 

遠い目になった夜凪にクロウが苦笑しながら「やばい、かー」と冷や汗を流す。

 

 

 

「やる?」

 

 

片眉を吊り上げて挑発するように聞く夜凪にクロウとニヤリと笑い、

 

 

「ったりめーだ!」

 

 

☆★

 

 

 

「では、受理した。ようこそ、クロウ・アームブラストくん……界境防衛機関《ボーダー》へ。君の入隊を歓迎する」

 

 

 

クロウの入隊志願書を受け取った忍田が快活に笑う。

 

 

「夜凪に会って、なにか変わったか?」

 

 

「ああ、目標ができた」

 

 

「目標?」とおうむ返しに聞く忍田に、クロウは何でもないように、しかし不敵に笑って言った。

 

 

「まずはA級を目指す」

 

 




というわけで第3話でした。

書いてて疲れた。特にゼムリアと三門市が惑星軌道上で最接近するくだりを上手く表現できたか自信がない……


とりあえず、怒涛の展開はここまでで。次回からは原作に合流します。

クロウがボーダーに入隊しました。まず最初はC級から……ただしB級に上がると同時に(以下略 秘密だよ

目標としては夜凪とクロウで部隊を組む→A級になる→遠征部隊に選抜される→ゼムリアを目指す。です。


どうなることやらどうなることやら……乞うご期待!

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