ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

30 / 65
前話においてとても重要な事を説明し忘れていた……!

加古さんの殺人炒飯が振る舞われたのは刀也以外の面子です。いろんな食材が混ざった面白い炒飯と普通の炒飯が蓋をしたまま配られて、各人がそれを選んで食べるというロシアンルーレット形式の炒飯パーティーだったわけですが、刀也は持ち前の超直感で殺人炒飯を回避したようです。


見極めのROUND4

B級ランク戦ROUND4が目前に迫り、穏やかに作戦を説明する刀也をクロウは落ち着いた様子で見つめていた。

 

 

先のROUND3において刀也は生駒に旋空孤月で敗北した。己の得意とする旋空孤月で敗北したのだ。心中穏やかではいられないはずだ。

 

なのに今は落ち着いているように見える。この態度がフェイクなのか、あるいは切り替えたのかはわからないが、クロウはこのラウンドで刀也の事を見定めようとしていた。

 

戦力としてはボーダーでもトップクラス。まあまあ頭も切れる。数多のトリガーを駆使する戦術はクロウですら目を見張るほど。

 

しかし、まだ心の部分に甘えがある。それはプライドというもので、堅持すべきか捨て去るべきか、刀也の中でも決まっていないのだろう。

 

 

もしも今回、プライドにこだわって負けるようなことがあればクロウは刀也を一喝するつもりだ。“甘ったれるな”と。

 

 

 

「クロウ、聞いてるか?」

 

 

刀也に声をかけられて、焦点を作戦板に合わせる。

 

 

「ああ。玉狛の狙いは分断って話だろ」

 

 

「そうだ。今回のラウンドで玉狛第二が選んだステージは河川敷。中央の橋を落とせばステージは川を挟んで分断される。玉狛には雨取…大砲もあるし橋を落とすのは楽な作業だろうな。そして橋を落としてもグラスホッパーやスラスターがあれば川を渡るのは可能だ。それらを持たなくても援護さえあれば渡ることはできるし……となれば、渡川を阻害する悪天候に設定するのがわかる」

 

 

「十中八九“暴風雨”だろうねぇ……あれほど東西の分断に適した天候はない。それに暴風雨だとしたら狙撃も鈍らせる事ができる。“人が撃てない”雨取ちゃんと狙撃戦ができる狙撃手を封じる一手としては良手だ」

 

 

刀也の推測を陽子が補強する。雨取が“人を撃てない”というのはこれまでのランク戦のログを見ていればわかる事だ。もしかしたらライバル視する夜凪隊に一泡吹かせるためにそう思わせてるだけかもしれないと考えてもいたが、先日玉狛支部に行った際に玉狛第二も遠征を目指している事が判明した。遠征を目指しているのならポイントは一点でも欲しいはず。ならば夜凪隊に大砲ドッキリを成功させるために雨取での得点を封印してきたのだとしたら、それは三雲らしからぬ悪手だ。という結論に至り雨取という狙撃手は“人を撃てない”と仮定して作戦を組み立てている。

 

 

「理想は玉狛が橋を落とす前にどちらかの岸で合流、そっち側を殲滅してからグラスホッパーなりスラスターなりで川を横断、もう片方の岸で戦う。分断された場合はそれぞれの側で点を獲る。自分の側が終わったらもう片方の救援に向かう。これでいいか?」

 

 

刀也は説明を終えるとまるで伺いを立てるかのようにクロウに視線をやった。

 

 

「ああ、いいと思うぜ。ただ、橋が落とされなかった場合はどうする?」

 

 

そこでクロウは考えられていなかった可能性に触れた。試すような質問に刀也はわずかに目を細めて答えた。

 

 

「もちろん玉狛が橋を落とさない可能性もある。そもそも橋を落とすのは敵同士を食い合わせるつもりだって推測が前提だし。総合力で劣る玉狛が勝つには敵が潰し合ってる横からポイントをかっさらうしかない。それができるのは空閑遊真だけ…だけど、あいつもグラスホッパーを持ってるし川を渡れるから、玉狛としてはまず橋を落として戦局を分けるのがマストなはず。初めてのB級上位に加えて四つ巴だしね。片方の側を制してもう片方に渡ってポイントを獲る…というのが玉狛の狙いだと思う。……だから橋は落とされるはず…だけど、もし落とされなかったとしても合流はなしだ。作戦通りの早期合流ができなかった場合は常に橋を落とせる位置に雨取がいると考えた方がいい。橋を移動中に落とされて川にドボン、ステージ外に流されて緊急脱出…なんてのもあり得る。開始直後以外で川を渡る時は必ず橋を使わないようにしよう。……影浦隊には優秀な狙撃手がいるし、狙われるかもしれないな」

 

 

「影浦隊の狙撃手……絵馬ユズルだったか」

 

 

影浦隊の狙撃手の名前は絵馬ユズルであると言ったクロウに刀也は少しばかり意外そうな顔をして「よく知ってるな」と感心する。

 

「そりゃログを見れば名前くらいはな」とクロウは返し、続ける。

 

 

「それで影浦隊への対策はあるのか?さっきから玉狛ばっかりにかまけているようだが」

 

 

「対策は特になし。生駒隊にも言える事だがあいつらはただ強いだけだ。その場その場で勝つために最大限のパフォーマンスを発揮するが、そもそも勝つための作戦を練ってない」

 

 

「そういった面で言えば今回の最大の敵は玉狛第二だねぇ。だが影浦隊にしろ生駒隊にしろ“ただ強いだけ”でB級上位に居座ってんだ。対策はいらないにしても注意は必要だろうね」

 

 

しかし勝つための戦術なくして勝ってきたのが影浦隊や生駒隊だ。厄介ではなくとも強敵である事は間違いない。陽子の注意喚起にクロウと刀也は「そうだな」と素直に応じる。

 

 

「個人の戦力で言えば頭一つ抜けてるのは影浦だな。罰点食らってなきゃ攻撃手ランキング一桁台なのは間違いないし。生駒も攻撃手ランキングNo.6だったかな、注意すべきなのは壁越しなんかの旋空だろう。あとは北添の適当メテオラにも注意な、あれで吹き飛ばされたー…なんて笑い話にしかならん」

 

 

つらつらと手元の文章を読み上げるかのように注意点を挙げていく刀也に、陽子は密かに驚いていた。ここまで隊員たちの事を把握しているのは年季のおかげもあるだろうが、相当に研究もしているのだろうと。それだけに今回のランク線への本気度が窺える。今までどこか浮世離れした雰囲気で“本気”というものを見せていなかった夜凪刀也という男が、全力を傾けるべき事があるのだと察する。そして刀也が本気を出すに至った理由…クロウに視線を向けた。

 

 

「そういえばログを見てて思ったんだが…影浦って狙撃されてないよな?」

 

 

そこでクロウはログを見ていて気づいた疑問を口にする。影浦は狙撃を躱すだとか射線を読むとか以前に、狙撃されていないのだ。狙撃手のスコープがそもそも影浦を捉えようとはしていない。

 

 

「言ってなかったか。影浦はサイドエフェクト持ちだ。“感情受信体質”って言ってな、感情が刺激として突き刺さる感覚があるらしい。だから狙撃とかは効かないわけだな。まあそれで誘導する手もあるが……あとは感情を消しての攻撃も有効って話だな」

 

 

「なるほどな」と言いながらもクロウは刀也の舌足らずな説明をクロウは脳内補完する。感情が突き刺さる感覚という事は、どこに攻撃が来るかまで把握できるのだろうと理解する。

 

 

 

これで一通り作戦会議と各隊の説明まで終わり、ランク線開始時刻まで残りわずかとなっていた。

 

空いた時間を潰すように何気なく陽子はクロウに笑みを向けながら問う。

 

 

「どうしたんだいクロウ?いつもならここらで軽口の一つでも挟んでるのに、今日はやけに静かだねえ」

 

 

それにクロウは一瞬だけ黙してから答えた。

 

 

「…本当ならランク戦で甘ったれた事やった時に言うつもりだったんだが……まあいいだろう。だが、時間もねえし手短にいくぜ」

 

 

一拍おいて、刀也を見やる。いつになく真剣な眼差し、真摯な態度に刀也もわずかに眉根を引き締める。

 

 

「優先順位を間違えるなよ、夜凪刀也。おれたちの目的を忘れるな」

 

 

言われて、少しだけ目を剥く刀也。即座に「クロウ、おれの…」と言いかけるも陽子が転送開始の時刻だと告げる。

 

 

転送の間際、やはり刀也は落ち着いた様子でクロウに言った。

 

 

「おれはどこまでいっても八葉一刀流の剣士なんだよ」

 

 

言い切って、姿が消える。視界が移り変わる。転送終了、B級ランク戦ROUND4、開幕。

 

 

☆★

 

 

「…生意気言いやがって」

 

 

「へっ」と笑うようにクロウは呟く。転送が終了しランク戦が開始した直後の事であった。

ステージは河川敷A。天候は予想通りの暴風雨だ。クロウが転送されたのは東岸の南側に群立するアパートの一室である。

 

 

通信で刀也と連絡を取り合うと、どうやら刀也は西岸の土手近くに転送されたようで、橋が落とされない内に東岸に移動するつもりだと言う。

 

アパートの屋上に移動して橋を見ると確かに刀也がこちらに向かって移動して来ているのが視認できる。

クロウに刀也の姿が見えたという事は、それはまるきり他の隊員にも当てはまる。この暴風雨により川の水位が高まった今、西岸と東岸を繋ぐ橋はランク戦の行く末を握る鍵となる。影浦隊と生駒隊がどこまで玉狛の意図を察しているのかはわからないが、橋に注意を向けるのは必然である。

 

 

そしてそれらの注目を集めるように、暴風雨に逆巻く雷鳴にすら似た轟音がフィールドを揺らした。

 

雨取千佳のアイビスから放たれた大砲が、橋を砕いたのだ。

 

 

続けて撃たれるアイビスにより橋は完全に崩落し東西の岸を繋ぐ唯一の道は断たれた。

 

急いで刀也に声をかけると「ノーダメージだがちょいとやばめ」との返答。まだ余裕はあるようだ。

 

 

「おれは雨取を獲りに行く。大砲はこっちの岸から撃たれてたからな」

 

 

雨取のアイビスは東岸から撃たれていた。東側のビルの屋上からの狙撃。すでに移動しているだろうが陽子がすでにマーカーを着けている。予測位置の特定はできていた。

 

 

「了解。おれがそっちに向かってたから、クロウが東岸にいるってのは多分バレてる、注意な」

 

 

刀也が開始早々に橋を渡ろうとしたのは部隊の合流を急いだため、というのは露見しているだろう。クロウもそれは承知であり、しかし雨取を討つために行動に移る。

 

 

 

もう少しで雨取の予測位置に到着するという所で、視界の端を白と藍色が疾った。

 

 

身をひねって迫りくる斬撃を躱し、その勢いのまま蹴りを入れて敵を建物の壁面に叩きつける。

 

 

「そう簡単にはいかないか。やるねクロウさん」

 

 

しかしその蹴りを防ぎクロウと距離を取ったのは空閑遊真。玉狛第二のエース、先のランク戦においてNo.4攻撃手村上と相討った猛者である。

 

 

「遊真……!なるほどな、おまえがここにいるって事はこっちで正解ってわけだ」

 

 

「それはどうかな?おれがここにいるのは、この場に潜んでるチカを守るってフリかもしれないよ」

 

 

「なるほどな、じゃあおまえを倒して真偽を確かめさせてもらうとするぜ!」

 

 

言って、クロウはレイガストをダブルセイバーの形にして駆け出す。

 

こうしてボーダー屈指の近接戦闘能力を持つ2人の戦闘が始まるかに思われたが、

 

 

「楽しそうな事してんなァ…おれも混ぜろよ」

 

 

スコーピオンの乱斬撃を繰り出して現れたるは影浦雅人。攻撃を察知して回避行動に移ったクロウと遊真であったがわずかにトリオン体を切り裂かれていた。

 

 

「かげうら先輩……」

 

 

「こりゃまた油断ならねえ奴が来たな」

 

 

クロウと遊真は乱入者を相手に更に気を引き締め、戦闘を再開するのだった。

 

 

 

☆★

 

 

 

嫌な予感はしていた。きっと自分が渡り切る前に橋は落とされるだろうと。

いや…きっとそれどころじゃない。もっと悪い事が起こる布石が打たれているとさえ感じた。

 

轟音が鳴り響き閃光が飛来する。雨取千佳のアイビスによる狙撃だ。これによって橋は落とされる。刀也はグラスホッパーを起動して西岸に戻るが、その最中にアステロイドによる射撃に襲われた。

速度に割り振って撃たれたアステロイドは撃破ではなくトリオンを削るための戦法。三雲が土手で刀也を迎撃する。

 

 

「おい、大丈夫かよ刀也?」

 

 

「ノーダメージだがちょいとやばめ」

 

 

そんな時にクロウから安否を問われ、答える。三雲の射撃のすべてに対応した刀也はノーダメージである事を伝え、さらにこの先で囲まれる事を予感し“やばめ”だと言う。

しかしクロウはそれを余裕と受け取ったのか「そうか」と言って雨取を獲りに行くと言った。西岸東岸で分かれてるため援護なぞ期待してはいないがもうちょっと気遣ってもいいんではなかろうかと刀也は思う。言ってもただの愚痴になるため言わないが、その代わりに東岸にクロウがいる事がバレてる可能性がある事を示唆した。

 

土手に着地した刀也を待っていたのはアステロイドによる多角的な射撃。跳躍し躱したと思ったのも束の間、再びアステロイドが刀也に迫る。二段撃ちだと理解して回避ではな間に合わないためシールドを張る。

 

アステロイドの弾幕を受け止めたかと思えば次はレイガストをスラスターで加速した三雲が切りかかってくる。

 

良いコンボだ。しかし……

 

 

「まだ甘い」

 

 

三雲がレイガストを振り抜く前にグラスホッパーを三雲の腹部に展開し、吹き飛ばす。体勢が崩れた三雲を追撃しようとアステロイドを起動した所でヒュルルルと音がした。「ち」と舌打ちをすると同時に刀也はグラスホッパーを踏んで、それの爆発範囲から逃れた。

 

 

北添の適当メテオラだ。せっかく三雲を撃破できそうだったのに、これはうざい。幸か不幸か刀也が吹き飛ばしたせいで、三雲もメテオラの爆発範囲から逃れていた。

 

刀也の着地と同時に三雲も体勢を立て直し、仕切り直しとなるが実力差は歴然であり刀也が孤月を起動して旋空を発動するまでの時間は1秒にも満たない。未だ経験値の低い三雲は、本気の刀也に為す術もなく撃破される。はずなのだが、

 

 

背後から気配を感じた刀也は三雲に向かわせるはずだった旋空孤月を振り返りながら、回転の勢いのままに南沢に叩きつける。

しかし南沢は「うわっ」と驚きつつも刀也の旋空孤月を身を伏せる事で避け切った。

 

 

「あちゃー、気づいてたのヨナさん?」

 

 

「そりゃな。近くにゾエの適当メテオラもう1発来てたし」

 

 

と言うが早いか、またもヒュルルルと音がした。北添の持つメテオラをグレネードとして放つグレネードガンの銃撃だ。これが炸裂するとメテオラでどかんとなる寸法なのだ。

 

レーダー頼りの適当な射撃とは言え、3人も固まっていれば狙われるのは必然。これに救われた三雲はまだしも得点のチャンスを奪われた刀也と南沢は示し合わせたかのように北添の元へ向かう。遅れて三雲も刀也らの後を追ったのであった。

 

 

 

☆★

 

 

「チッ、ちょこまかと…!」

 

 

舌打ちしてクロウを睨みつけたのは影浦。遊真も同じくクロウの嫌がらせに苛立っていた。

 

影浦が乱入してからクロウは戦い方を変化させた。最初こそレイガストで2人と対決していたものの、今は二丁拳銃に切り替えて中間距離から2人の邪魔をするかのように銃撃を繰り返している。

 

 

その距離の取り方というのが絶妙で、遊真がグラスホッパーを使っても一瞬では詰められない距離、影浦がスコーピオン2本を繋げるマンティスを使用してもギリギリで届かない距離である。

うざったらしい事この上ないが、クロウを倒すべく距離を詰めようとすれば互いに背中を切られる事を承知しているため遊真と影浦は動く事ができない。

 

クロウもあえて2人を倒すような事はしなかった。今はまだ“面倒な相手”程度の扱いでいい。下手に藪を突いて蛇を出しても敵わない…機が訪れるまでは現状維持だ。

 

遊真にしても影浦にしてもボーダー屈指の攻撃手。いかにクロウとて容易く捌ける相手ではない。スコーピオンという軽量で体のどこからも出し入れが可能な刃を縦横無尽に振るう彼らと、防御力には優れるが重量があるレイガストを扱うクロウではそもそもの手数が違う。1人だけならまだしも、下手にちょっかいをかけすぎて2人が協力してクロウを排除対象に定めでもしたら大変だ。

 

だから付かず離れずの距離で牽制するように銃撃を重ねる。

 

 

“機”とはなにか?クロウが待つ機会とは。

刻一刻と事態は変転する。まだ遊び足りない影浦を嘲笑うように、点を獲りたい遊真を焦らせるように、漁夫の利を狙う水上を誘うように……すべてはクロウの読み通りに。

 

 

陽子によるとクロウのいる東岸に転送されたのは6人。その内2人が早々にバッグワームを使いレーダーから消えた。おそらくは狙撃手…玉狛の雨取は確定として、残る候補は2人。影浦隊の絵馬か生駒隊の隠岐のどちらかになる。

ここで東岸いる事が判明した人間を整理する。クロウ、遊真、雨取、影浦、そしてちらりと遠目に見えた水上。水上は生駒隊の射手だが、ここで注目したいのはその動きだった。

水上は今はレーダーから消えているが、その前にまずクロウら3人のバトルを遠目に見ていた。クロウが気づいたのはこのタイミングで、そのまま弾トリガーで強襲して来るかと思われたが水上はそうはせずにぐるりと回り込んだ。その動きに意味を見出すとするのなら、それはきっと狙撃手の位置取りとの兼ね合いだ。より良く連携するために水上は回り込む必要があった。そう仮定するならば、東岸にいる残り1人の狙撃手は隠岐となる。

 

 

 

間もなくクロウら3人の戦いの中心地に3発のメテオラが着弾する。舞い上がる粉塵が視界を占領し、続く炸裂弾の飛来と狙撃に狙われたのはーーー空閑遊真だった。

 

水上と隠岐の狙っていたのはクロウと遊真であった。初撃のメテオラで倒せれば万々歳で、それを避けられるのは折り込み済みで次撃は隠岐による狙撃。粉塵により直接姿は見えないがオペレーターからの視覚支援とレーダーである程度の位置は把握できている。引き金を絞る隠岐、視界不良を嫌ってグラスホッパーで緊急離脱した所をさらに水上のアステロイドで追撃する。

 

影浦には“感情受信体質”があるため不意打ちや狙撃は無効化される。そのためクロウと遊真の2人を狙ったコンビネーションだったのだが、初撃のメテオラで舞い上がった粉塵の中を探査するレーダーから一つの光点が消えたのだ。当然困惑した隠岐だったが、狙う的はまだ残っていた。

消えたのはクロウだ。水上と隠岐の狙いを看破したクロウは粉塵の煙幕が張られると共にバッグワームでレーダーから隠れ、すぐにその場を離れた。となると必然、狙われるのは遊真となる。

 

クロウの目的は隠岐の撃破だ。“狙撃手がいる”というだけで動きが制限されてしまうランク戦。未発見だった狙撃手の位置が特定できるだけで展開が変えられるなんてザラだ。ついでに前回のROUND3でも隠岐にやられていたためそのリベンジも込みでクロウは隠岐を倒しに向かっていた。

 

隠岐は水上との連携で遊真にダメージを負わせた事を確認すると狙撃手のセオリー通りにそれまでの狙撃位置を離れた。しかしクロウに狙われているとは思ってもおらず、そのアクションはクロウの予想通りであった。

次なる狙撃ポイントに移るために駆け抜けた路地の先にクロウは待ち構えており、隠岐はイーグレットを構える間もなく、グラスホッパーで離脱する間もなく撃破されてしまう。

 

 

「さあ、まずは1点だ」

 

 

☆★

 

 

「B級ランク戦ROUND4!開始直後から熱い戦いが繰り広げられています!まず点を取ったのは夜凪隊、1点リードです!」

 

 

今日も今日とてランク戦の実況を務めるのは武富桜子。解説席に座っているのは風間と加古だ。

 

 

「やるわね、クロウくん。隠岐くんと水上くんの連携を逆手に取って隠岐くんを炙り出したのね」

 

 

「クロウは影浦や空閑と違い中間距離で戦っていた。スコーピオンでやり合う2人より余裕があった……視界が広かったのだろう。それが水上の発見に繋がり、2人の連携技の隙を見出すきっかけになったのだろう」

 

 

A級部隊の隊長2人に解説させるという何とも贅沢なランク戦に今日の観客はいつもより多目だ。加えてROUND3で二宮を瞬殺したと噂になった刀也目的のC級隊員たちも多くいる。

刀也の初見殺しは一見して簡単だ。二宮を撃破したのも結局はエスクード、テレポーターの組み合わせ…誰にでもできるように感じられる。そんな技を盗んでやろうと、B級に上がったら自分もこれでジャイアントキリングをしてみせるぞと、そんな考えで観に来ている者たちが多かった。

 

と、そんな所で観客席がドっと沸く。開始直後に放たれてからというもの沈黙していた大砲が再び火を吹いたのだ。ビルの屋上から放たれたアイビスの弾丸は堤防を吹き飛ばし、増水していた川の水を町中に引き込む。

 

 

「おーっとこれは!東岸が水に浸かってしまった!玉狛の水攻めです!生駒隊の連携によりダメージを負った空閑隊員をカバーするためか!?グラスホッパーを持つ彼なら足場環境の悪さは関係ない!」

 

 

B級ランク戦ROUND4、暴風雨という特殊な条件で始められた戦いは新たな局面に移り変わろうとしていた。

 




いつの間にか連載を開始して1年が経っていたという……ビックリですね。
1周年企画という事でなんぞアンケートでもとろうかと思いましたが3票くらいしか入らなくて作者の精神が無事死亡するまでの未来が見えたのでやめておきます。
近い内にBBF風紹介やらカバー裏風紹介やらを纏めたものを出しますのでそれで勘弁してください!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。