ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

34 / 65
人生を流星に例える人がいた。
宙に輝く一筋の流れ星。綺麗だとか儚いだとか、あとは願いをつぶやいたり。
でも記憶に残るのは一瞬だ。
だって、宙を見上げれば自分より鮮烈な光を放つ星は数えきれないほど煌めいているのだから。

だけどそれは、自らが光を放つのを止める理由にはならない。他にどんな偉大なる人物がいようと、自分の足を止める理由にはならない。
一瞬で燃え尽きる人生であろうとも、自分がいた証を人々の記憶に残すのだ。たとえ刹那であろうとも。


幕間♯2
28.5話 4人目


エネドラの記憶データを人型トリオン兵に搭載して運用するという案には、エネドラ本人の協力が必要不可欠だ。

 

メリットやリスクを語る以前に人道的な問題がある。そういう所に過敏な連中を黙らせるには“本人の快諾”がちょうどいい。

 

 

そんなわけでクロウと刀也はエネドラの説得を試みていた。

 

 

 

「ーーーって話があるんだが、どうだ?鬼怒田の旦那ーーーあの狸みてーなオッサンの協力も取り付けてる。あとはおまえがうんと言えば、計画は始動する」

 

 

エネドラッドへの説明を終えたクロウはそう言って話を締めた。

 

エネドラ=トリオン兵の運用の具体的なシステムは、まず大元のエネドラの記憶データをAIと化したもの(今のエネドラッド)を司令塔とし、そのデータを人型トリオン兵にインストールする。記憶データのすべてをインストールしようとすると容量が膨大になるため、任務遂行に必要なデータのみのインストールが理想となる。

記憶データのインストールが完了したトリオン兵はその数だけの分身の術のようなものだ。トリオン兵は実践で得たデータを大元の司令塔に還元し、それがまた記憶データとして保存されて経験となる仕組みだ。

このトリオン兵がデータを司令塔に還元できない場合があって、それがボーダーに対して叛意を抱き自爆システムが作用した場合。そのトリオン兵の記憶データは毒として処理される……要は自爆したらそのまま放置されるのだ。

 

と、そんな点まで余さず伝える。エネドラに対するメリットとデメリットは最低限説明しなければならない誠意だ。ただでさえエネドラはハイレインに騙されて裏切られたため警戒心は高めだ。だから事前にデメリットを説明する事でこれがただのうまい話ではないと証明する。

 

わずかな沈黙の後、黒い角を生やしたラッド…エネドラは「ナメてんのか」と一言こぼした。

 

 

少しばかり唸るようにしてクロウと刀也はアイコンタクトする。この反応も当然予想の内だ。

ただ説明しただけではダメだと刀也も直感していた。

 

だから、交渉はここからだ。

 

 

「特段おまえを見縊ってるわけじゃないよ。アフトクラトルって大国で黒トリガー『泥の王(ボルボロス)』の使い手に選ばれるくらいだ。そりゃ優秀な人材だろうさ」

 

 

突然のヨイショにエネドラは一つしかないラッドの目玉を細めて刀也を見る。

 

 

「だけど裏切られて殺された。おまえはボーダーに協力する理由を“自分を殺した奴らをぶっ殺すため”だって言ったな。それはどこかの誰かに任せていい復讐なのか?」

 

 

挑発するかのように刀也が問いかけ、

 

 

「復讐なんてもんは自分でやってこそだろ……それこそ全てを託せる同志に委ねるくらいが妥協点のはずだぜ」

 

 

実体験を基にした言葉でクロウが揺さぶる。

 

それをエネドラは「ケッ」と吐き捨て、クロウと刀也の2人に試すように睨みつけた。

 

 

「自分で復讐できる機会を恵んでくださるってわけか…玄界の猿は随分と上から目線でいらっしゃる」

 

 

“復讐は自分でやってこそ”というクロウに対する痛烈な皮肉。自分でやってこその復讐の機会を“与えられる”のは果たして自分でやったと言えるのだろうかというような。

しかしクロウは間を置かず「そうだ」と傲岸に言い放つ。

 

 

「利用できるものは何でも利用して復讐を果たす……それがなりふり構わねぇ復讐者の姿だ」

 

 

クロウも自らの記憶を引っ張り出して、苦い顔をしながらもそう言った様にエネドラはまた「ケッ」とそっぽを向くが、今度はなんとはなし元気がなさそうな声音である。

 

刀也はこれでもまだ弱いと直感していた。エネドラを説得するにはまだ足りないと。

 

 

 

「エネドラ……おまえにとって『泥の王』って何だったのかな?」

 

 

「……なに?」

 

 

突然の話題の転換にエネドラは思わず聞き返す。

刀也はエネドラの最期を思い出しながらゆっくりと言の葉を紡ぐ。

 

 

「黒トリガーは使い手を選ぶ。その選定理由が何かはわからないが……何かしらの因縁があって黒トリガーに選ばれたんじゃないかって思う。何世代も前のものなら違うかもしれないけど…………」

 

 

「エネドラ」と再び名前を呼ぶ。その最期を思い出す。

“泥の王はオレの……”と、ミラに奪われた泥の王に手を伸ばしていた。

その先の言葉を発する前にエネドラはミラに殺されてしまったが、それこそが何か重要なピースのような気がしてならないのだ。

 

 

「おまえと泥の王の因縁はなんだ?」

 

 

 

問われてエネドラは回想を始める。過去を、原点を、振り返るために。

 

 

真っ先に思い出すのはやはり、適合した瞬間だ。

 

起動と共に生身からトリオン体に換装され、成功という声が実験室で響く。トリガー角も黒く染まり、エネドラの黒トリガー使いとしての人生の幕開けだった。

 

黒トリガー『泥の王』は自身のトリオン体を固体、液体、気体に変態させる事ができる半ば反則じみたトリガーだった。それによって執れる戦法も数えきれないほどあったし、一時期は国宝の担い手に次ぐ実力者と称された事さえあった。

 

ああ、この辺りが人生のピークだった。後は転がり落ちるようにすべてを失うだけの時間だった。

 

 

トリガー角が脳にまで根を張るという恐怖に正気を失い、仲間を傷つけた。狂気を抑えようとしても、思考に靄がかかったようになってまたムシャクシャした。

 

信頼を失った。仲間を失った。人格を失った。

 

でも、泥の王だけは残っていた。

 

最後の砦のように思えた。自分が“エネドラ”だという事を証明するための。

 

 

時折、泥の王から聞こえてくる幻聴。きっと都合の良い幻。

叱咤するような、励ますような、まだ“エネドラ”を諦めるなと言うような……

 

 

 

失った。奪われた。泥の王さえも。

 

 

 

今ならわかる。裏切られたのは自分が暴走したせいだ。黒トリガー頼りの爆弾を遠征隊に選ぶのは遠征先で捨てるためだ。いつ自陣の者を傷つけるかわからない奴を捨てるのは領主として当然の決断だ。

 

でも、それでも許せない事はある。取り返さなくてはならないものがある。

 

いつだって自分の傍に寄り添ってくれた家族を取り戻す。そのためなら故国を裏切る事さえ厭わない。

 

なぜなら、泥の王はオレのーーー祖父(ジジイ)だ。

 

 

 

遠くを見ているように焦点が合ってなかったエネドラの目がこちらを向く。

 

 

「ケッ、てめぇらに教える義理はねぇよ」

 

 

その目には先ほどまではなかった決意が宿っているように感じられる。

 

 

「どうやら、答えは得たみてぇだな」

 

 

「教えなくていいんだよ。おまえが考えるきっかけになればそれで」

 

 

こうも容易くこの決意に誘導されたのは癪だが、エネドラの思いは協力に傾いていた。

 

 

「おれたちにはおまえが必要なんだ……頼む」

 

 

そこに、2人して低頭されては協力するしかないというのがエネドラの心情だった。

 

 

「あーあー、協力してやるぜ猿ども。だがわかってんな…?ここまでやったからにはこの提案、絶対通せよ」

 

 

少しだけ投げやりに言ったエネドラだが、クロウと刀也にはそれが照れ隠しのように見えて微笑ましく思ってしまう。

そこでクロウが「そうだ」と悪戯を思いついた子供のような声音で提案する。

 

 

「呼び方も変えなきゃダメなんじゃねーか?エネドラだとアフトクラトルの人型近界民だとわかる奴もいるだろうし。ジークフリードとかどうだ?」

 

 

尤もな提案に自分で黒歴史認定した時の名前をしれっと混ぜるが、

 

 

「ああ?なんだその安っぽい名前は」

 

 

「やすっ…!?」

 

 

即時のツッコミに言葉を失ったクロウを横目で見る刀也は必死に笑いを押し殺している。生前のリィンがジークフリードの時のクロウの真似(迫真)をした時のことを思い出していた。

 

 

「んー、そうだな。エネとかどうだ?省エネみたいでいい感じじゃない?」

 

 

「オイ猿てめぇ、雷蔵に省エネの意味くらいは聞いてるからな」

 

 

エネドラの怒りを孕んだ眼差しに「しまった」と刀也は笑う。エネドラッドは雷蔵とちょくちょく映画を見てるのだ。雷蔵がぼそっと省エネについて口を滑らせていても不思議ではない。

 

 

「どうせならこのオレを崇めるような名前にしやがれ」

 

 

「自分じゃ考えねーのかよ」

 

 

「名前なんてのは他人が付けるもんだろうが」とエネドラは言って、その後も3人であーだこーだ言い合う。

 

クロウは“ジークフリード”を拒否されてヘコみ気味であり刀也はボケが止まない。1時間ほどして「グランでいいんじゃね?」とあくびをしながら刀也が言った。

 

 

「グランだぁ?んだその適当な名まーーー」

 

 

「そうかー、グランド(偉大なる)からとったんだけどなー、エネドラは気に入らないかー」

 

 

もはや演技をするのも億劫だというような棒読みだったが、

 

 

グランド…グラン……いや、よくよく聞くとなかなか良い名前じゃねーか。気に入ったぜ」

 

 

その意味に釣られてエネドラは気に入ってしまう。これには発案した刀也も苦笑いだった。

“どうする?”と刀也はクロウにアイコンタクトを送るも、1時間も無駄な時間を過ごした気がしたクロウは“いいだろ”と返事を寄越した。

 

クロウはダッと立ち上がり、

 

 

「いいじゃねーか、グラン!偉大なおまえにピッタリだぜエネドラ!よし、じゃあ今日からおまえはグランな!よろしくなグラン!」

 

 

捲し立てるようにエネドラの名前を決定した。

“偉大なおまえにピッタリ”だと持て囃されたエネドラもまたいい気になり「よろしくな」なんて言っている。

 

こうして4人目の仲間…エネドラ…もといグランがパーティーに加ったのだった。




という感じですね。うーん、ちょろい。

エネドラの過去を捏造しました!なんと泥の王はエネドラのおじいちゃんだったのです!……うん、許してね。


大規模侵攻編後の『幕間 黒の声、3人目』を章で『幕間♯1』サブタイトルで『黒の声、3人目』としました。
今後、仲間加入のエピソードは『幕間♯〜』という風にしていきます。


今後はエネドラの事を基本的に“グラン”と表記します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。