ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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ガロプラ編開幕です。


ガロプラ編
その背中


迅の未来視によると、今回の敵の狙いのひとつは雨取千佳であるらしい。

 

前回のアフトクラトルによる大規模侵攻の時のように雨取を遠くに逃してしまえば、その割を喰らうのは市民になるようなので、手の届かない遠くの地でもなく鉄壁のボーダー本部内でもなく、敵の餌として釣り出せる位置に配置する事となった。

 

その護衛を仰せつかったのが雨取が所属する玉狛第2と村上鋼、夜凪刀也である。

 

 

「何かと縁があるみたいだな。よろしく頼むぞ三雲隊」

 

 

玉狛第2…三雲隊の面々を前にして刀也は緊張を感じさせずに笑う。それで三雲も僅かながら緊張を緩和されたようで「こちらこそよろしくお願いします」と返す。

 

 

「それにしても、まさか黒トリガーを隠し持ってたとは。さすがヨナさん」

 

 

うーむ、と考え込むフリをしながら遊真が言った。

刀也は今後Ⅶ"sギアを手放す事になるだろう未来を理解しながら、しかし悲しみは滲ませずにいつも通りに振る舞う。

 

 

「まーな。持ってるだけで使わないのも宝の持ち腐れだし、今回思い切ってカミングアウトしたわけよ」

 

 

ふと一瞬、遊真が真顔になる。

 

 

「つまんないウソつくね」

 

 

そう看破した。

 

 

「…そうか、そうだったな。あー、くそ…ミスったな」

 

 

遊真にはウソを見抜くというサイドエフェクトがある。それを忘れていた刀也は迂闊な発言をしたとばかりに頭を掻く。

 

 

「大切なら大事って言えばいいのに。相変わらず面倒臭い性格だねヨナさん」

 

 

「大切なものだからこそ、そうだと言えない時もあるもんさ。せっかく格好つけようとしてんのに嘘だとかやめて!」

 

 

またそうやって戯けてみせた刀也だったが、脳裏には終わったはずの思考が再起していた。

そうだ、大切なんて言えるわけがない。エネドラ=トリオン兵の運用の取引材料にⅦ"sギアを使うように発案したのは刀也自身だ。自らそんな事をしておいて大切だなんて言うのは虫が良すぎる。

それと、例え手放したとしてもいずれ取り戻すつもりだからさよならは言わないぜ、的な強がりでもある。

 

 

 

「すみません、遅れました」

 

 

そこに村上が小走りで現れる。刀也は腕時計を確認してから「いやー、まだ大丈夫だな」と笑う。予測作戦開始時刻はかなり余裕をもって設定してあり、それより10分以上の猶予があるうちにこの場に配置されるメンバーが揃った事になる。

 

それから幾ばくか作戦会議やら談笑をしていると、刀也と雨取の視線が同時に東に向く。

 

 

「来る……!」

 

 

「千佳には近界民の気配がわかるんです」と説明したのは三雲だった。

 

 

「サイドエフェクトか。ヨナさんの超直感も同じ方向だし間違いなさそうだな」

 

 

村上が理解を示すのと同時に空に黒い孔が穿たれた。近界民の使う門だ。いつもの防衛任務の数倍の規模だが、先日のアフトクラトルの時の比べれば大した大きさではない。

 

故にこそ今回の防衛戦は市民には伝えない対外秘の任務となっているのだ。加えてランク戦も通常運転でB級中位夜の部に参加する香取隊、柿崎隊、那須隊は防衛戦に加われない。

 

 

「Ⅶ"sギア、駆動」

 

 

夜凪刀也の肉体がトリオン体に換装される。それはいつもの隊服ではない漆黒。黒いコートに灰色のベルト、袖口には少しばかりの赤。その姿は以前までの刀也の戦闘体での服装と相違なく、しかし変化はそれだけにとどまらず黒髪は銀色に、黒眼もまた灼眼へと移り変わる。

 

 

「まぁ、なるようになる」

 

 

いつもとは違う雰囲気の夜凪刀也は、いつもと同じように言葉を投げかける。

その背中から放たれた安心感はいつものような演出された声音ではなく、存在そのものが発する色。

 

「はい」と返事をしたのは遊真を除く3人。さすがに戦争を知る遊真は楽観視を咎めるような視線を送るが刀也はどこ吹く風である。

続いて三雲が、遊真が、雨取が、村上がトリガーを起動する。

 

 

いち早くレーダーを確認した刀也は「予想通りだな」と呟く。

 

 

「やっぱり雨取のトリガーの反応を記録してたみたいだ。敵部隊のおよそ30%がこちらに殺到してきている。総数は100弱…おれが捌くつもりだが……とりこぼしは頼むぞ」

 

 

今度は「了解」と4人の返事が揃う。

 

「奇襲に注意しろよ」と言い残してから刀也はこちらに向かってきているトリオン兵たちの迎撃に向かう。雨取らをぎりぎり視認できる距離で止まると、そこで迎撃の準備を始める。

 

 

「敵は多数…いかに師匠の剣技を再現できるトリガーであっても、我が技量にて捌き切れる数でもなし。なれば範囲攻撃が最適となるが必然。最高火力、最高範囲を兼ねる戦技は些か以上に目立つため封印するとして、であるならば」

 

 

錠前に鍵を差し込むイメージ。Ⅶ"sギアの2つ目の能力を解放する。

 

 

ARCUS(幾多の縁絆紡ぎし証)、開帳」

 

 

それはリィン・シュバルツァーが紡いだ縁、結んだ絆の記録を武器として編むチカラ。

次の瞬間、刀也の手には十字槍が握られていた。

 

 

「力を貸してくれ、ガイウス・ウォーゼル」

 

 

 

☆★

 

 

ついに始まった。……いや、始まってしまったと表現してもいいかもしれない。

 

 

「金の雛鳥を確保できたなら、おまえたちを従属国から同盟国に格上げしよう」

 

 

アフトクラトルの四大領主の1人、ハイレインはそう言った。

 

 

「ロドクルーンにはこの件は伝えていない。小国ながら精鋭揃いのガロプラだからこそ信用に値すると考え話している」

 

 

嘘だ。これ以上ない嘘っぱち。もし本当に金の雛鳥とやらを確保してアフトクラトルに引き渡したとして、それでハイレインが次代の実権を握れたとしても決して履行されない約束。

そんな事はわかっているはずなのに、すがってしまう自分は若輩なのだと思う。

 

でも……それでも。

 

 

「故郷を好き勝手に踏み荒らされるのはもう嫌なんだよ!」

 

 

自棄か決意か、路地の先に佇んでいた男にレギンデッツことレギーは叫ぶ。しかし男は眉ひとつ動かさずに、十字槍を構えた。

 

 

戦技(クラフト)再演ーーーゲイルストーム」

 

 

槍から放たれた竜巻が戦場を貫く。

レギーと共に進行していたドグもアイドラも風の圧力に吹き飛ばされてしまう。その内の大半がバラバラに砕けるがレギーの指示によりシールドを重ねたアイドラの活躍によって竜巻による刺突は防ぐ事ができた。

 

 

「ドグ!」と犬型のトリオン兵に指示を出して散開させる。様々な角度に散ったドグ、その目からビームが放たれる。目標は十字槍の男。タイミングを合わせてレギーも跳躍し『剣竜(テュガテール)』を起動、刺々しい尾の叩きつけを見舞う。

 

 

「アルティアムバリア」

 

 

しかし、届かない。不可視の障壁に阻まれてドグのビームもレギーの剣竜の尾の叩きつけも、届かない。

男はバリアの中で散弾銃を構えていた。いつの間にか十字槍は手から失われており、必中不可避の距離で向けられた銃口にレギーはやられた、と思考する。

 

続く銃声はレギーを襲わない。否、助けられたと理解していた。攻撃を防がれて硬直したレギーを助け出したのはトリオン兵アイドラだった。しかしただのトリオン兵ではない、手動モードに切り替わったアイドラ…人の手により遠隔で動いているトリオン兵だ。

 

 

「レギー、連携して戦って。翁も援護するってさ」

 

 

耳許のイヤホンから無線で指示が飛んでくる。遠征艇で全体の戦況を見ているヨミからの指示だった。

 

 

「わかってるさ。連携して、あいつをやる!」

 

 

☆★

 

 

初手で削れたのはおよそ2割の敵。上々とも言える結果だ。しかも敵のトリオン兵の中に一体だけ動きが違うやつがいるのも早々にわかったのも大きい。

 

 

「よし、次の手だ」

 

 

そう言って刀也はマキアスのショットガンを手放す。刀也の手から放たれたショットガンは重力に従って落下する事なく宙に浮かんだ。その隣を見てみるとガイウスの十字槍、ミリアムのアガートラムが同じようにふよふよと浮いていた。

 

 

続いて刀也の手に現れたのは紫電の剣と銃。「雷神功」と言って戦技を発動して身体機能を強化する。雷と見紛う速度で踏み込み、剣を振るう。

 

 

「紫電一閃」

 

円形に放たれた斬撃は敵を切り刻みながら中央に引き寄せる。回避できたのはレギーと手動アイドラのみ。

しかし宙に逃げられては追撃したくなるのも当然だ。刀也は銃の引き金を連続で絞り、宙空の2体を滅多撃ちにする。アイドラのシールドはわずか2発で砕け、その身をもってレギーを守る。アイドラという盾も瞬時に穴だらけとなりガラ空きのはずのレギーは剣竜を振り回して銃弾をなんとか弾いた。

 

着地というより墜落したレギーに更なる追撃を仕掛けようと武器を取り替えたところで超直感が警報を鳴らす。

 

掴んだ双剣を防御に回し、アイドラのブレードを防ぐ。

これほど鋭い不意打ちを仕掛けてきたのがトリオン兵だという事に疑問を覚えた刀也だったが、すぐに理解する。

 

 

「ーーー乗り換えたのか!」

 

 

先程のレギーを庇って破壊されたアイドラを操縦していた者が、他のアイドラに乗り換えた。

アイドラが遠隔操作可能な事実を知らなかった刀也だが、1体だけ特別な動きをするのは遠隔で人が操作しているのなら話は通る。

 

距離を取ったアイドラに刀也は「双剋剣」と言って黒と白の斬撃を叩き込む。アイドラはシールドを張るも虚しく斬断されてしまう。

 

 

と、そこで直感は更なる警鐘を打ち鳴らす。先程とは比にならない脅威が襲いかかってくるという理解。直上を見上げると、そこにはちょうど生身からトリオン体に換装する鬼がいた。

 

双剣を手放し、魔導杖を掴む。

 

 

「おおおおお!」

 

 

鬼は砲身と化した腕から爆撃とも言える弾丸を連射した。それは地面を抉り土埃を巻き上げ、刀也の姿を隠した。

 

 

「やったか!?」

 

 

鬼ーーー角付きの人型近界民であるランバネインはそう言うがーーー

 

 

「いや、まだだ!」

 

 

その背後で様子を窺っていたレギーが否定する。玄界の脱出機構は空を駆けると情報提供して来たのはアフトクラトルのはずなのに、もう忘れたのかとでも言いたげだ。

 

 

「ーーーーパレス・オブ・エレギオン」

 

 

やがて土埃が晴れるとそこからは無傷の刀也が杖を構えて現れた。それを視認した瞬間、ランバネインが撃ったはずの弾丸がレギーたちに向かって殺到してきた。

急遽アイドラが列を成してシールドを重ねるも『雷の羽(ケリードーン)』の威力は凄まじく、盾となったアイドラの悉くを蹴散らしてようやく消滅した。

 

刀也を守護していた半透明のシールド… パレス・オブ・エレギオンが消えた瞬間を見計らって生き残っていたアイドラとドグが再び突貫を仕掛けてくる。

攻撃が重なる地点を跳躍して脱した刀也は魔導杖を手放し、真紅の宝剣を握り込む。

 

 

「戦技再演ーーー四耀剣」

 

 

そのまま落下した刀也は勢いのままに宝剣を地面に突き立てる。溢れた力の奔流は連携を仕掛けたトリオン兵の全てを粉砕した。

残心をするのも束の間、四耀剣の射程外にいたアイドラが再度の不意打ちをするが刀也は宝剣をひと薙ぎして迎撃する。しかしアイドラもそれは予想していたのかシールドで受けると同時に自らバックステップを踏んで威力を殺す。

 

 

アイドラ、ランバネイン、レギーと並び立ち、刀也は「なるほど」と呟く。

 

 

「角付き…アフトクラトルか。それに一体だけ妙に鋭い動きをするトリオン兵を操縦してるのはヴィザ翁か?太刀筋に見覚えがある」

 

 

言って、刀也は様子を窺うがアイドラからの返答はない。少しして「自分で言うのが良かろう!」とランバネインが騒いだため、無線越しにヴィザが刀也に語りかけ、それを伝えるようにランバネインに頼んだと理解する。ランバネインに拒否されては残念極まりないが。

 

 

それにしても、と刀也はアイドラをしげしげと見る。

人型のトリオン兵で、しかも遠隔操作可能とは。エネドラのトリオン兵化計画にはうってつけのように思える。口が利けないのが玉に瑕だが、そこは開発班に改良してもらえば無問題だ。

 

ややもあって「もういい、おれが話す」とレギーが言った。ヴィザとランバネインのやり取りを不毛に感じたらしい。

 

 

「お久しぶりです、玄界の剣士よ。我が太刀筋から正体を見破るとは見事です。……だそうだ」

 

 

「ふむ…お褒めに預かり光栄……」

 

 

「ですが」と言葉を続けながら、宝剣を振るうと忍び寄っていた隠密タイプのドグを切り砕いた。

 

 

「こんな時にも不意打ちを欠かさないのはさすがの戦巧者と言うべきですかな?あるいは無粋?」

 

 

宝剣を手放して「まあ」と肩を竦める。

 

「あなたたちまでが囮ですかね。雨取(本命)にはあのワープ女って所かな。あっちには頼りになる後輩がいる事だし、こっちはこっちでやらせてもらうかね」

 

 

刀也が手放し、追従するように浮遊していた七つの武具が光を灯した。

 

 

ARCUS(幾多の縁絆紡ぎし証)、駆動」




短いですが今回はここまで!

Ⅶ"sギアの本領が発揮されるまであと少し!なんか設定を考えてて「チートくせぇ」と思いましたが黒トリガーだしいっか!と作者は考えるのをやめた…
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