ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

38 / 65
それは希望の消失。不可能の具現、絶望の根拠。


星、墜つ

それがいつから視えていたのか、今はもう覚えていない。

 

幸せなものもたくさん視てきた。

 

だけど不幸の方が多い。

 

世の中で幸不幸のバランスがとれてる事なんてない。世界はいつも理不尽だ。

 

 

はじめはこれを神の恩寵とすら思った。唯一無二の運命を撃ち破る力だと。

 

 

 

失った。喪った。託された。

 

 

これは呪いだ。未来が視えるのに変えられない事を嘆けという神の裁定だ。

 

それでも、少しでも未来を良くするために足掻く。

 

 

必死さを隠して、余裕綽々な顔で、趣味だと嘯いて。

 

迅悠一は今日も暗躍する。

 

 

 

☆★

 

 

届かないのだ。どれだけ高く跳んでも、どれだけ手を伸ばしても。

 

 

恩師を死なせた。その友も。あれだけ強かった人たちでも運命に逆らう事はできなかったのだ。

選択肢はあったはずなのだ。生死を分かつ境界線を見切る事など容易かったはずなのだ。

 

それでも、彼らは死に向かった。それは誰かを助けるためか、より多くを救うためかはわからないけれど。

 

ひとつ共通してるのはそういった選択をした人ほど躊躇や後悔をしない事だ。

 

 

 

それはクロウ・アームブラストにも当てはまる。

 

リィン・シュバルツァーがそれで死んだと知っているのに。次に使えば呪いが自身を蝕む事もわかっているのに。

 

 

ダメだと叫ぶが、きっと届かないだろう。

 

 

 

「七の騎神、起動」

 

 

 

胸に大穴を穿たれ緊急脱出寸前だったクロウを蒼い鎧が包み込む。

 

 

「いくぜ、オルディーネ」

 

 

☆★

 

ボーダー本部防衛戦については終結が近づきつつあった。

 

投入されたラービットの新型モッド体は、アフトクラトルの国宝、星の杖を模倣したものだったが、展開できるブレードはわずか2本、加えてスピードも本物の半分程度だった。国宝ゆえに再現が難しいのか、戦力としては他のモッドよりわずかに勝る程度。使い手の老練もなければ対応力に優れるボーダー隊員たちに敗れるのは当然の道理だった。

 

妙な動きをするアイドラが2体いるが、それにもA級隊員を複数当てれば済む程度。指揮を執る者がいないはずなのにトリオン兵団が組織だった動きをするのは少し気にかかるが、それでも勝利への道筋は見えていた。

 

先刻の妙な予感は気にし過ぎだったか、と東が息を吐いた頃。他の場所でも決着が付きつつあった。

 

 

☆★

 

 

風間隊vsコスケロでは、戦況は膠着している。

しかしそれが望ましい事態である事は確かだ。いくらトリオン兵団の統率がとれていると言っても最低限でしかない。コスケロの指示なくば追加戦力込みでもボーダー隊員たちに勝てるはずもない。

 

風間隊の目的はコスケロを抑えておく事の一点につきる。やられるのは論外だが、撃破したとしても懸念がある。遠隔操作が可能と思しき人型トリオン兵アイドラの操縦に移られたら、いったいどれがその個体なのか一目にはわからない。

 

それに夜凪刀也からの報告によれば今回の人型近界民は緊急脱出を使うらしい。これで大胆な動きも説明がついたし、おそらくノーマルトリガーにしか装備できないだろうため黒トリガー使いの参戦はないのが濃厚な線だ。

 

ならば本部防衛戦においてもこれ以上の追加戦力はないはずで、だからこそコスケロを正しく抑えておく事が風間隊の目的であった。

 

 

 

影浦隊&弓場隊vsウェン・ソーについても決着は近い。

北添は撃破されてしまったものの、その間にも藁の兵による分身を写し出すデバイスは破壊されていた。

分身の減少で撹乱能力が落ちていくウェン・ソーでは影浦はもちろんのこと、二宮と並ぶタイマン最強候補に名前が挙がる弓場、孤月とアステロイドを併用する防御力の高い帯島の撃破は難しい。

そもそも影浦が相手にいる時点で最初からウェン・ソーに勝ち目はない。これはどれだけチェックメイトを遅らせる事ができるかの勝負であったのだ。

 

散々遅延に精を出したウェン・ソーだったが、チェックメイトを示す刃は目前に迫っていた。

 

 

 

 

そして、すでに戦闘を終えたはずの刀也の前にはーーーー

 

 

 

☆★

 

 

 

「そこにいるのはわかってる。出てこないなら攻撃する」

 

 

言って刀也は苦笑する。まさか自分の人生でこんな漫画のようなセリフを言うことになるとは。

 

警告からわずか、建物の影から出てきたのはフードをかぶった中背の男。

「フードをとれ」と刀也が言うと素直に男は従う。出てきたのは特徴的な角。アフトクラトルのトリオン受容体ーー通称トリガー角と呼ばれるそれだ。

 

 

「玉狛にいるとかっていうアフトクラトルの捕虜か。なるほどな、確かに逃げるのなら今回の襲撃に便乗して姿を晦ますのは良手……だけど遅かったみたいだな。おまえさんのお味方はぜーんぶ倒しちまった」

 

 

いつもの調子でふざけた口調の刀也だったが、油断は微塵もない。あのアフトクラトルの遠征部隊に選ばれるほどの俊英だ。

 

 

「蝶の楯、起動」

 

 

アフトクラトルの捕虜ーーーヒュースの言葉はなく、トリガーを起動する事で返答とした。瞬時にヒュースの周囲を無数の小さな黒い三角錐が覆う。その欠片のひとつひとつが磁力や斥力を発生させる極小の端末だ。

 

やはり戦いになるような展開に刀也は苦い顔をする。話に聞いた限りではヒュースの操る蝶の楯は刀也と相性が悪い。

 

超直感を持つ刀也だが、回避力に優れると言われるのはある程度攻撃されるであろう箇所が予想できるからだ。しかし蝶の楯の黒い欠片はその数ゆえに攻撃する箇所を絞られない、飽和攻撃が可能。しかもその欠片が数個でもトリオン体に付着すれば磁力によって動きを制限される。剣技によって敵を仕留める事に長ける刀也には一瞬の制限が命取りになる。

 

 

 

しかしそれは、あくまでノーマルトリガーで戦ったら…の話だ。

 

 

 

「ARCUS、開帳」

 

 

刀也の手に青き大剣が握られる。

 

 

「戦技再演ーーー蒼裂斬」

 

 

回転して放たれた斬撃は地面を抉りヒュースに向かう。ヒュースはそれを避けると蝶の楯の欠片を刀也に差し向ける。

 

まるで砂鉄だ、と思いながら刀也は再度剣を振るう。極光を伴う斬撃はアルゼイド流の奥義に連なる戦技のひとつ。

洸刃乱舞で迫りくる蝶の楯を斬り払うと、刀也はパッと大剣を手放し、ラウラの面影と共に太刀に吸い込まれていく。

 

 

「ARCUS、駆動」

 

 

『Ⅶ"sギア封印機構、解除鍵選定開始。

 

ラウラ・S・アルゼイドーーー合致。

 

第一拘束解除、『焔』解禁。

 

第二拘束封印継続。

 

第三拘束封印継続。

 

第四拘束封印継続。

 

第五拘束封印継続。

 

第六拘束封印継続。

 

第七拘束封印継続』

 

 

「駆動完了。『焔』発動」

 

 

燃え盛る焔を顕現させた太刀を抜いた刀也が一閃すると、再び距離を詰めて来ていた蝶の楯の黒片が灼き払われる。今度は刀也から距離を詰めて一閃、ヒュースの防御を打ち破る。

 

 

「ーーーー斬」

 

 

一閃。『焔の太刀』が炸裂する。

 

 

☆★

 

 

レイガストの光刃とは違う鉄の剣。クロウ本来の得物、オルディーネの専用武装である双刃剣が握り込まれる。

 

 

「蒼の騎士人形…!アフトを退けた黒トリガーか!」

 

 

事前の情報でガロプラ側は七の騎神について知っていた。曰く、今回の遠征にも参加するランバネインと、その兄でありアフトクラトル四大領主であるハイレインの兄弟を撃ち破った破格だと。

 

 

背面のブースターが火を吹く。それはグラスホッパーを用いた跳躍より速く、スラスターを起動させたレイガストより強靭な加速。

 

オルディーネを纏ったクロウが雄叫びを挙げてガトリンに迫る。振るわれる双刃剣を処刑人のアームで防ぐが、たったの一撃で切断されてしまう。

黒トリガーの出力ならばアームを折られる事も想定内だったのか、ガトリンに驚愕はなく残った3本のアームで逃げ場を無くすように大刃を差し向けるが、すでにクロウの姿はそこにはなく。

 

ガトリンは報告にあった機動力の高さを実際に目にして舌を巻く思いだ。距離を取ったクロウが構える双刃剣には暗黒を思わせるオーラを立ち上らせており、勝敗を決するつもりだという事が見て取れる。

 

機動力と同じように特筆されていた防御力の前にはガトリングガンの弾など物ともしないだろう。ならばアームの大刃で迎え撃つ他なく、ガトリンは油断なくクロウを見据えた。

 

 

再度ブースターを起動させて加速するクロウ。迎撃に大刃を振り下ろすガトリンだったが、迫る蒼の速度は先程の比ではない。

閃光の如くガトリンの攻撃を通り抜けたクロウは、ガラ空きとなった背中に暗黒の十字を叩き込む。

放たれたエネルギーは床面を削り、ガトリンに斬撃を刻み込む。それこそはゼムリアにおいてクロウがオルディーネに搭乗した際の奥義とした“デッドリーエンド”である。

 

必殺の奥義を防御もなく受けたガトリンに敗北以外の道はなく、両断されたトリオン体から発生するようにして小規模の黒い孔が空間に穿たれる。

 

侵攻に使われる門にも似たそれが近界民の緊急脱出だと理解し、それが今回の作戦の大胆さに繋がったのだと把握する。

 

 

「ふう」と一息ついてトリガーを解除したクロウ。七の騎神と共にノーマルトリガーも解除され、その場に生身で放り出される。

 

緊急脱出直前で同じくトリガーを解除した迅がクロウに無事を確認する。

 

 

「ああ……」

 

 

「大丈夫だ」と続けようとして、ドクンという脈動と共に“声”を聞いたクロウ。胸に激しい痛みを感じたクロウはそのまま意識を手放してしまう。

 

どさり、と倒れたクロウに迅と太刀川は駆け寄り言葉をかけるが返事はなく。

 

 

「こちら太刀川。クロウが倒れた。至急応援を頼む」

 

 

本部に連絡を入れて救護を求める。しばらくして意識を取り戻す事になるクロウだが、この瞬間に聞いた声がいつまでも耳の中でこだましているのだった。

 

 

     ヨコセ…吾ノモノダ……総テ……

 

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

『焔の太刀』による斬撃をヒュースは辛うじて避けていた。正確には回避ではなく何とか受け流したというべきか。

刀也の短期決戦を目的とした強引な攻めは被弾を覚悟したものであったが、太刀を振るう際にトリオン体に付着した蝶の楯の黒片の磁力により攻撃を逸らされた事により仕留めるに至らなかった。

 

それでもヒュースにダメージがないとは言えず、刀也にも黒片が未だ付着したままであり磁力が働く範囲外に出たため戦況は膠着した。

互いに必殺とも言える遠距離武器は持たず、刀也の遅延を目的としたような戦法にヒュースは半ば諦観を抱いていた。

 

それは勝利へのものではなく、故郷への帰還の話だ。

 

 

ヒュースはガロプラの遠征にかこつけて故国に帰還するつもりだった。事前に手に入れた情報によると、アフトクラトルの遠征は失敗と断じて良い結果だった。そのためガロプラの遠征に便乗して再度雛鳥の確保を行うはずだ。

その最重要たる狙いは“金の雛鳥”である雨取千佳になる事は間違いなく、迅の予知では前侵攻同様、雨取を遠くに逃せば市民に多大な被害が出るためアフトクラトルの手が届く範囲に配置しなければいけなかった。

 

 

狙い目は、そこだった。

 

 

“金の雛鳥”雨取千佳。そのトリオンは黒トリガーにすら匹敵する、アフトクラトルの“神”にふさわしい生贄。

彼女を捕獲して遠征隊に合流すれば諸手を挙げて迎え入れられるだろうと思った。

 

自分は帰還を果たし、主人は生贄の運命から逃げられる。

 

 

最善、最高の手段。

 

 

 

しかし、ヒュースの思惑通りに事は運ばない。

 

まずは配置されたはずの位置に雨取がいなかった事が大きい。夜凪刀也の超直感のせいでもあるし、そうなるように状況が動いた事もある。

次に刀也に見つかった事だろう。黒トリガーを起動した彼を相手にしてはガロプラの若き俊傑たるヒュースでも分が悪く、さらに刀也に雨取狙いであることを察されてしまう。

それからは撃破ではなく足止めに徹した刀也を相手にヒュースはろくに逃げの手も打てずに遅々とした戦闘を繰り返すのみ。

 

この場に遅れた原因として陽太郎との別れを惜しんだ事は、タイムロスには数えない。

 

 

 

「このへんでやめとこうぜー。もう遅いってわかってんだろ」

 

 

緋空斬で蝶の楯の黒片を弾き飛ばしながら刀也はヒュースに語りかけた。

刀也はエネドラの話から、ヒュースは何の手土産もなしにアフトクラトルに帰れない事はわかっていた。ならばその手土産として雨取千佳を選ぶのは妥当なところ。

 

雨取を追わせないように、自分も負けないように。という条件を両立させるため磁力が働かない距離から緋空斬で牽制を続ける戦法にシフトした。

 

それは転じてヒュースのためにもなる事だ。

 

答えないまま諦観を秘めた表情のヒュースに刀也はさらに言葉を続ける。

 

 

「今回の襲撃に乗じて帰るのはもう無理だ。なら、別の手段での帰還を目指すしかない。おまえにとっての希望はボーダー側の遠征だ」

 

 

本来は秘匿されていた“近界への遠征”はアフトクラトル侵攻の後に責任を問われた三雲が“取り返す”宣言をした事で公のものとなった。

対外的には初となる遠征の名目はアフトクラトルに連れ去られた人材の奪還。当然、アフトクラトルを目指す事となる。

 

 

「次回の遠征メンバーに選抜される事。それこそおまえが唯一故郷に帰れる手段だ」

 

 

ヒュースほどの人物であれば夜凪隊にスカウトしたい刀也であったが、近々エネドラも加入する事だし、ランク戦シーズン中の悪目立ちが過ぎると判断する。

 

 

「玉狛の部隊に入るといい。今回の襲撃に合わせて雨取を捕獲しようとした事、黙っといてやるから」

 

 

もし刀也がヒュースを見逃していたら、ヒュースは雨取たちに追いつき、そして黒トリガーを起動した遊真に撃退されていただろう。

“雨取を狙った”という事実の露見は玉狛第二への加入を阻害する大きな要素となる。

 

 

「………わかった」

 

 

暫しの沈黙の後にヒュースは蝶の楯を解除した。暗い表情なのは変わらないが、微かに未来への希望を感じさせる瞳ではあった。

「ならさっさと帰れ」と見送った刀也。ほとんど同時に侵攻を凌ぎ切ったという情報が入り、太刀を納めてトリガーを解除する。

 

 

Ⅶ"sギア…リィン・シュバルツァーの黒トリガー。その力を存分に振るった今回の防衛戦。

今回の防衛戦でⅦ"sギアの力を見せつけて、エネドラの入隊を許可してもらうつもりだったが、その代わりにⅦ"sギアは手放さなければならない。

 

しかし迅の予知によると、Ⅶ"sギアが刀也の手に戻る未来は僅かながらも可能性として存在するらしい。

ならばその未来を掴み取ってみせる!というのが刀也の強気だが、実際に取り戻せるか否かについては不安だ。

しかしその不安はおくびにも出さないように我慢して、Ⅶ"sギアを手に取って言い放つ。

 

 

「一時の別れです、リィンさん。次に会った時にはすっごい成長してるつもりなんで、どうかご期待ください」

 

 

優しげな顔で強がって、別れを告げる。トリガーとなったリィンからは当然のように返事はなく。

 

そこで刀也に“クロウが倒れた”との一報が入るのだった。

 

 




短いですがガロプラ編、終了です。


次回はまた幕間を挟んでから新章突入するつもりです。

この世界でもヒュースと陽太郎は順当に絆を結んだようです。そして夜まで起きてた陽太郎がヒュースに蝶の楯を返還した世界線のようです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。