ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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ようやく漕ぎ着けたボーダー入隊編!

章で『ボーダー入隊編』という風にしました。



時期でいうと、ちょうど遊真と同じタイミングでクロウが入隊する事になります。





クロウ・アームブラスト③

1月8日 ボーダー隊員正式入隊日

 

 

 

「おーおー、さすがに正義の味方の組織だな。入隊者がわんさかいやがる」

 

 

 

「はっはっは、まあみんな正義の味方って響きは好きだからなぁ」

 

 

 

今日をもってボーダーに入隊するクロウに付き添って夜凪も入隊式に立ち会っていた。

 

ボーダーは基本的に若い者を優先して採用する。トリガーを使う才能ーーーーつまりトリオン、そしてそれを生み出す見えない器官……トリオン器官が成長する期待がもてるからだ。

 

そういう意味もあり、入隊する者のほとんどは中高生だ。現存する隊員もそれと同じで大学生や大学院生は年長の部類に入る。

戦闘員であるトリガー使いを除くオペレーターやエンジニアはトリオンの大小を問わないためそれに準ずる事はないが。

 

というか、そもそもボーダーが若い組織だ。公に認知されてから約4年しか経っていない。この業界における年長者(ベテラン)がいないのだ。

 

 

 

という事もあり、クロウが今季入隊者の中では最年長のようだった。

見た目も目立つし、隣にA級の隊員はいるしで、クロウは会場でかなり目立っていた。

クロウ以外にも髪が白いとかで目立つ者もいたが………

 

 

 

夜凪はその者らを見て「玉狛……あれが……」なんて意味深に呟いていたが、忍田本部長が挨拶に出てきて、そんなざわめきは一瞬にして静まり返った。

 

 

「ボーダー本部長 忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する。君たちは本日C級隊員……つまり訓練生として入隊するが、三門市の、そして人類の未来は君たちの双肩に掛かっている。日々研鑽し正隊員を目指してほしい。君たちと共に戦える日を待っている」

 

 

短いが、それ故に内容の詰まった挨拶だった。この言葉でどれどけの人間が奮い立つだろう。忍田には上に立つもののカリスマが備えられていた。

 

 

忍田は挨拶が終わると、後はA級5位の嵐山隊に任せて退場した。

 

嵐山隊はテレビや広報などの仕事をこなしつつA級の5位に君臨する部隊だ。

近、中距離戦を得意とするオールラウンダーが3人に遠距離戦を主とするスナイパーが1人という隙のないバランスの良い部隊で、テレビなどの宣伝も行うため顔がいい。ちなみに夜凪は「はっはっは、イケメンは滅びろ」と言うような人種である。

閑話休題。

 

 

 

ボーダーの戦闘員となるポジションは大まかに分けて3種ある。

 

 

攻撃手(アタッカー)……ブレード型のトリガーを使って白兵戦を展開するポジション。

銃手(ガンナー)……銃型のトリガーを使って中距離戦を繰り広げるポジション。

狙撃手(スナイパー)……狙撃銃のトリガーを使って遠距離から精密射撃を狙うポジション。

 

 

他にも射手(シューター)万能手(オールラウンダー)特殊工作員(トラッパー)、果てには完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)なんてものまでいるが、大まかに分けると近距離のアタッカー、中距離のガンナー、遠距離のスナイパーという風に分けられる。

 

 

 

スナイパー志望は嵐山隊のスナイパー佐鳥について専用の訓練場に行き、アタッカーとガンナー志望はこの場に残り嵐山から説明を受ける。

 

C級隊員は訓練生の身分であり、B級に昇格して正隊員にならないと防衛任務につけない事。どうやってC級からB級に昇格するのか、という事。

 

ボーダーのトリガーには、基本的に8つの武装がセットできる。C級がセットできるのは1つのみだが、何の武装を選ぶのかは自由だ。

 

 

嵐山は左手の甲を見ろ、と言う。そこに表示されているのは、自分が選んだトリガーをどれだけ使いこなしているかを表す数字だと。

 

 

「その数字を『4000』まで上げること。それがB級昇格の条件だ」

 

 

なお、ほとんどの人間は1000ポイントからのスタートだが、仮入隊の間に高い素質を認められた者はポイントが上乗せされてスタートする。

 

即戦力として期待されているわけだ。

 

 

 

そんな嵐山の言葉でポイントの上乗せされた者たちは注目を浴びる。そんな中で妙に得意げにしている3人組がいた。そいつらを仮にエリート3人組(3バカ)と呼ぶとして、そいつらでもせいぜい2200くらいが良いところだ。

 

そんな3バカと同じように得意げにしている男が、夜凪の隣にいた。クロウである。

クロウの左手の甲にある数字は『3990』ーーーーB級まであと10ポイントである。評価点は10点刻みのため、これがC級隊員に与えられるポイントの限度額となる。

要は「はよB級上がれ」という事である。

 

さすがにこんな高ポイントからのスタートはボーダーでも古株の夜凪でも見た事がない。そんなところに上層部の狙いが透けて見えるがーーーー当の本人はそれを知ったか知らずか得意げな表情を崩さない。

 

 

 

具体的なポイントの上げ方としては2つ。

訓練で上げるか、個人ランク戦で奪い合うか。訓練は満点で20点、ランク戦の場合はポイントの高い者に勝てば多く獲得でき、低い者に勝っても獲得ポイントは少ない。逆も然りで、ポイントの高い者に負けても失うポイントは少ないが、ポイントの低い者に負ければ多くポイントを奪われる。

 

 

 

ボーダーに入隊したC級隊員は、まず戦闘訓練に連れ出される。

いきなりで酷かもしれないが、これで戦闘員としての適正が測られるわけだ。

相手はボーダーが集積したデータから再現されたトリオン兵バムスターを小型化したものだ。それでも象以上のサイズなのだからはじめてトリオン兵に立ち向かうC級隊員が萎縮するのも無理はない。

戦闘訓練はこのバムスターを5分以内に倒せ、という内容だった。

 

 

「おい夜凪、最速タイムはどれくらいだ?」

 

 

最初に名前を呼ばれたC級隊員が訓練室の中で逃げ回りながらトリガーで攻撃しているのを尻目に見ながらクロウはそんな事を聞いてきた。

 

 

「確か4秒だったかな。記録保持者は緑川っていう今はもうA級部隊のアタッカー」

 

 

「4秒、だな。わかったぜ」

 

 

係員に名前を呼ばれてクロウの順番が回ってくる。クロウはニヤリと笑うと訓練室に向かう。

 

 

「おうおう、派手にデビューしてこい」

 

 

不敵に笑んだクロウの意図を察したように夜凪は訓練室に向かう背中にそう言ったのだった。

 

 

 

 

「始めっ!」

 

 

その合図で戦闘訓練は開始され、5分のカウントが減っていく。

 

 

クロウが選んだトリガーは『レイガスト』だった。

ブレード型のトリガーでありながら、シールドモードにも切り替えられるアタッカー用のトリガーだ。刃の形状を自由に変形できるのが特徴だ。

同じく変形機構をもつアタッカー用トリガー『スコーピオン』と迷ったものの、耐久力という面でクロウは『レイガスト』を選んでいた。

 

 

始め、の合図でレイガストは形を変えていく。完成した形状はもちろん、ダブルセイバー。クロウがゼリムア大陸で得意としていた武器だ。

 

クロウはレイガストの形状変化を見届ける事なく跳躍しーーーー、トリオン兵の弱点である口腔内の目を破壊した。

 

 

瞬時にカウントが止まる。

 

 

「き、記録1秒…!?」

 

 

 

歴代記録を塗り替えたクロウに場は唖然とする。しかしクロウが訳ありだと知っている嵐山や、そしてクロウの左手のポイントを知っている者はその強さに納得した。

 

 

 

ズドンと倒れ落ちるバムスターの上に着地したクロウは夜凪の方を見て笑ってみせる。

 

 

「ま、これが真の実力ってやつだ」

 

 

夜凪もまた「はっはっは」と快活に笑うと「さすがだな」と続けようとして、さらなる歓声にかき消される。

 

 

 

クロウとはまた別の訓練室で、また最速タイムが更新されたらしい。

 

 

記録は0.6秒。いや、とある3バカが「まぐれだ!計測機器の故障だ!」と言ってやり直し、0.4秒。

 

 

 

「おーおー、俺よりやべぇやつがいるみたいだな」

 

 

記録を更新されたクロウは特段いつもの通りでそう呟く。そういえば記録を塗り替えた彼は夜凪が「玉狛」とか呟いていた男の子ではないか。

 

彼も自分と同じような訳ありなのだろう、とクロウはあたりをつける。再現された小型バムスターを葬った動きは、戦えるやつの動きだった。

 

 

 

 

最速レコードが2度塗り替えられる、なんて珍事が起こったものの戦闘訓練は無事終了した。

 

 

 

 

訓練室からはけていくC級たちの中から現れるようにして、1人の男が姿を現わす。

その男を現わす言葉はボーダー内部においても多い。

 

A級3位部隊隊長

個人総合ランク3位

永遠の158センチ

 

風間 蒼也

 

 

 

その風間が無名のB級隊員に、ランク戦を申し込んだ。

 

 

 

 

 

 

なんだなんだ?と興味深げにC級隊員たちが集まってくるが、これから起きるのが一方的なものだとわかっているボーダー隊員たちがC級を訓練室から追い出していく。

 

 

クロウも追い出されそうになるが、夜凪が自分の連れだと説明するとクロウも訓練室に残ることを許された。

 

 

「おすおす烏丸、これどういう状況?」

 

 

夜凪は軽快に歩いていくと、もさもさした男前に状況の説明を求める。

 

 

「ヨナさん。あー、これは風間さんがやってきて三雲が受けちゃった感じですね」

 

 

「それはわかる」

 

 

もさもさした男前は烏丸というらしい。烏丸は尤もな説明をするが夜凪はそれは前提としてわかってるが、というツッコミを入れる。

 

 

「風間さんが三雲くんの実力が見たい、と言ってこうなりました」

 

 

そこで烏丸の隣にいた女子が夜凪の聞きたいことにピンポイントで答えた。

 

 

 

「ほーん、なるほどね。サンクス木虎」

 

 

なんてやり取りをしている内にすでに無名のB級隊員ーー三雲は3度目のダウンを喫していた。

 

 

 

「おいおい、実力が見たいって言っときながら手加減なしかよ」

 

ぼやく夜凪に、烏丸は「まあ風間さんですからね」と応じる。

 

 

「ところでヨナさんはどうしてここに?」

 

 

「おれはこいつの付き添いだよ」

 

 

 

夜凪はクロウに視線をやって答える。すると烏丸や木虎の視線もクロウを向き……

 

 

「なるほど、じゃあこの人が……」

 

 

木虎は嵐山隊の1人だ。一時期クロウの捜索が命じられていた嵐山隊は、クロウの素性について軽く聞かされていた。

 

 

 

「クロウ・アームブラストだ。よろしく頼む」

 

 

視線を向けられたクロウは低頭する。烏丸はまだしも木虎は生真面目そうな雰囲気だ。「てなワケでよろしく頼むわ♪」と言うのは躊躇われた。

 

 

 

「それで、おまえは……」

 

 

クロウの挨拶が終わり、夜凪の視線はその場にいたもう1人に向けられる。白い髪に黒い訓練服。小柄だが、戦闘訓練におけるクロウの記録を塗り替えたのは彼だ。

 

 

 

「空閑遊真だよ。よろしくね、クロウさんとヨナさん」

 

 

 

「よろしく、夜凪刀也だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三雲ダウン」

 

 

すでに三雲は20は負けていた。勝ちはなし。

木虎はやめさせてください、なんて言うが、当の三雲はまだ諦めるつもりはないらしく、その目から光は失われていない。

 

 

 

が、風間の方がもう要件は済んだようで、立ち去ろうとするが去り際の言葉に三雲が奮起し、さらにもう一戦交える事となる。

 

 

 

「ふむん?『風刃』の事でも言われたか?」

 

 

 

風間が三雲を気になったのは、おそらく『風刃』絡みだと目していた夜凪は呟いてみせる。

 

 

「風刃?」

 

 

「風刃がどうかしたの?」

 

 

クロウは風刃の存在そのものを知らず、遊真は風刃がどうされたか知らない。

呟いた夜凪は烏丸に「これ言っていいのかな?」と確認をとって、クロウだけに教える事にした。

 

 

遊真には「おまえはあとで三雲に教えてもらえ」と言って遠ざける。

 

 

「風刃は黒トリガーだ」

 

 

黒トリガーというワードにクロウがピクリと反応する。

 

 

「つくったのは最上宗一って人でな、その人の弟子だった迅ってやつが持ってたんだが……、先日とある条件と引き換えに風刃を本部に引き渡した」

 

 

とある条件?本部に引き渡した?

突っ込みどころが多い説明にクロウがハテナマークを浮かべると、夜凪は「一から説明する」と言った。

 

 

「まずボーダーには3つの派閥がある。1つは近界民は排除するよの城戸司令派。もう1つは市民の安全が第一だよねの忍田本部長派。最後の1つは近界民にも良いやついるから仲良くしようぜの玉狛支部。迅は玉狛支部のメンバーね。

城戸派が第一勢力だったけど、黒トリガー持ちの近界民が玉狛支部に入るってんで城戸派は慌てた。これまで優勢だったのが黒トリガー一本で覆っちゃうわけだからな。そこでその黒トリガー争奪戦が繰り広げられて、その結果として迅が黒トリガー『風刃』を本部に差し出す事でボーダー内のバランスはそのままに、黒トリガー持ちの近界民はボーダー入隊を許されたってわけよ」

 

 

 

「じゃあ、その黒トリガー持ちってのは……」

 

 

 

クロウの視線が遊真を向く。遊真はこちらの視線には気付かずに三雲と風間の模擬戦を観戦中だ。

 

 

「だろうね、たぶん」

 

 

「たぶんかよ」

 

 

「あくまで噂……だけど、それで間違いないと思う。おれの直感は鋭いんだぜ?」

 

 

ツッコミを入れるクロウに、夜凪はニヤリと笑ってみせる。

 

 

 

 

「スラスターON!」

 

 

三雲の気合の乗った声が訓練室に響き渡る。

『スラスター』とはレイガスト専用のオプショントリガーで、トリオンの噴出によりブレードを加速させるものだ。

 

加速したレイガストを受けた風間は、そのまま壁際まで押し切られた。壁際まで来ると三雲はレイガストをシールドモードに変更し、さらに変形させる事で風間を壁際に閉じ込める。

そしてシールドに開けた一点の穴からトリガーの弾丸を撃ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三雲ダウン」

 

 

シールドの穴から風間のスコーピオンの刃が三雲の首を貫いていた。

 

 

しかし……

 

 

「風間ダウン」

 

 

三雲の放った弾丸は風間の左胸を大きく吹き飛ばしていた。

 

 

 

 

「引き分けか……、B級が風間相手に」

 

 

知恵を絞った戦い方は好ましいと言わんばかりに夜凪は口角を上げる。クロウも「おれもああいう戦い方は嫌いじゃない」と呟きーーー、2人して訓練室を立ち去った。

 

 

 

 

☆★

 

 

その後の訓練でクロウは満点を取り続け(結果としては遊真に次ぐ2位だった)ーーーー左手のポイントが4000を超える。

 

 

これでクロウはB級ーーーと、思いきや。

 

 

 

「ねえ、クロウさん。おれと勝負してよ」

 

 

白い悪魔がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

クロウと遊真が個人ランク戦をやる事になってから数分後、その様子を観戦できるモニターの前には人だかりができていた。

2人ともがC級でありながら、戦い慣れた動き。そして戦闘訓練の結果からこうなるのは当然のようにも思えた。

 

 

そんな人だかりから少し離れたところで、三雲が頬に冷や汗を流しながら様子を見守っているのを発見した夜凪は話しかける。

 

「おすおす、はじめまして。三雲修……だったよな」

 

 

「あ、はい。あなたは……」

 

 

 

「夜凪刀也。風間との模擬戦は見たけど、あいつに一矢報いるとは、おぬしなかなかやるな」

 

 

ころころと表情の変わる夜凪の登場に冷や汗が止まらない三雲。風間と同じくらいの背丈なのに一目で年上とわかる老け顔。また濃いキャラクターだ、と頭を抱える。

 

 

 

「玉狛で空閑とチームを組むつもり?」

 

 

そして、夜凪はするっとまだ明かしてない事実について尋ねてきた。

 

 

 

「はい、そのつもりです」

 

 

 

「なるほどね。じゃあ空閑が、迅が風刃を差し出してまで入隊させたかった近界民で間違いないわけか」

 

声のボリュームを落として言う夜凪にギョッとする三雲。空閑が近界民である事はトップシークレットにも等しい秘密だ。

 

 

「どこでそれを?」

 

 

夜凪と同じく声のボリュームを下げた三雲に、当の夜凪は不敵に笑って「おれの直感はするどいのさ〜」と誤魔化す。

 

 

「吹聴するわけじゃないし安心していいよ。………お、始まるな」

 

 

 

夜凪の言葉にホッと一息つくのも束の間、モニターでクロウと遊真の模擬戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊真が選んだトリガーはスコーピオンだ。スコーピオンの特徴は切れ味鋭く、軽く、刃の形状を変形できる点に加え、体のどこからでも出し入れ自由ということ。ただし耐久力は低く受け太刀には向かない。

 

 

レイガストの特徴は、ブレードモードもシールドモードの切り替えが可能であり、その形状を自由に変化できる点だ。シールドモードがあることからわかる通り、耐久力は高い。しかし攻撃力という面で見ればスコーピオンには劣り、加えて重い。

 

 

 

 

1本目

 

遊真の不意打ちが成功し、クロウの首が飛ぶ。

 

 

 

2本目

 

遊真を正面に捉えたクロウだったが、スコーピオンの特徴である、どこからでも出し入れ可能という利点を活かされて敗北。

 

 

3本目

 

遊真の攻撃を受け切ったクロウが、追撃を行う合間に鋭い一撃を放ち勝利。

 

 

4本目

 

不意打ちで片腕を無くしながらも善戦するクロウだったが、トリオン漏出過多により敗北。

 

 

5本目

 

遊真の不意打ちを見破ったクロウがまず足を切り落とし、機動力を奪った所でとどめを刺す。

 

 

 

 

5本が終わったところで、「ふぅ〜」と息を吐き出す夜凪と三雲。どうやらお互い息を止めて見入っていたらしい。

 

 

「おまえの相棒やばいな。今からA級でも通用するレベルだぞ」

 

 

「いえ、クロウさんこそすごいと思います。重いレイガストで空閑のスコーピオンに着いていけるなんて…」

 

 

 

 

2人の評価も知らずに、勝負は後半に突入していく。

 

 

 

 

6本目

 

遊真のスコーピオンがクロウのトリオン体にある2つの弱点のうちの1つであるトリオン供給器官を貫くも、同時にクロウのレイガストが遊真の首を飛ばす。引き分け。

 

 

7本目

 

遊真の猛攻を凌いだかと思ったら首を飛ばされていたクロウ。体の中で刃を枝分かれさせて増えたように見せかける枝刃(ブランチブレード)にやられる。

 

 

8本目

 

ダブルセイバー・レイガストの綺麗な連撃が決まり、防御に回った遊真をそのままスコーピオンごと叩き切って勝利。

 

 

9本目

 

ここで始めてレイガストのシールドモードを展開したクロウが、シールドバッシュで遊真の体勢を崩したところを追撃して勝利。

 

 

 

 

 

ここまで、互いに4勝1分け。次で勝負が決まる10本目

 

 

 

対面した2人はこれまでのように即座に勝負を仕掛けるわけではなく睨み合った。

 

 

「強いな、空閑」

 

 

「クロウさんこそ。後半はほとんどとられちゃったし」

 

 

「は、ほとんどとってやっと互角のスコアなんだがな…」

 

 

「……じゃ、決着つけよっか」

 

 

 

楽しい、とそんな事を思うクロウと遊真。互いに全力でやり合っても、生身は傷つかない。トリオン体だから痛みもなく戦い続けられる。こうやって何度でも経験を積める。ランク戦というシステムは良く考えられている。

 

 

 

 

互いに駆け出した2人は睨み合っていた中央で刃を交える。

遊真の速度に乗ったスコーピオンでの攻撃を捌くだけで精一杯だ。しかも遊真は決してクロウの正面に立とうとはしない。常にクロウの周囲を回って死角を取ろうとしている。

だがクロウもそんな事は百も承知で、死角に回ろうとする遊真にタイミングを合わせてステップを踏み、遊真を正面に捉える。

 

 

瞬間、レイガストをシールドモードに切り替えて遊真に叩きつける。吹き飛ばされて体勢を崩した所にレイガストをブレードモードに再度切り替えたクロウが追撃する。

レイガストは確実に遊真の首筋を捉えーーーー受け止められる。

 

 

 

「同じ手はくわないよ」

 

 

 

見ると、遊真の首からはスコーピオンが生えており、それでレイガストを受け止めたようだった。やはり耐久性の問題かひびが入っているが、一瞬止められればそれでいい。

 

 

レイガストを受け止めつつ遊真は右腕を振り上げる。その手には枝刃で薄く伸ばされたスコーピオンがあった。

 

クロウはかろうじて首を飛ぶのを避けたものの、首筋を大きく切り裂かれてしまう。途端にトリオンの漏出が始まる。放っておけばトリオン漏出過多で負けてしまうほどの傷だった。

 

 

速くカタをつけないとな、と遊真を見据えるクロウだったが。

 

遊真は距離をとって建物の屋上に立ち、冷ややかな目でクロウを見ている。

 

 

 

「ごめんねクロウさん。ここは確実に勝たせてもらうよ」

 

 

 

遊真はそう言うと、建物の影に消えていく。遊真を追ったクロウだったが、地形踏破訓練でも遊真に負けていたクロウが追いつけるはずもなく、やがてトリオン漏出過多で勝敗は決した。

 

 

 

 

クロウ XX○X○△X○○X

空閑 ○○X○X△○XX○

 

 

最終戦績として、クロウの4勝5敗1分けとなった。

 

 

 

「くぁ〜、負けちまったか!」

 

対戦ブースから出てきたクロウはそう言って少しだけ悔しそうにした。

同じく対戦ブースから出てきた遊真はクロウの元へ歩いていき、ぺこりと頭を下げる。

 

 

「おつかれさまでした、クロウさん。最後は逃げて悪かったね」

 

 

 

「いや、いいさ。戦略的撤退ってやつだろ。おれも同じ立場ならそうする」

 

 

 

どうやら2人は勝負を通して友情を育んだようだった。

そこに2人の保護者である夜凪と三雲がやってきた。

 

 

「おーす、おつかれさん」

 

 

「あ、夜凪先輩」

 

 

「ヨナでいいぞぅ。みんなそう呼んでるし」

 

 

「了解、ヨナさん」

 

 

軽妙に遊真と会話した後、夜凪はクロウの左手の甲を見た。

 

 

3258

 

 

ポイントは大幅に減っていた。

 

 

「ふむふむ。こうなったか」

 

 

クロウと遊真のポイント差はそれこそ3000ほどあった。ポイント差があればそれだけ勝敗時のポイント移動が大きいという法則のせいでクロウのポイントは大幅に削られていた。

 

 

そこで三雲が夜凪の独り言が何を意味しているのかを理解した。

 

 

「あれ、クロウさんはさっきまでポイント4000以上でしたよね。ということはもうB級なんですか?」

 

 

「やー、たぶん違うな」

 

 

三雲の疑問を即座に否定する夜凪。これはいつもの直感ではなく、()()()()()()()()()()()からそう言えるのだ。

 

本来、C級とB級A級は模擬戦を行う事はない。そもそもC級のトリガーは訓練用だし、装備できる武装の数が違うからだ。

そういった事情から、仮にC級がB級A級と模擬戦をしてもポイントの移動はない。

 

しかし、今回の模擬戦ではポイントの移動があった。という事はクロウはまだB級と認められていなかったという事だ。

本来、ポイントが4000を超えた時点でB級昇格。そしてポイントが4000を切ってもC級に降格する事はない。だから本当ならクロウはB級隊員でおかしくないはずなのだが。

 

 

そもそも入隊初日でポイントを4000を超えた者は過去に存在しない。そういう意味で入隊初日の人間がポイント4000を超えても自動でB級昇格が行われるシステムが構築されていなかったのかもしれない。

 

と、そういった説明をすると三雲は驚きながらも納得してくれたようだ。適当な推論を並べただけなのでそう感心されると心苦しい夜凪だった。

 

 

 

「さてさて、これはどう上に説明したもんか……」

 

 

 

面倒な事になった…と頭をかく夜凪。

上層部の狙いは明白だ。まずクロウをB級に昇格させてから、黒トリガー『七の騎神』を渡してS級隊員とする。ボーダーの戦力を向上させるのが狙いだ。

しかしC級隊員はS級に任命する事ができない。だからクロウの初期ポイントは3990なんて高いものだったのだ。

 

 

そして、夜凪が上層部から言われていたのが。

クロウの入隊を見守りポイントが4000になったのを見届ける事だった。

 

ポイントが4000になったらもうB級っしょ!と考えていた夜凪はクロウと遊真の模擬戦を軽い気持ちで観戦していたのだが、ポイントの移動があったのでは話が違う。

 

 

 

「あー、これは怒られるやつだな。城戸さんが激おこになるやつだ」

 

 

怒られる未来を予感したようで夜凪は頭を抱えて、クロウを連れて司令室に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

☆★

 

 

1月8日ボーダー入隊日

 

クロウ・アームブラストは一時4000ポイントを超過するも、直後のランク戦で大幅にポイントを失い現在のポイントは4000に満たない事からC級隊員扱いとする。

*入隊初日の4000ポイント超過者を自動でB級に昇格するシステムの構築を提案する。

 




という感じの4話でした。
戦闘訓練で歴代記録を更新するも、すぐに抜かれ、さらには個人ランク戦では敗北しC級残留というクロウの不遇回。

クロウはまだ遊真に勝てません!トリオン体での戦いの経験の差が出ちゃった感じです……
一応クロウをフォローしておくと、遊真でもクロウと正面から当たるのはまずいと考えて常に死角を取ろうとした、というくらいですね。




ここで突然の表紙裏風のキャラ紹介




老け顔剣士(もどき)トーヤ
八葉一刀流にこだわる初代剣術バカ。子供の頃変顔で遊び過ぎて13歳からデコのシワができている。ボーダーではかなりの古株だが、後輩たちから先輩扱いされる以外ではだいたい扱いが雑。闇が深い。リィンからモテスキルは受け継いでいない。


あれ表紙裏なのか裏表紙なのかわからん……誰か教えてください……(汗
トーヤこと夜凪刀也の紹介でした!

クロウのぶんはまだできてません!!
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