ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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Ⅶ"sギア 

製作者:リィン・シュバルツァー
構成素材:黒の呪い
適合者:夜凪刀也

能力
生前のリィン・シュバルツァーの剣技を扱う事ができる。が、奥義とされるものは黒の呪いにより制限されている。
ARCUSを開帳する事により、リィンが縁を結んだ人物の幻影と共に武具を召喚する事ができる。召喚した武具を鍵として制限を解除する事が可能で、鍵となれるのは新旧Ⅶ組のみ。制限を解除する事で奥義が発動可能になる。
ARCUSの“開帳”で武具を呼び出し、“駆動”で呼び出した武具が鍵となれるか選定し、適合した武具の数だけ制限を解除する“駆動完了”のフェイズに分かれている。



不惜信用のコンゲーム
現実はだいたい想定外の事が起きる


「それじゃ話が違う!」

 

 

まるで机を叩くような勢いで言葉を発したのは夜凪刀也だった。その声に秘められていたのは憤りというよりは焦燥に近いものだ。

 

先程のセリフはまさに約束を違われた側の決まり文句であった。

 

 

 

ガロプラの遠征から一夜明けた翌日。

 

 

刀也は上層部から呼び出しを受け、司令室に向かう。そこにいたのは玉狛支部長の林藤を除くいつもの面子だ。すなわち城戸、忍田、鬼怒田、根付、唐沢の5人。いずれもボーダーの中核を為す存在であり、5対1という人数比だとまるで面接を受けているような気分になる。

 

緊張するのは柄ではない刀也はいつも通りを装って「失礼します」と入室した。

座る5人の前にゆったりと立つ刀也にかけられた第一声は忍田からの労いだった。

 

 

「昨日はご苦労だった。君の活躍がなければ我々はもっと苦戦していただろう」

 

 

苦戦はしても敗北はありえなかったが、と続けたいであろう忍田に微笑を浮かべつつ軽く会釈をする事で返事とする。肯定も否定も、今は遠い。Ⅶ"sギアは風刃などとは違い、まさしく“リィン・シュバルツァーになる”とでも言うべき黒トリガー。

他人の力を己が物のように振るい増上慢できるほど刀也は自己否定していない。

 

 

「Ⅶ"sギアの戦力…観測させてもらったが大したものだ。我々はその黒トリガーの価値を認める」

 

 

対ガロプラ戦における刀也の戦闘は観測されていた。監視されていたわけではないが、トリオンの出力などは把握されているだろう。そもガロプラ戦以前にⅦ"sギアの能力はすべて詳らかにしていたため、性能についてはデータは取られている。ガロプラ戦における狙いは実戦で使えるのかどうか、という点だった。

 

 

「君の提案に乗ろう。エネドラを核にしたトリオン兵の運用を認める」

 

 

忍田を言葉を継ぐようにして城戸が本題を告げる。今回の戦果。対ガロプラ防衛戦における刀也の目的。ゼムリアへの帰還を果たすためのクロウと刀也の“最後の切札”。エネドラの知能を搭載した人型トリオン兵の運用。

 

 

「昨日の防衛戦で敵が使っとったトリオン兵…アイドラというらしいが、それを鹵獲できたから人型トリオン兵の開発は大幅に時間短縮ができるじゃろう。隊員らと同じように運用するにはまだまだ改善点があるだろうが、ひとまず夜凪隊には鹵獲した一体をいくらか改良したものを回すが…3日待て」

 

 

鬼怒田は鹵獲したアイドラを刀也らに受け渡すと言うが、たったの3日である程度まで仕上げられると言わんばかりのワーカホリックぶりに片眉を吊り上げて「無理しないようにお願いしますよ」と気遣った。すでに鬼怒田の目の下には隈ができており、昨日から今日にかけて徹夜したものと思われた。

 

 

「トリオン兵の運用とは…バレた時を思うと頭が痛いですねぇ…どれほど市民感情を煽る事になるか。今から建前でも考えておかないと。いざとなったら提案者として矢面に立ってもらいますが、いいですね?」

 

 

続いて根付が苦悩を刀也に向けた。刀也はリスペクトしている根付の意図を察し、少しばかり恭しく礼をしたまま言う。

 

 

「根付さんのシナリオ通りに演じればいいだけなら、喜んで」

 

 

アフトクラトルの侵攻後の記者会見とは違い、仕込みだけではなく仕込まれた側も喜悲劇のように想いを懺悔してやろう、とアイコンタクトを交わす。

 

 

「…では、提出してくれ」

 

 

忍田の視線を受け止め、刀也はポケットからⅦ"sギアを取り出して躊躇いなく机に置く。

友達にまたね、と言うような気安さで、感傷は不要と言わんばかりに。執着を見せるのは弱味を見せるのと同じだと考えて。

 

 

「君に提案がある」

 

 

刀也が黒トリガーを机に置いたのを確認して、城戸はそう言った。

 

 

「人型トリオン兵の試験運用を太刀川隊に任せる気はないか」

 

 

 

思考に、刹那の空白。

 

 

次の瞬間「それじゃ話が違う!」と刀也は叫んでいた。敬語すら忘れるほどに頭に血が上っていた。

 

言ってから失敗したと気付く。

 

 

いつもの夜凪刀也なら「ないです」の4文字で返事していたはずなのに、激情を見せたのはそれだけ件の提案に賭けているのだと白状させるかのような罠。

 

城戸は約束を守るという確信をもって差し出したⅦ"sギアを渡した直後の提案だ。上司からの提案でも蹴る事ができる人格の刀也だが社会人経験がある故にそれは命令のようにも感じられて。まるで強盗のような論理に腹を据えかねて激した刀也。

 

この中でそんな手を打てるのは唐沢くらいのものだろう。城戸は腹に一物あるが根は善人だ。忍田も正義漢然としているから容疑者から除外となる。鬼怒田はそういった事には疎く、根付も情報操作には一家言があるが個人に揺さぶりをかけて真実を露呈させる術に長けているわけではない。

 

つまり犯人は唐沢だ。この罠を仕掛けた下手人は。元々悪の組織に所属していたと言われるだけはある悪辣。さすがに上層部を相手に化かし合いでは分が悪い刀也であった。

 

怒りを込めて未だ一言も発さない唐沢を一瞥する。座っているため必然見上げる形になる唐沢は“君がそういう人種ならそれなりの対処法はある”とでもいうような目である。

確かに刀也と唐沢はこのB級ランク戦のROUND3の前に少し話したが、あれで刀也の人格を把握して提案という罠を設置したとでもいうのだろうか。

 

 

ともあれ、これで刀也の執着は露見した。Ⅶ"sギアへの、トリオン兵の試験運用への。文字通りそれらの切札を奪われるだけという形になるのは避けたい。次の手があると思わせるような余裕を出したい所でもあるが、それで切札を失っては元も子もない。そのため、刀也の対応はどうしても中途半端なものになってしまう。

 

 

「…失礼。お断りします」

 

 

一瞬で取り繕ったのは見事であるが、すでにハリボテの冷静だと看破されている。“お断りだバカヤロー!”でごり押せば城戸の提案は引っ込められ、夜凪隊にトリオン兵の試験運用の権利は舞い戻るだろうが、それは弱味にもなる。

だから刀也は断る正当な理由をでっち上げなければいけないのだ。

 

 

「これは、君のため…夜凪隊のためにもなる提案だ」

 

 

城戸はそう言って会話を続ける。“夜凪隊は次の遠征部隊に選抜される事を目標としていたな?”という確認に刀也は“ええ”と答える。直接城戸に話したわけではないが忍田から伝わっているだろうとは考えていた事柄だ。

 

 

「確定ではないが、次回の遠征はこれまでにない大規模なものになる」

 

 

それはそうだろう、と刀也も頷く。アフトクラトルの侵攻によって奪われた人員を奪還するための作戦になるはずだ。

トリオン兵団がいたとは言え、一部隊でボーダーの戦力といい勝負をしたアフトクラトルに攻め込むのだ。いつもの遠征のように三部隊程度では精鋭を揃えた所で成功の望みは薄い。

 

となれば遠征艇をサイズアップして運べる人員を増やすのが妥当だ。そんな芸当を可能にする人物が玉狛にはいる。“確定ではない”というのはおそらくまだ玉狛に話を通していないからだろう。

 

しかし、それでもまだ不足する。アフトクラトルに連れ去られたと思われるC級隊員の数は16人。とても遠征艇ひとつで運べる数を超えている。

そこまで考えれば遠征艇をニ機以上で編隊を組んで遠征するだろう事までわかる。

 

 

「そして、遠征の件をマスコミに掴まれた以上はあまり時間をかけてもいられない。アフトクラトルがまだこちらの世界に近い内に作戦を始めたいのもあるしな」

 

 

忍田が城戸の言葉を継いで“理由”を話した。

その理由は大規模な遠征を行うというものに対してだけに向けられたものではなく、刀也はまさかと思う。

しかし、己が直感がそのまさかを肯定している。

 

 

「そのため今回のB級ランク戦はROUND8で打ち切り、その後遠征部隊選抜戦を行う事になった」

 

 

遠征の時期を早めるーーーそれは夜凪隊がA級に上がれない事を意味している。A級部隊になれないという事はつまり遠征部隊に選抜されない事も。

いとも容易く訪れる絶望に刀也の思考は鈍る。

 

こんな所で終わるのか、と。自分の手の届かない所で、大人たちの決定で。簡単に、容赦なく、Ⅶ"sギアすらを奪われてーーーーー

 

いいや、否。断じて否。

 

この話はそれだけでは終わらない。

 

 

「それに合わせ、遠征選抜戦にはB級ランク戦終了時に2位までの部隊に参加できるようにした」

 

 

B級1位、及び2位の部隊が遠征部隊に選抜される可能性もあると忍田は言う。これまではA級でも選りすぐりのメンバーのみを乗せた遠征艇の敷居を下げるという決定。それに併せて城戸の提案の意味も刀也は理解した。

 

 

つまり試作トリオン兵などをランク戦に連れていって足を引っ張られてB級3位以下に転落することを考えて城戸はあのような提案をしたのだ。

その事を実際に城戸の口から説明されてやはりそうかとひとりごちる。

 

善意100%ではないが、ほのかな甘さを感じさせる提案だった。タイミングが悪辣だったのはどうにも言い繕えないが。

 

 

 

「心配無用です。それに太刀川たちに後輩の育成が務まるとは思えません……唯我の例もありますし」

 

 

「どうあっても、我々の提案を飲む気はないと?」

 

 

「いえ、太刀川隊に比すれば夜凪隊の方が適任であると思うだけです」

 

 

 

“では他の部隊ならばどうだ?”と提案されても、その尽くを破却する用意が刀也にはあった。後進の育成においては安心安全の東塾も今は奥寺と小荒井で満員御礼。適性という面で見れば刀也は後輩の育成は東に次ぐ評価を得ている、悪い癖がでなければだが。

 

 

「ならば、実際に比べてみるのはどうでしょう?」

 

 

と、ここで初めて口を挟んだのは唐沢だった。適任である事を主張するのなら実力で証明せよ、という事らしい。

 

上司からの提案と言う形である以上どこかで折れる必要があると思っていた刀也は唐沢のこの提案を飲むことにした。

 

「わかりました」と刀也が返事をしたことで夜凪隊と太刀川隊の模擬戦が行われることが決定した。

 

模擬戦が行われるのは鬼怒田が宣言したエネドラの知能を搭載した試作トリオン兵が両部隊に仮入隊してから7日後となった。

 

☆★

 

 

 

「ふひぃ〜」と全身から脱力した気配を見せた刀也。背中には司令室の扉、上層部との謁見を終えて強張った体をほぐすためのルーチンだ。

 

 

脱力したまま向かうのは隊室…ではなく、病室だ。理由としてはクロウの見舞い、あの男は昨日から1度も目をさまさない。話によると黒トリガーを使ったようだが、それでリィンがそうなったように呪いに侵されたのだろうか。

しかし、クロウの体にはリィンにあったような赤黒いアザは見られない。おそらくリィンよりも呪いに蝕まれている度合いはマシなのだろう。

 

容体は心配ではあるが、先程の話し合いにクロウがいればもうちょっとマシな状況になったのではないかとも思う。そう考えると「無茶しやがってあのやろう」と少し怒りがこみ上げてこないでもない。病室に着いたらデコピンでも一発かましてやろうと刀也は決意した。

 

 

 

ガラリ、と病室のドアを開けて一歩中に入ってみるとそこではベッドから半身を起こしたクロウがりんごをかじっていた。

 

 

「起きとるんかい!」

 

 

心配して来てみれば心配された当の本人が平気な顔でりんごをかじっていると言うのは安心でもあるが、しかしデコピンの決意を固めた直後にこれとはなんともやり切れない感もある。

 

 

「お、刀也じゃねえか」

 

 

「……大丈夫か?」

 

 

色々と言いたいことを我慢して大丈夫かと尋ねた刀也。クロウは手に持っているりんごを弄びながら神妙な顔つきになった。

 

「まぁ今のところは小康状態ってところだな。たまに声が聞こえてくることもあるが、これ以上あの黒トリガーを使わない限り進行するってことはなさそうだ」

 

 

「それは、呪いが、か?」

 

 

「ああ。この世界でリィンを死に至らしめた黒きイシュメルガの呪い…あれは本来、人に乗り移る悪意だったが、奴を吸収したヴァリマールが黒トリガーになった事で本体は七の騎神から離れられなくなったみてぇだ」

 

 

「その辺の事情はリィンさんからちらっと聞いてるけど、要は七の騎神を使っている時間に比例して呪いが進行するって考えでいい?」

 

 

「そうだ」と肯定したクロウに刀也は「明日のランク戦、いけそうか?」と聞く。クロウは問題ないと返事をして、

 

 

「確か…弓場隊と鈴鳴第一だったか?」

 

 

「うん。どっちも油断ならない相手だけど…まあ二宮隊ほどじゃないかな」

 

 

ずっとB級上位を維持し続けている弓場隊と、中位から這い上がってきた鈴鳴第一。弓場隊は一人チームから抜けて今期は余裕がない。ソロのランク戦を好む弓場がほとんど部隊ランク戦にかかりきりな状況だ。鈴鳴第一は村上は脅威だが来馬と太一はそれほどでもない。

脅威度としては玉狛第二と五分五分、といった所だろう。

 

「あと一つ、大切な話があるんですが」と切り出した刀也は先程の司令室での提案の結果をかいつまんで話した。

 

 

「はっ、そいつは一杯食わされたな。まあやっちまったもんは仕方ねぇ」

 

 

切り替えて行こうぜ、とクロウは刀也を励ます。わざとらしく項垂れていた刀也も元気を取り戻したように「おう」と返事をした。

 

 

「それに、考えようによっちゃ渡りに船な提案でもあるしな」

 

 

クロウの言葉に数瞬考えて、「お、言われてみればそうだな。やるじゃんおれ」と刀也は自賛する。「調子のんなよ」とクロウが苦笑して、二人は神妙な顔つきになる。

 

 

「思ったより時間が少ない。切り崩し…始めていくか?」

 

 

「ああ、まずは太刀川隊からだな。件の模擬戦にかこつけて話をしてみるとするか。……太刀川隊なら大丈夫なんだよな?」

 

 

「たぶん。口外無用と言う必要はありそうだけど。それにただじゃ言う事聞かないだろうから、模擬戦の副賞として“勝ったら言う事聞く”とかやってた方がいいかも」

 

 

「なるほどな、じゃあそれでいこう」と結論したクロウ。刀也も薄く笑んで会話が終わる。

これは切札を使った後の話である。忍田を説き伏せた後の。正しく見送られるために打つ、離反の一手の。

 

 

 

 

 




Ⅶ"sギアの補足説明

黒の呪いの本体は『七の騎神』に封じられているため、Ⅶ"sギアを使用する事で呪いが使用者を侵す事はない。“呪いを受けたリィン”が黒トリガーになったため。

ARCUSによる奥義制限解除は、Ⅳでリィンが名前を取り戻す時シーンをイメージした設定です。本当は絆レベルがあった人物は合致としたかったのですが作者の記憶がおぼろげなため却下しました。
呼び出せる武具はARCUSで戦術リンクを繋いだ(かもしれない)人物のものです。
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