ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに 作:クラウンドッグ
たいへん長らくお待たせしましたが、短めです。なぜなら試合部分をかなり端折ったからです。なぜ端折ったかと言うと後書きだけという段になって文がすべて吹っ飛んだからです。
B級ランク戦ROUND5夜の部の組み合わせは1位夜凪隊、5位弓場隊、7位鈴鳴第一であった。
選択されたフィールドは市街地D…大型ショッピングモールを中央に備え、道幅の広い道路の多いマップ。
転送が終わり、ROUND5が開始する。
刀也はショッピングモールに転送されていて、すぐに鈴鳴第一の村上と会敵する。何合か応じた後、クロウから「二虎共食の計といこう」と作戦を提示されて窓を割って夜の闇に躍り出る。
ショッピングモールにはすでに鈴鳴第一が集結しつつあり、弓場もすでにその入口に到達していた。
刀也は村上を弓場にぶつけるとクロウの元へ駆けていく。
その頃クロウは帯島と交戦状態にあった。本来の実力差であれば瞬時に切り捨てる事が可能な相手ではあるが、帯島が引き気味に戦っている事に加えて外岡の狙撃を警戒して踏み込めずにいるのだ。
そこに刀也が合流する。夜凪隊は帯島を挟み攻撃を重ねるが、あえて撃破はしない。帯島をいたぶる事で外岡の狙撃を誘発しようとしているのだ。
場面は変わり、鈴鳴第一と弓場は熱戦を繰り広げていた。
鈴鳴第一は村上を盾として来馬が全攻撃を行うという新たなフォーメーションで弓場を相手に優勢に立ち回っている。
太一の狙撃を警戒してショッピングモール内で戦闘をしていた弓場だが、刀也とすれ違う際に「停電には気をつけろ」と助言されていた。もし本当にそうならば停電を起こすためには人を割かなければいけない。鈴鳴の2人が目の前にいる以上は太一が停電を起こす役なのだと理解した弓場は外岡に援護を頼んでショッピングモールから飛び出す。
弓場を追って来馬と村上もショッピングモールを出て、外岡に狙撃される。しかしその狙撃は予想していたものであり村上はレイガストで容易く受け止めた。
だが、村上の意識が一瞬でも狙撃に向いた瞬間を狙って弓場が前に出る。二丁拳銃の銃口を来馬に向けて引き金を引く。来馬の危機に村上は再びレイガストで射線を遮るも、途中で弾道が変化し来馬に向かっていたはずのトリオン弾は村上を貫いていた。
来馬を庇う性質を有する鈴鳴第一という部隊の特性を見越して弓場はバイパーを使って村上を撃破したのだった。
それと同時に来馬のアサルトライフルから放たれたハウンドが弓場を蜂の巣にする。
村上に続き弓場が緊急脱出。更には弓場を援護した外岡も太一に狙い撃たれて緊急脱出するのだった。
立て続けに空を走る緊急脱出の光に夜凪隊は残った相手は鈴鳴第一の来馬と太一であると看破する。すでに外岡が撃破されているのなら帯島を相手にしても意味はなく。帯島の抵抗も虚しく刀也の新技…旋空の射程を短くする事で効果時間を伸ばす“旋空延月”により撃破されてしまう。
その後夜凪隊はショッピングモールで鈴鳴第一と対峙する。鈴鳴第一はダミービーコンで撹乱しつつ停電による奇襲を行おうとするも、実行役の太一が刀也に捕捉される。
太一を追う刀也は嫌な予感を感じつつも先に進み、予期しないタイミングでの停電により太一にトリオン供給機関を撃ち抜かれてしまう。しかし緊急脱出する刹那に旋空孤月を放ち太一を道連れにするのだった。
予期せぬタイミングでの停電により奇襲を受けたのはクロウも同じであった。停電した瞬間に来馬のハウンドがクロウに迫るが奇襲を予想していたクロウはレイガストで致命的なものだけを防ぐ。ハウンドを捌いたと思ったのも束の間であり、クロウの背後でメテオラが爆ぜる。爆風に煽られて体勢を崩したクロウを来馬が追撃。多角的に放たれたハウンドにクロウも穴だらけにされるも、レイガストを盾に突撃、サブの拳銃で来馬を倒したのだった。
結果は5対3対1で夜凪隊の勝利。しかし辛勝であり解説からは批評を受けるのだった。
☆★
「や」と手を挙げて姿を現したのは迅であった。相変わらずぼんち揚げを手に気軽に夜凪隊の隊室に入ってくる。
「さっきのランク戦の結果には満足してる?…わけないか〜」
言って、すぐにクロウや刀也の表情が曇った事から嘆息する迅。
ひとまず飲み物を与えて4人でテーブルを囲む。
「ま、一応まだ無敗だしいいんじゃないの?」
「そうだねぇ…B級1位の座は揺るがず、だ。何がそんなに気に入らない?」
迅の言葉に陽子が乗っかり2人に訊ねる。クロウはようやく苦い顔を崩して、
「無敗ってのは目的じゃなくて手段だからな。…ま、確かにランク戦より太刀川隊との模擬戦に頭がいってたってのは事実だぜ」
無敗というのは“夜凪隊は強い”というイメージを定着させるための手段である。そのイメージを固定化する事で万が一遠征隊に選ばれなかった場合にはボーダー隊員らを扇動して選抜のやり直しを要求するつもりであった。
「つーか、鈴鳴の最後の策はエグくね?ログで見たけど遠隔停電とかどうやって防げって話だよ」
「夜凪隊にやられた人たちはみんなそう思ってるだろうね」
刀也の愚痴を聞いて笑いながら「初見殺しは夜凪隊の十八番でしょ」と指摘した迅に言葉を詰まらせる。
「それはいいだろ」とクロウは言って、迅に要件を促した。
「あたしは出とくよ」
気を利かせて退室しようとする陽子をクロウが呼び止める。
「迅、ここに来たって事はそういう事でいいんだよな?…だったらもう陽子にも話しといた方がいいんじゃねえか?」
迅の首肯を見届けて刀也に問う。
「そうだな、そろそろ陽子にも聞いといてもらおう。夜凪隊の仲間だしな」
クロウ刀也が言っているのは“ゼムリアへの帰還”やそのための“悪巧み”についての事だった。
先日、エネドラ=トリオン兵の運用について未来視してもらった際に迅とは少しだけ話をしていて、今後協力してくれるのなら隊室に来てくれ、という話になっていた。
その迅が来たという事は協力の意思の表明であり、きちんと説明するなら陽子にも話を通すべきという流れだ。
陽子も再び着席し、情報の共有が為される事になる。
コーヒーを飲んで舌で唇を湿らせたクロウが徐に語り始めた。
「まず…おれと刀也の目的は、おれとリィンの故郷である“ゼムリアへの帰還”だ」
「リィン…リィン・シュバルツァーだね。ヨナさんの剣の師だって言う。それにゼムリア……それがクロウ、アンタの故郷の名か。聞いた事のない国名だが、やはり近界にあるのかい?」
「ああ、おそらくはな。おれたちの世界にはトリガーやトリオンなんて概念はなかった。…名前を変えて存在していたかもしれないが……まあ、そう考えれば色々と符合するもんがあるって事だ」
ゼムリアにはゼムリア大陸しかなかった。他の大陸なんかは存在せず、海を渡ろうとしても戻って来てしまうという世界の在り方だった。それを逆に女神の証明とする者どももいるが正直苦し紛れの解釈だ。
それが本当に女神の証明であると仮定するならば、おそらくは何らかのトリガーを使って世界をそこで区切っているのだろうと考える事が可能だ。リィンやクロウがゼムリアを離れて三門市に来れたのは“大イナル一”という規格外が女神の枷を外せるだけの力を持っていたから。
推測に妄想を重ねただけの推論だが、妙に筋が通っている気がする。
「おれたちはその目的のために遠征部隊に選ばれる事を第一の目標としている」
クロウを思考の海から浮上させたのは刀也の続く言葉。
「当初おれは遠征中に無断で離脱するつもりだったけどクロウが忍田さんに話したらしくて……んで、忍田さんを説得してきちんとゼムリアに向かうって感じになってる」
「へぇ…忍田本部長を納得させるだけの材料を揃えてるのかい?アンタらみたいな実力者はそう簡単には手放したくないはずだよ」
陽子の言う通り、ボーダーにおいてクロウと刀也は屈指の戦力だ。黒トリガーを使える人員という事からも手放し難いだろう。しかし、それよりも問題なのは…
「織り込み済みだ。ボーダーから脱退する事自体は隊員の自由意志に委ねられてるから問題ねえはずだが……遠征中に、ってタイミングが最悪だ」
「まあそれでも納得させるだけの材料をかき集めてる段階なんだよね、今は」
クロウの言う通りであり、しかし最悪のタイミングでの脱退を許可される程の材料を集めているのだと刀也は言う。
「なるほど、エネドラの件もその一環というわけだね」
と、そこで迅が口を挟む。
実際には実績作りというよりはもっと悪辣で子供じみた一手ではあるが、クロウと刀也は揃って頷く。
話が一段落し、皆がコーヒーを啜る。ふぅ、と一息ついて「しかし迅」と刀也が話しかけた。
「おまえが協力してくれるのは正直意外だった。何か良さげな未来が見えたとか?」
迅悠一は飄々としていて掴み所のない実力派エリートだが、その実“未来視”のサイドエフェクトを持つが故に責任感は人一倍どころではない。
それは世界が平和である事への責任という、常人には分かち難い重荷である。
だから迅はお人好しのように見えて実際は刀也も顔をしかめるレベルで外道じみた手を打つ事もある。
その迅がクロウや刀也といった黒トリガーを扱える実力者の脱退する手助けをするとは、らしくない。
ならばこれも最善の未来に辿り着くための布石なのでは、と刀也は考えたのだ。
「……実を言うとさ、すごくまずい未来が見えてるんだよね」
いつになく真面目な表情をした迅に夜凪隊の3人ともが目を細める。
「最悪、世界が滅びる」
その言葉に、刀也も陽子も絶句した。2人ともそれなりの修羅場は潜って来た猛者と言っても過言ではない。しかし“世界が滅ぶ”なんて今更映画でもそうそうない話だ。
それを現実に持ち出されて、2人はどう言葉を継げばいいのかわからない。
しかし、誇張なく世界の存亡を懸けて戦った経験のあるクロウは違った。
「本気の話か…?」
「間違いなく本気だよ。……このままだとこの星の文明や文化は失われる事になる」
「……いやいや。いやいやいや………そりゃ、ないだろ迅。第三次世界大戦でも起きるって話か?」
いち早く正気を取り戻したーーー否、ただそう繕っただけの刀也が苦笑いのようなものを浮かべて言った。
「本気で世界が滅びるって話をしてるとして、一介のボーダー隊員に聞かせてどうする?おまえがここでその話をする意味がわからんぞ」
世界が滅ぶなんて非現実的で、もし仮にそうなら自分にそれを覆す力なんてなくて。
ならば迅がこの場でその件について語る意味は?
「もしかして……だからこそ、なのかい?」
真っ白になった思考をフル回転させて、陽子が迅に問いかける。迅は神妙な顔つきのまま「そうだよ」と肯定した。
「このままだと世界が滅びる。だからこそ、それを回避するために…ここでヨナさんたちにこの話をしているんだ」
つまり迅はこう言っているのだ。
「おれたちに、世界の命運を懸けた戦いの当事者になれ…って事だな」
世界の命運を懸けた戦いの当事者。
なんだそれは、と言いたくなる。核兵器の発射スイッチでも握らされてる気分だ。
クロウの言葉に刀也は頭を抱えて、たっぷり5秒間唸る。
「おれたちに言うって事は、やっぱ近界民関係なんだな…?」
しかして、次の言葉は迅の言葉の意図を読み解いたものだった。
刀也とて黒トリガーとなったリィンをゼムリア大陸なんて誰も知らない場所に連れて行くという非現実な目標を掲げた者。世界の存亡を懸けた戦いはもっと非現実的だが、それを現実として受け入れるだけの土壌はできていた。
迅は刀也の問いかけに首肯で答えると、
「ヨナさんとクロウさんが、世界の滅亡を阻止するキーパーソンになる」
そう断言したのだった。
迅によると“その戦い”については、まだ玉狛支部長の林藤と夜凪隊にしか知らせていないと。いずれ城戸や忍田にも話すが、今は時ではないらしい。
繋げて考えてみる。
迅がクロウと刀也のゼムリア行きに協力するのは、世界の滅亡を阻止するため。
一見すると関わりのない事象だが、クロウと刀也がゼムリアに行く事で世界の滅亡を阻止できるかもしれないなら、どうして迅はそれを城戸や忍田に話さないのか。
城戸や忍田は界境防衛機関の幹部として、近界民から世界を守る義務がある。クロウや刀也を手放す事でそれが叶うならあの2人とて首を縦に振るのではないだろうか。
「それはできないんだ。おれにも色々事情があってね。悪いけど、ヨナさんたちには自力で遠征に行ってもらう必要がある。もちろん忍田さんの説得も込みでね」
そんな事を言ったら迅は事情があるのだと誤魔化す。その理由を語らないのは、語らない方が良い未来に繋がるからか。
「わかった」と納得を示して、今度は陽子に向き直る。
「思った以上に大事になっちまったが……陽子はどうするつもりだ?迅みてぇに協力してくれるなら嬉しいが…」
クロウの不安を陽子は「はっ」鼻で笑って景気良く吹き飛ばす。
「ここまで聞いといてあたしが引き下がるとでも思ってんのかい?あたしも同じ夜凪隊だ、クロウやヨナさんと同じ目的を掲げてこそなんじゃないかい」
事が事だけに非戦闘員は参加非推奨ではあるのだが、陽子はオペレーターには珍しく戦える部類。それも攻撃手最高峰の腕を持つ。短期決戦に限った話ではあるが。
協力してくれるのは頼もしい反面、危ない事に付き合わせられないという気持ちもあったクロウや刀也だったが、陽子の覚悟の決まった目を見て同行を許さない事には話が進まないと理解して嘆息した。
特に刀也は数年かけて決意を固めただけに、瞬時に決断した陽子の女傑ぶりに舌を巻く思いである。
ひとまず夜凪隊総員がゼムリアを目指し、迅は裏から協力するという事で話はまとまった。
気を抜いた一瞬で「しかし」と陽子が新しく話題を振る。
「説得するのは忍田本部長なんだね?城戸司令ではなく」
陽子の懸念ーーー疑問も尤もである。クロウと刀也、ついでに陽子のゼムリア行き…しかも黒トリガー『七の騎神』と『Ⅶ"sギア』も着けて、となれば説得は困難。しかし説得して行くと決めたのならば、その相手はボーダーの最高権力者である城戸司令で然るべきだ。
いくら忍田本部長を説得しても権力で勝る城戸司令を説得できなければ、これまでの努力も水泡に帰す事になる。
しかし、陽子の疑問を耳にしたクロウと刀也は揃ってニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「それについちゃ策がある」
クロウが言って、刀也が続ける。その答えに陽子はらしくなく素っ頓狂な声をあげるのだった。
「おれたちは、忍田さんを王にする」
久しぶりの投稿ですが、今回は6000字弱。ホントはプラス一万字くらいあったんですが、試合部分を端折った(データが消えた)ためこの程度となりました。
またぼちぼち更新して行きます。