ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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戦闘シーンまで入れると長くなるから分断!したんですが、それだと逆に短めになってしまいました。


激突するはA級1位とB級1位

 

 

太刀川隊のドアが開き、姿を見せたのは夜凪刀也であった。

いつものように「おすおす」と気軽にずかずかと隊室に入ってくる刀也を、唯我は顎を落とし切って迎える。そしていつもなら刀也を笑顔で迎えるはずの太刀川は、笑顔で…しかし純粋なそれではなく不敵な笑みで「おいおい」と立ち塞がった。

 

 

「偵察にしにゃずいぶん堂々としてんな、ヨナさん」

 

「厳密にルールが決まってないとは言え、ちょっと予想外だったな」

 

 

太刀川に続いて出水も刀也の前に立つ。オペレーターの国近だけがのんびりとしたまま「おっす〜」と刀也に手を振った。

 

太刀川らがピリついているのは、30分後に夜凪隊との模擬戦が迫っているからだ。今は両隊ともブリーフィングタイムと洒落込んでいるはずだったが、太刀川隊の隊室に刀也が現れた事でそれは否定された。

と言うよりは夜凪隊はブリーフィングをさっさと切り上げて太刀川隊の偵察に来たのか、というのが太刀川や出水の考えだった。

 

 

「偵察じゃねーよ、後輩ども。……なんか、今日は悪いと思ってな、こんな事に付き合わせて」

 

 

わずかに肩を落としながら謝罪の意を見せた刀也に太刀川らは刀也がこの場に来た意味を理解し始める。

 

今日の太刀川隊と夜凪隊の模擬戦は“エネドラ=トリオン兵”の試験運用役をどちらの隊にするか決めるものだ。

1週間前に両隊に一機ずつ件のトリオン兵が支給され、それを育成して今日の模擬戦で戦わせ、どちらの部隊がより試験運用役に適しているか証明するための、言わばエキシビションマッチ。

 

とは言うが、実際はエネドラ=トリオン兵のみを戦わせるのではなく太刀川隊と夜凪隊の模擬戦で、勝利した方に試験運用役が委ねられるため育成上手な部隊が必ずしも勝つわけではないという点がミソだ。

 

これを提案した上層部の“試験運用役を太刀川隊にやらせて夜凪隊の功績を低減しよう”という意図が透けて見えるが、夜凪隊はそれでも勝利しなければ忍田を説得する切り札を失ってしまう事になるため必死であった。

 

必死であった、が。それでも先を見据えるのが夜凪刀也やクロウ・アームブラストという人物であり、この場に刀也が来たのもそのためだった。

 

 

「別にいいさ、ヨナさん。久々に全力のヨナさんとやれんのも楽しみだしな。……いや、初めてなのか?」

 

 

太刀川隊としてはエネドラ=トリオン兵の試験運用役に任命されるのは面倒でしかないが、やれと言われているため仕方ない。

それに太刀川も言う通り、今期のB級ランク戦で無敗のまま1位の座に駆け上がった夜凪隊と戦いたいという気持ちはあった。

 

だが、それだけでは太刀川隊に旨味がなさ過ぎるだろう?

 

 

「さてな。ま、今日のこれが終わったら何か飯でも奢るわ」

 

「あ、おれ焼肉がいい」

 

 

太刀川の疑問をさらりと受け流した刀也に、出水は続けて高級焼肉店の名前を出した。

「う」と笑顔が固まった刀也はわざとらしく咳払いして、「じゃあ、こういうのはどうだ?」と提案する。

 

 

「今日の模擬戦で勝ったチームは負けたチームに何でも命令できる」

 

 

それが高級焼肉店で奢らされる事を忌避した刀也の苦肉の策だと見た太刀川隊は勢いのままその提案に食いつき。

 

そして布石は打たれる。

 

 

☆★

 

 

「それで、作戦はどうすんだ」

 

 

猿ども。と言いたそうな表情のまま話題を持ち上げたのはエネドラ=トリオン兵もといグランであった。

 

先のガロプラ襲撃の際に手に入ったトリオン兵『アイドラ』を改造したものにエネドラの知能が搭載されている。それを開発班から貸与されたのが1週間前の事である。

太刀川隊も同じく1週間前に改造アイドラinエネドラを貸与されていて、この1週間でどちらの部隊がより良くエネドラを育成できたかを測る…というのが今回の模擬戦の主旨である。

 

1週間で育成もへったくれもないというのが正直な意見だが、加えて夜凪隊は3日前にROUND5を終えたばかり……この1週間をエネドラの育成のみに注力できなかった。そういう意味でもハンデがある夜凪隊だが負ける気はさらさらない。

太刀川隊は間違いなくボーダー本部最強の部隊だが、だからと言って敗北すると決まったわけではない。

彼我の力量差が結果に直結するわけではないのだ。

 

 

「まずは数的不利を互角まで持ち込みたい。倒す相手は手っ取り早く唯我がいいだろうな」

 

「ログ見たが、なんであんなのがA級1位の部隊にいるんだ?」

 

「唯我は親がボーダーのスポンサーで、そのコネ」

 

 

すらりとクロウの疑問に答える刀也。コネ入隊だが思ったのとは違うボーダーライフを送っている事は間違いない。

 

唯我の前に太刀川隊のメンバーであった烏丸が今も部隊に残っていれば勝率はさらに低かっただろうな、と考えてすぐに思考を中断した。

 

「ま、そんなにさくさく人数が減っていく展開にはならないだろうねぇ。だったら、早いうちに唯我を落としておくのはありだ」

 

 

陽子がいつもの調子で刀也に同調する。

 

「ああ、唯我はあれで……本人が言ってる通り本領はチーム戦だからな。単独での戦闘力は雑魚同然だけど、戦場を広く見る目がある。絶妙なタイミングでのサポートが今まで太刀川隊を助けてきた事が何度かある」

 

 

「あー、要はあまり戦えねえが領地経営は上手い貴族サマみてーな感じか?」

 

 

ログで見ても唯我の活躍は発見できなかったクロウだが、刀也の言葉にそれとなく理解を示す。刀也は「たぶんそう」と肯定して、作戦の説明を続ける。

 

 

「でも無理はしない。唯我を落とすのを優先するのは最序盤だけ。レーダーの動きからどれが唯我が推測して速攻で落とす。指示は頼むぞ陽子」

 

「ああ、任されたよ。唯我退治に送るのは直近のやつでいいかい?」

 

「まあそうだな……他の面子にも注意だけど機動力ならうちが勝ってる。太刀川はグラスホッパー持ちだから気をつける必要はありだけど」

 

「出水も中距離から撃ってくるかもだし」と続けて、エネドラを見る。

 

「それにあっちのグラン……エネドラが何をしてくるかも要警戒ってところだな」

 

 

当然ながら刀也が太刀川隊の隊室に挨拶に行った時に部屋の奥にはエネドラの姿が見えた。外見は大規模侵攻時のエネドラを少し幼くした感じで、こちらのグランとは隊服の違いくらいしか相違点がない。ちなみに黒いトリガー角はつけてない。

 

 

「太刀川たちがどんな風にグランを育てたのか……ある程度予測はつくんだったな?」

 

考え込むようにしてクロウが口を挟む。内容は太刀川隊のエネドラがどんな技能を身につけたのか。

 

「そうだな……太刀川隊の2人は良くも悪くも天才肌…人にものを教えるのはあんまり得意じゃないはず。と考えると放任か、基礎だけ叩き込んで後は実践訓練とかかなーって」

 

出水が二宮に合成弾を教授したエピソードは例外だ。あれはどっちも天才だから。と刀也は心の中で言い訳する。

 

「当てずっぽうだけど、悪くないんじゃないかい?欲を言えばトリガーセットも推測できれば…」

 

 

「それについちゃ、もう話しただろうが」と陽子の言葉を遮ったのはエネドラだ。早い話が、こちらのエネドラにしろあちらのエネドラにしろ、独立して一週間。元から適性のあるもの以外は碌に扱えないだろう、という結論がすでに出ていたのだ。

 

タイプとしては中間距離で戦う万能手。

 

おそらく太刀川隊のエネドラも同じ戦い方をしてくるものと思われる。

となれば弾トリガーやブレードトリガーを積んで、他は適当にシールドやバッグワームが考えられる。狙撃系のトリガーはないはずだ。

 

「使うとしたら射手タイプのアステロイドがハウンドあたりか。ブレードトリガーはスコーピオンがいいんだったか?」

 

「ああ、泥の王の代わりにしちゃ及第点もいいとこだが」と刀也の問いに忌々しげに答えるエネドラ。

 

「ま、脅威度としちゃ太刀川や出水には劣んだろ。序盤の強襲には加われねぇだろうよ」

 

クロウが出した結論に刀也も陽子もエネドラも頷き、ひとまず話題は次へ。

 

 

「ルールはB級ランク戦と同じって話だが…」

 

確か、と声をあげたエネドラ。この日以前から開発室でB級ランク戦を見ていた事もあるらしくルールは把握していた。

 

 

「ただいつもと違うのはマップは市街地A、時刻は昼の天候は晴れって事前に決まってる事だな」

 

 

エネドラの説明に捕捉して刀也は部屋の時計を見る。「あと5分か」と呟いて確認し、

 

「今回の模擬戦でうちが有利なのは狙撃手がこちらにだけいる事。クロウは狙撃手ムーブで相手にプレッシャーかけて意識させといて、中盤からはバッグワームで隠れつつ奇襲を狙う感じで」

 

 

刀也の指示にクロウは「了解だ」と答え、視線はエネドラへ。

 

 

「グランは中距離でおれの援護を頼む。合流するまでは太刀川と出水とはやり合うなよ」

 

「あ、おれが負けるって話か?」と怒りを剥き出しにするエネドラに軽々しく「そうだよ」即答し黙らせる。

事実、エネドラはこの一週間で夜凪隊にしごかれてそこそこ成長したがクロウや刀也に対する勝率は未だゼロ。そんな2人が難しい相手だと言うのだから、やはり自分では無理なのだろうと納得してしまい、押し黙るしかない。

 

 

「とりあえず作戦は以上。あとは各自でその瞬間ごとにベストだと思う判断で動いてな」

 

 

と、そんな風にブリーフィングを締める刀也だった。

 

 

☆★

 

 

「太刀川隊VS夜凪隊の模擬戦まであとわずか!実況は私、武富がお送りします!」

 

 

A級1位である太刀川隊とB級1位である夜凪隊の模擬戦は異例ながら実況、解説付きでランク戦さながら大型モニターで放映されている。

 

解説者は風間蒼也と王子一彰。本当なら東も呼びたかった所だが運悪く防衛任務という事で断られてしまった。

 

 

武富がここで改めて今回の模擬戦のルールを説明する。

転送位置はランダム。

ステージは市街地Aで、特殊な環境設定はなし。

時間制限なし、どちらかの部隊が全滅するまで続く。

両部隊には1名ずつ覆面隊員が追加される。

 

 

覆面隊員とは言わずもがなエネドラであるが、観衆らにそれを知る者は少ない。

 

下馬評では太刀川隊が勝つのではないか、と言う声が多い。A級1位という実績に加え、隊長太刀川は攻撃手ランキング及び総合ランキング1位。出水も射手ランキング1位の二宮と同等の射手として名前を知られている。

いやいや、夜凪隊も強い…という声もある。かつてA級であった二宮隊や影浦隊を撃破し、あっという間にB級を駆け上がった無敵無敗の部隊。長き雌伏の時を終えた隊長夜凪と完璧万能手相当の実力を誇るクロウを擁する。

 

どちらが勝つにしろ負けるにしろ激戦は必至である、というのが模擬戦を見守る全員の共通認識であった。

 

 

「転送が完了しました!太刀川隊VS夜凪隊、ランク盤外戦開始です!」

 

 

太刀川隊、夜凪隊の隊員らがステージに転送され、開始の合図となる。

 

 

ここに夜凪隊の最後の切札を賭けた勝負が開幕した。




ワートリ の単行本読んでると拙作の設定ミスってんなぁ…ってのがいくつか。気が向いたらそのうち修正するかもです。
大規模侵攻編の二宮VSミラとか。
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