ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに 作:クラウンドッグ
B級ランク戦ROUND8。
公開遠征のため、いつもより短い期間で終わる事になったB級ランク戦はROUND8で終了となる。
夜凪隊の相手は、2位二宮隊、3位玉狛第二、4位影浦隊だ。夜凪隊が1位である事を考えると、名実共にB級最強決定戦の試合となる。
そんな最終ROUND、王者の如く相手を待ち受けるはずだった夜凪隊は危機に瀕していた。
☆★
「はい、という感じです。陽子、簡潔にまとめて」
転送開始が間近に迫っている隊室では、作戦会議も終着に近い。
決定した作戦を陽子が簡単にまとめて説明する。
「まず、今ROUNDで最大の脅威となるのは玉狛だね。前回のROUND7で雨取千佳が人を撃てるようになった事が大きな要因だ。彼女がハウンドやメテオラを撃ってる間、他の面子が周囲を固めればそれだけで勝てるってくらいだ」
トリオンモンスターと呼ばれていた玉狛第二の狙撃手、雨取千佳が“人を撃てるようになった”。ROUND7終盤で二宮隊の辻を撃破していた事から夜凪隊は推測した。
これまでの誤爆のような撃破ではなく、きちんとスコープの先の敵を撃ち抜いた事実からだ。
「だからまず最初の目的は玉狛を合流させない事。もっと言えば、雨取を倒せれば文句なしだね」
「とは言っても、他の部隊もそこはわかってるだろうから多少連携は取れると思う。漁夫られないように注意ね」
陽子の説明を刀也が補足。玉狛の脅威度は他の部隊も重々理解しているだろう。
「次にヒュースだね。孤月やバイパーを使う万能手だ。ROUND7じゃ数的有利があったとは言え二宮を倒したからね、攻撃力も高いがエスクードで防御も堅い。状況判断も適切だ。これも撃破優先率は高めだね」
ヒュース・クローニン。元はアフトクラトルの人型近界民で、本部の許可を得て玉狛第二が運用する強敵だ。ROUND7で鮮烈なデビューを果たした。二宮を撃破する以外にも、その豊富なトリオンで戦場を蹂躙していた。
「脅威度が高いのは次点で二宮隊。言わずもがな二宮を軸にした作戦を立ててくるだろう。雨取のメテオラ対策として潰し合わせるってのも手だね。とりあえず二宮とは1人でぶつからないようにだけ注意しな」
すでに何度もぶつかっている二宮隊。幸いな事に勝ち続けているが、その脅威は相変わらず。射手の王とすら呼ばれる二宮に玉狛を処理させるのも作戦の内だ。
「3番手に影浦隊だ。玉狛や二宮隊に比べて脅威度は低いが、それでも影浦の攻撃力や回避力は高いし、北添の適当メテオラにも注意が必要だ。狙撃手の絵馬も凄腕だから気を抜けな」
二宮隊は合理的な動きをするが、影浦隊はそうじゃない。玉狛に当てるのは容易ではないだろう。
「役割分担だが、ヨナさんはとにかく状況を動かす。玉狛ペースや二宮隊ペースにならないようにね。グランは遊撃。各隊の動きを見て私が指示を出すから得点を狙いな。そしてクロウ、あんたは……」
と、そこまで言って一瞬だけ言葉に詰まる陽子。作戦で決まった事とは言え言い難い事だった。しかし、躊躇いは一瞬で。
「何もするな。また発作とやらが起きても面倒だからね。完璧万能手相当のあんたの位置を悟らせないってだけで、かなりの意味がある」
ROUND6での発作ーーー曰く“呪い”が発動してからはあまりなかったそれだが、先日突然ぶっ倒れるなんて事があり、その場は誤魔化せたがROUND8でも似たような失態を犯せば遠征に参加させられない可能性も出てくるため、大事をとってクロウには潜伏していてもらう事になった。
「ひとまず、以上が作戦だ。みんな、よろしく頼むよ!」
と陽子が隊長っぽく締めた所でROUND8の開始時刻となる。
やがて転送が始まり、最終ROUNDが始まった。
☆★
レーダーから光点が3つ消える。雨取、絵馬、クロウの分だ。奇しくも消えた光点の1つはクロウの直近のものだった。
「一応マークしとくぜ。タイミングがあったらやるが、それでいいな?」
「ああ、頼む」
クロウの言葉に即答したのは刀也だった。呪いで撃破されるのも痛いが、過保護過ぎるのも考えものだと判断しての事だった。
「ヒュースを発見。奇襲かける」
そのすぐあと、走るヒュースを見つけた刀也はバッグワームを着て奇襲を仕掛ける。
家越しの旋空孤月、完全に不意を突いたはずの斬撃はしかし、ジャンプして躱される。
「マジか」と声を漏らす刀也。宇佐美のオペレートがあるにしても勘が良過ぎるだろう。
2人はそのまま白兵戦に入る。
まずは初手、ヒュースがバイパーを起動する。トリオン能力がそのまま現れるトリオンキューブの大きさに苦笑いしたい気持ちを抑えて対応を決める。
ヒュースはROUND7で二宮を撃破する際にもバイパーを使っており、それはきちんと弾道を引いているように見えた。
距離を詰めてバイパーの弾道を外れるのは悪手だ。Uターンしてきたバイパーに背中を撃たれる危険性がある。
ならば、バイパーの軌道が変わる前にシールドをぶつけて消してしまうのが現実的。とは言っても規格外のトリオンを保持するヒュースだ、普通のシールドならば物量で割られてしまいかねない。
そうなると、正解は遠隔固定シールドだ。
バイパーが発射される、が刀也が展開した固定シールドに阻まれてその大多数が打ち消される。
動かせない代わりに防御力の上がる固定シールドならば刀也のトリオンでもヒュースのバイパーに対抗できるようだった。もしこれがアステロイドなら難なく割られていたであろうが。
そうやってバイパーを防いだ刀也は踏み込んで接近戦を仕掛ける。孤月の腕だけならば勝てるのは証明済みだ。
しかし、踏み込んだ先で待っていたのはバイパーの雨あられ。刀也も得意とする多段撃ちだ。頭上から突き刺さるバイパーを、さらに深く潜り込み踏み込んで回避。切り上げを見舞おうとヒュースを見上げた所で、迎撃準備万端の様子を見て誘われたのだと理解する。
ヒュースによる孤月の振り下ろし。確実に当たるはずの一撃は刀也が消えた事で空振りに終わる。テレポーターの瞬間移動による回避だと看破したヒュースは放たれた背後からの一閃を孤月で受け止め、続くしなる刃を顔を逸らす事で避けて見せた。
必殺、とはいかないまでも大半の相手なら屠れるはずの連撃を涼しげな表情のまま捌いてみせたヒュースに刀也は喝采を送りたい気持ちにさえなる。一連のコンビネーションに使った技はいずれもこれまでのランク戦で見せたものだが、ここまで見透かしたように対応してみせるなど。
対するヒュースも同じ感想を抱く。甘い相手でないのはわかっていたが、まさか無傷で切り抜けられるとは。
2人の技巧を凝らした戦闘はしかし、
「メテオラ、来んぞ!」
そんな警告で中断される。刀也にはグランが、ヒュースには三雲がアラートを出す。互いに弾かれたように距離を取ってメテオラの炸裂範囲から逃れた。
爆風で巻き上がった粉塵を、刀也の旋空残月が切り裂く。が、すでにヒュースの姿はそこにはなく、カタパルトとして使ったであろうエスクードを両断しただけだった。
「逃げたっつー事は……」
おそらく、玉狛は合流して雨取で爆撃作戦を実行するのだろうと刀也は考えるのだった。
☆★
ランク戦が開始してから早々、グランはバッグワームでレーダーから隠れた。というのも、クロウとの合流はできず、刀也とでは役割も違うため単独行動するしかないからだ。
単独行動する上で重要なのは、先に敵を見つける事だと刀也は言った。これは数的不利の状況に陥らないための助言である。複数人なら対処できた相手でも一人ではなす術もなく墜とされるのは良くある話。クロウのような実力、刀也のような強かさを持っていないグランにとってB級上位は魔窟だった。
しかし、それは相手が複数人だった場合だ。あるいは二宮や影浦などA級クラスの猛者と正面からぶつかる場合の。
今のように、同格以下を相手にする場合はその限りではない。
犬飼澄晴ーーーー緊急脱出。
ROUND8で初得点を挙げたのは夜凪隊グランであった。
レーダーの反応を頼りに撃ち放つ、北添の適当メテオラ。ステージ各所にばら撒かれたそれはうざいと定評があるが、北添の位置を割り出されるデメリットもあった。
北添を獲物と定めたのは二宮隊だ。確かな実力を持つ二宮の足元を掬う可能性は万が一でも潰しておきたい。それを迎撃するのは影浦隊だった。
待ち構える影浦と北添に迫るのは二宮の援護射撃と犬飼だ。その両者が激突する瞬間、犬飼の首を刈り取っていったのはグランだった。
無機質な音と共に空を星が駆ける。
敵手を横取りされた影浦隊はグランを追うことができない。犬飼の援護として放たれていたハウンドを捌くので手一杯だ。
その隙にグランは離脱。レーダーからも再び姿を消すのだった。
☆★
空間が爆ぜる。その威力はあの“列車砲”にさえ匹敵するのではないかとすらクロウは思った。
雨取千佳のメテオラである。
この破壊力を前にしては、《七の騎神》の装甲さえ一撃ともつまい。そんな益体もない事を考えるほど非現実的な光景だった。
雨取のメテオラが炸裂したのはグランが犬飼を撃破したのとほぼ同時だった。
雨取に迫る二宮隊を牽制するための爆撃であった事は間違いない。
雨取のトリオンを警戒した二宮は辻を護衛につけて玉狛とぶつかっていた。玉狛はすでに空閑と雨取が合流している。三雲はワイヤー陣でも構築している頃合いだろうか。
逃げる玉狛、追う二宮隊。雨取が撃つメテオラやハウンドはすべて二宮のハウンドにより撃ち落とされている。トリオン差が歴然であるように射手としての技量差も歴然なのだ。
やがて二宮隊が追いつこうとした瞬間、狙い澄ました絵馬の狙撃が辻を穿った。正確にはその右腕を。
本来二宮を撃ち抜くはずだったそれを自身の右腕の欠損のみで留めた辻の技量は見事だが、これで攻撃手としての働きは期待できなくなる。
絵馬の狙撃に気を取られた二宮隊は玉狛の逃走を許してしまう。雨取の地面を狙ったハウンド、巻き上げられた煙幕に視界を塞がれ、その隙にレーダーからも消える。
よろしくないな、とクロウは思った。
玉狛とって良い状況になりつつある。
メンバーが集結しつつある玉狛、対抗できる二宮隊は両翼をもがれたも同然だ。
玉狛が勢揃いすれば雨取を砲台として他がガードを固めるという戦法が出来上がってしまう。そうなれば打つ手がかなり限られるというのが現実だ。
戦局を有利に運ぶなら、先程絵馬は玉狛を撃つべきだった。それなのに銃口が二宮隊に向いたという事は絵馬は玉狛贔屓の気があるという事実に他ならない。
故に、クロウは絵馬を撃破する。
二丁拳銃が火を吹き絵馬を蜂の巣にする。開幕からずっと尾けられていたなどと思わなかった絵馬は抵抗もできずに緊急脱出した。
少しばかり予定とは違うが、現場は生き物という事だ。クロウも積極的に動くつもりはないが、位置がバレない程度にはアシストすると無線で告げ、隠形を再開するのだった。
☆★
玉狛第二。玉狛支部を拠点とするB級部隊。今シーズンのランク戦の台風の目でありダークホース。
メンバーにヒュースが加わった事によりチームとしての強度が劇的に向上し、最下位スタートながらすでに上位チームと互角以上に渡り合う事も可能となった。
玉狛第二の目標は近界遠征への参加。そのための条件としてランク戦において2位以上で終える事となっている。
そのためにあと必要なポイントは6点。2位二宮隊を抜き去り単独2位に躍り出るにはそれだけのポイントが必要となる。
ちなみに1位になるには10点が必要なので、そちらは無理というのが部隊の総意だった。玉狛第二がランク戦における台風の目なら、夜凪隊は流星だ。並み居る猛者を打ち破り瞬く間に王座に君臨し、未だ無敗を誇る最強の部隊。
だからと言って勝てないか、と問われれば否だ。ROUND7前に行った合同訓練のチーム戦でも勝率は4割以上だった。
勝つ。勝って見せる。そう意気込んで最終戦に臨んだ玉狛の戦略は、雨取を他の隊員で守り砲撃を続けるというもの。
シンプルだが、雨取の驚異的なトリオンがあればそれだけで5〜6点は取れる、というのが見立てだった。
そんな玉狛の懸念は、隊員が合流する前に他の隊が点を余さず取ってしまうというものだ。
すでに夜凪隊が2点先制しており、残る敵ーーすなわちポイントは7点。生存点を加味しても9点だ。そこから最低でも6点は取らねらばならない。しかもこれは二宮隊に1点も取らせない前提の話だ。
かなり、厳しい。
三雲はスパイダーでワイヤー陣をつくりながら、そんな不安を抱えていた。
この最終戦においてワイヤー陣はあくまで遊真の補助的役割のみだ。本来の戦術であるワイヤー陣に誘引する作戦は、言わば守りの戦法だ。今回のようにポイントを独占したい時のような攻めには向かない。
ステージのあちこちに小規模なワイヤー陣をつくりながら移動して、ようやく遊真と雨取と合流する。
ヒュースは少し遠い場所に転送された上に刀也とぶつかり合流が遅れている。トリオン能力的にはヒュースが雨取のメインの盾となるはずだった。
三雲や遊真がカバーに入ったとしても、二宮の集中砲火に晒されれば墜とされる可能性もある。
できればヒュースの到着を待ちたい三雲だったが、すでにステージ各所で戦闘が始まっており、いつ最低獲得ポイントが失われるかわからない。
「メテオラ!」
だから、雨取に「撃て」と指示を出す。レーダーの反応を頼りに狙うそれは、さながら北添の適当メテオラだ。
しかし、その威力は比較にならない。黒トリガーと同等の出力による炸裂弾は地形を変えるほどの破壊力で建物を削る。
しかしそれは、その大半が空中で炸裂した事実に他ならない。
影浦隊に差し向けられた27分割中の9発は北添がほぼすべてを狙い撃ち対処した。二宮隊へ向かった9発は二宮が余さず撃ち落とし、残る9発はステージの各所を穿つが緊急脱出の光が空を駆け上がる事はなかった。
やはり、これしきで点が獲れるほどB級上位は甘くない。
その後、玉狛というわかりやすい脅威に相手部隊は肉薄する。
それは先程の適当メテオラで位置を晒した北添に寄るという構図の焼き増しと言っても過言ではなかった。
☆★
それに真っ先に食いついたのは刀也だった。
玉狛の爆撃によって位置が割れた雨取千佳に向かって走り出したのは。
他の隊の者たちは、漁夫の利を得ようとその後ろを追う形となる。が、実の所は漁夫られる事を恐れて二の足を踏んだというのが本当だ。
加えて二宮隊や影浦隊と違って夜凪隊は部隊で合流して行動しているわけではなく、刀也を背後から攻撃しようとしても、さらに後ろからクロウやグランに狙われる可能性もある。ある意味で二宮隊、影浦隊からすれば1番嫌な展開とも言えた。
しかし、玉狛には関係ない。迎え撃つ側の警戒は変わらず、再度の爆撃。ステージ各所を抉るメテオラ。
その影に隠れて、
「1点目」
北添尋、緊急脱出。
やったのはもちろんヒュースだ。放たれたバイパーは北添の全身を穿ち、影浦の手足に穴を開ける。
背後からの奇襲だった。影浦のサイドエフェクトで一瞬早く気づけたとは言え、バイパーの多角的な攻撃には対応しきれずにまず北添が墜とされる。
手傷を負った影浦だが、体のどこからでも出せるというスコーピオンの特性を十全に扱う者にとっては大きな痛手ではない。すぐさま反攻に移りたい影浦だったが、ヒュースは一定の距離を保ちバイパーで間断無く射撃を続けた。
「2点目だ」
そうしていつしかシールドも割られて北添と同じように蜂の巣にされて緊急脱出。しかし影浦もただではやられず、ヒュースの片腕をもぎ取っていくのだった。
絵馬に続き北添、影浦が離脱して影浦隊はリタイア。四つ巴のROUND8は三つ巴へと変化する。
残っている敵は夜凪隊の3人、二宮隊の2人。生存点を獲得するにしても最低あと2人は撃破しなければならず、生存点が獲得できないならば4人撃破しなければならない。
難しい戦いなのは最初からわかっていた。だから臆する事はない。怯む事はない。悩む事はない。自分がこの部隊を遠征に連れて行くと言ったのだから。
ヒュースは勝つための最善を模索しながらステージを駆け抜ける。
緊急脱出の光が空を駆けたのは、そんな矢先の事だった。
☆★
二宮隊の動きは鈍い。雨取の爆撃に晒され続け、夜凪隊からは挟撃される恐れがある。それに対応しようとすれば後手に回るのも必定。
夜凪隊の3人はバッグワームを使いレーダーから隠れており、そのため玉狛の爆撃は二宮隊に集中していた。
それは当然のように二宮が撃ち落とすが、続く爆撃に二宮のトリオンは湯水のように消費されていく。
再度の爆撃。メテオラが群をなして襲いかかってくる。二宮がそれを迎撃し、辻はその護衛といった様相だった。
その2人を狙ったのはグラン。物陰に隠れてマンティスによるもぐら爪にて辻を攻撃する。寸でのところで気取られ致命傷は与えられなかったが、それでも多大なダメージを与える事に成功した。
二宮は雨取の爆撃に対処せねばならず、辻は利き腕を失い脅威度は低くなっている。
雨取の爆撃に巻き込まれる恐れがあるものの、だからこそ夜凪隊は攻める。
そんな事、二宮隊は百も承知だ。
置き弾。二宮があらかじめ仕掛けておいたハウンドがグランに殺到する。しかしこれは読んでいたグラン、シールドの全防御で防いだ。
その一瞬で立て直し、踏み込んだのは辻。利き腕を失ったとは言えマスタークラスの孤月使いである判断力まで失ってはいない。
グランに肉薄した辻がシールドごとグランを叩き斬ろうとして、周囲に散りばめてあるトリオンキューブに目がいった。
置き弾だ。グランも二宮と同じように罠を張っていた。
瞬時にシールドを張って守りに入る、その隙にグランは攻勢に転じ辻と切り結ぶ事になるが、すでにマスタークラス相当の実力を有するグランに対し四肢を欠損している辻では相手にならず、ついには残った腕さえ切り飛ばされてしまった。
そこで「数発逃がす、足止めしろ」という二宮の指示を受けて辻はシールドを使ってその内側にグランを閉じ込めた。
そこに飛来するのは雨取のメテオラだ。二宮があえて撃ち落とさず、辻もろともグランを撃破するための策。
メテオラが衝突し、大規模な破壊がもたらされる。辻のシールドは容易く破られ、緊急脱出したのは1人だけだった。
グランはスコーピオンで地面を切り裂くと、埋設してある水道管に身を投げ入れた。切った穴をシールドで埋めて水圧を維持し、そのまま流される事で難を逃れたのだった。
☆★
「ここは通さないよ、ヨナさん」
雨取を狙って進んだ先に待ち構えていたのは三雲と遊真だった。
「なーんでおれがここに来るってわかったんかね?」
刀也はバッグワームでレーダーから消えている。目的地が雨取であると把握されていても、どの方角から来るかはわからないはずだった。
「二宮さんを正面に見据えると、ここが穴になるからです」
何事でもないかのように三雲が言って、刀也はふっと笑うように息を吐き出した。
「教え子に自分の考えが読まれるのって何かいろいろショックだわ」
自分の衰えを感じたり、相手の成長を実感したり。この場合は後者で間違いなかろうが。
「旋空残月」
一転、斬撃。
鋭いなんてものじゃない。まるでそれは正面からの不意打ち。生駒旋空に並ぶボーダー最高の旋空孤月が振り切られ、後背の建物をぶった斬る。
しかし、そんな不意打ちを三雲と遊真は避けている。三雲は刀也の性格を理解しており、遊真は歴戦の経験から、それを見切っていたのだ。
遊真はグラスホッパーで瞬時に距離を詰め、三雲はトリオンキューブを生成して射撃を始める。
遊真の攻撃は孤月で受け止め、三雲の攻撃はシールドで遮断する。
2人を相手にするのは分が悪いと刀也は判断すると、グラスホッパーをあてて遊真を弾き飛ばし、来た道を辿るように逃げていく。
「空閑、頼んだぞ!」
「そっちこそな、オサム」
玉狛が下した決断は追撃。しかしそれは遊真だけだ。三雲は着々と距離を詰めてきている二宮を迎撃しなければならない。本来なら部隊総員で迎え撃つべき相手だが、まだ合流はできていなかった。
だから、こちらに向かってきているヒュースと挟み撃つ形で遊真を追撃に差し向けたのだ。
ヒュースと遊真の2人で刀也を撃破し、すぐにこちらに戻ってきてもらうために。
地形や攻撃で敵を追い込むというのは戦術の基本だ。
遊真にとってそれは手慣れた作業。追い込む先にはワイヤー陣があり、おまけにヒュースも向かってきている。刀也を侮るわけではないが、十中八九負けはない。
「って思わせるのがヨナさんの常套手段だったな」
と遊真は思い出す。今までいくつの部隊が夜凪隊に嵌められて辛酸を舐めさせられた事か。
おまけに今回はクロウが静かすぎる。前のラウンドで二宮に無防備にやられた事が関係しているかもだが、警戒はしておいて損はない。
やがて刀也に追いつく。横幅10m弱の路地。すでにヒュースが会敵しており、そこにワイヤー陣ありの遊真が加われば全部隊でも屈指の撃破力となるだろう。
油断はなく、慢心もなく、順当に、夜凪刀也を追い詰める。
遊真とヒュースの挟み撃ち。それによって刀也も削られていき、とどめの瞬間が訪れる。
ヒュースのバイパーが縦横に展開され、ワイヤーを踏んだ遊真が加速する。
その瞬間。遊真の体が不自然に跳ねた。
紛れもない隙。バイパーに貫かれようと構わない刀也は旋空孤月で無防備な遊真に斬撃を与えようとするが、ヒュースのエスクードにより軌道を逸らされて斬ったのは遊真の右腕の肘から先のみ。
「スコーピオン・ピアス」
右腕で振られた孤月。左腕は細長く針のように伸ばされたスコーピオンがヒュースの心臓ーートリオン供給器官を貫いていた。
新技引っさげて最終ラウンドに臨んでるのはおまえたちだけじゃないんだぞ。というような笑みを見せて、緊急脱出。
一瞬遅れてヒュースも同じく緊急脱出する。
ROUND8は終盤に向かいつつあった。
☆★
ヒュースがやられたと連絡が入る。
どうやら刀也が来た道を戻ったのは、罠のある場所に誘導したかったかららしい。遊真が致命的な隙を見せたのはワイヤーに引っかかったからだと。それはもちろん三雲の仕掛けたスパイダーではない。おそらく刀也が仕掛けたものだ。色を調整して見えにくくしていたのだろう、ワイヤー陣にワイヤートラップを隠すなんて、確かに刀也らしいと三雲は思った。
頭の中で再度計算する。
今のポイントは玉狛第二が4点、夜凪隊が3点、二宮隊が0点。残っている相手は二宮、クロウ、グランの3人。単独2位まであと2点。今はリードしているとは言え、まったく油断ならない状況だ。
遊真とヒュースが刀也を撃破する間にも二宮は着々と距離を詰めてきており、遊真がこちらに向かってきているが、会敵するまでに間に合うかどうか。
再度、雨取のメテオラが起動する。巨大に過ぎるトリオンキューブから放たれる弾丸は、しかし遅い。
二宮ほどの射手からすれば撃ち落としてくれと言っているようなものだ。そのすべてをハウンドで迎え撃ち空中で炸裂させては接近する。その繰り返しでここまで来た。
雨取のいる地点まで200mを切った。仕掛けてくるならここだろうと二宮は考えていた。刹那、着弾する。
「ーーーなに!?」
メテオラではない。その弾速の遅さに二宮が慣れてから放たれたのは大砲ーーー雨取のアイビスによる狙撃だ。
警戒していたおかげか直撃は免れたが、シールドは容易く破られ地面は破砕され粉塵を巻き上げていた。
二宮が目を細めたその時、物陰から三雲が撃った。
完璧なタイミングだった。
三雲の存在に二宮が気づいてさえいなければ。
タン、とバックステップを踏んで射線から逃れる二宮。
続いてアステロイドで三雲の全身を穴だらけにする。
これにてお仕舞いーーーというのは、三雲が撃ったのがアステロイドだったら、の話だ。
そのトリオン弾は急カーブを描くと射線から逃れたはずの二宮を貫いた。
それはアステロイドではなくハウンドだったのだ。
すぐに緊急脱出するほどではないが、間違いなく致命となる一撃。トリオン流出過多で緊急脱出するのが見えている。
その前に、
「ハウンド + ハウンド」
位置がわかっている雨取だけでも倒そうと合成弾を練り上げる。
「ホーネッ」
「させないよ」
スコーピオンが一閃され、二宮の首がごとりと落ちる。遊真の仕業であった。
三雲に続いて二宮が緊急脱出する。
「あと2点か…」
単独2位まであと2点。二宮隊に1点取られてしまったためだ。しかし残る相手も2人。不可能な話ではない。
三雲修が、雨取千佳が、ヒュースが、そしてなにより遊真自身が遠征に託す想いのために負けられない戦いだ。
☆★
「やぁっと着いたぜ」
と声が聞こえた雨取はその声の主人の姿を見てすぐにその場から飛び退いた。
グラン。夜凪隊の完璧万能手もどきその2。その十八番がもぐら爪だと知っていたからだ。
雨取の予想通り元いた場所にはスコーピオンが生えるようにして刃を突き出している。
三雲の指示により遊真と合流して爆撃を続ける事になった雨取は飛び退いた勢いのまま建物から落ち逃げる。
「サルが」
が、その先に待っていたのはハウンドの弾丸だ。グランは雨取の逃走経路を予測してあらかじめハウンドを仕掛けていたのだと理解してして慌ててシールドを張り防御する。
ハウンドは防ぎ切った、と思ったがしかし。
クロウの狙撃が雨取の頭を貫通した。
ステージを横断するような長距離狙撃。素直に感嘆するしかない狙撃精度だが、そう言ってもいられない。
緊急脱出間際でもできる事はあった。
「メテオラ!」
雨取はその場でメテオラを炸裂させるとグランを道連れにする。
グランもシールドで防ごうとしたが、簡単に砕かれて終わりだった。グランがランク戦において注入されるのはトリガー使いの平均である5。トリオンモンスターである雨取千佳と比較すれば是非もなしという所であった。
☆★
グランと雨取が相討ちとなり、マップに残ったのはクロウと遊真の2人。
ポイントは玉狛第二が6点、夜凪隊が5点。
遊真は勝利し遠征部隊に加わるために。クロウは夜凪隊無敗の称号を得るために。
直接対決は避けて通れないものだった。
「クロウさん、いつかのリベンジ…させてもらうよ」
「そう簡単にやれると思うなよ…遊真!」
言って、レイガストを構える。
ぶつかり合うレイガストとスコーピオン。
2人が2人とも卓越した近接戦闘のプロだ。決着は容易ではなかった。
すでに無線からの指示もなく、皆が固唾を呑んで見守っていた。
もぐら爪、枝刃、マンティス発展型。そのすべてをクロウは躱していく。遊真の新技のほとんどは刀也が4年の間に考案していた技に類似したものだった。
やがて隙ができた遊真に蹴りを入れて距離を離したクロウはブレードスローの構えをとる。
回転しながら迫る刃は必殺の威力を持つ。雨取のシールドでさえ割って見せるそれを受けるわけにはいかず遊真は空中に逃げる。
グラスホッパーを使いレイガストを避けながらクロウに肉薄する遊真。
「バイパー」
だが、クロウはそう容易い相手ではない。
右手にトリオンキューブを生成すると、それを撃ち放ちグラスホッパーの跳び板を破壊してしまう。
グラスホッパーは物質化したものしか跳ばせないという特性を刀也から伝えられていたからできた芸当だ。
足場をなくした遊真は迫るレイガストを何とか防ぐ。ぐるぐると回転しながら不規則な軌道で切りつけてくるレイガストに何度も切り裂かれながら、致命傷は許さない。
だがそれはクロウにとって格好の餌食と言っても良かった。
グラスホッパーを砕かれ、シールドとスコーピオンでレイガストをいなす遊真だが、その対応に追われて隙だらけなのだ。
だからーーーー
ヨコセ
ーーーーここでくるだろうと予想していた。
イシュメルガの呪い。黒い声。魂を暗く塗り潰す悪意。
それを跳ね返すには、精神を強く保つ必要がある。それには一瞬以上の集中を有し、それは遊真に対する致命的な隙となる。
だがまさかイシュメルガの呪いを無視するわけにもいかない。クロウがこれに乗っ取られればすべてが水泡と帰す。
だから仕方ない。
ここで遊真に負けるのは仕方ない。
より大きなものを守るために、目先の勝利を捨てるのだ。
仕方ないーーーーー
「なんて、甘ったれんなって話だよなぁ!」
イシュメルガの呪いに対抗するためにランク戦で負けてやる?そんな事を許すほどクロウは諦めがいいわけではない。
望んだわけではないにせよ、死んで、死に損なって、死に損なってここにいるのだ。
そんな生き意地の張った男が、こんな場面で諦めるわけがなかった。
遊真を何度も切りつけていたレイガストを空中でキャッチする。
遊真は傷だらけで身体中のいたる所からトリオンが漏出していて、しかし未だ目は死んでいない。
その着地する刹那、最も隙を晒すその時をクロウは待っていた。
ダブルセイバーを振り上げる。それを大地に向かって突き刺す様はまさにクロウの絶技そのもの。
ゼムリアの時ほど派手ではないが、そのクラフトは確かにーーーー
「
ヴォーパル・スレイヤー
急降下。突き刺さる刃は遊真のスコーピオンを砕き、心臓部を貫通していた。
空閑遊真ーーー緊急脱出。
ROUND8、閉幕。
戦績、7対6対1対0で夜凪隊の勝利。
B級ランク戦上位最終順位
1位 夜凪隊
2位 二宮隊
3位 玉狛第二
4位 影浦隊
5位 生駒隊
6位 東隊
7位 王子隊
今更白状しますが!
ランク戦のポイントについて考えてません。最初はあの部隊が何点で夜凪隊が今何点だから〜と考えていたんですが、めんど…げふんげふん!私ごときには荷が重いと判断した次第であります。