ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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大規模侵攻直前の1話!

ここまで喋ってただけの夜凪刀也が、ついにその実力を見せ始める……


夜凪刀也②

火花が散る。何合も切り結んだ後に距離をとって相手を見定める。

 

 

 

黒ずくめの男だった。黒いコートに黒いズボン。ベルトは灰色だが髪色まで黒。黒ずくめと言って過言ではない格好だ。

 

それは、リィンが着用していたものと同じデザインのように見えた。

 

 

手には太刀…を模したブレード型トリガー『孤月』が握られている。

 

 

孤月を握る黒ずくめの男ーーー夜凪は対峙するクロウを油断なく見据えていた。

 

 

 

 

 

仕掛けたのはクロウだった。ダブルセイバーの形をしたレイガストで流れるような連撃を夜凪に叩き込むが、その全てを避けるか防ぐかして夜凪は無傷のまま凌ぎきる。

 

 

クロウが次のアクションに入る前に夜凪は孤月を構え、

 

 

「一の型」

 

それを聞いたクロウはバックステップで距離を取ろうとするが、読んでいた夜凪はさらに距離を詰めて孤月を振るう。

 

 

「『螺旋撃』」

 

 

孤月の描く軌跡をなぞるようにトリオンが噴出し、その渦にクロウは飲まれて身動きを封じられる。

 

 

「二の型『疾風』」

 

 

その隙を突いて夜凪は、最速の踏み込みで孤月を振るい、クロウの胴体を両断した。

 

 

 

 

10本勝負終了

 

クロウ XXX○X○○X○X

夜凪 ○○○X○XX○X○

 

 

 

 

C級のブースで行われる個人のランク戦。それでクロウと夜凪は模擬戦をしていた。クロウは未だC級のためポイントの移動はない。

 

 

「うし、4本とったぜ」

 

 

これまでたびたび夜凪と模擬戦をしていたクロウだったが、10本中3本までしかとった事はなかった。今回の4本は初の快挙だ。

 

 

「日に日にトリオン体に慣れていってるな。さすがクロウ…略してさすクロ」

 

 

トリオン体とは、トリガー起動者のトリオンにより構築される戦闘用のボディだ。トリガー起動の意思表示で使用者の生身はトリガーホルダーに格納され、戦闘用のボディに換装される。

 

 

「な〜にがさすクロだ!こちとら見知った動きに6敗もしてんだぞ」

 

 

わしゃわしゃと夜凪の頭をヘッドロックする。

夜凪の使う八葉一刀流は、リィンを師匠として伝授された剣術だ。しかしその完成度は低い。パワー、スピード、テクニック…全ての面でリィンに劣っているのだが……勝てない。

 

夜凪はいつものように「はっはっは」と笑い、

 

 

「おまえは早くB級に上がれよ。そんな訓練用のトリガーだけだから勝てないんだろ」

 

 

と軽々しく言う。クロウは「少しくらい手加減しろよ」と言いたくなるが、そこは我慢して「……おう」と返事をする。

 

 

夜凪がフル装備なのに対して、クロウは訓練用のレイガストだけで模擬戦に臨んでいた。そこにも敗因がありそうだが、知っている動きに敗北するのはそれ以上の理由がありそうだ。

 

 

 

ボーダー入隊日から数日が経過して、クロウのポイントは現在3585まで上がった。ほぼほぼランク戦で稼いだものだが、クロウのポイントはC級では最高クラスのため、獲得できるポイントは少ない。

 

 

「んじゃ、がんばって。おれはおれで孤月のカンを取り戻したいし、適当に相手を探すわ」

 

 

「ああ。おれに勝ったんだから、そう軽々しく負けてくれるなよ」

 

 

「善処しますよー」

 

 

 

2人は軽妙なやり取りを終えると、一旦別れる事にした。

クロウはB級に昇格するためのポイント稼ぎに。夜凪は孤月を使うカンを取り戻すために。互いに個人ランク戦の相手を探しに行った。

 

 

 

☆★

 

 

「おぃーす、荒船。おつかれさん」

 

 

夜凪が見つけたのは荒船だった。

B級荒船隊隊長、荒船哲次。元々アタッカーだったが、スナイパーに転向した経歴を持つ。

 

 

「ヨナさんじゃないすか。珍しいですね」

 

 

「おまえこそ。久々に孤月でも使いたくなった?」

 

 

 

「はは、まあそんなとこです。ヨナさんは?」

 

 

「おれもソロのランク戦やろーかなって思って。近々チーム組むし、孤月のカンを取り戻しておきたいし」

 

 

何気ない夜凪の言葉を聞いて荒船は驚く。荒船の知る限り夜凪がどこかの部隊に所属していた事はない。

 

 

「え、ヨナさんどこかの部隊に入るんすか!?うちに入ってくださいよ」

 

 

スナイパー3人で遠距離戦に特化している荒船隊にとって、近、中距離で戦えるオールラウンダーの夜凪は欲しい人材であった。

 

 

 

「はっはっは。どこかに入るんじゃなくて、おれが隊長で部隊を新しく立ち上げるんだよ」

 

 

「…なるほど。夜凪隊ってわけですか。でもなんで突然?」

 

 

「ああ、まあ……遠征部隊を目指そうと思って」

 

 

「じゃあA級を目指すんですね。でもヨナさんならどこかのA級部隊に入る方が早いんじゃないすか?ヨナさんの実力なら引く手数多でしょ」

 

 

「はは、そんなそんな」と謙遜しつつ、真剣な表情を浮かべて夜凪は荒船を真っ直ぐに見つめる。

 

 

「それじゃ意味がないのよな。夜凪隊にはもう1人メンバーが入る予定なんだよ。名前はクロウ・アームブラスト…聞いたことある?」

 

 

「ああ、噂になってた………、今季入隊の有望株でしたか」

 

 

 

とまあ、そこまで語った夜凪だったが、クロウが近界民(たぶん)であることは秘密だ。「うむうむ」と返事をしつつ、

 

 

「そういえば荒船、暇か?」

 

 

「…ああ、孤月のカンを取り戻したいんでしたっけ。付き合いますよ」

 

 

質問の意図を察してくれた荒船は個人のランク戦に付き合ってくれると言う。

 

 

「でも、いいんですか?勝敗に問わず今のポイントが崩れますけど」

 

 

夜凪は今のポイントが好きだと言うことで、最近は孤月でのランク戦をやっていなかった。

 

 

「カンスト感あって好きだったけど……、まあ別に構わん」

 

 

「了解です。じゃあやりましょうか」

 

 

 

そういったやり取りの後、2人は模擬戦を行う。

 

 

 

「おれも1万の大台かなー」

 

 

自分の勝利を夢想して、ランク戦後のポイントがどうなるか考える夜凪であった。

 

 

 

孤月:9999

 

 

 

☆★

 

 

 

 

「おほ〜、あっぶねぇ」

 

 

10本勝負が終わり、ブースから出てきた夜凪はそう呟く。

 

 

 

結果は夜凪の6勝4敗。クロウとの模擬戦ばかりしていたせいで変な癖がついていて、2本先取された時はさすがに焦った。

 

 

 

「さすがっすね、ヨナさん」

 

 

「荒船こそ。助かったよ、孤月のカンは取り戻せた」

 

 

 

と、2人が健闘を称えあっているところで、訓練室に大人数のC級隊員たちが入ってきた。

それを引き連れてるようにして先頭を歩くのは三雲と緑川だ。

 

 

 

 

「お、三雲。これ、どした?」

 

 

聞くが、だいたい事情は察していた。

おおよそ、三雲と緑川が模擬戦をする事になって、風間と引き分けたという噂に釣られてC級隊員がゾロゾロとついてきているのだろう。

 

 

「あ、夜凪さん。この人とランク戦をする事になって」

 

 

「……ふむ、そうか。がんばれよ」

 

 

問題は、そのランク戦をどっちからふっかけたのか、という点だ。

おそらく緑川からなんだろうが……その意図が幼稚なものである事はなんとなく読める。

 

 

夜凪と同じく荒船も緑川の意図を察したようで、見咎めるような視線を送るが、緑川はどこ吹く風だ。

 

 

 

三雲では緑川には勝てないだろう。三雲の実力では緑川には届かないし、緑川は風間のような整合性の取れた動きをするタイプではない。たとえ100回やろうとも三雲は緑川には勝てないだろう。

 

 

しかし、本人たちがランク戦をやろうと決めたならば、それを止める道理はない。ただ夜凪は緑川に、

 

 

「あんまり新人イビリするなよ」

 

 

と、耳打ちした。自分の考えが読まれている事に狼狽しつつも緑川はブースに入り、三雲も同じようにブースに入って個人ランク戦は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「10本勝負終了。10対0、勝者緑川」

 

 

アナウンスが告げる10本勝負の終わり。さして時間もかからず終わった10本勝負。予想通り勝者は緑川だった。

 

 

「お、ヨナさんじゃーん。久しぶりじゃない、ここ来るの?」

 

 

モニターで観戦していた夜凪に後ろから声をかけたのは米屋陽介という、A級の三輪隊のアタッカーで、槍型の孤月を使う人物だった。その傍らには遊真と、玉狛支部のお子さまである林藤陽太郎(5歳)がカピバラに乗っていた。

 

 

「おう米屋か。それに遊真に陽太郎も」

 

 

「ひさしぶりだな、とうや」

 

 

カピバラにまたがりつつ大物風に手を挙げる陽太郎に「はっはっは、久しぶり」なんて返しながら、状況を尋ねてきた遊真に肩を竦めて「お察しの通り」と答える。

 

 

緑川はブースから出て三雲に「実力は大体わかったからもういいや、帰っていいよ」なんて言っている。

あの言い方はないよね、なんて内心でぼやくだけの夜凪と違って遊真は怒ったようで、そのまま緑川に10本勝負を申し込む。

 

 

 

その模擬戦は、緑川が2本先取こそしたものの残る8本は遊真が奪い、結果としては8対2で遊真の勝利となった。

 

 

「よくやったゆうま!おれはしんじてたぞ!」

 

ブースから出てきた遊真に陽太郎が労いの言葉をかける。

 

 

そんな時だった。

 

「遊真、メガネくん、それにヨナさんも」

 

 

メガネくんと呼ばれたのは三雲だ。三雲は風呂に入るときも寝るときもメガネを手放さないような顔をしている。オールウィズメガネだ。

 

 

訓練室に現れたのは、迅だった。

 

 

「どもども」なんて言ってやってくる迅は、どこか夜凪と似た雰囲気であった。

そんな自称、実力派エリートは先に名前を呼んだ3人に言った。

 

 

 

「ちょっと来てくれ。城戸さんたちが呼んでる」

 

 

 

 

 

その後、緑川が三雲に謝ったり、三雲が「風間先輩とは24敗1引き分けだったからな!」と宣言して噂の一人歩きを指摘したり、遊真と緑川がライバル関係を結んだり、という事もあったが事態は収束し、三雲と遊真、それに夜凪とついでに陽太郎も迅に連れられて城戸たちが待つ部屋に向かった。

 

 

 

「失礼します」

 

そう言って入室すると、

 

 

「遅い!何をモタモタやっとる!」

 

 

という鬼怒田の怒声が飛んでくる。迅は「いやー、どもども」と受け流し、陽太郎が「またせたな」とまた大物ぶる。鬼怒田は取り乱した様子で「なぜおまえが居る!?」なんて言う。そこで玉狛支部所属のオペレーターの宇佐美栞が陽太郎に「陽介はどこいったの?」なんて聞くが陽太郎は「かれはよくやってくれました」返す。

まったく話が通じない面白さがあった。

 

そこで城戸が「時間が惜しい。早く始めてもらおうか」と雰囲気を締め直す。

 

 

 

ボーダーの調査で近々、近界民の大きな攻撃があるという予想が出た。先日は爆撃型の近界民1体の攻撃で市民にも犠牲が出ているし、ボーダー側としては万全の備えで被害を最小限に食い止めたい、という説明を受ける。

 

遊真が呼ばれたのは、遊真に近界民としての意見を聞きたいという事からだった。

 

「近界にはいくつもの国がある事はわかっとる。いくつかの国には遠征もしとる。だが、まだデータが足らん。

知りたいのは、攻めてくるのがどこの国で、どんな攻撃をしてくるかということだ!」

 

鬼怒田がさらに説明に補足する。遊真は「そういう事ならおれの相棒に訊いたほうが早いな」と言って、遊真の服からにゅ〜っと黒い炊飯器のようなものが出てくる。

 

それはレプリカと名乗り、遊真の父親に造られた多目的型トリオン兵という自己紹介をする。そして、自分の中には遊真とその父親が旅をした近界の国々の記録がある事を明らかにした。

 

 

しかし、その記録を開示する前に、ボーダーの最高責任者である城戸に、情報の提供と引き換えに遊真の身の安全を保障させた。

 

 

「確かに承った。それでは、近界民について教えよう」

 

 

無機質な声で、レプリカは説明を始める。

 

 

近界民(ネイバー)の世界…すなわち近界(ネイバーフッド)に点在する「国」は()()()の世界のように国境で分けられているわけではない。

近界のほとんどを占めるのは果てしない夜の暗黒であり、その中に近界民の国々が星のように浮かんでいる。

それらの国々はそれぞれ決まった軌道で暗黒の海を巡っており、ユーマの父、ユーゴはその在り方を『惑星国家』と呼んだ。

太陽を回る惑星の動きとは少々異なるが、惑星国家の多くは()()()の世界をかすめて遠く近く周回している。

そして、()()()の世界に近づいた時のみ、遠征船を放ち(ゲート)を開いて侵攻することができる。

“攻めて来るのはどこの国か”…その問いに対する答えは“現在()()()の世界に接近している国のうちのいずれか”だ」

 

 

 

しかし、そこまではボーダーもわかっていた。

知りたいのは“それがどの国か”、その“戦力”、その“戦術”だ。

 

しかし、それを語るには、ここにある配置図では不十分だとレプリカは言う。

その視線は部屋の中心に投射された近界の地図を捉えていた。

 

それにレプリカの持つデータが追加される。ざっと見積もっても元の配置図の10倍はあった。

 

 

「これがユーゴが自らの目と耳と足で調べ上げた惑星国家の軌道配置図だ」

 

 

レプリカは更に説明を続ける。

 

配置図によれば、現在こちらの世界に接近している惑星国家は4つ。

海洋国家リーベリー

騎兵国家レオフォリオ

雪原の大国キオン

神の国アフトクラトル

 

 

「その4つのうちのどれか……、あるいはいくつかが大規模侵攻に絡んでくるというわけか?」

 

 

城戸の問いにレプリカは「断言はできない」と返す。

 

 

「未知の国が突然攻めてくる可能性も僅かだがある。

また惑星国家のように決まった軌道を持たず、星ごと自由に飛び回る『乱星国家』も近界には存在する」

 

 

 

しかし、そんな細かい可能性を考え出したらキリがない。

先日の爆撃型のトリオン兵と偵察用小型トリオン兵を大規模侵攻の前触れとして考えると、確率が高いのはキオンかアフトクラトルという話になった。

 

ひとまず議論はその2国を相手を仮定して進む。知りたいのは相手の戦力と戦術……特に重要なのは黒トリガーがいるかどうか。

 

レプリカの情報によると、キオンには6本、アフトクラトルには13本の黒トリガーが存在したとのこと。しかし、黒トリガーはどの国でも希少なため通常は本国の守りに使われ、遠征では多くても1人までとのこと。

それに遠征に使われる船はサイズが大きいほどトリオンの消費も激しいため、攻撃には卵にして大量に運用にできるトリオン兵を使い、遠征の人員はできる限り少数に絞るのが基本となる。

 

 

つまり、敵の主力はトリオン兵で人型近界民は少数という事だと結論できる。

人型近界民の参戦も考慮しつつ、トリオン兵団への防衛を中心に防衛体制を詰めていく事となる。

 

そこで三雲に話が振られる。三雲には爆撃型と偵察型の両方を経験した数少ない人物のため、何か意見があればいつでも言ってくれ、との事だった。

 

 

「では、夜凪……どう思う?」

 

 

そしてついに夜凪に話が回って来る。

 

何故、夜凪刀也がこの会議に呼ばれたか。その理由は、夜凪のサイドエフェクトにある。

高いトリオン能力を持つ人間は、トリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼして稀に超感覚を発現する事がある。そういった超感覚をサイドエフェクトと呼ぶ。

 

夜凪のサイドエフェクトはランクSに分類される超感覚……『超直感』だ。

 

 

 

夜凪はこのサイドエフェクト『超直感』による意見を求められているのだ。

 

 

「ん〜、まあ参考程度に聞いてほしいんですが…攻めて来るのはアフトクラトルって国ですね。それにたぶん、黒トリガーも1本じゃない」

 

 

無論、ただそう直感しただけだから根拠はない。しかし側に夜凪はこのサイドエフェクトで不意打ちや狙撃がまったく通じない事は周知の事実だった。

 

夜凪の言葉に衝撃を受けつつも、議論は進む。

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

そして、数日後。

 

 

運命の日はやって来た。

 

 

 

 




という感じの第5話でした!4話と比べて短いですが、切りがいいので。


次回から大規模侵攻編突入!
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