ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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前話であんな引きをしといて申し訳ないですが、幕間!


幕間#4
閃光の行方


「ありがとう!楽しかった!」そう言って飛び立つ。あらゆる感情を振り切って、空を目指す。

やがて大気圏を越え、最期を共にしてくれるクロウやミリアムの声すら聞こえなくなって。

 

呪いだけが己の内側で木霊している。

 

 

そろそろイシュメルガとの喰らい合いが始まるな、なんて考えた。

 

ドライケルス帝ーーー、そして実父ギリアス・オズボーンを苦しめた“黒きイシュメルガの呪い”。それはあらゆるものを巻き込んで災厄を引き起こし、世界を支配する神にすらなろうと目論んだ悪意。

 

そんな存在との一騎打ち。相克。どちらの意志がどちらの意志を上回るのかーーーそんな対決。

敗北し、この身体を乗っ取られてゼムリア大陸に戻らせるなんてもってのほか。

願わくば勝利し、帰還が果たされる事をーーー

 

 

「リィンよ」

 

 

と、そんな事を考えた所でヴァリマールの声が響いた。

トールズ士官学院で出会ってから今までずっと付き合ってくれた相棒だ。

 

 

「どうしたヴァリマール?」

 

 

「大気圏を突破し女神の枷が外れたからか、思い出した事がある」

 

 

女神の枷ーーー?

リィンの脳裏には外洋に進んだ船がいつしか戻ってきたという話が想起されたが、それが形を結ぶより早くヴァリマールが二の句をつぐ。

 

 

「そなたを救う術がある」

 

 

「えーーー?」

 

 

「無論、イシュメルガの呪いは分離しての話だ。そなたが乗るか反るかの判断はーーーどうやら待っている時間はないようだ。予想より遥かに呪いの侵蝕が早い」

 

 

「どういう事なんだ、ヴァリマール。説明してくれ!」

 

 

言うが早いか、気づけばいつの間にかリィンの肉体を蝕んでいた呪いが剥がれていっている。

 

 

「今から我は(ブラック)トリガーとなる。……ふむ、どうやら《巨イナル一》としての力を使えば騎神を相克以前の状態に戻す事もできそうだ。これでクロウも消える事なく不死者のままあり続けるだろう。それと玄界(ミデン)への(ゲート)も開く」

 

 

矢継ぎ早に言葉を連ねるヴァリマール。そのひとつひとつがリィンにとって未知のワードだった。

 

黒トリガー、玄界、門……、しかしそういったものより気になったのは“騎神を相克以前の状態に戻す”という事だ。

《巨イナル一》……《焔の至宝》と《大地の至宝》が無限に相克し、無尽蔵にエネルギーを生み出し続ける《鋼》。七つに散った欠片を束ねたヴァリマールはそれを自在に操れる器になったのだろうか。

とにかく、消えるはずだったクロウが不死者とは言えこれからも隣にいてくれるなら心強い。

 

 

「……あまり意味がわかってないんだが、おれたちはその玄界…って国に行くのか?ゼムリア大陸に戻る事は不可能なのか?」

 

 

「不可能ではないが、それは同時に《黒》もゼムリア大陸に戻る事になる。我が力と共に黒トリガーに封じるとは言え、いずれ世界を焼き尽くす火種になる可能性もあるだろう」

 

 

「それは…だが、玄界という場所でもそれは同じじゃないのか?」

 

 

 

「玄界はトリオンや導力技術とは違う科学が栄えた特別な国だ。あの場所に限って言えば黒のイシュメルガが栄える事は絶対にない」

 

 

ヴァリマールはその理由を語らない。別に玄界にイシュメルガを抑え込む技術があるわけではない。《鉄血》のように悪意に耐性のある人間ばかりいるわけではない。

単純に、世界大戦となれば星そのものが滅びるからだ。人間に核の撃ち合いはできないと知っているからだ。仮に核のスイッチが押せたとしても、それで世界が滅びるならイシュメルガが栄える事はないと。

《大イナル一》の未来予知にも似た演算はそう結果を出していた。

その莫大な力も今や大半が黒に食われて同化し始めている。

 

 

「リィンよ、ゼムリアに帰るつもりならまずイシュメルガをどうにかしなければならぬ。クロウの事もな。オヌシならやれるはずだ」

 

 

「待て、待ってくれヴァリマール!まだ聞きたい事がーーー」

 

 

しかし、相棒に待ってくれる様子はない。イシュメルガの悪意の侵蝕が速すぎるのだ。

 

 

「さらばだリィン……我が友よ、どうか壮健であれ」

 

 

言い残して。ヴァリマールは消えた。

周囲の様々なものを飲み込み、分離して、それがたったひとつに収束し。

 

そこには“七の騎神”というトリガーホルダーが創り出されていた。

 

 

 

リィンがそれを掴むと同時に空間に灰色の孔が穿たれた。球形の孔の向こう側はどうやら近代的な景色があるようで、そこがヴァリマールの言っていた玄界なのだろうと理解する。

 

リィンの体が灰色の孔に引っ張られる。騎神がトリガーホルダーに収束し、宇宙に放り出されたはずのリィンは何らかの力で保護されている。

ふとクロウの方に目をやると、気絶しているのがわかった。

 

 

「クロウ!…クロウ!起きろクロウ!!」

 

 

手を伸ばし、声をかけるが届かない。クロウの瞼は閉じられたまま開く事はない。

 

 

「……クロウ!………クロウッーーー!!」

 

 

体のほとんどが孔に埋まり、クロウは宇宙を泳いだまま目を覚まさないままーーーー

 

 

灰色の孔はーーーー門は閉じられた。

 

 

 

 

☆★

 

 

 

それからすぐにリィンは“ボーダー”という組織に保護された。

曰く「馬鹿でかい門が開いたと思って駆けつけてみれば、まさか未知の星からの客人とはな」……リィンを保護したボーダーの1人の言葉だ。

 

ボーダーはリィンの戦闘力を買ってスカウトし、リィンもまたそれに応じた。

ボーダーにこの世界の事やトリガーの事などを教わり「ゼムリアという国を知っているか」なんて事も調査した。

結果として「ゼムリアという国は知らない」というのがボーダーやその協力国の答えだった。

 

リィンの戦闘力にトリオン体が追いつかないという事で特別に『ガイスト』というトリガーを作ってもらったり、ゼムリアにおけるリィンの武勇伝を語り聞かせたりもした。

 

そうしている内に一年、二年と経過して、そこからさらに半年ほど過ぎた所で夜凪刀也という少年がリィンに弟子入りした。

 

少年は「名前のせいか人より剣への憧れが強くて」と言って、トリオン兵から己を救ったリィンを「憧れそのもの」と慕い弟子入りを果たした。

 

この刀也はリィンからしても身震いするほどの才覚と資質の持ち主で、人より抜きん出た才能を3つも保持していた。

1つは『観察力』、1つは『想像力』、あとの1つは第六感とでも言うべき『超感覚』だ。

剣の才能は残念ながら自分と同じくらいだとリィンは評した。

 

そんな刀也にリィンは自分の持てるすべてを授けーーーーそして半年が経過した。

 

 

 

☆★

 

 

“第一次近界民侵攻”と後に記される戦いがあった。

 

“大規模侵攻”とも呼ばれたそれは、一般市民に初めて近界民が認知された戦いでもある。

その侵攻の規模は、4年後に起こる第二次近界民侵攻と比較すると約8分の1。死者を0人に抑えたその戦争と比較すれば敵の数は少なかった。

 

 

しかし、それ以上に味方の数が少なかった。

 

元々ボーダーは少数精鋭。しかも1年前には友好国アリステラへの救援でメンバーの大多数を失っていた。

単純に、圧倒的に、戦力が不足していたのだ。

 

 

 

ボーダーが現場に到着したのは、およそ敵の大部隊が引き上げる頃合いだった。

 

残されたのは回収されなかったトリオン兵が多数と今も瓦礫の下に埋まる生存者たち。

リィンと刀也は2人でトリオン兵を狩っては市民を救助していた。

 

 

「師匠、この下に生存者がいます!」

 

 

瓦礫の下から聞こえるうめき声に刀也が反応して、協力して瓦礫をどかそうとリィンに声をかけた。

 

リィンは空を見ていた。

 

 

「これは……もうーーーーー」

 

 

「師匠!」ともう一度呼ぶと今度は反応し、刀也とリィンは協力して瓦礫をどかし、生存者を救出する。

 

 

「すまない刀也、おれは先に行く」

 

 

そして走り出したかと思うと、懐からそれを取り出した。

 

 

黒トリガー『七の騎神』

 

七騎の騎士人形を相克以前の状態に戻し、封印した代物。

こちらの世界に来てから使った事はないが、これを起動させればどうなるかくらいリィンもわかっていた。

 

あの時、ヴァリマールが引き取ってくれた黒の呪いが再発する。

 

イシュメルガの悪意に屈するつもりは毛頭ないが、それでも心のどこかで死に至るであろうと確信はあった。

それでもリィンは躊躇いを振り切って、それを強く握り締めた。

 

 

「ポケットのそれ、使っちゃダメだよ」と迅の忠告が思い出された。……それでも。

 

「ダメだ!師匠!」例の第六感、超常的な直感で何かしら感じ取ったのか刀也も制止して。……それでも。

 

 

「来い!ヴァリマール!!」

 

 

リィン・シュバルツァーは再び死ぬ覚悟を決めた。

 

 

罪深い自分が犠牲になるだけで、今もトリオン兵に襲われ命を落とす市民を救えるなら、それでいいだろう。

 

リィンの内側にはいつも自責の念が渦巻いていた。ゼムリア大陸で大戦の引き金を引いた事。こちらの世界でも仲間を救えなかって事。

それだけではない。リィンがこれまでに周囲に強いてきた負担や犠牲。それらがリィンを突き動かした。

 

このリィンは世界と自分を秤にかければ間違いなく世界を選ぶ。

世界を救い、自分も救うと言った選択肢がそもそも頭にない。無想神気合一に至ったリィンとは違うのだ。

 

 

結果として。

それで多くの市民が救われた。代わりにリィンは黒の呪いに侵される事となった。

 

 

 

☆★

 

 

大規模侵攻以降、黒いナニカに全身を侵されたリィンは床に伏せる事となった。

トリオン体になっている間はまだそこそこ動けるが、今は生身で世界を感じていたかった。

 

 

「ど〜も〜、こんにちわー」

 

がらがらと引き戸を開けて入ってきたのは弟子である刀也だった。

大規模侵攻直後、呪いに侵されたリィンを目にして涙した刀也。

「なんで1人で抱え込むんですか…!?仲間は…おれは、そんなに頼りないですか…?どうして…自分だけは犠牲にしてもいいなんて思えるんですか…」

と、そんな風に泣きつかれたが、今となっては通常運転を装える程度には落ち着いている。

 

軽く挨拶を交わすと、それから近況報告をする刀也。

 

「いやー、大忙しですね。新しいボーダー本部の建設は終わったんですけど、入隊希望の多いこと!おかげでおれも指導役に回る事にもなりましたし、あとは遠征の話も出てて、それにおれも参加する事になりそうなんですよ」

 

ペラペラと語って、ひとつ声のトーンを落とす。

 

「そのせいで、八葉一刀流の修行もままならないですよ」

 

刀也にとって“八葉一刀流”は人生そのものと言っても良かった。憧れの体現であるリィンに近づくための手段にして目的。

 

 

「だったら、こんな所でくっちゃべってないで、孤月でも振ったらどうだ?」

 

 

「いやいや、おれが1人であーだこーだするより師匠と話した方が後に生きますって」

 

 

「そうは言ってもな……もう技は全部教えたし、俺から与えられるものはもうなにもないぞ?」

 

 

そう言うリィンだったが、実際は刀也の意見にも一理あると考えていた。

“後に生きる”……今は意味がわからなくても、後々になって理解する。リィンも修行中にユン老師から与えられた金言をその場では理解できずとも後になって胸に落ちる事もあった。

 

それに加えて刀也の才能ーーー想像力によってリィンとの会話からインスピレーションを得て新しい技を思いつくなんて事もあるかもしれない。

 

 

「新しい技か……」

 

リィンが思考している間も刀也は尤もらしくこの場に残る理由を並べていたが、リィンの呟きが聞こえたようで「師匠?」と呼ぶ。

 

 

リィンは師匠であるユンの最後の弟子であり、八葉一刀流を完成させる者と期待されていた。

それは光栄で恐れ多い事ではあるが、一方で完成とは“その先がない”事を示す。

 

しかし刀也なら、八葉の“その先”に行ってくれるような気がした。

 

 

「いや、君はおれよりすごい剣士になる。つくづくそう思うよ」

 

 

その全ては伝えず、リィンは刀也の頭を撫でる。刀也は若干不服そうな顔をしたが、背が低いせいか撫でやすい位置に頭があるのが悪い。

 

そうしてしばらく経った頃、刀也の懐から着信音が鳴った。画面を見て「おっと呼び出しだ」と刀也は立ち上がり、

 

 

「すみませんがここで失礼しますね。それじゃ師匠、また」

 

 

「ああ、またな刀也」

 

 

刀也はにこやかに病室を去り、わずかばかりの静寂が残され。

 

 

「迅、いるなら入ってきていいぞ」

 

 

扉の向こうに現れた気配に向けて言い放つ。黒の呪いに侵されているが、気配察知はリィンの十八番。この程度はお茶の子さいさいというやつだ。

 

するとすぐに扉を開けて迅が入室する。「いや〜、さすがですねリィンさん」とぼんち揚げ片手に挨拶すると椅子に座る。

 

 

「察するに、刀也をここから引き離したのも迅だな?聞かれたくない話でもあったのか?」

 

 

「おっとと、そこまでバレてるのか。やっぱ、さすがリィンさんだね」

 

 

迅は本気で驚いた顔をすると、すぐに本題に入った。

迅のサイドエフェクト“未来視”ーーー未来が視えるというそれによると、リィンの死期が確定したらしい。

 

 

「今まではいくらか未来が揺れてたんだけどね、今じゃもう確定してる。1週間後だよ」

 

 

迅の言葉を「そうか」と受け入れるリィン。その表情はどこか諦めたような、どこか悟ったような、悲しげなものだった。

死期が確定したのはおそらく、リィンが“もういい”と思ってしまったからだ。自分のような人間が、最後に弟子をとって幸せとも言える時間を過ごしたのだから充分なのだと。ゼムリアに帰れないのは心残りではあるが、自らの足で帰還できずとも黒トリガーになればいつか誰かがゼムリアまで運んでくれるかもしれない。

それが刀也やーーー、あるいはクロウなら言う事はない。

 

 

「それじゃ迅、これを預かってくれないか。自分じゃ渡せそうにないからな」

 

 

と言ってリィンは迅に巻物を手渡した。「これは?」と聞く迅に、

 

 

「それはーーーーー」

 

 

と説明する。それからいくつか言葉を交わして迅も病室から立ち去った。

 

 

残されたリィンは自らの最期に想いを馳せるのだった。

 

 

 

☆★

 

 

「……120点だ」

 

 

立ち上がって、胸を張って。今にも泣きそうなのに笑顔を浮かべて。そんなとんでもない強がりができるなら、もう心配ないと安心した。

 

 

リィンは今まさに黒トリガーになろうとしていた。

病室には2人。リィン・シュバルツァーと夜凪刀也。全ての話し合いは終わり、まさしく最後の瞬間であった。

 

身体中には黒の呪いが根を張っている。顔にはあまり出てないのは幸いだった。そんな顔で笑顔を浮かべても不気味だろうから。

 

別れが避けられないのなら、せめて笑顔で別れよう。

そう言ったリィンだからこそ、呪いによる悪影響を跳ね除けて笑みを浮かべる事ができたのだ。

 

 

トリガーに生命力とトリオンを注ぎ込んでいく。自分という存在がうつろになっていくのがわかる。身体の端から崩れていくのが少しだけ怖かった。

でも、弟子にそんな顔は見せられない。

 

リィンは己の持てる全てを用いて、笑顔を保ったままトリガーに自らを注ぎ込んだ。

 

 

 

最期の瞬間、弟子の眦から涙がこぼれ落ちるのを見て、もう動かない口の中だけで呟いた。

 

 

 

 

「もう少し…生きたかったな……」

 

 

 




という感じでリィンが玄界に来てからのダイジェストでした。

創の軌跡でも語られた通り、ノーマルエンドのリィンは自分の命を軽視しがちというか……、できるだけ生きたいけど無理ならいいや的な所があると思います。この表現でもちょい違う感じがしますが。

そんなリィンに憧れた刀也ですが、この先どうなっていくのか。リィンの願った通り、最高の剣士になれるのか、一介のボーダー隊員として収まるのか。乞うご期待といった所です。

感想待ってます!描いてて楽しいのはそうなんですが、感想あるとモチベが段違いなので是非!批評も……されると心が痛いけど愛だと思って受け止めますので、感想くださいな!
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