ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに   作:クラウンドッグ

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いつの間にか連載2年どころか2年半経ってるぅー……
自分でも気づかなかったていうね……
てか1周年から2周年半の間に描いた話数が少なくてすみません。


明日への奇跡
遠征選抜試験 夜凪刀也の場合


 

B級ランク戦が終わり、夜凪隊による忍田、城戸の説得から数日が経過し、遠征選抜試験が開始しようとしていた。

 

 

とは言え夜凪隊は遠征部隊に内定している。選抜戦には形だけの参加となるから気は楽だ。無論、ありえないレベルの醜態を晒した場合は内定取り消しになるのは間違いないが。

 

 

 

「アンケート?」

 

 

と、刀也の言葉におうむ返しに聞いたのはクロウ。遠征選抜試験が始まるに当たり、隊員にはアンケートが実施されていた。

項目は3つ。①遠征を希望するか。②一緒に遠征に行きたい人はだれか。③一緒に遠征に行きたくない人はだれか。②は5人、③は2人まで指名可能だ。

 

そういった内容を説明した刀也はタブレットを操作し「ほれ、クロウからやれよ」と手渡した。

 

 

「とは言われてもな……このアンケートにはどんな意図があるんだ?」

 

 

「今回の遠征はボーダー史上最大の遠征になる。だから事前にアンケとって隊員たちの相関図でも作ろうってハラかねぇ」

 

 

「今、激アツな三角関係が明らかに……!」

 

 

陽子の見透かしたような発言に刀也が茶々を入れる。

実際、ボーダーはそんな修羅場るような関係はない。烏丸や隠岐など、顔の良いやつらが交際を始めたら危ういとは思うが。

 

 

「まあでも、そんな悩む必要ないんじゃない?ただ普通に答えりゃさ」

 

 

と緩い表情のまま刀也は言って、クロウも「そうだな」と肯定する。

パッと浮かんだのは良く個人戦をする太刀川らだ。

 

そこから人数を絞り、クロウが②に選んだのは、

太刀川慶、二宮匡貴、風間蒼也、空閑遊真、ヒュース・クローニンの5人。選考基準はすべて“個人で強く、戦術理解度が高いから”だ。③は空欄だった。

 

クロウはタブレットを手渡し、今度は刀也がアンケートを入力する番だ。

 

 

「さって、どうしたもんかね」

 

 

「なんだ、おれには悩む必要ないとか言って、自分は悩むのかよ」

 

 

「まあねえ。何かこういう見え透いた思惑に乗るのって嫌じゃない?てか実際嫌な予感するし」

 

 

タブレットをぷらぷらと扇のように弄び、刀也は苦笑いを浮かべる。

サイドエフェクトが嫌なものを感じ取っているし、裏がある事がわかっているアンケートに素直に回答するのも癪だ。

 

 

「じゃあ未記入で提出するかい?」と陽子が聞いて、

 

 

「そうだな。………いや、やっぱ1人だけ」

 

 

そう言って刀也は③の欄に加古望の名を選択した。理由は“気まずいから”だ。

“帰る場所になってほしいから”なんて本当の理由は書けまいよ、と自分に言い訳するのだ。

 

 

☆★

 

 

遠征選抜試験の説明会が行われる。

夜凪隊の面々は説明会の会場に赴いた。

 

 

「思ったより多いな」

 

 

会場にはB級中位以上の隊員からA級隊員も数人と集まっていた。

 

 

「チームだけじゃなく個人の選抜も一緒にやるつもりなんだろうねぇ。だとしたら…」

 

 

陽子がいつも通りの慧眼を発動し、刀也は顎に手を当てて「うーん?」と唸る。クロウが「とりあえず座ろうぜ」と着席を促し、それからしばらくすると全員揃ったようで説明会が始まった。

 

まずはこの場に多人数がいる理由を城戸が説明した。

“今回の遠征部隊が近界に進発すると本部基地の人員が大幅に減るため、今後ボーダーの主力となるB級中位以上の隊員の適正と能力を測っておきたい”とのこと。

加えて“遠征の人員を大幅に増員する予定のためB級からも個人で幾人か選ぶ可能性がある事、『選抜に通った』という実績と評価が消える事がない”事を念押しする。

 

そこまで話し終えると、次は忍田が具体的な試験の日程を説明した。

第一試験は“1週間の閉鎖環境試験”。これは長期遠征時の遠征艇内での環境を想定したもので、遠征艇内の設備の操作を覚えてもらいつつ、長期遠征の適正を審査するものだ。

 

第二試験は最長36時間の“長時間戦闘訓練”。これは遠征先での長時間の戦闘を想定したもので、詳しくは第二試験の直前に説明がなされるそうだ。

 

 

「そして最後に、今回の試験は部隊の隊員を『入れ替え』…つまり『シャッフル』して行う」

 

 

と忍田は切り出す。

 

 

「今からこちらが指定した隊員をリーダーとして、隊長1人、オペレーター1人、隊員3人の5人編成を11チーム作ってもらう」

 

 

それから11人の臨時隊長が発表されていく。

 

 

「あー、これだな」と刀也は呟いた。また直感が何か囁いているのだろうかとクロウは「何がだ?」と問う。

 

 

「アンケートだよ。たぶんシャッフルの時に②か③に書いた隊員と組まされるんじゃないかな」

 

 

「なるほどな」と返事をした所で、5番隊隊長としてクロウの名が呼ばれる。

 

 

「っと、おれかよ」とぼやきつつ立ち上がり臨時隊長らが集まる場に歩いていく。結局11人の臨時隊長に選ばれなかった刀也だが「別に劣等感なんて感じてないんだからねっ」と誰に言うでもなく自分に語りかけていたという。

 

それから臨時隊長らが野球のドラフトのような形で隊員を選んでいく。刀也は諏訪7番隊に選ばれる事となった。

ちなみにメンバーは諏訪を隊長にオペレーターに宇井、隊員は隠岐、香取、刀也となる。

 

アームブラスト5番隊のメンバーは隊長にクロウ、オペレーターに小佐野、隊員は弓場、穂苅、小荒井となる。

 

ちなみにグランはトリオン兵として遠征に参加する事が決定しているため選抜試験はパス。陽子はどの隊のオペレーターにもならず試験の補助役となった。

 

 

組分けも終わり、最後に質問タイムとなる。そこで三雲がA級隊員は今回の試験に参加しないのかと聞き、“ここにいないA級隊員は第二試験から全員参加し、第一試験は君たちを審査する側になる”と説明。

 

さらに臨時部隊員の試験日までの接触禁止や臨時部隊長面接について手短に説明すると解散となった。

 

 

 

☆★

 

 

「うし、こっからは別々だな。大丈夫だとは思うけどしっかり頼むぞぅ」

 

 

「ああ、そっちこそな刀也。それじゃ1週間後だ」

 

 

 

クロウと刀也の2人は別れを交わすと、それぞれ別の通路を進む。遠征選抜第一試験の開始日だった。

 

 

 

部屋の半分ほどを占める遠征艇を模した施設の横にすでに自らを除く諏訪7番隊の面子が揃っているのを確認すると刀也は小走りでそこに向かい、大袈裟に息を切らすと、

 

 

「ごめ〜ん、待ったぁ?」

 

 

「おう」

 

 

「そこは“5分前に来たとこ”って答えろよ」

 

 

諏訪のぶっきらぼうな返事にツッコミを入れる。隠岐が「さっそくコントしてますね」と笑い、宇井は「5分前だわ」と時計を確認し、香取は微妙に苦い顔だ。

 

やがて職員が来て着替えを済ませ、試験用のトリガーをもらうと施設に入る事となる。

 

 

 

「んじゃ1週間よろぴく」

 

 

適当ににやついて、諏訪の後に続いて施設に足を踏み入れようとして、立ち止まった。

 

 

施設の中は本当に遠征艇のようで、それが嫌でも記憶を呼び起こす。

 

“第0次近界遠征”

夜凪刀也に根を張る最悪の思い出。

 

 

 

大丈夫だと自分に言い聞かせる。今は四年前とは違う。ここは近界じゃない。もう遠征行きは内定してるようなものだ。何も心配はいらない。

 

だというのに、やけに心臓が跳ねている。

 

 

「はっ……はっ……」

 

 

呼吸が浅いのを自覚した。

深呼吸をしようと胸に手を当てたところで、

 

 

「早く入りなさいよ」

 

 

と後続の香取から蹴りを入れられた。当然のように勢いに押されて施設の中に踏み入る。

 

 

「ちょ、おま香取……はいっ、入っちゃったじゃねーか!」

 

 

「入っちゃったじゃねーか、じゃないわよ。入口で突っ立ってられても邪魔なだけよ」

 

 

それはそうだが、もうちょっと覚悟を決める時間が欲しかった。そう言っても香取は事情を知らず、気を使うのも無理な話だと納得しておく。

 

しかし、心臓がうるさいのは相変わらずだが、自分で思ったより刀也は落ち着いていた。

 

 

さらに隠岐と宇井が入ると施設の扉は閉じられた。

 

 

「暗っ」と香取が言って、刀也は記憶を想起させる。

 

 

「確かトリオン補充のパネルがあったと思うけど。そこらへんない?」

 

かつての遠征艇でも電気水道の動力なんかはほぼトリオンで代用していた。それを思い出した刀也が言うと、すぐに手形のパネルを見つけた諏訪が手を当てて照明が点灯した。

 

 

「点いたわね。てか何で知ってんの?」

 

 

疑わしげな視線を刀也に向ける香取。まるでカンニングを咎められたような気持ちになる。

 

 

「経験値の差というやつよ」

 

 

「あー、“第0次”か」

 

 

 

「一応機密だからね?」

 

 

それに余裕の表情で答えた刀也だが諏訪がすぐにあたりをつける。それにまた機密だと言うが、すでに“第0次近界遠征”の存在については公然の秘密となっていた。

 

 

そんなやり取りをする最中に、施設に沢村の声が響き渡る。施設のスピーカーから流される音声は施設について説明をすると、最後に隊長に“自分が選んだ臨時部隊のコンセプト隊員に説明してください”と言い、「でははじめ」と続いてから途切れた。

 

 

諏訪は少し溜めると、

 

 

「まあ、なんつーかクジ番と勘だな。別に悪くねーチームなんじゃねーか?」

 

 

「行き当たりばったりさいこーう」

 

 

刀也的には諏訪の回答は予想していたものでやや食い気味に茶々を入れた。香取も案の定噛み付いて「勘であたしを採らないでよ!」なんて言う。

 

「理由がないなら木虎にしとけばよかっのに」

 

 

「それやとトリオンがキツイやろなあ」と隠岐が口を挟み、「トリオンと言えば」と宇井が話題を転換する。

 

 

「この前配布された社内紙でヨナさんのトリオン評価上がってたわね。6から7に」

 

 

「そういやそうだな。ヨナさんくらいの歳になるとトリオン器官が成長するのは稀なんじゃねーか?」

 

「まあな!止まらない成長…自分が恐ろしいぜ」

 

 

刀也がわざとらしくわなわなと震えると「ハッ」と香取が笑う。それに「鼻で笑うんじゃねーよ!?」と反応して、ごほんと一つ咳払い。

 

 

「まあおれも悪くないチームだと思う。そこそこバランスも良いし、噛み合うんじゃねーの?」

 

 

「ヨナさん、それって例の?」

 

 

「ああ。おれの直感は鋭いんだ」と隠岐のフリに応えて、一段落。

 

その後、諏訪がくじの操作に言及したり、アンケートの③に刀也の名を記入した香取が目を逸らしたりと言ったやり取りを経て施設の設備と物資確認に移る。

 

 

それが終わるとルールの確認だ。第一試験のルールは大きく分けて3つ。

“与えられた課題をこなすこと”

“遠征艇の中にいるつもりで7日間過ごすこと”

“朝9時から夜9時までトリオン体でいること”

 

 

それから細かい規定を確認し、課題に取り掛かる。途中で特別課題なんてものも出されたが問題なく意見を取りまとめて提出し、1日目が終わる。

 

 

ツイン部屋で諏訪の隣で眠りにつく。

 

 

 

☆★

 

 

それは、遠い日の悪夢。

 

 

 

 

 

「あと1時間で目的の国に到着する。そろそろ準備をしてくれ」

 

 

遠征部隊長の忍田が隊員らに呼びかける。各々返事をしてから準備を始めた。

 

「くぅ〜、初めての近界の国か!緊張してきた〜」

 

 

と、刀也の隣で言ったのは長谷川拓歩だった。ボーダーが今の体制になってから入隊してきたルーキーだが、開発されたばかりの狙撃トリガーを扱う東春秋と並んで称される若手の双璧、有望株だ。年齢は刀也と同じく18で、孤月と銃トリガーを使う万能手だ。

 

そんな長谷川は刀也を先輩として慕っており、準備の最中でもその様子を伺った。

夜凪刀也は軽口を弾ませる洒脱な性格に見えるが、実際には深い悲しみを背負っているように感じられる。つい先日も剣の師を失ったとかでいつもの軽口もなかった。

 

それもこの遠征が始まるまでには、ある程度は回復してるように見せかける程度にはなっていた。

 

 

 

そんな刀也の表情が、強張っていた。

 

 

「どーしたんすかヨナさん。まっさか緊張してる?」

 

 

「……なんか厭な予感がするんだよね」

 

 

それは刀也が遠征前から抱いていた感情だ。厭な予感……リィンが黒トリガーを使う際にも働いたアレだ。

リィンが第六感と称し、後に超直感と呼ばれるサイドエフェクト。それは今はサイドエフェクトと判定されておらず、刀也の予感を当てにするものはいなかった。

 

 

「臆病風に吹かれました?らしくないっすよ」

 

 

「うっせばーか。……ま、それもそうかもな」

 

 

それは刀也自身でさえも。第一次侵攻で失ったものが多過ぎて、大き過ぎて、ナーバスになっているだけだと自らを断じる。

 

 

 

やがて定刻となり、異界への門が開かれる。

全員がトリオン体に換装しており、襲撃に対しても万全の体制を整えていた。

 

そもそも踏み入った国は旧ボーダー時代からの友好国だ。同盟国とはいかずともこれまで幾度もやり取りをしてきた。

今回立ち寄ったのは物資の補給のためだ。玄界から逃げ去った国を追いかけ、市民を奪還するために協力を請うのだ。

 

そんな予定を聞いていても、油断はない。いくら友好国でも、裏切られる事はある。第一次侵攻が予想外だったように。

 

だから、万全を期したのだ。

 

 

 

 

そして、その万全が。何の役にも立たなかったのだと知ったのは一瞬後の事だった。

 

 

門をくぐり、友好国に進入した直後。アラートがけたたましく鳴る。オペレーターが状況を伝える前に、遠征艇は撃ち落とされた。

 

 

意識が暗転する。

 

 

 

 

次に刀也が目を開けた時の光景は、赤く染まっていた。

 

 

赤く、どろりとしたナニカ。

 

ヒトの形から流れ出る赤。

 

 

あそこにも、ここにも、そこにも、どこにでも。

 

 

赤いナニカを流すヒトガタが、いた。

 

 

見知った、なんて表現が白々しいほど見慣れた顔から流れ出る赤。

腕があったはずの箇所から流れ出る赤。

脚があったはずの箇所から流れ出る赤。

胸があったはずの、腹があったはずの、肘があったはずの、太腿があったはずの、目があったはずの鼻があったはずの耳があったはずの口があったはずの額があったはずの頭があったはずの、心臓があったはずの箇所から、夥しく流れ出る赤。

 

 

現実に、ようやく理解が追いついた。

 

これは、この赤いのは血だ。ヒトを生かす赤い液体だ。こんなに流しちゃだめだろ。死ぬ。死んじゃうよ。

 

 

 

 

ズシン、と。地響きがした。

 

視線を上げると、遠くに巨体が見えた。

 

 

 

☆★

 

 

 

「うっ………うぅぅぅ、ああああああああああああ!」

 

 

夜中。遠征艇内を再現した施設の中で、刀也は叫び声をあげていた。狂乱状態にあると言って良かった。

 

隣で寝ていた諏訪が異変に気づき、目の焦点も合わないまま暴れる刀也を押さえつける。

 

 

「おいヨナさん!しっかりしろ!誰か来い!隠岐っ!!」

 

同じく異変に気づいた臨時隊員らも駆けつけ、ようやく刀也を取り押さえる事に成功した。

 

手足を押さえつけられて抵抗できなくなった刀也はピタリと動きを止める。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

「あ?」

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 

 

「ちょっと、なによこれ!この人のこんなの見た事ないんだけど!」

 

 

突如として泣き出し、謝罪を続ける刀也に諏訪7番隊の隊員は先程とは違った意味で戦慄している。

特に刀也の生徒としてそれなりの時間を共に過ごした香取は変貌ぶりに狼狽える事しかできない。

 

 

「そんなの俺だってそうだ。くそっ!こりゃ続行は無理か……、宇井、外に連絡取ってくれ」

 

 

 

諏訪が指示を出し、宇井が施設の外に掛け合う。

 

そうして刀也は第一試験をリタイアしたのだった。

 

 

 

☆★

 

 

刀也が目を覚ますと、そこは病室を思い出させる清潔な部屋で。

隣にはゆるい顔の迅悠一がいて。

 

 

「や、ヨナさん。ぼんち揚げ食う?」

 

 

 

そんな悠長な提案をしてくるのだ。

 




ででーん!夜凪、アウトー!


という感じのお話でした。次回はクロウverの1日目をお届け。
そのうち2周年記念とかいってB級ランク戦終了時のステータスをBBFもどきをとして出すかもしれません。
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