ワールドトリガー 《蒼の騎士》、軌跡の果てに 作:クラウンドッグ
「それじゃ1週間後だ」と言って刀也と別れたクロウは通路を進み、施設の前に到着する。
「よ。待たせたな」
すでに施設の前にはメンバーが揃っていて、クロウは最後だった。挨拶を交わしてから10分ほどが経過し、係員がやって来て第一試験の準備をする。
服を着替えて専用のトリガーを与えられ、施設の中に踏み入った。
その後、沢村の説明があって、クロウはこの部隊のコンセプトを話す事になった。
「重視したのはバランスだ。攻撃手の小荒井、銃手の弓場、狙撃手の保苅、おれはどの距離でも戦えるからな……相手に応じて戦術を変化して戦えると思ったわけだ」
「バランスっすか」と言う小荒井に「それに小荒井には悪ぃが」とクロウは続けた。
「この5番隊のメインアタッカーには弓場を据えるつもりだ。おれが神田、小荒井が帯島、穂苅が外岡の役をやれば旧弓場隊の形にもなると思ってな」
「それが狙いか。弓場隊の再現が」
大学受験のため神田が抜ける以前の弓場隊はB級上位を何期もキープする強豪だった。その戦術は弓場がタイマン張ってる間は神田が他の隊員の指揮を執って敵の足止めをするというものだった。
いつ黒の呪いが張り切るかわからないクロウは可能な限り強敵との相対を避けたい所。そのクロウにとって旧弓場隊の戦術はある種理想的なものがあった。
「ああ。ま、それ以外にも執れる戦術はけっこうあんだろ。小荒井も最終戦は弾トリガー使ってたし、切れるカードは多いと思うぜ」
「そういやクロウも最終戦は弾トリガー使ってたね。バイパーだっけ?」
クロウの説明に口を挟んだのは小佐野だ。最近の名言は“アイアムまあまあアホ”。しかしその指摘は真っ当なもので、クロウの説明の捕捉のようでもあった。
「そうだ。刀也のおすすめでちょいと練習したら撃てるようになったんでな。一応リアルタイムで弾道引けるぜ。さすがに那須みたいには無理だが」
クロウのバイパーはB級ランク戦最終戦の隠し玉だった。黒の呪いで十全に動けないクロウを、動けないまま使うための手段。あまり使わないグラスホッパーの代わりにバイパーを入れた形となる。
その後、一通り説明を終えて施設の設備や物資、試験のルールについて確認する。
課題を進めていた最中にクロウのPCにアイコンが出現した。“特別課題”だ。内容は“今回の遠征選抜試験が、なぜチームをシャッフルして行われたか、その理由をチーム全員で考え、意見をまとめて提出しなさい”というもの。
クロウはそれをそのまま全員のPCに転送し、意見を出し合う事にした。
途中、小佐野が“チームをシャッフルしたのは新鮮でおもしろいから”という今までのチームより噛み合う可能性がある組み合わせを探るためだという案を出したりして、ある程度意見が出揃った所で、弓場が「隊長の考えはどォなんだよ」とクロウに意見を求めた。
「夜凪隊の連中とも話したんだが、まずは弓場の“将来のボーダー幹部候補のテスト”っていう意見は出たな。今の体制は忍田本部長による部隊の一括管理だ。部隊が増えてきてそれが無理となると、次に必要なのは部隊長と本部長の中間に位置するポジション……言わば連隊長だな。その素質を測るテストという読み……」
クロウの意見は弓場のそれをもっと細かく追求したものだ。正解かどうかはわからないが、具体性という意味ではこちらの方がマシ。
「そっから逆に」とクロウは続ける。
「なぜ幹部増員が必要なのかを考えた。……答えは決まり切ってたけどな」
クロウは眉根をあげてやれやれといった体を見せる。
「増えるからだな、隊員が」
それに穂苅が回答した。決まり切っていた答えとは、人が増えるからまとめ役も増やそうという発想だ。
「だが、その増える隊員ってのはこれまでの比じゃねぇ事はわかるな?」
クロウの問いかけに今度はメンバーらは総じて「?」という反応をする。
「これまでの比じゃないって、今でも公開遠征の情報で月一で入隊させてるのに……って、あ!」
小荒井は自分で喋っていて、クロウの言っていた意味を理解した。
「そうか!公開遠征だ!」と続けて言って、弓場が「なるほどな」と理解を伝播させていく。
「つまり、今回の公開遠征が成功すれば入隊希望者は今の数倍以上に膨れ上がる……そう言いてェんだな」
チームが導いた回答にクロウは首肯する。
「そうだ。そして、新隊員が増えるならボーダーとしては欲しいものがある」
「これは最近似た事をやってたからわかった事だが」と前置きしてクロウは続けた。
「新隊員を育てるためのメソッドだ。……今この場は擬似的に部隊結成時を再現したもの…まだ互いの能力や相性なんかも把握しきれてない状況だ。だからこの場で収集されたデータは今後新しく設立される新B級部隊、引いては新C級隊員の育成に役立つはず………ってのがおれの考えだ」
クロウが本部に提出した“完璧万能手育成メソッド”もあるが、あれは凡才用だ。どんな奴でもおよそ2年で完璧万能手に至らせるだけのメソッドではあるが、例えば太刀川であるならば完璧万能手として育てるより孤月使いの攻撃手として育てた方が伸びるし、出水ならば弾トリガー使いの射手として育てた方が良い。
そういった突出した素質を持つ者にとって“完璧万能手育成メソッド”はあまり有用ではないのだ。
しかし、今回の試験で得られるデータから育成メソッドを作成すれば、それぞれの素質に合わせた育成ができる。
上層部の狙いはそれなのだろう、というのがクロウと刀也と陽子、ついでにグランで導き出した答えだった。
そういった内容で特別課題を提出する。
やがて1日目が終わり、2日目が開始する。
☆★
第一試験の2日目からは戦闘訓練がある。PCを使った模擬戦のようだが……とチームメンバーとすり合わせをしている所でジリリリリと警報が鳴った。
それからすぐに沢村の声で放送が入る。
「緊急警報!警戒区域に人型近界民出現!第一試験中の隊員は試験を中断し、職員の指示に従って下さい!」
焦っているのを隠そうともしない沢村の声音に非常事態である事を理解する。
「クロウ・アームブラスト隊員及び空閑遊真隊員は作戦室まで集合してください!」
さらに続けて黒トリガー保持者を呼びつけた事から非常事態の程を量り知る。刀也が呼ばれなかったのは政治的な理由か?なんて考えつつクロウは施設を出て廊下を走る。途中で遊真と合流して、
「や、クロウさん。なんかヤバいみたいだね」
「だな。人型近界民が出たんならそれもそうだろうが……迅のやつは予知してなかったのか?」
「んー、もしかすると予知しててこうなのかも」
会話をしつつ走り抜け、作戦室。
そこでは城戸をはじめとする上層部の連中が集まっていた。
「良く来てくれた、クロウくん、遊真くん。まずは状況を説明しよう」
忍田がそう言って沢田に視線をやる。
「警戒区域内に人型近界民が一体出現、防衛任務中の太刀川隊が応戦しましたが、人型近界民に撃破されました」
その説明はあまりにも唐突にクロウらの驚愕を引き出した。やってきた近界民は1人だけ。しかも太刀川隊を撃破するなど並の猛者ではありえない。
「現在A級部隊及び試験を受けていないB級部隊、迅隊員、天羽隊員で周囲に散らばった新型トリオン兵と応戦、夜凪隊員が人型近界民の足止めをしています」
「な……!?刀也1人で相手してるのか!?」
「ヨナさんはおれたちより先に呼ばれてたってこと?」
「夜凪くんは事情があって先に施設を出ていた。それに近界民の元に1人で向かわせたのは、彼なら対話の可能性があったからだ」
「対話だと?太刀川隊を倒して周囲にトリオン兵を差し向けたやつとか…?」
沢村の説明を忍田が捕捉した。“対話の可能性”…それに対するクロウの疑問は「これを見てほしい」と言われてモニターに映し出された赤衣の長身を見て氷解する。
「マクバーン……!!?」
そこにいたのは紛れもなくマクバーン。ゼムリアにおいてⅦ組と幾度と無く刃を交えた《却炎》、あるいは《火焔魔人》。
《堕ちたる外の魔神》
「知ってるの、クロウさん?」
「ああ、こいつはおれのいた世界で焔を自在に操ってた魔神だ。……なるほどな、あの異能もトリガーと言われりゃ納得できる」
「強い?」
「ありえねぇくらいにな」
遊真と問答しながらクロウは考える。しかし、確かにリィンの黒トリガーを持つ刀也なら対話は可能かもしれない。Ⅶ"sギアはリィンの面影を色濃く残す黒トリガーだし、加えて刀也もリィンからゼムリアでの出来事を聞いている。多少は話ができても不思議ではない。
………だが、そもそもなぜマクバーンが来たのかという疑問が残る。
幻想機動要塞で記憶を取り戻したマクバーンは今までの好戦的な雰囲気が嘘のように大人しくなった。それがトリオン兵を伴ってこちらの世界に侵攻してくるのは、どうにもイメージが合わない。
「それとこちらも確認してくれ」と忍田がモニターに映る画像を切り替える。次に映し出されたのは人形兵器だった。結社《身喰らう蛇》が運用する自律型機械兵器。それが無数に放たれている。
「こいつは人形兵器だな。………基本的に大きいやつほど高性能だ。……一番強えのはアフトクラトルの新型より厄介だろうな」
クロウの答えを聞いて忍田は渋面をつくる。クロウとしても詳細な情報を伝えたい所だが、今は時間がない。遊真が「それでおれたちは何をすればいいの?」と先を促す。
「クロウくんは人型近界民に対処、遊真くんはB級部隊に合流して東側を守ってくれ」
指示は短く出され、黒トリガーの使用も許可される。
「クロウくん、すまないが……頼む」
本当に苦しそうな顔で忍田はクロウを見送る。黒の呪いについて多少は話しているから“七の騎神”の起動はクロウにとって負担になると知っているのだ。
しかし、そんな事は言ってられない。相手はマクバーン……太刀川隊を撃破した怪物だ。放っておけばボーダーを、三門市を、世界を焼き尽くしかねない脅威。それに加えて遠征にも影響が出かねない状況だ。ゼムリアに帰還せんとするクロウにとって宿敵である事は間違いない。
「ああ。世界の底が抜けようって状況だ…俺も腹を括るさ」
そう返事をして、クロウはボーダー本部を出る。
「来なーーーーオルディーネ!」
飛ぶ。蒼の騎神となりて。
☆★
浅葱色の髪を白く染め、身体中に紋様を浮かび上がらせたその姿はまさに《火焔魔人》そのもの。
片手には魔剣アングバールを持っていて、刀也がマクバーンをここまでは追い詰めたのだと理解した。
その刀也はマクバーンの前に苦しげに膝をついていて、すでに換装は解けていた。
「お、見知ったのが飛んできたと思ったらお前か…クロウ」
異界の魔神はそう言って再会を言祝ぐ。
対するクロウもいつもの調子で返事をした。
「ああ……久しぶりだなマクバーン。再会を祝いてぇ所だが、その前に質問だ。なんでアンタがここにいる?」